JP3982381B2 - タイヤ空気圧検知装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輪速度信号に含まれる振動成分の共振周波数に基づきタイヤ空気圧の変化を検知するタイヤ空気圧検知装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、車輪速度信号からタイヤの振動に起因する車輪速度の振動成分を抽出してタイヤの共振周波数を求め、その求めた共振周波数に基づいてタイヤの空気圧を推定するものがあった(たとえば、特許文献1または2参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特許第3152151号公報
【0004】
【特許文献2】
特開平9−309304号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、タイヤ温度が変化するとタイヤ空気圧および上記共振周波数も変化することから、上記従来技術は、いずれも外気温センサを備え、これにより検出された温度によって、共振周波数を補正、あるいは空気圧そのものを補正して、タイヤ空気圧推定の精度向上を図っていた。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、温度情報を用いることなく精度の高いタイヤ空気圧検知装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、タイヤを備えた車輪の回転速度を検出する車輪速度検出手段と、前記車輪速度信号より前記タイヤの温度変化に応じて所定勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に対してほぼ一定周波数となる第1共振周波数と、該第1共振周波数より高い周波数であって前記タイヤの温度変化に応じて前記勾配と略同じ勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に応じて周波数変化する第2共振周波数とを抽出する共振周波数抽出手段と、前記第1共振周波数と第2共振周波数との偏差を算出する周波数偏差算出手段と、前記算出された周波数偏差が予め設定された閾値より小さい場合に空気圧低下と判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、走行中に回転するタイヤ、すなわち車輪の回転速度信号である車輪速度信号よりその車輪速度信号に含まれる振動成分のうち第1共振周波数および第2共振周波数を抽出する。第1共振周波数はタイヤの温度変化に応じて所定勾配で周波数変化するとともにタイヤの空気圧変化に対してほぼ一定周波数となるものであり、一方、第2共振周波数は第1共振周波数より高い周波数であってタイヤの温度変化に応じて前記勾配と略同じ勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に応じて周波数変化するものであるのことから、両者の偏差量である周波数偏差がタイヤ温度一定時の空気圧変化に応じた量であることを利用して、その周波数偏差が予め設定されている閾値より小さくなった場合に、タイヤの空気圧が低下したと判定するので、タイヤ空気圧に影響を及ぼすタイヤの温度情報を必要とすることなく、タイヤ空気圧低下を判定することができる。すなわち、タイヤ温度の変化に拘わらず、タイヤ空気圧低下を判定することができるので、温度センサを備える必要がない。
【0009】
この閾値は、請求項3に記載のように、前記タイヤの空気圧の変化量が所定値となるときの前記第2共振周波数の変化量と前記第1共振周波数と第2共振周波数との偏差の初期値との差に基づき設定することができる。
【0010】
上記発明は、請求項2に記載のように、タイヤを備えた車輪の回転速度を検出する車輪速度検出手段と、前記車輪速度信号より前記タイヤの温度変化に応じて所定勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に対してほぼ一定周波数となる第1共振周波数と、該第1共振周波数より高い周波数であって前記タイヤの温度変化に応じて前記勾配と略同じ勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に応じて周波数変化する第2共振周波数とを抽出する共振周波数抽出手段と、前記第1共振周波数と第2共振周波数との偏差を算出する周波数偏差算出手段と、前記車輪のタイヤ空気圧が正常時の前記第1および第2共振周波数の周波数偏差初期値が設定されているとともに、前記算出された周波数偏差と前記偏差初期値との差が予め設定されている閾値を超えた場合に空気圧低下と判定する判定手段と、を備えるように構成することができる。
【0011】
