JP3895675B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関し、特に、モータの回転力をステアリング系に直接作用させて、運転者の操舵力を軽減する電動パワーステアリング装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電動パワーステアリング装置は、ステアリング系にモータを備え、モータから供給する動力を、制御装置を用いて制御することにより、運転者の操舵力を軽減するものである。
【0003】
一般的な電動パワーステアリング装置においては、運転者によってステアリングホイールに入力される操舵トルクに対してモータにアシスト電流を通電し、アシストトルクを発生する。アシスト電流は主に、操舵トルク、車速、モータ回転速度の入力信号に基づいて、ベース電流算出処理、モータおよびシステムの慣性モーメントを打ち消すための電流を算出するイナーシャ補償電流算出処理、モータの回転を制限する電流を算出するためのダンパー補償電流算出処理の三つの処理を行うことによって決定される。
【0004】
ベース電流算出処理とイナーシャ補償電流算出処理は、手動操舵トルク検出部からの操舵トルク信号および車速センサからの車速信号に基づいて行う処理である。
【0005】
ダンパー補償電流算出処理は、手動操舵トルク検出部からの操舵トルク信号と、車速センサからの車速信号と、モータ回転速度に基づいて行う処理である。
【0006】
図16は、従来のシステムにおけるダンパー補償電流算出部のブロック構成図である。
【0007】
往き戻り状態判定部200は、入力トルク信号とモータ回転速度信号に基づいてステアリングホイールの往き状態または戻り状態を検出し、例えば、往き状態はLレベル、戻り状態にはHレベルのように状態に対応した往き戻り状態信号を切換部201に供給する。
【0008】
往きダンパー補償電流算出部202は、入力トルク信号と車速信号とモータ回転速度信号に基づいて往きダンパー補償電流信号を切換部201に提供する。
【0009】
戻りダンパー補償電流算出部203は、入力トルク信号と車速信号とモータ回転速度信号に基づいて戻りダンパー補償電流信号を切換部201に提供する。
【0010】
切換部201は、往きダンパー補償電流信号と戻りダンパー補償電流信号の切り換えを行い、往き戻り状態信号がLレベルの往き状態では往きダンパー補償電流算出部202側を選択し、往き戻り状態信号がHレベルの戻り状態では戻りダンパー補償電流算出部203を選択し、それぞれ、往きダンパー補償電流信号および戻りダンパー補償電流信号をダンパー補償電流信号Dsとして出力する。
【0011】
図17は、従来の電動パワーステアリング装置における往き戻り状態判定部200のブロック構成図である。従来の往き戻り状態判定部200は、入力される入力トルクの符号を判定し、入力トルクが正値であるならば、”1”を出力し、負値であるならば、”0”を出力する符号判定部204と、入力されるモータ回転速度の符号を判定し、モータ回転速度が正値であるならば、”1”を出力し、負値であるならば、”0”を出力する符号判定部205と、符号判定部204からの出力と符号判定部205からの出力が一致する場合には往き状態であることに対応する”0”を出力し、符号判定部204からの出力と符号判定部205からの出力が不一致である場合には戻り状態であることに対応する”1”を出力する関係演算部206から成っている。
【0012】
ダンパー補償電流信号は、図16に示すように、運転者のハンドル操作から得られる入力トルク、車速、モータ回転速度をパラメータとして算出される。ここで、図中の往き戻り状態判定部200は、入力トルク、モータ回転速度をパラメータとしてハンドルの往き状態および戻り状態の判定を行っている。
【0013】
低速走行時の軽自動車などのように、操舵時の車がタイヤを戻そうとする力であるセルフアライニングトルク(SAT)が比較的小さいシステムにおいてはハンドル戻し時のそれが電動パワーステアリングのギアボックスの機械的摩擦力を下回ってしまい、ハンドル戻りが鈍い、センターに戻らず途中で停滞するといった事象が発生する。
【0014】
そのため、ダンパー補償電流信号の設定においては、この摩擦力を相殺するような補償電流を流してやるために戻り状態判定時は、通常の高速域の戻りダンパー補償電流信号のようにハンドルを戻りにくくするためにベースアシスト電流に減算する成分の補償電流を出力するのとは逆に、ハンドルを積極的に戻そうとするためベースアシスト電流に加算する成分の電流である戻りアシスト電流を出力するようにしてある。
【0015】
また、図17に示すように、従来の電動パワーステアリング装置における往き戻り状態判定処理では、入力トルクとモータ回転速度の符号が同一の場合は往きダンパー補償電流信号、符号が異なる場合は戻りダンパー補償電流信号に切り替えていた(例えば、特許文献1参照)。
【0016】
【特許文献1】
特許第3137847号
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
図18は、実車低車速走行中におけるハンドル舵角(ANGLE)、操舵トルク(TRQ)、モータ電流(Im)、モータ回転速度(MSPD)の時間変化を示すグラフである。図中、横軸は時間を示し、縦軸は、正方向が右方向の回転時であり、負方向が左方向の回転時に対応する各値である。また、時間範囲O−Aは、ハンドルの往き状態を示す範囲であり、時間範囲A−Bは、ハンドルの戻り状態を示す範囲であり、時間範囲B−Cは、ハンドルの戻り操作を行った後の経過を示す範囲である。
【0018】
