JP3926725B2 - 顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、顕微鏡に用いられる高解像の液侵対物レンズ用先端光学素子の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、高解像、高倍率をうるために、標本と顕微鏡用対物レンズの先玉レンズ(先端光学素子)との間に、空気よりも屈折率の大きい水やオイル等の液体を充填して使用する液侵対物レンズがある。この先玉レンズには、半球もしくは半球に近いレンズが使用され、収差性能を良くするために、レンズ先端中央に分散や屈折率の異なる微小レンズを埋め込んであるものが多い(例えば、特許文献1の図2参照)。
【0003】
このような先玉レンズを用いた対物レンズは、図4(特許文献1の第5図)に示すように先玉レンズ90の有効径外から有害光線60が入射してフレアが生じる問題があるが、この問題を解決するため、従来、先玉レンズ90の有効径外から有害光線60を遮断する方法が幾つか提案されている。例えば、図5に示すように、先玉レンズ90を保持する枠70に絞り30を貼り付けて有害光線60を遮断する方法、図6に示すようにレンズ保持枠70にフランジ部40を設けて先玉レンズ90をカシメ保持するか若しくは接着保持してこのフランジ部40で有害光線を遮断する方法、及び図7に示すように先玉レンズ90のレンズ表面の光線有効径の外側に金属膜50を蒸着させて有害光線60を遮断する方法等である。
【0004】
【特許文献1】
実開平4−46416号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図5に示された方法では、高解像のNA(開口数)の大きい液侵対物レンズの場合、WD(標本から対物レンズ先端までの距離)が一般的には0.1〜0.2mm程度と非常に短いので、絞り30の厚みによりWDが短くなってしまう。
【0006】
また、図6に示された方法では、フランジ部40の厚みを考慮した場合、これもWDが短くなってしまう。また、フランジ部40の厚みはWDの損失を少なくするために非常に薄く加工する必要があり、その加工精度を良くするためには余り長くできない。従って、先玉レンズ90の中央に埋め込みレンズがある場合は、埋め込みレンズの縁部80までフランジ40を形成できないことがある。この場合、埋め込みレンズと先玉レンズ90との間には薄い接着剤の層があるため、埋め込みレンズの縁部80で錯乱光が発生してフレアーになる場合がある。
【0007】
また、図7に示された方法では、金属膜50を蒸着させる場合、200〜300℃の高温の中にレンズを入れなくてはならない。先玉レンズ90に微小のレンズを埋め込み接着してある場合は、この高温により埋め込みレンズが剥がれてしまうことがある。普通、微小レンズは、埋め込み後(図8(a)参照)にそのレンズ端面Aを埋め込まれるレンズの端面Bと同一面になるように研磨加工が施される(図8(b)参照)。これは、対物レンズの先端に段差があると、対物レンズ先端と標本との間に充填されているオイルや水の中に気泡が入り易くなってしまうからである。このため、微小レンズ埋め込み前に金属膜50を蒸着することは適当でない。更に、単レンズにおいても、液浸対物レンズに用いられるものは、使用後オイルや水を拭き取る必要があり、この作業を何度も繰り返せば金属膜50が剥げてくる可能性もある。
【0008】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、WDを損なうことなくフレアーを起こす有害光線を遮断でき、且つ耐性的にも問題のない顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明による顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子は、先端中央部に微小光学素子が埋め込まれている顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子において、先端側から順に第1光学素子と第2光学素子とを有していて、前記第1光学素子と前記第2光学素子との間には有害光束を遮断する遮光膜が形成されており、先端中央部に前記第1光学素子から前記第2光学素子へ向けて形成された凹部に前記第1光学素子と前記第2光学素子とに接触するように前記微小光学素子が埋め込まれていることを特徴とする。
また、本発明による顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子は、前記遮光膜が、金属蒸着膜、塗装材料及び金属箔の何れかにより形成されていることが望ましい。
また、上記目的を達成するため、本発明による顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子の製造方法は、先端中央部に微小光学素子が埋め込まれている顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子の製造方法において、第1光学素子または第2光学素子の一面に遮光膜を形成し、先端側から順に前記第1光学素子と前記第2光学素子とを該遮光膜を挟んで貼り合わせた後、先端中央部に前記第1光学素子から前記第2光学素子へ向けて凹部を形成し、前記凹部に前記第1光学素子と前記第2光学素子とに接触するように前記微小光学素子を埋め込むことを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図示した実施例に基づき説明するが、説明に先立ち本発明の作用効果について述べることにする。
