JP3945727B2 - 陽極酸化皮膜の形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マグネシウム又はマグネシウム合金の表面に陽極酸化皮膜を形成する方法に関し、具体的には、新規な組成の電解液を用いて陽極酸化処理することにより、金属素地表面の光沢及び色調を保持しており且つ耐食性であるマグネシウム製品又はマグネシウム合金製品を得る方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マグネシウム及びマグネシウム合金(以下の記載においては、この両者を含めてマグネシウム材料と記載する)は実用金属中で最も軽量で且つ比強度も大きいので、その特性を利用して、自動車、二輪車等の内外装部品、家電製品の部品、カバン、スーツケース等の収納容器類、スポーツ用品、光学機器の部品、杖、更にはコンピュータ、音響などの電子工業の新分野への応用も試みられ、実用されている。しかしながら、マグネシウム材料は実用金属中で最も活性な金属材料であるため、耐食性の点で素材のままでの使用は困難であった。
【0003】
マグネシウム材料の耐食性を改善するための表面処理法として、従来、化成処理や陽極酸化処理が実施されてきている。特に、陽極酸化処理で皮膜を形成し、更に封孔処理した場合には、比較的均一な皮膜が形成されるので、防錆処理や塗装の下地処理として利用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
マグネシウム材料の製品にその金属光沢及び色調を生かした装飾性を持たせる場合にはその表面を塗装することはできない。しかしながら、マグネシウム材料の表面は酸化され易いので、初期の金属光沢及び色調を保持するためには何らかの表面処理が必要である。
【0005】
従来実施されているクロム酸又は重クロム酸塩を使用した化成処理や陽極酸化処理で得られる皮膜は白色〜褐色〜黒色や緑色に着色してしまう。また、クロム酸も重クロム酸塩も使用しない陽極酸化処理で得られる皮膜でも耐食性を得ることができるが、その場合にはその膜厚が数μm以上になり、陽極酸化処理後の表面に曇りが生じたり、着色したりすることは避けられない。
【0006】
例えば、特開平9−176894号公報には、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩又は重炭酸塩を1種類以上含む水溶液に皮膜形成安定剤を添加してなる電解液を用いて陽極酸化皮膜を形成する表面処理方法が記載されており、この表面処理方法においては、陽極酸化皮膜の色調が素地色となる場合もあることが記載されているが、該公報に記載の形成法においても必要な耐食性を持つ皮膜厚さとなると着色してしまう。
また、マグネシウム材料表面の光沢及び色調を保持する表面処理法として有機クリヤ塗料を塗布する方法が一般的である。しかし、有機塗膜を形成することによる光沢及び色調の僅かな変化は避けられない。
【0007】
本発明は、従来の陽極酸化皮膜が有する欠点を解消した、即ち、マグネシウム材料の素地表面の光沢及び色調を変化させず且つ耐食性である陽極酸化皮膜の形成方法を提供することを課題としている。
また、本発明は、マグネシウム材料製品の表面に陽極酸化皮膜を形成することによる、マグネシウム材料の素地表面の光沢及び色調を保持しており且つ耐食性であるマグネシウム材料製品の製造方法を提供することを課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、金属を陽極酸化する際に皮膜形成安定剤として加えられていたリン酸塩をアルミン酸塩と併用して電解液を形成し、マグネシウム材料を陽極酸化することにより、高耐食性であるが薄くてこれまでにない無色透明の陽極酸化皮膜が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の陽極酸化皮膜の形成方法は、リン酸塩の濃度が0.05〜0.2Mであり、アルミン酸塩の濃度が0.2〜1Mであり、所望によりヒドロキシル基を有する有機化合物からなる浴安定剤を濃度1〜20g/lで且つアルミン酸塩の重量を基準にして10〜50重量%の量で追加含有する電解液中にマグネシウム又はマグネシウム合金(即ち、マグネシウム材料)を浸漬し、その表面を陽極酸化処理し、所望により、その後、熱水に浸漬して封孔処理を実施することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のマグネシウム製品又はマグネシウム合金製品の製造方法は、マグネシウム製品又はマグネシウム合金製品の表面に上記の陽極酸化皮膜の形成方法によって陽極酸化皮膜を形成することを特徴とするマグネシウム製品又はマグネシウム合金製品の製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の陽極酸化皮膜の形成方法は、いかなるマグネシウム材料の表面にも陽極酸化皮膜を形成することができる。そのような材料としては、例えば、Mg−Al系合金、Mg−Al−Zn系合金、Mg−Al−Mn系合金、Mg−Zn−Zr系合金、Mg−希土類元素系合金、Mg−Zn−希土類元素系合金等のマグネシウム合金や、マグネシウム金属がある。また、いかなる表面状態のマグネシウム材料にも陽極酸化皮膜を形成することができる。例えば、ダイカストのままの表面でも、研磨により鏡面仕上げした表面でもよい。
【0012】
本発明の陽極酸化皮膜の形成方法においては、前処理したマグネシウム材料を陽極酸化処理する。この前処理は、ダイカストのままの表面に対しては、マグネシウム材料の陽極酸化処理に先立って従来実施されていた公知の種々の処理法で実施することができ、例えばピロリン酸塩処理、苛性アルカリ処理で実施することができる。また、光沢を有する表面を形成する場合には、研磨により鏡面仕上げした表面を形成した後、その研磨表面を溶解しない(光沢をなくさない)前処理を実施する必要がある。このような前処理としては界面活性剤処理やアルカリ処理、或いはそれらの組合せによる洗浄を行うことが好ましい。
【0013】
本発明の陽極酸化皮膜の形成方法で用いるリン酸塩としては、リン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。これらのリン酸塩はリン酸塩として電解液中に添加しても、あるいはリン酸と水酸化アルカリ金属、水酸化アルカリ土類金属塩、水酸化アンモニウム等とを電解液中に添加し、電解液中でリン酸塩を形成させてもよい。
【0014】
電解液中のリン酸塩の濃度については、リン酸塩濃度が低過ぎると電解が不安定になったり、得られる陽極酸化皮膜に曇りが生じたりする傾向があり、即ち、陽極酸化皮膜の形成が不安定になる傾向があり、また、リン酸塩濃度が高過ぎると所望特性の陽極酸化皮膜が得られにくくなる傾向がある。従って、本発明においては、電解液中のリン酸塩の濃度は好ましくは0.05〜0.2Mである。
【0015】
本発明の陽極酸化皮膜の形成方法で用いるアルミン酸塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。電解液中のアルミン酸塩の濃度については、アルミン酸塩濃度が低過ぎると電解が不安定になったり、得られる陽極酸化皮膜の耐食性が不十分になったりする傾向があり、また、アルミン酸塩濃度が高過ぎると加水分解を起こして沈殿が生じる傾向がある。従って、本発明においては、電解液中のアルミン酸塩の濃度は好ましくは0.2〜1Mである。
【0016】
本発明の陽極酸化皮膜の形成方法で所望により用いる浴安定剤は、アルミン酸塩の加水分解を抑制することが知られているヒドロキシル基を有する有機化合物であり、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましく用いられる。浴安定剤を用いる場合には、電解液中の浴安定剤の濃度が1〜20g/lで且つアルミン酸塩の重量を基準にして10〜50重量%であることが好ましい。浴安定剤の濃度が1g/l未満であるか又はアルミン酸塩の重量を基準にして10重量%未満である場合には、浴安定剤の添加効果が不十分となる傾向があり、また、浴安定剤の濃度が20g/lを超えるか又はアルミン酸塩の重量を基準にして50重量%を超える場合には、得られる陽極酸化皮膜の耐食性に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0017】