図中ハンドルの往き状態を示すO−Aの範囲ではハンドル舵角(ANGLE)が右方向(正方向)に増加し、また、そのとき、操舵トルク(TRQ)は正値であり、モータ電流(Im)は正値であり、モータ回転速度(MSPD)も正値で変化することが分かる。このとき操舵トルク(TRQ)とモータ回転速度(MSPD)が同符号であるため、図17で示した往き戻り状態判定部200での処理は、”往き”の判定となり往きダンパー補償電流信号が出力される。A−Bの範囲においては、ハンドル舵角(ANGLE)、操舵トルク(TRQ)は正値であり、モータ電流(Im)とモータ回転速度(MSPD)は、負値で変化する。そして、ハンドル戻り状態であるためハンドル舵角がゼロに収束する方向で遷移する。このとき、操舵トルク(TRQ)とモータ回転速度(MSPD)は異符号なので図17で示した往き戻り状態判定部による判定は”戻り”の判定となり、戻りダンパー補償電流信号が出力される。ここでは低車速走行中であるので戻りダンパー補償電流信号は戻りアシスト電流信号として出力され、操舵トルクセンサからの出力信号に基づく信号に、モータ回転速度検出部からの出力信号に基づく信号を加算演算することにより、ハンドルを積極的に戻らせる作用をする。
【0019】
しかしながら、図18を見て分かるように、B点以降、ハンドル舵角(ANGLE)は、スムーズにセンターに戻ることなく、時間範囲B−Cにおいてはハンドル舵角(ANGLE)がゼロにならず、ある舵角を持ったまま停滞してしまっている。これは、電動パワーステアリング装置のギアボックスの機械的摩擦力が車のセルフアライニングトルク(SAT)を上回っている場合に発生する事象であり、このとき、操舵トルク(TRQ)がゼロを跨いで符号が切り替わり、モータ回転速度(MSPD)と同符号になっている。このため往き状態と判定され、戻りダンパー補償電流信号つまり戻りアシスト電流信号の出力が停止されてしまい、復元力を失ってしまうことでハンドルが舵角を残したまま停滞してしまう。このように、従来の往き、戻り判定方式によると、「ハンドル戻りが悪い」、「操舵感にスムーズさがない」など操舵フィーリングを著しく悪化させるという問題点があった。
【0020】
本発明の目的は、上記問題を解決するため、ハンドルの戻り状態のときハンドルが舵角を残したまま停滞することがなく、ハンドル戻りが良く操舵感がスムーズである電動パワーステアリング装置を提供することである。
【0021】
【課題を解決するための手段および作用】
本発明に係る電動パワーステアリング装置は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。
【0022】
本発明の電動パワーステアリング装置(請求項1に対応)は、車両のステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、車両の速度を検出する車速センサと、ステアリング系に操舵補助トルクを付加するモータと、モータの回転速度を検出するモータ回転速度検出部と、少なくとも操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに応じてモータに流す目標電流値を設定し、モータを駆動する制御信号を出力するモータ制御手段とを備え、モータ制御手段は、操舵トルクとモータ回転速度の正負によってステアリング系の往き状態、戻り状態を判定する往き戻り状態判定部と、戻り状態の場合には操舵トルクセンサからの出力信号に基づく信号にモータ回転速度検出部からの出力信号に基づく信号を加算演算する演算手段とを備え、演算手段からの出力信号に基づいて戻り制御を行う電動パワーステアリング装置において、往き戻り状態判定部は、操舵トルクが正値でモータ回転速度が負値であるか、または操舵トルクが負値でモータ回転速度が正値であるときで、かつモータ回転速度検出部によって検出されるモータ回転速度の絶対値が第1の所定値以上のとき、判定を戻り状態で保持させ、モータ回転速度検出部によって検出されるモータ回転速度の絶対値が第1の所定値よりも小さい第2の所定値以下となるまで、戻り状態の判定を継続させ、往き戻り状態判定部は、車速センサによって検出される車速が低車速領域以外である場合には、戻り状態の判定を解除することで特徴づけられる。
【0023】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、往き戻り状態判定部は、操舵トルクが正値でモータ回転速度が負値であるか、または操舵トルクが負値でモータ回転速度が正値であるときで、かつモータ回転速度検出部によって検出されるモータ回転速度の絶対値が第1の所定値以上のとき、判定を戻り状態で保持させ、モータ回転速度検出部によって検出されるモータ回転速度の絶対値が第1の所定値よりも小さい第2の所定値以下となるまで、戻り状態の判定を継続させるため、操舵トルクとモータ回転速度の正負が異なった場合でも、モータ回転速度が第1の所定値以上となるまでは戻り状態と判定せず、また、戻り状態となった後に操舵トルクとモータ回転速度の正負が同符号となった場合でも、モータ回転速度が第1の所定値よりも小さい第2の所定値以下となるまでは戻り状態の判定を保持する。つまり、戻り状態に入るときと、戻り状態から出るときのモータ回転速度の条件を異ならせることで、低車速走行時の戻り制御を継続してセンター位置までのハンドル戻りを良好にするだけでなく、操舵がゆっくりであるときの不要な戻り制御を防止し、往き戻りの切り替えを運転者の操舵感覚にあったものとすることができる。
【0025】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、往き戻り状態判定部は、車速センサによって検出される車速が低車速領域以外である場合には、戻り状態の判定を解除するため、車速が高くなり、戻りアシストレシオが0になる場合にはラッチが解除されるので、車速が比較的大きく、セルフアライニングトルクが十分に作用する状況では、不要な戻り制御により操舵感が軽くなり過ぎることを抑制することができるため、操舵フィーリングが向上する。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の模式構造図である。電動パワーステアリング装置10では、ステアリング・ホイール(ハンドル)11に一体的に設けられたステアリング軸12に、自在継手13a,13bを有する連結軸13を介して、ラック・ピニオン機構15のピニオン15aに連結されることによって、手動操舵トルク発生機構16が構成されている。
