JP3953901B2 - 光学多層膜フィルタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光通信装置や光学デバイス等に使用される光学多層膜フィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
光学多層膜フィルタは、光学的な屈折率の異なる光学媒質膜、例えば誘電体膜を交互に積み重ねて形成され、境界面での反射光の干渉を利用して所定の光学特性を得るものである。現在、単層膜では得られない所望の光学特性を得るために、眼鏡などのガラス上およびプラスチック上への無反射コーティング、ビデオカメラの色分解プリズム、バンドパスフィルタなどの各種光学フィルタ、発光レーザの端面コーティング等に使用されている。
また、最近の状況として広帯域光波長多重(高密度波長分割多重(Dense Wavelength Division Multiplexing :DWDM)通信に用いる合波フィルタや分波フィルタ、さらに、短距離間に用いられるイーサネット(登録商標)通信において10Gbps級の広光波長多重(Wide Wavelength Division Multiplexing : WWDM)通信(IEEE802.3規格)に応用される。
【0003】
光学フィルタの設計について、図11から図14を参照して説明する。
図11に示すように、屈折率nsの基板1上に、屈折率n1の透明な光学媒質膜12を膜厚d1で形成した単層膜フィルタにおいて、光学媒質膜12に光が入射した場合の特性マトリックス(M)は、式(1)のように定義される。但し、入射光の波長をλ、入射角は入射面の法線に対しθ、β=2π・n1・d1・cos(θ)/λと定義する。また、iは虚数単位を示し、m11、m12、m21、m22は、特性マトリックス(M)の行列成分であり、m11=m22=cos(β)、m12=i・1/ξ・sin(β)、m21=i・ξ・sin(β)である。
【0004】
【数1】
【0005】
式(1)において、ξはS偏光の場合はξ=−n1・cos(θ)となり、P偏光の場合は、ξ=n1/cos(θ)となるが、簡単のために、今後は、S偏光の場合を考える。入射角θが0度の場合には、cos(θ)=1となるため、β=2π・n1・d1/λ、ξ=−n1となる。また、入射角θ=0で、かつ、光学膜厚がn1・d1=λ/4の場合には、β=π/2でなので、cos(β)=0、sin(β)=1となる。したがって、m11=m22=0、m12=−1/n1、m21=−n1となる。さらに、入射角θ=0で、かつ、光学膜厚がn1・d1=λ/2の場合には、β=πであるので、cos(β)=−1、sin(β)=0となる。したがって、m11=m22=−1、m12=m21=0となる。
また、式(1)の特性マトリックス(M)から、反射率係数|r|および透過率係数tは、入射角θが0度の場合に、式(2)、式(3)となる。但し、基板の屈折率をnsとし、空気の屈折率は、n0=1とした。
【0006】
【数2】
【0007】
したがって、式(2)から反射率Rは式(4)、さらに式(3)から透過率Tは式(5)となる。
【0008】
【数3】
【0009】
式(2)から式(5)より、光学膜厚がn1・d1=λ/4および光学膜厚がn1・d1=λ/2の場合には、高い反射率、高い透過率が得られることがわかる。
【0010】
次に、図12に示すような光学多層膜の場合を考察する。図12に示すように、屈折率nsの基板1上に、屈折率nkの光学媒質膜17を膜厚dkで形成し、その上に屈折率nk-1の光学媒質膜16を膜厚dk-1で形成し、順次同様の形成手順を繰り返し、最上層として屈折率n1の光学媒質膜13を膜厚d1で形成し、全体でk層の光学媒質膜を有する光学多層膜フィルタを作製する。全体の特性マトリックス(M)は、各光学媒質の特性マトリックスをM0、M1、M2、M3、...、Mk-2、Mk-1、Mk、Msとした場合に、式(6)となる。但し、全体特性マトリックス(M)の行列成分をmm11、mm12、mm21、mm22とした。
【0011】
【数4】
【0012】
上記したように、特性マトリックス(M)により、式(4)や式(5)と同様に反射率Rと透過率Tを求めることが可能である。式(6)において、入射光の波長λを設計波長(または中心波長)λ0に固定して光学膜厚を選択することで、光学フィルタとしての設計が可能となるため、所望のバンドパスフィルタを得ることができる。
【0013】
次に、光波長多重(波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing :WDM))通信に用いる合波フィルタや分波フィルタの要求仕様について、図13の透過特性を参照して説明する。
バンドパス特性を評価する基準として、一般的に−0.5dBでのフィルタ透過幅(または透過帯幅)W(F)と、−25dBでのクロストーク透過幅(または−25dB透過波長幅)W(C)と、挿入損失とリップル強度(または透過帯域リップル)が用いられる。
【0014】
フィルタ透過幅W(F)は、光信号が透過するバンドパス信号の幅を示しており、狭いほど規定されたバンド帯域の中で多くの信号を通すことが可能となる。また、クロストーク幅W(C)は、混信することなしにバンドパス信号をどれだけ近接させることができるかを示しており、細いほど混信せずにバンドパス信号を並べることができる。つまり、フィルタ透過幅W(F)とクロストーク幅W(C)がともに狭くなることで、規定されたバンド帯域の中で通信に使用できるバンドパス信号が増えることになる。
また、挿入損失とは、バンドパス信号の最大値の値と理想的な透過率100%の強度差を示している。
【0015】
さらに、リップルとは、バンドパス信号の最大値付近の部分に透過率が局所的に低下する現象が見られることであり、さざ波とも呼ばれる。リップルが発生した場合、所望のバンドパス特性が得られないことがある。リップルが発生した場合の信号の最大値と局所的透過率低下値との差をリップル強度とする。理想的なバンドパス特性として、点線で示した矩形の形状が求められている。
【0016】
現在使用されているバンドパスフィルタの特性としては、−0.5dBでのフィルタ透過幅W(F)は2nm以下で、−25dBでのクロストーク透過幅W(C)が4nmから8nm程度であるが、既にフィルタ透過幅W(F)が1nm以下のバンドパスフィルタの実用化を迎えている。
さらに、次世代の広帯域光波長多重通信(DWDM通信)に用いるバンドパス特性の要求仕様としては、フィルタ透過幅W(F)が0.1nm、クロストーク透過幅W(C)が0.3nm、挿入損失が0.5dB以下、リップル強度が0.2dBという値が要求されている。このため最適なバンドパス特性の設計が求められている。
また、光学多層膜の総数も数十層から数百層と非常に多くなるため、膜厚や膜質の均一性もこれまで以上に高精度なものが要求されるようになっている。
【0017】
さらに、幹線の大規模通信だけでなく、LAN(Local Area Network)通信でデファクトスタンダードになっているイーサネット通信においても、光学多層膜フィルタが使用されつつある。現在のツイストペアによる通信に代わって光ファイバを用いた10GBASE−Xや10GBASE−Wという10Gbps級の通信がIEEE802.3規格として標準化され、普及に向けた検討が進んでいる。この場合に用いられる多重通信方式は、WWDM通信(CWDM通信ともいう)と呼ばれ、1310nmや1550nm付近の波長帯域において、数十nmずれた4つの波長で4つのデータを重ね合わせて送信し、4つの受光器で別々に読み取るものである。通信距離は約300mであるが、LANの世界では一番期待されている方式となっている。
【0018】
このWWDM通信用にも光学多層膜フィルタが用いられる。評価基準としては、図13に示したフィルタ特性で、フィルタ透過幅W(F)が10nm、クロストーク幅W(C)が20nm以下、挿入損失が1dB以下、リップル強度が0.5dBという値が要求されている。このWWDM通信用光学多層膜フィルタでは、低コスト化が最大の課題とされている。
【0019】
多層膜に用いられる薄膜材料として、シリコン(Si)、アモルファスシリコン(a−Si)、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)、二酸化シリコン(SiO2)、五酸化タンタル(Ta2O5)、アルミナ(Al2O3)、二酸化チタン(TiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化ハフニウム(HfO2)、二酸化ランタン(LaO2)、二酸化セリウム(CeO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)、三酸化インジウム(In2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、二酸化ソリウム(ThO2)などの酸化物および二元以上の酸化物、あるいは、シリコン酸窒化物(SiOxNy)、あるいは、シリコン窒化物(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化ランタン(LaN)などの窒化物および二元以上の窒化物、あるいは、フッ素化マグネシウム(MgF2)、三フッ化セリウム(CeF3)、二フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化リチウム(LiF)、六フッ化三ナトリウムアルミニウム(Na3AlF6)などのフッ素化物、あるいは、二元以上のフッ素化物などがある。
