JP3929295B2 - コンクリート面被覆用防食パネル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンクリート構造物を保護するコンクリート面被覆用防食パネルに関する。
【0002】
【従来の技術】
コンクリート構造物の中でも、下水道施設や家畜糞尿処理施設等のように、厳しい環境条件下で使用されるものには、防食処理が施される。防食工法としては、主に塗装工法が行われているが、この塗装工法について従来の実績では、塗装皮膜のピンホール等の問題があり、5年程度というような短い期間で腐食が発生し、再び補修工事を行わねばならない状況が見られる。
【0003】
そこで、塗装工法に代わり、ビニルエステル樹脂系などのレジンコンクリート板や、ガラス繊維補強不飽和ポリエステルなどのFRP板等を利用した成型板形式の防食被覆工法(シートライニング)が注目され始めている。しかし、これらはいずれも板の重量が重く作業性に問題がある。一方、長期に耐酸・耐アルカリ性を有するポリオレフィン系樹脂製で約1mm程度の厚みのシートを防食に使用するものが提案されている。ポリエチレンやポリプロピレン等で代表されるポリオレフィンシートは、コンクリートとの付着をとるために、シートに多数の突起部を設けている。しかし、これらのシートの熱膨張率がコンクリートのそれより10倍ほど大きく、使用環境の温度変化による剥離や亀裂等により、コンクリート構造物の長期にわたる安定性の問題をかかえている。また、ポリオレフィンシートの目地部は熱融着による処理が行われているが、検査が十分でない場合には、欠陥が生じやすい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、前記問題点を解決し、軽量で作業性に優れ、コンクリートとの接着力に優れ、しかも長期にわたる安定性に優れたコンクリート面被覆用防食パネルを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明のコンクリート面被覆用防食パネルは、以下の構成を有する。
【0006】
(1)繊維補強されたポリオレフィン系樹脂からなる芯材と、この芯材の両面に一体化された耐食性樹脂フィルムとを有し、前記芯材は、ガラス短繊維とポリオレフィン樹脂粒子とが湿式抄紙法でウエブ化されたうえで熱プレスされた材料であって、組成−質量比がガラス短繊維/ポリオレフィン系樹脂=30〜70/70〜30であり、目付が1000〜6000g/m 2 であり、密度が0.4〜1.2g/cm 3 である材料にて形成されており、前記耐食性樹脂フィルムは、ポリエチレンフィルム・シートと、ポリプロピレンフィルムシートと、ポリエチレン・ポリプロピレン共重合フィルム・シートと、フッ素系樹脂からなるフィルム・シートとからなる群より選ばれたものであることを特徴とするコンクリート面被覆用防食パネル。
【0008】
(2)片面側の耐食性樹脂フィルムの表面に表面エネルギーを増加させる処理が施されていることを特徴とするコンクリート面被覆用防食パネル。
上記のように構成されたコンクリート面被覆用防食パネルは、軽量で、しかも長期にわたる安定性に優れている。従って、この防食パネルを用いてコンクリートの表面を覆った防食パネル被覆コンクリート構造物は、厳しい環境下でも長期間保護される。
【0009】
また、コンクリート面被覆用防食パネルの厚みが1〜9mmであり、建研式接着力試験機を用いて測定された前記パネルとコンクリート間との接着力が0.2N/mm2以上であることがより好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のコンクリート面被覆用防食パネルは、繊維補強されたポリオレフィン系樹脂からなる芯材と、この芯材の両面に一体化された耐食性樹脂フィルムとを有するものであり、接着剤等を使用してコンクリート面の被覆に供するためのものである。以下、「コンクリート面被覆用防食パネル」を単に「防食パネル」と称す。
【0011】
まず、繊維補強されたポリオレフィン系樹脂からなる芯材について説明する。補強のためのガラス短繊維は、繊維径6〜20μm、繊維長6〜30mmのものが、芯材の曲げ強度/弾性率の確保ならびに密度確保のために有効である。
【0012】
マトリックス樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が使用され、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンあるいはその共重合体などが挙げられる。
