JP3970360B2 - 圧電発音器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、前気室と後気室の共鳴を利用して所望の周波数特性を得ようとする圧電発音器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
前気室と後気室の共鳴を利用して所望の周波数特性を得る圧電発音器では、圧電振動子の振動に基づく共振周波数と、前気室から得られる共鳴と、後気室から得られる共鳴とが重なって周波数特性が定まる。圧電振動子は、板状の金属製振動板に圧電セラミック素子が接合されて構成され、圧電振動子の金属製振動板の周縁部が絶縁ケースに支持されている。図11に概略的に示すように、前気室103は絶縁ケース101に支持された圧電振動子102の一方の側方に形成され、また後気室104は圧電振動子102の他方の側方に形成される。一般的には、図11に示すように、絶縁ケース101の内部が圧電振動子102で仕切られて前気室103と後気室104の両方が形成される場合が多いが、電子機器の内部に収納されて電子機器のケースと圧電発音器の絶縁ケースが組み合わされた状態ではじめて前気室と後気室の両方が形成される場合もある。
【0003】
圧電振動子102の振動により得られる周波数特性(音圧−周波数)は、図12に示すように、一次共振周波数のピークP1 と二次共振周波数のピークP2 とを有している。圧電振動板の直径寸法が大きい場合(例えば20mmの場合)には、前気室103から得られる共鳴は図12の二次共振周波数よりも高い周波数領域に音圧のピークを有するように放音孔105の面積を設定しており、また後気室104から得られる共鳴は二次共振周波数よりも低い周波数領域に音圧のピークを有するように放音孔106の面積が設定されている。そして圧電振動子102のみから得られる周波数特性と前気室103及び後気室104からの共鳴とが重なって圧電発音器の周波数特性が定まる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
例えば図13は、日本の通信機械工業会が電話機の通話品質について制定した受話器の標準規格の受話周波数特性である。電話機の受話器に圧電発音器が用いられる場合には、この受話周波数特性を満たすことが要求される。この標準規格によると、1000Hzにおける音圧を0dBとした場合に、300Hz〜3400Hzの周波数領域で、受話器の周波数特性が許容限界(下限)Dと許容限界(上限)Cの間の許容範囲内に入ることを要求している。しかしながら圧電振動子(圧電振動板)の直径寸法が小さくなればなるほど、二次共振周波数は高くなる傾向がある。そのため小形化の要求に応じて、圧電振動子の直径即ち金属振動板の直径寸法を小さくしていくと、二次共振周波数が3400Hz以上になってしまい、結果として圧電発音器の周波数特性の高い周波数領域の音圧が低下して、前述の標準規格を満たさなくなってしまう。そこで前気室または後気室の放音孔の数または寸法を調整することにより、周波数が高い領域の音圧を上げることを試みたが、十分な結果を得ることはできなかった。
【0005】
本発明の目的は、周波数が高い領域における周波数特性の調整が可能な圧電発音器を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、圧電振動子の直径寸法が小さくなった場合において、周波数が高い領域における周波数特性の調整が可能な圧電発音器を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、二次共振周波数を調整することにより、周波数が高い領域における周波数特性の調整が可能な圧電発音器を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、二次共振周波数を調整するために、圧電振動子に接着剤を用いてマス部材を取付けた場合に、音圧の低下を防止できる圧電発音器を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、圧電振動子にマス部材を取付けて効果的に二次共振周波数を調整できる圧電発音器を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明が改良の対象とする圧電発音器は、板状の金属製振動板に圧電セラミック素子が接合されてなる圧電振動子の金属製振動板の周縁部が絶縁ケースに支持され、絶縁ケースに支持された圧電振動子の一方の側方に前気室が形成され、また圧電振動子の他方の側方に後気室が形成された構造を有している。
