JP3941179B2 - 鋼の相変態予測方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材の品質管理、製造方法の改善等に有益な、鋼材の金属組織を計算によって高精度に予測する鋼の相変態予測方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼の化学組成および製造条件から鋼材の金属組織と機械的性質とを定量的に予測することができれば、試験片を採取して実際に金相試験、機械試験等を行う必要が無くなるので歩留まり向上に役立つ。さらに歩留まり向上に加えて製造方法の改善等にもフィードバックできるので鋼材の製造現場において重要視され、鋼材の金属組織等の予測方法の開発が精力的に行われてきた。
【0003】
これらの予測方法においては、鋼材製造中の個々の冶金現象ごとに計算モデルを作成し、それら全体を統合することにより、鋼材の金属組織や機械的性質を算出する方法が採られるのが一般的である。相変態の予測はこの中において中核的な役割を担う。この相変態の予測においては、オーステナイト(以後、「γ」と記す)相から相変態によって生成するフェライト(以後、「α」と記す)相の組織情報、すなわち、塊状フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト等の平均粒子径、体積分率、変態温度等が算出される。
【0004】
鋼の相変態の従来の予測方法としては、例えば、特許第2509492号公報の鋼板の材質予測法の中において変態モデルとして概括的に開示された例が知られている。しかし、この開示では、変態モデルの具体的な内容は明らかではなく、どのように計算すべきか不明確な部分もある。例えば、この特許第2509492号公報の実施例の段落0037において「次に、生成可能と判断された組織について任意の微小時間内の変態量の増分(ステップ406)及びフェライトについてはこの間の生成粒数の増分(ステップ405)を求める。」とあるが、どのように合金元素の効果を含めて計算すべきか不明である。予測方法の発明は精度が生命であり、技術者は精度の高い予測方法を追求する。予測方法の内容が開示されないのでは予測精度を評価することができず、当業者に対する開示の意味は大きいものとは言えない。
【0006】
γからの相変態を予測するためには、各種変態生成物の変態開始条件、核生成速度および成長速度を計算する必要がある。文献(小松原ら:住友金属,Vol.42-4('90),p.104、以後、「文献1」と記す)には、ポリゴナル・フェライト(塊状フェライト)、ウィッドマンステッテン・フェライト(針状フェライト)、パーライト、ベイナイト(文献1のベイナイトを、以後の説明では下部ベイナイトと記し、針状フェライトと下部ベイナイトを併せてベイナイトと呼ぶ)、マルテンサイト変態の開始条件、核生成および成長の式が示されている。たとえば、ポリゴナル・フェライト(塊状フェライト)変態の開始条件、核生成速度および成長速度はそれぞれ次の▲1▼〜▲4▼式で表現できる。
【0007】
開始条件:
|ΔG|≧0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・▲1▼
ここで、ΔGは塊状フェライト核生成の化学的駆動力(J/mol)である。
【0008】
核生成速度:
I = kφ1・Dc(1-Xc)T-1/2exp{-kφ2/(ΔG2・T)}・・・▲2▼
ここで、Iは核生成速度(1/(m3・s))、Dcはγ中の炭素の拡散定数(m2/s)、Xc はγ中の炭素濃度(モル(原子)分率)、Tは絶対温度(K)である。またkφ1(K1/2/m5)およびkφ2(J2・K/mol2)はともに定数である。
【0009】
成長速度:
αp = kF3{Dc(Cr-C0)2/(Cr-Ca)(C0-Ca)}1/2 ・・・・▲3▼
ここでαpはパラボリック速度定数(m/s1/2)、Cr、Caはγ/α界面でのそれぞれγ側、α側の炭素濃度(wt%)、C0は初期炭素濃度(wt%)である。このαpを用いて、ある時刻u(s)に生じた核のt(s)における半径r(m)を下記▲4▼式で求める。
【0010】
r(t) =αp ・(t-u)1/2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・▲4▼
