JP3900861B2 - ディーゼルエンジンの制御装置 - Google Patents

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  • Exhaust Gas Treatment By Means Of Catalyst (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はディーゼルエンジンの制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
排気の空燃比がリーンのとき排気中のNOxをトラップし、排気の空燃比がリッチのときトラップしたNOxを浄化する(例えば脱離・還元する)NOx触媒を排気通路に備える場合に、減速フュエルカット条件が成立したとき排気の空燃比がリーンであれば、空燃比を理論空燃比あるいは理論空燃比よりリッチにする処理(この空燃比の処理を以下「空燃比リッチ化処理」という。)を減速フュエルカット条件の成立時点から所定期間行い、これによりトラップしたNOxを浄化し、その後にフュエルカット処理に移行する技術が開示されている(特開平11−303663号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術では減速フュエルカット条件が成立すると常に空燃比リッチ化処理が行われるため次のような問題があった。すなわち、NOx触媒のNOx浄化率は触媒温度に大きく依存し、触媒温度が低いときには浄化率が低下して触媒の活性状態を保てない。そのため触媒が活性状態にない状態で空燃比リッチ化処理を行ってもNOxの浄化が行われない。NOxの浄化に使われなかった未燃HCはそのまま触媒下流に排出されてしまい、燃費も悪くなる。
【0004】
一方、減速フュエルカット条件は減速状態かつエンジン回転速度が所定の回転速度範囲にあるときに成立するので、減速状態にあってもエンジン回転速度がこの所定回転速度範囲を外れている場合に空燃比リッチ化処理は行われない。この場合にあっても触媒が活性状態にあればNOxの浄化を行うことができるのであるから、従来装置では、フュエルカット条件に限定するあまり、空燃比リッチ化処理を行い得る機会をみすみす逃してしまっている。
【0005】
そこで本発明は減速状態にありかつ触媒が活性状態にある場合に限って所定の期間空燃比リッチ化処理を行う。この場合、減速状態ではフュエルカット条件が成立するときと成立しないときとがあるので、フュエルカット条件の成立時には、フュエルカットを中止して燃料噴射を行わせることにより、空燃比リッチ化処理を実現し、これに対してフュエルカット条件の非成立時(つまり燃料噴射中)には燃料量を大きくするかあるいは燃料量はそのままにして空気量を減らすことにより空燃比リッチ化処理を実現する。このようにして空燃比リッチ化処理を実現することにより、空燃比リッチ化処理を行い得る機会を広く用意するとともに、空燃比リッチ化処理が無駄に行われることがないようにして燃費の悪化とHC排出の増加を防止することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、排気の空燃比がリーンのとき排気中のNOxをトラップし、排気の空燃比が理論空燃比またはこれよりリッチのときトラップしたNOxを浄化するNOx触媒を排気通路に備えるとともに、車両の減速状態にあるかどうかを判定する減速状態判定手段と、触媒が活性状態にあるかどうかを判定する活性状態判定手段と、これら判定結果より車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のとき、空燃比リッチ化処理を所定期間行う制御手段とを備え、かつ高圧で燃料噴射を行う燃料噴射弁と、吸入空気量調整手段(たとえば過給機や吸気絞り装置)と、目標吸入空気量を基本燃料噴射量Mqdrvと目標当量比Tfbyaから設定するか(図20のステップ4参照)または運転パラメータ(例えばアクセル開度APOとエンジン回転速度Ne)と目標当量比Tfbyaから設定する手段と、この設定した目標吸入空気量tQacに応じて吸入空気量調整手段を制御する手段とを備え、実吸入空気量Qacと目標吸入空気量tQacとの差が所定値以上であるときには燃料カット状態またはそれに近い燃料噴射量を燃料噴射弁によるメイン噴射量tQfinとして設定し(図73のステップ2、4参照)、実吸入空気量Qacと目標吸入空気量tQacとの差が所定値未満であるとき、このときの実吸入空気量Qacと目標当量比Tfbyaで燃料噴射弁によるメイン噴射量tQfinを設定し(図73のステップ2、3参照)、前記空燃比リッチ化処理をこれら設定した2つメイン噴射量tQfinにより前記燃料噴射弁によるメイン噴射。第2の発明は、排気の空燃比がリーンのとき排気中のNOxをトラップし、排気の空燃比が理論空燃比またはこれよりリッチのときトラップしたNOxを浄化するNOx触媒を排気通路に備えるとともに、車両の減速状態にあるかどうかを判定する減速状態判定手段と、触媒が活性状態にあるかどうかを判定する活性状態判定手段と、これら判定結果より車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のとき、空燃比リッチ化処理を所定期間行う制御手段とを備え、かつ高圧で燃料噴射を行う燃料噴射弁と、吸入空気量調整手段(たとえば過給機や吸気絞り装置)と、目標吸入空気量を基本燃料噴射量Mqdrvと目標当量比Tfbyaから設定するか(図20のステップ4参照)または運転パラメータ(例えばアクセル開度APOとエンジン回転速度Ne)と目標当量比Tfbyaから設定する手段と、この設定した目標吸入空気量tQacに応じて吸入空気量調整手段を制御する手段とを備え、実吸入空気量Qacと目標吸入空気量tQacとの差が所定値以上であるときには燃料カット状態またはそれに近い燃料噴射量を燃料噴射弁によるポスト噴射量tQpostとして設定し、実吸入空気量Qacと目標吸入空気量tQacとの差が所定値未満であるとき、このときの実吸入空気量Qacと目標当量比Tfbyaで燃料噴射弁によるポスト噴射量tQpostを設定し、前記空燃比リッチ化処理をこれら設定した2つポスト噴射量tQpostにより前記燃料噴射弁によるポスト噴射。目標当量比そのものに代えて目標当量比相当値でもかまわない。
【0007】
の発明では、第1または第2の発明において前記活性状態判定手段が、所定の触媒浄化率を保つことのできる触媒温度を維持し得る車速VSPL#を超えているとき触媒が活性状態にあると判定する(図71のステップ4参照)。
【0008】
の発明では、第1から第3までのいずれか一つの発明においてNOx触媒の浄化時期になったかどうかを判定する浄化時期判定手段を備え、NOx触媒の浄化時期になったとき、フュエルカット処理が行われていればフュエルカット処理を禁止して空燃比リッチ化処理を行う。
【0010】
第5の発明は、第1または第2の発明においてEGR装置を備え、目標当量比Tfbyaを、目標空気過剰率TlambとEGR装置の制御値とで設定する(図20のステップ3参照)。EGR装置の制御値とは例えば実EGR率Megrdや目標EGR率Megrである。
【0013】
の発明では、第1または第2の発明においてロックアップ機構を有する自動変速機を備え、車両の減速状態でロックアップ機構を作動させている場合に、車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のときかつ前記空燃比リッチ化処理の要求があるときロックアップ機構の作動を禁止する。
【0014】
の発明では、第1または第2の発明において車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のときかつ前記空燃比リッチ化処理の要求があるときフュエルカット処理が行われていれば、ポスト噴射により空燃比リッチ化処理を行う。
【0015】
の発明では、第1または第2の発明において車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のときかつ前記空燃比リッチ化処理の要求があるときフュエルカット処理が行われていなければ、空燃比リッチ化処理を吸入空気量調整手段(たとえば過給機や吸気絞り装置)またはEGR装置を用いて空気過剰率を低下させることにより行う。
【0016】
の発明では、第1または第2の発明においてEGR装置を備え、空燃比リッチ化処理中に目標吸入空気量tQacが吸入空気量調整手段で達成しうる最低吸入空気量以下となったとき、目標吸入空気量tQacが得られるようにEGR装置によりEGR量を増加補正するかまたは目標吸入空気量tQacとなるようにEGR量をフィードバック制御する。なお、目標吸入空気量tQacが吸入空気量調整手段で達成しうる最低吸入空気量以下となったかどうかの判定に代えて吸気管圧力が所定値以下の低圧側になったかどうかの判定を行ってもよい。
【0018】
【発明の効果】
第1、第2、の発明では運転性への影響が少ない減速状態にありかつ触媒が活性状態であるときに限って空燃比リッチ化処理を行うので、当該処理により多く発生するHCがNOx触媒の浄化に有効に使われる。その一方で触媒が活性状態にないときには空燃比リッチ化処理が行われることがなく、これにより触媒が未活性の状態で空燃比リッチ化処理が行われて触媒に使われない未燃HCがそのまま排出されることを回避することができる。
【0019】
また、減速状態であればフュエルカット条件の成立、非成立に関係なく空燃比リッチ化処理が行われるため、従来より空燃比リッチ化処理を行い得る機会が増やされている。
【0020】
このようにして第1、第2、第3の発明によれば、減速状態かつ触媒が活性状態であるときに限ってフュエルカット条件の成立に関係なく空燃比リッチ化処理を行うことで、空燃比リッチ化処理を行い得る機会を拡大し、さらに空燃比リッチ化処理が無駄に行われて未燃HCがそのまま排出されることを回避するとともに無駄な燃料消費を抑制することができる。
当量比はこの値が1.0のとき理論空燃比に相当するので、第1または第2の発明によれば目標当量比に適切な値を与えることで、排気を必要以上にリッチ雰囲気にしてHC、COの排出量を増加させたり、この逆に十分なリッチ雰囲気が達成されずにNOxの浄化が不十分となるといった事態を防止できる。
また、第1または第2の発明によれば、目標吸入空気量を目標当量比と基本燃料噴射量(あるいは運転パラメータ)により設定するため、目標当量比の得られる吸入空気量を達成することができ、適切な空燃比で空燃比リッチ化処理を行うことができる。
また、実吸入空気量が目標吸入空気量より遅れ、目標吸入空気より大きくなったり小さくなったりする過渡時には実吸入空気量より演算される燃料噴射量が目標吸入空気量が期待する燃料噴射量より多かったり少なかったりする。こうした現象が生じる過渡時にも実吸入空気量に基づいて燃料噴射量を演算させたのでは、燃料を噴射し過ぎて減速時なのにトルクショックを生じたり、この逆にNOx触媒の浄化に不十分な量の燃料しか供給されなかったりする事態が生じるのであるが、第1または第2の発明によれば、実吸入空気量が目標吸入空気量に十分近づいた後に燃料噴射弁からの燃料噴射を開始するため、こうした事態を防止することが可能となる。
【0021】
の発明によれば、フュエルカット処理より空燃比リッチ化処理が優先されるので、確実にNOx触媒を浄化できる。
【0023】
第5の発明によれば、EGR装置の制御値をも用いて目標当量比を設定するので、過渡時にもEGR中の酸素濃度を考慮して目標当量比を設定することが可能となり、特に空燃比リッチ化処理の開始直後のリッチ雰囲気のより速い達成と精度とを確保できる。
【0026】
ロックアップ機構を有する自動変速機を備える場合に、車両が減速状態にあるときロックアップ機構を作動させるようにしているものでは、フュエルカット状態にあるため、車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態で空燃比リッチ化処理の要求があっても空燃比リッチ化処理を行うことができないのであるが、第の発明では車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のときかつ空燃比リッチ化処理の要求があるとき、ロックアップ機構の作動を禁止することで、エンジン回転速度が低下して燃料リカバー状態となり空燃比リッチ化処理を行わせることが可能となる。
【0027】
また、空燃比リッチ化処理要求のない減速時にもロックアップ機構の作動を禁止したのでは、燃料カットができず燃費効果が減少する上、減速からの再加速のときにはロックアップ機構が作動へと切換わり、ロックアップ機構の作動、非作動の切換の頻度が増加してしまうことになるが、空燃比リッチ化処理要求のない減速時にはロックアップ機構の作動が禁止されることはないので、こうしたロックアップ機構の不要な作動、非作動を防止することができる。
【0028】
の発明によればフュエルカット処理が行われていても、ポスト噴射により排気温度を上昇させつつNOx還元剤であるHCを触媒へと供給することができる。
【0029】
吸入空気量調整手段またはEGR装置を用いて空燃比リッチ化処理を行うのであれば燃料噴射量を増やすことが必要ないため、第の発明によれば不要な燃料噴射を防止することができる。
【0030】
の発明によれば、空燃比リッチ化処理中に目標吸入空気量が吸入空気量調整手段で達成しうる最低吸入空気量以下となったとき(または吸気管圧力が所定値以下の低圧側になったとき)においても、目標吸入空気量が得られるので、実際の吸入空気量が目標よりも極度に低くなったり吸入圧力が極度に低圧となるような状態になることを回避でき、これによって確実にリッチ雰囲気を達成しつつトルクショックやブローバイガスの極度の増加を防止することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