【0028】
ピニオン15aに噛み合うラック歯17aを有し、これらの噛み合いにより軸方向に変換されて往復動するラック軸17は、その両端にタイロッド18を介して転動軸としての左右の前輪19に連結されている。運転者は、ハンドル11を操作することにより、手動操舵トルク発生機構16と通常のラック・ピニオン式のステアリング装置を介して、前輪を揺動させて車両の向きを変えることができる。
【0029】
この手動操舵トルク発生機構16によって発生する操舵トルクを軽減するために、アシストトルク(操舵補助トルク)を供給するモータ20が例えばラック軸17と同軸的に配設され、ラック軸17にほぼ平行に設けられたボールねじ機構21を介してモータ20からの回転運動により供給されるアシストトルクが直進運動のための力に変換され、ラック軸17に作用する。
【0030】
モータ20のロータには、駆動側ヘリカルギヤ20aが一体的に設けられている。このヘリカルギヤ20aは、ボールねじ機構21のねじ軸21aの軸端に一体的に設けられたヘリカルギヤ21bと噛み合っている。また、ボールねじ機構21のナットは、ラック軸17に連結されている。
【0031】
図2は、電動パワーステアリング装置の制御装置を示す図である。図1において、図示しないステアリングギヤボックス内には、ピニオン15aに作用する手動操舵トルクTを検出する手動操舵トルク検出部22が設けられる。この手動操舵トルク検出部22は、検出した手動操舵トルクTを手動操舵トルク検出信号Tdに変換し、その変換された手動操舵トルク検出信号Tdを制御装置24へ入力する。また、車両には車速に対応した車速信号vを検出する車速センサも設けられており、車速信号vを制御装置24に入力する。
【0032】
さらに、電動パワーステアリング装置10には図2で示すようにモータ電流検出部25が設けられている。このモータ電流検出部25は、モータ20に対して直列に接続された抵抗等を備え、モータ20に実際に流れるモータ電流IMの大きさおよび方向を検出する。そして、モータ電流検出部25は、モータ電流IMに対応したモータ電流信号Imを制御装置24に入力する。
【0033】
さらに、電動パワーステアリング装置10には、図2で示すようにモータ電圧検出部26が設けられている。モータ電圧検出部26は、モータ20の両端の電圧を各々検出し、モータ20に実際に印加されているモータ電圧VMの大きさおよび方向を検出する。そして、モータ電圧検出部26は、モータ電圧VMに対応したモータ電圧信号Vmを制御装置24に入力する。
【0034】
制御装置24は、手動操舵トルク検出部22、車速センサ23、モータ電流検出部25、モータ電圧検出部26の各検出信号Td、v、Im、Vmが入力される。そして、制御装置24は、これらの検出信号Td、v、Im、Vmに基づいてモータ20に流すモータ電流IMの大きさおよび方向を決定し、モータの運転を行って、モータの出力する動力(操舵補助トルク)を制御する。
【0035】
制御装置24は、手動操舵トルク検出部22、車速センサ23、モータ電流検出部25およびモータ電圧検出部26等からの検出信号がアナログ信号として入力されるので、図示しないA/D変換部によりアナログ信号をディジタル信号に変換し、各CPUに取り込んでいる。
【0036】
制御装置24は、目標電流決定部27と、制御部28とを備える。目標電流決定部27は、手動操舵トルク検出信号Td、車速信号v、モータ電流信号Im、モータ電圧信号Vmに基づいて目標補助トルクを決定し、目標補助トルクをモータ20から供給するために必要となる目標電流信号ITを出力する。
【0037】
図3は、目標電流決定部27のブロック構成図である。目標電流決定部27は、主に、モータ回転速度算出部(モータ回転速度算出手段)29、ベース電流算出部30、イナーシャ補償電流算出部31、ダンパー補償電流算出部32、イナーシャ補償部33、ダンパー補償部34、目標電流最終決定部35とローパスフィルタ36と位相補償部37とハイパスフィルタ38から構成される。
【0038】
モータ回転速度算出部29は、モータ電流検出部25からのモータ電流信号Imおよびモータ電圧検出部26からのモータ電圧信号Vmが入力され、ダンパー補償電流算出部32にモータ回転速度信号Nmを出力する。
【0039】
ベース電流算出部30は、手動操舵トルク検出部22からの操舵トルク信号Tdをローパスフィルタ36を通して、位相補償部37により位相補償された操舵トルク信号Tsおよび車速センサ23からの車速信号Vが入力され、イナーシャ補償部33に目標電流信号IMSを出力する。ベース電流算出部30は、予め実験値または設計値に基づいて設定した操舵トルク信号Tsおよび車速信号Vと目標電流信号IMSとの対応するデータに基づいて、操舵トルク信号Tsおよび車速信号Vをアドレスとして対応する目標電流信号IMSを読み出す。なお、目標電流信号IMSは、モータ20に流す目標のモータ電流を設定する上で基準となる電流の情報を含む信号である。
【0040】
イナーシャ補償電流算出部31は、モータおよびシステムの慣性モーメントを打ち消すための電流を算出するためのイナーシャ補償電流算出処理を行うためのものであり、手動操舵トルク検出部22からの操舵トルク信号Tdをローパスフィルタ36を通した信号Tlと信号Tlをハイパスフィルタ38を通した操舵トルク信号Thおよび車速センサ23からの車速信号Vが入力され、イナーシャ補償部33にイナーシャ補償信号ISを出力する。まず、イナーシャ補償電流算出部31は、操舵トルク信号Th、Tlを時間微分し、操舵トルクの時間微分値を算出する。そして、イナーシャ補償電流算出部31は、予め実験値または設計値に基づいて設定した操舵トルクの時間微分値および車速信号Vとイナーシャ補償信号ISとの対応するデータに基づいて、操舵トルクの時間微分値および車速信号Vをアドレスとして対応するイナーシャ補正信号ISを読み出す。