すなわち、タイヤ空気圧が正常圧より低下したと判定するための閾値を、タイヤ空気圧正常時の周波数偏差初期値と実際の走行中での周波数偏差との差分に対して設定することができる。
【0012】
この閾値は、請求項4に記載のように、前記タイヤの空気圧の変化量が所定値となるときの前記第2共振周波数の変化量に基づき設定することができる。
【0013】
さらに、前記閾値は、請求項5に記載のように、外気温が一定の条件下での前記タイヤ空気圧の変化量に基づき設定することができる。
【0014】
前記第1共振周波数は、請求項6に記載のように、前記車輪のサスペンションばね下共振周波数に相当する。
【0015】
したがって、このサスペンションばね下共振周波数は、外気温の変化に応じて変化し、かつ、タイヤ空気圧の変化に対して変化しないという特徴を有する。
【0016】
請求項7に記載の発明は、前記共振周波数抽出手段は、前記車輪速度に応じて前記第1または第2共振周波数の少なくとも一方を補正するとともに、前記周波数偏差算出手段は、前記補正された第1および/または第2共振周波数の偏差を算出することを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、車輪速度の大きさに応じて第1および/または第2共振周波数を補正するので、車輪速度が変化しても正しいタイヤ空気圧低下判定を行うことができる。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、前記共振周波数抽出手段は、前記車輪速度の振幅の大きさに応じて前記第1または第2共振周波数の少なくとも一方を補正するとともに、前記周波数偏差算出手段は、前記補正された第1および/または第2共振周波数の偏差を算出することを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、車輪速度の振幅の大きさに応じて第1および/または第2共振周波数を補正するので、車輪速度の振幅が変化しても正しいタイヤ空気圧低下判定を行うことができる。
【0020】
請求項9に記載の発明は、前記タイヤは、前記車両より少なくともサスペンションブッシュを介してサスペンションにより懸架されるとともに、前記サスペンションブッシュは、該サスペンションブッシュの軸の方向が前記タイヤの回転軸の方向と異なるように配置されていることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、サスペンションブッシュの軸の方向をタイヤ回転軸の方向と異なるように配置することにより、タイヤのタイヤ回転方向の動きに対するサスペンションブッシュの共振振動の発生が抑制される。したがって、サスペンションブッシュの第2共振周波数への寄与が抑制されるので、車輪速度信号に含まれる第2共振周波数はタイヤ空気圧を正しく反映したものとすることができ、正確なタイヤ空気圧検知を可能にする。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施形態のタイヤ空気圧検知装置の全体構成を示す概略図である。車両に装着される前後左右の4個のタイヤ1a〜1dのそれぞれに対応して、ピックアップコイルにより構成される車輪速度センサ3a〜3dが設けられている。
【0024】
この車輪速度センサ3a〜3dは、各タイヤ1a〜1dの回転軸(図示せず)に同軸的に取り付けられた円盤状の磁性体よりなる歯車2a〜2dの近傍に所定の間隔をおいて取り付けられ、歯車2a〜2d、すなわちタイヤ1a〜1dの回転速度に応じた周期を有する交流信号(タイヤ回転信号)を出力する。
【0025】
車輪速度センサ3a〜3dから出力される交流信号は、波形整形回路、CPU、ROM、RAM等より構成されるECU(電子制御装置)4に入力され、波形整形を含む所定の信号処理が行われる。この信号処理結果は、警報装置5に入力され、警報装置5は各タイヤ1a〜1dの空気圧の状態、特に空気圧低下状態をランプやブザーなどにより運転者に報知する。
【0026】
図2は、ECU4内の構成を作用毎に示す機能ブロック図であり、各車輪毎にそれぞれ同一の構成をなすタイヤ空気圧モニタ40a〜40dが設けられている。以下、その内の1輪1aのタイヤ空気圧モニタ40aに関して説明することとし、他の車輪のタイヤ空気圧モニタ40b〜40dの図および説明を省略する。
【0027】
なお、以下では、第1共振周波数の初期値F10、測定値F1、および第2共振周波数の初期値F20、測定値F2に対して、周波数偏差初期値:ΔF0=F20−F10、周波数偏差:ΔF=F2−F1、第1共振周波数偏差:ΔF1=F10−F1、第2共振周波数偏差:ΔF2=F20−F2、とそれぞれ称する。
【0028】