図1に、熱発生率のパターンが単段燃焼となる、いわゆる低温予混合燃焼を行わせるための構成を示す。なお、この構成そのものは特開平8−86251号公報などにより公知である。
【0033】
さて、NOxの生成は燃焼温度に大きく依存し、その低減には燃焼温度の低温化が有効である。低温予混合燃焼では、EGRによる酸素濃度の低減で、低温燃焼を実現するため、排気通路2と吸気通路3のコレクタ部3aとを結ぶEGR通路4に、圧力制御弁5からの制御圧力に応動するダイヤフラム式のEGR弁6(EGR装置)を備えている。
【0034】
圧力制御弁5は、コントロールユニット41からのデューティ制御信号により駆動されるもので、これによって運転条件に応じた所定のEGR率を得るようにしている。たとえば、低回転低負荷域でEGR率を最大の100パーセントとし、回転速度、負荷が高くなるに従い、EGR率を減少させる。高負荷側では排気温度が上昇するため、多量のEGRガスを還流すると、吸気温度の上昇によってNOx低減の効果が減少したり、噴射燃料の着火遅れ期間が短くなって予混合燃焼が実現できなくなる等のため、EGR率を段階的に減少させている。
【0035】
EGR通路4の途中には、EGRガスの冷却装置7を備える。これは、EGR通路4の周りに形成されエンジン冷却水の一部が循環されるウォータジャケット8と、冷却水の導入口7aに設けられ冷却水の循環量を調整可能な流量制御弁9とからなり、コントロールユニット41からの指令により、制御弁9を介して循環量を増やすほどEGRガスの冷却度が増す。
【0036】
燃焼促進のため吸気ポート近傍の吸気通路に所定の切欠を有するスワールコントロールバルブ(図示しない)を備える。コントロールユニット41により、このスワールコントロールバルブが低回転速度低負荷域で閉じられると、燃焼室に吸入される吸気の流速が高まり燃焼室にスワールが生成される。
【0037】
燃焼室は大径トロイダル燃焼室(図示しない)である。これは、ピストンキャビティを、入口を絞らずピストンの冠面から底部まで円筒状に形成したもので、その底部中央には、圧縮行程後期にピストンキャビティの外部から旋回しながら流れ込むスワールに抵抗を与えないように、さらに空気と燃料の混合を良好にするため、円錐部が形成されている。この入口を絞らない円筒状のピストンキャビティにより、前述のスワールバルブ等によって生成されたスワールは、燃焼過程でピストンが下降していくのに伴い、ピストンキャビティ内からキャビティ外に拡散され、キャビティ外でもスワールが持続される。
【0038】
エンジンにはコモンレール式の燃料噴射装置10を備える。これを図2により概説する。
【0039】
この燃料噴射装置10は、主に燃料タンク11、燃料供給通路12、サプライポンプ14、コモンレール(蓄圧室)16、気筒毎に設けられるノズル17(燃料噴射弁)からなり、サプライポンプ14により加圧された燃料は燃料供給通路15を介して蓄圧室16にいったん蓄えられたあと、蓄圧室16の高圧燃料が気筒数分のノズル17に分配される。
【0040】
ノズル17は、針弁18、ノズル室19、ノズル室19への燃料供給通路20、リテーナ21、油圧ピストン22、針弁18を閉弁方向(図で下方)に付勢するリターンスプリング23、油圧ピストン22への燃料供給通路24、この通路24に介装される三方弁(電磁弁)25などからなり、ノズル内の通路20と24が連通して油圧ピストン22上部とノズル室19にともに高圧燃料が導かれる三方弁25のOFF時(ポートAとBが連通、ポートBとCが遮断)には、油圧ピストン22の受圧面積が針弁18の受圧面積より大きいことから、針弁18が着座状態にあるが、三方弁25がON状態(ポートAとBが遮断、ポートBとCが連通)になると、油圧ピストン22上部の燃料が戻し通路28を介して燃料タンク11に戻され、油圧ピストン22に作用する燃料圧力が低下する。これによって針弁18が上昇してノズル先端の噴孔より燃料が噴射される。三方弁25をふたたびOFF状態に戻せば、油圧ピストン22に蓄圧室16の高圧燃料が導びかれて燃料噴射が終了する。つまり、三方弁25のOFFからONへの切換時期により燃料の噴射開始時期が、またON時間により燃料噴射量が調整され、蓄圧室16の圧力が同じであれば、ON時間が長くなるほど燃料噴射量が多くなる。26は逆止弁、27はオリフィスである。
【0041】
この燃料噴射装置10にはさらに、蓄圧室圧力を調整するため、サプライポンプ14から吐出された燃料を戻す通路13に圧力調整弁31を備える。この調整弁31は通路13の流路を開閉するもので、蓄圧室16への燃料吐出量を調整することにより蓄圧室圧力を調整する。蓄圧室16の燃料圧力(噴射圧)によって燃料噴射率が変化し、蓄圧室16の燃料圧力が高くなるほど燃料噴射率が高くなる。
【0042】
アクセル開度センサ33、エンジン回転速度とクランク角度を検出するセンサ34、気筒判別のためのセンサ35、水温センサ36からの信号が入力されるコントロールユニット41では、エンジン回転速度とアクセル開度に応じて目標燃料噴射量と蓄圧室16の目標圧力を演算し、圧力センサ32により検出される蓄圧室圧力がこの目標圧力と一致するように圧力調整弁31を介して蓄圧室16の燃料圧力をフィードバック制御する。
【0043】
また、演算した目標燃料噴射量に対応して三方弁25のON時間を制御するほか、三方弁25のONへの切換時期を制御することで、運転条件に応じた所定の噴射開始時期を得るようにしている。たとえば、高EGR率の低回転速度低負荷側で噴射燃料の着火遅れ期間が長くなるように燃料の噴射時期(噴射開始時期)をピストン上死点(TDC)にまで遅延している。この遅延により、着火時期の燃焼室内の温度を低温状態にし、予混合燃焼比率を増大させることにより、高EGR率域でのスモークの発生を抑える。これに対して、回転速度、負荷が高くなるにしたがい、噴射時期を進めている。これは、着火遅れの時間が一定であっても、着火遅れクランク角度(着火遅れの時間をクランク角度に換算した値)がエンジン回転速度の増加に比例して大きくなり、低EGR率時に所定の着火時期を得るために、噴射時期を進めるのである。
【0044】
図1に戻り、EGR通路4の開口部下流の排気通路2に可変容量ターボ過給機を備える。これは、排気タービン52のスクロール入口に、圧力アクチュエータ54により駆動される可変ノズル53を設けたもので、コントロールユニット41により、可変ノズル53は低回転速度域から所定の過給圧が得られるように、低回転速度側では排気タービン52に導入される排気の流速を高めるノズル開度(傾動状態)に、高回転速度側では排気を抵抗なく排気タービン52に導入させノズル開度(全開状態)に制御する。
【0045】
上記の圧力アクチュエータ54は、制御圧力に応動して可変ノズル53を駆動するダイヤフラムアクチュエータ55と、このアクチュエータ55への制御圧力を調整する圧力制御弁56とからなり、可変ノズル53の開口割合が、後述するようにして得られる目標開口割合Rvntとなるように、デューティ制御信号が作られ、このデューティ制御信号が圧力制御弁56に出力される。
【0046】
さて、過給圧制御という観点からみると、EGR制御も、過給圧制御の役割を物理的に果たしている。つまり、EGR量を変化させることにより過給圧も変化する。逆に、過給圧を変化させると、排気圧力が変化するため、EGR量も変化することになり、過給圧とEGR量とは独立に制御できない。また、ややもするとお互いに制御上の外乱となっている。なお、一方を変化させた場合に、制御精度を確保するには、他方を適合し直すことであるが、他方を適合し直した後には、もう一方を再適合しなければならなくなるので、この方法では、過渡時の制御精度を確保することが困難である。
【0047】
このように、過給圧とEGR量とはお互いに影響を与え、EGR量を変えると、ノズル開度を変える必要があるなど適切な適合が困難な上に、特に過渡時は双方の制御精度が低下するので、コントロールユニット41では、目標吸入空気量tQacと目標EGR量や目標EGR率Megrに遅れ処理を施した値である実EGR量Qecや実GR率Megrdからターボ過給機の作動目標値である可変ノズル53の目標開口割合Rvntを設定するほか、目標空気過剰率Tlambと実EGR率Megrdとから所定の演算式(後述する)により目標当量比Tfbyaを設定し、この目標当量比Tfbyaに基づいて上記の目標吸入空気量tQacと最終目標噴射量Qfinを演算し、これら目標吸入空気量tQacと最終目標噴射量Qfinが得られるように吸入空気量と噴射量を制御するようにしている。
【0048】
排気タービン52の下流の排気通路2にはNOx触媒61を備える。これは排気の空燃比がリーンのとき排気中のNOxをトラップし、排気の空燃比がリッチのときトラップしたNOxを浄化する(例えば脱離・還元する)ものである。NOxがトラップされるほどトラップ率が低下してくるので、コントロールユニット41では所定の条件となったとき空気過剰率が1.0を超える空気過剰な雰囲気でエンジンを運転していればリッチスパイク処理(空燃比リッチ化処理)を行う。
【0049】
ここで、所定の条件は基本的にフュエルカットの行われる減速状態であり、本発明ではさらに触媒が活性状態にあることを追加している。したがって、減速フュエルカット条件が成立しても触媒が活性状態にあるかどうかを確かめ、触媒が活性状態にある場合に限ってリッチスパイク処理を所定の期間行い、所定の期間が終了した時点でまだ減速状態にあればフュエルカット処理に移行する。
【0050】
コントロールユニット41で実行されるこのリッチスパイク処理、上記の過給圧とEGR量の協調制御の内容を、また吸入空気量調整手段として過給機のほかに図示しない吸気絞り弁(吸気絞り装置)を吸気コンプレッサ上流の吸気通路3に備えるので、この吸気絞り弁開度の制御の内容を、以下のフローチャートにしたがって説明する。
【0051】
まず、図3は目標燃料噴射量Qsolを演算するためのもので、REF信号(クランク角の基準位置信号で、4気筒エンジンでは180度毎、6気筒エンジンでは120度毎の各信号)の入力毎に実行する。
【0052】
ステップ1、2でエンジン回転速度Neとアクセル開度APOを読み込み、ステップ3では、これらNeとAPOに基づいて、図4を内容とするマップを検索すること等により、基本燃料噴射量Mqdrvを演算し、ステップ4ではこの基本燃料噴射量Mqdrvに対してエンジン冷却水温等による増量補正を行い、補正後の値を目標燃料噴射量Qsolとして設定する。
【0053】
図5はEGR弁6の開口面積Aevを演算するためのもので、REF信号の入力毎に実行する。ステップ1では目標EGR量Tqekを演算する。このTqekの演算については図7のフローにより説明する。
【0054】
図7(図5ステップ1のサブルーチン)において、ステップ1、2では1シリンダ当たりの吸入空気量Qacnと目標EGR率Megrを演算する。
【0055】
ここで、Qacnの演算については図8のフローにより、またMegrの演算については図11のフローにより説明する。
【0056】
まず、図8において、ステップ1ではエンジン回転速度Neを読み込み、このエンジン回転速度Neとエアフローメータより得られる吸入空気量Qas0とから
【0057】
【数1】
Qac0=(Qas0/Ne)×KCON#、
ただし、KCON#:定数、
の式により1シリンダ当たりの吸入空気量Qac0を演算する。
【0058】
上記のエアフローメータ39(図1参照)は、コンプレッサ上流の吸気通路3に設けており、エアフローメータ39からコレクタ部3aまでの輸送遅れ分のディレイ処理を行うため、ステップ3ではL(ただしLは定数)回前のQac0の値をコレクタ入口部3a位置における1シリンダ当たりの吸入空気量Qacnとして求めている。そして、ステップ4ではこのQacnに対して
【0059】
【数2】
Figure 0003900861
の式(一次遅れの式)により吸気弁位置における1シリンダ当たりの吸入空気量(この吸入空気量を、以下「シリンダ吸入空気量」で略称する。)Qacを演算する。これはコレクタ入口部3aから吸気弁までのダイナミクスを補償するためのものである。
【0060】
上記数1式右辺の吸入空気量Qas0の検出については図9のフローにより説明する。図9のフローは4ms毎に実行する。
【0061】
ステップ1ではエアフローメータ39の出力電圧Usを読み込み、このUsからステップ2で図10を内容とする電圧−流量変換テーブルを検索すること等により吸入空気量Qas0 dを演算する。さらに、ステップ3でこのQas0 dに対して加重平均処理を行い、その加重平均処理値を吸入空気量Qas0として設定する。
【0062】
次に、図11において、ステップ1ではエンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、エンジン冷却水温Twを読み込む。ステップ2ではエンジン回転速度Neと目標燃料噴射量Qsolから図12を内容とするマップを検索すること等により基本目標EGR率Megrbを演算する。この場合、基本目標EGR率は、エンジンの使用頻度の高い領域、つまり低回転速度、低負荷(低噴射量)になるほど大きくなり、スモークが発生しやすい高出力時には小さくする。
【0063】
次にステップ3で冷却水温Twから図13を内容とするテーブルを検索すること等により、基本目標EGR率の水温補正係数Kegr twを演算する。そして、ステップ4において、基本目標EGR率とこの水温補正係数とから、
【0064】
【数3】
Megr=Megrb×Kegr tw
の式により目標EGR率Megrを算出する。
【0065】
ステップ5ではエンジンの状態が完爆状態であるか否かを判定する。ただし、この完爆の判定は、図14のフローで後述する。
【0066】
ステップ6では完爆状態かどうかみて、完爆状態のときは、今回の処理をそのまま終了し、完爆状態でないと判定されたときは、目標EGR率Megrを0として今回の処理を終了する。
【0067】