【0020】
一般には、これらの薄膜材料のうち適当な屈折率の異なる2種類の物質を選択し、透明基板上に薄膜形成装置を用いて光学多層膜フィルタを作成する。
【0021】
図14に、代表的な光学多層膜フィルタの構成例を示す。光学膜厚λ0/2のキャビティ層4と呼ばれる層の上下を、屈折率nLを有する第1の光学媒質からなる第1の光学媒質層2(光学膜厚λ0/4;L層)と第1の光学媒質よりも高い屈折率nHを有する第2の光学媒質からなる第2の光学媒質層3(光学膜厚λ0/4;H層)とにより交互に積層した多層膜で挟んだ構造となっている。キャビティ層4は、第1の光学媒質層2と第2の光学媒質層3とを交互に積層した積層体のうち、所定の位置の層であり、光学膜厚がλ0/2の整数倍の第1の光学媒質または第2の光学媒質により構成される。
【0022】
図14では、屈折率nSを有する基板1上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とを繰り返し19層積層し、この上に第1の光学媒質からなるキャビティ層4(2L層)を形成し、さらにその上に第2の光学媒質層3と第1の光学媒質層2とを繰り返し19層積層して全体で39層の多層膜となっている。空気の屈折率をn0とする。このような、キャビティ層4を1つ持つ層構造を「シングルキャビティ」または「1キャビティ」と呼ぶことが多い。
さらに、キャビティ層4を2つ、3つ、4つ、5つと増した場合、それぞれ「ダブルキャビティ」または「2キャビティ」、「トリプルキャビティ」または「3キャビティ」、「4キャビティ」、「5キャビティ」と呼ぶ。
【0023】
図14を参照し、第1の光学媒質層2として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層3として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用いた場合について詳細に説明する。但し、バンドパスフィルタとしての設計波長はλ0=1550nmとした。基板1としては、一般的に使用される、BK−7や結晶化ガラス等の基板1を用いた。ここでは、基板1の屈折率は1.47とした。第2の光学媒質層3の光学膜厚は181.07nmであり、第1の光学媒質層2の光学膜厚は261.82nmであり、キャビティ層4の光学膜厚は523.64nmである。
また、図14では、屈折率を層の横幅により、模式的に表した。つまり、第1の光学媒質層2よりも第2の光学媒質層3の横幅が広いのは、第2の光学媒質層3の方の屈折率が第1の光学媒質層2より大きいことを示している。
【0024】
図14に示した1キャビティ構造の光学多層膜フィルタにおいて、設計波長λ0に相当するβ=π/2の場合について考察する。式(6)により示される特性マトリックス(M)は式(7)のようになる。よって反射率係数|r|は式(2)より式(8)となり、さらに、式(4)より反射率Rを式(9)のように求めることができる。
【0025】
【数5】
【0026】
屈折率nsが1.47の石英基板を考えると、式(8)から|r|=0.1903、式(9)からR=0.0362となり、設計波長λ0の反射率係数|r|を小さくできる。このように、設計波長λ0において、行列の計算が比較的簡単にできるため、反射率Rを比較的容易に計算することができる。
【0027】
図14に示した光学多層膜フィルタのシミュレーションにより計算した透過特性を図15に示す。設計波長λ0で透過率は0.9638となり、理論計算値の透過率T=1−Rから得られる値と一致する。フィルタ特性としては、極めて急峻で狭いバンドパス特性が得られている。フィルタ透過幅W(F)は、0.1nm以下、挿入損失もなく、リップルもない形状が得られていることがわかる。しかし、バンドパススペクトルの形状は、鋭い三角形の形状であり、−25dBのクロストーク幅W(C)が1nm以上で、仕様を大きく超える。また、図13の透過特性において点線で示した矩形の形状(理想的なバンドパス特性)から外れている。したがって、シングルキャビティでDWDM通信用のフィルタを作製するのは困難であることがわかる。
【0028】
そこで、シングルキャビティを直列配置して2以上のキャビティ層を持つファブリペロー型と呼ばれる多層膜構造によりバンドパススペクトル形状を矩形にしようとする試みがなされている。図16に、2キャビティ構造(ダブルキャビティ構造)のファブリペロー型多層膜の基本構造を示す。一般的に、第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)とを繰り返してある層数で形成した多層膜によりキャビティ層4(2L層)を挟んだ1キャビティ構造を基本として、この1キャビティ構造をつないだ構造をしている。1キャビティ5は、それぞれキャビティ層(2L層)に対して必ず対称になっている。図16では、基板1側からみて片側21層の1キャビティ5と片側22層の1キャビティ5とを結合した構造をしている。
【0029】
図17は、図16に示した2キャビティ構造において、例として、第1の光学媒質層2(L層)として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層3(H層)として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用い、ユニット数を21とした2キャビティの場合のスペクトル形状を示す。全体で87層の多層膜となっている。バンドパスフィルタとしての設計波長はλ0=1550nmとした。
【0030】
特性マトリックス(M)は、式(10)となり、反射率係数|r|と反射率Rは、式(8)と式(9)となる。
【0031】
【数6】
【0032】
図17に示すバンドパススペクトルの形状を参照すると、−25dBのクロストーク幅W(C)はシングルキャビティよりは狭くなったが、0.3nm以上であり矩形のプロファイルではなく、要求仕様を満たさないのがわかる。
【0033】
そこで、さらにキャビティ数を増やし、バンドパススペクトルの形状を矩形のプロファイルに近づける試みがされている。例として、第1の光学媒質層2(L層)として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層3(H層)として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用い、キャビティ数を3とした3キャビティ(トリプルキャビティ)の場合について説明する。全体で143層の多層膜からなる3キャビティの光学多層膜フィルタを作製した。バンドパスフィルタとしての設計波長はλ0=1550nmとした。
【0034】
特性マトリックス(M)は、式(10)となり反射率係数|r|は式(8)となる。
【0035】
図18に3キャビティのバンドパススペクトル形状を示す。フィルタ透過幅W(F)は0.1nm以下を達成しており、−25dBのクロストーク幅W(C)も0.15nm程度となり、ほぼ矩形プロファイルが得られ、挿入損失もほぼ0dBとDWDM用の要求仕様を満たしていることがわかる。しかしながら、0.5dB以上のリップルが現れており、要求仕様を満たさない。
【0036】
このリップルが現れる現象は、4以上のキャビティでも見られる。図19に、第1の光学媒質層2として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層3として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用い、キャビティ数を4とした4キャビティの場合とキャビティ数を5とした5キャビティの場合のスペクトル形状を示す。設計波長はλ0=1550nmとした。
【0037】
特性マトリックス(M)は、式(7)と同様となり反射率係数|r|は式(8)となる。
【0038】
4キャビティでは、基板1上に第2の光学媒質層3と第1の光学媒質層2とが繰り返し多層積層され、キャビティ層4(2L層)が4層配置され、全体で191層の多層膜を作製した。設計波長λ0における特性マトリックス(M)は式(7)となり、反射率係数|r|は式(8)となる。バンドパススペクトル形状を参照すると、フィルタ透過幅W(F)は0.1nm以下を達成しており、−25dBのクロストーク幅W(C)も約0.1nmとほぼ矩形のプロファイルが得られ、挿入損失も0.2dBとDWDM用の要求仕様を満たしていることがわかる。しかしながら、1dBにもおよぶリップルが現れており、要求仕様を満たさなくなってしまう。
