JP3922622B2 - 新規な蛍光プローブ類、これらを組み合わせたメタンフェタミンの測定キットおよびメタンフェタミンの簡易測定法 - Google Patents

新規な蛍光プローブ類、これらを組み合わせたメタンフェタミンの測定キットおよびメタンフェタミンの簡易測定法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、時間分解蛍光イムノアッセイ方法により高感度でメタンフェタミン(以下、MAと表現する場合もある。)を検出する方法、特に、新規な蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer、FRET)現象を示す蛍光プローブの組み合わせ、具体的には、メタンフェタミンをプロテイン(例えばBSA)−BHHCT−Eu 3+ 錯体で標識した蛍光プローブとCy5にメタンフェタミン抗体を共有結合した蛍光プローブとを組み合わせて用いた競合ホモジニアス時間分解蛍光イムノアッセイ方法による簡易で高感度のメタンフェタミンの測定方法、ならびに該測定方法に用いる新規なキットおよび蛍光プローブ類に関する。
【0002】
【従来の技術】
ある希土類錯体は強い蛍光を発すること、これらの希土類錯体は通常の有機蛍光色素とは異なり、紫外光で(〜330nm)で励起され、希土類の持つ特異な発光現象により蛍光を発生するため、蛍光寿命が数百マイクロ秒から2ミリ秒と極めて長いという特徴を持つことが良く知られている。特に希土類としてEu3+、Tb3+を用い、これに適当な配位子を用いて錯体化した蛍光材料は、蛍光特性を持つ測定材料として、また適当なプロテインと化学結合、例えば共有結合させて抗体としての機能を用いた蛍光プローブとして利用されてきている。
【0003】
このような蛍光を利用した測定技術の発展の中で、本発明者らも優れた発光特性を示す希土類錯体、具体的には配位子として4座配位β−ジケトン型配位子BHHCT〔4,4’−ビス(1”,1”,1”,2”,2”2”−ヘプタフロロ−4”,6”−ヘキサンヂオン−6”−イル)クロロスルフォ−o−テトラフェニル〕またはBPTA〔N,N,N1,N2−(2,6−ビス(3’−アミノメチル−1’−ピラゾリル)−4−フェニルピリジン)テトラキス(アセティックアシッド)〕を用いたEu3+錯体を見出している。そして、該錯体をメタンフェタミンの時間分解蛍光イムノアッセイのラベリング剤として利用することを発表している(Kimura,H.,Yuan,J.,Wang,G.,Matsumoto,K. and Mukaida, M.J Anal Toxicol, 23, 11-16, 1999、)。更に前記ラベリング剤を適当なプロテイン、例えばBSA(ウシ血清アルブミン)に結合させて蛍光プローブを作成し、該蛍光プローブを時間分解蛍光イムノアッセイの蛍光試薬とすることについても既に提案している(Yuan,J.,Matsumoto,K. and Kimura,H.,Anal Chem,70,596-601,1998.)。
【0004】
時間分解蛍光イムノアッセイは、パルス励起光照射後、一定の時間をおいて非特異的な蛍光バックグラウンドが減衰した後、ラベル剤に由来する特定波長の長寿命蛍光のみを測定する方法であり、高感度分析が可能になることが知られている。しかしながら、現在用いられているEu錯体のラベル剤は蛍光強度が十分でないという欠点があった。前記本発明者らの新しいラベル剤は比較的おだやかな条件でプロテインを直接標識でき,強い蛍光と安定性をもつのが特徴である。また、2000年10月5,6日コクヨホールにおいて開催された「単一分子・原子レベルの反応制御」第4回シンポジウムの講演要旨集(前記開催日に頒布)第35頁〜36頁において、BPTA−Tb3+錯体をドナーとしてCy3をアクセプターとする共鳴エネルギー移動を利用する均一溶液でのDNAハイブリダイゼーションアッセイについてはすでに報告されていることを述べている。しかしながら、BSA−BHHCT−Eu3+錯体とCy5とを組み合わせて蛍光共鳴エネルギー移動を利用してメタンフェタミンを時間分解蛍光イムノアッセイによる定量分析することについては全く報告されていない。ただ、BPTA−Tb3+とCy3をそれぞれドナーおよびアクセプターの組合せとして用いて分析を行ったことを、前記予稿集において報告している。