これにより、エンジンの完爆後にEGR制御が行われ、完爆前は安定した始動性を確保するためにもEGRは行われない。
【0068】
図14はエンジンの完爆を判定するためのものである。ステップ1でエンジン回転速度Neを読み込み、このエンジン回転速度Neと完爆回転速度に相当する完爆判定スライスレベルNRPMKとをステップ2において比較する。Neのほうが大きいときは完爆と判断し、ステップ3に進む。ここでは、カウンタTmrkbと所定時間TMRKBPとを比較し、カウンタTmrkbが所定時間よりも大きいときは、ステップ4に進み、完爆したものとして処理を終了する。
【0069】
これに対して、ステップ2でNeのほうが小さいときは、ステップ6に進み、カウンタTmrkbをクリアし、ステップ7で完爆状態にはないものとして処理を終了する。また、ステップ2でNeよりも大きいときでも、ステップ3でカウンタTmrkbが所定時間よりも小さいときは、ステップ5でカウンタをインクリメントし、完爆でないと判断する。
【0070】
これらにより、エンジン回転速度が所定値(たとえば400rpm)以上であって、かつこの状態が所定時間にわたり継続されたときに完爆したものと判定するのである。
【0071】
このようにして図8によりシリンダ吸入空気量Qacn、図11により目標EGR率Megrの演算を終了したら、図7のステップ3に戻り、両者から
【0072】
【数4】
Mqec=Qacn×Megr
の式により要求EGR量Mqecを演算する。
【0073】
ステップ4ではこのMqecに対して、KIN×KVOLを加重平均係数とする
【0074】
【数5】
Figure 0003900861
の式により、中間処理値(加重平均値)Rqecを演算し、このRqecと要求EGR量Mqecを用いてステップ5で
【0075】
【数6】
Figure 0003900861
の式により進み補正を行って、1シリンダ当たりの目標EGR量Tqecを演算する。要求値に対して吸気系の遅れ(すなわちEGR弁6→コレクタ部3a→吸気マニホールド→吸気弁の容量分の遅れ)があるので、ステップ4、5はこの遅れ分の進み処理を行うものである。
【0076】
数6式の進み補正ゲインGKQECは目標EGR量の応答の時定数と逆数の関係にあり、進み補正ゲインを大きくするほど応答の時定数が小さくなり(応答が速くなり)、この逆に補正ゲインを小さくすると応答の時定数が大きくなる(応答が遅くなる)。
【0077】
ステップ6では
【0078】
【数7】
Tqek=Tqec×(Ne/KCON#)/Kqac00
ただし、Kqac00:EGR量フィードバック補正係数、
KCON#:定数、
の式により単位変換(1シリンダ当たり→単位時間当たり)を行って、目標EGR量Tqekを求める。なお、EGR量フィードバック補正係数Kqac00の演算については後述する(図54参照)。
【0079】
このようにして目標EGR量Tqekの演算を終了したら、図5のステップ2に戻り、EGRガス(EGR弁を流れるガス)の流速(このEGRガスの流速を以下、単に「EGR流速」という)Cqeを演算し、このEGR流速Cqeと目標EGR量Tqekとから
【0080】
【数8】
Aev=Tqek/Cqe
の式でEGR弁開口面積Aevを演算する。なお、EGR流速Cqeの演算については後述する(図63参照)。
【0081】
このようにして得られたEGR弁開口面積Aevは、図示しないフローにおいて図6を内容とするテーブルを検索する等によりEGR弁6のリフト量に変換され、このEGR弁リフト量になるように、圧力制御弁5へのデューティ制御信号が作られ、このデューティ制御信号が圧力制御弁5に出力される。
【0082】
次に、図15、図16はターボ過給機駆動用の圧力制御弁56に与える制御指令デューティ値Dtyvntを演算するためのもので、一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。
【0083】
図15を第1実施形態、図16を第2実施形態とすると、2つの実施形態では可変ノズル53の目標開口割合Rvntを演算するのに用いるパラメータに違いがある(図15の第1実施形態では実EGR量Qecに基づいて、また図16の第2実施形態では実EGR率Megrdに基づいて可変ノズル53の目標開口割合Rvntを演算する)。
【0084】
なお、図15、図16はメインルーチンで、制御の大きな流れは図示のステップに従うものであり、各ステップの処理に対してサブルーチンが用意されている。したがって、以下ではサブルーチンを中心に説明していく。
【0085】
図17(図16のステップ2のサブルーチン)は実EGR率を演算するためのもので、10msの入力毎に実行する。ステップ1で目標EGR率Megr(図11で得ている)を読み込み、ステップ2でコレクタ容量分の時定数相当値Kkinを演算する。このKkinの演算については図18のフローにより説明する。
【0086】
図18(図17のステップ2のサブルーチン)において、ステップ1でエンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、後述する実EGR率の前回値であるMegrdn-1[%]を読み込み、このうちNeとQsolからステップ2において図19を内容とするマップを検索すること等により体積効率相当基本値Kinbを演算し、ステップ3では
【0087】
【数9】
Kin=Kinb×1/(1+Megrdn-1/100)
の式により体積効率相当値Kinを演算する。これはEGRによって体積効率が減少するので、その分の補正を行うようにしたものである。
【0088】
このようにして求めたKinに対し、ステップ4において吸気系容積とシリンダ容積の比相当の定数であるKVOL(図8のステップ4参照)を乗じた値をコレクタ容量分の時定数相当値Kkinとして演算する。
【0089】
このようにしてKkinの演算を終了したら図17のステップ3に戻り、このKkinと目標EGR率Megrを用い、
【0090】
【数10】
Figure 0003900861
の式で遅れ処理と単位変換(1シリンダ当たり→単位時間当たり)を同時に行って吸気弁位置におけるEGR率Megrdを演算する。数10式の右辺のNe×KE2#が単位変換のための値である。目標EGR率Megrに対してこのMegrdは一次遅れで応答するため、このMegrdを、以下「実EGR率」という。
【0091】
図20(図15、図16のステップ2のサブルーチン)は目標吸入空気量tQacを演算するためのものである。ステップ1で実EGR率Megrd(図17で得ている)を読み込み、ステップ2で目標空気過剰率Tlambを演算する。この目標空気過剰率Tlambの演算については図21のフローにより説明する。
【0092】
図21において、ステップ1ではエンジン回転速度Ne、基本燃料噴射量Mqdrv、水温Tw、リッチスパイク実行フラグfrspk(図71により後述する)を読み込む。リッチスパイク実行フラグfrspkは、frspk=1のときリッチスパイク処理を実行することを、これに対してfrspk=0のときリッチスパイク処理を実行しないことを意味する。ここで、リッチスパイク処理とは空気過剰率を1以下にすることをいう。
【0093】
ステップ2ではエンジン回転速度Neと基本燃料噴射量Mqdrvより図22を内容とするマップを用いて目標空気過剰率基本値Tlambbを設定する。スモーク対策のため高負荷域でだけ空気過剰率に対する制限値を設定するのではなく、図22に示したように全ての運転条件(Ne、Mqdrv)で最適な空気過剰率を設定している。すなわち、Tlambbの値はエンジン回転速度が一定であれば基本燃料噴射量Mqdrvが大きくなるほど小さくなり、またエンジン回転速度が高いほど小さくなる特性である。
【0094】
続いてステップ3、4、5で、水温Tw、吸気温Ta、大気圧Paより図23、図65、図66を内容とするテーブルを検索することにより水温補正係数Klamb tw、吸気温補正係数Klamb ta、大気圧補正係数Klamb paを設定し、リッチスパイク実行フラグfrspk=0(リッチスパイク処理非実行条件)のときにはステップ6よりステップ7に進み、目標空気過剰率基本値Tlambbに対してこれら3つの補正係数Klamb tw、Klamb ta、Klamb Paを乗じた値を目標空気過剰率Tlambとして演算する。
【0095】
ここで、水温補正係数Klamb twは低温時に増大するフリクションや燃焼の安定化のために空気過剰率を大きくして空気量を増大させるためのものである。吸気温補正係数Klamb taは吸気温Taが高い領域(図では80度以上)で空気過剰率を大きくして空気密度が低い分の空気量を増大するとともに燃焼温度を下げるためのもの、また大気圧補正係数Klamb Paも1気圧より低くなる高地で空気過剰率を大きくして、空気密度が低くなる分の空気量を大きくするためのものである。
【0096】
一方、リッチスパイク実行フラグfrspk=1(リッチスパイク処理実行条件)のときにはステップ6よりステップ8に進み、目標空気過剰率Tlambを1.0以下の一定値TLAMRC#とする。ここでのリッチスパイク処理は還元剤としてのHCをNOx触媒に供給することを目的としており、空気過剰率を1.0以下の値とすることで、排気中のHC濃度を高めることができる。
【0097】
このようにして目標空気過剰率Tlambを設定したら図20に戻り、ステップ3でこの目標空気過剰率Tlambと実EGR率Megrdとを用いて、
Figure 0003900861
の式で目標当量比Tfbyaを演算する。
【0098】
上記の(31)式は次のようにして導いたものである。
【0099】
空気過剰率λは吸入空気量と燃料量から定まる供給空燃比を理論空燃比の14.7で割った値(吸入空気量と燃料量から定まる供給空燃比と理論空燃比との関係を表す値)であるから、Gaを吸入空気量(新気量)、GeをEGR量、Gfを燃料量とすれば、定常状態で次式が成立する。
【0100】
λ={Ga+Ge×(λ−1)/λ}/(Gf×14.7)・・・(32)
ここで、右辺の分子の第2項はEGR量の中に含まれる新気量である。これは、空気過剰率は本来、
λ=Ga/(Gf×14.7) ・・・(33)
の式により定義される値であるが、ディーゼルエンジンでは空気過多の状態で運転されEGRガス中に多くの新気量が含まれるため、本実施形態ではこの分を考慮したものである。(λ−1)/λはEGRガス中の酸素割合を示すのでGeにこの酸素割合を乗じることでEGR量の中に含まれる新気量を求めている。
【0101】
(32)式を次のように変形する。
【0102】
Figure 0003900861
【0103】
ここで、当量比と空気過剰率とは逆数の関係にあり、
当量比=Gf×14.7/Ga ・・・(35)
の式で定義されるので、(34)式右辺のGa/(Gf×14.7)=1/当量比であるから、これを(34)式に代入する。
【0104】
λ=(1/当量比)×{1+EGR率×(λ−1)/λ}・・・(36)
(36)式を当量比について整理すると次式を得る。
【0105】
Figure 0003900861
(37)式の当量比、EGR率にそれぞれ目標当量比Tfbya、実EGR率Megrdを代入すると、上記(31)式が得られる。
【0106】
このようにして求められる目標空気過剰率Tlambと基本燃料噴射量Mqdrvとを用い、ステップ4において
tQac=Mqdrv×BLAMB#/Tfbya ・・・(38)
ただし、BLAMB#:14.7、
の式により目標吸入空気量tQacを演算する。
【0107】
図24(図15のステップ3のサブルーチン)は実EGR量を演算するためのものである。ステップ1でコレクタ入口部3a位置における1シリンダ当たりの吸入空気量Qacn(図8のステップ3で得ている)、目標EGR率Megr、コレクタ容量分の時定数相当値Kkinを読み込む。このうちQacnとMegrからステップ2で
【0108】
【数11】
Qec0=Qacn×Megr
の式によりコレクタ入口部3a位置における1シリンダ当たりのEGR量Qec0を演算し、このQec0とKkinを用いステップ3において、
【0109】
【数12】
Figure 0003900861
の式により、上記の数10式と同様に遅れ処理と単位変換(1シリンダ当たり→単位時間当たり)を同時に行ってシリンダ吸入EGR量Qecを演算する。数12式の右辺のNe×KE#が単位変換のための値である。このQecは目標EGR量Tqekに対して一次遅れで応答するため、以下このQecを「実EGR量」という。また、目標吸入空気量tQacに対して一次遅れで応答する上記のQacを、以下「実吸入空気量」という。
【0110】
図25(図15のステップ4のサブルーチン)、図27(図16のステップ3のサブルーチン)は可変ノズル53の目標開口割合Rvntを演算するためのものである(図25が第1実施形態、図27が第2実施形態)。
【0111】
ここで、可変ノズル53の開口割合とは、可変ノズル53の全開時のノズル面積に対する現在のノズル面積の比のことである。したがって、可変ノズル53の全開時に開口割合は100%、全閉時に開口割合は0%となる。開口割合を採用する理由は汎用性を持たせる(ターボ過給機の容量と関係ない値とする)ためである。もちろん、可変ノズルの開口面積を採用してもかまわない。
【0112】
なお、実施形態のターボ過給機は、全開時に過給圧が最も小さく、全閉時に過給圧が最も高くなるタイプのものであるため、開口割合が小さいほど過給圧が高くなる。
【0113】
まず、第1実施形態の図25のほうから説明すると、ステップ1で目標吸入空気量tQac、実EGR量Qec、エンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsolを読み込む。
【0114】
ステップ2、3では
【0115】
【数13】
Figure 0003900861
