JP3975869B2 - 溶銑の脱珪処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、転炉で精錬される以前の溶銑に対して酸素源を添加し、溶銑中に含まれる珪素を除去する脱珪処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶銑の脱燐処理及び脱炭処理を効率的に行うために、予め溶銑の脱珪処理を行うことが一般的に行われており、酸化鉄やミルスケールに代表される固体酸素源又は気体酸素や酸素含有ガス等の気体酸素源を溶銑に吹き付け若しくは吹き込んで、脱珪する方法が実施されている。しかし、脱珪反応の進行に伴って溶銑中珪素濃度が低下するため、脱珪酸素効率が悪化し、その結果、過剰の酸素は溶銑中の炭素と反応するようになる。この脱炭反応の発生・進行により、溶銑中の炭素濃度が低下するため、後工程である転炉精錬工程においては熱余裕が減少するという弊害が発生する。又、脱珪処理中に脱炭反応で生成するCOガスによってスラグがフォーミングし、安定した脱珪処理操業ができなくなるという弊害も発生する。
【0003】
そのため、溶銑脱珪処理時の脱炭を抑制する方法が多数提案されている。例えば、溶銑中の珪素濃度に応じて溶銑中に吹き込むガス中の気体酸素と不活性ガスとの比を変更する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この方法では、気体酸素と不活性ガスとの比が大きいため、溶銑の珪素濃度が低い領域では脱炭が進行してしまう。
【0004】
又、溶銑中に吹き込むガス中の気体酸素濃度を所定値以下に限定すると共に、溶銑の攪拌力を所定値以上に限定することにより、脱炭を抑制する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この方法では、溶銑中に吹き込むガス中に気体酸素が含まれているため、溶銑中の炭素との反応が避けられず、脱炭反応の抑制には自ずと限界がある。
【0005】
【特許文献1】
特開昭61−15909号公報
【0006】
【特許文献2】
特開平7−278636号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶銑の脱珪処理において、溶銑中炭素濃度の低下を抑制して効率良く脱珪する方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった。以下に検討結果を説明する。
【0009】
溶銑の脱珪処理において、溶銑に供給される酸素源は脱珪反応以外にも費やされ、特に溶銑中珪素濃度が低い領域では溶銑中の炭素と反応する。この溶銑中珪素濃度が低い領域、即ち、珪素濃度が0.2mass%以下の領域では、脱珪反応は溶銑浴中珪素の物質移動律速である一次反応といわれており、従って、脱珪反応に費やされる単位時間当たりの酸素量は、脱珪処理時間が経過するにつれて減少する。これに伴い、脱炭反応に使われる単位時間当たりの酸素量が増加し、脱炭反応が進行して、溶銑中炭素濃度が低下する。
【0010】
この脱炭反応に伴う溶銑中炭素濃度の低下を抑制するには、脱珪処理中に溶銑に炭素源を添加して脱炭された分を補うことが効果的であることが分かった。この場合、炭素源を溶銑中に効率良く歩留まらせるためには、溶銑中への吹き込み添加(インジェクション)が効果的であることが分かった。溶銑上に単に投入した場合には、溶銑表面若しくはスラグ中に浮遊或いは懸濁して、炭素源の歩留まりが悪くなるのみならず、脱珪のために添加した酸素源と反応してしまい、脱珪反応を阻害するため、好ましくない。
【0011】
又、炭素源を溶銑中に効率良く歩留まらせるためには、溶銑中珪素濃度に応じて、炭素源を溶銑中に供給すること、即ち、溶銑の珪素濃度が低くなる脱珪処理後半ほど、炭素源の供給速度を増加させることが効果的であることが分かった。更に、溶銑中珪素濃度が0.1mass%以下の領域で特に脱珪酸素効率が低下して脱炭反応が進行するので、これを防止するために、炭素源の供給を開始する時期を、溶銑中珪素濃度が0.1mass%以下になった領域とすることが望ましいことが分かった。更に又、炭素源としては、吹き込んで添加するため、予め粉体状のものが好ましく、この予め粉体状の安価な原材料としては、鉄鋼業における集塵機等によって回収される、炭素を含有するダストが有効であることが分かった。