車輪速度センサ3aからのタイヤ回転信号は、車輪速度演算部41に入力され、ここで車輪速度Vが演算される。演算された車輪速度Vは、第1共振周波数F1に対応する15Hz付近の信号を抽出するバンドバスフィルタを有する第1フィルタ部42、および第2共振周波数に対応する40Hz付近の信号を抽出するバンドパスフィルタを有する第2フィルタ部43にそれぞれ入力される。
【0029】
第1フィルタ部42の出力信号は第1共振周波数抽出部44に入力され、ここで車輪速度に含まれる振動成分のうち15Hz付近に存在するサスペンションばね下共振周波数に相当するピーク周波数である第1共振周波数F1を求める。
【0030】
また、第2フィルタ部43の出力信号は第2共振周波数抽出部45に入力され、ここで車輪速度に含まれる振動成分のうち40Hz付近に存在するタイヤ・サスペンション連成一次共振周波数に相当するピーク周波数である第2共振周波数F2を求める。
【0031】
なお、振動信号よりピーク周波数である共振周波数を抽出する手法は、特許第2836652号公報等に開示されているFFT法、特許第3152151号公報に開示されているLPC法、あるいは、特開2001−91390号公報に開示されているゼロクロスカウント法などのデジタル信号処理により行うことができる。
【0032】
第1共振周波数抽出部44で抽出された第1共振周波数F1および第2共振周波数抽出部45で抽出された第2共振周波数F2は、周波数偏差演算部46に入力され、ここで、両者の周波数偏差ΔF=F2−F1が演算される。
【0033】
一方、初期値記憶部48には、タイヤ1aの空気圧が正常値であるときの第1共振周波数F10および第2共振周波数F20の偏差である周波数偏差初期値ΔF0(=F20−F10)が記憶されている。
【0034】
この周波数偏差初期値ΔF0は、車両の出荷時や新品タイヤへの交換時など、タイヤ空気圧が正常であるときに、運転者などにより図示しない初期値設定スイッチの操作により、ECU4が初期化動作を行い、所定距離(または所定時間)走行中あるいはデータの変動幅が小さくなった時点で、第1および第2共振周波数抽出部44、45により第1および第2共振周波数F10、F20を抽出して初期値記憶部48に両者の偏差である周波数偏差初期値デルタF0=F20−F10とともに記憶されるものである。図2には、この初期化時の動作を破線矢印で表している。
【0035】
判定部47は、周波数偏差演算部46で演算された周波数偏差ΔF(=F2−F1)と、初期値記憶部48に記憶されている周波数偏差初期値ΔF0(=F20−F10)との差分ΔF0−ΔFが、予め定めた閾値ΔFthを超えた場合に、タイヤ1aの空気圧が低下したとして警報信号を警報装置5へ出力する。
【0036】
警報装置5は、各タイヤ毎に空気圧低下の有無を、各警報信号に基づきランプ等で運転者に報知するとともに、警報時にはブザー音によっても運転者に警告する。
【0037】
上記歯車2a〜2d、車輪速度センサ3a〜3dおよび車輪速度演算部41が本発明の車輪速度検出手段に相当する。また、上記第1および第2フィルタ部42、43と第1および第2共振周波数抽出部44、45とが、本発明の共振周波数抽出手段に相当する。さらに、上記周波数偏差演算部46が本発明の周波数偏差算出手段に、また、上記判定部47および初期値記憶部48が本発明の判定手段に、それぞれ相当する。
【0038】
ここで、本発明のタイヤ空気圧の検知原理について詳細に説明する。車両が舗装された路面を走行した場合、タイヤは路面表面の微小な凹凸により上下および前後方向の力を受けて振動する。従来より、車輪速度信号からこのタイヤ振動に起因する車輪速度の振動成分を抽出し、その振動の共振周波数、特に40Hz付近に現れる、いわゆるタイヤ・サスペンション連成一次共振周波数としての第2共振周波数F2に基づいてタイヤの空気圧を推定できることは知られている。
【0039】
図3(a)は、一定外気温(T=−2℃)におけるタイヤ空気圧Pが正常値の210kPa、および150kPa、120kPaと低下させたときの、時速60kmで走行中の右前輪(FR)のタイヤ回転速度信号の周波数分析結果(PSD:パワースペクトル密度)である。
【0040】
図より、第2共振周波数F2に相当する40Hz付近の共振周波数が、空気圧低下に伴い低周波側へ変化することがわかる。
【0041】
図3(b)は、外気温Tが31℃、17℃、および−3℃のとき正常空気圧(P=210kPa)に設定されたタイヤで時速60kmで走行した時の右前輪(FR)のタイヤ回転速度信号の周波数分析結果である。
【0042】
図より、外気温Tによって第1共振周波数F1および第2共振周波数F2が変化することがわかる。
【0043】
これらの測定結果を、空気圧Pをパラメータとして外気温Tに対してプロットしたものを図4、5に示す。図4は第1共振周波数F1の温度特性であり、図5は第2共振周波数F2の温度特性である。いずれも、測定値の変動幅を考慮して図示している。