の2つの式により、目標開口割合を設定するための吸入空気量相当値tQas0(以下、この吸入空気量相当値を「設定吸入空気量相当値」という)と同じく目標開口割合を設定するためのEGR量相当値Qes0(以下、このEGR量相当値を「設定EGR量相当値」という)を演算する。数13式において、tQac、QecにQsol×QFGAN#を加算しているのは、設定吸入空気量相当値、設定EGR量相当値に対して負荷補正を行えるようにし、かつその感度をゲインQFGAN#で調整するようにしたものである。また、Ne/KCON#は単位時間当たりの吸入空気量、EGR量に変換するための値である。
【0116】
このようにして求めた設定吸入空気量相当値tQas0と設定EGR量相当値tQes0からステップ4ではたとえば図26を内容とするマップを検索することにより可変ノズル53の目標開口割合Rvntを設定する。
【0117】
一方、第2実施形態の図27のほうでは、ステップ1で目標吸入空気量tQac、実EGR率Megrd、エンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsolを読み込み、ステップ2において、上記数13式のうち上段の式により設定吸入空気量相当値tQas0を演算し、この設定吸入空気量相当値tQas0と実EGR率Megrdからステップ3でたとえば図28を内容とするマップを検索することにより可変ノズル53の目標開口割合Rvntを設定する。
【0118】
図26、図28に示した特性は燃費重視で設定したものである。なお、排気重視で設定することも可能である。ただし、排気重視の設定例との違いは具体的な数値にしかないので、両者に共通する特性を先に説明し、その後に両者の違いについて説明する。なお、図28の特性は、縦軸が図26と相違するものの(図26において原点からの傾斜がEGR率を示す)、基本的に図26と変わるものでないため、図26のほうで説明する。
【0119】
図26に示すように、設定吸入空気量相当値tQas0の大きな右側の領域において設定EGR量相当値Qes0が増えるほど目標開口割合を小さくしている。これは次の理由からである。EGR量が多くなると、そのぶん新気が減り、これによって空燃比がリッチ側に傾くとスモークが発生する。そこで、EGR量が多くなるほど、目標開口割合を小さくして過給圧を高める必要があるからである。
【0120】
これに対して、tQas0の小さな左側の領域では過給効果があまり得られない。この領域でtQas0が小さくなるほど目標開口割合を小さくしている。これは次の理由からである。この領域でも目標開口割合を大きくすると、排気圧が立ち上がりにくいのでこれを避けたいこと、また全開加速のためにはその初期において開口割合が小さいほうがよいことのためである。このように、異なる2つの要求から図26の特性が基本的に定まっている。
【0121】
さて、図26で代表させた目標開口割合の傾向は、燃費重視と排気重視に共通のもので、両者の違いは具体的な数値にある。同図において「小」とある位置の数値は、ターボ過給機が効率よく働く最小の値であるため、燃費重視の設定例、排気重視の設定例とも同じで、たとえば20程度である。一方、「大」とある位置の数値が両者で異なり、燃費重視の設定例の場合に60程度、排気重視の設定例になると30程度になる。
【0122】
なお、目標開口割合の設定は上記のものに限られるものでない。第1実施形態では設定吸入空気量相当値tQas0と設定EGR量相当値tQes0とから目標開口割合を設定しているが、これに代えて、目標吸入空気量tQacと実EGR量Qecから設定してもかまわない。さらに、これに代えて目標吸入空気量tQacと目標EGR量(Qec0)から設定してもかまわない。同様にして、第2実施形態では設定吸入空気量相当値tQas0と実EGR率Megrdから目標開口割合を設定しているが、これに代えて、目標吸入空気量tQacと実EGR率Megrdから設定してもかまわない。さらに、これに代えて目標吸入空気量tQacと目標EGR率Megrから設定してもかまわない。
【0123】
図29(図15のステップ5、図16のステップ4のサブルーチン)は、上記のようにして求めた目標開口割合Rvntに対して、可変ノズル駆動用の圧力アクチュエータ54(圧力制御弁56とダイヤフラムアクチュエータ55からなる)のダイナミクスを補償するため、進み処理を行うものである。これは、可変ノズル53のアクチュエータが圧力アクチュエータである場合には、ステップモータである場合と異なり、無視できないほどの応答遅れがあるためである。
【0124】
ステップ1で目標開口割合Rvntを読み込み、このRvntと前回の予想開口割合であるCavntn-1をステップ2において比較する。ここで、予想開口割合Cavntとは、すぐ後で述べるように、目標開口割合Rvntの加重平均値である(ステップ10参照)。
【0125】
Rvnt>Cavntn-1であれば(可変ノズル53を開く側に動かしているとき)、ステップ3、4に進み、所定値GKVNTO#を進み補正ゲインGkvnt、所定値TCVNTO#を進み補正の時定数相当値Tcvntとして設定し、これに対して、Rvnt<Cavntn-1であるとき(可変ノズル53を閉じる側に動かしているとき)は、ステップ6、7に進み、所定値GKVNTC#を進み補正ゲインGkvnt、所定値TCVNTC#を進み補正の時定数相当値Tcvntとして設定する。また、RvntとCavntn-1が同一であればステップ8、9に進み、前回の進み補正ゲイン、進み補正の時定数相当値を維持する。
【0126】
可変ノズル53を開き側に動かしているときと閉じ側に動かしているときとで進み補正ゲインGkvnt、進み補正の時定数相当値Tcvntを相違させ、GKVNTO#<GKVNTC#、TCVNTO#<TCVNTC#としている。これは、可変ノズル53を閉じ側に動かすときは、排気圧に抗する必要があるので、そのぶんゲインGkvntを大きくし、かつ時定数を小さくする(時定数と逆数の関係にある時定数相当値Tcvntは大きくする)必要があるからである。
【0127】
ステップ10ではこのようにして求めた進み補正の時定数相当値Tcvntと目標開口割合Rvntを用いて、
【0128】
【数14】
Cavnt=Rvnt×Tcvnt+Cavntn-1×(1−Tcvnt)、
ただし、Cavntn-1:前回のCavnt、
の式により予想開口割合Cavntを演算し、この値と目標開口割合Rvntからステップ11において、
【0129】
【数15】
Figure 0003900861
の式により進み補正を行い、目標開口割合のフィードフォワード量Avnt fを演算する。ステップ10、11の進み処理そのものは、図7のステップ4、5に示した進み処理と基本的に同様である。
【0130】
図30(図15のステップ6、図16のステップ5の各サブルーチン)は目標開口割合のフィードバック量Avnt fbを演算するためのものである。ステップ1で目標吸入空気量tQac、目標EGR率Megr、エンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、実吸入空気量Qacを読み込み、ステップ2では目標EGR率Megrと所定値MEGRLV#を比較する。
【0131】
Megr≧MEGRLV#であるとき(EGRの作動域であるとき)は、ステップ4において
【0132】
【数16】
dQac=tQac/Qac−1
の式により目標吸入空気量からの誤差割合dQacを演算する。dQacの値は0を中心とし、実際値としてのQacが目標値としてのtQacより小さいとき正の値に、この逆にQacがtQacより大きいとき負の値になる。
【0133】
一方、Megr<MEGRLV#であるとき(EGRの非作動域であるとき)は、ステップ3に進み、誤差割合dQac=0とする(すなわち、フィードバックを禁止する)。
【0134】
ステップ5ではNeとQsolから所定のマップを検索することによりフィードバックゲインの補正係数Khを演算し、この値をステップ6において各定数(比例定数KPB#、積分定数KIB#、微分定数KDB#)に掛けることによってフィードバックゲインKp、Ki、Kdを算出し、これらの値を用いて目標開口割合のフィードバック量Avnt fbをステップ7において演算する。このフィードバック量の演算方法は周知のPID処理である。
【0135】
上記の補正係数Khは、運転条件(Ne、Qsol)により適正なフィードバックゲインが変化するのに対応して導入したもので、負荷および回転速度が大きくなるほど大きくなる。
【0136】
図31(図15のステップ7、図16のステップ6の各サブルーチン)は、目標開口割合に対して線型化処理を行うためのものである。ステップ1で目標開口割合のフィードフォワード量Avnt fとフィードバック量Avnt fbを読み込み、この両者をステップ2において加算した値を指令開口割合Avntとして算出する。ステップ3ではこの指令開口割合Avntからたとえば図32を内容とするテーブル(線型化テーブル)を検索することにより指令開口割合線型化処理値Ratdtyを設定する。
【0137】
この線型化処理は、図32のように開口割合(あるいは開口面積)に対して、ターボ過給機を駆動するアクチュエータへの指令信号が非線型な特性を有する場合に必要となるものである。たとえば、図33に示したように空気量(過給圧)の変化幅が同じでも、空気量の小さな領域と空気量の大きな領域とでは、開口面積の変化幅がdA0、dA1と大きく異なる(ただしEGRなしのとき)。さらにEGRの有無(図では「w/o EGR」がEGRなし、「w/ EGR」がEGRありを表す)によっても開口面積の変化幅が変わる。したがって、運転条件に関係なく同じフィードバックゲインとしたのでは目標の吸入空気量(過給圧)が得られない。そこで、フィードバックゲインの適合を容易にするため、上記のように運転条件に応じたフィードバックゲインの補正係数Khを導入しているのである。
【0138】
図34(図15のステップ8、図16のステップ7の各サブルーチン)は圧力制御弁56に与えるONデューティ値(以下、単に「デューティ値」という)である制御指令値Dtyvntを設定するためのものである。まず、ステップ1でエンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、指令開口割合線型化処理値Ratdty、進み補正の時定数相当値Tcvnt、水温Twを読み込む。
【0139】
ステップ2ではデューティ選択信号フラグの設定を行う。このフラグ設定については図35のフローより説明する。図35において、ステップ1で指令開口割合Avntと進み補正の時定数相当値Tcvntを読み込み、これらからステップ2において、
【0140】
【数17】
Figure 0003900861
の式により遅れ処理を行って予想開口割合Adlyvntを演算し、この値と前回の予想開口割合のM(ただしMは定数)回前の値であるAdlyvntn-Mとをステップ3において比較する。
【0141】
Adlyvnt≧Adlyvntn-Mであるとき(増加傾向または定常状態にあるとき)は、増加傾向または定常状態にあることを示すためステップ4で作動方向指令フラグfvnt=1とし、それ以外ではステップ5で作動方向指令フラグfvnt=0とする。ステップ6ではさらに増加傾向である場合と定常状態とを分離するため、AdlyvntとAdlyvntn-Mを比較し、Adlyvnt=Adlyvntn-Mであるときは、ステップ7でデューティ保持フラグfvnt2=1とし、それ以外ではステップ8でデューティ保持フラグfvnt2=0とする。
【0142】
このようにして2つのフラグfvnt、fvnt2の設定を終了したら、図34のステップ3に戻り、デューティ値の温度補正量Dty tを演算する。この演算については図36のフローより説明する。
【0143】
図36において、ステップ1でエンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、水温Twを読み込み、このうちNeとQsolからステップ2においてたとえば図37を内容とするマップを検索すること等により基本排気温度Texhbを演算する。ここで、Texhbは暖機完了後の排気温度である。これに対して暖機途中であれば暖機完了後の排気温度とは異なってくるため、ステップ3で水温Twよりたとえば図38を内容とするテーブルを検索すること等により排気温度の水温補正係数Ktexh twを演算し、この値をステップ4において上記の基本排気温度に乗算した値を排気温度Texhiとして演算する。
【0144】
ステップ5ではこの排気温度Texhiから
Figure 0003900861
の式により遅れ処理を行った値を実排気温度Texhdlyとして演算する。これは、熱慣性分の遅れ処理を行うものである。
【0145】
ステップ6では基本排気温度Texhbとこの実排気温度Texhdlyとの差dTexhを演算し、この差dTexhからステップ7においてたとえば図39を内容とするテーブルを検索すること等によりデューティ値の温度補正量Dty tを演算する。ステップ6、7は、後述するヒステリシス対応に用いるマップ(Duty p、Duty n、Duty p、Duty nのマップ)を暖機完了後に対して設定することを念頭に置き、その状態からの差分(つまりdTexh)に応じた補正量を持たせるものである。なお、温度補正量Dty tによる補正は、雰囲気温度による温度特性を有するターボ過給機駆動用アクチュエータを使用する場合に必要となる処理である(図40参照)。
【0146】
このようにして温度補正量Dty tの演算が終了したら、図34のステップ4に戻る。
【0147】
図34のステップ4〜9はヒステリシス処理を行うものである。この処理を図45を用いて先に説明しておくと、これは、指令開口割合線型化処理値Ratdtyが増加傾向にあるときに上側の特性(Duty pを可変ノズル全開時の指令信号、Duty pを可変ノズル全閉時の指令信号とする直線特性)を用いるのに対して、指令開口割合線型化処理値Ratdtyが減少傾向にあるときには、もう一つの下側の特性(Duty nを可変ノズル全開時の指令信号、Duty を可変ノズル全閉時の指令信号とする直線特性)を用いるものである。なお、Ratdtyが1に近い領域で2つの特性がひっくり返っている領域があるが、この領域が実際に使われることはない。
