JP3957261B2 - Ni基耐熱超合金用の溶加材及びNi基耐熱超合金の溶融溶接方法 - Google Patents
Ni基耐熱超合金用の溶加材及びNi基耐熱超合金の溶融溶接方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、Ni基耐熱超合金用の溶加材及びNi基耐熱超合金の溶融溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Ni基耐熱超合金は、耐食性、耐熱性および機械的性質において優れ、各種ジェットエンジンの部品やガスタービンブレード等の高温機器に用いられ、近年では特に需要が多くなっている。そして、一般にNi基耐熱超合金は固溶強化型合金と析出強化型合金とに大別される。
【0003】
固溶強化型合金は、Co、Cr、Mo、W、Al等の元素を固溶強化元素として多量に添加され、容体化処理状態で得られる添加元素による固溶強化を主な強化機構とする合金である。これらの元素のうちCrはCr2O3の緻密な保護皮膜を作り、Alは高温でAl2O3を生成することによって耐酸化性を向上させ、大気中で高温に耐え得るNi基耐熱超合金の特性を担っている。
【0004】
一方、析出強化型合金はNi基耐熱超合金の大半を占め、時効処理を施すことによってγ相(Ni固溶体)中にγ’相が微細に析出し、その結果、強化されるものである。Ni基耐熱超合金において最も典型的なγ’相はNi3Alである。Ni3Alは立方体の面心にNiが位置し、各頂点にAlが位置する面心立方構造を有している。このために、同様の結晶構造を有するマトリックスと整合関係を生じ、強化させる作用がある。このγ’相は従来ではその析出率が大きいほど高温強度に優れていると考えられていたが、近年では、γ’相体積率が65%程度で最大のクリープ強度が得られることが判明した。一方、Ti、Nbが多量に添加された場合には、Ni3AlのAlと置換することが知られている。また、γ’相は高温下では凝集粗大化するために転移の移動が容易となり、合金の強度を低下させる。しかし、この粗大化はCo、Mo、W等の添加により著しく遅らせることができ、この強度の低下を防止することができる。また、このNi3Alは温度が高くなるにしたがって強度が上昇するといった特異な性質を持つことがわかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、Ni基耐熱超合金は現時点で耐熱超合金中最も優秀な耐熱性を持ち、かつより優れた特性の可能性を秘めた発展途上にある材料といえる。しかしながら、高強度を得るために析出強化元素の添加量を増すと鍛造性が低下し、Al+Ti含有量が大きいNi基合金はそのほとんどが鋳造合金の状態で使用されている。また、析出強化元素の添加量に伴い溶接性の低下が生じ、例えばAl+Ti含有量が6%を超えるものは溶接割れが発生しやすく、溶融溶接が極めて困難であることが実用上での大きな問題となっている。
【0006】
Ni基耐熱超合金における溶接性の問題として溶接時の高温割れがあげられる。高温割れの代表的なものに、溶融金属の凝縮過程で発生する凝固割れと溶接熱影響部での発生する液化割れがある。凝固割れの発生機構は、一般には次のように考えられている。凝固過程の初期には固相が液相中に分散しており、互いに自由に移動が可能であるため、この段階では歪が付加されたことにより生じる開口部は液相の移動で補填され、割れは発生しない。そして、凝固が進行すると、一部の固相間で連携が生じるようになるが、依然として液相の位置移動が可能な段階であり、歪による開口部が発生しても液相がその割れに充填されるいわゆるヒーリングと呼ばれる現象により割れは発生しない。次に、凝固の最終段階になると固相間の連携が進み、液相が孤立分離した状態になる。この状態において歪が付加されることによって固液共存部において亀裂が発生すると、もはや融液が充填されることなく、凝固割れとなる。凝固の最終過程での融液の存在領域が微小であるほどその部分に歪が集中し、割れが発生しやすいと考えらえる。このため、凝固割れ感受性においては残留融液の凝固温度とマトリックスの凝固温度との関係が大きく影響すると考えている。すなわち、最終残留融液の凝固温度とマトリックスのそれとの差が大きいほど割れが発生しやすなるといえる。
