JP3963996B2 - 糖代謝機能診断剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルコース誘導体を有効成分とする糖代謝機能診断剤であって、特に腫瘍疾患における腫瘍部位の糖代謝機能により病態把握を行うのに有用な診断薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒトの活動に必要なエネルギーのうち、特にグルコースは血液からグルコーストランスポーター(以下GLUTと略す)を介して細胞内に取り込まれ、ヘキソキナーゼによってグルコース-6- リン酸となって代謝経路に入りアデノシン三リン酸(ATP )等の高エネルギーリン酸化合物を生成し生体のエネルギーとして用いられる。特に脳組織においてはグルコースは唯一の重要なエネルギーである。脳においては、GLUTの変化は少なくヘキソキナーゼの活性が糖代謝の律速段階であるとされている。そこで、脳におけるグルコース代謝の診断は、脳血液関門の通過およびヘキソキナーゼによる6−リン酸化合物への代謝がグルコースと同様の挙動を示す放射性フルオロデオキシグルコースを用いたポジトロンエミッショントモグラフィー(PET )による診断が行われてきた。
一方腫瘍細胞の如く異常の生じた細胞においても、必要なエネルギーはグルコースから供給され、糖代謝に対する血糖値の影響も大きいことが知られている。しかし、膜輸送およびリン酸化双方の変化がより複雑なため、腫瘍の悪性度の一つの指標である成長速度がヘキソキナーゼ活性と正の相関を示すとの報告が多いにも拘わらず、その病態のFDG による質的診断は困難であるとされてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
2-[F-18]フルオロデオキシグルコース(以下FDG と略す)は、糖代謝系においてグルコースと同様な挙動を示すことはよく知られており、GLUTを介して細胞内に入り、ヘキソキナーゼによってリン酸化される。一方、FDG をアセチル化した1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-2-[F-18] フルオロデオキシグルコース(以下AFDGと略す)はGLUTを介さずに細胞内に取り込まれエステラーゼにより加水分解を受けてFDG となり、GLUTを介して細胞内に取り込まれたFDG と同様にヘキソキナーゼによってリン酸化を受けることが予想されている。これらの挙動を模式的に示すと図8の如く示すことができる。本発明者等は、腫瘍細胞内におけるAFDGとFDG の代謝の挙動を鋭意検討した結果、AFDGがGLUTを介することなく細胞内に取り込まれ、急速にエステラーゼにより加水分解をうけてFDG となり、細胞外のグルコース濃度に関係なくヘキソキナーゼによりリン酸化を受けることからヘキソキナーゼ活性の変化を知ることができることを見出し本発明を完成した。
本発明はGLUTを介することなく細胞内に取り込まれ、直ちにヘキソキナーゼの基質となりグルコースと同様の代謝が行われ、その代謝におけるヘキソキナーゼ活性を指標とした糖代謝機能の診断、特に腫瘍疾患における腫瘍部位の糖代謝機能の病態把握に有用な糖代謝機能診断剤を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記式Iで表されるグルコース誘導体を有効成分とする糖代謝機能診断剤である。
【化2】
(但し、R1 、R2 、R3 、R4 は、水素原子またはアシル基であり、各々同一または異なっていてもよい。アシル基は炭素数2〜8であり、かつR1 、R2 、R3 、R4 のうち少なくとも1は、アシル基である。R5 はXまたはNHCOR6 Xのいずれかを表し、Xはハロゲン原子の放射性同位体から選ばれる一つであり、R6 はアリーレン基または炭素数1〜3のアルキレン基よりなる群から選ばれる一つである。)