【0148】
図34に戻り、ステップ4でフラグfvnt1をみる。fvnt=1のとき(すなわち開口割合が増加傾向にあるかまたは定常状態にあるとき)は、ステップ5、6に進み、たとえば図41を内容とするマップ(Duty pマップ)と図42を内容とするマップ(Duty pマップ)を検索することにより可変ノズル全閉時のデューティ値Duty hと可変ノズル全開時のデューティ値Duty lをそれぞれ設定する。一方、fvnt=0のとき(すなわち開口割合が減少傾向にあるとき)は、ステップ7、8に進み、たとえば図43を内容とするマップ(Duty nマップ)と図44を内容とするマップ(Duty nマップ)を検索することにより可変ノズル全閉時のデューティ値Duty hと可変ノズル全開時のデューティ値Duty lをそれぞれ設定する。
【0149】
このようにして設定した可変ノズル全閉時のデューティ値Duty h、可変ノズル全開時のデューティ値Duty lと上記の指令開口割合線型化処理値Ratdtyを用いステップ9において、
【0150】
【数18】
Figure 0003900861
の式により線型補間計算を行って指令デューティ値基本値Dty hを演算する。つまり、線型補間計算に用いる直線の特性を、指令開口割合線型化処理値が増加傾向にあるかまたは定常状態にあるときと指令開口割合線型化処理値が減少傾向にあるときとで変更する(ヒステリシス処理を行う)ことで、指令開口割合線型化処理値が同じであっても、指令開口割合線型化処理値が増加傾向(または定常状態)にあるときのほうが、減少傾向にあるときより指令デューティ値基本値Dty hが大きくなる。
【0151】
ステップ10ではもう一つのフラグfvnt2をみる。fvnt2=1(すなわち指令開口割合線型化処理値の変化がない)ときは、ステップ11に進み、前回の制御指令デューティ値(後述する)であるDtyvntn-1を通常指令デューティ値Dtyvに入れ(デューティ値をホールドし)、fvnt2=0(すなわち開口割合が減少傾向にある)ときは、ステップ12に進み、最新の演算値であるDty hをDtyvとする。
【0152】
ステップ13では動作確認制御処理を行う。この処理については図46のフローより説明する。図46において、ステップ1で通常指令デューティ値Dtyv、エンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、水温Twを読み込む。
【0153】
動作確認制御に入るための条件判定は、ステップ2、3、4、5の内容を一つずつチェックすることにより行い、各項目のすべてが満たされたときにさらに制御実行までの時間の計測に入る。すなわち、
ステップ2:Qsolが所定値QSOLDIZ#未満(つまり燃料カット時)である、
ステップ3:Neが所定値NEDIZ#未満(つまり中回転速度域)である、
ステップ4:Twが所定値TWDIZ#未満(つまり暖機完了前)である、
ステップ5:動作確認制御済みフラグfdiz=0である(まだ動作確認制御を行っていない)、
とき、ステップ6で動作確認制御カウンタCtrdizをインクリメントする。
【0154】
ステップ7ではこの動作確認制御カウンタと所定値CTRDIZH#、CTRDIZL#を比較する。ここで、所定値CTRDIZL#、CTRDIZH#は動作確認制御カウンタの下限リミット、上限リミットをそれぞれ定めるもので、CTRDIZL#はたとえば2秒程度、CTRDIZH#はたとえば7秒程度の値である。したがって、動作確認制御カウンタが下限リミットであるCTRDIZL#と一致したタイミングより、動作確認制御カウンタが上限リミットであるCTRDIZH#未満であるあいだ、ステップ9に進み、動作確認制御指令デューティ値を設定する。つまり、CTRDIZH#−CTRDIZL#が動作確認制御実行時間となる。
【0155】
動作確認制御指令デューティ値の設定については図47のフローにより説明する。図47においてステップ1で動作確認制御カウンタCtrdiz、エンジン回転速度Neを読み込み、ステップ2においてCtrdiz−CTRDIZL#(≧0)よりたとえば図48を内容とするテーブルを検索することにより制御パターンDuty puを設定する。これは、短い周期で可変ノズル53を全閉位置と全開位置とに動かすものである。
【0156】
ステップ3では、エンジン回転速度Neからたとえば図49を内容とするテーブルを検索することによりデューティ値Duty neを設定し、このDuty neにステップ4において上記の制御パターンDuty puを乗じた値を制御指令デューティ値Dtyvntとして演算する。図49のように、制御パターンDuty puに乗じるデューティ値Duty neをエンジン回転速度Neに応じた値としている。これは、エンジン回転速度により可変ノズル53の開閉動作を確認するデューティの指令値が異なることを想定したものである。たとえば、可変ノズル53は排気圧に抗して閉じる必要があるが、その排気圧は高回転になるほど高くなるので、これに対応してデューティの指令値を大きくしている。また、さらに高回転側では当制御による悪影響を受けないようにその値を下げるようにしている。
【0157】
図46に戻り、動作確認制御カウンタが下限リミットとしてのCTRDIZL#未満のときは、ステップ8よりステップ15に進み、通常指令デューティ値Dtyvを制御指令デューティ値Dtyvntとする。
【0158】
また、動作確認制御カウンタが上限リミットとしてのCTRDIZH#以上になると、ステップ7よりステップ10に進み、前回の動作確認制御カウンタであるCtrdizn-1と上限リミットとしてのCTRDIZH#を比較する。Ctrdizn-1<CTRDIZH#であれば、動作確認制御カウンタが上限リミットとしてのCTRDIZH#以上になった直後と判断し、動作確認制御を終了するため、ステップ11で制御指令デューティ値Dtyvnt=0とする。これは、動作確認制御終了時に一度、可変ノズル53を全開にして、通常制御時の制御精度を確保するためである。ステップ12では、動作確認制御済みフラグfdiz=1として、今回の処理を終了する。このフラグfdiz=1により、次回以降ステップ6以降に進むことができないので、エンジンを始動した後に動作確認制御が2度行われることはない。
【0159】
動作確認制御カウンタが上限リミットとしてのCTRDIZH#以上になった直後でないときは、ステップ10よりステップ14に進み、次回に備えるため動作確認制御カウンタCtrdiz=0とした後、ステップ15の処理を実行する。
【0160】
一方、Qsolが所定値QSOLDIZ#以上(燃料カット時でない)であるとき、Neが所定値NEDIZ#以上(高回転速度域)であるとき、Twが所定値TWDIZ#以上(暖機完了後)であるときは動作確認制御を禁止するため、ステップ2、3、4よりステップ13に進み、フラグfdiz=0としたあと、ステップ14、15の処理を実行する。
【0161】
このように、特に低温時など、ターボ過給機駆動用アクチュエータの動作が不安定な場合に動作確認制御を行わせることで、可変ノズルの動きが滑らかとなり、ターボ過給機駆動用アクチュエータの動作をより確実にすることができる。
【0162】
以上で、図15、図16の説明を終了する。
【0163】
次に、図50はEGR量の演算とEGR流速の演算に用いる2つのフィードバック補正係数Kqac00、Kqac0とEGR流速学習補正係数Kqacを演算するためのもので、REF信号の入力毎に実行する。
【0164】
まず、ステップ1で目標吸入空気量tQac、実吸入空気量Qac、エンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsolを読み込む。ステップ2では、目標吸入空気量tQacから
【0165】
【数19】
Figure 0003900861
の式(一次遅れの式)により目標吸入空気量遅れ処理値tQacdを演算する。これは、吸気系容積分の存在に伴う空気の供給遅れのために、後述する2つのフィードバック補正係数Kqac00、Kqac0や学習値Rqacが大きくならないように遅れ処理を施したものである。
【0166】
ステップ3ではフィードバック関連の各種フラグを読み込む。これらの設定については図51、図52、図53のフローより説明する。
【0167】
図51、図52、図53は図50と独立に一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。
【0168】
図51はフィードバック許可フラグfefbを設定するためのものである。ステップ1でエンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、実EGR率Megrd、水温Twを読み込む。
【0169】
フィードバック許可条件の判定は、ステップ2〜5、8の内容を一つずつチェックすることにより行い、各項目のすべてが満たされたときにフィードバックを許可し、一つでも反するときはフィードバックを禁止する。すなわち、
ステップ2:Megrdが所定値MEGRFB#を超えている(つまりEGRの作動域)、
ステップ3:Twが所定値TWFBL#(たとえば30℃程度)を超えている、
ステップ4:Qsolが所定値QSOLFBL#を超えている(燃料カットしていない)、
ステップ5:Neが所定値NEFBL#を超えている(エンストになる回転速度域でない)、
ステップ8:フィードバック開始カウンタCtrfbが所定値TMRFB#(たとえば1秒未満の値)を超えている
とき、ステップ9でフィードバックを許可するためフィードバック許可フラグfefb=1とし、そうでなければステップ10に移行し、フィードバックを禁止するためフィードバック許可フラグfefb=0とする。
【0170】
なお、フィードバック開始カウンタはステップ2〜5の成立時にカウントアップし(ステップ6)、ステップ2〜5の不成立時にフィードバック開始カウンタをリセットする(ステップ7)。
【0171】
図52は学習値反映許可フラグfelrn2を設定するためのものである。ステップ1でエンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、実EGR率Megrd、水温Twを読み込む。
【0172】
学習値反映許可条件の判定も、ステップ2〜5、8の内容を一つずつチェックすることにより行い、各項目のすべてが満たされたときに学習値の反映を許可し、一つでも反するときは学習値の反映を禁止する。すなわち、
ステップ2:Megrdが所定値MEGRLN2#を超えている(つまりEGRの作動域)、
ステップ3:Twが所定値TWLNL2#(たとえば20℃程度)を超えている、
ステップ4:Qsolが所定値QSOLLNL2#を超えている(燃料カットしていない)、
ステップ5:Neが所定値NELNL2#を超えている(エンストになる回転速度域でない)、
ステップ8:学習値反映カウンタCtrln2が所定値TMRLN2#(たとえば0.5秒程度)を超えている
とき、ステップ9で学習値の反映を許可するため学習値反映許可フラグfelrn2=1とし、そうでなければステップ10に移行し、学習値の反映を禁止するため学習値反映許可フラグfelrn2=0とする。
【0173】
なお、学習値反映カウンタはステップ2〜5の成立時にカウントアップし(ステップ6)、ステップ2〜5の不成立時にリセットする(ステップ7)。
【0174】
図53は学習許可フラグfelrnを設定するためのものである。ステップ1でエンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、実EGR率Megrd、水温Twを読み込む。
【0175】
学習許可条件の判定は、ステップ2〜7、10の内容を一つずつチェックすることにより行い、各項目のすべてが満たされたときに学習を許可し、一つでも反するときは学習を禁止する。すなわち、
ステップ2:Megrdが所定値MEGRLN#を超えている(つまりEGRの作動域)、
ステップ3:Twが所定値TWLNL#(たとえば70〜80℃程度)を超えている、
ステップ4:Qsolが所定値QSOLLNL#を超えている(燃料カットしていない)、
ステップ5:Neが所定値NELNL#を超えている(エンストになる回転速度域でない)、
ステップ6:フィードバック許可フラグfefb=1である、
ステップ7:学習値反映許可フラグfelrn2=1である、
ステップ10:学習ディレイカウンタCtrlnが所定値TMRLN#(たとえば4秒程度)を超えている
とき、ステップ11で学習を許可するため学習許可フラグfelrn=1とし、そうでなければステップ12に移行し、学習を禁止するため学習許可フラグfelrn=0とする。
【0176】
なお、学習ディレイカウンタはステップ2〜7の成立時にカウントアップし(ステップ8)、ステップ2〜7の不成立時にリセットする(ステップ9)。
【0177】
図50に戻り、このようにして設定される3つのフラグのうち、ステップ4でフィードバック許可フラグfefbをみる。fefb=1のときはステップ5、6でEGR量のフィードバック補正係数Kqac00とEGR流速のフィードバック補正係数Kqac0を演算する。一方、fefb=0のとき(フィードバックを禁止するとき)はステップ4よりステップ7、8に進み、Kqac00=1、Kqac0=1とする。
【0178】
ここで、EGR量フィードバック補正係数Kqac00の演算については図54のフローにより、またEGR流速フィードバック補正係数Kqac0の演算については図57のフローにより説明する。
【0179】
まず図54(図50のステップ5のサブルーチン)において、ステップ1で目標吸入空気量遅れ処理値tQacd、実吸入空気量Qac、エンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、水温Twを読み込む。