【0011】
本発明においては、金属振動板の中央部に共振周波数を調整用するためのマス部材を取付けて周波数特性を調整する。本発明においては、マス部材を金属振動板に取付け、二次共振周波数を低周波数側に移動させることにより、周波数が高い領域における周波数特性を改善する。本発明は、特に圧電振動子のみの構成から得られる二次共振周波数が、予め定めた上限周波数よりも高くなるほどに金属振動板の直径寸法が小さい場合(例えば金属振動板の直径寸法が14mm以下の場合)に効果的である。前述の通り、金属振動板の直径寸法がある程度大きい場合には、放音孔の数及び寸法を調整することにより、周波数特性の調整は簡単に行える。しかしながら金属振動板の直径寸法が小さくなってくると、放音孔の数及び寸法の調整だけでは、周波数が高い領域における音圧の低下を改善することは難しい。そこで発明者は、周波数が高い領域における音圧の低下の原因となっている二次共振周波数を変えることにより(低い周波数にシフトすることにより)、音圧の低下を改善または調整することを考えた。
【0012】
振動板の一次共振周波数(f)は、f=(1/2π)(1/mc)1/2 の式により表すことができる。ここでmは等価質量であり、Cはコンプライアンスある。二次共振周波数はこの一次共振周波数に付随して表れる。等価質量とは、振動板の質量そのものではなく、振動する際に実際に振動に関与する質量であり、振動板の支持構造または支持条件等によって等価質量は変わる。またコンプライアンスCは、振動体の軟らかさを示す定数であり、Cが大きくなるほど振動板が軟らかいことを意味する。二次共振周波数を下げる(低い周波数側にシフトする)ためには、mまたはCを大きくすればよい。しかしながらCを大きくするといっても、あまりCを大きくすると、振動板を支持することも、また形を維持することもできなくなる。現実には、圧電振動子の金属振動板の厚みはほとんど限界に近い状態まで小さくなっており、更に金属振動板のC(軟らかさ)を増大することには無理がある。そこで発明者は、m(等価質量)を増加することにより二次共振周波数を下げることを考えた。m(等価質量)を増加させる簡単な方法は、金属振動板の厚みを増加させて、金属振動板の質量を増加させることである。しかしながらこのようにしてmを増加させると、逆にCが小さくなってしまうので、結果的には二次共振周波数を下げることは難しい。そこで本発明では、マス部材を圧電振動子に取付けることにより、m(等価質量)を増加させることにした。そして本発明では、軽くてしかも小さいマス部材で最も効果的にm(等価質量)を増加させるために、圧電振動子の中央部にマス部材を配置することにした。中央部にマス部材を配置しない場合には、マス部材の質量が重くなるため結果的にマス部材の寸法が大きくなって、振動板のCが小さくなるので好ましくないが、マス部材を圧電振動子の中央部に配置すればこのような問題が生じることはない。
【0013】
本発明によれば、圧電振動子の中央部にマス部材を配置することによって等価質量を増加させて、二次共振周波数を低い周波数側にシフトすることにより、周波数特性の高い周波数領域における音圧の低下を防止して、周波数が高い領域における周波数特性の調整が可能になる。
【0014】
