JP3908456B2 - 次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気低減方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、次亜塩素酸ナトリウムを含有する水溶液の臭気を低減する方法に関する。さらに詳しくは本発明は、哺乳瓶、授乳用乳首などの哺乳器具を消毒するために希釈して使用される次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気を低減する方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
乳幼児は細菌などに対する免疫力が低いことから、乳幼児の使用する哺乳瓶、授乳用人口乳首、食器などは単に洗浄するだけでなく、殺菌して使用することが望ましい。特に乳児の使用する哺乳瓶、授乳用人口乳首などの哺乳器具は、洗剤で清浄した後、殺菌して使用するのが一般的になりつつある。
【0003】
このような哺乳器具の殺菌には、次亜塩素酸ナトリウムの希釈液が使用されている。即ち、哺乳器具を洗剤で清浄した後、この哺乳器具を次亜塩素酸ナトリウムの希釈液に1〜2時間程度浸漬することにより、哺乳器具を殺菌することができる。ここで使用される次亜塩素酸ナトリウムの希釈液は、次亜塩素酸ナトリウムを1重量%程度の量で含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液(原液)を80倍(容量)程度に水で希釈することにより調製される。
【0004】
この次亜塩素酸ナトリウムは、酸、光、熱などに対して不安定であり哺乳器具などの殺菌に使用される次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、通常はアルカリ性に調整され不透明なプラスチック容器などに密封して販売されている。しかしながら、このように次亜塩素酸ナトリウムが比較的安定に保たれる条件で密閉されても、容器内で次亜塩素酸ナトリウムは徐々に分解して容器を開封した時に塩素臭が生ずる。この塩素臭は、次亜塩素酸ナトリウムを使用している以上、防止しようのないものであると考えられていた。
【0005】
しかしながら、本発明者は、従来次亜塩素酸ナトリウム水溶液が比較的安定に存在するアルカリ性雰囲気においてもさらに次亜塩素酸ナトリウムが安定な領域があることを見出した。即ち、本発明者は、上記のような哺乳器具の殺菌に希釈して使用するような次亜塩素酸ナトリウム水溶液を封入した容器を開封した際に生ずる塩素臭は、非常に微量の分解塩素によってもたらされるため、分析化学の常法に従って機器分析により測定した分解塩素量と必ずしも一致しないとの知見を得た。そして、この塩素臭に対する感性には非常に大きな個人差があり、種々の組成を有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製して実際に使用してみると、不快な臭気があると感ずる者と感じない者がおり、またその使用の態様など種々の要素によって塩素臭に関する感性は異なることがわかった。従って、瓶に充填された次亜塩素酸ナトリウム水溶液を開封した際に感ずるツンと鼻をつく塩素臭は、ある程度しかたのないことであり、この臭気の低減方法自体については詳細には検討されておらず、香料などを配合して塩素臭を緩和するなどの姑息的な手段がとられているのが現状である。
【0006】
しかしながら、こうした従来の方法では、塩素臭自体は低減されておらず、単に臭気を紛らわしているに過ぎず、発生する塩素臭の抜本的解消になっていない。また、香料など他の成分を配合することによる乳幼児に対する影響も懸念されるところである。
このように機器分析などでは判定できない塩素臭について、本発明者は、統計学的に臭気に関するデーターを処理してみると、機器分析などでは測定出来ない非常に微量の塩素量の変化を人は感知し得るのではないかという一定の方向性を見出した。即ち、従来次亜塩素酸ナトリウム水溶液が比較的安定に存在するとされていたアルカリ領域においても、さらに塩素臭が不快に感じにくくなる程度にまで次亜塩素酸ナトリウムを安定に保持できる領域があることを見出して本発明を完成するに至った。
【0007】
【発明の目的】
本発明は次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気を低減する方法に関する。さらに詳しくは本発明は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を密封した容器を開封した際に不快な塩素臭を低減する方法を提供することを目的としている。
【0008】
【発明の概要】
本発明は、次亜塩素酸ナトリウムを1.2〜0.8重量/容量%の範囲内の濃度で含有する水溶液の臭気を低減する方法であり、該水溶液中に含有される次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを用いて該水溶液のpH値を11.6〜12.5の範囲内に調整することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気低減方法である。