【0007】
一方、溶接熱影響部(HAZ)に発生する液化割れは、固相線温度(Ts)以下の高温に加熱させた粒界において低融点化合物あるいは共晶の生成反応、成分偏析などにより局部的に溶解し、その融液により粒界が液化した部分において収縮歪が作用するために開口し発生するとされている。Ni基耐熱超合金における液化割れの原因として、代表的な市販材であるHastelloy XではM6Cが、Inconel625ではNbCが、WaspaloyではTiCが結晶粒界上に存在することに起因した局部溶融によるものであると思われる。
【0008】
また、析出強化型合金においては、γ相とγ’相の共晶が液化割れの原因である。さらに、結晶粒径が大きくなると、単位体積あたりの粒界面積が減少する結果、液膜に覆われる粒界面積が増加し割れ感受性が増大する。このように、液化割れは、合金の組成や偏析の状況、結晶粒径など、その要因が複雑である。
【0009】
ところで、溶加材を用いるアーク溶接法等では、適切な組成の溶加材を用いることにより溶接金属中の凝固割れを低減することができ、しかも、作業の簡便性とそれに伴う製造コスト削減を図ることが可能となると予想される。しかしながら、析出強化型Ni基耐熱超合金は、凝固割れ感受性が非常に大きいため、母材と同じ成分系の材料を溶接材料(溶加材)に使用できないという欠点がある。このため、現状では、高温強度を犠牲にして溶接性が良い溶接材料の使用により溶接金属に発生する凝固割れを防止している。この場合、高温環境において溶接金属の強度が低く母材の特性を発揮させることができなかった。
【0010】
この発明は、上記従来の欠点を解決するためになされたものであって、その一の目的は、高温強度を確保しつつ高温割れ感受性を低減することが可能なNi基耐熱超合金用の共金系溶加材を提供することにあり、他の目的は、凝固割れ感受性が小さくしかも高温強度に優れた溶接部を形成することができるNi基耐熱超合金の溶融溶接方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
そこで請求項1の析出硬化型のNi基耐熱超合金用の溶加材は、重量比率で、少なくともCを、0.13%を超えて0.30%以下、Crを、15.7%以上で16.3%以下、Coを、8.00%以上で9.00%以下、Taを、1.50%以上で2.00%以下、MoとWの少なくともいずれかを、1.5%以上で5.0%以下、Tiを、3.20%以上で3.70%以下、Alを、1.70%以上で3.20%未満を含有し、残部がNiからなることを特徴としている。
【0012】
上記請求項1のNi基耐熱超合金用の溶加材では、被溶接材、例えばInconel738LC材と比較して、C量を多くしている。つまりCを0.13%を超えて添加させることにより結晶粒界及び樹枝状晶境界においてTi炭化物とγ相との共晶量が増加し、これに伴いγ相とγ’相の共晶相を低減させることができ、結果として凝固脆性温度領域が減少することにより凝固割れ感受性が抑制可能となるのである。一方、0.30%を超えて添加すると延性を阻害するのでその含有量を0.13〜0.30%とした。また、Alが1.70%以上で3.20%未満であるというように、被溶接材、例えばInconel738LC材と比較して、Al量を少なくしているので、凝固割れ感受性を低下させることができる。Crは耐酸化性及び耐蝕性向上に効果がある。この効果は15.7%未満では十分でなく、16.3%を超えると他に添加したCo、Mo、W、Ta等とのバランスが崩れ有害相が析出するおそれがある。よってCr含有量は15.7〜16.3%とした。Coはγ’形成成元素であるAl、Ti等を高温環境下で素地に固溶させる限度(固溶限)を大きくさせる作用がある。この作用は8.0%以上で効果が発揮され、9.0%を超えるとCr、Mo、W、Ta、Al、Ti等の他の元素とのバランスが崩れ、有害相の析出による延性低下が生じることから、Co含有量は8.0〜9.0%とした。Taは固溶強化及びγ’相析出強化により高温強度の向上に寄与し、1.5%以上で効果がある。しかし、2.0%を超えて添加すると延性低下が生じるため、Taの含有量は1.5〜2.0%とした。Mo及びWは素地中に固溶して高温強度を上昇させる作用があると同時に、析出強化によって高温強度に寄与する効果があるが、その含有量が1.5%未満では不充分であり、5.0%を超えて添加すると有害相の析出による延性低下が生じるため、Mo+Wの含有量は1.5〜5.0%とした。