マス部材の形状は任意であるが、薄形化のためには、マス部材を板状にするのが好ましい。通常金属振動板は円板状であるから、マス部材も円板形状にして、金属振動板とほぼ同心的に配置するのが理想的である。このようにするとマス部材の質量及び寸法を最小にして、周波数特性を調整できる。具体的には、マス部材の質量及び形状寸法の設定により、圧電振動子から得られる二次共振周波数を調整して周波数特性を調整するのであるが、マス部材が取付けられた圧電振動子から得られる二次共振周波数を予め定めた上限周波数に近付けるように、マス部材の質量及び形状寸法を設定すれば、マス部材の質量を最小にして効果的に周波数特性を調整することができる。予め定めた上限周波数とは、用途に応じて自ずと定まる所定以上の音圧を必要とする周波数の上限である。前述の通信機械工業会の受話周波数特性の標準規格に合わせるように周波数特性を調整する場合であれば、上限周波数である3400Hzがこの予め定めた上限周波数となる。したがって、この場合には、二次共振周波数が3400Hzに近付けるようにマス部材の質量及び形状寸法を設定すればよい。そして前気室の共鳴周波数を上限周波数よりやや低くなるように放音孔の数及び寸法による調整を併用するのは勿論である。
【0015】
マス部材を圧電振動子の圧電セラミック素子の上に接合する場合には、接着剤として硬化した状態で弾性を有するシリコンゴム系の接着剤を用いる。これはマス部材が圧電振動子の変形を疎外しないようにするためである。もし接着剤として、硬化後にほとんど弾性を示さない接着剤を用いると、マス部材の存在によって圧電セラミック素子の動きまたは変形が疎外されて、十分な振動が発生しなくなって音圧が低下するおそれがある。圧電セラミック素子が接合されている金属製振動板の面と反対側の面の中央部にマス部材を接着する場合も同様で、この場合にも接着剤として硬化した状態で弾性を有する接着剤を用いると、金属振動板のコンプライアンスが小さくなるのを防止できる効果がある。特にマス部材を圧電セラミック素子が接合されている金属製振動板の面と反対側の面に接着すると、圧電セラミック素子を配置する側のケースの厚み寸法を小さくできる。
【0016】
なお金属振動板の周縁部は金属振動板の実質直径を実質的に減少させない支持構造により絶縁ケースに支持するのが好ましい。なぜならば金属振動板の実質直径を実質的に減少すると、その分だけ更にマス部材の等価質量を増大させることが必要になるからである。
【0017】
マス部材は、金属振動板のコンプライアンスをできるだけ小さくしないように、できるだけ軟質のものを用いるのが好ましい。しかしながらある程度の質量を得ようとすると、どうしても金属板を用いることになるが、その場合には鉄・ニッケル合金等のように安価でしかもできるだけ比重の大きいものを用いるのが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態の一例の圧電発音器(または圧電スピーカ)を内部に配置した携帯電話の受話器の概略部分断面図であり、図2は図1で用いる本発明の実施の形態の一例の圧電変換器の概略断面図である。なお図2においては、理解を容易にするため、各部の厚みを誇張して描いている。
【0019】
この電話の受話器は、図1に示すようにハウジング1に該ハウジング1と組合わされて圧電発音器を構成する圧電変換器2が取付けられた構造を有している。ハウジング1はハウジング本体3の内壁部に圧電変換器取付用の嵌合部(突出部)4を一体に有している。この突出部4は円筒状をなしており、圧電変換器2の位置決め用突起半部7fが嵌合される切欠凹部4aを有している。また、ハウジング本体3には、突出部4によって囲まれた内側部分に1ヶ以上の放音孔3a…が形成されている。突出部4の内周にはリング状スペーサ5が配置されている。突出部4には、位置決め用突起半部7fと切欠凹部4aとが嵌合された状態でリング状スペーサ5を介して圧電変換器2の表側ケース6の端部が嵌合されている。具体的には、表側ケース6の開口部6cがハウジング本体3に形成した放音孔3a…と対向するように、即ち開口部6cがハウジング本体3の壁部によって覆われるように、圧電変換器2は突出部4に嵌合されている。この状態でハウジング本体3の壁部と圧電変換器2の圧電振動子8との間に前気室R1 が構成される。
【0020】