【0041】
ダンパー補償電流算出部32は、前述の図16で示されたものに対応し、モータの回転を制限する電流を算出するためのものであり、モータ回転速度算出部29からのモータ回転速度信号Nmおよび車速センサ23からの車速信号Vと操舵トルク信号Tlが入力され、ダンパー補償部34にダンパー補償電流信号DSを出力する。
【0042】
イナーシャ補償部33は、ベース電流算出部30からの目標電流信号IMSおよびイナーシャ補償電流算出部31からのイナーシャ補償信号ISが入力され、ダンパー補償部34に補償目標電流信号IMS’を出力する。
【0043】
ダンパー補償部34は、イナーシャ補償部33からの補償目標電流信号IMS’およびダンパー補償電流算出部32からのダンパー補償信号DSが入力され、目標電流最終決定部35に補償目標電流信号IMS’’を出力する。
【0044】
目標電流最終決定部35は、ダンパー補償部34からの補償目標電流信号IMS’’および位相補償部37からの位相補償された操舵トルク信号Tsが入力され、目標電流信号ITを出力する。
【0045】
図4は、制御部28のブロック構成図である。制御部28は、モータ運転制御部39とモータ駆動部40とモータ電流検出部25を備えている。
【0046】
モータ運転制御部39は、フィードバック(F/B)制御部40aとフィードフォワード(F/F)制御部41とPWM信号生成部42とを備えている。フィードバック制御部40aは、偏差演算部43と偏差電流制御部44から構成される。
【0047】
偏差演算部43は、目標電流決定部27から出力された目標電流信号ITとモータ電流検出部25からのモータ電流信号Imとの偏差を求め、その値を偏差信号43aとして出力する。
【0048】
偏差電流制御部44は、比例要素と積分要素と加算演算部から構成され、入力された偏差信号43aに対して、比例要素で比例処理した信号43a’を出力し、積分要素で積分処理した信号43a’’を出力し、加算演算部で信号43a’と信号43a’’を加算し、偏差信号43aの値がゼロに近づくように、デューティー比信号である偏差電流制御信号44aを生成・出力する。
【0049】
フィードフォワード制御部41は、フィードフォワード制御要素を生成し、出力するためのものであり、フィードフォワード比例要素45とリミッタ46と加算演算部47から構成される。フィードフォワード比例要素45は、或る任意のF/Fゲイン(Kff)によって、入力された目標電流信号ITに比例したF/F信号45aを出力し、リミッタ46は、F/F信号45aが所定の範囲内であれば、そのまま出力し、所定の範囲外では、制限して任意の一定の値の信号を出力するものである。
【0050】
すなわち、フィードフォワード制御部41のリミッタ46は、フィードフォワード比例要素45に入力された目標電流信号ITに対して、その値が所定範囲内にある場合には、上記F/Fゲインで目標電流信号ITに比例した値を持つデューティー比信号を出力し、その値が所定範囲外にある場合には、任意の一定の値のデューティー比信号を出力する。リミッタ46の出力信号をフィードフォワード制御信号46aと呼ぶことにする。
【0051】
加算演算部47は、偏差電流制御部44から出力された偏差電流制御信号44aにリミッタ46から出力されたフィードフォワード制御信号46aを加え、その値を、モータ20に供給するモータ電流をPWM制御するPWM信号のデューティー比を決める最終出力デューティー比信号47aとして出力する。
【0052】
PWM信号生成部42は、最終出力デューティー比信号47aに基づいてモータ20をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成し、生成したPWM信号を駆動制御信号42aとして出力する。このPWM信号42aは、最終出力デューティー比信号47aで決められるデューティー比を持つ信号である。
【0053】
図4に示すモータ駆動部40は、ゲート駆動回路部48と4個の電力用電界効果トランジスタをH型ブリッジ回路の構成で接続したモータ駆動回路49とを備える。ゲート駆動回路部48は、駆動制御信号(PWM信号)42aに基づいて、ハンドル11の操舵方向に応じて2つの電界効果トランジスタを選択し、選択した2つの電界効果トランジスタのゲートを駆動してこれらの電界効果トランジスタをスイッチング動作させる。
【0054】
モータ電流検出部25は、モータ駆動回路49に直列に接続されたシャント抵抗50の両端に生じる電圧からモータ20に流れるモータ電流(電機子電流)の値IMを検出してモータ電流信号Imを出力する。
【0055】
以上により、制御装置24は、手動操舵トルク検出部22によって検出された手動操舵トルクTと車速V、モータ電流IM、モータ電圧IVに基づいてバッテリ電源51からモータ20へ供給する電流をPWM制御し、モータ20が出力する動力(操舵補助トルク)を制御する。
【0056】
また、図4に示すように、制御装置24は、制御部28においてモータ駆動回路49に直列に接続されたシャント抵抗50の両端に生じる電圧からモータ20に実際に流れるモータ電流の値IMをモータ電流信号Imとして検出し、モータ電流信号Imに基づくフィードバック制御を行うことで、モータ20の制御特性を向上させている。
【0057】
さらに、制御装置24は、制御部28において、目標電流信号ITをフィードフォワード比例要素45に入力し、リミッタ46から出力されたフィードフォワード制御信号46aを加算演算部47で偏差電流制御信号44aに加算することにより、フィードフォワード制御を行うことで、モータ20の制御特性をさらに向上させている。
【0058】
