JP3919875B2 - 免疫法及び免疫活性測定法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、リンパ球を抗原で特異的に感作する免疫法及び該免疫法を利用した培養系を用いた免疫活性測定法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
免疫機構は生体防御機構の中核を成しており、その免疫系の確立は研究の面でも、また、感染症等各種疾病に対する予防・治療等への応用の面からも極めて重要である。しかし、マウスの免疫系についてはTリンパ球を培養した後の培養液を用いる免疫系などが知られているが、ヒトについては現在まで抗原に対して特異的な抗体を産生するヒト生体外免疫系は確立されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、リンパ球を抗原、特に可溶性の抗原で特異的に効率よく感作する免疫系を確立すること、及び抗原特異的免疫活性測定法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アジュバンド物質、サイトカインを組み合わせることにより、リンパ球を抗原で特異的に効率よく免疫できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明の免疫法の一つは、アジュバンド物質、サイトカインを組み合わせた培養液を用いることにより、リンパ球を抗原、特に可溶性抗原で特異的に免疫できることを特徴とする。また、本発明の免疫法のもう一つは、抗原で特異的に免疫して得られたリンパ球を不滅化させることを特徴とする。更に、本発明の免疫活性測定法は、アジュバンド物質、サイトカインを組み合わせた培養液に更に抗原を添加してリンパ球を培養し、免疫活性を測定することを特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体例を挙げて更に詳細に説明する。本発明において、抗原としてはいずれの物質も有効に用いられるが、好ましくは可溶性抗原が使用される。例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、コレラ毒素Bサブユニット(CTB)等が用いられる。
【0007】
使用するリンパ球には個体差がありムラミルジペプチドを用いない方が免疫効率が高い場合もあるが、好ましくはアジュバンド物質としてムラミルジペプチド(muramyl dipeptide)が用いられる。ムラミルジペプチドを用いる場合の培養液中最終濃度は 、0.1〜1000μg/ml、好ましくは0.5 〜50μg/mlである。該ペプチドの濃度が0.1μg/ml未満または1000μg/mlを超える範囲においては、免疫効率が著しく低下する。
【0008】
サイトカインとしては、インターロイキン2、インターロイキン4、インターロイキン6よりなる群から選ばれた少なくとも一種が用いられる。インターロイキン2は、1〜1000ユニット/ml 、好ましくは5〜200 ユニット/ml で用いる。該物質の濃度が1ユニット/ml未満または1000ユニット/mlを超える範囲においては免疫効率が著しく低下する。インターロイキン4は、0.1 〜1000 ng/ml、好ましくは0.5 〜100 ng/mlで用いる。該物質の濃度が0.1ng/ml未満または1000ng/mlを超える範囲においては免疫効率が著しく低下する。インターロイキン6は、1〜1000 ng/ml、好ましくは2〜500ng/mlで用いる。該物質の濃度が1ng/ml未満または1000ng/mlを超える範囲においては免疫効率が著しく低下する。なお、インターロイキン2インターロイキン4を組み合わせることにより、免疫効率を更に高めることができる。
【0009】
培養液としては、例えばダルベッコMEM(DMEM)培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、RDF培地(RPMI 1640、DMEM及びハムF12培地を2:1:1で混合した培地)、ERDF培地(RDF培地のアミノ酸及びビタミンを強化した培地)等が用いられるが、好ましくはRDFあるいはERDF培地が用いられる。
【0010】
リンパ球としては、例えば生体中のリンパ球、血液(末梢血等)、手術の際に得られるリンパ節もしくは脾臓から得られるものを用いることができる。本発明の方法では、どの組織由来のリンパ球を用いても免疫を行うことができる。
【0011】
培養方法は、アジュバンド物質、サイトカインを組み合わせた培養液に更に抗原を添加してリンパ球を4〜10日程度培養すればよい。こうしてリンパ球を培養した後、リンパ球を回収し、必要ならばリンパ球融合用細胞株と融合するか、もしくはエプスタイン−バーウイルス感染させることによって不滅化することができる。この操作によって、抗原特異的モノクローナル抗体を産生する細胞株を得ることができ、モノクローナル抗体の持続的な生産が可能となる。