圧電変換器2は、図2に詳細に示すように、第1のケース半部を構成する表側ケース6に第2のケース半部を構成する裏側ケース7が嵌合されて構成される二つ割りの収納ケース(絶縁ケース)を有しており、この収納ケースの内部には、電気信号に応じて振動する圧電振動子8が収納されている。なお本実施例では、表側ケース6と裏側ケース7の嵌め合わせ部からの空気漏れを防ぐために、嵌め合わせ部を溶着等により接合している。表側ケース6は、図2及び図3(A)〜(C)に詳細に示すように、底壁部6aとこの底壁部6aの外周部を囲むようにこの外周部から延びる周壁部6bとを有しており、ガラス入りのPPO樹脂からなる絶縁樹脂材料により一体成形されている。なお図3(A)〜(C)は、表側ケース6の平面図、断面図及び裏面図である。底壁部6aには、圧電振動子8の金属製振動板8aを部分的に露出させる円形の開口部6cが形成されている。開口部6cの径寸法は、電話器の組立作業時に指が金属製振動板8aに触れない程度に小さくすると共に共鳴を生じさせない程度に大きくしている。また底壁部6aの外周部には、直方体の形状を有する位置決め用突起半部6dが一体に設けられている。周壁部6bは、切欠部6eを有するほぼ円筒形状を有している。切欠部6eは、位置決め用突起半部6dと対応する位置に形成されている。また、切欠部6eは、表側ケース6に裏側ケース7が嵌合された状態で、リード線10a,10bを導出する隙間を形成するためのものであり、最終的にはその内部は封止剤11により封止される。周壁部6bの内壁には、開口部6c寄りの位置に周方向に連続して延びる環状のリブ6fが一体に形成されている。このリブ6fの内壁部の外面には傾斜面即ち第1のテーパー部6gが形成されている。この第1のテーパ部6gは開口部6cから離れるに従って径方向外側に向かって広がる(即ち拡径する)向きに形成されている。
【0021】
第2のケース半部を構成する裏側ケース7は、図2及び図4(A)〜(C)に詳細に示すように、円板状の底壁部7aとこの底壁部7aの縁部7a1 を残すように底壁部7aから立ち上がって延びる周壁部7bとを有しており、表側ケース6と同様にガラス入りのPPO樹脂からなる絶縁樹脂によって一体成形されている。なお図4(A)〜(C)は、裏側ケース7の平面図、断面図及び裏面図である。底壁部7aには、漏洩孔7cが形成されている。この漏洩孔7cは底壁部7aの中心部に形成されており、漏洩孔7cの裏側ケース7の内側に位置する一端の開口部には、漏洩孔7cを覆うように制動布9が接合または貼り付けられている(図2)。また底壁部7aの表側ケース6に対向する内面には、補強用リブ7dが形成されている。この補強用リブ7dは格子状に形成されており、裏側ケース7の強度を高められるような形状及び寸法を有している。また底壁部7aの外周には、位置決め用突起半部7fが形成されている。この位置決め用突起半部7fは、2つの直方体の突出片7f1 ,7f2 と、底壁部7aに連続する板状部7f3 とから構成されている。表側ケース6に裏側ケース7が嵌合された状態で表側ケース6の位置決め用突起半部6dは、突出片7f1 ,7f2 に挟まれた状態で位置決め用突起半部7fに嵌合される。なお、表側ケース6に裏側ケース7が嵌合された状態でリード線10a,10bが圧電変換器2から外部に導出する隙間が位置決め用突起半部6dと板状部7f3 との間に形成される。また板状部7f3 には、リード線10a,10bの導出と封止剤の注入とが容易に行え、且つ突出片7f1 ,7f2 の底壁部7aへの取付強度を高められるような半円弧状の切り込み7f4 が形成されている。
【0022】
また周壁部7bは、切欠部7gを有するほぼ円筒状を有している。この切欠部7gは、位置決め用突起半部7fと対応する位置に形成されている。切欠部7gは、表側ケース6に裏側ケース7が嵌合された状態で、リード線10a,10bを導出する隙間を形成し、その内部には、シリコンゴム系の接着剤からなる封止剤11が充填される。周壁部7bの内壁部の外面には傾斜面即ち第2のテーパ部7hが形成されている。この第2のテーパ部7hは、表側ケース6の第1のテーパ部6gと同様に、底壁部7aから離れるに従って径方向外側に向かって広がる(即ち拡径する)向きに形成されている。
【0023】