本発明の他の態様は、上記グルコース誘導体に対するヘキソキナーゼ活性を指標として、糖代謝機能または腫瘍の病態把握を行う糖代謝機能診断剤としてのグルコース誘導体の使用である。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明によるグルコース誘導体は、GLUTを介さずに細胞内に入りヘキソキナーゼの基質となってグルコースと同様の代謝挙動を示す。その結果生成する代謝物のうち、リン酸化されたグルコース誘導体の量を測定することにより、ヘキソキナーゼの活性を知ることができ、そのヘキソキナーゼ活性を指標として糖代謝機能の把握、さらには腫瘍の悪性度や成長速度、即ち腫瘍の病態を把握することができる。
【0006】
FDG とAFDGの腫瘍細胞LS180 への集積を比較したのが図1である。FDG はほぼ直線的に集積増加するのに対して、AFDGは非直線的に急速に細胞内に集積し、60分後にはFDG に比べて約3倍以上の高い集積を示す。さらにAFDGの細胞内への集積に対する温度の影響を見ると(図2)、60分間インキュベーションしたものにおいて、4 ℃という低温では37℃の場合の約1/4 の集積となり、AFDGの集積には温度依存性があることがわかる。さらに、AFDGの投与量を変化させたときのAFDGの細胞内集積量の変化(図3)によれば、AFDGの腫瘍細胞への集積は、AFDGの投与量の増加に応じて増加している。AFDGのエステラーゼによる加水分解が代謝の律速段階になっているならば、その段階でAFDGの投与量に依存した集積速度の低下が生じるはずであるが、実際にはそのような結果にならず、エステラーゼはAFDGの腫瘍細胞への集積を制限するものではないことは明らかである。
【0007】
AFDGは、細胞外の媒液中では安定であるにも拘わらず細胞内に取込まれると急速にエステラーゼにより加水分解を受けてFDG に変換される。このことは図4に示したAFDGの代謝実験で確認された。AFDGの細胞内への取込み後5分ではその加水分解物であるFDG 及びFDG の代謝物であるFDG の6−リン酸化物(以下FDG-6Pと略す)は殆ど存在しないが、その後にFDG-6Pの集積が時間と共に直線的に増加するのに対して、AFDGとFDG の集積はほぼ横這いを示している。
【0008】
FDG 又はAFDGの腫瘍細胞への集積が、細胞外の媒体中のグルコース濃度の影響を受けるかどうかについて検討した結果が図5である。FDG を投与したとき、媒体中のグルコース濃度を2倍にすると細胞内へのFDG の集積は減少し、同時にFDG-6Pの生成量も減少する。一方AFDGを投与したとき、媒体中のグルコース濃度を2倍にしても細胞内へのFDG (AFDGの加水分解物)の集積およびFDG-6Pの生成には変化が見られない。即ち、AFDGの加水分解により生じたFDG は細胞外の媒体中のグルコース濃度に関係なくヘキソキナーゼによってリン酸化を受ける。
【0009】
AFDG投与量がごく微量(5μCi=10μM )であること、AFDG投与により生じたFDG が細胞内に滞留すること(図4)から、細胞内に取り込まれたAFDGの加水分解速度はAFDG代謝の律速段階ではないことがわかる。FDG の細胞への出入りはGLUTを介して行われるため、細胞内FDG の濃度の方が常に高い状態では、AFDGから生じたFDG の細胞外媒体中への流出はあるが、再び細胞内へ入ってくることはない。これらのことから、AFDGの細胞内集積はヘキソキナーゼ活性に依存して変化すると考えられる。
【0010】
AFDG投与時にはグルコースの集積は阻害されないことから、本実験で用いたAFDG投与量は糖代謝には何ら影響を与えない。投与後60分におけるAFDGのLS180 細胞へ集積はFDG の集積と比較して約3.3 倍高い価を示すこと(図1)、AFDG投与後60分の FDG-6P 生成量は、細胞内の全放射能の約50% 近くを占め、FDG 投与後60分のFDG-6P生成量よりかなり多い(1.63倍)こと(図4、図9)、又グルコース濃度のAFDGの集積に関する影響を検討した実験では、代謝物のFDG-6Pの生成量には全く変化は見られないこと(図5)等から、FDG-6Pの生成量がFDG のリン酸化段階までの取込み経路の違い、即ちGLUTを介するか否かにより異なることが分かる。
【0011】