【0013】
請求項2の析出硬化型のNi基耐熱超合金用の溶加材は、重量比率で、少なくともCを、0.13%を超えて0.30%以下、Crを、15.7%以上で16.3%以下、Coを、8.00%以上で9.00%以下、Taを、1.50%以上で2.00%以下、MoとWの少なくともいずれかを、1.5%以上で5.0%以下、Tiを、1.70%以上で3.20%未満、Alを、3.20%以上で3.70%以下を含有し、残部がNiからなることを特徴としている。
【0014】
上記請求項2のNi基耐熱超合金用の溶加材では、上記請求項1のNi基耐熱超合金と同様に、被溶接材、例えばInconel738LC材と比較して、C量を多くしているので、凝固割れ感受性が抑制される。また、Tiが1.70%以上3.20%未満であるというように、被溶接材、例えばInconel738LC材と比較して、Ti量を少なくしているので、凝固割れ感受性を低下させることができる。
【0015】
請求項3の析出硬化型のNi基耐熱超合金用の溶加材は、重量比率で、少なくともCを、0.13%を超えて0.30%以下、Crを、15.7%以上で16.3%以下、Coを、8.00%以上で9.00%以下、Taを、1.50%以上で2.00%以下、MoとWの少なくともいずれかを、1.5%以上で5.0%以下、Tiを、1.70%以上で3.20%未満、Alを、1.70%以上で3.20%未満を含有し、残部がNiからなることを特徴としている。
【0016】
上記請求項3のNi基耐熱超合金用の溶加材では、上記請求項1のNi基耐熱超合金用の溶加材と同様に、被溶接材、例えばInconel738LC材と比較して、C量を多くしているので、凝固割れ感受性が抑制される。また、Tiが1.70%以上3.20%未満であり、Alが1.70%以上3.20%未満であるのというように、被溶接材、例えばInconel738LC材と比較して、Ti及びAl量を少なくしているので、凝固割れ感受性を低下させることができる。
【0017】
請求項4のNi基耐熱超合金用の溶加材は、さらに、Zrを、0.03%以上で0.08%以下、Bを、0.007%以上で0.012%以下を含むことを特徴としている。
【0018】
上記請求項4のNi基耐熱超合金用の溶加材では、Zr、Bが粒界強化元素であるので、粒界強化を達成することができる。Zrは結晶粒界における結合力増加による素地の強化に寄与し、高温強度を上昇させる。この作用は0.03%以上で効果を発揮する。しかし0.08%を超えて添加すると延性が阻害される恐れがあるため、Zrの添加量は0.03〜0.08%とした。BはZrと同様に結晶粒界における結合力増加による素地の強化に寄与し、高温強度を上昇させる。この作用は0.007%以上で効果を発揮する。しかし0.012%を超えて添加すると延性を阻害する恐れがあるため、Bの含有量は0.007〜0.012%とした。
【0021】
請求項5の析出硬化型のNi基耐熱超合金の溶融溶接方法は、請求項1〜請求項4のいずれかのNi基耐熱超合金用の溶加材を用いることを特徴としている。
【0022】
上記請求項5の析出硬化型のNi基耐熱超合金の溶融溶接方法では、Cの含有量の増加に伴いγ相とγ’相の共晶相が減少し、凝固脆性温度領域が減少することによって、溶接部における凝固割れ感受性が抑制される。また、TiやAlの含有量減少させることによって、溶接部の凝固割れ感受性を低下させることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
この発明のNi基耐熱超合金用の溶加材の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1はこの発明に係るNi基耐熱超合金からなる溶加材1を使用したNi基耐熱超合金の溶融溶接方法を示す簡略図である。すなわち、この溶接方法は、例えば、ティグ溶接法であり、ガスノズル2から噴出される不活性ガス(例えば、アルゴンガス)雰囲気中で電極3(例えば、タングステン電極)と母材4間にアークを発生させて、母材4と溶加材1とを溶融させる溶接方法である。