絶縁ケースは、図2に示すように、周壁部6bの端面6b1 が裏側ケース7の縁部7a1 と接触するように表側ケース6及び裏側ケース7のそれぞれの周壁部6b,7bが嵌合されて構成されている。このように、周壁部6b,7bが互いに嵌合された状態で、絶縁ケースの周壁の内壁部には溝Gが形成される。この溝Gは、絶縁ケースの内側に(中心部に向かって)開口し、即ち中心部に向かうに従って広がり且つ絶縁ケースの周壁に沿って延びて圧電振動子8の金属製振動板8aの周縁部を受け入れる横断面形状がほぼV字形の溝部である。周壁部6b,7bの内壁部の形状(または第1及び第2のテーパ部の形状)は、このような溝部Gを形成するようそれぞれ構成されている。
【0024】
圧電振動子8は、図5(A)及び(B)の概略図に示すように板状の金属製振動板8aとこの金属製振動板8aの外周部に第1の電極部8a1 を残すように金属製振動板8aの上に設けられた圧電セラミック素子8bと、この圧電セラミック素子8bの上に設けられたマス部材8cとから構成されている。なお、図5(A)は圧電振動子8の断面概略図であり、図5(B)は、圧電振動子8の概略平面図である。金属製振動板8aは鉄・ニッケル合金からなる厚み0.03mm、直径14mmの円形の金属板により構成されている。圧電セラミック素子8bは、圧電セラミック8b1 と該圧電セラミック8b1 の両面にそれぞれ設けられた接合電極層8b2 及び非接合電極層8b3 とから構成されており、0.05mmの厚みと11.3mmの直径とを有している。接合電極層8b2 は金属製振動板8aと電気的に接続されるように接合している。第1の電極部8a1 及び非接合電極層8b3 には、それぞれリード線10a,10bが半田付けにより接続されており、圧電振動子8は第1の電極部8a1 及び非接合電極層8b3 間に与えられる電気信号に応じて振動する。
【0025】
マス部材8cは、鉄・ニッケル合金からなる厚み0.1mm、直径5.6mmの円形の金属板により形成されており、金属製振動板8aとほぼ同心的に配置されるように接着剤により非接合電極層8b3 に接合されている。マス部材8cの接合に用いる接着剤は、マス部材8cが圧電振動子8の変形を疎外しないように、硬化した状態で弾性を有するものを用いるのが好ましく、この例では、シリコンゴム系の接着剤を用いた。マス部材8cは、圧電振動子8の二次共振周波数を調整して圧電発音器の周波数特性を調整する役割を果しており、圧電振動子8から得られる二次共振周波数を予め定めた上限周波数に設定できる質量及び形状を有している。この例では、金属製振動板8aの直径を14mmにすることにより4000Hzになった圧電振動子8の二次共振周波数を3400Hz(通信機械工業会が制定した標準規格の上限の周波数)になるようにマス部材8cの質量を20mgに設定した。
【0026】
この圧電振動子8は、マス部材8cが収納ケースの内側(裏側ケース7側)に向くように第1及び第2のテーパ部(溝部Gを囲む壁部)6g,7hに対して固定されている(図2)。
【0027】
上記の構成で組み立てた場合、金属製振動板8aの周縁部と第1及び第2のテーパ部6g,7hとの接触状態は図6〜図8に示した状態のいずれかまたは各状態が混在した状態になっている。これは絶縁ケース及び金属製振動板の加工精度と材料の膨脹、収縮等によって発生する寸法誤差に基づくものである。設計上は図8の状態になるように各部の寸法を決定している。
【0028】
図6に示す接触状態では、金属製振動板8aの周縁部は、溝部Gとの間に僅かな隙間を形成するように溝部Gに受入れられており、図6及び図7に示す接触状態では、金属製振動板8aの周縁部は、溝部Gと接触して溝部Gに受入れられている。図7に示す例では、表側ケース6の第1のテーパ部6gの拡径した端部6g1 と裏側ケース7の第2のテーパ部7hの拡径した端部7h1 とは金属製振動板8aの厚み分だけ離れており、端部6g1 と端部7h1 との間には、周壁部6bの第1のテーパ部6gに連続する接触内壁部6hが露出している。また図8に示す例では、表側ケース6の第1のテーパ部6gの拡径した端部6g1 と裏側ケース7の第2のテーパ部7hの拡径した端部7h1 とが接触している。実際には、金属製振動板8aは金属であり、テーパ部は樹脂により形成されているため、金属製振動板8aの角部はテーパ部に食い込んだ状態になっている。
