JP3909589B2 - 溶融金属精錬炉の底吹き二重管羽口の保護方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、製鋼用の底吹き転炉あるいは上底吹き転炉に代表される溶融金属の精錬炉の炉底部に設けられた二重管方式の羽口を効果的に保護して損耗を少なくする方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
精錬炉内の溶融金属浴面下に同心二重管方式の羽口(以下、 単に「二重管羽口」と呼ぶ)を介してガスを吹き込む形式の炉として、製鋼用の底吹き転炉あるいは上底吹き転炉が知られている。 底吹き転炉は精錬用酸素ガスの全量を上記二重管羽口の内管から吹き込む方式の溶融金属精錬炉であり、上底吹き転炉は精錬用酸素ガスの一部を二重管羽口の内管から、他の一部を上吹きランスから吹き込む方式の溶融金属精錬炉である。
【0003】
二重管羽口は、一定の間隔を隔てて同心二重管に形成した金属管からなる羽口に、通常、 その内管から酸素、あるいは酸素と不活性ガスの混合ガス(これを「精錬ガス」と呼ぶ)を溶融金属中に吹き込み、内管と外管の間隙からはプロパンガス,不活性ガス等の冷却ガス(これを「外管冷却ガス」と呼ぶ)を吹き込み、この外管冷却ガスが溶鋼温度に到達するための顕熱とプロパンガスにあってはさらに熱分解の分解吸熱を利用して羽口を冷却し保護するものである。
【0004】
このような二重管羽口先端の周囲には、マッシュルームと呼ばれる溶鋼が凝固した金属塊が生成する。このマッシュルームは内管から溶鋼中に吹き込まれる精錬ガスによって形成される火点と呼ばれる高温領域からの受熱と外管冷却ガスの顕熱,分解熱による抜熱のバランスによって生じることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
マッシュルームは火点および周囲の高温の溶鋼が直接羽口外管あるいはその周囲の耐火物に接触することを防止し、これによって二重管羽口の溶損や、羽口周囲の耐火物の損耗を防止する働きがある。このため、安定したマッシュルームを形成することが羽口損耗低減に効果がある。そこで、従来、 底吹き転炉や上底吹き転炉に代表される二重管羽口を有する溶融金属精錬炉においては、マッシュルームを大型にかつ安定して形成するような操業がなされて来た。具体的には、内管から供給する精錬ガスに対して一定比率以上の外管冷却ガスを内管と外管の間隙に供給するものであった。
【0006】
しかし本発明者が解明したところによれば、図2に示すようにマッシュルーム1内に形成される外管冷却ガス流路9は網の目のように分岐しており、マッシュルーム1が大きく肥大するとマッシュルーム1内の外管冷却ガス5の圧損が極端に増大する。内管6から精錬ガス4を供給する二重管羽口のマッシュルーム1は、図2に模式的に示すように、内管6側は精錬ガス4と溶融金属3(すなわち溶鋼)の反応による高温の火点の影響で太いガス流路8が形成されている。したがってマッシュルーム1と羽口との固着は主に内,外管先端面でしかなされない(炉底耐火物とマッシュルーム1とは見掛け上接触しているが、凝着はしていない)ため、マッシュルーム1内の外管冷却ガス5の圧損が大きくなると操業中にマッシュルーム1が吹き飛ばされて羽口が極端に損耗する現象が発生することが明らかとなった。
【0007】
とりわけ、近年、鉄鋼生産用の転炉(溶融鉄−炭素合金である溶銑を酸素によって脱炭精錬して溶鋼となす精錬炉)の場合には、高生産性を目指して、羽口1本あたりの精錬ガス流量を増大する傾向にあり、内管に流す精錬ガス流量が羽口1本あたり0.06Nm3 /(min・t)以上となるときに、このようなマッシュルームの吹き飛びが発生する傾向が強い。また、ステンレス鋼のように、クロムを9〜30質量%含有する溶融鉄合金の場合には、脱炭精錬中に精錬ガスや外管冷却ガスの組成,種別を段階的に変化する操業が行なわれており、このような段階的なガスの切り替えが一層、マッシュルームの吹き飛びの引き金になっていることが明らかとなった。
【0008】
一方において、 酸素ガスの吹き込みを伴わない羽口、 たとえば小径の金属管を多数集合させた構造の底吹き羽口を有する転炉の場合、特許文献2に開示されているように、羽口毎にガス流量計を設けてマッシュルームの圧力損失を計算し、一方、 羽口毎にその内部に一定間隔で複数の熱電対を設けて温度を測定し、これらマッシュルームの圧力損失と羽口内部の温度が特定の安定領域になるように操業を行なうことが知られている。
【0009】