本発明の陽極酸化皮膜の形成方法で用いる電解液のpHが12未満であると安定に電解することが困難になる傾向があるので、電解液のpHが12以上であることが好ましい。リン酸塩及びアルミン酸塩の濃度に依存してpHが変化するので、電解液に必要に応じてアルカリ物質を添加して電解液のpHを12以上とすることが好ましい。
また、電解液の温度が高過ぎると、電解が不安定になったり、得られる陽極酸化皮膜に曇りが生じたりする傾向がある。従って、電解液の温度は室温〜50℃が好ましい。
【0018】
本発明の陽極酸化皮膜の形成方法で陽極酸化処理する際の電源については、直流電源、交流電源、PR電源、パルス電源等の任意の電源を用いることができるが、一般的には直流電源又は交流電源を用いる。
それらの電源電圧については、30V未満の場合には陽極酸化皮膜の形成が困難であり、また、直流電源で100Vを超える場合及び交流電源で70Vを超える場合には電解が不安定になる傾向があり、好ましくない。直流電源の場合には90V以下、交流電源の場合には65V以下であることが好ましい。
【0019】
陽極酸化処理で得られた皮膜には多数の細孔があり、陽極酸化皮膜の耐食性を一層高めるためにはそれらの細孔を封孔処理することが好ましい。本発明の陽極酸化皮膜の形成方法においては、陽極酸化処理した後、所望により、公知の処理法に従って、熱水に浸漬して封孔処理を実施することができる。この熱水は85℃以上の純水であることが好ましく、また、処理時間は3〜15分間程度であることが好ましい。
【0020】
従来の技術で得られる陽極酸化皮膜は所望の耐食性を得るために膜厚を1μm〜数十μmにする必要があり、それで陽極酸化皮膜は白色〜褐色〜黒色や緑色に着色した皮膜であった。これに対して、上記した本発明の形成方法によって得られる陽極酸化皮膜は緻密であるため、極めて薄くても耐食性が良好であり、例えば、金属素地の光沢及び色調を変化させない厚さであっても、好ましくは0.1μm以下の厚さであっても、充分な耐食性を示す。即ち、マグネシウム材料素地表面の光沢及び色調をほとんど変化させないで耐食性に優れた表面とすることができる。
【0021】
以上に、陽極酸化皮膜の形成方法について説明したが、別の観点から見ると、本発明は、マグネシウム製品又はマグネシウム合金製品の表面に上記の方法によって陽極酸化皮膜を形成することを特徴とする金属素地表面の光沢及び色調を保持しており且つ耐食性であるマグネシウム製品又はマグネシウム合金製品の製造方法と見ることができる。このようなマグネシウム製品又はマグネシウム合金製品の具体例としては、MDウォークマン(登録商標)等として知られているMD録音再生装置やデジタルビデオカメラ等のケース、カバン、スーツケース類、自動車、二輪車の内外装部品、車椅子、杖等の福祉関連用具等がある。
【0022】
本発明の形成方法によって得られる陽極酸化皮膜は、上記したようにマグネシウム材料素地表面の光沢及び色調をほとんど変化させないで耐食性に優れている皮膜であるが、マグネシウム材料素地表面の光沢及び色調を少し犠牲にしてでも更に耐食性を上げるために、下地処理として本発明の陽極酸化皮膜の形成方法を用い、その陽極酸化皮膜上にクリヤー塗装することも可能である。例えば、クリヤーのアクリルラッカー塗装を施す場合には、マグネシウム材料の表面に直接塗装するよりも、本発明の形成方法によって得られる陽極酸化皮膜上に塗装した方が塗膜の密着性が向上し、耐食性も向上する。
【0023】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1
AZ91Dダイカスト板(50mm×50mm×3mm)を機械研磨によって鏡面仕上げし、その鏡面仕上げした表面を界面活性剤によって洗浄した。一方、リン酸三ナトリウム12水和物濃度60g/l、アルミン酸ナトリウム濃度60g/l、グリセリン濃度10g/l、pH13.0の電解液を用意し、この電解液の温度を30℃に維持しながら、上記の洗浄したダイカスト板を浸漬し、電解電圧80Vで30秒間直流電解を実施した。水洗後に更に90℃の純水中に5分間浸漬して封孔処理を実施し、その後乾燥した。