【0012】
本発明は、上記検討結果に基づきなされたもので、第1の発明に係る溶銑の脱珪処理方法は、攪拌用ガス又は造滓剤を溶銑中に吹き込んで溶銑を攪拌しながら気体酸素源又は固体酸素源を添加し、溶銑に対して脱珪処理を施す際に、溶銑中の珪素濃度が0.1 mass %以下の時期から炭素源を溶銑中に吹き込むことを特徴とするものである。
【0015】
第2の発明に係る溶銑の脱珪処理方法は、第1の発明において、前記炭素源として、炭素含有ダストを用いることを特徴とするものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、取鍋型の溶銑鍋に収容された溶銑に対して本発明による脱珪処理を行っている様子を示す図である。
【0017】
高炉等で製造された溶銑4を取鍋型の溶銑鍋1にて受銑し、脱珪処理設備へ搬送する。脱珪処理設備には、気体酸素や空気等の気体酸素源を溶銑4の表面に向けて吹き付けるための上吹きランス2と、溶銑4中に気体窒素やアルゴン等の攪拌用ガスを吹き込むと共に生石灰や合成フラックス等の造滓剤粉体を溶銑4中に吹き込むための吹き込みランス3と、焼結粉やミルスケール等の固体酸素源及び生石灰等の造滓剤を溶銑鍋1内に投入・添加するための、ホッパーやシュート等からなる慣用の原材料添加装置(図示せず)とが設置されている。上吹きランス2及び吹き込みランス3は、溶銑鍋1内に挿入可能なように、上下方向での移動が可能な構造になっている。尚、吹き込みランス3を介して粉体を吹き込む場合には、気体窒素やアルゴン等を搬送用ガスとして用いることになる。図1中、符号5はスラグ、6はガス気泡である。
【0018】
脱珪処理は、溶銑4中に吹き込みランス3を浸漬させ、攪拌用ガスを吹き込んで溶銑4を攪拌しながら、脱珪剤として、上吹きランス2から気体酸素源を連続的に吹き付ける、又は原材料添加装置を用いて固体酸素源を連続的又は断続的に投入する、若しくは両者を併用して実施する。その際、生成するスラグ5の塩基度(CaO/SiO2 )を調整するために、生石灰等の造滓剤を添加してもよい。生石灰等は原材料添加装置から溶銑鍋1内に上置き投入してもよいが、溶銑4の攪拌を強める観点から、吹き込みランス3を介して粉体状態で溶銑4中に吹き込んで添加することが好ましい。当然ではあるが、両者を併用してもよい。更に、本実施の形態における吹き込みランス3においては、コークス、チャー、木炭等の炭材や、炭素を含有するダスト等の炭素源を吹き込める構造にしている。
【0019】
このようにして溶銑4に対して脱珪処理を施し、脱珪処理開始と同時に、又は脱珪処理開始後の溶銑4中の珪素濃度が低下した段階から、吹き込みランス3を介して炭素源を溶銑4中に吹き込む。この場合に、脱珪反応を促進させると同時に脱炭反応を抑制させる観点からは、溶銑4中の珪素濃度の低下に伴って炭素源の供給速度を増加させることが好ましい。即ち、珪素濃度の減少に伴って脱炭量が増加するため、それに見合う分の炭素源を溶銑4に供給することが好ましい。
【0020】
又、前述したように、溶銑4中の珪素濃度が0.1mass%以下になった以降に、炭素源の添加を開始することが好ましい。この場合、溶銑4中の珪素濃度は酸素源の供給速度から推定しても、又、溶銑4から分析用試料を採取して確認しても、どちらの方法でもよい。
【0021】
炭素源としては、コークス、チャー、木炭等の炭材を用いてもよいが、安価であることから、鉄鉱石の焼結工場や製銑工程及び製鋼工程等で発生する炭素を含有する集塵ダストを用いることが好ましい。
【0022】
溶銑4に対して、このようにして脱珪処理を施すことにより、酸素源との反応による脱炭反応と、炭素源添加による加炭反応とが同時に進行するため、溶銑4中の炭素濃度の低下が抑制され、一方、溶銑4中の珪素は、これらの反応と関わりなく効率良く除去される。即ち、溶銑4中の炭素濃度の低下を抑制しながら溶銑4中の珪素を効率良く低減することが可能となる。
【0023】
尚、上記説明は取鍋型の溶銑鍋1を用いた脱珪処理に関して行ったが、本発明における溶銑保持容器は溶銑鍋1に限るわけではなく、溶銑保持容器がトーピードカーであっても上記に沿って本発明を実施することができる。又、複数の吹き込みランスを配置し、炭素源、造滓剤粉体及び攪拌用ガスをそれぞれ独立して吹き込むようにしても、或いは炭素源のみ独立して吹き込むようにしてもよい。