これら短繊維/樹脂からなる芯材原料の製造方法は、特許第2971161号などに記載されている。この文献においては、比重、形状の異なる材料を均一に混合するために、いわゆる湿式抄紙法が採用されている。例えば、繊維径6〜20μm、繊維長6〜30mmのガラス短繊維と、粒子径20〜200メッシュの樹脂とを水中に均一分散した液をつくり、これをメッシュベルトに連続して抄いてシート状物を形成させた後、脱水、乾燥、巻き取りを行う。これにより短繊維と樹脂とが均質な状態を維持したままの原料シート(ウエブ)が得られる。この方法の利点は、用いたガラス短繊維が開繊状態で繊維長を維持できる点にある。そして、得られた原料シートに熱プレス法を適用することにより、パネル状の芯材を製造することができる。なお、ガラス短繊維の損傷を伴わずに芯材の密度を調整可能であれば、湿式抄紙法以外の方法を使用することもできる。
【0013】
補強のためのガラス短繊維とポリオレフィン系樹脂との配合割合は、質量比で、ガラス短繊維/ポリオレフィン系樹脂=30〜70/70〜30の範囲であることが好ましい。
【0014】
芯材の目付は、1000g/m2〜6000g/m2の範囲であることが必要である。
芯材の密度は0.4g/cm3〜1.2g/cm3の範囲であることが必要である。この芯材の密度の調整は、湿式抄紙法により得た原料シートを使用したポリオレフィン系樹脂の軟化温度以上の温度で半溶融あるいは溶融状態に予熱、加熱プレスを行った後に、使用した補強用繊維の曲げ弾性回復力(自己復元力)を利用して冷却ゾーンでクリアランスを調整したうえで、冷却固化させることにより、行うことができる。このようにすると、同時に、所望のパネル厚みとすることができる。熱プレス工程は、加熱−冷却を連続して行える連続プレス法、半連続プレス法、バッチプレス法のいずれでもよい。しかし、生産性の観点からは、半連続・連続法が好ましい。
【0015】
次に、防食層を構成する材料としての耐食性樹脂フィルムについて説明する。
コンクリート製の下水道施設における水槽の内面や天井面は、コンクリートにとって有害な酸性溶液、雰囲気に曝される。そこで耐食性樹脂フィルムとしては、耐薬品性、特に耐酸性に優れた、ポリエチレン、ポリプロピレン、その共重合フィルム・シートを、好適に使用することができる。その厚みは、0.1mm〜1.5mmが好適である。
【0016】
フッ素系樹脂からなるフィルム・シートも、耐食性樹脂フィルムとして使用することができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレンプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。これらフッ素系樹脂からなるフィルム・シートは、単独あるいはポリエチレンやポリプロピレンなどと予め積層ラミネートしたフィルム・シートとして、用いることができる。そして、このフィルム・シートを、上述の芯材の熱プレス時または別工程において芯材と一体化させることで、防食層を形成することができる。
【0017】
パネル状の芯材の表側には、腐食環境下での耐腐食性を付与するために、上記の耐食性樹脂フィルムが設けられる。また、パネル状の芯材の裏側すなわちコンクリート側の面にも、浸透水やコンクリートに起因するアルカリ水溶液の影響があるため、このアルカリ水溶液の芯材への浸透を防止するために、防食層として、同様に耐食性樹脂フィルムを設ける。これにより、コンクリートに起因するアルカリ性溶液への耐性を持つ耐食性樹脂フィルム層が形成される。このような耐アルカリ性のある材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、その共重合フィルム・シートなどを好適に使用することができる。その厚みは、0.1mm〜1.5mmが好適である。
【0018】
本発明の防食パネルでコンクリート面を被覆する際には、接着剤が使用される。このときの接着剤との接着力を高めるために、防食パネルの片側面、すなわちコンクリート側にあたる面の耐食性樹脂フィルム面に表面エネルギーを増加させる処理が施されることが好ましい。
【0019】
このような表面処理は特に限定されるものではないが、例えば、フィルムの表面にプラズマ処理のような物理的処理を施して、フィルム表面に酸素基等を導入することによりフィルムを改質する方法が挙げられる。プラズマ処理を行う際の放電処理としては、ダイレクトフレームプラズマ、コロナ放電、グロー放電などが適宜使用できる。これらのプラズマ処理のうち、経済的には低温プラズマ処理が好ましい。
【0020】