以上の熱力学の理論式を用い、適当なkφ1、kφ2の値を設定すればFe−C−Si−Mn系で塊状フェライトの変態予測が可能である。ところが、一般の鋼には、Si、Mn以外にさまざまな目的のために各種の合金元素(Cu、Ni、Cr、Mo、B、Nb、V、Tiなど)が添加されており、これら合金元素は相変態に大きな影響を与える。
【0011】
上記の文献1における塊状フェライトの相変態の予測方法においては、各種の合金元素の影響は、この文献中に記述されている熱力学モデルで計算されるパラメータ、すなわち▲1▼式、▲2▼式中のΔGや▲3▼式中のCr、Caを通じて、変態開始条件、核生成、成長速度計算に反映されることになる。
【0012】
しかしながら、特にCr、Mo、Bなどを含む鋼に対しては、上記方法では精度の点で不十分であり、新たな予測方法の開発が製造現場から望まれていた。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、合金元素を含む鋼、なかでもCr、Mo、Bなどの合金元素を含む鋼に対して精度が高く、かつ簡便な相変態予測方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、γからの相変態を予測するモデルにおける各変態生成物の核生成速度および成長速度の計算に、合金元素の影響を定数等の形で実測データから一部採りいれることを検討した。この結果、相変態の予測が飛躍的に高精度になり、かつ合金元素についての定数等を変更することなく一定範囲の化学組成の鋼に対してその高精度を維持できることを確認した。すなわち、核生成速度、成長速度に対する各種の合金元素(Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、B、Nb、V、Tiなど)の効果を本発明では次の[1]と[2]の項目に分けて取り扱う。
【0015】
[1]熱力学計算にとり入れる効果
この[1]の効果は文献1等に記載された方法においても考慮されている効果であり、合金元素がγ中に均一に溶けることによって系の自由エネルギーを変化させ、変態開始温度や変態速度を変化させる効果をいう。熱力学計算を行う際に、上記▲1▼〜▲4▼式のような熱力学の理論式に従って、変態開始条件、核生成速度、成長速度計算に合金元素の効果が取り込まれる。
【0016】
図1は、例として塊状フェライトの成長速度に及ぼす合金元素の効果を図解した模式図である。この例示した塊状フェライトの変態モデルにおいては、炭素原子の拡散が塊状フェライト成長の律速過程である。熱力学計算でγ/α界面でのγ側の炭素濃度Cγを上げる合金元素は塊状フェライトの成長速度を上げ、反対に炭素濃度Cγを下げる元素は成長速度を下げる方向に作用する。
【0017】
[2]γ/α界面の移動速度に及ぼす合金元素の効果
合金元素の効果には、[1]の熱力学に基づく効果だけでなく、現状の熱力学計算にはとり込めないγ/α界面の移動速度、すなわち塊状フェライトの成長速度に及ぼす効果がある。すなわち、合金元素によっては、図1の下部に示すように、炭素の濃度とは直接の関係なくαの成長を遅らせる効果が高いものがある。
この[2]の効果は、合金元素が粒界面に偏析することにより核生成や成長を抑制する効果など、[1]以外の影響を全て含む。図1では、この[2]の効果を界面の“移動速度抑制”という語を用いて表現している。
【0018】
連続冷却過程で変態する場合には、この[2]の効果は合金元素の含有率だけでなく冷却速度にも依存する。この[2]の効果を計算にとり入れる具体的な方法は、後述するように実験式により計算される変態速度抑制指数を核生成速度式および成長速度式に掛け合わせることにより行う。
【0019】
本発明は上記の[1]および[2]の技術的思想に基づき、各種の合金元素を含む鋼について計算および実験を重ね、製造現場での試作を経て完成されたもので、その要旨は下記(1)および(2)の鋼の相変態予測方法にある。
【0020】
(1)オーステナイト相からの相変態によって塊状フェライト、針状フェライト、パーライト、下部ベイナイト、マルテンサイトの単一組織または複合組織が生じ得る鋼の金属組織を予測する方法であって、下記(a)で求めた相変態の化学的駆動力および各界面の炭素濃度を用い、かつ下記(b)によって得た変態速度抑制指数FNを下記(c)の各変態生成物の核生成速度式および成長速度式の各々に乗じて核生成速度および成長速度を計算することを特徴とする鋼の相変態予測方法。
【0021】