【0024】
【実施例】
高炉で製造した溶銑を、容量が145トンの溶銑鍋に受銑し、脱珪処理設備へ搬送して脱珪処理を施した。溶銑の組成は、炭素:4.5〜4.7mass%、珪素:0.19〜0.21mass%で、溶銑温度は1400〜1450℃であった。そして、その先端が溶銑湯面から1000mm高さ位置の上吹きランスから溶銑表面に向けて気体酸素を供給し、又、吹き込みランスを介して気体窒素と生石灰粉、並びに、炭素源としての炭材又はダストを溶銑中に吹き込んだ。
【0025】
上吹きランスからの気体酸素の供給速度(「送酸速度」と称す)は0.34〜0.46Nm3 /min・t、吹き込みランスからの気体窒素の吹き込み量は200Nm3 /h、生石灰吹き込み速度は50kg/min、送酸時間即ち脱珪処理時間は10分間の一定とした。
【0026】
炭素源としては、炭素濃度が80mass%の炭材と、T.Fe分が40mass%で炭素濃度が30mass%である焼結工場電気集塵機ダストとの2種類を用いて、炭素源の添加時期及び添加量を変更する試験を行った。又、比較として、炭素源を添加しない試験も実施した。試験条件と脱珪処理の結果を表1に示す。この場合、試験No.4では、脱珪処理開始後5分経過した時点で炭材の吹き込みを開始し、添加速度50kg/minで3分間吹き込んだ後、添加速度130kg/minで2分間吹き込んだ。
【0027】
【表1】
【0028】
表1から明らかなように、炭素源を添加しないまま脱珪処理を実施した試験No.8〜10では、脱炭量が0.25〜0.35mass%と多いのに対し、炭素源として炭材を添加した試験No.1〜4、及び、炭素源として電気集塵機ダストを添加した試験No.5〜7では、脱炭量が0.22mass%以下となった。表1の備考欄には、本発明の範囲内の試験には本発明例と表示し、それ以外には比較例と表示した。
【0029】
上記試験における、脱珪処理中の脱炭量と炭素源添加量との関係を図2に示す。本発明例(炭素源別に炭材、ダスト)と比較例とで区別して脱炭量と炭素源添加量とを図示したものである。図2からも明らかなように、本発明例では脱炭量が抑制されたことが分かる。
【0030】
又、脱炭量と脱珪処理後の溶銑中珪素濃度との関係を図3に示す。この図も、本発明例(炭素源別に炭材、ダスト)と比較例とで区別して脱炭量と脱珪処理後の珪素濃度とを図示したものである。比較例では溶銑中珪素濃度の減少に伴って脱炭量が増加したが、本発明例では溶銑中珪素濃度が減少した場合でも脱炭量が抑制されたことが分かる。
【0031】
このように、溶銑の脱珪処理中に炭素源を添加することにより、脱珪反応を阻害することなく、脱炭量を抑制することが可能であることが分かった。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、溶銑の脱珪処理において、溶銑中炭素濃度の低下を抑制しながら珪素を効率良く低減することが可能となり、その結果、次工程である転炉精錬工程における熱余裕が確保され、安定した転炉精錬が可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶銑鍋に収容された溶銑に対して本発明による脱珪処理を行っている様子を示す図である。
【図2】脱珪処理中の脱炭量と炭素源添加量との関係を、本発明例と比較例とで比較して示す図である。
【図3】脱珪処理中の脱炭量と脱珪処理後の溶銑中珪素濃度との関係を、本発明例と比較例とで比較して示す図である。
【符号の説明】
1 溶銑鍋
2 上吹きランス
3 吹き込みランス
4 溶銑
5 スラグ
6 ガス気泡
Claims (2)
- 攪拌用ガス又は造滓剤を溶銑中に吹き込んで溶銑を攪拌しながら気体酸素源又は固体酸素源を添加し、溶銑に対して脱珪処理を施す際に、溶銑中の珪素濃度が0.1 mass %以下の時期から炭素源を溶銑中に吹き込むことを特徴とする、溶銑の脱珪処理方法。
- 前記炭素源として、炭素含有ダストを用いることを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱珪処理方法。
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