【0039】
5キャビティでは、基板1上に第2の光学媒質層3と第1の光学媒質層2とが繰り返し多層積層され、キャビティ層4(2L層)が5層配置され、全体で239層の多層膜を作製した。設計波長λ0における特性マトリックス(M)は式(7)となり、反射率係数|r|は式(8)となる。バンドパススペクトル形状を参照すると、フィルタ透過幅W(F)は0.1nm以下を達成しており、−25dBのクロストーク幅W(C)も約0.1nmとほぼ矩形のプロファイルが得られ、挿入損失もほぼ0dBとDWDM用の要求仕様を満たしていることがわかる。しかしながら、2.5dBにもおよぶリップルが現れており、要求仕様を満たさなくなってしまう。
【0040】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、2キャビティ、3キャビティ、4キャビティ、5キャビティで見られたようなリップルが発生する現象は、6以上のキャビティでさらに顕著になる。キャビティ数が増加するにしたがって、クロストーク幅W(C)は小さくなるが、フィルタ透過幅W(F)やリップル強度は大きくなってしまう。フィルタ透過幅W(F)は、層の総数により調整できるが、リップル強度は調整できない。
【0041】
また、例に示した二酸化シリコン(SiO2)と五酸化タンタル(Ta2O5)以外、例えば五酸化タンタルと水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)とにより多層膜を形成した場合においても、また、その他の組み合わせにより多層膜を形成した場合においても、この現象は見られる。
【0042】
そのため、0.1nm程度と狭いフィルタ透過幅W(F)を実現しながら、狭いクロストーク幅W(C)と矩形に近いバンドパス特性を得るとともに、挿入損失とリップルを抑えたバンドパスプロファイルを示すフィルタ構造の実現が不可欠となっている。
【0043】
そこで、本発明は、前述した従来技術の問題点や課題を解決するためになされたものであり、その目的は、光通信に適応できるバンドパス特性を得ることができる光学多層膜フィルタを提供することである。
【0044】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を実現するため、本発明の光学多層膜フィルタは、第1の光学媒質からなる第1の光学媒質層とこの第1の光学媒質より高い屈折率を有する第2の光学媒質からなる第2の光学媒質層とを交互に積層した複数の第1の積層体を、第1の光学媒質または第2の光学媒質からなるキャビティ層を介して接続したキャビティ構造を有し、バンドパスフィルタとしての設計波長λにおける特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が1、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が1であるキャビティ構造体と、このキャビティ構造体上に形成され、第1の光学媒質層と第2の光学媒質層とを交互に積層した第2の積層体と、この第2の積層体上に形成され、第1の光学媒質または第2の光学媒質からなるキャビティ層と、このキャビティ層上に形成され、第1の光学媒質層と第2の光学媒質層とを交互に積層した第3の積層体と、この第3の積層体上に形成され、第1の光学媒質を、第1の光学媒質層の偶数倍の膜厚となるように形成した表面層とを有し、第1の光学媒質層の屈折率をnL、第2の光学媒質層の屈折率をnHとした場合に、キャビティ構造体と第2の積層体とキャビティ層と第3の積層体と表面層とからなる光学多層膜フィルタの特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が(nH/nL)、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が(nL/nH)、または、第1行第1列が(−nH/nL)、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が(−nL/nH)であることを特徴とする。
【0045】
本発明によれば、特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が1、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が1であるキャビティ構造体、例えば、キャビティ数が1、4、5、8、9、およびそれ以上であるキャビティ構造体の上に、第2の積層体と、キャビティ層と、第3の積層体と、表面層とを順次積層した光学多層膜フィルタのフィルタ特性の形状を調節し、また、リップルを少なくし、また、設計波長における透過率を向上させることができる。
ここで、個々の第1の積層体は、第1の光学媒質層と第2の光学媒質層とを交互に積層した構造であればよく、個々の第1の積層体を構成する第1の光学媒質層および第2の光学媒質層の層数は異なっていてもよい。
【0046】
また、第1の光学媒質からなる第1の光学媒質層とこの第1の光学媒質より高い屈折率を有する第2の光学媒質からなる第2の光学媒質層とを交互に積層した複数の第1の積層体を、第1の光学媒質または第2の光学媒質からなるキャビティ層を介して接続したキャビティ構造を有し、バンドパスフィルタとしての設計波長λにおける特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が−1、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が−1であるキャビティ構造体と、このキャビティ構造体上に形成され、第1の光学媒質層と第2の光学媒質層とを交互に積層した第2の積層体と、この第2の積層体上に形成され、第1の光学媒質または第2の光学媒質からなるキャビティ層と、このキャビティ層上に形成され、第1の光学媒質層と第2の光学媒質層とを交互に積層した第3の積層体と、この第3の積層体上に形成され、第1の光学媒質を第1の光学媒質層の偶数倍の膜厚となるように形成した表面層とを有し、第1の光学媒質層の屈折率をnL、第2の光学媒質層の屈折率をnHとした場合に、キャビティ構造体と、第2の積層体と、キャビティ層と、第3の積層体と、表面層とからなる光学多層膜フィルタの特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が(nH/nL)、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が(nL/nH)、または、第1行第1列が(−nH/nL)、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が(−nL/nH)であることを特徴とする。
【0047】
本発明によれば、特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が−1、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が−1であるキャビティ構造体、例えば、キャビティ数が2、3、6、7、およびそれ以上であるキャビティ構造体の上に、第2の積層体と、キャビティ層と、第3の積層体と、表面層とを順次積層した光学多層膜フィルタのフィルタ特性の形状を調節し、また、リップルを少なくし、また、設計波長における透過率を向上させることができる。
ここで、個々の第1の積層体は、第1の光学媒質層と第2の光学媒質層とを交互に積層した構造であればよく、個々の第1の積層体を構成する第1の光学媒質層および第2の光学媒質層の層数は異なっていてもよい。
【0048】
さらに、第1の光学媒質層と、第2の光学媒質層とを、これらの光学膜厚がそれぞれ、設計波長λに対して、λ/4の整数倍になるような膜厚で形成し、キャビティ層を、このキャビティ層の光学膜厚が、設計波長λに対して、λ/2の整数倍になるような膜厚で形成したことを特徴とする。
【0049】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
なお、実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0050】
まず、挿入損失について実施の形態における基本的な考え方を説明する。
ファブリペロー型のマルチキャビティ構造は、第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)とを繰り返してある層数で形成した多層膜(積層体)によりキャビティ層4(2L層)を挟んだ1キャビティ構造を基本として、この1キャビティ構造をつないだ構造である。以下、1キャビティ構造とマルチキャビティ構造とを含めてキャビティ構造と呼ぶ。1キャビティ5は、それぞれキャビティ層(2L層)に対して必ず対称になっている。このキャビティ構造では、キャビティ数を問わず、設計波長λ0における特性マトリックス(M)が式(7)または式(10)となる。例えば、1キャビティ(シングルキャビティ)、4キャビティ、5キャビティ、8キャビティ、9キャビティ、10キャビティの特性マトリックスは式(7)で表され、2キャビティ、3キャビティ、6キャビティ、7キャビティの特性マトリックスは式(10)で表される。つまり、特性マトリックスの第1行第1列の行列成分が1または−1であり、特性マトリックスの第1行第2列の行列成分が0であり、特性マトリックスの第2行第1列の行列成分が0であり、特性マトリックスの第2行第2列の行列成分が1または−1である。
