JP3928466B2 - 高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、硬質被覆層がすぐれた放熱性を有し、さらに強度および靭性、並びに高温硬さおよび耐熱性にもすぐれ、したがって高い発熱を伴うステンレス鋼や高マンガン鋼などの難削材の高速切削加工に用いた場合に、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具(以下、被覆BN基工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、被覆BN基工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップや、前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて、面削加工や溝加工、さらに肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
【0003】
また、被覆BN基工具として、例えば特開平8−119774号公報などに記載されるように、きわめて硬質であり、反面強度および靭性に劣るために、切削速度は高いが、切り込みや送りが小さい条件で切削加工が行なわれる高速表面仕上げ加工にしか用いられていなかった立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具を基体(以下、BN基基体という)とし、このBN基基体の表面に、切削工具自体に強度と靭性を付与せしめて、通常の条件条件で各種の鋼や鋳鉄などの連続切削加工や断続切削加工を行なっても、切刃部に欠けや摩耗(微小欠け)などが発生しないようにする目的で、組成式:(Al1-ZTiZ )N(ただし、原子比で、Zは0.25〜0.45を示す)を満足するAlとTiの複合窒化物[以下、(Al,Ti)Nで示す]層からなる硬質被覆層を0.5〜10μmの平均層厚で物理蒸着してなる被覆BN基工具が知られている。
【0004】
さらに、上記の被覆BN基工具が、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記のBN基基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成を有するAl−Ti合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記BN基基体には、例えば−250Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記BN基基体の表面に、上記(Al,Ti)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより製造されることも知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆BN基工具においては、これをステンレス鋼や高マンガン鋼などの難削材の切削加工を通常の条件で行なうのに用いた場合には問題はないが、これをきわめて粘性の高い前記の難削材の高速切削に用いた場合には、切削に際して発生する高熱によって切刃部に偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し、この結果摩耗進行が著しく促進されるようになることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特にステンレス鋼や高マンガン鋼などの難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆BN基工具を開発すべく、上記の従来被覆BN基工具を構成する硬質被覆層に着目し、研究を行った結果、
(a)上記の図2に示されるアークイオンプレーティング装置を用いて形成された従来被覆BN基工具を構成する(Al,Ti)N層は、層厚全体に亘って実質的に均一な組成を有し、したがって均質な高温硬さと耐熱性、さらに強度と靭性を有するが、例えば図1(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造のアークイオンプレーティング装置、すなわち装置中央部にBN基基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に相対的にAl含有量の高いAl−Ti合金、他方側に上記の従来(Al,Ti)N層の形成に用いたのと同じ組成の相対的にAl含有量の低いAl−Ti合金をカソード電極(蒸発源)として対向配置したアークイオンプレーティング装置を用い、この装置の前記回転テーブルの外周部に沿って複数のBN基基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される硬質被覆層の層厚均一化を図る目的でBN基基体自体も自転させながら、前記の両側のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記BN基基体の表面に(Al,Ti)N層を形成すると、この結果の(Al,Ti)N層においては、回転テーブル上にリング状に配置された前記BN基基体が上記の一方側の相対的にAl含有量の高いAl−Ti合金のカソード電極(蒸発源)に最も接近した時点で層中にAl最高含有点が形成され、また前記BN基基体が上記の他方側の相対的にAl含有量の低いAl−Ti合金のカソード電極に最も接近した時点で層中にAl最低含有点が形成され、上記回転テーブルの回転によって層中には層厚方向にそって前記Al最高含有点とAl最低含有点が所定間隔をもって交互に繰り返し現れると共に、前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造をもつようになること。
【0007】
(b)上記(a)の繰り返し連続変化成分濃度分布構造の(Al,Ti)N層において、例えば対向配置のカソード電極(蒸発源)のそれぞれの組成を調製すると共に、BN基基体が装着されている回転テーブルの回転速度を制御して、
上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-XTiX )N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.20を示す)、
上記Al最低含有点が、組成式:(Al1-YTiY )N(ただし、原子比で、Yは0.25〜0.45を示す)、
をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とAl最低含有点の厚さ方向の間隔を0.01〜0.1μmとすると、
上記Al最高含有点部分では、AlNのもつきわめてすぐれた熱伝導性と同等の熱伝導性を示し、一方上記Al最低含有点部分では、上記の従来(Al,Ti)N層と同等の強度と靭性、さらに高温硬さと耐熱性を示し、かつこれらAl成分最高含有点とAl成分不含有点の間隔をきわめて小さくしたことから、層全体の特性としてすぐれた熱伝導性を具備するようになるほか、強度と靭性、さらに高温硬さと耐熱性も具備するようになり、したがって、硬質被覆層がかかる構成の(Al,Ti)N層からなる被覆BN基工具は、特に高い発熱を伴うステンレス鋼や軟鋼などの難削材の高速切削加工でも、硬質被覆層がすぐれた放熱性を発揮し、切刃部の過熱が著しく抑制され、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が阻止されることから、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
【0008】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、装置中央部にBN基基体の装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側にAl最高含有点形成用Al−Ti合金、他方側にAl最低含有点形成用Al−Ti合金をカソード電極(蒸発源)として対向配置したアークイオンプレーティング装置を用い、前記回転テーブルの外周部に沿って複数のBN基基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、BN基基体自体も自転させながら、前記の両側のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記BN基基体の表面に、(Al,Ti)Nからなる硬質被覆層を5〜10μmの全体平均層厚で蒸着してなる被覆BN基工具にして、