(a)熱力学モデルにより計算される相変態の化学的駆動力、オーステナイトと各変態生成物とで合金元素の濃度は同じで、炭素原子の分配のみが生じるパラ平衡を仮定して計算される、オーステナイト相とフェライト相の界面での両相の炭素濃度、オーステナイト相とセメンタイト相の界面でのオーステナイト相の炭素濃度。
【0022】
(b)合金元素の濃度、実験により定めた定数および冷却速度の項を含む関数であって、核生成速度および成長速度に及ぼす合金元素の影響を反映する、実測した連続冷却変態図および金相組織写真に基づいて決定される変態速度抑制指数FN。
【0023】
(c)熱力学において知られる各変態生成物の、オーステナイト中の炭素の拡散定数、オーステナイト中の炭素濃度および絶対温度から計算される核生成速度式、ならびにオーステナイト/フェライト界面でのそれぞれオーステナイト側、フェライト側の炭素濃度および初期炭素濃度から計算される成長速度式。
【0024】
(2)重量%で、Cr:0.03〜5%、Mo:0.03〜2%またはB:0.0003〜0.005%のうちの1種以上を含む鋼について計算する上記(1)の鋼の相変態予測方法。
【0025】
上記において本発明の材質予測方法が適用される鋼は、いわゆる低合金鋼の範囲の鋼であり、多元合金系低合金鋼または単に「多元合金系」もしくは「低合金鋼」と略記する。
【0026】
上記(1)において、相変態の駆動力、核生成速度式および成長速度式は従来技術で説明された▲1▼〜▲4▼式の熱力学の理論式が該当する。ただし、パーライトの成長速度式については、後記する▲5▼式を用いる。また、針状フェライトと下部ベイナイトの成長速度式については、文献1に記載されたTrivedi のモデルを用いる。熱力学モデルについては発明の実施の形態において補足説明するが、その骨子は文献1に記載されたモデルと同じである。上記の予測においては、冷却条件等によっては、塊状フェライト等を生成しない金属組織を予測することも当然ありうる。
【0027】
つぎに、上記[1]の熱力学計算にとり入れる効果および[2]のγ/α界面の移動速度に及ぼす合金元素の効果について詳しく説明する。
【0028】
図1においてγ側の炭素濃度を高める合金元素がαへの変態を促進するのはつぎの理由に基づく。すなわち、γからαに変態する際にα側からC原子がγ側に移動しなければCの固溶限の低いαは成長することができない。もし、ある合金元素がγ/α界面のγ側のC濃度を高める効果を有すると、その合金元素を添加するとγ界面からγ側内部にかけてのC濃度の勾配が大きくなりC原子の拡散が促進され、αから排出されるCをより速くγ側界面から除くことができα変態を促進させる。このような界面におけるC濃度等に対する合金元素の効果は、後記する熱力学計算によって算出される。 図2は塊状フェライト成長の速度定数の予測例を示す図である。Cu、Niについては熱力学計算のみで速度定数が精度良く計算でき、速度定数に対する合金元素固有の効果は特に無い。すなわち、Cu、Ni等については、従来の熱力学計算のみを行っておけば合金元素の影響はすべてとり入れたことになる。一方、Cr、Mo、B等は上記[2]の界面の移動速度に及ぼす効果を考慮しないで上記[1]の熱力学計算のみ行ったのでは実体と大きく外れた結果となる。また、図2には記載していないが通常0.04wt%以下程度含まれる固溶Nb、固溶Ti等も濃度当たりの界面移動速度を抑制する効果がMoと同程度に大きい。本発明は、このような従来の熱力学計算では考慮されていなかった効果を後記する方法によりとり入れる点に大きな特徴を有する。
【0029】
上記の本発明の相変態予測方法の特徴については、特に塊状フェライトの成長速度計算を例に挙げて説明したが、他には針状フェライト、パーライト、下部ベイナイト、マルテンサイト変態があり、いずれにおいても以上に述べた方法で合金元素の効果を取り込むことが可能である。
【0030】
本明細書においては、ベイナイトを針状フェライトと下部ベイナイトに分けるが、これは生成開始のエネルギー条件によって区分することができる。後の実施例中においては針状フェライトと下部ベイナイトを合わせてベイナイト(B)と記す。
【0031】
【発明の実施の形態】
次に、図3にしたがって本発明方法を上記のように限定した理由について説明する。
【0032】
1.初期条件の設定
初期条件の設定では、再結晶γの体積率と粒径、加工硬化した未再結晶γの体積率と粒径、加工硬化の程度(転位密度の関数)についての条件を設定する。γ粒界はαの核生成サイトとなるため、単位体積あたりの粒界面積の計算に必要なγ粒径を与える必要がある。また、加工硬化により相変態が促進されるため、加工硬化したγの体積率と加工硬化の程度を与える必要がある。このγ粒径や加工硬化の程度は、化学組成、加熱条件、圧延条件等から計算により求めることができる。これらの具体的な計算方法は、例えば、文献1に開示されている。