【0051】
このような特性マトリックス(M)から求められる反射率Rは式(9)となり、透過率Tは式(5)となる。この場合、透過率Tは、基板の屈折率nsの関数となる。
図1は、特性マトリックス(M)が式(7)または式(10)で表されるキャビティ構造における透過率Tと基板の屈折率nsの関係を示したものである。
【0052】
図1より基板の屈折率nsが大きくなると透過率Tが次第に減少する。このため、入力損失を抑えるためには、基板の屈折率nsを小さくする必要があることがわかる。
【0053】
しかし、光学基板は、基板の屈折率nsが1.47の石英基板や、基板の屈折率nsが1.48から1.50程度のガラス基板が一般的である。空気の屈折率n0と比較した場合、n0<nsの関係が成り立つ。石英基板を用いた場合は、T=0.9638が理論上の最高値となる。
また、第1の光学媒質層の屈折率をnL、第2の光学媒質層の屈折率をnHとした場合、ns<nL では基板上には第2の光学媒質層が形成され、ns>nHでは基板上には第1の光学媒質層が形成される。
【0054】
さらに、マルチキャビティ構造になると、リップルが大きくなるため、バンドパスフィルタのフィルタ特性の形状も考慮する必要がある。
【0055】
そこで、本発明者らは、設計波長λ0における特性マトリックス(M)が式(7)または式(10)の従来のキャビティ構造において、空気側の表面層(基板の反対側の表面層)が第2の光学媒質層3(H層)により形成されている場合に、この第2の光学媒質層3(H層)の代わりに第1の光学媒質層を形成した構造、言い換えれば、空気側の表面層(基板の反対側の表面層)を第1の光学媒質により、その膜厚を他の第1の光学媒質層の偶数倍、例えば2倍となるように形成した構造にすることにより入力損失を抑えつつバンドパス形状を改善できることを見いだした。
この場合、表面層を有する1キャビティ5において、キャビティ層を挟んだ積層体を構成する第1の光学媒質層および第2の光学媒質層の層数は、表面層の膜厚を他の第1の光学媒質層の2倍となるように形成し、この表面層を2層として計算した場合に等しくなる。
【0056】
この場合の特性マトリックス(M)は、式(11)または式(12)となり、反射率係数|r|は、式(13)となる。但し、nLは第1の光学媒質層の屈折率、nHは第2の光学媒質層の屈折率である。
【0057】
【数7】
【0058】
ここで、第1の光学媒質層の屈折率nLと第2の光学媒質層の屈折率nHの比nH/nLを、nH/nL=rxとすると、この場合の透過率Tとrxの関係は図2に示す通りとなる。但し、基板の屈折率nsは石英基板の1.47とし、透過率Tは式(5)より計算した。
【0059】
図2より、比nH/nLが1.2程度で透過率Tは0dBとなるが、その値から比nH/nL=rxが大きくなっても小さくなっても透過率Tの値が低下することになるため、理想的な透過率100%と透過率Tの最大の値の強度差により示される入力損失が大きくなる。比nH/nLが、1以下の場合には、透過率Tが0dBとなる場合がない。つまり、透過率Tを大きくするためにはnH>nLが必要条件となる。
【0060】
例えば、第1の光学媒質層2(L層)として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層3(H層)として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用いて、多層膜を作製することにより、この場合のキャビティ構造を作製した場合、比nH/nLは1.45であり、入力損失は0.2dBとなり、設計波長λ0における特性マトリックス(M)が式(7)または式(10)により表される従来のキャビティ構造と変わらない値が得られる。
【0061】
逆に、設計波長λ0における特性マトリックス(M)が式(7)または式(10)の従来のキャビティ構造の空気側の表面層(基板の反対側の表面層)が第1の光学媒質層2(L層)により形成されている場合に、この第1の光学媒質層2(L層)の代わりに第2の光学媒質層3(H層)を形成した場合には、特性マトリックスは、式(14)または式(15)となり、反射率係数|r|は式(16)となる。但し、nLは第1の光学媒質層の屈折率、nHは第2の光学媒質層の屈折率である。
【0062】
【数8】
【0063】
ここで、基板の屈折率nsを石英基板の1.47とし、rrx=nL/nHとおくと、この場合の透過率Tとrrxの関係は、図2において、横軸rxをrrxに置き換えたものと同等として考えることができる。nL<nHであるため、rrxは必ず1より小さくなる。したがって、図2より透過率Tの値が低下することになるため、理想的な透過率100%と透過率Tの最大値との強度差により示される入力損失が大きくなる。
例えば、第1の光学媒質層(L層)として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層(H層)として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用いてこの場合の多層膜を作成した場合、比nL/nHが0.69であるため、図2から、入力損失は1dB以上になることがわかる。
【0064】
上記したように、設計波長λ0における特性マトリックス(M)が式(7)または式(10)の従来のキャビティ構造の空気側の表面層(基板の反対側の表面層)が第2の光学媒質層3(H層)により形成されている場合に、その第2の光学媒質層3(H層)の代わりに第1の光学媒質層2(L層)を形成した構造とすることによって、特性マトリックス(M)を式(11)または式(12)、反射率係数|r|を式(13)とでき、nH/nLを1.2程度とすることができるため、入力損失を抑えることができる。
【0065】
次に、実施の形態1に係る光学多層膜フィルタについて説明する。
実施の形態1に係る光学多層膜フィルタは、キャビティ数が3の3キャビティ構造を有する従来のキャビティ構造、言い換えれば、第2の光学媒質からなる第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質からなる第1の光学媒質層2(L層)とを交互に積層するという規則性を保ちつつ、シングルキャビティ5を、3個積層する構造において、空気と接する最後に形成される光学媒質層(表面層と呼ぶ)が第2の光学媒質層3(H層)である場合に、この第2の光学媒質層3(H層)の代わりに第1の光学媒質層2(L層)を形成した構造、言い換えれば、空気側の表面層(基板の反対側の表面層)を第1の光学媒質により、その膜厚を他の第1の光学媒質層2の2倍となるように形成した構造である。キャビティ層は、第1の光学媒質により形成した。
この場合、表面層を有する1キャビティ5において、キャビティ層を挟んだ積層体を構成する第1の光学媒質層2および第2の光学媒質層3の層数は、第1の光学媒質層2により形成された表面層を2層として計算した場合に等しくなる。
【0066】
具体的な構造は、図3に示すように、透明基板1上に、第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば21層積層され、その上にキャビティ層4(2L層)が形成されている。その上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば43層積層され、その上にキャビティ層4(2L層)が形成されている。その上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば43層積層され、その上にキャビティ層4(2L層)が形成されている。その上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)が交互に例えば19層積層され、この上に第1の光学媒質を例えば成膜時間を2倍にすることにより、第1の光学媒質層2(L)層の2倍の膜厚で形成する。したがって、最後に形成した第1の光学媒質を2層として計算すると、全体で131層の多層膜となる。
【0067】
また、図3においても、屈折率を層の横幅により、模式的に表した。つまり、第1の光学媒質層2よりも第2の光学媒質層3の横幅が広いのは、第2の光学媒質層3の方の屈折率が第1の光学媒質層2より大きいことを示している。以下、同様の模式図により説明する。
【0068】