因みに、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer、FRET)とは、ある2つの蛍光化合物が距離的に近い位置(おおよそ100Å以内)に存在するとき、その2つの蛍光物質のうちの片方(ドナーと呼ばれる)の発光スペクトルと他方(アクセプターと呼ばれる)の励起スペクトルが重なりを持つ場合、ドナー励起波長の光を当てると、本来観察されるはずのドナーの蛍光が減衰し、代わりにアクセプターの蛍光が強化(エネルギーの移動により)されて観察される現象であることが知られており、蛍光を用いた分析法において、ドナー側の蛍光が小さくなり、アクセプターの蛍光が増幅されるので、蛍光増幅分析方法に利用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、メタンフェタミンをより高感度で、容易に測定する方法を提供することである。本発明者らは前記のように種々の蛍光プローブの組み合わせを用いて、被測定物を高感度で測定できる方法を開発してきた。その中で、メタンフェタミンを測定(定性的および定量的)できる蛍光プローブの組み合わせ、特に被測定物であるメタンフェタミンと競合し、蛍光共鳴エネルギー移動による蛍光増幅特性をもち、かつ、感度が1ng/mLでホモジニアス(均一溶液系)イムノアッセイが可能な時間分解蛍光プローブの組み合わせを見出すことができ、前記課題を解決することができた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1は、(1)Cy5にメタンフェタミン抗体を共有結合した蛍光プローブ、メタンフェタミンと競合し、かつ前記蛍光プローブと抗原抗体反応により蛍光共鳴エネルギー移動する結合をする、メタンフェタミン−プロテイン結合体とBHHCT−Eu 3+ 錯体を共有結合したた蛍光プローブとを組み合わせた蛍光共鳴エネルギー移動を利用した競合ホモジニアス時間分解蛍光イムノアッセイ方法によるメタンフェタミンの測定方法である。本発明の第2は、(2)Cy5にメタンフェタミン抗体を共有結合した蛍光プローブと、メタンフェタミンと競合し、かつ前記蛍光プローブと抗原抗体反応により蛍光共鳴エネルギー移動する結合をする、BHHCT−Eu 3+ にメタンフェタミン−プロテイン結合体を共有結合した蛍光プローブとの組み合わせからなる前記(1)に記載のメタンフェタミンの測定キットである。本発明の第3は、(3)Cy5とメタンフェタミン抗体とが共有結合した前記(1)に記載のメタンフェタミンの測定方法に用いる蛍光プローブである。または第の発明は、(4)BHHCT−Eu 3+ 体にメタンフェタミン−プロテイン結合体を共有結合した構造を含む前記(1)に記載のメタンフェタミンの測定方法に用いる蛍光プローブであり、好ましくは、(5)プロテインがウシ血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH),サイログロブリン,または合成ポリアミン類であることを特徴とする前記(4)に記載のメタンフェタミンの測定方法に用いる蛍光プローブである。
【0007】
【本発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。
A.Cy5(Amersham Life Science社の登録商標)にメタンフェタミン(MA)抗体を共有結合したメタンフェタミンの測定方法に用いる蛍光プローブについて。
該プローブは、ウサギなどに免疫して作製した抗体、例えば、抗MA抗体であるウサギ免疫グロブリン(IgG)に有機色素である蛍光シアニン(fluorescing cyanine、Cy5,Amersham Life Science社から市販されている。)を標識することにより得られる。Cy5の吸収極大波長は643nmであである。この標識物質は新規である。
【0008】
.BHHCT−Eu 3+ 錯体とメタンフェタミン−プロテイン結合体とを共有結合した構造を含むメタンフェタミンの測定方法に用いる蛍光プローブは、例えば、N−アミノブチルMAと適当なプロテイン、例えばウシ血清アルブミンとの結合体(MA−BSA)に前記公知のBHHCT−Eu 3+ 錯体でラベリングすることによって得られる。BHHCT−Eu3+錯体の蛍光極大波長は615nmであるが、該蛍光波長域はCy5の吸収波長域と605nm〜625nmの領域で重なる。
【0009】