【0044】
特に、図5より、第2共振周波数F2は空気圧Pによらず温度Tの上昇に対して一定の傾きk1で減少すること、および、空気圧Pの上昇に対して一定の傾きk2で増加することがわかる。
【0045】
従来は、この第2共振周波数F2の特性を利用して、検出した外気温Tを考慮してタイヤ空気圧Pを推定していた。換言すれば、従来は、タイヤ空気圧Pを精度よく推定するためには外気温Tの情報が必須であった。
【0046】
本発明者は、サスペンションばね下共振周波数としての第1共振周波数F1の温度特性(図4)に着目した。すなわち、第1共振周波数F1は、若干のバラツキはあるものの、タイヤ空気圧Pに依存せず、外気温Tの上昇とともに一定の傾きで減少すること、およびこの第1共振周波数F1の減少の傾きが、タイヤ・サスペンション連成一次共振周波数としての第2共振周波数F2の外気温Tに対する減少傾き(上述のk1)に等しいことを新たな知見として得た。
【0047】
このことは、タイヤ・サスペンションの簡易モデル(図6(a))に対する運動方程式に基づきシミュレーション実験を行った結果(図7(a)、(b))によっても確認できる。図7において、初期データ(original)に対して、図6(b)に示す各パラメータ(K1,K2,G,Cx,R;Kx)を1.2倍または2倍に変更したときの周波数特性が示されている。
【0048】
このシミュレーション結果によれば、Kx(車両前後コンプライアンス)を変化させると15Hz付近の第1共振周波数(サスペンションばね下共振周波数)F1および40Hz付近の第2共振周波数(タイヤ・サスペンション連成一次共振周波数)F2がともに変化する(図7(a))。
【0049】
これに対し、その他のパラメータ(Cx:車両前後減衰係数、R:タイヤ半径、G:タイヤ捩れ剛性、K1:タイヤ偏心剛性、K2:タイヤトレッド剛性)が変化しても第1共振周波数付近の共振は変化しない(図7(a)、(b))。
【0050】
これは、次のように考えられる。サスペンションばね下共振周波数(第1共振周波数F1)は、車体よりサスペンションを懸架する部品の一部であるサスペンションブッシュが、路面からの走行振動や車体からの振動と共振して発生する。
【0051】
サスペンションブッシュは、弾性体であるゴムという材質上、タイヤと似た温度特性を有しており、特にタイヤ空気圧をモニタする際にサスペンションブッシュの共振周波数変化に基づき補正をする必要がある。
【0052】
一方、タイヤ・サスペンション連成一次共振周波数(第2共振周波数F2)は、タイヤの回転方向の振動に基づく共振周波数であり、タイヤ単体のみでなく、タイヤを支持するサスペンションにおいてタイヤ回転方向に振動する部品全ての振動に基づき発生する。ただし、空気圧変化を起こすのはタイヤだけであるので、第2共振周波数F2の変化はタイヤ空気圧変化を示すこととなる。
【0053】
なお、サスペンションブッシュは、タイヤ空気圧変化とは無関係に、温度変化により弾性率などの特性変化が生ずるので、後述するように、サスペンションブッシュが発生する弾性力の方向がタイヤ・サスペンション連成一次共振周波数に影響を与えないように、タイヤ回転方向と異なる方向に配置しておくことにより、空気圧検知の精度を高めることができる。
【0054】
これら第1および第2共振周波数F1、F2と外気温Tおよび空気圧Pとの関係は、図8のような特性線図として表すことができる。
【0055】
図8(a)は図4と同様、第1共振周波数F1の温度特性で、空気圧Pによらず、外気温Tの上昇に対して傾きk1で減少する。図8(b)は図5と同様、第2共振周波数F2の温度特性である。また、図8(c)は、図8(b)を外気温Tをパラメータとして第2共振周波数F2の空気圧特性として書き換えたものであり、両者は同一の内容を表している。
【0056】
図中、○は初期値(F10,F20,T0(初期化時の外気温、但し未知数),P0(初期化時の空気圧、但し未知数))を表し、●は空気圧検知のために走行中に測定された測定値(F1,F2,T1(測定時の外気温、但し未知数),P1(測定時の空気圧、但し未知数))を表す。
【0057】
図8(a)より、第1共振周波数の初期値F10と測定値F1との偏差である第1共振周波数偏差ΔF1=F10−F1から、両者の測定時の温度偏差ΔTとは数式1の関係がある。
【0058】
【数1】
ΔF1=k1・ΔT、または、
ΔT=ΔF1/k1
すなわち、予め傾きk1が把握できていれば、第1共振周波数の初期値F10からの偏差ΔF1により、初期化時の外気温T0からの温度変化量ΔTを把握することができる。
【0059】