【0180】
ステップ2ではNeとQsolからたとえば図55を内容とするマップを検索すること等によりEGR流量の補正ゲインGkfbを、またステップ3では補正ゲインの水温補正係数KgfbtwをTwからたとえば図56を内容とするテーブルを検索すること等によりそれぞれ演算し、これらを用いステップ4において
【0181】
【数20】
Kqac00=(tQacd/Qac−1)×Gkfb×Kgfbtw+1
の式によりEGR量フィードバック補正係数Kqac00を演算する。
【0182】
この式の右辺第1項の(tQacd/Qac−1)は目標吸入空気量遅れ処理値からの誤差割合であり、これに1を加えることで、Kqac00は1を中心とする値になる。数20式は、目標吸入空気量遅れ処理値からの誤差割合に比例させてEGR量フィードバック補正係数Kqac00を演算するものである。
【0183】
次に、図57(図50のステップ6のサブルーチン)において、ステップ1で目標吸入空気量遅れ処理値tQacd、実吸入空気量Qac、エンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsol、水温Twを読み込む。
【0184】
ステップ2ではNeとQsolからたとえば図58を内容とするマップを検索すること等によりEGR流速の補正ゲインGkfbiを、またステップ3では補正ゲインの水温補正係数KgfbitwをTwからたとえば図59を内容とするテーブルを検索すること等によりそれぞれ演算し、これらを用いステップ4において
【0185】
【数21】
Figure 0003900861
の式により誤差割合Rqac0を更新し、この誤差割合Rqac0に対してステップ5において1を加えた値をEGR流速フィードバック補正係数Kqac0として算出する。
【0186】
これは、目標吸入空気量遅れ処理値からの誤差割合(tQacd/Qac−1)の積算値(積分値)に比例させてEGR流速フィードバック補正係数Kqac0を演算する(積分制御)ものである。
【0187】
図55、図58のように、補正ゲインを運転条件(Ne、Qsol)に応じた値としたのは次の理由による。同じゲインでも運転条件によりハンチングを生じたり生じなかったりするので、ハンチングを生じる領域では補正ゲインを小さくするためである。図56、図59のように低水温のとき(暖機完了前)に値を小さくしているのは、エンジン回転の不安定な低水温域でのエンジンの安定化を図るためである。
【0188】
このようにしてEGR量フィードバック補正係数Kqac00とEGR流速フィードバック補正係数Kqac0の演算を終了したら、図50に戻り、ステップ9で学習値反映許可フラグfelrn2をみる。学習反映許可フラグfelrn2=1のとき(学習値の反映を許可するとき)は、ステップ10に進み、NeとQsolよりたとえば図60の学習マップを検索することにより誤差割合学習値Rqacを読み出し、これに1を足した値をEGR流速学習補正係数Kqacとして演算する。一方、学習反映許可フラグfelrn2=0のとき(学習値の反映を禁止するとき)は、ステップ9よりステップ12に進み、EGR流速学習補正係数Kqac=1とする。
【0189】
続いてステップ13では、学習許可フラグfelrnをみる。学習許可フラグfelrn=1であれば(学習を許可するとき)、ステップ14に進み、EGR流速フィードバック補正係数Kqac0から1を減算して誤差割合Rqacnとする。
【0190】
このようにして求めた誤差割合Rqacnに基づいてステップ16では誤差割合学習値Rqacの更新を行う。一方、学習許可フラグfelrn=0であるとき(学習を禁止するとき)は、ステップ13よりステップ15に進み、誤差割合Rqacn=0としたあとに処理を終了する。
【0191】
学習値の更新については図61のフローにより説明する。図61(図50のステップ16のサブルーチン)において、ステップ1で誤差割合Rqacn、エンジン回転速度Ne、目標燃料噴射量Qsolを読み込む。NeとQsolからステップ2で学習速度Tclrnをたとえば図62を内容とするマップを検索すること等により演算する。ステップ3ではNe、Qsolより上記図60の学習マップから誤差割合学習値Rqacを読み出す。ステップ4で
【0192】
【数22】
Figure 0003900861
、の式により加重平均処理を行い、更新後の学習値をステップ5で図60の学習マップにストアする(更新前の値に対して更新後の値を上書きする)。
【0193】
図63(図5のステップ2のサブルーチン)はEGR流速Cqeを演算するためのものである。
【0194】
ステップ1、2で実EGR量Qec、実EGR率Megrd、実吸入空気量Qac、EGR流速フィードバック補正係数Kqac0、EGR流速学習補正係数Kqacを読み込み、ステップ3において
【0195】
【数23】
Qec h=Qec×Kqac×Kqac0
の式により、Kqac0とKqacで実EGR量Qecを補正した値を補正実EGR量Qec hとして算出し、この補正実EGR量Qec hと実EGR率Megrdよりステップ8において、たとえば図64を内容とするマップを検索することにより、EGR流速Cqeを演算する。なお、説明しなかったステップ4〜7は後述する。
【0196】
図64のEGR流速の特性は、非線型性が強く運転条件に応じてEGRのフィードバックの感度が相違することを示しているため、運転条件に対するフィードバック量の差が小さくなるように、EGR流速フィードバック補正係数Kqac0は、流速マップの検索に用いる実EGR量Qecへのフィードバックとしている。
【0197】
ただし、図64において特性の傾きが急になる右端に近い部分は、マップの適合誤差が生じ勝ちな領域であるため、適合誤差があると、その適合誤差の影響を受けてEGR弁開口面積Aevが変化してしまう。つまり、EGR弁開口面積Aevを演算する式であるAev=Tqek/CqeにおいてCqeには適合誤差が生じるのであるから、これに対処するには、目標EGR量Tqekに対しても流速誤差分の補正を行う必要がある。そのため新たに導入したのが上記のEGR量フィードバック補正係数Kqac00で、このKqac00により図7のステップ6で目標EGR量Tqekを補正している。
【0198】
この場合、Kqac00を演算する式である上記数20式は、目標吸入空気量遅れ処理値からの誤差割合に比例させてKqac00を演算するので、この比例制御により図64のEGR流速マップの適合誤差に対して即座に補正できることになる。たとえば、簡単のため数20式において、補正ゲインGkfb=1かつ暖機完了後で考えると、Kqac00=(tQacd/Qac−1)+1となる。この場合に、目標値としてのtQacdより実吸入空気量Qacが小さいと、Kqac00が1より大きな値となり、これによってTqecが即座に減量される。目標EGR量が即座に減量されると、相対的に新気量(吸入空気量)が増え、これによって実吸入空気量Qacが目標値としてのtQacdへと収束する。
【0199】
説明しなかった図63のステップ4〜7はEGRの作動開始時の初期値を設定する部分である。具体的には、ステップ4では補正実EGR量Qec hと0を比較する。Qec h=0(つまりEGRの非作動時)であるときは、ステップ5に進み、
【0200】
【数24】
Qec h=Qac×MEGRL#、
ただし、MEGRL#:定数、
の式により、補正実EGR量Qec hを設定する。同様にして、ステップ6では実EGR率Megrdと0を比較し、Megrd=0のときはステップ7で
【0201】
【数25】
Megrd=MEGRL#
の式により実EGR率Megrdを設定する。
【0202】
EGR弁6の全閉時にEGR弁6を通過するEGR流速は当然のことながらゼロであるが、数24式、数25式はEGRの作動開始時のことを考えて、流速の演算に用いるパラメータの初期値を設定する。MEGRL#の値は前述したようにたとえば0.5である。さらに述べると、運転条件によってEGRの作動開始時のEGR弁前後の差圧(したがってEGR流速も)が異なるため、これに対処するものである。この場合、EGRの作動開始時のEGR弁前後の差圧は実吸入空気量Qacに関係する。そこで、数24式によりQacに比例してQec hの初期値を与えることで、EGRの作動開始時のEGR流速の演算精度が向上する。
【0203】
図67は吸気絞り弁開度を設定するためのもので、一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。ステップ1でエンジン回転速度Ne、目標EGR率Megr、目標吸入空気量tQacを読み込む。これらのうちエンジン回転速度Neからステップ2で図68を内容とするテーブルを検索することにより最大作動ガス量Qgcmxを演算する。また目標吸入空気量tQacと目標EGR率Megrとからステップ3で
【0204】
【数26】
Qgc=tQac×(1+Megr)
の式によりEGR量を含めた作動ガス量Qgcを計算し、これら2つの値Qgc、Qgcmxよりステップ4で作動ガス割合tQh0(=Qgc/Qgcmx)を算出する。
【0205】
ステップ5、6はこの作動ガス割合tQh0(重量流量割合)を吸気絞り弁が制御できる体積流量に変換する部分である。すなわちステップ5で作動ガス割合tQh0より図69を内容とするテーブルを検索することにより吸気量比tDNVを演算し、これにステップ6においてエンジン回転速度Neと排気量VOL#を乗じて吸気絞り弁の目標開口面積tAtvoを算出する。そしてこの目標開口面積tAtvoからステップ7において図70を内容とするテーブルを検索することにより吸気絞り弁開度TVOを演算する。
【0206】
このようにして演算される吸気絞り弁開度TVOとなるようにスロットルアクチュエータにより吸気絞り弁が駆動される。
【0207】
このように吸気絞りでも目標空気量tQacを得ようとするため、本実施形態では過給機と吸気絞りの両方で目標空気量tQacが達成される。このため特に目標空気過剰率の急変時などの制御応答性(追従性)が向上するというメリットが得られる。
【0208】
図71はリッチスパイク実行フラグfrspkを設定するためのものである。まずステップ1でアクセル開度APO、車速VSP、水温Twを読み込む。なお車速VSPは車速センサにより検出すればよい。
【0209】
ステップ2、3、4はリッチスパイク許可条件であるかどうかを判定する部分である。すなわち水温Twが所定温度TWRSK#を超えているかどうか、アクセル開度APOが所定開度APOL#を下回っているかどうか、車速VSPが所定車速VSPL#を越えているかどうかをみる。水温Twが所定温度TWRSK#を超えており(エンジンの暖機が完了している)、かつアクセル開度APOが所定開度APOL#を下回っており、かつ車速VSPが所定車速VSPL#を越えているとき(リッチスパイク処理により供給されるHCを用いて触媒にトラップしているNOxを還元浄化できる温度域にあるとき、したがって低負荷域のように排気温度が低い領域は除く)、リッチスパイク許可条件にあると判断し、ステップ5、6に進んでリッチスパイク終了フラグfrspk1とリッチスパイク実行フラグの前回値であるfrspkn-1をみる。
【0210】
frspk1=0かつfrspkn-1=0のとき(リッチスパイク実行フラグfrspkの0から1への切換時)には、ステップ7、12でリッチスパイク実行カウンタCtrrhを所定値TMRRSK#(正の値)に設定するとともに、リッチスパイク実行フラグfrspk=1として今回の処理を終了する。上記の所定値TMRRSK#はリッチスパイク処理を実行する時間を定めるもので、触媒の容量によって異なる値とする。
【0211】
このフラグfrspk=1により次回からもリッチスパイク許可条件にあればステップ5、6よりステップ8に進み、リッチスパイク実行カウンタCtrrhをカウントダウンし、ステップ9でそのカウントダウンしたリッチスパイク実行カウンタCtrrhとゼロを比較する。
【0212】
カウントダウンの開始当初はCtrrh>0であるので、ステップ12の操作を行って今回の処理を繰り返す。次回以降もリッチスパイク許可条件にあればステップ8、9の操作を繰り返す。やがてリッチスパイク実行カウンタCtrrh=0となればリッチスパイクを終了させるためステップ10、13に進み、リッチスパイク終了フラグfrspk1=1とするとともにリッチスパイク実行フラグfrspk=0として今回の処理を終了する。
【0213】
リッチスパイク終了フラグfrspk1=1より次回にリッチスパイク許可条件であったとしても、ステップ5よりステップ6以降に進むことができない。
【0214】
一方、リッチスパイク許可条件でないときやリッチスパイク処理の途中でリッチスパイク許可条件からはずれたときにはステップ2、3、4よりステップ11、13に進んで、2つのフラグfrspk1=0、frspk=0として今回の処理を終了する。
【0215】
このように、リッチスパイク許可条件(運転条件)が成立し、まだリッチスパイク処理を行っていないときには所定時間リッチスパイク処理を実行して終了し、その後はリッチスパイク許可条件が続いていてもリッチスパイク処理を行わず、一度、リッチスパイク許可条件から外れて再びリッチスパイク条件が成立したときリッチスパイク処理をまた実行することで、不必要なリッチスパイク処理が行われることを防止している。
【0216】
図72はリッチスパイク処理(空燃比リッチ化処理)を行うためのもので、REF信号の入力毎に実行する。ステップ1でリッチスパイク実行フラグfrspkをみる。frspk=1であればステップ2に進み、目標燃料噴射量Qsolと所定値QSOLFC#を比較する。所定値QSOLFC#はフュエルカット状態もしくはそれに近い燃料噴射量状態を表す値であるため、Qsol<QSOLFC#(フュエルカット状態もしくはそれに近い燃料噴射量状態)であるときには減速状態にあると判断することができる。このときにはステップ3に進み燃料リカバー制御を行う。この燃料リカバー制御はリッチスパイク実行フラグfrspk=1かつ減速時での最終燃料噴射量Qfinを設定するもので、この最終燃料噴射量の設定については図73のフローにより説明する。