構造の特徴としては、キャビティ層4を3個有する構造であるが、単純にシングルキャビティ5を3個積層した構造ではなく、基板1の一主面に2個のシングルキャビティ5を順次形成し、その上に第1の光学媒質層2と第2の光学媒質層3とを交互に積層した第2の積層体を形成し、この上に第1の光学媒質または第2の光学媒質からなるキャビティ層を形成し、この上に第1の光学媒質層2と第2の光学媒質層3とを交互に積層した第3の積層体を形成し、この上に第1の光学媒質を、第1の光学媒質層2の偶数倍の膜厚となるように形成した表面層を形成する。言い換えれば、キャビティ層4(2L層)に対して非対称である多層膜構造体を形成する点である。この場合の2L層は、キャビティ層4(2L層)とは役割が全く異なる。以下、第2の積層体とキャビティ層と第3の積層体と表面層とを順次積層した構造を多層膜構造体と呼ぶ。
【0069】
基板1としては、屈折率が1.47である透明基板、第1の光学媒質層2(L層)として屈折率が1.48である二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層3(H層)として屈折率が2.14である五酸化タンタル(Ta2O5)を用いる。キャビティ層4(2L層)として屈折率が1.48である二酸化シリコン(SiO2)を用いる。
【0070】
それぞれの光学膜厚は、バンドパスフィルタとしての設計波長(以下、設計波長と呼ぶ)をλ0=1550nmとした場合に、第1の光学媒質層2(L層)および第2の光学媒質層3(H層)は、これらの光学膜厚がそれぞれ、設計波長λ0に対して、λ0/4の整数倍になるような膜厚で形成する。また、キャビティ層4(2L層)は、このキャビティ層4(2L層)の光学膜厚が、設計波長λ0に対して、λ0/2の整数倍になるような膜厚で形成する。
具体的には、第1の光学媒質層2(L層)は261.82nm、第2の光学媒質層3(H層)は181.07nmである。また、キャビティ層4(2L層)は523.64nmである。
【0071】
図3に示すキャビティ層を3個有する構造の光学多層膜フィルタにおいて、設計波長λ0に相当するβ=π/2の場合について考察する。設計波長λ。における特性マトリックスMは式(12)となり、反射率係数|r|は式(13)となる。
【0072】
図4は、図3に示した光学多層膜フィルタのようにシングルキャビティ5の代わりに多層膜構造体を形成した場合のフィルタ透過特性である。従来のキャビティ構造と比較するために、多層膜構造体に置き換えない従来の3キャビティ構造のフィルタ透過特性も合わせて示す。従来の3キャビティ構造では、リップル強度が0.6dB程度もある。これに対して、多層膜構造体を形成したものは、設計波長λ0=1550nmからずれた部分における透過率の落ち込みがなくなり、リップル強度も0.2dBと大きく改善することがわかる。
また、設計波長λ0=1550nmにおける透過率が向上することがわかる。
【0073】
従来のキャビティ構造における反射率係数|r|は、設計波長λ0において式(8)となる。
これに対し、実施の形態1に示す構造では、式(13)となる。石英基板、第2の光学媒質層3(H層)、第1の光学媒質層2(L層)の屈折率を代入すると、式(13)から求められる反射率係数は|r|=0.1969となり、式(8)から求められる反射率係数|r|とほぼ同じ値になる。よって、この反射率係数から求められる透過率Tもほぼ同じ値となるため、挿入損失も従来のキャビティ構造と同等であることがわかる。
また、シングルキャビティ5の代わりに多層膜構造体を形成することによって、図4に示すように、バンドパスフィルタ特性がより矩形になることがわかる。
【0074】
実施の形態1では、全層の数が131層であるが、所望のフィルタ透過幅W(F)やクロストーク幅W(C)を得るために、適宜第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)の層数を変化させて光学多層膜フィルタを構成した場合においても同様の効果が得られる。
また、実施の形態1においては、表面層を、第1の光学媒質層2(L)層の2倍の膜厚で形成する場合について説明したが、2倍に限らず第1の光学媒質層2(L)層の偶数倍の膜厚で形成しても同様の効果が得られる。
【0075】
次に、製造方法について説明する。上記の材料を積み重ねて多層膜を形成するために、様々な形成装置および形成方法が試みられている。中でもスパッタ法(スパッタリング法)は、危険度の高いガスや有毒ガスなどを使用する必要がなく、堆積する膜の表面凹凸(表面モフォロジ)が比較的良好であるなどの理由により、有望な成膜装置・方法の一つとなっている。その中でも、スパッタ法において化学量論的組成の膜を得るための優れた装置・方法として酸素ガスや窒素ガスなどの反応ガスを供給し、膜中の酸素や窒素が欠落するのを防止する反応性スパッタ装置・方法が有望である。
【0076】
反応性スパッタ装置・方法の中でも、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance :ECR)と発散磁界を利用して作られたプラズマ流を基板に照射するとともに、ターゲットと接地間に高周波または直流電圧を印加し、上記ECRで発生させたプラズマ流中のイオンをターゲットに引き込み衝突させてスパッタ現象を引き起こすことにより、膜を基板に堆積させる装置・方法(以下、これをECRスパッタ法という)が良好な膜質を得られるとして最も有望である。ECRスパッタ法の特徴は、例えば、小野地、ジャパニーズジャーナルオブアプライドフィジクス、第23巻、第8号、L534頁、1984年(Jpn.J.Appl.Phys.23,no.8,L534(1984).)に記載されている。
【0077】
一般的に、RFマグネトロンスパッタ法においては、0.1Pa程度以上のガス圧力でないと安定なプラズマは得られないのに対し、上記ECRスパッタ法では、0.01Pa程度以下の分子流領域のガス圧力で安定なECRプラズマが得られる。
また、ECRスパッタ法は、高周波または直流電圧により、ECRにより生成したイオンをターゲットに当ててスパッタリングを行うため、低い圧力でスパッタリングができる。
【0078】
また、ECRスパッタ法では、基板にECRプラズマ流とスパッタされた粒子が照射される。ECRプラズマ流のイオンは、発散磁界により10eVから数10eVのエネルギーに制御される。また、気体が分子流として振る舞う程度の低い圧力でプラズマを生成・輸送しているために、基板に到達するイオンのイオン電流密度も大きく取れる。したがって、ECRプラズマ流のイオンは、スパッタされて基板に飛来した原料粒子にエネルギーを与えるとともに、原料粒子と酸素または窒素との結合反応を促進するため、膜質が改善される。
【0079】
ECRスパッタ法は、特に、外部からの加熱をしない室温に近い低い基板温度で基板上に高品質の膜が形成できることが特徴である。ECRスパッタ法による高品質な薄膜堆積については、例えば、天澤他、ジャーナルオフバキュームサイエンスアンドテクノロジー、第B17巻、第5号、2222頁、1999年(J.Vac.Sci.Technol.B17,no.5,2222(1999).)に記載されている。
【0080】
また、ECRスパッタ法で堆積した膜の表面モフォロジは、原子スケールのオーダーで平坦である。したがって、ECRスパッタ法は、ナノメーターオーダーの極薄膜からなる多層膜を形成するのに有望な装置・方法である。
【0081】
さらに、ECRスパッタ法では、反応性ガスの分圧を制御することで、堆積膜の屈折率を精度良く制御することができる。この特性を利用することにより、他のスパッタ法では困難である任意の屈折率に調整した堆積膜を形成し、多層膜として形成することができる。
本実施の形態においては、ECRスパッタ装置を用いて、光学多層膜フィルタの製造を行った。図5に電子サイクロトロン共鳴(ECR)装置の概略図を示す。
【0082】
製造方法を具体的に説明する。まず、容器内を真空にした後、ECRプラズマ源にスパッタガスおよび反応性ガスを導入し適当なガス圧にする。次に、磁気コイル9によりECRプラズマ源内に0.0875Tの磁場を発生させた後、導波管と石英窓11を通してECRプラズマ源に周波数が2.45GHzのマイクロ波を導入し、ECR領域8に電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマを生成する。
【0083】
ECRプラズマは、発散磁場により基板1方向にプラズマ流を作る。実施の形態1に示すECRプラズマ源は、導入したマイクロ波電力を一旦分岐してプラズマ源の直前で再び結合させるもので、ターゲット7からの飛散粒子が石英導入窓に付着することを防ぐことにより、ランニングタイムを大幅に改善できるものである。ECRプラズマ源と基板1との間にリング状の円形ターゲット7を配置し、ターゲット7に高周波電圧を印加してスパッタリングを行って、基板ホルダ6に取り付けられた基板1上に薄膜を形成する。
【0084】