一方、図8(b)に表されるように、第2共振周波数の初期値F20と測定値F2との偏差である第2共振周波数偏差ΔF2=F20−F2は、上記第1共振周波数偏差ΔF1から得られる温度偏差ΔTと両測定時点における空気圧の差ΔPによってもたらされるものである。そして、第2共振周波数の偏差ΔF2は、数式2のように、空気圧一定の場合の外気温変化のみによる周波数偏差ΔF2Tと外気温一定の場合の空気圧変化のみによる周波数偏差ΔF2Pとの和として表すことができる。
【0060】
【数2】
ΔF2=ΔF2T+ΔF2P
また、上述のようにF2の減少傾きは、F1の減少傾きk1と等しいので、数式3で表すことができる。
【0061】
【数3】
ΔF2T=k1・ΔT
よって、数式2は、数式1および数式3を用いて数式4のように変形できる。
【0062】
【数4】
また、数式4は、初期値(F10,F20)および測定値(F1,F2)、または、周波数偏差初期値ΔF0(=F20−F10)および周波数偏差ΔF(=F2−F1)を用いると数式5のように書き換えることができる。
【0063】
【数5】
空気圧低下の判定は、温度変化の影響を排除し、外気温変化によらない純粋に空気圧変化のみに対応する共振周波数変化、すなわち、第2共振周波数F2の外気温一定の条件下での空気圧変化による周波数偏差ΔF2Pに基づいて行う必要がある。
【0064】
この周波数偏差ΔF2Pは、図8(c)に表されるように、空気圧変化ΔPと数式6の比例関係にある。
【0065】
【数6】
ΔF2P=k2・ΔP、k2:比例定数
したがって、空気圧変化ΔPが許容値を超えたら空気圧低下の警報を出すことと、周波数偏差量ΔF2P=ΔF0−ΔFに対して上記空気圧変化の許容値に対応する閾値ΔFthを設けて空気圧低下の判定を行うこととは等価になる。
【0066】
このことより、本実施形態では、判定部47において、記憶されている周波数偏差初期値ΔF0と周波数偏差演算部46により演算された周波数偏差ΔFとの差分ΔF0−ΔFが閾値ΔFthを超えたときに空気圧低下の警報を正しく出すことができる。
【0067】
また、数式6は、数式4を用いて数式7または数式8のように書き換えることができる。
【0068】
【数7】
ΔP=ΔF2P/k2=(ΔF2−ΔF1)/k2
【0069】
【数8】
同様に、空気圧変化ΔPが許容値を超えたら空気圧低下の警報を出すことは、数式7より第2共振周波数偏差ΔF2を第1共振周波数偏差ΔF1で補正した量(ΔF2−ΔF1)に基づき空気圧低下を判定すること、および、第2共振周波数初期値と第2共振周波数の第1共振周波数偏差による補正値との偏差(F20−(F2+ΔF1))に基づき空気圧低下を判定することとも、等価になる。
【0070】
なお、図8(c)では、初期化時における外気温T0(ただし未知数)での測定点(図中▲)と初期値すなわち正常値P0(未知数)との差ΔPと、初期値空気圧P0が測定点における外気温T1(ただし未知数)で示す値(図中◇)と測定点での空気圧(P1)P1との差ΔPとは等しいことが表されている。
【0071】
以上の検知原理に基づき、本発明では、予め記憶されている第2共振周波数の初期値F20と第1共振周波数の初期値F10との偏差である周波数偏差初期値ΔF0と、走行中に測定される第2共振周波数F2と第1共振周波数F1との周波数偏差ΔFとの差分ΔF0−ΔFが、予め設定された閾値ΔFthを超えた場合に空気圧低下と判定することにより、外気温Tの変化に影響されず、タイヤ空気圧Pの変化のみをとらえて正確に初期値からの空気圧低下を判定することができる。
【0072】
次に、各共振周波数F1、F2の温度感度の補正、車速による補正および振動強度による補正について説明する。これは、サスペンションのジオメトリーや、タイヤの種別によっては、常に同じ特性になるとは限らず、状況に応じて補正が必要となる。
【0073】
共振周波数の温度感度、すなわち、上述の減少傾きk1が第1共振周波数F1と第2共振周波数F2とで異なる場合の補正は、次のように行う。
【0074】
図9に示すように、第1共振周波数の温度感度がk1’の場合、第2共振周波数の温度感度k1に対する感度補正係数Aを予め設定しておく。
【0075】
走行中に測定、演算される第1共振周波数F1に対し、第1共振周波数の初期値F10を用いて数式9により第1共振周波数をF1’に補正する。すなわち、第1共振周波数の温度感度を第2共振周波数の温度感度に合わせる補正を行う。
【0076】
【数9】
F1’=F1+A・(F1−F10)
これは、図2において、第1共振周波数抽出部44において、初期化時に入力された感度補正係数Aと第1共振周波数の初期値F10とを用いて、数式9により常に補正される。したがって、周波数偏差ΔFおよび空気圧低下の判定は、この補正された第1共振周波数F1’に基づいて行われ、上記検知原理に沿った正確な空気圧検知を行うことができる。
【0077】
なお、感度補正係数を、第2共振周波数の温度感度を第1共振周波数の温度感度に合わせるような補正を行うように設定してもよい。