【0024】
この場合、母材4としては、例えば、Inconel738LC材を使用する。このInconel738LC材は、表1に示す化学組成からなる。そして、溶加材1としては、Inconel738LC材をベースとした共金系溶加材を用いる。なお、以下の記述における成分含有量は、全て重量比率%で示している。
【0025】
【表1】
【0026】
ところで、Ni基耐熱超合金において、Ti、Alの含有量を増加させれば、その高温強度が増加するが、γ相とγ’相の共晶相が多く存在することになって、高温割れが発生し易くなる。また、Cの含有量(添加量)を増加させれば、デンドライト境界上においてTi炭化物とγ相の共晶相の晶出量が増加し、これに伴い、γ相とγ’相の共晶相を低減させることができる。このため、Cの含有量の増加を増加させれば、Tiの炭化物の共晶が増加するものの、γ相とγ’相の共晶相が減少し、凝固脆性温度領域が減少することになって凝固割れ感受性が抑制されることになる。このように、溶加材1の化学組成としては、高温強度、高温延性、凝固割れ感受性等の評価を考慮して決定する必要がある。
【0027】
そのため、この実施の形態では、溶加材1として、Inconel738LC材をベースとした共金系溶加材を用いる場合において、C、Ti、及びAlの成分含有量を調整している。すなわちCを母材4よりも多く含有させると共に、Ti及びAlを母材4よりも少なく含有させたものを使用する。具体的に言えば、重量比率で、Cが0.13%を超えて0.30%以下であり、さらに、Tiが1.70%以上3.20%未満であり、また、Alが1.70%以上3.20%未満であるように設定した。この場合、TiとAlとは、少なくとも一方が上記含有量であればよい。すなわち、Tiが1.70%以上3.20%未満であれば、Alが1.70%以上3.20%未満でなくてもよく、逆に、Alが1.70%以上3.20%未満であれば、Tiが1.70%以上3.20%未満でなくてもよく、さらに、Tiが1.70%以上3.20%未満であると共に、Alが1.70%以上3.20%未満であるようにしてもよい。
【0028】
Cの含有量を上記のように定めたのは、Cが0.13%未満であれば、表1のNi基耐熱超合金(Inconel738LC材)と同様に、凝固脆性温度領域が大きいので、凝固割れ感受性が低減されず、逆に、Cが0.30%を超えれば、炭化物がより多く析出され、延性が低下するからである。また、Ti及びAlの含有量を上記のように定めたのは、Tiが1.70%よりも少ない場合やAlが1.70%よりも少ない場合には、充分な高温強度が得られず、逆に、Tiが3.20%以上の場合やAlが3.20%以上の場合には、表1のNi基耐熱超合金と同様に、高温割れ感受性が高くなるからである。
【0029】
また、この溶加材1には、表1のNi基耐熱超合金と同様に、重量割合で、Crを15.7〜16.3%、Moを1.50〜2.00%、Coを8.00〜9.00%、Wを2.40〜2.80%づつ含ませたり、Taを1.50〜2.00%、Zrを0.03〜0.08%、Bを0.007〜0.012%づつ含ませたりしている。これは、Cr、Mo、Co、Wは、固溶強化元素であるので、固溶強化を達成して高温強度の向上を図れるからであり、Ta、Zr、Bが粒界強化元素であり、粒界強化を達成することができるからである。なお、MoとWとの性質は似ているため、Mo+Wを1.5〜5.0%としてもよい。
【0030】
上記のような化学成分を有する溶加材1を用いて、溶接を行えば、凝固割れの発生を抑制しつつ、高温環境において溶接金属の強度の低下を招かず、母材4はその特性(耐食性、耐熱性等)を充分に発揮することができる。そのためInconel625材のような高温強度が低い溶接材料を用いた場合と比較して、高温強度が向上することから、溶接部の信頼性の向上につながる。このため、従来では、溶接部の補修作業を頻繁に行っていたが、この補修作業の回数を大幅に減少させることができ、コストの低減に寄与する。
【0031】