上記硬質被覆層が、層厚方向にそって、Al最高含有点とAl最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、さらに、
上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.20を示す)、
上記Al最低含有点が、組成式:(Al1-Y TiY )N(ただし、原子比で、Yは0.25〜0.45を示す)、
をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とAl最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである、
高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆BN基工具に特徴を有するものである。
【0009】
つぎに、この発明の被覆BN基工具において、これを構成する硬質被覆層の構成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)Al最高含有点の組成
Al最高含有点の(Al,Ti)N層におけるTi成分は、きわめてすぐれた熱伝導性を有するが、反面強度および靭性の低いAlNの強度および靭性を向上させる目的で含有するものであり、したがってTi成分の含有割合が高くなればなるほど強度および靭性は向上したものになるが、反面熱伝導性の低下は避けられないものであり、したがってその含有割合を示すX値がAlとの合量に占める割合(原子比)で0.05未満では所望の強度および靭性を確保することができず、一方そのX値が同じく0.20を越えて高くなると、熱伝導性が急激に低下し、放熱機能が低下して切刃部の熱塑性変形が避けられなくなり、摩耗が急激に進行するようになることから、そのX値を0.05〜0.20と定めた。
【0010】
(b)Al最低含有点の組成
上記の通りAl最高含有点は熱伝導性のすぐれたものであるが、反面強度および靭性の劣るものであるため、このAl最高含有点の強度と靭性不足を補う目的で、相対的にTi含有割合が高く、これによって強度および靭性を有し、さらにAl成分の含有によって高温硬さと耐熱性も有するようになるAl最低含有点を厚さ方向に交互に介在させるものであり、したがってTiの含有割合を示すY値がAlとの合量に占める割合(原子比)で0.25未満では、所望のすぐれた強度および靭性、さらにすぐれた高温硬さと耐熱性を確保することができず、一方そのY値が同じく0.45を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり過ぎて、特に所望の高温硬さと耐熱性(高温特性)を確保することができず、これが摩耗促進の原因となることから、そのY値を0.25〜0.45と定めた。
【0011】
(c)Al最高含有点とAl最低含有点間の間隔
その間隔が0.01μm未満ではそれぞれの点を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果層に所望のすぐれた熱伝導性と、強度および靭性、さらに高温特性を確保することができなくなり、またその間隔が0.1μmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちAl最高含有点であれば強度および靭性不足、Al最低含有点であれば放熱性(熱伝導性)不足が層内に局部的に現れ、これが原因で切刃の摩耗進行が促進されるようになることから、その間隔を0.01〜0.1μmと定めた。
【0012】
(d)硬質被覆層の全体平均層厚
その層厚が0.5μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、切刃にチッピング(微小欠け)が発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜10μmと定めた。
【0013】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆BN基工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の平均粒径を有する立方晶窒化硼素(以下、c−BNで示す)粉末、炭化チタン(以下、TiCで示す)粉末、窒化チタン(以下、TiNで示す)粉末、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)粉末、炭化タングステン(以下、WCで示す)粉末、Al粉末、TiとAlの金属間化合物粉末であるTi3Al粉末、TiAl粉末、およびTiAl3粉末、さらに組成式:Ti2AlNを有する複合金属窒化物粉末、硼化チタン(以下、TiB2で示す)粉末、窒化アルミニウム(以下、AlNで示す)粉末、硼化アルミニウム(以下、AlB2で示す)粉末、酸化アルミニウム(Al2O3で示す)粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に30分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:5GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.5時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研摩し、ワイヤー放電加工装置にて一辺3mmの正三角形状に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびCIS規格TNGA160408の形状(厚さ:4.76mm×一辺長さ:16mmの正三角形)をもったWC基超硬合金製チップ本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:30%、Zn:28%、Ni:2%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、これに仕上げ研摩を施すことによりBN基チップ基体A〜Rをそれぞれ製造した。
【0014】
ついで、上記のBN基チップ基体A〜Rのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上に外周部にそって所定間隔をもって設けた多段回転支持板上に載置し、一方側のカソード電極(蒸発源)として、種々の成分組成をもったAl最低含有点形成用Al−Ti合金、他方側のカソード電極(蒸発源)として、種々の成分組成をもったAl最高含有点形成用Al−Ti合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置し、またボンバート洗浄用金属Tiも装着し、まず装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転するBN基チップ基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加して、カソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もってBN基チップ基体表面をTiボンバート洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転するBN基基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加して、それぞれのカソード電極(前記Al最低含有点形成用Al−Ti合金およびAl最高含有点形成用Al−Ti合金)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記BN基チップ基体の表面に、層厚方向に沿って表3,4に示される目標組成のAl最低含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表3,4に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表3,4に示される目標全体層厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明被覆BN基工具1〜18をそれぞれ製造した。