【0024】
上記のように陽極酸化処理を施し、封孔処理を実施したダイカスト板と、鏡面仕上げ及び洗浄のみを実施したダイカスト板とを、それらの表面の光沢及び色調について肉眼で比較したが、ほとんど差異は認められなかった。
上記のように陽極酸化処理を施し、封孔処理を実施したダイカスト板上の陽極酸化皮膜の膜厚をエリプソメトリーで測定したところ、60nmであった。
上記の陽極酸化皮膜を有するダイカスト板の耐食性について、塩水噴霧8時間−16時間放置を2サイクル繰り返して試験し、レイティングナンバ法によって評価した。その結果はR.N.9.0であった。
【0025】
実施例2
陽極酸化処理を90Vの直流で実施した以外は実施例1と同様に実施し、実施例1と同様に比較、測定、評価した。
陽極酸化処理を施し、封孔処理を実施したダイカスト板、及び鏡面仕上げ及び洗浄のみを実施したダイカスト板の表面の光沢及び色調について、ほとんど差異は認められなかった。陽極酸化処理を施し、封孔処理を実施したダイカスト板上の陽極酸化皮膜の膜厚は80nmであった。陽極酸化皮膜を有するダイカスト板の耐食性についてはR.N.9.0であった。
【0026】
実施例3
AZ91Dダイカスト板(50mm×50mm×3mm)を機械研磨によって鏡面仕上げし、その鏡面仕上げした表面を界面活性剤によって洗浄した。一方、リン酸三ナトリウム12水和物濃度40g/l、アルミン酸ナトリウム濃度20g/l、pH13.0の電解液を用意し、この電解液の温度を30℃に維持しながら、上記の洗浄したダイカスト板を浸漬し、電解電圧80Vで30秒間直流電解を実施した。水洗後に更に90℃の純水中に5分間浸漬して封孔処理を実施し、その後乾燥した。
【0027】
上記のように陽極酸化処理を施し、封孔処理を実施したダイカスト板と、鏡面仕上げ及び洗浄のみを実施したダイカスト板とを、それらの表面の光沢及び色調について肉眼で比較したが、ほとんど差異は認められなかった。
上記のように陽極酸化処理を施し、封孔処理を実施したダイカスト板上の陽極酸化皮膜の膜厚をエリプソメトリーで測定したところ、60nmであった。
上記の陽極酸化皮膜を有するダイカスト板の耐食性について、塩水噴霧8時間−16時間放置を2サイクル繰り返して試験し、レイティングナンバ法によって評価した。その結果はR.N.9.0であった。
【0028】
【発明の効果】
本発明の陽極酸化皮膜の形成方法によって得られる陽極酸化皮膜は緻密であるため、極めて薄くても耐食性が良好であり、金属素地の光沢及び色調を変化させない厚さであっても、好ましくは0.1μm以下の厚さであっても、充分な耐食性を示す。即ち、マグネシウム材料素地表面の光沢及び色調をほとんど変化させないで耐食性に優れた表面とすることができる。
Claims (5)
- リン酸塩の濃度が0.05〜0.2Mであり、アルミン酸塩の濃度が0.2〜1Mである電解液中にマグネシウム又はマグネシウム合金を浸漬し、その表面を陽極酸化処理することを特徴とする陽極酸化皮膜の形成方法。
- リン酸塩の濃度が0.05〜0.2Mであり、アルミン酸塩の濃度が0.2〜1Mであり、且つヒドロキシル基を有する有機化合物からなる浴安定剤の濃度が1〜20g/lで且つアルミン酸塩の重量を基準にして10〜50重量%である電解液中にマグネシウム又はマグネシウム合金を浸漬し、その表面を陽極酸化処理することを特徴とする陽極酸化皮膜の形成方法。
- 陽極酸化処理した後、熱水に浸漬して封孔処理を実施することを特徴とする請求項1又は2記載の陽極酸化皮膜の形成方法。
- 陽極酸化皮膜の厚さを0.1μm以下にする請求項1、2又は3記載の陽極酸化皮膜の形成方法。
- マグネシウム製品又はマグネシウム合金製品の表面に請求項1〜4の何れかに記載の形成方法によって陽極酸化皮膜を形成することを特徴とするマグネシウム製品又はマグネシウム合金製品の製造方法。
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