【0009】
本発明の臭気の低減方法において、溶液中に含有される次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、通常は1.2〜0.8重量/容量%、好ましくは1.1〜0.9重量/容量%であり、本発明の方法は、このような濃度で次亜塩素酸ナトリウムを含有する水溶液を密封状態で収納している容器を開封した際の臭気を危険度5%以下の有意差で低減することができる。
【0010】
【発明の具体的説明】
次に本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気低減方法について具体的に説明する。
本発明の臭気低減方法を採用することができる水溶液中には、次亜塩素酸ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウムが溶媒である水に溶解されて含有されている。
【0011】
本発明の臭気低減方法は、水溶液中に次亜塩素酸ナトリウムを通常は1.2〜0.8重量/容量%、好ましくは1.1〜0.9重量/容量%の量で含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対して有用性が高い。
この次亜塩素酸ナトリウム水溶液中には、塩化ナトリウムが含有されている。この水溶液中において、塩化ナトリウムは通常は5〜30重量/容量%、好ましくは10〜20重量/容量%の量で含有されている。この塩化ナトリウムを配合することにより次亜塩素酸ナトリウムの安定性が向上する。
【0012】
さらにこの水溶液中には水酸化ナトリウムが含有されており、この水酸化ナトリウムの配合量を調整することにより、この水溶液のpH値を11.6以上、好ましくは11.6〜12.5、特に好ましくは11.6〜12.2の範囲内に調整する。
後述するようにこの水溶液のpH値が11.6に満たないと、密閉容器にこの水溶液を充填し、この容器の蓋を開封したときの臭気が強くなる。また、pH値が12.5を超えると、殺菌された哺乳器具に残留するアルカリ成分が多くなり、哺乳器具の殺菌用には適さなくなる。
【0013】
本発明における方法では、複数の被験者を用いて統計的に判定することにより求める。即ち、本発明では、複数の被験者に異なる試料について臭気の強さを判定されて順番をつけ、この順番に基づいてそれぞれの試料について点数を求めて、この値をもとにしてこれらの試料についてt検定により危険度5%で有意差を求める。
【0014】
本発明で採用するt検定とは、W. S. Gossetによって発見されたステューデント(Student)のt分布と呼ばれる理論分布を用いた比較検定法であり、標本の大きさが50〜60以下、特に30以下の場合には、正規分布を用いた従来の検定方法よりも高い精度を有する。
このt分布は、
【0015】
【数1】
Figure 0003908456
【0016】
で表される正規分布の確立密度曲線に非常によく似た曲線であるが、正規分布の場合とは異なり自由度φによって曲線の高さが影響を受ける。そして、通常はこの自由度φは、標本数をnとすると、φ=n−1で表される。
そして、本発明では、pH値の異なる水溶液(即ち、水酸化ナトリウム量のみが異なり次亜塩素酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムの量は同一である水溶液)を調製して、これらを同一形状の容器に密閉し、複数(本発明では14人)の被験者に蓋を開けたときに感ずる臭気の強さによって点数をつけさせる。例えば、pH値の異なる3種類のサンプルを製造した場合、1番臭気が強いと感じられたサンプルに1点、2番目に臭気が強いと感じられたサンプルに2点、3番目に臭気が強い(即ち、臭気が最も弱い)サンプルに3点の点数をつけて、この点数を基にして統計解析処理を行い、t検定によりp値((1−α);信頼係数;両側検定および片側検定)を求めた。この値からそれぞれのサンプルについて比較する。この対比から危険度5%以下であるものは、統計学的に比較サンプルに対して「有意差あり」と認識されている。
【0017】
このような判定結果の統計学的な処理に関しては、既に公知であり、本発明においても、例えば「臨床統計解析のためのソフトウエア」(Fisher (株)中山書店発行、執筆者 大江和孝ら)などに記載された方法に従って、得られた数値を処理することができる。
本発明では、例えば、後述する実施例で示すように14人の被験者を選定して、pH値10.9のサンプル(サンプルNo.1)、pH値11.5のサンプル(サンプルNo.2)pH値11.7のサンプル(サンプルNo.3)を調製して、上述した判断基準で14人の被験者に臭気の強さを評価させる。
【0018】