【0217】
図73においてステップ1では実吸入空気量Qac、目標当量比Tfbya、目標吸入空気量tQacを読み込む。このうちステップ2で目標吸入空気量tQacと実吸入空気量Qacの差の絶対値と所定値eを比較する。所定値eは実吸入空気量Qacが過渡的に目標吸入空気量tQacより離れた場合に、過渡後期に実吸入空気量Qacが目標吸入空気量tQacに十分近づいたかどうかを判定するためのものである。QacとtQacの差(の絶対値)が所定値e未満であるとき(実吸入空気量が目標吸入空気量に十分近づいたとき)ステップ3に進み、
【0218】
【数27】
Qfin=Qac×Tfbya/BLAMB#、
ただし、BLAMB#:14.7、
の式により最終燃料噴射量Qfinを演算する。求められた最終目標燃料噴射量Qfinは図示しないフローにより三方弁25のON時間に変換されて三方弁25へと出力される。
【0219】
ここで、数27式の目標当量比Tfbyaは図20のステップ3において目標空気過剰率Tlambに基づいて演算される値であること、この場合リッチスパイク実行フラグfrspk=1のときには図21のステップ8で目標空気過剰率Tlambに1.0以下の一定値TLAMRC#が入ることから、数27式左辺の最終燃料噴射量Qfinをエンジンに供給したとき排気中の空気過剰率が1.0以下となり、排気中のHC濃度が高められる。
【0220】
一方、図73のステップ2でQacとtQacの差の絶対値が所定値e以上であるとき(実吸入空気量が目標吸入空気量に十分近づいていない)にはステップ4に進み目標燃料噴射量Qsolをそのまま最終燃料噴射量tQfinとする。このときのQsolはQsol<QSOLFC#を満足する値であり(図72のステップ2、3参照)、したがって燃料カット状態もしくはそれに近い燃料噴射量状態となる。
【0221】
図72に戻り、リッチスパイク実行フラグfrspk=0のときやfrspk=1でも減速状態でないときにはステップ4に進み、通常制御を行う。通常制御は通常運転時(リッチスパイク実行フラグfrspk=1かつ減速時の条件を除く残りの運転条件)での最終燃料噴射量Qfinを設定するもので、この最終燃料噴射量の設定については図74のフローにより説明する。図74においてステップ1では実吸入空気量Qac、目標当量比Tfbyaを読み込み、これらより
【0222】
【数28】
Qfin=(Qac/BLAMB#)×Tfbya、
ただし、BLAMB#:14.7、
の式で最終目標燃料噴射量Qfinを演算する。数28式に示す演算式は数27式と全く同じである。ただし、数28式を用いるときには目標空気過剰率Tlambが1.0を越える値となるため目標空気過剰率Tlambより演算される目標当量比Tfbyaの値が数27式の場合と異なる。すなわち数28式左辺の最終燃料噴射量Qfinをエンジンに供給したとき排気中の空気過剰率が1.0を越える大きな値となり、空気過剰な雰囲気でエンジンが運転される。
【0223】
ここで、本実施形態(第1、第2の2つの実施形態)の作用を説明する。
【0224】
コントロールユニット41により所定の条件となったとき空気過剰率が1.0を超える空気過剰な雰囲気でエンジンを運転していればリッチスパイク処理(空燃比リッチ化処理)が所定の期間行われ、所定の期間が終了した時点でまだ減速状態にあればフュエルカット処理に移行している。
【0225】
ここで、所定の条件は減速状態であるだけでなく触媒が活性状態にあることである。すなわちコントロールユニット41により運転性への影響が少ない減速状態にありかつ触媒が活性状態であるときに限って空燃比リッチ化処理が行われるので、当該処理により多く発生するHCがNOx触媒の浄化に有効に使われることになり、未燃HCがそのまま排出されることを回避するとともに無駄な燃料消費を抑制することができる。
【0226】
なお、所定の触媒浄化率を保つことのできる触媒温度を維持し得る車速VSPL#を超えているとき触媒が活性状態にあると判定している(図71のステップ4参照)。この場合、車速を検出するための車速センサを備える車両にあっては新たにセンサを設ける必要がない。
【0227】
また、リッチスパイク実行フラグfrspk(浄化時期判定手段)を備え、リッチスパイク実行フラグfrspk=1のとき(NOx触媒の浄化時期になったとき)、減速状態にあっても(フュエルカット条件であっても)リッチスパイク処理を優先させる(フュエルカット処理を禁止してリッチスパイク処理を行う)ので、確実にNOx触媒を浄化できる。
【0228】
また、高圧で燃料噴射を行う燃料噴射弁としてのノズル17を備え、リッチスパイク処理をこのノズル17により燃料噴射(メイン噴射)を行う場合に、このノズル17からの最終燃料噴射量Qfin(メイン噴射量)を実吸入空気量Qacと目標当量比Tfbyaで設定している(図73のステップ3参照)。当量比はこの値が1.0のとき理論空燃比に相当するので、目標当量比Tfbyaに適切な値を与えることで、排気を必要以上にリッチ雰囲気にしてHC、COの排出量を増加させたり、この逆に十分なリッチ雰囲気が達成されずにNOxの浄化が不十分となるといった事態を防止できる。
【0229】
また、EGR装置を備え、目標当量比Tfbyaを、目標空気過剰率Tlambと実EGR率Megrd(EGR装置の制御値)とで設定するので(図20のステップ3参照)、過渡時にもEGR中の酸素濃度を考慮して目標当量比を設定することが可能となり、特にリッチスパイク処理の開始直後のリッチ雰囲気のより速い達成と精度とを確保できる。
【0230】
また、ターボ過給機および吸気絞り弁(いずれも吸入空気量調整手段)と、目標吸入空気量tQacに応じて過給機の可変ノズル開口割合と吸気絞り弁開度とを制御するコントロールユニット41とを備え、目標吸入空気量tQacを基本燃料噴射量Mqdrvと目標当量比Tfbyaから設定するため(図20のステップ4参照)、目標当量比Tfbyaの得られる吸入空気量を達成することができ、適切な空燃比でリッチスパイク処理を行うことができる。
【0231】
また、リッチスパイク処理のための燃料噴射を、実吸入空気量Qacと目標吸入空気量tQacとの差が所定範囲内に入ったときに行っている(図73のステップ2、3参照)。実吸入空気量Qacが目標吸入空気量tQacより遅れ、目標吸入空気tQacより大きくなったり小さくなったりする過渡時には実吸入空気量Qacより演算される最終燃料噴射量tQfinが、目標吸入空気量tQacが期待する燃料噴射量より多かったり少なかったりする。こうした現象が生じる過渡時にも実吸入空気量Qacに基づいて最終燃料噴射量tQfinを演算させたのでは、燃料を噴射し過ぎて減速時なのにトルクショックを生じたり、この逆にNOx触媒の浄化に不十分な量の燃料しか供給されなかったりする事態が生じるのであるが、本実施形態によれば、実吸入空気量Qacが目標吸入空気量tQacに十分近づいた後に燃料噴射を開始するため、こうした事態を防止することが可能となる。
【0232】
図75のフローは第3実施形態のリッチスパイク処理を行うためのもの、図76のフローは同じく第3実施形態の吸気絞り弁開度を設定するためのものである。この実施形態では図75に示したように図72に対してステップ11が追加されている。すなわち減速時にリッチスパイク実行フラグfrspk=1であるとき(リッチスパイク要求があるとき)にはロックアップ機構の作動を禁止している。ロックアップ機構はトルクコンバータを備える場合にトルクコンバータの入力軸と出力軸の間を直結状態にする(例えばロックアップクラッチを接続する)機構のことである。減速時にロックアップ機構が働いているということは、減速時のエンジン回転速度を上昇させもしくは高い状態に維持して燃料カットを行っている可能性があることを意味し、燃料カット状態では空燃比をリッチにすることができない。この場合に、ロックアップ機構の作動を禁止するとエンジン回転速度が下降して燃料リカバー状態となるため、空燃比をリッチにすることができる。
【0233】
このようにロックアップ機構を有する自動変速機を備える場合に、車両が減速状態にあるときロックアップ機構を作動させるようにしているものでは、車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態でリッチスパイク要求があってもリッチスパイク処理を行うことができないのであるが、第3実施形態では車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態でリッチスパイク要求があるとき、ロックアップ機構の作動を禁止することで、リッチスパイク処理を行わせることが可能となる。
【0234】
また、リッチスパイク要求のない減速時にもロックアップ機構の作動を禁止したのでは、燃料カットができず燃費効果が減少する上、減速からの再加速のときにはロックアップ機構が作動へと切換わり、ロックアップ機構の作動、非作動の切換の頻度が増加してしまうことになるが、リッチスパイク要求のない減速時にはロックアップ機構の作動が禁止されることはないので、こうしたロックアップ機構の不要な作動、非作動を防止することができる。
【0235】
図76に示したように図67に対してステップ11〜14の吸気管圧力を制限する処理が追加されている。すなわちステップ11ではエンジン回転速度Neより図77を内容とするテーブルを検索することにより作動ガス割合下限値tQh0minを演算し、ステップ12でこれと作動ガス割合tQh0を比較する。作動ガス割合tQh0が作動ガス割合下限値tQh0min以下であるとき(吸気管圧力リミット条件)にはステップ13に進み作動ガス割合tQh0を下限値tQh0minに制限する。
【0236】
また、吸気管圧力を制限するときにはステップ14でフィードバック許可フラグfefb=1とする。このフラグfefb=1のとき図67で前述したように2つのフィードバック補正係数Kqac00、Kqac0が演算され(ステップ4、5、6参照)、一方の補正係数Kqac00を用いてEGR量が、他方の補正係数Kqac0を用いてEGR流速がフィードバック制御される(図7のステップ6と図63のステップ3参照)。
【0237】
このように、リッチスパイク処理中に作動ガス割合tQh0がその下限値tQh0min以下となったとき、作動ガス割合tQh0を下限値tQh0minに制限し、目標吸入量tQacとなるようにEGR量をフィードバック制御することにより、リッチスパイク処理中に目標吸入空気量tQacが吸気絞り弁で達成しうる最低吸入空気量以下となったときにおいても目標吸入空気量tQacが得られるので、実際の吸入空気量が目標よりも極度に低くなることを回避でき、これによって確実にリッチ雰囲気を達成しつつトルクショックやブローバイガスの極度の増加を防止することができる。
【0238】
なお、図75、図76はそれぞれ図72、図67と置き換わるものであるため、図72、図67と同一部分には同一のステップ番号を付けており、それらの説明は省略する。
【0239】
図78のフローは第4実施形態のリッチスパイク処理を行うためのものである。第1、第2の実施形態ではリッチスパイク実行フラグfrspk=1かつ減速時に排気中の空気過剰率を1.0以下として過濃な混合気を作り出すのにメイン噴射で行ったが、この実施形態はメイン噴射に代えてメイン噴射の終了後の膨張行程や排気行程で小量の燃料を噴射する、いわゆるポスト噴射で行うことにより排気中の空気過剰率を1.0以下として過濃な混合気を作り出すようにしたものである。このため、図78のステップ3のみ図72と相違する。このステップ3でのポスト噴射制御については図79に示したように数27式の最終燃料噴射量tQfinをポスト噴射量tQpostとして算出するだけのものである。
【0240】
この実施形態によっても第1、第2実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0241】
ポスト噴射の使い方はこれに限られない。例えば、車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のときかつリッチスパイク実行フラグfrspk=1のとき(燃料リカバー制御の要求があるとき)フュエルカット処理が行われていれば、ポスト噴射により燃料リカバー制御(空燃比リッチ化処理)を行うことで、フュエルカット処理が行われていても、ポスト噴射により排気温度を上昇させつつNOx還元剤であるHCを触媒へと供給することができる。
【0242】
さらに、燃料リカバー制御中に作動ガス割合tQh0が下限値tQh0min以下となり(目標吸入空気量tQacが吸気絞り装置で達成しうる最低吸入空気量以下となり)、メイン噴射による燃料リカバー制御(空燃比リッチ化処理)ではHC供給量が要求より不足するとき、その不足分(最低吸入空気量と目標吸入空気量の差に相当するHCの不足分)のHC供給量をポスト噴射で達成するかまたはメイン噴射による燃料リカバー制御をやめて要求のHC供給量の総てをポスト噴射で達成するようにしてもかまわない。吸入空気量が目標まで低くならない場合は燃料リカバー制御に最適な目標空気過剰率を達成できないことになり、メイン噴射による燃料リカバー制御では触媒を再生するためのHC供給量が要求より不足するのであるが、このようにポスト噴射を利用することで、メイン噴射による燃料リカバー制御中に目標吸入空気量が吸入空気量調整手段で達成しうる最低吸入空気量以下となったときにおいても確実に要求のHC供給量を触媒へと供給することができる。なお、目標吸入空気量tQacが吸入空気量調整手段で達成しうる最低吸入空気量以下となったかどうかの判定に代えて吸気管圧力が所定値以下の低圧側になったかどうかの判定を行ってもよい。