図5は、本発明による往き状態または戻り状態の判別を行う往き戻り状態判定部の第1の具体例のブロック構成図である。往き戻り状態判定部60は、前述の図16で示された往き戻り状態判定部200に対応するものであり、符号判定部61,符号判定部62、関係演算部63とラッチ処理部64Aを備えている。ラッチ処理部64Aは、絶対値算出部64、所定値記憶部65、所定値記憶部66、関係演算部67、関係演算部68、論理演算部69、論理演算部70、前回値記憶部71、論理演算部72、所定値記憶部73、所定値記憶部74、関係演算部75、関係演算部76、論理演算部77、切換部78を備える。
【0059】
符号判定部61は、入力される操舵トルク信号(TRQ)が正値であるか負値であるか判定し、正値である場合は、”1”を出力し、負値である場合は、”0”を出力する。符号判定部62は、入力されるモータ回転速度信号(MSPD)が正値であるか負値であるか判定し、正値である場合は、”1”を出力し、負値である場合は、”0”を出力する。関係演算部63は、符号判定部61,62から入力される値が一致するかどうか演算し、一致する場合は、”0”を出力し、一致しない場合は、”1”を出力する。
【0060】
絶対値算出部64は、入力されたモータ回転速度(MSPD)の絶対値を演算し、出力する。所定値記憶部65は、第1の所定値AAを記憶、その値を関係演算部67に出力する。関係演算部67は、絶対値演算部64からの出力と第1の所定値AAを比較し、絶対値が第1の所定値AA以上の場合は、”1”を出力し、絶対値が第1の所定値AAよりも小さいときは、”0”を出力する。
【0061】
所定値記憶部66は、所定値ゼロを記憶し、関係演算部68に所定値ゼロを出力する。関係演算部68は、戻りダンパーレシオと所定値ゼロを比較し、戻りダンパーレシオが所定値ゼロより大きい場合には、”1”を出力し、戻りダンパーレシオが所定値ゼロ以下の場合には、”0”を出力する。論理演算部69は、関係演算部63,67,68からの出力を入力し、論理積を演算し、出力する。
【0062】
論理演算部70は、前回値記憶部71からの値と論理演算部69からの出力の論理和を演算し、出力する。前回値記憶部71は、1サンプリング前のデータを出力し、すなわち、前回処理の論理演算部72からの出力値が記憶され、今回の処理でその記憶された値が出力される。論理演算部72は、論理演算部70,77からの出力を入力し、論理積を演算して出力する。
【0063】
所定値記憶部73は、第2の所定値BBを記憶し、出力する。関係演算部75は、絶対値算出部64からの値と第2の所定値BBを比較し、絶対値が第2の所定値BB以下の場合には、”1”を出力し、絶対値が第2の所定値BBより大きいときは、”0”を出力する。所定値記憶部74は、所定値ゼロを記憶し、出力する。関係演算部76は、戻りダンパーレシオと所定値ゼロを比較し、一致する場合には、”1”を出力し、不一致の場合には、”0”を出力する。
【0064】
論理演算部77は、関係演算部75,76からの出力を入力し、否定論理和を演算する。切換部78は、論理演算部72からの出力が”1”の場合は、論理演算部72からの出力を出力するように、切換え、論理演算部72からの出力が”0”の場合は、関係演算部63からの出力に切り換える。
【0065】
次に、往き戻り状態判定部60の動作を説明する。
【0066】
ハンドルが戻り状態かつモータ回転速度(MSPD)が所定回転速度AArps(第1の所定値)以上かつ戻りアシストレシオ(SUBRTO)がゼロでない値で出力されているという条件のとき(図中A枠部)、符号判定部61からは”1”が出力され、符号判定部62からは”0”が出力され、その結果、関係演算部63からは”1”が出力される。関係演算部67からは”1”が出力され、関係演算部68からは”1”が出力され、その結果、論理演算部69からは、”1”が出力され、論理演算部70から”1”が出力される。関係演算部76からは”0”が出力され、関係演算部75からは”0”が出力され、その結果、論理演算部77からは”1”が出力される。それにより、論理演算部72からは”1”が出力され、切換部78からは、論理演算部72からの出力が往き戻り状態判定部の出力として出力され、判定を戻り状態で保持(ラッチ)させる。
【0067】
ここで、戻りアシストレシオは、後述の戻りダンパー補償電流算出部で算出されるパラメータであり、車速VELによって可変される。経験的に約30Km/h以下の低車速域ではゼロでない任意の値が設定されており、戻りアシスト制御を無効としたい車速域つまりSATが比較的大きくなり電動パワーステアリングギアボックスのフリクションの影響を無視できる、すなわち、アシスト無しでもハンドルがセンターに戻る車速約30km/h以上では戻りアシストレシオをゼロに設定しておく。
【0068】
上記ラッチ状態は、ハンドルが所定回転速度以下、つまりモータ回転速度(MSPD)が所定回転速度BBrps(第2の所定値)以下、または戻りアシストレシオ(SUBRTO)がゼロのいずれかの条件が成立したときに解除される(図中C枠部)。ここで、第1の所定値AAは第2の所定値BBより大きい値である。すなわち、符号判定部61からは”0”が出力され、符号判定部62からは”0”が出力され、その結果、関係演算部63からは”0”が出力される。関係演算部67からは”0”が出力され、論理積である論理演算部69からは、”0”が出力される。関係演算部68からは”0”が出力され、関係演算部75からは”1”が出力され、関係演算部76からは”1”が出力され、否定論理和である論理演算部77からは”0”が出力され、また、前回値記憶部71からは、前回のサンプリング時がラッチ状態であるため、”1”が出力され、論理演算部70からは”1”が出力される。そして、論理演算部72からは”0”が出力され、切換部78は、関係演算部63からの出力を出力するように切り換えられる。結果として、往き状態の信号が出力される。
【0069】