また、複数のECRプラズマ源と複数のターゲットを設置し、切り替えてスパッタリングを行うことによって、基板1上に屈折率の異なる複数の堆積膜を多層膜として形成することができる。例えば、実施の形態1においては、2つのECRプラズマ源に、それぞれ、シリコンターゲットとタンタルターゲットを設置し、第1の光学媒質層2(L層)として二酸化シリコン(SiO2)を、第2の光学媒質層3(H層)として五酸化タンタル(Ta2O5)を、キャビティ層4としてとして二酸化シリコン(SiO2)または五酸化タンタル(Ta2O5)を堆積することによって、本発明の光学多層膜フィルタを形成することができる。
【0085】
ECRスパッタ装置において、ターゲットにシリコンと純アルミニウムを用い、また、反応性ガスとして酸素ガスと窒素ガスとを、さらに不活性ガスとしてアルゴンを用いた酸化シリコン薄膜と酸窒化シリコン薄膜とアルミナ薄膜の成膜を行った。ECRプラズマ源には、供給する反応性ガスの多少に関わらず、プラズマが安定に得られるだけのアルゴンを導入する。
【0086】
上記のようにして、基板1上に成膜した酸化シリコン膜と酸窒化シリコンとアルミナ膜の屈折率の酸素流量依存性を図6に示す。アルゴンガス流量が20sccmとし、酸素ガス流量を0から8sccmの間で変化させ、ECRイオン源に導入するマイクロ波電力を500W、ターゲットに印加する高周波電力を500Wとした。但し、酸窒化シリコンでは、酸素と窒素の流量の合計が10sccmとなるように調整している。また、基板1は加熱していない。なお、屈折率は638nmレーザによるエリプソメータを用いて測定した。
【0087】
図6によれば、酸化シリコン膜と酸窒化シリコン膜およびアルミナ膜の屈折率は、酸素流量の増加にしたがって減少し、屈折率が化学量論的組成を満たす二酸化シリコンまたはサファイア基板の屈折率になることがわかる。反応性ガスによって良好な膜質を保ちながら屈折率を制御できることを示している。
具体的には、屈折率を、酸化シリコン膜では1.47から3.8の範囲で、また、酸窒化シリコン膜では1.47から2.0の範囲で、また、アルミナ膜では1.61から4.3の範囲で制御できる。
【0088】
さらに、二酸化シリコン膜を含む酸化シリコン膜、アルミナ膜のみならず、ECRスパッタ法で形成できる五酸化タンタル、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化ハフニウム、二酸化ランタン、二酸化セレン、二酸化セリウム、三酸化アンチモン、三酸化インジウム、酸化マグネシウム、二酸化ソリウム等の酸化物、シリコン窒化物、窒化アルミニウム、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化ランタン等の窒化物、および、シリコン酸窒化物等の酸窒化物、フッ素化マグネシウム、フッ素化セレン、三フッ化セリウム、二フッ化カルシウム、フッ化リチウム、六フッ化三ナトリウムアルミニウム等のフッ素化物、さらには、堆積時に水素を導入したアモルファスシリコン、あるいは、二元合金の酸化物、二元合金の窒化物などでも反応性ガスの流量(分圧)による屈折率制御ができる。
【0089】
次に、実施の形態2に係る光学多層膜フィルタについて説明する。
実施の形態1において、キャビティ層4が第1の光学媒質により形成された場合を示してきたが、キャビティ層4が第2の光学媒質により形成された場合にも同様の効果が得られる。例として、キャビティ数が3の3キャビティ構造で説明する。
【0090】
実施の形態2に係る光学多層膜フィルタは、キャビティ数が3の3キャビティ構造を有する従来のキャビティ構造、言い換えれば、第2の光学媒質からなる第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質からなる第1の光学媒質層2(L層)とを交互に積層するという規則性を保ちつつ、第2の光学媒質によりキャビティ層4を形成したシングルキャビティ5を3個積層する構造において、空気と接する最後に形成される光学媒質層(表面層と呼ぶ)が第2の光学媒質層3(H層)である場合に、この第2の光学媒質層3(H層)の代わりに第1の光学媒質層2(L層)を形成した構造、言い換えれば、空気側の表面層(基板1の反対側の表面層)を第1の光学媒質により、その膜厚を他の第1の光学媒質層2の倍となるように形成した構造である。
【0091】
この場合においても、実施の形態1と同様に、表面層を有する1キャビティ5において、キャビティ層を挟んだ積層体を構成する第1の光学媒質層2および第2の光学媒質層3の層数は、第1の光学媒質層2により形成された表面層を2層として計算した場合に等しくなる。
【0092】
具体的な構造は、図7に示すように、透明基板1上に、第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば20層積層され、その上にキャビティ層4(2H層)が形成されている。その上に第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)とが交互に例えば43層積層され、その上にキャビティ層4(2H層)が形成されている。その上に第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)とが交互に例えば43層積層され、その上にキャビティ層4(2H層)が形成されている。その上に第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)とが交互に例えば18層積層され、この上に第1の光学媒質を例えば成膜時間を2倍にすることにより、第1の光学媒質層2(L)層の2倍の膜厚で形成する。したがって、最後に形成した第1の光学媒質を2層として計算すると、全体で129層の多層膜となる。
【0093】
構造の特徴としては、キャビティ層4を3個有する構造であるが、単純にシングルキャビティ5を3個積層した構造ではなく、基板1の一主面に2個のシングルキャビティ5を順次形成し、その上に、第1の光学媒質層2と第2の光学媒質層3とを交互に積層した第2の積層体を形成し、この上に第1の光学媒質または第2の光学媒質からなるキャビティ層を形成し、この上に第1の光学媒質層2と第2の光学媒質層3とを交互に積層した第3の積層体を形成し、この上に第1の光学媒質を、第1の光学媒質層2の偶数倍の膜厚となるように形成した表面層を形成する。言い換えれば、キャビティ層4(2L層)に対して非対称である多層膜構造体を形成する点である。この場合の2L層は、キャビティ層4(2L層)とは役割が全く異なる。以下、第2の積層体とキャビティ層と第3の積層体と表面層とを順次積層した構造を多層膜構造体と呼ぶ。
【0094】
基板1としては、屈折率1.47の透明基板、第1の光学媒質層2(L層)として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層3(H層)として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用いる。キャビティ層4(2H層)として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用いる。
【0095】
それぞれの光学膜厚は、バンドパスフィルタとしての設計波長(以下、設計波長と呼ぶ)をλ0=1550nmとした場合に、第1の光学媒質層2(L層)および第2の光学媒質層3(H層)は、これらの光学膜厚がそれぞれ、設計波長λ0に対して、λ0/4の整数倍になるような膜厚で形成する。また、キャビティ層4(2H層)は、このキャビティ層4(2H層)の光学膜厚が、設計波長λ0に対して、λ0/2の整数倍になるような膜厚で形成する。
具体的には、第1の光学媒質層2(L層)は261.82nm,第2の光学媒質層3(H層)は181.07nmである。また、キャビティ層4(2H層)は362.14nmである。
【0096】
図7に示すキャビティ層を3個有する構造の光学多層膜フィルタにおいて、設計波長λ0に相当するβ=π/2の場合について考察する。設計波長λ。における特性マトリックスMは式(11)となり、反射率係数|r|は式(13)となる。
【0097】
図8は、図7に示した光学多層膜フィルタのようにシングルキャビティ5の代わりに多層膜構造体を形成した場合のフィルタ透過特性である。従来のキャビティ構造と比較するために、多層膜構造体に置き換えない従来の3キャビティ構造のフィルタ透過特性も合わせて示す。従来の3キャビティ構造では、リップル強度が0.6dB程度もある。これに対して、多層膜構造体を形成したものは、設計波長λ0=1550nmからずれた部分における透過率の落ち込みがなくなり、リップル強度も0.2dBと大きく改善することがわかる。
また、設計波長λ0=1550nmにおける透過率が向上することがわかる。
【0098】
従来のキャビティ構造における反射率係数|r|は、設計波長λ0において式(8)となる。
これに対し、実施の形態2に示す構造では、式(13)のようになる。石英基板、第2の光学媒質層3(H層)、第1の光学媒質層2(L層)の屈折率を代入すると、式(13)から求められる反射率係数|r|は、式(8)から求められる反射率係数|r|よりも小さな値になる。よって、この反射率係数から求められる透過率Tについては、実施の形態2に示す構造の方が従来の構造より大きくなる。よって、実施の形態2に示す構造の挿入損失は、従来の構造と比べて減少する。