【0243】
実施形態では目標当量比Tfbyaを、目標空気過剰率Tlambと実EGR率Megrd(EGR装置の制御値)とで設定する場合で説明したが(図20のステップ3参照)、実EGR率Megrdに代えて、図11の目標EGR率Megrを用いてもかまわない。
【0244】
実施形態では、基本燃料噴射量Mqdrvに比例して目標吸入空気量tQacを設定する場合で説明したが(図20のステップ4参照)、基本燃料噴射量Mqdrvはアクセル開度APOとエンジン回転速度Neに応じて設定するので(図4参照)、アクセル開度APOとエンジン回転速度Ne(これらは運転パラメータ)に応じて目標吸入空気量tQacを設定するようにしてもかまわない。
【0245】
第3実施形態では燃料リカバー制御中(空燃比リッチ化処理中)に作動ガス割合tQh0がその下限値tQh0min以下となったとき(目標吸入空気量tQacが吸気絞り装置で達成しうる最低吸入空気量以下となったときに相当する)、作動ガス割合tQh0を下限値tQh0minに制限し(目標吸入空気量tQacを最低吸入空気量に制限することに相当する)、目標吸入空気量tQacとなるようにEGR装置によりEGR量およびEGR流速をフィードバック制御する場合で説明したが(図76のステップ12、13、14、図7のステップ6参照)、目標吸入空気量tQacが最低吸入空気量以下となったとき、目標吸入空気量tQacを最低吸入空気量に制限することなく目標吸入空気量tQacとなるようにEGR量をフィードバック制御するようにしてもかまわない。また、フィードバックしなくても目標吸入空気量tQacが得られるようにEGR量を増加補正するようにしてもかまわない。目標吸入空気量tQacが最低吸入空気量以下となったかどうかの判定を、吸気管圧力が所定値以下の低圧側になったかどうかの判定に代えてもかまわない。
【0246】
実施例では空燃比リッチ化処理を、空気に対して相対的に燃料の量を多くすることにより行わせる場合で説明したが、これに限らず燃料に対して相対的に空気(新気)の量を減らせたりあるいはEGR量を増やすることによっても行うことができる。すなわち、吸入空気量調整手段(たとえば過給機や吸気絞り弁)またはEGR装置を用いて空気過剰率を低下させることによっても空燃比リッチ化処理を行うことができ、この場合には、燃料噴射量を増やすことは必要ないので、不要な燃料噴射を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施形態の制御システム図。
【図2】コモンレール式燃料噴射装置の概略構成図。
【図3】目標燃料噴射量の演算を説明するためのフローチャート。
【図4】基本燃料噴射量のマップ特性図。
【図5】EGR弁開口面積の演算を説明するためのフローチャート。
【図6】EGR弁開口面積に対するEGR弁駆動信号の特性図。
【図7】目標EGR量の演算を説明するためのフローチャート。
【図8】シリンダ吸入空気量の演算を説明するためのフローチャート。
【図9】吸入空気量の検出を説明するためのフローチャート。
【図10】エアフローメータ出力電圧に対する吸入空気量の特性図。
【図11】目標EGR率の演算を説明するためのフローチャート。
【図12】基本目標EGR率のマップ特性図。
【図13】水温補正係数のテーブル特性図。
【図14】完爆判定を説明するためのフローチャート。
【図15】第1実施形態の圧力制御弁に与える制御指令デューティ値の演算を説明するためのフローチャート。
【図16】第2実施形態の圧力制御弁に与える制御指令デューティ値の演算を説明するためのフローチャート。
【図17】実EGR率の演算を説明するためのフローチャート。
【図18】コレクタ容量分の時定数相当値の演算を説明するためのフローチャート。
【図19】体積効率相当基本値のマップ特性図。
【図20】目標吸入空気量の演算を説明するためのフローチャート。
【図21】目標空気過剰率の演算を説明するためのフローチャート。
【図22】目標空気過剰率基本値のマップ特性図。
【図23】目標空気過剰率の水温補正係数のテーブル特性図。
【図24】実EGR量の演算を説明するためのフローチャート。
【図25】第1実施形態の目標開口割合の演算を説明するためのフローチャート。
【図26】目標開口割合のマップ特性図。
【図27】第2実施形態の目標開口割合の演算を説明するためのフローチャート。
【図28】目標開口割合のマップ特性図。
【図29】目標開口割合のフィードフォワード量の演算を説明するためのフローチャート。
【図30】目標開口割合のフィードバック量の演算を説明するためのフローチャート。
【図31】線型化処理を説明するためのフローチャート。
【図32】線型化のテーブル特性図。
【図33】開口面積と過給圧の関係を示す特性図。
【図34】信号変換を説明するためのフローチャート。
【図35】デューティ選択信号フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図36】デューティ値の温度補正量の演算を説明するためのフローチャート。
【図37】基本排気温度のマップ特性図。
【図38】水温補正係数のテーブル特性図。
【図39】温度補正量のテーブル特性図。
【図40】ターボ過給機駆動用アクチュエータの温度特性図。
【図41】可変ノズル全閉時のデューティ値のマップ特性図。
【図42】可変ノズル全開時のデューティ値のマップ特性図。
【図43】可変ノズル全閉時のデューティ値のマップ特性図。
【図44】可変ノズル全開時のデューティ値のマップ特性図。
【図45】指令開口割合線型化処理値をデューティ値に変換するときのヒステリシス図。
【図46】動作確認制御を説明するためのフローチャート。
【図47】動作確認制御指令デューティ値の設定を説明するためのフローチャート。
【図48】制御パターンのテーブル特性図。
【図49】動作確認制御時のデューティ値のテーブル特性図。
【図50】EGR制御の2つのフィードバック補正係数と学習補正係数の演算を説明するためのフローチャート。
【図51】フィードバック許可フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図52】学習値反映許可フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図53】学習許可フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図54】EGR量フィードバック補正係数の演算を説明するためのフローチャート。
【図55】EGR流量の補正ゲインのマップ特性図。
【図56】水温補正係数のテーブル特性図。
【図57】EGR流速フィードバック補正係数の演算を説明するためのフローチャート。
【図58】EGR流速の補正ゲインのマップ特性図。
【図59】水温補正係数のテーブル特性図。
【図60】誤差割合学習値の学習マップの表図。
【図61】学習値の更新を説明するためのフローチャート。
【図62】学習速度のマップ特性図。
【図63】EGR流速の演算を説明するためのフローチャート。
【図64】EGR流速のマップ特性図。
【図65】目標空気過剰率の吸気温補正係数のテーブル特性図。
【図66】目標空気過剰率の大気圧補正係数のテーブル特性図。
【図67】吸気絞り弁開度の設定を説明するためのフローチャート。
【図68】作動ガス最大値のテーブル特性図。
【図69】吸気量比のテーブル特性図。
【図70】吸気絞り弁開度のテーブル特性図。
【図71】リッチスパイク実行フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図72】リッチスパイク処理を説明するためのフローチャート。
【図73】燃料リカバー制御を説明するためのフローチャート。
【図74】通常制御を説明するためのフローチャート。
【図75】第3実施形態のリッチスパイク処理を説明するためのフローチャート。
【図76】第3実施形態の吸気絞り弁開度の設定を説明するためのフローチャート。
【図77】作動ガス割合下限値のテーブル特性図。
【図78】第4実施形態のリッチスパイク処理を説明するためのフローチャート。
【図79】ポスト噴射制御を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
4 EGR通路
6 EGR弁(EGR装置)
17 ノズル(燃料噴射弁)
41 コントロールユニット
52 排気タービン
61 NOx触媒

Claims (9)

  1. 排気の空燃比がリーンのとき排気中のNOxをトラップし、排気の空燃比が理論空燃比またはこれよりリッチのときトラップしたNOxを浄化するNOx触媒を排気通路に備えるとともに、
    車両の減速状態にあるかどうかを判定する減速状態判定手段と、
    触媒が活性状態にあるかどうかを判定する活性状態判定手段と、
    これら判定結果より車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のとき、空燃比リッチ化処理を所定期間行う制御手段と
    を備え、かつ
    高圧で燃料噴射を行う燃料噴射弁と、
    吸入空気量調整手段と、
    目標吸入空気量を基本燃料噴射量と目標当量比から設定するかまたは運転パラメータと目標当量比から設定する手段と、
    この設定した目標吸入空気量に応じて吸入空気量調整手段を制御する手段と
    を備え、
    実吸入空気量と目標吸入空気量との差が所定値以上であるときには燃料カット状態またはそれに近い燃料噴射量を燃料噴射弁によるメイン噴射量として設定し、実吸入空気量と目標吸入空気量との差が所定値未満であるとき、このときの実吸入空気量と目標当量比で燃料噴射弁によるメイン噴射量を設定し、前記空燃比リッチ化処理をこれら設定した2つメイン噴射量により前記燃料噴射弁によるメイン噴射
    とを特徴とするディーゼルエンジンの制御装置。
  2. 排気の空燃比がリーンのとき排気中のNOxをトラップし、排気の空燃比が理論空燃比またはこれよりリッチのときトラップしたNOxを浄化するNOx触媒を排気通路に備えるとともに、
    車両の減速状態にあるかどうかを判定する減速状態判定手段と、
    触媒が活性状態にあるかどうかを判定する活性状態判定手段と、
    これら判定結果より車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のとき、空燃比リッチ化処理を所定期間行う制御手段と
    を備え、かつ
    高圧で燃料噴射を行う燃料噴射弁と、
    吸入空気量調整手段と、
    目標吸入空気量を基本燃料噴射量と目標当量比から設定するかまたは運転パラメータと目標当量比から設定する手段と、
    この設定した目標吸入空気量に応じて吸入空気量調整手段を制御する手段と
    を備え、
    実吸入空気量と目標吸入空気量との差が所定値以上であるときには燃料カット状態またはそれに近い燃料噴射量を燃料噴射弁によるポスト噴射量として設定し、実吸入空気量と目標吸入空気量との差が所定値未満であるとき、このときの実吸入空気量と目標当量比で燃料噴射弁によるポスト噴射量を設定し、前記空燃比リッチ化処理をこれら設定した2つポスト噴射量により前記燃料噴射弁によるポスト噴射
    とを特徴とするディーゼルエンジンの制御装置。
  3. 前記活性状態判定手段は、所定の触媒浄化率を保つことのできる触媒温度を維持し得る車速を超えているとき触媒が活性状態にあると判定することを特徴とする請求項1または2に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
  4. NOx触媒の浄化時期になったかどうかを判定する浄化時期判定手段を備え、NOx触媒の浄化時期になったとき、フュエルカット処理が行われていればフュエルカット処理を禁止して空燃比リッチ化処理を行うことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のディーゼルエンジンの制御装置。
  5. EGR装置を備え、目標当量比を、目標空気過剰率とEGR装置の制御値とで設定することを特徴とする請求項1または2に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
  6. ロックアップ機構を有する自動変速機を備え、車両の減速状態でロックアップ機構を作動させている場合に、車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のときかつ前記空燃比リッチ化処理の要求があるときロックアップ機構の作動を禁止することを特徴とする請求項1または2に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
  7. 車両が減速状態にありかつ触媒が活性状態のときかつ前記空燃比リッチ化処理の要求があるときフュエルカット処理が行われていれば、ポスト噴射により空燃比リッチ化処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
  8. 空燃比リッチ化処理を吸入空気量調整手段またはEGR装置を用いて空気過剰率を低下させることにより行うことを特徴とする請求項1または2に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
  9. EGR装置を備え、空燃比リッチ化処理中に目標吸入空気量が吸入空気量調整手段で達成しうる最低吸入空気量以下となったとき、目標吸入空気量が得られるようにEGR装置によりEGR量を増加補正するかまたは目標吸入空気量となるようにEGR量をフィードバック制御することを特徴とする請求項1または2に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
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