また、プライマーの一種であるカプリング剤でその有機官能基をフィルム表面と結合させるような化学的処理方法が挙げられる。具体的には、カップリング剤を含むコーテング剤をフィルムの表面に塗布し、乾燥あるいは脱溶媒後、フィルムの表面に厚さ1〜10μmの皮膜を形成することで、容易にフィルムの表面処理を行える。カップリング剤を含むコーティング剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレンの変性樹脂でカルボニル基、カルボン酸基、エステル基、水酸基、アミノ基などを含むものを揮発性有機溶媒に溶かした溶液などが挙げられるが、環境面から変性樹脂の水エマルジョンを用いることが好ましい。コーティング剤が水性であると、その表面張力すなわち表面エネルギーが溶剤ベースのものより高いため、フィルム表面との接着力を高める効果が著しくなる。上記の表面処理はフィルム段階で行っても良く、パネルを形成した後に行っても良い。
【0021】
接着剤としては、コンクリートの表面やそれをモルタルで修復した表面の凹凸やゆがみをカバーするために、弾力性のあるものが好ましい。このような接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、ブチルゴムなどのゴム系の接着剤、接着フィルム(シート)などを用いることができるが、中でもエポキシ樹脂系の接着剤が好適に使用できる。接着剤の使用量は、300g/m2〜1500g/m2の範囲であることが好適である。また、接着剤の使用に先立ち、必要に応じて、コンクリートの表面やそれをモルタルで修復した表面にエポキシ樹脂系プライマーを塗布しても良い。
【0022】
以上において説明した防食パネルの製造方法においては、原料シート(ウエブ)、防食層を構成する耐食性樹脂フィルム、芯材の他の面(裏面)を構成するフィルムを積層して、加熱プレスすることにより芯材の形成及びフィルムとの一体化を同時に行う方法が、最も経済的で好ましい。しかし、芯材の形成やフィルムとの一体化を工程別に実施することもできる。
【0023】
このようにして得られたパネルは、その厚みが1〜9mmの範囲であることが好ましい。パネルの厚みが1mmよりも薄いと、繊維補強された芯材のもつ熱寸法安定効果すなわち熱膨張率の抑制効果が十分でなく、パネルの熱膨張率が高くなる。一方、パネルの厚みが9mmを超えると、パネルの重量が大きくなり、パネルをコンクリートに接着材で接合する際の施工性が悪くなる。
【0024】
次に、上述のコンクリート面被覆用防食パネルを用いたコンクリート面の被覆工事について説明する。
工事の対象としては、新設の場合と既存設備の補修の場合とがある。以下、既存設備の補修を例に挙げてその作業手順を説明するが、本発明はこの方法にのみ限定されるものではない。
(1)腐食・劣化部の除去:コンクリート劣化部を高圧水洗浄やハツリにより除去する。
(2)コンクリートの補修:劣化部の清掃を行なった後に、モルタル等を用いて、吹き付けや左官等で欠陥面の補修を行なう。必要に応じて、プライマー等を塗布する。
(3)防食パネルの設置:防食パネルの裏面全体に接着材を塗布し、事前に計画した割付図に基づいて、所定の位置に貼り付ける。
(4)目地部処理:パネル間の隙間(目地部)には、防食性能を有したシーリング材を充填させる。
【0025】
このように腐食のおそれのある、あるいは腐食されたコンクリート躯体の表面に、上述の防食パネルおよびその施工法を適用することにより、防食性に優れた防食パネル被覆コンクリート構造物を提供できる。この防食パネルで被覆されたコンクリート構造物において、防食パネルとコンクリート間の接着力としては、建研式接着力試験機を用いて測定された接着力が0.2N/mm2以上の性能を有することが好ましい。腐食環境下の施設/箇所としては、硫化水素の発生のおそれのある下水道施設の貯水槽、塩素やオゾンが溶け込んだ水に曝されるプール、下水または鉱山等の廃液を含む河川または水路、海浜地区、あるいは温泉地域などのように腐食性ガス、酸性雨や硫黄分の多い環境での使用、産業用の洗浄水や廃液などの貯水槽、家畜糞尿処理場などが挙げられる。
【0026】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
まず、コンクリート面被覆用防食パネルについて説明する。
コンクリート面被覆用防食パネルを構成する各材料は下記のように構成した。なお、パネルサイズは幅0.5m、長さ1m、厚み6mmとした。
【0028】