請求項1乃至3に記載の発明によれば、鏡枠に絞りを貼りつけたり、鏡枠にフランジを設けたりしなくても、有害光束を遮光できるため、対物レンズと標本との間に十分なスペースを確保できる。しかも、遮光領域に用いられる部材は、直接に水やオイルなどの溶液に接しないため、金属蒸着物質,塗料及び金属箔など制限なく使用することができる。例えば、遮光領域の位置精度を向上させたい場合は金属蒸着物質を、安価で種々の色を用いたい場合には塗料を、また、光学素子との接着工程や遮光領域の形成を容易にするには金属箔を、と用途や要求に合わせて材料を選択することができる。
【0011】
また、遮光領域に用いる部材は溶液に接しないため、水やオイル或いは標本に悪影響を及ぼすこともない。また、先端光学素子である先玉レンズの内側に遮光領域があるため、検鏡後、対物レンズ先端の水やオイルなどの溶液を拭き取る作業を何度も繰り返しても、遮光領域に変化は起こらない
【0013】
また、本願では、液浸用対物レンズで収差を向上させるために、先玉レンズの先端中央部に分散や屈折率の異なる微小レンズを埋め込んであるタイプのレンズを製造する方法であって、該先玉レンズを構成する第1光学素子と第2光学素子の何れか一方の一面全面に遮光領域を形成し、該遮光領域が形成された面を挟んで前記第1光学素子と第2光学素子を貼り合わせ、その貼り合わせ状態で中心部に凹部を形成し、該凹部に第3光学素子を埋め込んで先玉レンズを製造する方法を提案している。この方法を用いれば、前述の作用効果を持つ先玉レンズが製造できる。この場合、第1光学素子もしくは第2光学素子において、有効光束を確保するような遮光領域を形成しなくても、第3光学素子を埋め込む凹部の加工時に有効光束領域が形成されるため、効率の良い製造が可能となる。また、遮光領域の形成後に第3光学素子の埋め込み接着を行うので、遮光領域を蒸着で形成する場合でも熱による埋め込み部の接着剤剥がれが生じない。
【0014】
参考例
図1は、本発明にかかる顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子(先玉レンズ)の参考例を示す断面図で、(a)は先玉レンズへの光線の入射状態を示す概略図、(b)は先玉レンズの形成方法を示す説明図である。
図中、1は標本、2はオイル又は水等の媒質、3は接着形成された平行平面光学素子4と光学素子5との間に設けられた絞りである金属膜で、この金属膜3と平行平面光学素子4と光学素子5は、先玉レンズを構成する。そして、標本1からの光束は、金属膜3からなる絞りにより有害光束6が遮断され、有効光束7のみを通過させることができる。
【0015】
金属膜3は、酸化クロムや酸化チタンなどからなり、図1(b)に示されるように、光学素子接着面の有効光束を遮断しないように平行平面光学素子4の光学素子5側の表面に輪帯状に真空蒸着され、その後、この平行平面光学素子4は金属膜3を挟んで光学素子5と接着させられて、先玉レンズが形成される。金属膜3は、平行平面光学素子4ではなくて、光学素子5の接着面に蒸着されても良い。
【0016】
以上のようにして形成された先玉レンズを鏡枠に組み込めば、従来行っていた鏡枠に絞りを貼り付けたり、鏡枠にフランジを設けたりしなくても、有害光線の遮光が行えるため、先玉レンズの先端と標本1との間のスペースの確保が十分に行え、WDの損失がない。また、金属膜絞りが先玉レンズの中に形成されることにより、金属膜の劣化が起こることもなく、耐性的にも問題が起こらない。
【0017】
実施例
図2は、本発明にかかる顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子(先玉レンズ)の実施例を示す断面図で、(a)は先玉レンズへの光線の入射状態を示す概略図、(b)は先玉レンズの形成方法を示す説明図である。図中、参考例と実質上同一の部材には同一符号が付され、それらについての説明は省略されている。
実施例は、収差性能を向上させるために、先玉レンズの先端中央に光の分散や屈折率の異なる微小レンズ8を埋め込んであるタイプであり、図2(a)に示されるように、標本1からの光束は、接着形成されている平行平面光学素子4と光学素子5の間に設けられた金属膜3からなる絞りにより有害光6が遮断され、有効光束7のみを透過し得るように構成されている。
【0018】
このタイプの先玉レンズは、先ず、図2(b)に示すように、平行平面光学素子4の光学素子5との接着側表面全面に、酸化クロムや酸化チタンなどの金属膜3を真空蒸着させて、この金属膜3を挟んで平行平面光学素子4に光学素子5を接着し、次に、平行平面光学素子4から光学素子5へ向けてその中心部に、微小レンズ8を埋め込むための凹部9を加工し、これに加工前のレンズ8'を埋め込んで接着し、その後、このレンズ8'の不要部分をカットし、表面を研磨してレンズ表面の段差をなくすことにより、形成される。なお、金属膜3は、平行平面光学素子4でなくて光学素子5の接着面に形成されても良い。