ヘキソキナーゼの阻害剤であるヨードアセテート(以下IAA と略す)を用いてヘキソキナーゼを阻害し、FDG とAFDGの集積変化を調べた結果(図6)、AFDGの集積は大きく低下し、AFDGの細胞内集積はヘキソキナーゼの活性低下に大きく影響されることがわかった。一方FDG 投与時のFDG の集積も大きく低下したことからわかるように、IAA は、ヘキソキナーゼ活性をGLUTのFDG 取り込み能力以下にまで大きく低下させる。このことはFDG の集積、代謝の過程の律速段階がGLUTによる輸送からヘキソキナーゼ活性に変動したことを示すものである。
【0012】
ミトコンドリア脱共役剤2,4-ジニトロフェノール(以下DNP と略す)は、正常細胞に対して、一過性の細胞内ATP の低下を引き金としてGLUTの細胞膜上への発現を引き起こすことが知られているが、腫瘍細胞においても同様の効果を示すことはまだ確認されていない。そこで、DNP 処理した腫瘍細胞においてサイトカラシンBによるGULTの阻害のあり、なし、それぞれのケースについて[H-3]-3-O-メチルグルコースの輸送を調べた。[H-3]-3-O-メチルグルコースは、細胞内に取り込まれた後、リン酸化等の代謝を受けないD-グルコースの誘導体であり、GLUTの輸送能を調べる実験において好適に用いられる。DNP で処理を行った場合、DNP で処理を行わない場合に比べて、約70% の[H-3]-3-O-メチルグルコースの集積上昇が見られ(表1)、DNP 処理によって細胞膜上に発現するGLUT量が70%増加したと考えられる。この増加量は、正常細胞で報告されている量よりもはるかに少ない。これはもともと腫瘍細胞に発現しているGLUTの量が正常細胞に比してはるかに大きいためである。
このように腫瘍細胞膜上へのGLUTの発現を上昇させた場合、FDG の取込みは約80%上昇したが、AFDGより生成するFDG-6Pは約20%減少した(図7)。このことより、腫瘍細胞においてAFDG由来のFDG は、GLUTの発現量が増加してグルコースの取り込みが活発になる結果集積したグルコースと拮抗し、AFDGより生成するFDG-6Pが減少すると考えられる。
【0013】
以上述べたように、グルコース代謝の律速段階は、その細胞におけるGLUT発現量とヘキソキナーゼ活性のいずれかに依存し、細胞の病態によってGLUTによる輸送段階とヘキソキナーゼによる代謝の段階との間で変動することが明らかになった。即ち、腫瘍においてはFDG の投与時のFDG の集積量はヘキソキナーゼによるリン酸化能力そのものを反映せず、GLUTによる取込みによって制限を受け、GLUTによるFDG の輸送が解糖系の律速段階と考えられる。これらの検討から、FDG はGLUTを介して細胞内に取り込まれ、ヘキソキナーゼによりFDG-6Pに代謝されるのに対して、AFDGはGLUTを介さずに単純拡散によって取込まれ、ヘキソキナーゼ活性に依存してFDG-6Pに代謝されると考えられる。即ち、AFDGは次のような細胞内集積メカニズムを有すると考えられる。
i ) 細胞内には単純拡散により取り込まれ、GLUTを介さない。
ii) 細胞内に取り込まれたAFDGのアセチル基は急速に加水分解されFDG を生ずるが、その速度はFDG のリン酸化速度よりも高い。
iii )生じたFDG はヘキソキナーゼによりリン酸化を受ける。
iv) 60分後には、細胞内に存在するAFDG、FDG 、FDG-6Pのうちの約50%が最終代謝物であるFDG-6Pである。
【0014】
このようにAFDGはGLUTの発現量とは関係なく、細胞内に取込まれて急速にFDG に加水分解され、ヘキソキナーゼの基質となりヘキソキナーゼによるリン酸化過程を律速段階とした糖代謝が行われる。したがってAFDGは、糖代謝の律速段階がGLUTによる輸送とヘキソキナーゼによるリン酸化との間で変動するような複雑な病態においてもGLUTの影響を受けないので、PET を用いたヒトの腫瘍病態把握に極めて有効な診断剤として利用しうることが明らかとなった。
【0015】