C.蛍光共鳴エネルギー移動については、前記したとおりである。ドナー蛍光体の発光領域とアクセプター蛍光体の吸収領域(励起波長域)が充分な重なりがあり、かつ前記発光部位−吸収部位とが充分に蛍光共鳴エネルギー移動が可能にドナー−アクセプターの結合構造(前記エネルギー移動が可能な近接領域にあるような)が設計されていることが、競合ホモジニアス系での分析を可能にする条件である。したがって、抗MA抗体としては、ウサギIgG、ヤギIgG、 マウスIgGなどを好ましいものとして挙げることができる。また、MAに結合する前記プロテインとしては、BSA、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、サイログロブリン、ストレプトアビジン,合成ポリアミン類などを好ましいものとして挙げることができる。
【0010】
D.また、測定法としては、蛍光測定用マイクロタイタープレートに標識抗原、例えば、MA−BSA−BHHCT−Eu3+を配置し、MA(被検出物)標準液(検量線作成)または検体液または希釈液、さらにCy5標識抗体溶液を同時に加えて混合し,適当な温度、例えば37℃で、適当な時間、例えば30分反応させる。ドナー蛍光プローブの励起波長、例えば、MA−BSA−BHHCT−Eu3+の場合340nmでEu3+を励起し、アクセプターの発光、例えば抗MA抗体−Cy5の場合、680nmの蛍光強度を時間分解蛍光測定(遅延時間;50マイクロ秒、 遅延時間後測定時間(window time);400マイクロ秒)で測定される。
【0011】
【実施例】
使用機器;時間分解蛍光測定器としてはARVO SX(ワラックベルトールジャパン社(社名変更によりパーキンエルマージャパン社)製)を用いた。
【0012】
実施例1
N−アミノブチルMAとBSAの結合体(MA−BSA)にEu蛍光ラベル剤(BHHCT−Eu3+)を標識し、抗MA抗体に対して検体または標準物質のMAを競合させて反応させる。前記抗MA抗体は、ウサギに免疫して作製した抗体(抗MAウサギIgG)に蛍光有機色素であるCy5(図5)(Amersham Life Scienceの商品名)を標識することにより作成した。エネルギードナーである前記BHHCT−Eu3+の蛍光ピーク波長615nmは、エネルギーアクセプターであるCy5の吸収ピーク波長の643nmに近く、前記蛍光波長領域と吸収波長領域に十分な重なりがあり、前記ドナーの励起光である紫外光で励起されることにより、BHHCT−Eu3+錯体からのエネルギー移動が起こり,アクセプターであるCy5は増感発光した。
【0013】
蛍光測定用マイクロタイタープレートに標識抗原であるMA−BSA−BHHCT−Eu3+を25μL配置し、被検体であるMAの標準液または検体希釈液50μL、さらにCy5標識抗体溶液25μLを同時に加えて混合し、37℃で30分反応させた。前記標識抗原のBHHCT−Eu3+錯体の励起波長340nmでBHHCT−Eu3+を励起し、MA−Cy5の蛍光極大値680nmにおけるCy5の蛍光強度を時間分解蛍光測定で求めた。
【0014】
緩衝液(0.05Mトリスハイドロキシメチルアミノメタン−HCl緩衝液、pH7.4)中の標準MAの最小検出濃度は、第1図のCy5の発光とMA濃度との相関を示す検量線から約0.1ng/mLの感度で測定可能であった。また、濃度範囲1ng/mL〜1μg/mLの濃度範囲で測定可能であった。測定誤差は8濃度の平均CV(coefficient of variation、再現性を示す。)が1.98%であった。
【0015】
実施例2
次に検体である尿や血清が測定に及ぼす影響を調べるために、覚せい剤を含まないことが明らかなヒトの尿および血清を100倍(■)、20倍(▲)、10倍(×)、5倍(*)希釈および未希釈(●)したものに、MAを10〜10−2ng/mLの濃度になるように加えた。これらの尿および血清について前記Cy5およびEu3+のそれぞれの蛍光強度を測定し、緩衝液で希釈したMA溶液の測定値との比較を行った(図2a、2b)。Cy5の蛍光強度で表したMAの標準曲線は図2に示すように尿や血清の濃度が高くなる(希釈率が下がる)ほどCy5の蛍光強度が下がり、また、検量線の傾きも小さくなった。この原因のひとつは図3a、bに示すようにエネルギードナーであるEuの蛍光強度が尿や血清の濃度に依存して下がっていることによる。
【0016】
MAの競合剤であるMA−BSA−BHHCT−Eu3+は一定の濃度で加えているので、Euの蛍光強度は理論的に一定であるはずであるが、被検物のバッファーによる希釈度により異なることが前記測定により理解される。しかし図3a、bからも明らかなように、被検体(被測定成分)であるフリーMAの濃度には依存しない、換言すればMAの測定に影響しないことを示す。また、図2および3から、Euの蛍光強度は尿や血清を100倍に希釈した時はほとんど影響を受けないが、未希釈検体の場合は緩衝液の時の約85−50%程度にまで減少することが分かった。