【0078】
次に、車速による補正について説明する。車速の大きさにより各共振周波数F1、F2が変化する場合がある。この場合には、車輪速度演算部41からの車輪速度Vが時速60km相当のときの各共振周波数を基準に、数式10により補正する。
【0079】
【数10】
F11=a・Vs0+(Vs0=60km/hでのF1)
F21=b・Vs0+(Vs0=60km/hでのF2)
なお、a、bはともに比例定数であり、予め実車試験により設定しておく。
【0080】
これは、図2において、第1共振周波数抽出部44および第2共振周波数抽出部45において、それぞれ第1および第2共振周波数が数式10により常に補正される。したがって、周波数偏差ΔFおよび空気圧低下の判定は、この補正された第1および第2共振周波数F11、F21に基づいて行われ、上記検知原理に沿った正確な空気圧検知を行うことができる。
【0081】
次に、共振周波数の車輪速度信号の振動振幅Wによる補正について説明する。振動振幅Wは車輪速度演算部41において車輪速度信号を2乗したものとして得られる。この振動振幅Wに対して、図10に例示する補正マップを予め第1共振周波数抽出部44および第2共振周波数抽出部45にそれぞれ設定しておき、この補正マップに基づき、数式11により補正する。
【0082】
【数11】
F12=F1+Δf1
F22=F2+Δf2
この例では、振動振幅Wが0.375以上の比較的大きい範囲では第1および第2共振周波数を補正せず、0.375未満では、振幅Wが小さくなるに応じて第1および第2共振周波数よりそれぞれ比例的に大きくなる補正量を減算するものである。なお、タイヤ・サスペンション系の構成により、この補正量は変更可能である。
【0083】
これは、図2における第1共振周波数抽出部44および第2共振周波数抽出部45において、それぞれ第1および第2共振周波数が数式11により常に補正される。したがって、周波数偏差ΔFおよび空気圧低下の判定は、この補正された第1および第2共振周波数F12、F22に基づいて行われ、上記検知原理に沿った正確な空気圧検知を行うことができる。
【0084】
以上、第1および第2共振周波数の温度感度の補正、車速による補正、および振動振幅による補正について、個別に説明したが、これらの補正を同時に行うことにより、補正された第1および第2共振周波数は、外気温およびタイヤ空気圧のみに依存する量として検出することができ、これにより、上記検知原理に沿った正確な空気圧検知を行うことができる。
【0085】
次に、サスペンションブッシュの配置について説明する。上述したように、サスペンションブッシュは、タイヤ空気圧変化とは無関係に、温度変化により弾性率などの特性変化が生ずる。したがって、サスペンションブッシュが発生する弾性力の方向がタイヤ・サスペンション連成一次共振周波数に影響を与えないように、タイヤ回転方向と異なる方向に配置しておくことが望ましい。換言すると、サスペンションブッシュの軸の方向がタイヤ回転軸の方向と異なる、すなわち両者が非平行となるよう配置される必要がある。
【0086】
これを、図面に基づき説明する。図11(a)〜(c)は、サスペンションにおけるタイヤ1とサスペンションアーム21、22,23およびサスペンションブッシュ11、12、13との位置関係について、典型的な3つの配置例を上面図で示した概略図である。図11(a)は、サスペンションブッシュ11の軸31が鉛直方向となっている例、(b)はサスペンションブッシュ12の軸32が前後方向(タイヤ回転面方向)となっている例、および(c)はサスペンションブッシュ13の軸33が前後方向に対して垂直方向(タイヤ回転軸方向)となっている例をそれぞれ示している。
【0087】
サスペンションブッシュ11および12の例では、タイヤ1の動きおよびサスペンションアームの動きに対して、それぞれのサスペンションブッシュはタイヤ回転方向(タイヤ回転軸と直角の方向)には動きが拘束されてサスペンションブッシュに弾性力が発生せず、したがって、サスペンションブッシュはタイヤ回転方向には共振しない。
【0088】
これにより、サスペンションブッシュの第2共振周波数への寄与が抑制されるので、車輪速度信号に含まれる第2共振周波数はタイヤ空気圧を正しく反映したものとすることができ、正確なタイヤ空気圧検知が可能となる。
【0089】
一方、サスペンションブッシュ13の例では、タイヤおよびサスペンションアームの動きとともに、サスペンションブッシュはタイヤ回転方向、すなわちブッシュの軸直角方向に弾性力が生じるため、タイヤ回転方向に共振する。したがって、このタイヤ回転方向への共振により、タイヤ回転速度信号に、40Hz付近の周波数ピーク(タイヤ・サスペンション連成一次共振周波数、すなわち第2共振周波数)が発生することになる。