しかし特許文献2に開示された小径金属管羽口は、上述の二重管羽口のように酸素を吹き込むものではないので、マッシュルームは上記特許文献2の図3に示すように羽口耐火物先端の全面にわたって固着しており、マッシュルーム内のガスの圧損が高まってもマッシュルームが吹き飛ぶ懸念はない。このような観点から特許文献2ではマッシュルームの圧損の上限としては専ら、それによる溶鋼中へのガス流量の低下を考慮したものでしかなく、操業中におけるマッシュルームの吹き飛びを防止する点については何らの知見を提供するものではなかった。
【0010】
【特許文献1】
特開昭63-189783 号公報
【特許文献2】
特開平4-32507 号公報
【特許文献3】
特開昭62-147308 号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、二重管羽口により、特にその内管から精錬ガスを溶融金属(たとえば溶鋼)中に吹き込む形式の溶融金属精錬炉においては、羽口外管からマッシュルーム内に流入する外管冷却ガスの圧損が高まった場合にマッシュルームの吹き飛びという、従来予測しなかった事態が発生し、これにより羽口寿命が低下する問題が知見されたものであるが、これに対して従来の技術は何ら解決策を与えるものではなかった。
【0012】
本発明は、上記の状況に鑑み、 炉底に二重管羽口を有する溶融金属精錬炉のマッシュルームを適正に維持し、マッシュルームの吹き飛びによる羽口の損耗を効果的に防止する方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、溶融金属精錬炉の炉底に設けた二重管方式のガス吹込み羽口から該溶融金属精錬炉内に保持した溶融金属中に、該羽口の内管からは精錬ガス、内管と外管の間隙からは羽口冷却用ガスとしてプロパンガスを供給して該溶融金属を精錬するにあたり、前記羽口冷却用ガスの前記羽口の内管と外管の間隙における線流速を 220Nm/sec 以下とすることを特徴とする溶融金属精錬炉の底吹き二重管羽口の保護方法を提案するものである。
【0014】
上記の発明は、前記羽口内管から溶融金属中に吹込む精錬ガス流量が羽口1本あたり0.06Nm3 /(min・t)以上である場合に適用することが好ましい。
さらに前記溶融金属が溶融鉄−炭素合金であり、前記内管羽口からは酸素を吹込んで脱炭精錬を行なう場合、さらには、前記溶融鉄−炭素合金がさらにクロムを9〜30質量%含有する場合に上記発明を適用すると一層効果があるので好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明が適用対象とする溶融金属精錬炉は、炉底に二重管方式のガス吹込み羽口を一つ以上有し、該羽口の内管と外管の間隙用のガス供給経路と内管用のガス供給経路を有する溶融金属精錬炉である。具体的には、溶鋼の精錬に使用される酸素底吹き転炉や酸素上底吹き転炉が挙げられる。これらの溶融金属精錬炉では、炉底に設けた羽口から溶鋼中に精錬ガスとして酸素あるいは酸素と不活性ガスの混合ガスを溶融金属中に吹き込む。その際に羽口先端には酸素と溶鋼中のCやSi等の易酸化性の成分が反応して発熱し、いわゆる高温の火点が生成する。
【0016】
羽口やその周囲の耐火物は、この火点からの熱を受けるため、なんらかの冷却なしには羽口やその周囲の耐火物の溶損を防止することができない。
そこで、精錬ガス吹き込み羽口においては、酸素あるいは酸素と不活性ガスの混合ガスを吹き込むための内管とその周囲に一定間隔の隙間を形成するように設けられた外管を設け、 外管と内管の間隙からはプロパンガスを外管冷却ガスとして供給するようにしている。プロパンガスは顕熱による冷却だけでなく分解吸熱によっても羽口先端を冷却できるので有利であるので、本発明では羽口冷却用ガスとしてプロパンガスを使用する。そして、このような外管冷却ガスの作用により、羽口先端の周囲にマッシュルームと呼ばれる金属塊が生成し、それによって羽口の保護が達成されていることは前述した通りである。
【0017】
本発明者は、上記のような底吹き羽口を配置した溶融金属精錬炉において、前述したようなマッシュルームが吹き飛ぶ現象がどのような条件の下で発生するかを詳細に調査した。対象ヒートはクロムを9〜30質量%含有する高クロム溶鉄を脱炭精錬してステンレス溶鋼を製造するヒートを選択した。マッシュルームの吹き飛び現象の確認にあたっては、具体的には羽口内に電気パルスの送信線と受信線を対にしたケーブルを挿入し、特許文献3に記載される電気パルス反射法によって羽口の根元から先端(すなわちマッシュルームとの凝着位置)までの羽口外管長さを連続的に測定すると共に、外管冷却ガスの圧力,線流速を連続的に測定し、操業条件と羽口外管長さの変化の対応付けを行なった。
【0018】
まず、予備実験として、操業中に羽口外管長さが急激に短くなった時点で直ちに炉を傾動して、その羽口を炉口から観察する作業を繰り返し行ない、羽口外管長さが急激に短くなった時には常にその羽口からマッシュルーム1が消失していることを確認した。すなわち、羽口外管長さが急激に短くなったときには、その直前にマッシュルームの吹き飛びが生じていたことが推測された。
【0019】
次いで、羽口ガスの供給条件と羽口外管長さの消耗速度(これを羽口損耗速度という)の対応関係を調査したところ、種々の条件のうち、外管冷却ガス5の線流速と羽口損耗速度に図1に示すような関係があることが確認された。つまり外管冷却ガス5の線流速が 220Nm/sec を超えると、急激に羽口損耗速度が増大することが判明した。
【0020】
このことから、本発明では外管冷却ガス線流速を 220Nm/sec 以下に限定する。図1から上記の傾向は羽口1本あたりの内管ガス流量が0.06Nm3 /(min・t)以上のヒートでより顕著である。したがって、本発明は内管ガス流量が0.06Nm3 /(min・t)以上のヒートに適用すると一層効果を発揮することが明らかとなった。
【0021】
上記の実験はクロムを9〜30質量%含有する溶鉄の脱炭精錬において行なったが、これに引き続きクロムを含有しない普通鋼の脱炭精錬についても同様の調査を行ない、同じように外管冷却ガス線流速を 220Nm/sec 以下にすると羽口の損耗速度を低減できることが明らかとなった。
【0022】
【実施例】
本発明を適用した発明例として、炉底に二重管式の底吹き羽口を8本有する、炉容量180tonの上底吹き転炉によってクロムを9〜30質量%含有する含クロム溶鉄を炭素濃度を平均で 5.5質量%から 0.2質量%まで脱炭精錬する際に、外管冷却ガスの線流速が常に 220Nm/sec 以下(平均では 195Nm/sec )として精錬する操業を繰り返し行なった。なお、このときの内管ガス流量は羽口1本あたり 0.1Nm3 /(min・t)であった。このようにして羽口外管長さを前述した電気パルス反射法によって連続的に測定し、羽口の損耗速度を求めた。全部で 100ヒートについて、このような操業を行ない、羽口損耗速度を求めたところ、平均で 3.6mm/ヒートであった。
【0023】
比較例として、発明例と同じ上底吹き転炉を用いてクロムを9〜30質量%含有する含クロム溶鉄を炭素濃度で 5.5質量%から 0.2質量%まで脱炭精錬する際に、外管冷却ガスの線流速が常に 220Nm/sec 超え(平均では 230Nm/sec )として精錬する従来の条件の操業を繰り返し行なった。なお、このときの内管ガス流量は、羽口1本あたり 0.1Nm3 /(min・t)であった。発明例と同様にこのときの羽口外管長さを前述した電気パルス反射法によって連続的に測定し、羽口の損耗速度を求めた。全部で 100ヒートについて、このような操業を行ない、羽口損耗速度を求めたところ、平均で 5.6mm/ヒートであった。
【0024】
これらの例から明らかなように、本発明によれば羽口の損耗速度を従来の64%にまで低減することができた。これによって上底吹き転炉の炉底寿命を 1.5倍以上に延長することが可能となった。
【0025】
【発明の効果】
本発明は、炉底に二重管方式底吹き羽口を有する溶融金属の精錬炉、とりわけ鉄鋼の脱炭精錬用の転炉において、羽口先端のマッシュルームの吹き飛びを回避し、それによって羽口の損耗速度を低減し、もって炉底の長寿命化を達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】外管冷却ガス線流速と羽口損耗速度との関係を示すグラフである。
【図2】二重管羽口の先端のマッシュルームを示す模式図である。
【符号の説明】
1 マッシュルーム
2 炉底耐火物
3 溶融金属
4 精錬ガス
5 外管冷却ガス
6 内管
7 外管
8 マッシュルーム内の精錬ガス流路
9 マッシュルーム内の外管冷却ガス流路
Claims (4)
- 溶融金属精錬炉の炉底に設けた二重管方式のガス吹込み羽口から該溶融金属精錬炉内に保持した溶融金属中に、該羽口の内管からは精錬ガス、内管と外管の間隙からは羽口冷却用ガスとしてプロパンガスを供給して該溶融金属を精錬するにあたり、前記羽口冷却用ガスの前記羽口の内管と外管の間隙における線流速を 220Nm/sec 以下とすることを特徴とする溶融金属精錬炉の底吹き二重管羽口の保護方法。
- 前記羽口内管から溶融金属中に吹込む精錬ガス流量が羽口1本あたり0.06Nm3 /(min・t)以上であることを特徴とする請求項1記載の溶融金属精錬炉の底吹き二重管羽口の保護方法。
- 前記溶融金属が溶融鉄−炭素合金であり、前記内管羽口からは酸素を吹込んで脱炭精錬を行なうことを特徴とする請求項1または2記載の溶融金属精錬炉の底吹き二重管羽口の保護方法。
- 前記溶融鉄−炭素合金がさらにクロムを9〜30質量%含有することを特徴とする請求項3記載の溶融金属精錬炉の底吹き二重管羽口の保護方法。
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