JP3911794B2 - カチオン交換樹脂 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオン交換樹脂に関する。さらに詳しくは、本発明は、耐酸化分解性に優れ、樹脂成分の溶出の少ないカチオン交換樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
イオン交換樹脂は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体に代表される三次元網目構造を有する高分子母体に、スルホン酸基やトリメチルアンモニウム基などのイオン交換基が結合した構造を有する不溶性の固体酸又は固体塩基であり、半導体製造や医薬品製造に用いられる超純水の製造、原子力発電所の復水処理などに幅広く利用されている。
イオン交換樹脂の問題点の一つに、酸化分解によって引き起こされる樹脂成分の溶出や劣化がある。例えば、スチレン−ジビニルベンゼン架橋共重合体粒子にスルホン酸基を導入した強酸性カチオン交換樹脂からは、スルホ安息香酸、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸の重合体などの酸化分解生成物が溶出する。これらの溶出物は、処理水の水質を悪化させる。また、復水の熱交換時に分解して、腐食性の硫酸イオンを生成する。さらに、同時に使用される場合が多いアニオン交換樹脂を汚染する。イオン交換樹脂の酸化分解が進むと、イオン交換樹脂自体が劣化する。
これらの問題を回避するために、イオン交換樹脂の使用方法、化学構造、安定化を目的とした助剤の配合の三つの観点で検討がなされてきた。例えば、特開昭62−132585号公報、特開平1−171645号公報には、イオン交換樹脂を使用に先立って十分に洗浄し、溶出物を少なくする方法が開示されている。また、特開平1−119345号公報、特開平2−99146号公報には、イオン交換樹脂を溶存酸素濃度の低い水又は酸素のない雰囲気で保存し、処理対象液の溶存酸素濃度を低くして通液することにより、酸素との接触を避ける方法が開示されている。しかし、イオン交換樹脂は、わずかの酸素で徐々に分解するために、これらの方法では初期の溶出物量を低減することはできても、長期間にわたり酸化分解を抑制することは困難である。また、酸素との接触を避けるためには、大量の水を脱気するための専用の装置が必要である。
一方、特公昭40−24398号公報、特開昭59−122520号公報、特開昭61−185507号公報、特開昭58−153541号公報、特開昭58−163445号公報には、ポリフェニレンエーテル、含ふっ素系高分子、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの酸化を受けにくい化学構造を有する特殊な素材から、イオン交換体を調製する方法が開示されている。しかし、これらの素材は、従来のイオン交換体に比べてコストが高いばかりでなく、製品の形状や多孔性をコントロールすることが困難であるという問題がある。
安定化を目的とした助剤の配合に関しては、特許第2517411号公報に、カチオン交換樹脂を酸化防止剤と接触させて、酸化防止剤をとり込むことによる酸化抑制法が開示されている。しかし、この方法では、安定化のために使用される酸化防止剤は、物理的にとり込まれて吸着されているだけであるため、酸化防止剤が処理水中に溶出するという問題がある。
本発明者らは、先に、酸化防止性に優れ、使用時に酸化劣化による性能の低下及び酸化分解物による水質の汚染を惹起するおそれの少ないイオン交換樹脂として、酸化防止機能を有する化合物が共有結合されたイオン交換樹脂、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレートが共重合されたカチオン交換樹脂を開発した。このイオン交換樹脂は、良好な酸化防止性を有していたが、さらに容易に製造することができ、しかも耐酸化分解性に優れ、樹脂成分の溶出の少ないカチオン交換樹脂が求められるようになった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐酸化分解性に優れ、使用時の樹脂成分の溶出の少ないカチオン交換樹脂を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カチオン交換樹脂に、酸化防止機能を有する基をスルホンアミド結合を介して導入することにより、耐酸化分解性に優れたカチオン交換樹脂が容易に得られることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)酸化防止機能を有する基が、一般式[1]で示されるスルホンアミド結合を介して共有結合していることを特徴とするカチオン交換樹脂、
−SO2NR− …[1]
(ただし、式中、Rは水素又はメチル基である。)、及び、
(2)酸化防止機能を有する基が、ヒンダードアミン系の基又はヒンダードフェノール系の基である請求項1記載のカチオン交換樹脂、
を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明のカチオン交換樹脂は、酸化防止機能を有する基が一般式[1]で示されるスルホンアミド結合を介して共有結合しているものである。