【0090】
したがって、タイヤ空気圧を精度良く検出するためには、このようなサスペンションブッシュによる第2共振周波数への寄与分をなくす必要があるため、上述した図11(c)に示すサスペンションブッシュの配置は望ましくなく、図11(a)および(b)に示す配置とする必要がある。
【0091】
なお、実際のサスペンションでは、車輪ごとにサスペンションブッシュは複数用いられる。この場合には、必ずしも個々のサスペンションブッシュをそれぞれ上記望ましい配置方向とする必要はない。その複数のサスペンションブッシュの総体的な動きがタイヤ回転方向での共振振動とならないよう、それらサスペンションブッシュを配置すればよい。
【0092】
例えば、図11(d)に示す例は、サスペンションブッシュ13とはタイヤ回転軸に対して対称の位置に、サスペンションブッシュ14をタイヤ回転軸方向に配置すれば、両ブッシュ13、14の動きが互いに相殺されタイヤ回転方向への共振が発生しない。
【0093】
以上のように、本実施形態によれば、車輪速度信号より15Hz付近のサスペンションばね下共振周波数としての第1共振周波数と40Hz付近のタイヤ・サスペンション連成一次共振周波数としての第2共振周波数とを抽出し、両者の周波数偏差を求め、この周波数偏差と予めタイヤ空気圧が正常圧であるときに初期化動作により記憶してある周波数偏差の初期値との差分が、予め設定されている閾値を超えたときに、タイヤ空気圧が低下したと判定し、運転者に警報を発生する。
【0094】
第1および第2共振周波数の温度特性(温度変化に対する変化勾配)は等しいので、第1および第2共振周波数の周波数偏差とこの周波数偏差初期値との差分は、温度変化による各共振周波数の変化分が相殺され、タイヤ空気圧の変化のみを反映した量である。したがって、この周波数偏差の差分に基づいてタイヤ空気圧の変化を検知することにより、温度情報を用いることなく正確なタイヤ空気圧検知が可能となる。
【0095】
したがって、従来のタイヤ空気圧検知装置が必要としていた外気温センサまたはエアコン等から車内通信で入手する外気温情報は不要となり、タイヤ空気圧検知装置のコストを低くすることができる。また、温度情報を用いないため、従来必要であった温度補正ロジックが不要となり仕様を簡素化でき、また、設計段階での温度補正のための適合工数を低減できる。
【0096】
すなわち、シンプルな構成で正確なタイヤ空気圧検知が可能になる。
【0097】
(他の実施形態)
上記実施形態では、タイヤ空気圧低下の判定を、第1および第2共振周波数の周波数偏差ΔFと、タイヤ空気圧が正常時における両者の周波数偏差初期値ΔF0との差分に基づいて行ったが、この差分(ΔF0−ΔF)の代わりに、第1および第2共振周波数の周波数偏差ΔFそのものに対して閾値を設定し、ΔFとこの閾値とを比較するようにしてもよい。
【0098】
すなわち、上記数式5より、ΔF=ΔF0−ΔF2Pであるので、閾値として望ましい空気圧低下の判定値に対応する周波数(ΔF0−ΔF2P)を予め実車試験により設定しておく。すなわち、この閾値は、タイヤ空気圧の変化量が所定値となるときの第2共振周波数の変化量(ΔF2P)と第1および第2共振周波数の周波数偏差初期値(ΔF0)との差として設定する。そして、ΔF2Pは外気温が一定のときのタイヤ空気圧の変化に対する第2共振周波数の変化量である。
【0099】
この実車試験により得られた結果の一例として、タイヤ空気圧Pと第1および第2共振周波数の周波数偏差ΔF=F2−F1との関係を図12に示す。図12において、周波数偏差ΔFに対する閾値として、たとえば、24Hzと設定しておくと、周波数偏差ΔFがこの閾値より小さくなると、空気圧が正常圧(約210kPa)より40kPa低下した(すなわち約170kPa以下に低下した)として、運転者に警報を発することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態のECUの機能ブロック図である。
【図3】(a)、(b)ともに、実走行時における車輪速度信号の周波数特性線図である。
【図4】実走行時の第1共振周波数の温度特性線図である。
【図5】実走行時の第2共振周波数の温度特性線図である。
【図6】(a)はタイヤ・サスペンション簡易モデルを表す図であり、(b)は簡易モデルにおける各パラメータの図表である。
【図7】(a)、(b)ともに、タイヤ・サスペンション簡易モデルにおけるシミュレーション実験による周波数特性線図である。
【図8】(a)〜(c)は、本発明におけるタイヤ空気圧の検知原理を説明する図である。
【図9】第1および第2共振周波数の温度感度の補正方法を説明する図である。
【図10】第1および第2共振周波数の振動振幅に対する補正マップの例を示す図である。
【図11】(a)〜(d)は、サスペンションブッシュの配置例を示す図である。