芯材の材料として直径13μm、長さ13mmのガラス短繊維と、50〜100メッシュ粒度のポリプロピレン粉末とを用い、ガラス短繊維とポリプロピレン粉末との配合割合を質量比で50/50として、湿式抄紙法により得た目付が2800g/m2の原料シート(ウエブ)を用いた。
【0029】
次に、耐食性樹脂フィルムとしては、厚さ1mmのポリプロピレンフィルム(シート)を芯材の両面に使用した。
上記原料シート(ウエブ)の両面に耐食性樹脂フィルムをが積層されるようにして、ダブルベルトプレス機を用いて連続プレス法により一体成形を行った。その条件としては、予熱の後、加熱ゾーンで200℃の条件で連続熱プレスし、引き続き、冷却ゾーンでベルト間のクリアランス調整を行い、冷却固化させて板厚が6mmで芯材密度0.7g/cm3のパネルを得た。
【0030】
このパネルの片面(上面)にコロナ放電ランプを用いてプラズマ処理し、引き続き、変性オレフィン樹脂の水エマルジョンをコートし、乾燥ゾーンで加熱・乾燥して、パネルを作成した。
【0031】
得られたパネルを、幅0.5m、長さ1mに切断した。端面(小口)の処理として、上述のポリプロピレンフィルム(シート)を6mm幅にカットしたものを、ポリオレフィン系のホットメルト樹脂を用いて温度200℃で貼り付け、防食パネルを補修用の施工に準備した。
【0032】
また、上記の防食パネルを用いて既設施設の補修を行った。
まず、腐食したコンクリート部を150MPaの超高圧水で除去し、ポリマーセメントモルタルを吹き付けて欠損部の補修を行なった。仕上げ面にエポキシ樹脂系プライマーを塗布した。シリコーン変性エポキシ弾性接着剤を500g/m2をコンクリート面被覆用防食パネルに塗布し、コンクリート仕上げ面に貼り付け、目地部にシリコーン樹脂でシーリングを行い、防食パネル被覆コンクリート構造物を完成させた。
【0033】
得られた防食パネル被覆コンクリート構造物は、耐腐食性や熱寸法安定性に優れており、腐食環境下に曝されても、長期間に渡って安定性に優れたものとなった。
【0034】
別途、接着試験を行うために、上記と同様のコンクリート仕上げ面に30cm角の防食パネルをシリコーン変性エポキシ弾性接着剤を用いて接着固定し、1週間後にコンクリートと防食パネル間の接着力を建研式接着力試験機を用いて測定したところ、その接着力は7N/mm2であった。
【0035】
【発明の効果】
以上のように本発明によると、パネルの芯材を繊維補強されたポリオレフィン系樹脂にて形成し、前記芯材を、ガラス短繊維とポリオレフィン樹脂粒子とが湿式抄紙法でウエブ化されたうえで熱プレスされた材料であって、組成−質量比がガラス短繊維/ポリオレフィン系樹脂=30〜70/70〜30であり、目付が1000〜6000g/m 2 であり、密度が0.4〜1.2g/cm 3 である材料にて形成したため、このパネルを軽量で熱寸法安定性に優れたものとすることができ、従って、コンクリートに接合する作業が容易で安全性に優れている。また、この防食性パネルにて表面を覆われたコンクリート面被覆用防食パネル被覆コンクリートは、使用環境の温度変化による剥離や亀裂などがなく、厳しい環境条件の下でも長期にわたる安定性を有するものとなる。
Claims (4)
- 繊維補強されたポリオレフィン系樹脂からなる芯材と、この芯材の両面に一体化された耐食性樹脂フィルムとを有し、前記芯材は、ガラス短繊維とポリオレフィン樹脂粒子とが湿式抄紙法でウエブ化されたうえで熱プレスされた材料であって、組成−質量比がガラス短繊維/ポリオレフィン系樹脂=30〜70/70〜30であり、目付が1000〜6000g/m 2 であり、密度が0.4〜1.2g/cm 3 である材料にて形成されており、前記耐食性樹脂フィルムは、ポリエチレンフィルム・シートと、ポリプロピレンフィルムシートと、ポリエチレン・ポリプロピレン共重合フィルム・シートと、フッ素系樹脂からなるフィルム・シートとからなる群より選ばれたものであることを特徴とするコンクリート面被覆用防食パネル。
- 片面側の耐食性樹脂フィルムの表面に表面エネルギーを増加させる処理が施されていることを特徴とする請求項1記載のコンクリート面被覆用防食パネル。
- コンクリートの表面が請求項1または2に記載のコンクリート面被覆用防食パネルにて覆われていることを特徴とする防食パネル被覆コンクリート構造物。
- コンクリート面被覆用防食パネルの厚みが1〜9mmであり、建研式接着力試験機を用いて測定された前記防食パネルとコンクリート間の接着力が0.2N/mm2以上であることを特徴とする請求項3記載の防食パネル被覆コンクリート構造物。
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