【0012】
ヒトリンパ球を用いた場合、ヒトモノクローナル抗体を永続的に生産する細胞株が得られるが、他の動物のリンパ球を用いると、使用した動物のモノクローナル抗体を永続的に生産する細胞株が得られる。
【0013】
一方、本発明の免疫活性測定法は、アジュバンド物質、サイトカインを組み合わせたものと抗原とを含み、かつ、被試験物質を添加した培養液中でリンパ球を培養し、免疫活性を測定する方法である。免疫活性の測定は、後述する方法により、抗原特異的抗体量を測定することによって行うことができる。そして、被試験物質を添加しないで培養した場合と、被試験物質を添加して培養した場合との抗原特異的抗体量を比較することにより、被試験物質の免疫に及ぼす影響を調べることができる。
【0014】
【作用】
本発明の免疫法では、アジュバンド物質、サイトカインを組み合わせたものを含む培養液中で、リンパ球を抗原と共存させることにより、リンパ球を特異的に効率よく免疫することができ、抗原特異的抗体を多量に得ることができる。リンパ球には由来臓器による違い、由来動物の個体差、由来動物のコンディションによる違い等があることから、用いるリンパ球に適するようにアジュバンド物質とサイトカインとを組み合わせる必要がある。
【0015】
また、免疫された抗原特異的リンパ球を、融合用細胞株と融合させるか、又はエプスタイン−バーウイルス感染させることにより不滅化すれば、抗原特異的モノクローナル抗体を永続的に効率よく生産することができる。
更に、アジュバンド物質、サイトカインを組み合わせたものと抗原とを含み、かつ、被試験物質を添加した培養液中でリンパ球を培養し、免疫活性を測定することにより、各種物質の免疫に対する影響を調べることができる。
【0016】
【実施例】
実施例1
(1)特定抗原に対するリンパ球の免疫
ヘパリン入り採血管で健常人の末梢血を採血し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で2倍に希釈した。これをリンパ球分離溶液(LSM)で処理し、リンパ球を分離した。分離したリンパ球から血小板及びLSMを除去するために、リンパ球をERDF培地で2〜3回洗浄した。更に、体液性免疫反応に抑制的に働くサプレッサーTリンパ球を選択的に除去するために、ロイシルロイシンメチルエステル(Leu-Leu-OMe)で処理した。処理したリンパ球をERDF培地で3回洗浄し、これを以後の実験に用いた。Leu-Leu-OMe で処理したリンパ球を50μM 2−メルカプトエタノール及び10%牛胎児血清含有ERDF培地に1〜3X106 個/ml になるように懸濁し、24穴培養プレートに1ml/穴ずつ分注した。続いて、抗原及び各種因子を所定の濃度になるように添加した。抗原としてキーホールリンペットヘモシアニン(Keyhole limpet hemocyanin,以下KLHとする)を最終濃度で10μg/mlとなるように添加した。各種因子としてムラミルジペプチド(以下、MDPとする)、インターロイキン2(以下、IL−2とする)、インターロイキン4(以下、IL−4とする)、インターロイキン5(以下、IL−5とする)、インターロイキン6(以下、IL−6とする)、インターロイキン10(以下、IL−10とする)を、培養液中の最終濃度がそれぞれ10μg/ml、10ユニット/ml、10ng/ml、5ng/ml、10ユニット/ml、10ng/mlになるように、かつ、いろいろな組み合わせで添加した。こうして、リンパ球及び各因子を添加した後、7日間培養を行い、以下に述べる方法で全抗体量、クラスター形成能及びKLH特異的抗体量を測定した。
【0017】
(2)ヒト抗体量の測定
全抗体量及び特異抗体量の測定はIgM及びIgGについて行った。IgM濃度の測定は、次のように行った。先ず、ラビット抗ヒトIgM抗体をイムノプレートにコートした。非特異的吸着を抑えるための処理をした後、培養液を加えて、培養液中に含まれているIgMをコートした抗IgM抗体を介してイムノプレートに固定した。固定化されたIgMをペルオキシダーゼ標識した抗ヒトIgM抗体で挟み込み、IgM量と相関して固定されたペルオキシダーゼをABTS(2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)で青色に発色させ、その青色強度を測定することによりIgM濃度を算出した。IgG濃度の測定については、先ず、ラビット抗ヒトIgG抗体をイムノプレートにコートした。これに培養液を加えて、培養液中に含まれているIgGを抗ヒトIgG抗体を介してイムノプレートに固定した。固定化されたIgGをペルオキシダーゼ標識した抗IgG抗体で挟み込み、IgG量と相関して固定されたペルオキシダーゼをABTS(2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)で青色に発色させ、その青色強度を測定することによりIgG濃度を算出した。抗体量の変化は、免疫がかかる7日目の抗体量を免疫が殆どかからない4日目の抗体量で割ることにより求めた。