【0017】
これに対し、次にEu3+の発光による励起エネルギーを受け取るアクセプターのCy5の蛍光の受ける影響を調べた。図4a、4b〔バッファー(□)、MAが、0.01ng/mL(◇)、0.1(○)、1(△)、10(■)、100(◆)〕にはCy5/Euの蛍光強度比が尿や血清の濃度によってどのような変化を示すかを表している。尿や血清を含まない緩衝液でのCy5/Euの値を100%とすると、未希釈の尿や血清では約90%に下がっている。また、血清に血球を加えて溶血させ、溶血血清がどのような影響を与えるかについても検討した。溶血血清は溶血を含まない血清に較べると明らかにEuの消光を強くしたが、Cy5/Euの割合は溶血していない血清と変わらなかった。これらの結果から、検体条件によるCy5の消光、あるいはエネルギー遷移の効率がほとんど影響を受けていないことが理解できる。ホモジニアスアッセイでは検体のもつ様々な夾雑物が影響することが予測されたが、同率希釈のMAを含まない尿や血清で検量線をひけば種々の検体条件においても、メタフェタミンを測定できることが理解された。
【0018】
実施例3
前記知見に基づいて、覚せい剤使用者の尿検体20について蛍光共鳴エネルギー移動を利用した競合ホモジニアス時間分解蛍光イムノアッセイ方法によるメタンフェタミンを測定し、その測定結果とガスクロマトグラフィーの測定値と比較したところ、相関係数r=0.94と高い相関が得られた。本発明の方法は全く洗浄操作を必要とせず、30分で測定結果が得られるので、簡便迅速なMA測定方法として有効であることが分かった。 他の薬剤のスクリーニング手段としても本手法が適用できることが予測できる。
【0019】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、メタンフェタミンの簡単で、高感度の測定が可能になった、という優れた効果がもたらされる。更に、他の薬剤のスクリーニング手段としても十分に本手法が適用できることが予測できることから、今後の高感度で、簡易な種々の薬剤の測定手段の確立に貢献すること大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Cy5の発光とMA濃度との相関を示す検量線
【図2】 検体である尿(a)や血清(b)のCy5の蛍光によるMAの測定におよぼす影響〔100倍(■)、20倍(▲)、10倍(×)、5倍(*)希釈および未希釈(●)〕
【図3】 検体である尿(a)や血清(b)のEu3+の蛍光強度におよぼす影響〔100倍(■)、20倍(▲)、10倍(×)、5倍(*)希釈および未希釈(●)〕
【図4】 Cy5/Euの蛍光強度比と尿や血清の濃度の相関〔バッファー(□)、MAが、0.01ng/mL(◇、0.1(○)、1(△)、10(■)、100(◆)〕
【図5】 Cy5の化学構造

Claims (5)

  1. Cy5にメタンフェタミン抗体を共有結合した蛍光プローブ、メタンフェタミンと競合し、かつ前記蛍光プローブと抗原抗体反応により蛍光共鳴エネルギー移動する結合をする、メタンフェタミン−プロテイン結合体とBHHCT−Eu 3+ 錯体を共有結合した蛍光プローブとを組み合わせた蛍光共鳴エネルギー移動を利用した競合ホモジニアス時間分解蛍光イムノアッセイ方法によるメタンフェタミンの測定方法。
  2. Cy5にメタンフェタミン抗体を共有結合した蛍光プローブと、メタンフェタミンと競合し、かつ前記蛍光プローブと抗原抗体反応により蛍光共鳴エネルギー移動する結合をする、BHHCT−Eu 3+ にメタンフェタミン−プロテイン結合体を共有結合した蛍光プローブとの組み合わせからなる請求項1に記載のメタンフェタミンの測定キット。
  3. Cy5とメタンフェタミン抗体とが共有結合した請求項1に記載のメタンフェタミンの測定方法に用いる蛍光プローブ。
  4. BHHCT−Eu 3+ 体にメタンフェタミン−プロテイン結合体を共有結合した構造を含む請求項1に記載のメタンフェタミンの測定方法に用いる蛍光プローブ。
  5. プロテインがウシ血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH),サイログロブリン,または合成ポリアミン類であることを特徴とする請求項に記載の蛍光プローブ。
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