上記戻り状態判定がラッチする以外の条件、すなわち、論理演算部72が”0”を出力するときは関係演算部63からの出力が往き戻り状態判定部の出力として出力され、従来判定方式同様に操舵トルクの方向(符号)とモータ回転速度の方向(符号)によって、それぞれが同符号のとき往き方向、異符号のとき戻り方向として判定される。(図中D枠部)。
【0070】
図6に戻りダンパー補償電流算出部80の制御ブロック図を示す。戻りダンパー補償電流算出部80は、前述の図16で示された戻りダンパー補償電流算出部203に対応するものであり、モータ回転速度オフセット演算部81、戻りダンパーベース電流変換部82、車速レシオ変換部83、戻りアシストレシオ変換部84、車速トルクレシオ変換部85、トルクレシオ変換部86、戻りアシストトルクレシオ変換部87、減算部88、戻りアシストオフセット記憶部89、減算部90、比例要素91、リミッタ92、乗算部93、乗算部94、乗算部95、乗算部96,97減算部98を備える。
【0071】
戻りダンパーベース電流変換部82はROM等のメモリを備え、実験結果または理論演算等に基づいて設定した、図7で示すような減算部88から出力されるモータ回転速度と対応する戻りダンパーベース電流値のデータを予めメモリに記憶しておき、デジタル変換されたモータ回転速度の入力に対応した戻りダンパーベース電流値を選択するよう構成し、戻りダンパーベース電流値を乗算部93に出力する。
【0072】
モータ回転速度オフセット補正部81はROM等のメモリを備え、実験結果または理論演算等に基づいて設定した、図8で示すような車速と対応するモータ回転速度オフセット値のデータを予めメモリに記憶しておき、デジタル変換された車速の入力に対応したモータ回転速度オフセット値を選択するよう構成し、モータ回転速度オフセット値を減算部88に出力する。
【0073】
減算部88は、入力されるモータ回転速度から入力されるモータ回転速度オフセット値を減算し、戻りダンパーベース電流変換部82に出力する。
【0074】
車速レシオ変換部83はROM等のメモリを備え、実験結果または理論演算等に基づいて設定した、図9で示すような車速と対応する車速レシオのデータを予めメモリに記憶しておき、デジタル変換された車速入力に対応した車速レシオを選択するよう構成し、車速レシオを乗算器93に出力する。
【0075】
戻りアシストレシオ変換部84はROM等のメモリを備え、実験結果または理論演算等に基づいて設定した、図10に示すような車速Vと対応する戻りアシストレシオのデータを予めメモリに記憶しておき、デジタル変換された車速V入力に対応した戻りアシストレシオを選択するよう構成し、戻りアシストレシオを乗算器96に出力し、また、往き戻り状態判定部に出力する。
【0076】
車速トルクレシオ変換部85はROM等のメモリを備え、実験結果または理論演算等に基づいて設定した、図11で示すような車速と対応する車速トルクレシオのデータを予めメモリに記憶しておき、デジタル変換された車速入力に対応した車速トルクレシオを選択するよう構成し、車速トルクレシオを乗算部95に出力する。
【0077】
トルクレシオ変換部86はROM等のメモリを備え、実験結果または理論演算等に基づいて設定した、図12で示すようなトルクと対応するトルクレシオのデータを予めメモリに記憶しておき、デジタル変換されたトルク入力に対応したトルクレシオを選択するよう構成し、トルクレシオを乗算部94に出力する。
【0078】
戻りアシストトルクレシオ変換部87はROM等のメモリを備え、実験結果または理論演算等に基づいて設定した、図13で示すようなトルクと対応する戻りアシストトルクレシオのデータを予めメモリに記憶しておき、デジタル変換されたトルク入力に対応した戻りアシストトルクレシオを選択するよう構成し、戻りアシストトルクレシオを乗算部97に出力する。
【0079】
減算部90は、入力されるモータ回転速度から入力される戻りアシストオフセット値を減算し、比例要素91に出力する。リミッタ92は比例要素91から入力される信号が所定値以下であるときは、そのまま乗算部96に出力し、入力される信号が所定値以上のときには、その所定値で一定として乗算部96に出力する。
【0080】
乗算部93は、戻りダンパーベース電流変換部82からの出力信号に車速レシオ変換部83から出力される信号を乗算し、乗算部94に出力する。乗算部95は、車速トルクレシオ変換部85からの出力信号にトルク信号を乗算し、トルクレシオ変換部86と戻りアシストトルクレシオ変換部87に出力する。
【0081】
乗算部94は、乗算部93からの出力信号とトルクレシオ変換部86からの出力信号を乗算し、減算部98に出力する。乗算部96は、リミッター92からの出力信号に戻りアシストレシオ変換部84からの出力信号を乗算し、乗算部97に出力する。乗算部97は、乗算部96からの出力信号に戻りアシストトルクレシオ変換部87からの出力信号を乗算し、減算部98に出力する。減算部98は、乗算部94からの出力信号から乗算部97からの出力信号を減算し、戻りダンパー補償電流信号として出力する。
【0082】
図中A枠が戻りアシスト電流算出部である。モータ回転速度MSPDの入力値に対してノイズ等の外乱、不安定要素に対して不感帯を設ける目的で戻りアシストオフセット記憶部89からの出力値であるオフセット値CC(rps)を減算部90で差し引いて、比例要素91においてその出力値に戻りアシスト電流ゲインK(A/rps)を乗ずる。この値はブロック中の上限リミッタ92によって電動パワーステアリングのギアボックスの動摩擦力を補償するために必要なだけの電流値で最大値が制限される。ここでは1.5Aに設定してある。この後、戻りアシストレシオ変換部84において車速1Km/h毎に設定されている戻りアシストレシオ(SUBRTO)を車速に応じて参照しこの値と乗算部96において乗算する。
【0083】