その結果からサンプルNo.1とサンプルNo.2との対比、サンプルNo.2とサンプルNo.3との対比、サンプルNo.1とサンプルNo.3との対比を行って有意差判定を行うと、サンプルNo.1とサンプルNo.2との間ではp値が大きすぎて両者の間に有意差はなく、またサンプルNo.2とサンプルNo.3との間でも同様にp値が大きすぎて両者の間に有意差はないが、サンプルNo.1とサンプルNo.3との間では危険度5%でサンプルNo.3に有意差が見られる。即ち、No.1とサンプルNo.3との間では、100人中95人がサンプルNo.3の臭気が、サンプルNo.1よりも少ないと認められるのである。
【0019】
従来、上記のような哺乳器具の殺菌に希釈して使用される次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpH値は、10〜11程度に調整されていた。即ち、次亜塩素酸ナトリウムは酸性側では極めて不安定であり、アルカリ側で比較的安定であること、および、ある程度アルカリ側に溶液のpH値を調整すれば、次亜塩素酸ナトリウムの安定性は殆ど一定しており、過度にアルカリにすると殺菌された哺乳器具への残留アルカリによる影響が懸念されることから、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpH値は、10〜11程度に調整されている。そしてこのようなpH値を変えたサンプルについて次亜塩素酸ナトリウムの分解による塩素の発生量を機器分析により測定しても、発生塩素量は殆ど測定誤差範囲内と考えられる程度の変動しか観察されない。しかしながら、このようなpH値がわずかに異なる次亜塩素酸ナトリウム水溶液を実際に使用してみると、明らかに臭気の強さに相違がある。
【0020】
そして、上記のようにしてパネル試験を行い、その結果を統計的に解析してみると、上記のような組成を有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気は、pH値11.6付近を境にして、pH値をこれよりも高くすることにより低減することができるのである。
そして、この臭気の低減効果は、所定量の塩化ナトリウムを配合した系において特に顕著に表れる。
【0021】
このように本発明の臭気低減方法の対象となる次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、従来から次亜塩素酸ナトリウムが用いられていたアルカリ領域においてpH値11.6以上にすることによっていっそう安定し、その臭気が著しく低減される。こうした臭気の原因となる塩素濃度について種々の機器分析装置を用いて測定してみた結果、機器分析では、上記統計的に解析して得られた結果に対応する測定値の変化を検出するには至っていないが、人の臭覚が塩素臭のような異様な臭いに対しては分析装置を超えて極めて感度が高いためである。
【0022】
【発明の効果】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気を低減する方法では、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpH値を11.6以上に調整することにより、同一の濃度を有する従来の次亜塩素酸ナトリウム水溶液よりも、この水溶液を充填した瓶を開封したときの塩素臭を少なくすることができる。
【0023】
従って、本発明の方法によれば、哺乳瓶のような乳幼児用品などを殺菌消毒する際に塩素臭による不快感を低減することができる。
【0024】
【実施例】
次に本発明の実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[pH値の測定]
本発明において、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpH値は、堀場製作所(株)製のpHメーターを用いて25℃で測定した。
【0025】
【実施例1】
サンプル1の調製
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(10重量/容量%、pH値;11.8)100ml、塩化ナトリウム170gを水850mlに溶解し、濃度1モルの水酸化ナトリウム水溶液を加えてこの溶液のpH値を10.9に調整した後、水を加えて最終的に全体量を1000mlとしてサンプル1を調製した。このサンプル1は1重量/容量%の次亜塩素酸ナトリウムを含有しており、そのpH値は、10.9であった。このサンプル1を同一のガラス瓶14個に同量づついれ、プラスチック製の蓋をして密封した。
【0026】
サンプル2の調製
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(10重量/容量%、pH値;11.8)100ml、塩化ナトリウム170gを水850mlに溶解し、濃度1モルの水酸化ナトリウム水溶液を加えてこの溶液のpH値を11.5に調整した後、水を加えて最終的に全体量を1000mlとしてサンプル2を調製した。このサンプル2は1重量/容量%の次亜塩素酸ナトリウムを含有しており、そのpH値は、11.5であった。このサンプル1を同一のガラス瓶14個に同量づついれ、プラスチック製の蓋をして密封した。