本発明において用いられるグルコース誘導体は、GLUTの発現量とは関係なく細胞内に取り込まれるものが用いられる。式IにおいてR1 、R2 、R3 、R4 は水素またはアシル基でそのうち少なくとも一つはアシル基である。アシル基としてはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基等が挙げられ、アセチル基は最も好適に用いられる。ハロゲン原子の放射性同位体としてはフッ素、臭素、ヨウ素の放射性同位体が好適で、中でもフッ素の放射性同位体が好ましい。ハロゲン原子の放射性同位体は2位の位置に直接標識してよいが、グルコース誘導体の一つであるグルコサミンにアミド結合を介して付加してもよい。即ち、R5 として−NHCOR6 Xを用いることができる。R6 としては、アルキレン基またはアリーレン基が用いられ、アルキレン基としてメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、アリーレン基としてはフェニレン基が挙げられる。R6 がフェニレン基の場合、ハロゲン原子Xはアミド結合に対してオルソ、メタ、パラのいずれの位置に結合してもよいが、好ましくはメタ又はパラ位である。
【0016】
具体的には、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-2- フルオロデオキシグルコース、1,3,4-トリ-O- アセチル-2- フルオロデオキシグルコース、1,3,4-トリ-O- アセチル-6-O- ブチリル-2- フルオロデオキシグルコース、6-O-アセチル-2- フルオロデオキシグルコース、1,3-ジ-O- アセチル-6-O- ブチリル-2- フルオロデオキシグルコース、1-O-ベンゾイル-2- フルオロデオキシグルコース、3,4,6-トリ-O- アセチル-2- フルオロデオキシグルコース、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (フルオロベンゾイル)- グルコサミン、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (フルオロアセチル)- グルコサミン、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (フルオロブチリル)- グルコサミン、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-2- ブロモデオキシグルコース、1,3,4-トリ-O- アセチル-2- ブロモデオキシグルコース、1,3,4-トリ-O- アセチル-6-O- ブチリル-2- ブロモデオキシグルコース、6-O-アセチル-2- ブロモデオキシグルコース、1,3-ジ-O- アセチル-6-O- ブチリル-2- ブロモデオキシグルコース、1-O-ベンゾイル-2- ブロモデオキシグルコース、3,4,6-トリ-O- アセチル-2- ブロモデオキシグルコース、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (ブロモベンゾイル)- グルコサミン、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (ブロモアセチル)- グルコサミン、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (ブロモブチリル)- グルコサミン、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-2- ヨードデオキシグルコース、1,3,4-トリ-O- アセチル-2- ヨードデオキシグルコース、1,3,4-トリ-O- アセチル-6-O- ブチリル-2- ヨードデオキシグルコース、6-O-アセチル-2- ヨードデオキシグルコース、1,3-ジ-O- アセチル-6-O- ブチリル-2- ヨードデオキシグルコース、1-O-ベンゾイル-2- ヨードデオキシグルコース、3,4,6-トリ-O- アセチル-2- ヨードデオキシグルコース、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (ヨードベンゾイル)- グルコサミン、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (ヨードアセチル)- グルコサミン、1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-N- (ヨードブチリル)- グルコサミン等及びその他のハロゲン放射性同位体置換化合物が挙げられる。中でも1,3,4,6-テトラ-O- アセチル-[F-18] フルオロデオキシグルコースが好ましい。