−SO2NR− …[1]
ただし、式中、Rは水素又はメチル基である。
本発明のカチオン交換樹脂を製造する方法には特に制限はないが、例えば、三次元網目構造を有する高分子からなる不溶性担体に、クロルスルホン基とスルホン酸基を導入し、さらにアミノ基と酸化防止機能を有する基を持った化合物をクロルスルホン基に反応させることにより製造することができる。
三次元網目構造を有する高分子からなる不溶性担体の構造、形状、製造方法には特に制限はなく、例えば、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体、架橋ポリエチレン、架橋ポリプロピレンなどの、有機高分子の球状、膜状、繊維状などの不溶性担体を用いることができる。スチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる架橋粒子は、スチレンとジビニルベンゼンを、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、リン酸カルシウムなどの分散剤を含む水に分散させ、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなどのラジカル重合開始剤を加え、加熱撹拌して懸濁重合することによって得ることができる。スチレンとジビニルベンゼンの比に特に制限はないが、通常はジビニルベンゼンが6〜20重量%であることが好ましく、8〜12重量%であることがより好ましい。
【0006】
本発明において、カチオン交換樹脂にスルホンアミド結合を介して酸化防止機能を有する基を導入する方法には特に制限はなく、例えば、不溶性担体にクロルスルホン基を導入し、さらに一級又は二級アミノ基と酸化防止機能を有する基を持った化合物を反応させることにより容易に導入することができる。例えば、スチレン−ジビニルベンゼン架橋粒子にクロルスルホン酸、塩化スルフリル、二酸化イオウと塩素の混合物などを反応させることにより、スチレン−ジビニルベンゼン架橋粒子へクロルスルホン基を容易に導入することができる。この際、テトラクロルエタン、ジクロルメタンなどのスチレン−ジビニルベンゼン架橋粒子が膨潤する溶媒を用いることにより、反応を促進することができる。クロルスルホン化剤は、通常、導入しようとする量の当量以上用いることが好ましく、スチレン−ジビニルベンゼン架橋粒子の場合は、粒子中のベンゼン環の2〜3当量倍を用いることが好ましい。クロルスルホン化反応の温度と時間には特に制限はなく、例えば、氷水浴中に浸漬し、あるいは室温で、数時間撹拌しつつ反応することができる。クロルスルホン化反応を終了したのち、反応混合物をろ過して、クロロホルム、ジクロルメタン、アセトンなどのクロルスルホン基と反応しない溶媒で洗浄することが好ましい。
【0007】
クロルスルホン基が導入されたスチレン−ジビニルベンゼン架橋粒子をクロロホルム、ジクロルメタンなどの溶媒に分散し、一級又は二級アミノ基と酸化防止機能を有する基を持った化合物と反応させることにより、スルホンアミド結合を介して、酸化防止機能を有する基を共有結合させることができる。一級又は二級アミノ基と酸化防止機能を有する基を持った化合物としては、例えば、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンなどのヒンダードアミン系の化合物や、2,6−ジ−t−ブチル−4−アミノメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルアミノメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−アミノフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−アミノプロピルフェノールなどのヒンダードフェノール系の化合物などを挙げることができる。導入する酸化防止機能を有する基の量には特に制限はないが、通常はカチオン交換樹脂の0.01〜10重量%であることが好ましい。反応の際、トリメチルアミン、ピリジンなどの塩基を共存させると、反応によって生成する塩酸を中和して、反応を効率よく進めることができる。反応温度と時間には特に制限はないが、通常は室温で数時間撹拌することにより反応を完了することができる。
【0008】
最後に、残存するクロルスルホン基を加水分解によってスルホン基に変換することにより、本発明のカチオン交換樹脂を得ることができる。加水分解の方法に特に制限はなく、例えば、アミノ基と酸化防止機能を有する基を持った化合物を反応して得られた生成物を、水に分散して加水分解反応を行うことができる。加水分解反応は、通常は40〜50℃に加熱して反応することにより効率よく進行する。また、加水分解が進行するに従って、塩酸が生成して系のpHが低下するので、スルホンアミド結合の分解を防ぐために、酢酸ナトリウムなどの緩衝作用を有する化合物を共存させたり、あるいは、水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加して、系が強酸性となることを防ぐことが好ましい。