【0033】
2.各変態生成物の変態プログラム
つぎに、冷却中のγより生じる各変態生成物の時間推移を計算する。
【0034】
図4は、塊状フェライト、針状フェライト、パーライト、下部ベイナイト等の変態プログラムの構成を示す図である。図4には明示していないが、マルテンサイト変態プログラムは核生成、成長計算が含まれておらず、変態開始温度を与えるのみである。文献1に各変態生成物の変態開始条件、核生成速度および成長速度の計算式が開示されている。相変態モデルは、(a)熱力学モデル、および(b)核生成および成長モデルより構成されているので、合金成分による効果も(a)、および(b)のそれぞれについて考慮する必要がある。
【0035】
(a)熱力学モデル
このモデルでは、γと各変態生成物とで合金元素の濃度は同じで、炭素原子の分配のみが生じるパラ平衡を仮定し、γ/α界面およびγ/セメンタイト界面での炭素濃度と、相変態に伴う自由エネルギー変化を計算する。
【0036】
多元合金系での計算については、Fe−C−Mn3元系での計算方法をベースに、合金元素間(Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V等)の相互作用は無視して加算則で計算する。
【0037】
このモデルで計算された各変態生成物の駆動力、界面での炭素濃度が、図4の核生成および成長の開始条件ならびに核生成速度式および成長速度式に用いられる。
【0038】
(b)核生成および成長モデル
ここで、本発明のもっとも重要な部分について説明する。文献1で開示した方法では、核生成速度、成長速度に対する合金成分の影響は、核生成の駆動力と界面での炭素濃度にのみ反映されていた。すなわち、くり返し述べることになるが、先に示した塊状フェライトの開始条件、核生成速度および成長速度についての理論式である▲1▼式、▲2▼式および▲3▼式の中の核生成の駆動力と界面での炭素濃度にのみ反映されていた。しかしながら、本発明では塊状フェライトの核生成速度式である▲2▼式、成長速度式である▲3▼式、針状フェライトの核生成速度式(▲2▼式と同じ式であるが、定数の値は異なる)、パーライトの成長速度式(下に示す▲5▼式)、下部ベイナイトの核生成速度式(▲2▼式と同じであるが、定数の値は異なる)、のそれぞれに下記の▲6▼式で得た変態速度抑制指数FNを掛け合わせ、熱力学計算で考慮されなかった効果をとり入れる。
【0039】
G=kp・ΔT・DC(Cr-Cr cem) ・・・・・・・・・・・・・・▲5▼
ここで、ΔTは過冷度(K)、Cr cemはγ/セメンタイト界面でのセメンタイト側の炭素濃度、kpは定数である。
【0040】
Figure 0003941179
上記▲6▼式は、例示として合金元素、C、Si、Mn、Al、N、Cu、Ni、Cr、Mo、B、Nb、Ti、Vに限定して変態速度抑制指数FNをあからさまに記載した式である。
【0041】
ここで、WC、WSI、WMN、WAL、WN、WCU、WNI、WCR、WMO、WB、WNB、WTI、WVはそれぞれα中に固溶している炭素、珪素、マンガン、アルミニウム、窒素、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、ホウ素、ニオブ、チタン、バナジウムの濃度(wt%)、CRは冷却速度(℃/s)である。また、FNWC、FNWSI、FNWMN、FNWAL、FNWN、FNWCU、FNWNI、FNWCR、FNWMO、FNWB、FNWNB、FNWTI、FNWV、FNCC、FCRCR、FCRMO、FCRBは実験により決定する定数である。
【0042】
各合金元素による、核生成、成長の抑制効果の大小は、これらの定数の値を増減することにより表すことができる。
【0043】
ここで変態開始条件、核生成および成長の計算に含まれるパラメータは実測した連続冷却変態図(Continuous Cooling Transformation Diagram:以後、「CCT図」と記す)および金相組織写真に基づいて決定することができる。各合金元素の[1]熱力学計算にとり入れる効果および[2]γ/α界面の移動速度に及ぼす合金元素の効果を固溶合金元素である、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、B、Nb、VおよびTiに限定して例示すると下記のようになる。つぎの説明において、[1]の効果を[熱力学]、[2]の効果を[速度項]と略記する。