【0017】
本発明によるグルコース誘導体は、薬学的に許容される添加物と混合することにより診断剤に調製することができる。かかる添加物としては、薬学的に許容されるアスコルビン酸、P-アミノ安息香酸等の安定化剤、塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤、リン酸緩衝液等の適当な緩衝剤、生理食塩水等の等張剤等があげられる。
本発明による糖代謝診断剤は、ボーラス投与による静脈注射等の一般的に用いられる非経口投与手段により投与することができ、その投与量は患者の体重、年齢、性別その他放射線イメージング装置等の諸条件を考慮して決定される。ヒトを対象とする場合、37MBq 〜555MBqであり、好ましくは111MBq〜370MBqである。
【0018】
【実施例】
以下に本発明について、実施例によりさらに具体的に説明する。また、実施例に用いたFDG 、AFDGの合成、分析方法および腫瘍細胞の培養方法を参考例に示す。また、GLUTの細胞膜上への発現を引き起こすDNP の腫瘍細胞への影響を検討した実験の結果も参考例に示す。
【0019】
(参考例1) FDG 、AFDGの合成
FDG 、AFDGの合成はFDG 自動合成装置(NKK 社製)を用いて、Hamacherらによって報告されている方法で行った(J. Nucl. Med. 27, 235-238, 1986 )。医療用小型サイクロトロン(NKK 社製)を用いて、[O-18]H2O より18O (p,n )18F 反応によりF-18イオンを得て、26mgのアミノポリエーテルカリウム錯体(Kriptofix2.2.2)を含有するアセトニトリル溶液を加え、反応容器にて混ぜ合わせた。その混合液を蒸発乾固し、20mgの1,3,4,6-テトラアセチル-2-O- トリフルオロメタンスルフォニル- β-D- マンノピラノース(トリフレート)にアセトニトリル溶液を加え、5 分間置換反応を行った。反応終了時、水を加え、その溶液をSep-pakC18カラムに通すことにより反応物を精製した。Sep-pakC18カラムよりアセトニトリルで抽出した反応物を含む溶液を2回蒸発乾固させ、AFDGの合成には蒸発乾固した反応物に2ml のジメチルスルホオキシド(DMSO)を加え合成を終了した。FDG の合成には蒸発乾固した反応物に3mlの2N塩酸を加え、130 ℃で5分間加水分解反応を行った。さらに、イオン遅滞樹脂カラムを通し、蒸発乾固により溶媒を水に替えてFDG の合成を終了した。
【0020】
(参考例2) FDG 、AFDGの分析
FDG 、AFDGは炭水化物分析用カラム(WATERS, 3.9 ×300mm , アセトニトリル/水=95/5、流速2ml/min )を用いたラジオ高速液体クロマトグラフィーにより、放射性純度を確認した。FDG 、AFDGはおよそ、流量4.1ml および2.5ml にピークが検出された。
【0021】
(参考例3) 腫瘍細胞の培養方法
細胞培養ヒト大腸ガン細胞LS180 を、10%牛胎児血清を含むRPMI1640(GIBCO-BRL )により10cmシャーレを用いて細胞培養を行って用いた。
【0022】
(参考例4)3-OMG の取込速度におけるDNP の影響の検討
[H-3] -3-O- メチルグルコース(3-OMG )の非特異的結合を除いた細胞内取込を調べるために通常サイトカラシンBが用いられる。106 個のLS180 細胞を24穴プレートにて200 μMDNPを含む培養液でインキュベートした後、その培養液をそれぞれ、5μCi3-OMG 、200 μMDNPを含み、 さらに50μM サイトカラシンBを加えた培養液および、サイトカラシンBを加えない培養液に変え、60秒間インキュベートした。その後、直ちに培養液を除き、0.1mM フロレチンを含む冷PBS で3 回洗浄後、0.2NNaOH溶液500 μl で細胞を溶解した。溶解後200 μl は、タンパク定量に用い、残りの300 μl をシンチレーターと混合し、液体シンチレーションカウンター(LSC5000 、アロカ社製)にて、放射能を測定した。サイトカラシンBによって阻害を受けうる3-OMG の取込量は、サイトカラシンB非存在下の、3-OMG 取込のプレート10穴の平均の差から積算した。実験結果を表1に示す。腫瘍細胞においてもDNP 処理によりGLUTの発現量は増加し、その増加率はDNP 処理を行わないときに対して1.7 倍であった。