以上にこの発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、Si、Mn、P、S、Cu、F等を含有していてもよい。この場合、Siが0.3%以下、Mnが0.2%以下、Pが0.01%以下、Sが0.01%以下、Cuが0.10%以下、Feが0.50%以下の含有量とするのが好ましい。また、溶接方法としては、ティグ溶接法に限るものではなく、レーザ溶接等の他の溶融溶接法であってもよい。
【0032】
【実施例】
次に、表2に示す化学成分の試料を製造し、引張試験(試験温度:850°C)及びトランスバレストレイン試験を行った。なお、試験に際しては、簡略化のため、各種材料を溶加材として使用するのではなく、母材として使用している。表2において、従来例は上記表1の化学成分を有するInconel738LC材そのものであり、比較例1〜比較例3はCの含有量をInconel738LC材と同程度にしたものであり、比較例4はAl、Tiの含有量をInconel738LC材と同程度にしたものである。また、比較例1〜比較例4及び実施例1〜実施例6は、従来例と同様に、Crを15.7〜16.3%、Moを1.50〜2.00%、Coを8.00〜9.00%、Wを2.40〜2.80%、Taを1.50〜2.00%、Zrを0.03〜0.08%、Bを0.007〜0.012%の範囲内で含有させている。さらに、Siが0.3%以下、Mnが0.2%以下、Pが0.01%以下、Sが0.01%以下、Cuが0.10%以下、Feが0.50%以下の含有量でもって残在している。
【0033】
【表2】
【0034】
また、トランスバレストレイン試験とは、図2に示すような試験片9を形成し、この試験片9を図3に示す試験装置6にて引張歪みを付加して、溶接金属に高温割れを発生させるものである。すなわち、試験片9は、長辺長さXを100mmとし、短辺長さYを50mmとし、厚さtを5mmとした板状体であり、その中央部にティグアークによるビードオンプレート溶接を行い、中心線Lに沿って溶接部15(長さを約45mmとし、幅を約10mmとする)を形成する。また、試験装置6は、試験片9を載置するブロック体7と、試験片9の端部に荷重を付加するヨーク8、8とを備える。この場合、図2に示すように、ブロック体7はその短辺長さX1を30mmとし、その長辺長さY1を110mmとしている。なお、セットする場合には、平面視において、試験片9がブロック体7上に載置された際に、中心点が一致すると共に、試験片9とブロック体7とが相互に直交するよう配置する。このため、試験片9は、その短辺10、10がブロック体7の長辺11、11から突出し、その突出量Aは35mmとされる。そして、次の表3は溶接条件を示している。なお、図2において、矢印は溶接方向を示している。
【0035】
【表3】
【0036】
この場合、ヨーク8、8による荷重付加は、アークの消弧と同時に試験片9両端のヨーク8、8を落下させることによって行う。つまり、試験片9上面に引張り歪みを付与し、溶接部15に高温割れを発生させるものであり、ヨーク8、8の落下によって、このヨーク8、8に設けたスイッチによりアークが自動的に消弧するように設定した。また、付加歪み量は0.4%を採用した。そして、試験終了後、光学顕微鏡を用いて割れを観察し、最大割れ長さ、総割れ長さによる割れ感受性を定量評価した。その結果を上記表2に示している。最大割れ長さとは、発生した割れの各試験片9毎の最大のものであり、総割れ長さとは、発生した割れの各試験片9毎の合計の長さである。
【0037】
この結果を検討してみると、従来例及び比較例1〜3はいずれもC量の少ないものであるが、これらはいずれも高温強度は高いものの、総割れ長さが著しく長くなっており、凝固割れ感受性の高いことが明らかである。C量が少ない場合、Al量を減少させても(比較例1)、Ti量を減少させても(比較例2)、さらに両者を減少させても(比較例3)、凝固割れ感受性の改善はみられない。またC量が多くても、Al及びTi量が多い場合には(比較例4)、凝固割れ感受性の改善はみられない。これに対して実施例1〜実施例6は最大割れ長さ及び総割れ長さを従来例に比べて充分低く抑えることができ、高温割れ感受性が低減していることがわかる。引張試験と最大割れ長さ評価と総割れ長さ評価とを考慮すれば、特に、実施例1、2、5が優れていることがわかる。