また、シングルキャビティ5の代わりに多層膜構造体を形成することにより、図8に示すように、バンドパスフィルタ特性がより矩形になることがわかる。
【0099】
実施の形態2では、全層の数が129層であるが、所望のフィルタ透過幅W(F)やクロストーク幅W(C)を得るために、適宜第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)の層数を変化させて光学多層膜フィルタを構成した場合においても同様の効果が得られる。
【0100】
また、実施の形態2においては、表面層を、第1の光学媒質層2(L)層の2倍の膜厚で形成する場合について説明したが、2倍に限らず、第1の光学媒質層2(L)層の偶数倍の膜厚で形成しても同様の効果が得られる。
【0101】
また、製造方法は、実施の形態1と同様に、ECRスパッタ装置を用いて、2つのECRプラズマ源に、それぞれ、シリコンターゲットとタンタルターゲットを設置して、第1の光学媒質層2(L層)として二酸化シリコンを、第2の光学媒質層3(H層)として五酸化タンタルを堆積することによって、形成することができる。
また、実施の形態2においても、図6に示したように、酸素流量を変化させることにより、屈折率を変化させることができるため、フィルタ特性を調整することができる。ECRスパッタ装置において、ターゲットの材質と反応性ガスの流量(分量)の選択で、屈折率を制御することにより、最適な屈折率を選択することによって、最適なフィルタ特性を得ることができる。
【0102】
次に、実施の形態3に係る光学多層膜フィルタについて説明する。
これまでの実施の形態において、キャビティ層を3層有する構造を例として、従来の3キャビティ構造と比較することにより説明したが、これ以上のキャビティ層を有する構造においても同様の効果が得られる。例として、キャビティ層を5層有する構造について説明する。
【0103】
実施の形態3に係る光学多層膜フィルタは、キャビティ数が5の5キャビティ構造を有する従来のキャビティ構造、言い換えれば、第2の光学媒質からなる第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質からなる第1の光学媒質層2(L層)とを交互に積層するという規則性を保ちつつ、第1の光学媒質によりキャビティ層4を形成したシングルキャビティ5を、5個積層する構造において、空気と接する最後に形成される光学媒質層(表面層と呼ぶ)が第2の光学媒質層3(H層)である場合に、この第2の光学媒質層3(H層)の代わりに第1の光学媒質層2(L層)を形成した構造、言い換えれば、空気側の表面層(基板1の反対側の表面層)を第1の光学媒質により、その膜厚を他の第1の光学媒質層2の2倍となるように形成した構造である。
【0104】
この場合においても、実施の形態1と同様に、表面層を有する1キャビティ5において、キャビティ層を挟んだ積層体を構成する第1の光学媒質層2および第2の光学媒質層3の層数は、第1の光学媒質層2により形成された表面層を2層として計算した場合に等しくなる。
【0105】
具体的な構造は、図9に示すように、透明基板1上に、第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば21層積層され、その上にキャビティ層4(2L層)が形成されている。その上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば43層積層され、その上にキャビティ層4(2L層)が形成されている。その上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば45層積層され、その上にキャビティ層4(2L層)が形成されている。その上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば45層積層され、その上にキャビティ層4(2L層)が形成されている。その上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば43層積層され、その上にキャビティ層4(2L層)が形成されている。さらにその上に第2の光学媒質層3(H層)と第1の光学媒質層2(L層)とが交互に例えば19層積層され、この上に第1の光学媒質を例えば成膜時間を2倍にすることにより、第1の光学媒質層2(L)層の2倍の膜厚で形成する。したがって、最後に形成した第1の光学媒質を2層として計算すると、全体で223層の多層膜となる。
【0106】
構造の特徴としては、キャビティ層4を5個有する構造であるが、単純にシングルキャビティ5を5個積層した構造ではなく、基板1の一主面に4個のシングルキャビティ5を順次形成し(キャビティ構造体)、その上に、第1の光学媒質層2と第2の光学媒質層3とを交互に積層した第2の積層体を形成し、この上に第1の光学媒質または第2の光学媒質からなるキャビティ層を形成し、この上に第1の光学媒質層2と第2の光学媒質層3とを交互に積層した第3の積層体を形成し、この上に第1の光学媒質を、第1の光学媒質層2の偶数倍の膜厚となるように形成した表面層を形成する。言い換えれば、キャビティ層4(2L層)に対して非対称である多層膜構造体を形成する点である。この場合の2L層は、キャビティ層4(2L層)とは役割が全く異なる。以下、第2の積層体とキャビティ層と第3の積層体と表面層とを順次積層した構造を多層膜構造体と呼ぶ。
【0107】
基板1としては、屈折率1.47の透明基板、第1の光学媒質層2(L層)として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)、第2の光学媒質層3(H層)として屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta2O5)を用いる。キャビティ層4(2L層)として屈折率が1.48の二酸化シリコン(SiO2)を用いる。
【0108】
それぞれの光学膜厚は、バンドパスフィルタとしての設計波長(以下、設計波長と呼ぶ)をλ0=1550nmとした場合に、第1の光学媒質層2(L層)および第2の光学媒質層3(H層)は、これらの光学膜厚がそれぞれ、設計波長λ0に対して、λ0/4の整数倍になるような膜厚で形成する。また、キャビティ層4(2L層)は、このキャビティ層4(2L層)の光学膜厚が、設計波長λ0に対して、λ0/2の整数倍になるような膜厚で形成する。
具体的には、第1の光学媒質層2(L層)は261.82nm,第2の光学媒質層3(H層)は181.07nmである。また、キャビティ層4(2L層)は523.64nmである。
【0109】
図9に示すキャビティ層を5個有する構造の光学多層膜フィルタにおいて、設計波長λ0に相当するβ=π/2の場合について考察する。設計波長λ。における特性マトリックスMは式(11)となり、反射率係数|r|は式(13)となる。
【0110】
図10は、図9に示した光学多層膜フィルタのようにシングルキャビティ5の代わりに多層膜構造体を形成した場合のフィルタ透過特性である。従来のキャビティ構造と比較するために、多層膜構造体に置き換えない従来の5キャビティ構造のフィルタ透過特性も合わせて示す。従来の5キャビティ構造では、リップル強度が1dBもある、これに対して、多層膜構造体を形成したものは、設計波長λ0=1550nmからずれた部分における透過率の落ち込みがなくなり、リップル強度も0.2dBと大きく改善することがわかる。
また、設計波長λ0=1550nmにおける透過率が向上することがわかる。
【0111】
従来のキャビティ構造における反射率係数|r|は、設計波長λ0において式(8)となる。
これに対し、実施の形態3に示す構造では、式(13)のようになる。石英基板、第2の光学媒質層3(H層)、第1の光学媒質層2(L層)の屈折率を代入すると、式(13)から求められる反射率係数|r|は、式(8)から求められる反射率係数|r|よりも小さな値になる。よって、この反射率係数から求められる透過率Tは、実施の形態3に示す構造の方が従来の構造より大きくなるため、実施の形態3に示す構造の挿入損失は従来の構造と比べて減少する。
また、シングルキャビティ5の代わりに多層膜構造体を形成することにより、図10に示すように、バンドパスフィルタ特性がより矩形になることがわかる。
【0112】
実施の形態3では、全層の数が223層であるが、所望のフィルタ透過幅W(F)やクロストーク幅W(C)を得るために、適宜第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)の層数を変化させて光学多層膜フィルタを構成した場合においても同様の効果が得られる。
【0113】
さらに、実施の形態3では、キャビティ層4を第1の光学媒質で構成しているが、第2の光学媒質により構成した場合にも同様の効果が得られる。