【0023】
【表1】
【0024】
(実施例1) 腫瘍細胞LS180 におけるFDG およびAFDG集積の検討
実験1:
LS180細胞をトリプシンによりシャーレよりはがし、20×104cells/ml の濃度で24穴プレートに蒔き、24時間後に取込み実験を行った。FDG 、AFDGをそれぞれ5μCi投与し、それぞれ2、5、10、30、60分間インキュベートした。インキュベート後、培養液を取り除き、リン酸緩衝生理食塩液(PBS )にて2回洗浄後、500 μl の0.2NNaOH溶液で細胞を溶解した。溶解後の放射能をオートウエルガンマーカウンター(ARC -2000 、アロカ社製)にて測定した。結果を図1に示す。 FDG がほぼ直線的に集積増加するのに対して、AFDGは非直線的に急速に細胞内に集積し、60分後にはFDG に比して約3 倍以上の高い集積を示した。
【0025】
実験2:
AFDGの細胞内集積の温度依存性を検討するために、実験1とは別の取込み実験を行った。細胞を1 ×106cells/ml の濃度で培養液に懸濁させ、1ml ごとに分けて、15分間4 ℃および37℃でインキュベートした。その後、5μCiのAFDGを加え、それぞれ2、5、10、30、60分間インキュベートした。各々の時間に細胞を遠心分離器によりぺレットにし、冷PBS にて洗浄した。2回洗浄した後、ぺレットを0.2NNaOH溶液で溶解し、溶解後の放射能を測定した。結果を図2に示す。
投与後60分におけるAFDGの集積は4 ℃の場合でも、37℃の場合の約1/4 程度みられた。このことから、AFDGの細胞内への集積は温度依存性があることが示唆された。
【0026】
実験3:
同様にして培養液へのAFDGの投与量を変化させたときのAFDGの細胞内集積量に対する影響を調べた。結果を図3に示す。AFDGの腫瘍細胞への集積はAFDGの投与量の増加に応じて増加している。この結果より、AFDGの代謝の律速段階がエステラーゼによる加水分解ではないことが明らかとなった。
【0027】
(実施例2) LS180 細胞中におけるAFDGの代謝の検討
実験1の実験を行った後、細胞を100 μl の50%エタノール溶液を用いてプレートからはがし、溶解液を15000 回転で遠心分離した。その上清の25μl を用いて薄層クロマトグラフィー(TLC )により代謝物分析を行った。展開溶媒としてアセトニトリル/水=95/5、担体としてシリカゲル60を用いた。展開後のプレートを5mm幅で切り、ガンマーカウンターで放射能を測定した。各々の代謝物の全体の放射能はTLC により得られた代謝物の割合により換算した。実験結果のうちAFDGの代謝について図4に示す。
AFDG投与後5 分では、AFDGの加水分解物であるFDG 及びFDG の代謝物であるFDG-6Pは細胞内に殆ど存在しない。その後、時間経過と共にFDG-6Pの集積が直線的に増加するのに対して、AFDGとFDG の集積は横這いを示している。これは、AFDGからFDG への代謝が速やかであるのに対し、FDG からFDG-6Pへの代謝が緩やかであるためである。
また、AFDG、FDG 投与後60分の代謝の様子を比較するため、同様にして実験をおこなった。結果を図9に示す。
投与後60分において、AFDGはFDG の約3倍の集積があり、AFDGから生成したFDG-6Pも、FDG から生成したFDG-6Pよりかなり多い(1.63 倍) 。このことから、AFDGとFDG では細胞内への取り込みの経路や、代謝の律速段階が異なることがわかる。
【0028】
(実施例3) LS180 細胞へのFDG 、AFDGの集積および代謝に対する細胞外グルコース濃度の影響の検討