本発明のカチオン交換樹脂は、酸化防止機能を有する基が共有結合により導入されているので、酸化防止剤をイオン的に吸着させ、あるいは物理的に保持させる従来の方法に比べて、酸化防止剤の脱落が生じにくく、長期間にわたって優れた酸化防止性を維持し、使用時における樹脂成分の溶出を効果的に防止することができる。
【0009】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1(酸化防止機能を有する基を結合したカチオン交換樹脂の合成)
スチレン−ジビニルベンゼン架橋粒子[Supelco.Inc.製、比表面積330m2/g、平均孔径90Å]185mlを、水、メタノール、クロロホルム、テトラクロルエタンを用いてこの順に洗浄した。この架橋粒子とテトラクロルエタン85mlを500mlセパラブルフラスコに採り、撹拌用のテフロン羽根、窒素ガス導入管、冷却管を備えたフタを取リ付け、60℃で30分間加熱したのち、室温に戻した。窒素ガスを60ml/分で液面付近に吹き込み、60rpmで撹拌しながら、クロルスルホン酸[和光純薬工業(株)製]75mlを少しずつ加え、氷水浴で冷却しつつ4時間反応させた。次いで、酢酸10mlを加えて撹拌したのち、生成したクロルスルホン化粒子をろ過して回収した。このクロルスルホン化粒子をテトラクロルエタンで洗浄したのち、水に入れ、さらに、アセトン、クロロホルムで洗浄した。
このクロルスルホン化粒子、クロロホルム150ml及びトリエチルアミン10mlを500mlセパラブルフラスコに採り、撹拌用のテフロン羽根、窒素ガス導入管、冷却管を備えたフタを取り付けた。窒素ガスを60ml/分で液面付近に吹き込み、60rpmで撹拌しながら、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4.58gをクロロホルム30mlに溶解した溶液を滴下して、一夜反応させた。生成した粒子をろ過して回収し、クロロホルム、アセトン、水でこの順に洗浄した。
得られた粒子、酢酸ナトリウム40g及び水200mlを500mlセパラブルフラスコに採り、撹拌用のテフロン羽根、窒素ガス導入管、冷却管を備えたフタを取り付けた。セパラブルフラスコを45℃に保った恒温水槽に浸漬し、窒素ガスを75ml/分で吹き込みながら、40rpmで6時間撹拌した。生成物をろ過して回収し、水で洗浄した。
生成物の赤外吸収スペクトルには、スルホン基に由来する1,200cm-1、1,130cm-1、1,040cm-1及び1,010cm-1の吸収帯が認められた。また、イオン交換容量を測定したところ、1.2meq/mlであった。元素分析では、0.6重量%の窒素が認められ、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが導入されたことが分かった。樹脂重量に対する酸化防止機能を有する基の量は、3.3重量%である。
実施例2(溶出試験)
実施例1で合成した酸化防止機能を有する基が結合したカチオン交換樹脂(H型)50mlを洗気瓶に採り、超純水を全容量が200mlになるまで加えた。酸素ガスを10ml/分で吹き込み、試験開始前、8日後、14日後及び21日後に上澄み液を採取して、サイズ排除クロマトグラフィー分析を行った。分析は、カラムにShodex SB−802.5HQを用い、移動相をアセトニトリル/20mM塩化リチウム(2/8)として、検出波長200nmで行った。この条件では、スルホ安息香酸、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸の重合体などの有機スルホン酸を感度よく検出することができる。スルホ安息香酸の濃度とピーク面積についてあらかじめ作成した検量線から、上澄み液中に溶出している有機スルホン酸の量を、樹脂1リットル当たりのスルホ安息香酸量に換算して算出した。
スルホ安息香酸の溶出量は、試験開始前が0mg、8日後が10mg、14日後が35mg、21日後が41mgであった。
比較例1(溶出試験)
市販のカチオン交換樹脂[ダウケミカル製、650−C]を用いて、実施例2と同様にして溶出試験を行った。
スルホ安息香酸の溶出量は、試験開始前が0mg、8日後が26mg、14日後が79mg、21日後が149mgであった。
実施例2及び比較例1の結果を、図1に示す。この図から、市販のカチオン交換樹脂からの溶出物が、酸化分解によって経時的に増加していくのに対して、酸化防止機能を有する基がスルホンアミド結合を介して共有結合している本発明のカチオン交換樹脂では、スルホ安息香酸などの溶出が抑制されていることが分かる。
【0010】
【発明の効果】
本発明のカチオン交換樹脂は、酸化防止機能を有する基が共有結合しているために、耐酸化分解性に優れ、樹脂成分の溶出が少ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、カチオン交換樹脂からの溶出物の量の経時変化を示すグラフである。
Claims (2)
- 酸化防止機能を有する基が、一般式[1]で示されるスルホンアミド結合を介して共有結合していることを特徴とするカチオン交換樹脂。
−SO2NR− …[1]
(ただし、式中、Rは水素又はメチル基である。) - 酸化防止機能を有する基が、ヒンダードアミン系の基又はヒンダードフェノール系の基である請求項1記載のカチオン交換樹脂。
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