この場合、第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)とを交互に積層するという規則性を保つために、適宜第1の光学媒質層2(L層)と第2の光学媒質層3(H層)の層数を変化させる必要がある
【0114】
また、製造方法は、実施の形態1と同様に、ECRスパッタ装置を用いて、3つのECRプラズマ源に、それぞれ、シリコンターゲットとタンタルターゲットを設置して、第1の光学媒質層2(L層)として二酸化シリコンを、第2の光学媒質層3(H層)として五酸化タンタルを堆積することによって、形成することができる。
また、実施の形態3においても、図6に示したように、酸素流量を変化させることにより、屈折率を変化させることができるため、フィルタ特性を調整することができる。ECRスパッタ装置において、ターゲットの材質と反応性ガスの流量(分量)の選択で、屈折率を制御することにより、最適な屈折率を選択することによって、最適なフィルタ特性を得ることができる。
【0115】
また、実施の形態3においては、表面層を第1の光学媒質層2(L)層の2倍の膜厚で形成する場合について説明したが、2倍に限らず、第1の光学媒質層2(L)層の偶数倍の膜厚で形成しても同様の効果が得られる。
【0116】
【発明の効果】
本発明によれば、設計波長λ0における特性マトリックス(M)が式(7)または式(10)の従来のキャビティ構造上に、第1の光学媒質層と第2の光学媒質層とを交互に積層した第2の積層体を形成し、この第2の積層体上に、第1の光学媒質または第2の光学媒質からなるキャビティ層を形成し、このキャビティ層上に、第1の光学媒質層と第2の光学媒質層とを交互に積層した第3の積層体を形成し、この第3の積層体上に、第1の光学媒質を、第1の光学媒質層の偶数倍の膜厚となるように形成した表面層を形成することにより、特性マトリックス(M)の行列成分の第1行第1列を(nH/nL)、第1行第2列を0、第2行第1列を0、第2行第2列を(nL/nH)、または、第1行第1列を(−nH/nL)、第1行第2列を0、第2行第1列を0、第2行第2列を(−nL/nH)とできるため、反射率係数|r|におけるnH/nLを1.2程度とすることができ、透過率を大きくすることができ、入力損失を抑えることができる。
【0117】
また、フィルタ特性の形状を調節し、また、リップルを少なくし、また、設計波長における透過率を向上させることにより、光通信に適応できるバンドパス特性を有する光学多層膜フィルタを得ることができる。
さらに、従来のキャビティ構造よりも少ない層数で同様のフィルタ特性を得ることができ、経済的に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 基板の屈折率と透過率との関係を説明するための図である。
【図2】 光学媒質層の屈折率比と透過率との関係を説明するための図である。
【図3】 実施の形態1に係る光学多層膜フィルタの構造を説明するための図である。
【図4】 実施の形態1に係る光学多層膜フィルタのフィルタ特性を説明するための図である。
【図5】 電子サイクロトロン共鳴(ECR)装置を説明するための概略図である。
【図6】 電子サイクロトロン共鳴(ECR)装置を用いて作製した膜の特性を示す図である。
【図7】 実施の形態2に係る光学多層膜フィルタの構造を説明するための図である。
【図8】 実施の形態2に係る光学多層膜フィルタのフィルタ特性を説明するための図である。
【図9】 実施の形態3に係る光学多層膜フィルタの構造を説明するための図である。
【図10】 実施の形態3に係る光学多層膜フィルタのフィルタ特性を説明するための図である。
【図11】 光学多層膜フィルタの原理を説明するための図である。
【図12】 光学多層膜フィルタを説明するための図である。
【図13】 光学多層膜フィルタの特性における性能を説明するための図である。
【図14】 光学多層膜フィルタの構造を説明するための図である。
【図15】 光学多層膜フィルタの透過特性を示す図である。
【図16】 マルチキャビティ構造の光学多層膜フィルタの構造を説明するための図である。
【図17】 従来の2キャビティの光学多層膜フィルタの透過特性を説明するための図である。
【図18】 従来の3キャビティの光学多層膜フィルタの透過特性を説明するための図である。
【図19】 従来の4キャビティと5キャビティの光学多層膜フィルタの透過特性を説明するための図である。
【符号の説明】
1…基板、2…第1の光学媒質層、3…第2の光学媒質層、4…キャビティ層、5…シングルキャビティ(1キャビティ)、6…基板ホルダ、7…ターゲット、8…ECR領域、9…磁気コイル、10…高周波電力、11…石英窓、12…光学媒質膜、13…第1の光学媒質膜、14…第2の光学媒質膜、15…第k−2の光学媒質膜、16…第k−1の光学媒質膜、17…第kの光学媒質膜。
Claims (3)
- 第1の光学媒質からなる第1の光学媒質層とこの第1の光学媒質より高い屈折率を有する第2の光学媒質からなる第2の光学媒質層とを交互に積層した複数の第1の積層体を、前記第1の光学媒質または前記第2の光学媒質からなるキャビティ層を介して接続したキャビティ構造を有し、バンドパスフィルタとしての設計波長λにおける特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が1、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が1であるキャビティ構造体と、
このキャビティ構造体上に形成され、前記第1の光学媒質層と前記第2の光学媒質層とを交互に積層した第2の積層体と、
この第2の積層体上に形成され、前記第1の光学媒質または前記第2の光学媒質からなるキャビティ層と、
このキャビティ層上に形成され、前記第1の光学媒質層と前記第2の光学媒質層とを交互に積層した第3の積層体と、
この第3の積層体上に形成され、前記第1の光学媒質を、前記第1の光学媒質層の偶数倍の膜厚となるように形成した表面層と、
を有し、
前記第1の光学媒質層の屈折率をnL、前記第2の光学媒質層の屈折率をnHとした場合に、前記キャビティ構造体と前記第2の積層体と前記キャビティ層と前記第3の積層体と前記表面層とからなる光学多層膜フィルタの特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が(nH/nL)、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が(nL/nH)、または、第1行第1列が(−nH/nL)、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が(−nL/nH)であることを特徴とする光学多層膜フィルタ。 - 第1の光学媒質からなる第1の光学媒質層とこの第1の光学媒質より高い屈折率を有する第2の光学媒質からなる第2の光学媒質層とを交互に積層した複数の第1の積層体を、前記第1の光学媒質または前記第2の光学媒質からなるキャビティ層を介して接続したキャビティ構造を有し、バンドパスフィルタとしての設計波長λにおける特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が−1、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が−1であるキャビティ構造体と、
このキャビティ構造体上に形成され、前記第1の光学媒質層と前記第2の光学媒質層とを交互に積層した第2の積層体と、
この第2の積層体上に形成され、前記第1の光学媒質または前記第2の光学媒質からなるキャビティ層と、
このキャビティ層上に形成され、前記第1の光学媒質層と前記第2の光学媒質層とを交互に積層した第3の積層体と、
この第3の積層体上に形成され、前記第1の光学媒質を前記第1の光学媒質層の偶数倍の膜厚となるように形成した表面層と、
を有し、
前記第1の光学媒質層の屈折率をnL、前記第2の光学媒質層の屈折率をnHとした場合に、前記キャビティ構造体と、前記第2の積層体と、前記キャビティ層と、前記第3の積層体と、前記表面層とからなる光学多層膜フィルタの特性マトリックスの行列成分の第1行第1列が(nH/nL)、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が(nL/nH)、または、第1行第1列が(−nH/nL)、第1行第2列が0、第2行第1列が0、第2行第2列が(−nL/nH)であることを特徴とする光学多層膜フィルタ。 - 請求項1または2に記載の光学多層膜フィルタにおいて、
前記第1の光学媒質層と、前記第2の光学媒質層とを、これらの光学膜厚がそれぞれ、前記設計波長λに対して、λ/4の整数倍になるような膜厚で形成し、
前記キャビティ層を、このキャビティ層の光学膜厚が、前記設計波長λに対して、λ/2の整数倍になるような膜厚で形成したことを特徴とする光学多層膜フィルタ。
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