【0029】
図6に示す接触状態では、金属製振動板8aの周縁部と第1のケース半部6の内壁部6g及び第2のケース半部7の内壁部7hと間には、金属製振動板の表面側に位置する空間(前気室R1 )と裏面側に位置する空間(後気室R2 )との連通を阻止する気密シール部(絶縁樹脂溶融硬化部)Kが形成されている。また図6及び図7に示す接触状態では、金属製振動板8aの周縁部と第1のケース半部6の内壁部6gと間に、前気室R1 と後気室R2 との連通を阻止する気密シール部(絶縁樹脂溶融硬化部)Kが形成されている。気密シール部Kは、第1のテーパ部6gのPPO樹脂を溶かす溶剤(例えばジクロロメタン)によって第1のテーパ部6gの壁部を溶かした後に、溶剤が気化して無くなることによって形成される。
【0030】
次に本実施例の圧電変換器と、マス部材8cを設けずその他は本実施例と同じ構造を有する比較例の圧電変換器を作り、各圧電変換器を図1に示すようにハウジング1に取り付けて圧電発音器を構成してその周波数特性を調べた。図9は、各圧電発音器の音圧と圧電振動子の周波数との関係を示している。本図においてA,A1 及びA2 は本発明の圧電発音器の特性曲線,一次共振のピーク及び二次共振のピークを示しており、B,B1 及びB2 は比較例の圧電発音器の特性曲線,一次共振のピーク及び二次共振のピークを示している。本図より、比較例の圧電発音器では、二次共振周波数が通信機械工業会が制定した標準規格の上限(3400Hz)を超えているのが分る。これに対してマス部材8cを設けた本発明の圧電発音器では、二次共振周波数を3400Hzにできるのが分る。
【0031】
図10は、各圧電発音器の感度と圧電発音器の周波数(振動に基づく一次共振周波数及び二次共振周波数と、前気室から得られる共鳴と、後気室から得られる共鳴とが重なって定まる周波数)との関係と、通信機械工業会が定めた受話器の周波数特性の許容範囲とを併せて示している。本図においてA及びBは本発明及び比較例の圧電発音器の特性曲線を示しており、C及びDは上限及び下限の許容限界を示している。本図より、比較例の圧電発音器では、二次共振周波数が3400Hzを超えているため、300〜3400Hzの周波数領域で圧電発音器の周波数が下限の許容限界を下回るのに対してマス部材8cを設けた本発明の圧電発音器では、二次共振周波数が3400Hzに近付けるため、圧電発音器の周波数を許容範囲内にできるのが分る。
【0032】
なお、本実施例では、マス部材を圧電振動子の圧電セラミック素子の上に接合したが、圧電セラミック素子が接合されている金属製振動板の面と反対側の面の中央部にマス部材を接合してもよい。なおこの場合にも接着剤として硬化した状態で弾性を有する接着剤を用いると、金属振動板のコンプライアンスが小さくなるのを抑制できる効果がある。また、このようにマス部材を接着して圧電セラミック素子を後気室側に配置し、マス部材を前気室側に配置すればマス部材の厚みを厚くして、マス部材の径を小さくすることができ、コンプライアンスが小さくなるのを抑制できる。
【0033】
また、本実施例では、溶剤または接着剤を用いて気密シール部Kを形成したが、気密シール部は必ずしも形成しなくてもよい。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、圧電振動子の中央部にマス部材を配置することによって等価質量を増加させて、二次共振周波数を低い周波数側にシフトすることにより、周波数特性の高い周波数領域における音圧の低下を防止して、周波数が高い領域における周波数特性の調整が可能になる。そのため、所望の音質を維持した状態で、圧電振動子の径寸法を小さくして、圧電発音器の小形化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態の一例の圧電発音器を内部に配置した携帯電話の受話器の概略部分断面図である。