【0019】
この製造方法は、埋め込みレンズ8’の有効径ぎりぎりまで金属膜3で絞ることができるので、従来行っていた鏡枠に絞りを貼り付けたり、鏡枠にフランジを設けたりする方法よりも有効に有害光束6を遮断することができる。また、埋め込みレンズ8の縁部8aより後方で光束を絞ることができるので、錯乱光によるフレアの心配もない。更に、参考例の場合と同様に、先玉レンズ先端と標本1との間に十分なスペースを確保できるためWDの損失がないし、金属膜の絞りがレンズの中に形成されているため金属膜の劣化が起こることもなく、耐性的にも問題が起こらない。
【0020】
なお、参考例及び実施例では、輪帯状に形成される遮光領域が金属膜で構成されるものとして説明したが、これは塗料や金属箔で構成されても良い。また、実施例は微小レンズを埋め込んでレンズを形成しているが、微小レンズ8を埋め込まず、図3に示すように凹部9をそのまま使用することも可能である。それは、凹部9にオイルや水等の溶液が充填されて、微小レンズ8の代わりにレンズを形成できるからであり、先玉レンズをより安価に製造することを可能にする。
【0021】
以上説明したように、本発明の顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子は、特許請求の範囲に記載した特徴の他に、下記のような特徴も備えている。
(1)請求項1又は2に記載の顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子を備えた対物レンズ。
(2)上記(1)に記載の対物レンズを備えた顕微鏡
【0022】
【発明の効果】
上述の如く本発明によれば、対物レンズのWDを損なうことなくフレアを起こす有害光線を遮光することができ、耐性的にも問題のない顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる顕微鏡用液浸対物レンズの先玉レンズの第1実施例を示す断面図で、(a)は先玉レンズへの光線の入射状態を示す概略図、(b)は先玉レンズの形成方法を示す説明図である。
【図2】本発明にかかる顕微鏡用液浸対物レンズの先玉レンズの第2実施例を示す断面図で、(a)は先玉レンズへの光線の入射状態を示す概略図、(b)は先玉レンズの形成方法を示す説明図である。
【図3】 微鏡用液浸対物レンズ先玉レンズの中心部凹部に微小レンズを埋め込まないで形成した構成例を示す断面図である。
【図4】従来技術の先玉レンズの有効口径外から有害光が入射してフレアーが生じる様子を示した概略図である。
【図5】従来技術の先玉レンズのレンズ保持枠に絞りを貼り付けて有害光束を遮光する方法を示した概略断面図である。
【図6】従来技術の先玉レンズのレンズ保持枠にフランジ部を設け有害光束の遮光を行う方法を示した概略断面図である。
【図7】従来技術の先玉レンズのレンズ表面に金属膜を蒸着させて有害光束の遮光を行う方法を示した概略図である。
【図8】微小レンズの端面と微小レンズが埋め込まれるレンズの端面の状態を説明する図である。
【符号の説明】
1 標本
2 オイル又は水等の媒質
3 金属膜
4 平行平面光学素子
5 光学素子
6 有害光束
7 有効光束
8 微小レンズ
8’ 加工前微小レンズ
8a 微小レンズの縁部
9 凹部
10 媒質部分の厚みスペース
30 絞り
40 フランジ部
50 金属膜
60 有害光線
70 鏡枠
80 埋め込みレンズ縁部
90 先玉レンズ
A 微小レンズの端面
B 微小レンズの埋め込みが行われるレンズの端面

Claims (3)

  1. 先端中央部に微小光学素子が埋め込まれている顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子において、
    先端側から順に第1光学素子と第2光学素子とを有していて、
    前記第1光学素子と前記第2光学素子との間には有害光束を遮断する遮光膜が形成されており、
    先端中央部に前記第1光学素子から前記第2光学素子へ向けて形成された凹部に前記第1光学素子と前記第2光学素子とに接触するように前記微小光学素子が埋め込まれていることを特徴とする顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子。
  2. 前記遮光膜が、金属蒸着膜、塗装材料及び金属箔の何れかにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子。
  3. 先端中央部に微小光学素子が埋め込まれている顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子の製造方法において、
    第1光学素子または第2光学素子の一面に遮光膜を形成し、
    先端側から順に前記第1光学素子と前記第2光学素子とを該遮光膜を挟んで貼り合わせた後、
    先端中央部に前記第1光学素子から前記第2光学素子へ向けて凹部を形成し、
    前記凹部に前記第1光学素子と前記第2光学素子とに接触するように前記微小光学素子を埋め込むことを特徴とする顕微鏡液浸対物レンズ用先端光学素子の製造方法
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