【0018】
(3)クラスター形成
リンパ球の増殖の指標として顕微鏡下での目視により観察した。抗原としてKLH、アジュバンドとしてMDPを用いてサイトカインの影響を調べた。
【表1】
Figure 0003919875
表1の結果より、可溶性抗原に対する免疫にはIL−2とIL−4の組み合わせが有効であることが明らかになった。
【0019】
実施例2
コレラトキシンBサブユニット(CTB)に対する免疫法の検討を行った。図1から明らかなようにこのリンパ球においては、MDP、IL−2及びIL−4を組み合わせることにより、IgMタイプの抗原特異的抗体が、また、MDP非存在下でIL−2とIL−4を組み合わせることにより、IgGタイプの抗原特異的抗体が得られることが明らかになった。
今回用いた健常人のリンパ球は、これまでにコレラトキシンと接触したことがなかったと考えられることから、この免疫系は追加免疫(ブースティング)でなく本当の意味での免疫(抗原感作)を可能にしたと考えられる。アジュバンド、サイトカインの組み合わせは、リンパ球の個体差あるいは抗原によって調整する必要があると考えられる。
【0020】
実施例3
異なる健常人由来のリンパ球を用いて、実施例2と同様に免疫法の検討を行った。図2から明らかなようにこのリンパ球においては、MDP、IL−2及びIL−4を組み合わせることにより、IgMタイプとIgGタイプ両者のCLB特異的な抗体が得られることが明らかになった。
【0021】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、アジュバンド物質、サイトカインを組み合わせた培養液を用いることにより、効率よくリンパ球を免疫でき、抗原特異的抗体を高濃度に得ることが出来る。また、この系を生体に応用し、サイトカイン等を調整することにより免疫能力を高めることも可能になると考えられる。リンパ球の由来として特殊な組織由来のものを用いることなく、どのようなものを用いても免疫が可能である。更に、このように免疫されたリンパ球を用いて、目的とする抗原に対するモノクローナル抗体を得ることが可能となる。特に、ヒトモノクローナル抗体は、その作製の難しさ、目的とする抗原に対する抗体を得ることが困難であることが、その普及を妨げてきたが、本発明によって、目的とする抗原特異的ヒトモノクローナル抗体が効率よく得られるようになり、予防、診断、治療への道が開かれる。また、本発明の免疫活性測定法によれば、各種物質の免疫に及ぼす影響を容易に調べることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コレラトキシンでの免疫に及ぼすアジュバンド及びサイトカインの影響(その1)を示すグラフである。
【図2】コレラトキシンでの免疫に及ぼすアジュバンド及びサイトカインの影響(その2)を示すグラフである。

Claims (8)

  1. アジュバンド物質、インターロイキン2及びインターロイキン4を含有する培養液中にてリンパ球を抗原で特異的に免疫することを特徴とする抗原に対する特異的な免疫法。
  2. 免疫後、更に不滅化させる請求項1記載の免疫法。
  3. 前記アジュバンド物質が、ムラミルジペプチドであることを特徴とする請求項1または2記載の免疫法。
  4. 前記抗原が、可溶性抗原であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の免疫法。
  5. 前記抗原が、コレラ毒素Bサブユニットであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の免疫法。
  6. 前記リンパ球が、血液由来、リンパ節由来又は脾臓由来のものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の免疫法。
  7. アジュバンド物質、インターロイキン2及びインターロイキン4を含有する培養液に抗原、被試験物を添加してリンパ球を培養することにより免疫活性を測定することを特徴とする免疫活性測定法。
  8. 前記抗原が、コレラ毒素Bサブユニットであることを特徴とする請求項7記載の免疫活性測定法。
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