【図2】 本発明の実施の形態で用いる圧電変換器の一例の概略断面図である。
【図3】 (A)〜(C)は、図2の圧電変換器に用いる表側ケースの平面図、断面図及び裏面図である。
【図4】 (A)〜(C)は、図2の圧電変換器に用いる裏側ケースの平面図、断面図及び裏面図である。
【図5】 (A),(B)は、本発明の実施の形態の一例で用いる圧電振動子の断面図及び平面図である。
【図6】 圧電振動子と第1及び第2のテーパ部との固定部分の拡大図である。
【図7】 圧電振動子と第1及び第2のテーパ部との別の固定部分の拡大図である。
【図8】 圧電振動子と第1及び第2のテーパ部との更に別の固定部分の拡大図である。
【図9】 各圧電発音器の音圧と周波数との関係を示す図である。
【図10】 各圧電発音器の感度と周波数(振動に基づく一次共振周波数及び二次共振周波数と、前気室から得られる共鳴と、後気室から得られる共鳴とが重なって定まる周波数)との関係を示す図である。
【図11】 従来の圧電発音器の概略部分断面図である。
【図12】 従来の圧電変換器の音圧と周波数との関係を示す図である。
【図13】 通信機械工業会が定めた受話器の受話周波数特性の標準基準を示す図である。
【符号の説明】
2 圧電変換器
6 表側ケース(第1のケース半部)
6a 底壁部
6b 周壁部
6c 開口部
6g 第1のテーパー部
7 裏側ケース(第2のケース半部)
7a 底壁部
7b 周壁部
7h 第2のテーパ部
8 圧電振動子
8a 金属製振動板
8b 圧電セラミック素子
8c マス部材
G 溝部
K 気密シール部(絶縁樹脂溶融硬化部)
Claims (5)
- 板状の金属製振動板に圧電セラミック素子が接合されてなる圧電振動子の前記金属製振動板の周縁部が絶縁ケースに支持され、
前記絶縁ケースに支持された前記圧電振動子の一方の側方に前気室が形成され、また前記圧電振動子の他方の側方に後気室が形成された圧電発音器において、
前記圧電振動子の中央部に前記共振周波数を調整するためのマス部材が取付けられて前記周波数特性が調整されており、
前記マス部材は、硬化した状態で弾性を有する接着剤を用いて前記圧電振動子の上に接合されており、
前記絶縁ケースは、絶縁樹脂製の第1のケース半部及び第2のケース半部が組合わされてなる二つ割りの絶縁ケースからなり、
前記第1のケース半部は、前記金属製振動板を露出させる開口部を備えた底壁部と該底壁部の外周部を囲むように該外周部から延びる周壁部とを有しており、
前記第2のケース半部は、板状の底壁部と該底壁部から延びる周壁部とを有しており、 前記第1のケース半部の前記周壁部と前記第2のケース半部の前記周壁部とが嵌合されて前記絶縁ケースが構成され、
前記第1のケース半部及び前記第2のケース半部のそれぞれの前記周壁部の前記内壁部には、前記第1のケース半部及び前記第2のケース半部のそれぞれの前記周壁部が互いに嵌合された状態で、前記金属製振動板の周縁部を受け入れる溝部を形成する第1及び第2のテーパ部がそれぞれ前記内壁部に沿って一体に形成され、
前記第1及び第2のテーパ部は、前記溝部が前記絶縁ケースの中心部に向かって開口し且つ前記中心部に向かうに従って広がるように傾斜していることを特徴とする圧電発音器。 - 板状の金属製振動板に圧電セラミック素子が接合されてなる圧電振動子の前記金属製振動板の周縁部が絶縁ケースに支持され、
前記絶縁ケースに支持された前記圧電振動子の一方の側方に前気室が形成され、また前記圧電振動子の他方の側方に後気室が形成され、
前記圧電振動子の振動に基づく一次共振周波数及び二次共振周波数と、前記前気室から得られる共鳴と、前記後気室から得られる共鳴とが重なって周波数特性が定まり、
前記圧電振動子のみの構成から得られる前記二次共振周波数が、予め定めた上限周波数よりも高くなるほど前記金属振動板の直径寸法が小さい圧電発音器において、
前記圧電振動子の中央部に共振周波数調整用の板状のマス部材が取付けられ、
前記マス部材が取付けられた前記圧電振動子から得られる前記二次共振周波数を前記予め定めた前記上限周波数に近付けるように低くして、前記周波数特性を調整するように前記マス部材の質量及び形状寸法が定められており、