【0044】
Mn:
[熱力学]:Ae3点(平衡状態におけるγ/α変態開始点)を下げる。核生成、成長も遅くなり、Ar3点(連続冷却の場合における変態開始点。変態が微少量、例えば0.1%、進行した温度。)が下がる。
【0045】
[速度項]:下部ベイナイト変態速度を小さくする。
【0046】
Cu:
[熱力学]:Ae3点を下げる。核生成、成長も遅くなり、Ar3点が下がる。
【0047】
[速度項]:特に無し。
【0048】
Ni:
[熱力学]:Ae3点を下げる。核生成、成長も遅くなり、Ar3点が下がる。
【0049】
[速度項]:下部ベイナイト変態速度を小さくする。
【0050】
Cr:
[熱力学]:Ae3点を下げる。核生成、成長も遅くなり、Ar3点が下がる。
【0051】
[速度項]:塊状フェライト、針状フェライト、パーライト、下部ベイナイト、各変態速度を小さくする。下部ベイナイト変態抑制の効果は冷却速度が速くなると弱められる。
【0052】
Mo:
[熱力学]:Ae3点を上げる。核生成、成長を速くする。
【0053】
[速度項]:各変態速度を小さくするので、Ar3点は下がる。特にパーライト成長は極端に抑制される。塊状フェライト、針状フェライト、下部ベイナイト変態抑制の効果は冷却速度が速くなると弱められる。
【0054】
B:
[熱力学]:添加量が少ないので特に効果無し。
【0055】
[速度項]:塊状フェライト、針状フェライト、下部ベイナイトの核生成、成長を抑制する。塊状フェライト、針状フェライト変態抑制の効果は冷却速度が速くなると弱められる。
【0056】
Nb、V、Ti:
[熱力学]:添加量が少ないので特に効果無し。
【0057】
[速度項]:塊状フェライト、針状フェライト、パーライト、下部ベイナイト、各変態速度を小さくする。
【0058】
以上の方法を用いて核生成速度と成長速度を求めた後に、周知の拡張体積の概念を用いて、例えば塊状フェライト変態については、平衡状態での塊状フェライト体積分率XF max(すなわち塊状フェライト変態を起こしうる最大の体積分率)に対してフェライト変態がどれだけ進行したかの割合、XS(t)を下記▲7▼式で求めることができる。このXS(t)が一定値を超えたとき、または他の変態の開始温度に到達したときに計算を終了する。このXS(t)の一定値としては、たとえば95%とするのがよい。
【0059】
XS(t) =1 - exp(XE(t)/XF max)・・・・・・・・・・・・・・・・・▲7▼
ここでXE(t)は、核から成長中の各塊状フェライト粒がそれぞれ独立に、重なり合わずに成長すると計算したときの時刻t(s)における体積の総和である。
パーライト変態率、針状フェライト変態率、下部ベイナイト変態率についても同様な計算を行う。
【0060】
3.最終変態組織情報
各変態生成物の体積率、変態温度、フェライト粒径(塊状フェライトと針状フェライトの平均値)を出力する。
【0061】
上記(2)の発明は、従来の予測方法では特に低い精度でしか予測できなかった鋼に限定した予測方法である。すなわち、上記の(1)の発明が従来法に比較して飛躍的にその精度を高めた鋼についての予測方法である。重量%で、Cr:0.03〜5%、Mo:0.03〜2%またはB:0.0003〜0.005%のうち1種以上を含む鋼がその対象とする鋼である。Crは、0.03%未満では変態に及ぼす影響が明確に現れず、一方、5%を超えると本発明方法では予測精度が低下する。Moは、0.03%未満ではCr同様に変態に及ぼす影響は小さい。一方、2%を超えると上記の▲6▼式で表現されるようなMo濃度に対して線形に移動速度が抑制されるという評価方法では、高濃度域での飽和する傾向を見積もることができず、やはり予測精度が低下する。Bは0.0003%未満では、とくに熱間加工を未再結晶域で強く加えた場合には変態にはほとんど影響がなく、一方、0.005%を超えるとBの効果は飽和してしまいMoと同じ理由により予測精度が低下する。
【0062】
【実施例】
つぎに実施例により、本発明の効果を説明する。
【0063】
表1は、実施例に用いた供試鋼の化学組成を示す。
【0064】
【表1】
Figure 0003941179
【0065】