さらに、操舵トルクTRQによって参照される戻りアシストトルクレシオ変換部87から出力される戻りアシストトルクレシオを乗算部97において乗算して最終的に戻りアシスト電流となる。ここで、戻りアシストレシオは戻りアシスト電流を出力させたい車速域、主に0−30km/hの低車速域でゼロでない任意の値を設定する。30km/h以上の車速域においては通常の戻りダンパー補償電流を出力するために戻りアシストレシオはゼロにしておき、戻りダンパーレシオをゼロでない任意の値に設定する。
【0084】
走行中、ハンドル戻り状態と判定されると、上記判定処理によって戻りダンパー補償が有効となり、特に、低速走行時は戻りアシスト電流がダンパー補償電流として出力され、それ以上の速度域では戻りダンパー補償電流がダンパー補償電流として出力される。
【0085】
図14は、本発明の電動パワーステアリング装置における実車低車速走行中におけるハンドル舵角(ANGLE)、操舵トルク(TRQ)、モータ電流(Im)、モータ回転速度(MSPD)の時間変化を示すグラフである。図中、横軸は時間を示し、縦軸は、正方向が右方向の回転時であり、負方向が左方向の回転時に対応する各値である。また、時間範囲O−Aは、ハンドルの往き状態を示す範囲であり、時間範囲A−Bは、ハンドルの戻り状態を示す範囲であり、時間範囲B−Cは、ハンドルの戻り操作を行った後の経過を示す範囲である。
【0086】
図中ハンドルの往き状態を示すO−Aの範囲では図18で示した従来と同様ハンドル舵角(ANGLE)が右方向(正方向)に増加し、また、そのとき、操舵トルクは正値であり、モータ電流は正値であり、モータ回転速度も正値で変化することが分かる。このとき、図5において、符号判定部61からは”1”が出力され、符号判定部62からは”1”が出力され、その結果、関係演算部63からは、”0”が出力される。それにより、論理演算部69からは”0”が出力され、前回のサンプリング時がラッチ状態でなく、すなわち、前回値記憶部71が”0”であるため、論理演算部70からは”0”が出力され、論理演算部72からは”0”が出力され、切換部78では、関係演算部63からの出力が往き戻り状態判定部の出力として出力されるように切り換えられる。このとき、図5で示した往き戻り状態判定部での処理は、”往き”の判定となり往きダンパー補償電流信号が出力される。
【0087】
A−Bの範囲においては、ハンドル舵角、操舵トルクは正値であり、モータ電流とモータ回転速度は、負値で変化する。このとき、符号判定部61からは”1”が出力され、符号判定部62からは”0”が出力される。その結果、関係演算部63からは”1”が出力される。また、モータ回転速度の絶対値が第1の所定値AA以下のときは、関係演算部67からの出力は”0”となり、論理演算部69からの出力は”0”となる。そして、前回のサンプリング時がラッチ状態でなく、すなわち、前回値記憶部71が”0”であるため、論理演算部70からの出力は”0”となり、論理演算部72からの出力も”0”となる。その結果、切換部78は、関係演算部63からの出力が出力されるように切り換えられる。そして、ハンドル戻り状態であるためハンドル舵角がゼロに収束する方向で遷移する。このとき、往き戻り状態判定部60による判定は”戻り”の判定となり、戻りダンパー補償電流信号が出力される。ここでは低車速走行中であるので戻りダンパー補償電流信号は戻りアシスト電流として出力され、操舵トルクセンサからの出力信号に基づく信号に、モータ回転速度検出部からの出力信号に基づく信号を加算演算することにより、ハンドルを積極的に戻らせる作用をする。
【0088】
関係演算部63からの出力が”1”の状態で、モータ回転速度が第1の所定値A以上になったとき、関係演算部67からの出力は”1”となる。また、低速度で戻りアシストレシオがゼロでないとき、関係演算部68の出力は”1”となり、これらの結果、論理演算部69からの出力は”1”となる。また、前回値記憶部71の値に関わらず論理演算部70からの出力は”1”となる。また、モータ回転速度が第2の所定値BBよりも小さくないので関係演算部75からは”0”が出力され、また戻りアシストレシオが0でないので、関係演算部76からの出力は、”0”となる。その結果、否定論理和を演算する論理演算部77からの出力は”1”となる。それゆえ、論理演算部72からの出力は、”1”となる。それにより、切換部78は、論理演算部72からの出力が出力されるように切り換えられる。このとき、論理演算部72の出力値が前回値記憶部71に記憶される。これにより、ラッチ状態となる。
【0089】
B点以後では、操舵トルクが負値、モータ回転速度も負値となっている。このとき、符号判定部61からの出力は”0”であり、符号判定部62からの出力は”0”である。その結果、関係演算部63からの出力は”0”となる。それにより、論理演算部69からの出力は”0”となる。また、このとき、前回値記憶部71からの出力は、”1”であるので、論理演算部70からの出力は”1”となる。さらに、モータ回転速度が第2の所定値BBよりも大きいので、関係演算部75からの出力は”0”となり、戻りアシストレシオはゼロでないので関係演算部76からの出力は”0”となり、論理演算部77からは”1”が出力される。その結果、論理演算部72からは”1”が出力され、切換部78は論理演算部72からの出力を出力としている。すなわち、ラッチ状態が継続している。それにより、ハンドル舵角がゼロに収斂していくことがわかる。
【0090】
さらに、時間が経過すると、モータ回転速度が第2の所定値BBより小さくなるため、関係演算部75からの出力が”1”となり、関係演算部76からの出力は”1”であるので、否定論理和を演算する論理演算部77からの出力は、”0”となる。その結果、論理演算部72からの出力は”0”となり、切換部78は、関係演算部63からの出力が出力され、この状態がラッチ状態が解除された状態となる。
【0091】