FDG 、AFDGの細胞内集積における培養液中のグルコース濃度の影響を調べるため、11.2mMおよび22.4mMの2種類のグルコース濃度の異なる培養液を調製した。細胞をそれぞれ11.2mMおよび22.4mMのグルコース濃度の培養液中で、5μCiのFDG 、AFDGを60分間インキュベートした。その後細胞を冷PBS で3回洗浄後、50%エタノールで溶解し、代謝物分析を行った。
図5に示した実験結果より、FDG の細胞への集積とFDG-6Pへの代謝は、培養液中のグルコース濃度の影響によって減少するのに対し、AFDGはほとんどグルコース濃度の影響を受けないことがわかる。このことはAFDGの加水分解により生じたFDG は細胞外のグルコース濃度に関係なくFDG-6Pに代謝されることを示している。
【0029】
(実施例4) FDG 、AFDGの集積および代謝物に対するヘキソキナーゼ活性の影響の検討
細胞を5 μM IAA 又は200 μM DNP となるように培養液に投与し、同時に5μCiのFDG 又はAFDGをそれぞれ投与し、37℃でインキュベートした。その後細胞を冷PBS で3回洗浄後、50%エタノールで溶解し、代謝物分析を行った。実験結果を図6および図7に示す。
IAA の存在下ではFDG 、AFDGともに細胞への集積量が著しく低下し、FDG 、AFDGの代謝がヘキソキナーゼによるリン酸化の過程に律速段階があることがわかる。一方、DNP の存在下では、FDG の集積量は上昇したが、AFDGの集積量は低下した。これはFDG がGLUTを介して細胞内に取り込まれるのに対し、AFDGはGLUTを介さないこと、及びGLUTの発現増加により大量に取り込まれたグルコースとAFDGの加水分解物であるFDG が拮抗して、AFDGより生成するFDG-6Pは減少すると考えられる。
【0030】
【発明の効果】
グルコース或いはFDG は、GLUTを介して細胞内に取り込まれ代謝を受けるため、病態により代謝の律速段階がGLUTによる輸送又はヘキソキナーゼによるリン酸化のいずれかの段階に変動し、病態を示すヘキソキナーゼ活性の把握が困難であったが、本発明におけるグルコース誘導体はGLUTを介さずに細胞内に取り込まれ、ヘキソキナーゼにより代謝を受けるために、PET を用いた病態把握に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】FDG およびAFDGのLS180 細胞への集積の時間経緯を示す図。
【図2】AFDGのLS180 細胞への集積の時間経緯に対する温度の影響を示す図。
【図3】LS180 細胞へのAFDGの集積に対するAFDG投与量の影響を示す図。
【図4】LS180 細胞中でのAFDG代謝物の分析結果と時間経過を示す図。
【図5】LS180 細胞へのFDG 、AFDGの集積および代謝に対する媒体液中のグルコース濃度の影響を示す図。
【図6】LS180 細胞へのFDG 、AFDGの集積および代謝に対するIAA の影響を示す図。
【図7】LS180 細胞へのFDG 、AFDGの集積および代謝に対するDNP の影響を示す図。
【図8】FDG とAFDGの細胞内への取り込みとその後の代謝挙動を示した図。
【図9】LS180 細胞中でのFDG およびAFDG代謝物の分析結果(投与から60分後)を示す図。
Claims (6)
- 前記R5 がフッ素、臭素、ヨウ素の放射性同位体からなる群より選ばれる一つであるグルコース誘導体を有効成分とする請求項1記載の糖代謝機能診断剤。
- 1,3,4,6- テトラ -O- アセチル -2-[F-18] フルオロデオキシグルコースを有効成分とし、該グルコース誘導体に対するヘキソキナーゼ活性を指標とする糖代謝機能診断剤。
- 請求項1記載のグルコース誘導体を有効成分とし、該グルコース誘導体に対するヘキソキナーゼ活性を指標として腫瘍病態把握を行う糖代謝機能診断剤。
- 請求項2記載のグルコース誘導体を有効成分とし、該グルコース誘導体に対するヘキソキナーゼ活性を指標として腫瘍病態把握を行う糖代謝機能診断剤。
- 1,3,4,6- テトラ -O- アセチル -2-[F-18] フルオロデオキシグルコースを有効成分とし、該グルコース誘導体に対するヘキソキナーゼ活性を指標として腫瘍病態把握を行う糖代謝機能診断剤。
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