また、比較例1及び比較例4は最大割れ長さ及び総割れ長さの両者がいずれの実施例よりも劣っている。なお、実施例6から明らかなように、Ti及びAl量が少なくなると、高温強度の低下を招くことになるため、Ti及びAl量は、1.70%以上は必要である。このように、Cが0.13%を超えて0.30%以下の範囲に設定されると共に、Tiが1.70%以上3.20%未満の範囲、またはAlが1.70%以上3.20%未満の範囲であるように成分設定することによって、高温強度を確保しつつ高温割れ感受性を低減することができることとなる。なお、これらの結果から、Cが0.27%程度、Alが2.8〜3.0%程度、Tiが2.0%程度の含有量とするのが特に好ましいことがわかる。
【0038】
【発明の効果】
請求項1〜請求項3のNi基耐熱超合金用の溶加材によれば、凝固割れ感受性を抑制することができ、そのため高温割れの発生を抑制しつつ、従来のこの種の材料と比較して高温強度が向上して溶接部の信頼性が向上し、溶接部の補修回数を低減させることができ、コストの低減を図ることが可能となる。
【0039】
請求項4のNi基耐熱超合金用の溶加材によれば、粒界強化を達成して高温強度の向上を図ることができ、高品質の溶接部を形成することができる。
【0041】
請求項5の析出硬化型のNi基耐熱超合金用の溶融溶接方法によれば、Cの含有量の増加に伴い、溶接部における凝固割れ感受性が抑制され、また、TiやAlの含有量減少させることによって、溶接部の高温割れ感受性を低下させることができる。しかも高温環境において溶接金属の強度向上を図ることができて、母材の特性を充分発揮することができる。従って、溶接部の信頼性が向上し、溶接部の補修回数を低減させることができ、コストの低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の溶融溶接方法の実施形態を示す簡略図である。
【図2】この発明のNi基耐熱超合金用の溶加材についてトランス・バレストレイン試験を行うための試験片を示す平面図である。
【図3】上記トランス・バレストレイン試験を行うための試験装置を示す簡略図である。
【符号の説明】
1 溶加材
4 母材
Claims (5)
- 重量比率で、少なくともCを、0.13%を超えて0.30%以下、Crを、15.7%以上で16.3%以下、Coを、8.00%以上で9.00%以下、Taを、1.50%以上で2.00%以下、MoとWの少なくともいずれかを、1.5%以上で5.0%以下、Tiを、3.20%以上で3.70%以下、Alを、1.70%以上で3.20%未満を含有し、残部がNiからなることを特徴とする析出硬化型のNi基耐熱超合金用の溶加材。
- 重量比率で、少なくともCを、0.13%を超えて0.30%以下、Crを、15.7%以上で16.3%以下、Coを、8.00%以上で9.00%以下、Taを、1.50%以上で2.00%以下、MoとWの少なくともいずれかを、1.5%以上で5.0%以下、Tiを、1.70%以上で3.20%未満、Alを、3.20%以上で3.70%以下を含有し、残部がNiからなることを特徴とする析出硬化型のNi基耐熱超合金用の溶加材。
- 重量比率で、少なくともCを、0.13%を超えて0.30%以下、Crを、15.7%以上で16.3%以下、Coを、8.00%以上で9.00%以下、Taを、1.50%以上で2.00%以下、MoとWの少なくともいずれかを、1.5%以上で5.0%以下、Tiを、1.70%以上で3.20%未満、Alを、1.70%以上で3.20%未満を含有し、残部がNiからなることを特徴とする析出硬化型のNi基耐熱超合金用の溶加材。
- さらに、Zrを、0.03%以上で0.08%以下、Bを、0.007%以上で0.012%以下を含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかのNi基耐熱超合金用の溶加材。
- 請求項1〜請求項4のいずれかのNi基耐熱超合金用の溶加材を用いることを特徴とする析出硬化型のNi基耐熱超合金の溶融溶接方法。
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