【0027】
サンプル3の調製
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(10重量/容量%、pH値;11.8)100ml、塩化ナトリウム170gを水850mlに溶解し、濃度1モルの水酸化ナトリウム水溶液を加えてこの溶液のpH値を11.7に調整した後、水を加えて最終的に全体量を1000mlとしてサンプル1を調製した。このサンプル3は1重量/容量%の次亜塩素酸ナトリウムを含有しており、そのpH値は、11.7であった。このサンプル1を同一のガラス瓶14個に同量づついれ、プラスチック製の蓋をして密封した。
【0028】
こうして調製した14セットの試料を14人の被験者に渡し、蓋を取ったときの臭いを判定させ、一番臭うものに1点、2番目に臭うものに2点、3番目に臭うもの(一番臭わないもの)に3点の点数をつけて評価させた。
それぞれの被験者がつけた点数は次表1に記載の通りであった。
【0029】
【表1】
Figure 0003908456
【0030】
この結果を基にして、「臨床統計解析のためのソフトウエア」(Fisher (株)中山書店発行、執筆者 大江和孝ら)に記載されている方法に従ってこのデーターを統計学的に処理した。即ち、標本数14としてt検定によりサンプル1とサンプル2との対比、サンプル2とサンプル3との対比、サンプル1とサンプル3との対比を行った。
【0031】
結果は次表2に示す通りである。
【0032】
【表2】
Figure 0003908456
【0033】
上記の解析結果から、t検定におけるp1値(両側検定)、およびp2値(片側検定)を求め、危険度5%における有意性を判定した。
【0034】
【表3】
Figure 0003908456
【0035】
上記表3から明らかなように、pH値が10.9であり従来の次亜塩素酸ナトリウム水溶液のレベルにある次亜塩素酸ナトリウム水溶液(サンプルNo.1)の塩素臭と、本発明の方法によりpH値が11.7に調整された次亜塩素酸ナトリウム水溶液(サンプルNo.3)の塩素臭とを比較すると、危険度5%でpH値が11.7の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(サンプルNo.3)の塩素臭が少ないことが明らかである。
【0036】
また、サンプル1とサンプル2との比較では、pH値の差が0.6あるにも拘わらず、両者の間に有意差はみられない。さらに、サンプル2とサンプル3との比較において有意差は見られなかった。
これらの結果から、pH値が11.6をわずかに下回る点で次亜塩素酸ナトリウム水溶液の安定性が変化するpH値が存在すると推定され、従って、本発明で規定するように、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpH値を11.6以上にすることによって次亜塩素酸ナトリウム水溶液を安定化させることができると共に、こうしたpH値に調整された次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、蓋を開けた瞬間にツンと鼻をつく刺激性の塩素臭が少なく、使用の際の不快感が低減される。
【0037】
なお、このようにpH値を調整しても次亜塩素酸ナトリウム水溶液の消毒殺菌作用は変化しないので、従来の次亜塩素酸ナトリウム水溶液と同様に80倍程度に希釈して哺乳瓶、人工乳首などを浸漬して同様に使用することができる。

Claims (4)

  1. 次亜塩素酸ナトリウムを1.2〜0.8重量/容量%の範囲内の濃度で含有する水溶液の臭気を低減する方法であり、該水溶液中に含有される次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを用いて該水溶液のpH値を11.6〜12.5の範囲内に調整することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気低減方法。
  2. 上記次亜塩素酸ナトリウムを含有する水溶液中に水酸化ナトリウムを10重量/容量%以上の量で配合することを特徴とする請求項第1項記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気低減方法。
  3. 上記水溶液のpH値を11.6〜12.2の範囲内に調整することを特徴とする請求項第1項記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気低減方法。
  4. 上記次亜塩素酸ナトリウム水溶液が、哺乳器具を消毒するために希釈して使用される次亜塩素酸ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項第1項記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の臭気低減方法。
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