前記マス部材は、硬化した状態で弾性を有する接着剤を用いて前記圧電振動子の上に接合されており、
前記絶縁ケースは、絶縁樹脂製の第1のケース半部及び第2のケース半部が組合わされてなる二つ割りの絶縁ケースからなり、
前記第1のケース半部は、前記金属製振動板を露出させる開口部を備えた底壁部と該底壁部の外周部を囲むように該外周部から延びる周壁部とを有しており、
前記第2のケース半部は、板状の底壁部と該底壁部から延びる周壁部とを有しており、 前記第1のケース半部の前記周壁部と前記第2のケース半部の前記周壁部とが嵌合されて前記絶縁ケースが構成され、
前記第1のケース半部及び前記第2のケース半部のそれぞれの前記周壁部の前記内壁部には、前記第1のケース半部及び前記第2のケース半部のそれぞれの前記周壁部が互いに嵌合された状態で、前記金属製振動板の周縁部を受け入れる溝部を形成する第1及び第2のテーパ部がそれぞれ前記内壁部に沿って一体に形成され、
前記第1及び第2のテーパ部は、前記溝部が前記絶縁ケースの中心部に向かって開口し且つ前記中心部に向かうに従って広がるように傾斜していることを特徴とする圧電発音器。 - 直径寸法が14mm以下の円板状の金属製振動板に圧電セラミック素子が接合されてなる圧電振動子の前記金属製振動板の周縁部が絶縁ケースに支持され、
前記絶縁ケースに支持された前記圧電振動子の一方の側方に前気室が形成され、また前記圧電振動子の他方の側方に後気室が形成され、
前記圧電振動子の振動に基づく一次共振周波数及び二次共振周波数と、前記前気室から得られる共鳴と、前記後気室から得られる共鳴とが重なって周波数特性が定まる圧電発音器において、
前記圧電振動子の中央部に共振周波数調整用の板状のマス部材が取付けられ、
前記マス部材の質量及び形状寸法の設定により、前記マス部材が取付けられた前記圧電振動子から得られる二次共振周波数が調整されて前記周波数特性が調整されており、
前記マス部材は、硬化した状態で弾性を有する接着剤を用いて前記圧電振動子の上に接合されており、
前記絶縁ケースは、絶縁樹脂製の第1のケース半部及び第2のケース半部が組合わされてなる二つ割りの絶縁ケースからなり、
前記第1のケース半部は、前記金属製振動板を露出させる開口部を備えた底壁部と該底壁部の外周部を囲むように該外周部から延びる周壁部とを有しており、
前記第2のケース半部は、板状の底壁部と該底壁部から延びる周壁部とを有しており、 前記第1のケース半部の前記周壁部と前記第2のケース半部の前記周壁部とが嵌合されて前記絶縁ケースが構成され、
前記第1のケース半部及び前記第2のケース半部のそれぞれの前記周壁部の前記内壁部には、前記第1のケース半部及び前記第2のケース半部のそれぞれの前記周壁部が互いに嵌合された状態で、前記金属製振動板の周縁部を受け入れる溝部を形成する第1及び第2のテーパ部がそれぞれ前記内壁部に沿って一体に形成され、
前記第1及び第2のテーパ部は、前記溝部が前記絶縁ケースの中心部に向かって開口し且つ前記中心部に向かうに従って広がるように傾斜していることを特徴とする圧電発音器。 - 前記圧電セラミック素子が接合されている前記金属製振動板の面と反対側の面の中央部に前記マス部材が接着されている請求項1,2または3に記載の圧電発音器。
- 前記マス部材は円板形状を有していて、前記金属振動板とほぼ同心的に配置されている請求項4に記載の圧電発音器。
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JPH10126885A JPH10126885A (ja) | 1998-05-15 |
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CN102265646A (zh) * | 2008-12-26 | 2011-11-30 | 松下电工株式会社 | 压电扬声器、使用其的压电音响装置以及带警报器的传感器 |
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