これらの鋼を950℃に加熱してγ化した後、連続冷却するときの変態生成物の種類と各変態温度の実測と予測を行った。相変態の実測は、表1に示す多元合金系低合金鋼の試験片(直径3mm、長さ10mm)を用いて、連続冷却時における各温度での熱膨張の測定と、最終的に得られた金相組織の観察により行った。
【0066】
図5は、実測した上記の鋼のCCT図である。(a)は鋼符号aについて、また(b)は鋼符号bについての実測CCT図である。図5(a)の100秒より長時間側の塊状フェライトFとベイナイトBの間にある塊状フェライト変態終了とベイナイト変態開始の間の領域は、変態の進行が生じない領域である。
【0067】
図6は、本発明方法を用いて予測したCCT図である。(a)は鋼符号aについての、また(b)は鋼符号bについての本発明の予測方法に基づくCCT図である。図6(a)または(b)のベイナイト領域の点線は、針状フェライトと下部ベイナイトを画する線である。高温側の実線と点線で囲まれた温度範囲の狭い領域が針状フェライトが生成する範囲であり、低温側の実線と点線で囲まれた温度域の比較的広い領域が下部ベイナイトが生成する範囲である。針状フェライトと下部ベイナイトを合わせて、ベイナイトB と表記している。また、図6(a)のおよそ300秒以上の長時間側の2本の点線の間の領域は、上記と同様に変態が停止している領域である。図5で示した実測CCT図と図6の計算に基づくCCT図を比べて分かるように、多元合金系低合金鋼の相変態が精度良く再現できる結果が得られた。
【0068】
図7は、これに対して比較例として、核生成、成長速度に対する合金成分の効果を[1]の熱力学計算にとどめ、本発明で用いたような方法を用いずに予測したCCT図である。(a)は鋼符号aの、(b)は鋼符号bの上記予測方法によるCCT図である。図7によれば、冷却速度の遅い領域において予測された金属組織は実測データに合致しなかった。
【0069】
【発明の効果】
本発明方法によれば、鋼の相変態を高精度かつ簡便に予測できるので、鋼材の材質予測技術の向上、ひいては鋼材製造における品質管理、さらに製造方法の改善に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】塊状フェライトの成長速度に影響を及ぼす合金元素の効果を図解する模式図である。
【図2】塊状フェライトの界面移動の速度定数に及ぼす合金元素含有率の影響を示す図である。
【図3】相変態予測方法において、一般的に行われる計算の概略を示す図である。
【図4】本発明の相変態予測における計算の概略を示す図である。
【図5】多元合金系低合金鋼の実測CCT図である。
【図6】本発明の相変態の予測方法に基づくCCT図である。
【図7】従来の相変態の予測方法に基づくCCT図である。

Claims (2)

  1. オーステナイト相からの相変態によって塊状フェライト、針状フェライト、パーライト、下部ベイナイト、マルテンサイトの単一組織または複合組織が生じ得る鋼の金属組織を予測する方法であって、下記(a)で求めた相変態の化学的駆動力および各界面の炭素濃度を用い、かつ下記(b)によって得た変態速度抑制指数FNを下記(c)の各変態生成物の核生成速度式および成長速度式の各々に乗じて核生成速度および成長速度を計算することを特徴とする鋼の相変態予測方法。
    (a)熱力学モデルにより計算される相変態の化学的駆動力、オーステナイトと各変態生成物とで合金元素の濃度は同じで、炭素原子の分配のみが生じるパラ平衡を仮定して計算される、オーステナイト相とフェライト相の界面での両相の炭素濃度、オーステナイト相とセメンタイト相の界面でのオーステナイト相の炭素濃度。
    (b)合金元素の濃度、実験により定めた定数および冷却速度の項を含む関数であって、核生成速度および成長速度に及ぼす合金元素の影響を反映する、実測した連続冷却変態図および金相組織写真に基づいて決定される変態速度抑制指数FN。
    (c)熱力学において知られる各変態生成物の、オーステナイト中の炭素の拡散定数、オーステナイト中の炭素濃度および絶対温度から計算される核生成速度式、ならびにオーステナイト/フェライト界面でのそれぞれオーステナイト側、フェライト側の炭素濃度および初期炭素濃度から計算される成長速度式。
  2. 重量%で、Cr:0.03〜5%、Mo:0.03〜2%またはB:0.0003〜0.005%のうちの1種以上を含む鋼について計算することを特徴とする請求項1に記載の鋼の相変態予測方法。
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