【0015】
また、比較の目的で、上記のBN基チップ基体A〜Rの表面への硬質被覆層の形成を、図2に示される通常のアークイオンプレーティング装置を用い、カソード電極(蒸発源)として種々の成分組成をもったAl−Ti合金を装着し、さらにボンバート洗浄用金属Tiも装着し、まず装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、BN基チップ基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加して、カソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もってBN基チップ基体表面をTiボンバート洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記BN基チップ基体に印加するバイアス電圧を−100Vに下げて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させる条件にて行なって、前記BN基チップ基体A〜Rのそれぞれの表面に、表5,6に示される目標組成および目標層厚を有し、かつ層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Al,Ti)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成する以外は、上記の本発明被覆BN基工具1〜18の製造条件と同じ条件で従来被覆BN基工具1〜18をそれぞれ製造した。
【0016】
つぎに、上記本発明被覆BN基工具1〜18および従来被覆BN基工具1〜18について、これを工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:0.4mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件でのステンレス鋼の乾式連続高速切削加工試験、
被削材:JIS・SCMnH1の丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:0.3mm、
送り:0.15mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での高マンガン鋼の乾式連続高速切削加工試験、さらに、
被削材:JIS・SCMnH1の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:200m/min.、
切り込み:0.3mm、
送り:0.15mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件での高マンガン鋼の乾式断続高速切削加工試験を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表3〜6に示した。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
【表5】
【0022】
この結果得られた本発明被覆BN基工具1〜18を構成する硬質被覆層におけるAl成分最高含有点とAl成分最低含有点の組成、並びに従来来被覆BN基工具1〜18の硬質被覆層の組成をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、これらの本発明被覆BN基工具1〜18の硬質被覆層におけるAl成分最高含有点とAl成分不含有点間の間隔、およびこれの全体層厚、並びに従来被覆BN基工具1〜18の硬質被覆層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標値と実質的に同じ値を示した。
【0023】
【発明の効果】
表2〜5に示される結果から、硬質被覆層が層厚方向にAl最低含有点とAl最高含有点とが交互に所定間隔をおいて繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有する本発明被覆BN基工具は、いずれも特に高い発熱を伴うステンレス鋼や高マンガン鋼などの難削材の高速切削で、前記硬質被覆層がすぐれた放熱性を発揮し、これによって高熱に曝されても切刃部の熱塑性変形が抑制されるようになり、さらに硬質被覆層の具備する高強度と高靭性、およびすぐれた高温硬さと耐熱性と相俟って、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、硬質被覆層が層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Al,Ti)N層からなる従来被覆超硬工具においては、前記硬質被覆層が高強度と高靭性、さらにすぐれた高温硬さと耐熱性を有するものの、十分な放熱性を具備するものでないために切刃部が熱塑性変形を起し、これが原因で偏摩耗が発生し、摩耗進行が促進するようになることから、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆BN基工具は、通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に高い発熱を伴うステンレス鋼や高マンガン鋼などの難削材の高速切削加工に用いた場合にも、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の被覆BN基工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。
【図2】従来被覆BN基工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いた通常のアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。
Claims (1)
- 装置中央部に立方晶窒化硼素基焼結材料基体の装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側にAl最高含有点形成用Al−Ti合金、他方側にAl最低含有点形成用Al−Ti合金をカソード電極(蒸発源)として対向配置したアークイオンプレーティング装置を用い、前記回転テーブルの外周部に沿って複数の前記基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、前記基体自体も自転させながら、前記の両側のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記基体の表面に、AlとTiの複合窒化物層からなる硬質被覆層を5〜10μmの全体平均層厚で蒸着してなる表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具にして、
上記硬質被覆層が、層厚方向にそって、Al最高含有点とAl最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、さらに、
上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.20を示す)、
上記Al最低含有点が、組成式:(Al1-Y TiY )N(ただし、原子比で、Yは0.25〜0.45を示す)、
を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とAl最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmであること、
を特徴とする高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具。
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