【図12】タイヤ空気圧Pと第1および第2共振周波数の周波数偏差ΔF=F2−F1との関係を示す図である。
【符号の説明】
1、1a〜d…タイヤ、2a〜d…歯車、3a〜d…車輪速度センサ、
4…ECU、5…警報装置、
11、12、13、14…サスペンションブッシュ、
21、22、23、24…サスペンションアーム、
31、32、33、34…サスペンションブッシュの軸、
40a〜d…タイヤ空気圧モニタ、41…車輪速度演算部、
42…第1フィルタ部、43…第2フィルタ部、
44…第1共振周波数抽出部、45…第2共振周波数抽出部、
46…周波数偏差演算部、47…判定部、48…初期値記憶部。
Claims (9)
- タイヤを備えた車輪の回転速度を検出する車輪速度検出手段と、
前記車輪速度信号より前記タイヤの温度変化に応じて所定勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に対してほぼ一定周波数となる第1共振周波数と、該第1共振周波数より高い周波数であって前記タイヤの温度変化に応じて前記勾配と略同じ勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に応じて周波数変化する第2共振周波数とを抽出する共振周波数抽出手段と、
前記第1共振周波数と第2共振周波数との偏差を算出する周波数偏差算出手段と、
前記算出された周波数偏差が予め設定された閾値より小さい場合に空気圧低下と判定する判定手段と、
を備えるタイヤ空気圧検知装置。 - タイヤを備えた車輪の回転速度を検出する車輪速度検出手段と、
前記車輪速度信号より前記タイヤの温度変化に応じて所定勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に対してほぼ一定周波数となる第1共振周波数と、該第1共振周波数より高い周波数であって前記タイヤの温度変化に応じて前記勾配と略同じ勾配で周波数変化するとともに前記タイヤの空気圧変化に応じて周波数変化する第2共振周波数とを抽出する共振周波数抽出手段と、
前記第1共振周波数と第2共振周波数との偏差を算出する周波数偏差算出手段と、
前記車輪のタイヤ空気圧が正常時の前記第1および第2共振周波数の周波数偏差初期値が設定されているとともに、前記算出された周波数偏差と前記偏差初期値との差が予め設定されている閾値を超えた場合に空気圧低下と判定する判定手段と、
を備えるタイヤ空気圧検知装置。 - 前記閾値は、前記タイヤの空気圧の変化量が所定値となるときの前記第2共振周波数の変化量と前記第1共振周波数と第2共振周波数との偏差の初期値との差に基づき設定されていることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ空気圧検知装置。
- 前記閾値は、前記タイヤの空気圧の変化量が所定値となるときの前記第2共振周波数の変化量に基づき設定されていることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ空気圧検知装置。
- 前記閾値は、外気温が一定の条件下での前記タイヤ空気圧の変化量に基づき設定されていることを特徴とする請求項3または4に記載のタイヤ空気圧検知装置。
- 前記第1共振周波数は、前記車輪のサスペンションばね下共振周波数に相当することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載のタイヤ空気圧検知装置。
- 前記共振周波数抽出手段は、前記車輪速度に応じて前記第1または第2共振周波数の少なくとも一方を補正するとともに、
前記周波数偏差算出手段は、前記補正された第1および/または第2共振周波数の偏差を算出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のタイヤ空気圧検知装置。 - 前記共振周波数抽出手段は、前記車輪速度の振幅の大きさに応じて前記第1または第2共振周波数の少なくとも一方を補正するとともに、
前記周波数偏差算出手段は、前記補正された第1および/または第2共振周波数の偏差を算出することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載のタイヤ空気圧検知装置。 - 前記タイヤは、前記車両より少なくともサスペンションブッシュを介してサスペンションにより懸架されるとともに、
前記サスペンションブッシュは、該サスペンションブッシュの軸の方向が前記タイヤの回転軸の方向と異なるように配置されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載のタイヤ空気圧検知装置。
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