これらの機能により、図14に示すように低速走行時に操舵したときにもハンドル戻しの状態においてSATと戻りアシスト力が相俟ってハンドルはセンターに戻りやすくなり、従来のようなハンドルがセンターに戻らず、途中で止まるような事象がなくなる。これにより、すっきりした操舵感となり操舵フィールの飛躍的な向上が実現できる。
【0092】
次に、本発明に係る電動パワーステアリング装置の往き戻り状態判定部の第2の具体例を説明する。第2の具体例では、第1の具体例における往き戻り状態判定部での所定値記憶部66と関係演算部68と所定値記憶部74と関係演算部76が異なるものであり、それ以外は、同様の構成となっている。図15は、本発明に係る往き戻り状態判定部の第2の具体例のブロック構成図である。所定値記憶部100、関係演算部101、所定値記憶部102、関係演算部103以外は、第1の具体例で説明した図5での符号と同様の符号を付して説明は省略する。
【0093】
所定値記憶部100は、第3の所定値として、車速30Km/hを記憶し、関係演算部に第3の所定値を出力する。関係演算部101は、車速と第3の所定値である30Km/hを比較し、車速が第3の所定値30Km/h以下の場合には、”1”を出力し、車速が第3の所定値30Km/hより大きい場合には、”0”を出力する。
【0094】
所定値記憶部102は、第3の所定値として30Km/hを記憶し、出力する。関係演算部103は、車速と第3の所定値としての30Km/hを比較し、車速の方が30Km/hより大きい場合には、”1”を出力し、車速が30Km/h以下の場合には、”0”を出力する。
【0095】
次に、往き戻り状態判定部の第2の具体例の動作を説明する。
【0096】
ハンドルが戻り状態かつモータ回転速度(MSPD)が所定回転速度Arps以上かつ車速が30Km/h以下という条件のとき、符号判定部61からは”1”が出力され、符号判定部62からは”0”が出力され、その結果、関係演算部63からは”1”が出力される。関係演算部67からは”1”が出力され、関係演算部101からは”1”が出力され、その結果、論理演算部69からは、”1”が出力され、論理演算部70から”1”が出力される。関係演算部103からは”0”が出力され、関係演算部75からは”0”が出力され、その結果、論理演算部77からは”1”が出力される。それにより、論理演算部72からは”1”が出力され、切換部78からは、論理演算部72からの出力が往き戻り状態判定部の出力として出力され、判定を戻り状態で保持(ラッチ)させる。図中のB枠部が判定を保持させるラッチ処理である。
【0097】
上記ラッチ状態は、ハンドルが所定回転速度以下、つまりモータ回転速度(MSPD)が所定回転速度BBrps以下、または車速が30Km/h以上のいずれかの条件が成立したときに解除される。ここで、第1の所定値AAは第2の所定値BBより大きい値である。すなわち、符号判定部61からは”0”が出力され、符号判定部62からは”0”が出力され、その結果、関係演算部63からは”0”が出力される。関係演算部67からは”0”が出力され、論理積である論理演算部69からは、”0”が出力される。関係演算部101からは”0”が出力され、関係演算部75からは”1”が出力され、関係演算部103からは”1”が出力され、前回のサンプリング時がラッチ状態であるため、前回値記憶部71は”1”であり、論理演算部70からは”1”が出力されるが、否定論理和である論理演算部77からは”0”が出力され、論理演算部72からは”0”が出力され、切換部78は、関係演算部63からの出力を出力するように切り換えられる。結果として、往き状態の信号が出力される。
【0098】
上記戻り状態判定がラッチする以外の条件、すなわち、論理演算部72が”0”を出力するときは関係演算部63からの出力が往き戻り状態判定部の出力として出力され、従来判定方式同様に操舵トルクの方向(符号)とモータ回転速度の方向(符号)によって、それぞれが同符号のとき往き方向、異符号のとき戻り方向として判定される。(図中D枠部)。
【0099】
これらの機能により、低速走行時に操舵したときにもハンドル戻しの状態においてSATと戻りアシスト力が相俟ってハンドルはセンターに戻りやすくなり、従来のようなハンドルがセンターに戻らず、途中で止まるような事象がなくなる。これにより、すっきりした操舵感となり操舵フィールの飛躍的な向上が実現できる。
【0100】
なお、戻り状態でモータ回転速度が第1の所定値AA以上になった後、ハンドルを逆回転させ、逆方向の往き状態になるときは、モータ回転速度は第2の所定値BB以下にはならず、戻り状態のラッチは解除されないが、そのときには、ステアリングに入力されるトルクがすぐに所定値以上発生するので、戻りアシストトルクレシオがゼロとなり、戻りダンパー補償電流信号の決定において、ゼロである戻りアシストトルクレシオを掛け合わせるため、結果的に戻りダンパー補償電流信号がゼロとなり、このときもスムースなハンドル操作を行うことができる。
【0101】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように本発明によれば、次の効果を奏する。
【0102】
往き戻り状態判定部は、往き戻り状態判定部により戻り状態と判定された後、モータ回転速度検出部によって検出されるモータ回転速度の絶対値が所定値以下になるまで、戻り状態を継続させるため、高価な舵角センサなどを用いず、操舵トルクとモータ回転速度データを用いる構成で、低車速走行での操舵時のハンドル戻し状態において操舵トルクがゼロを跨いで符号が切り替わりモータ回転速度と同符号の関係になってしまうような条件においても即座には往き状態と判定せず、ある条件を満たすまでは戻り状態の判定を保持させることで、低車速走行時のハンドル戻し状態で途中でハンドル戻りが停止することなくほぼセンターまで戻ることが可能となり、操舵フィーリングが飛躍的に向上する。
【0103】
また、往き戻り状態判定部は、往き戻り状態判定部により戻り状態と判定された後、車速センサによって検出される車速が所定値以下になるまで、戻り状態を継続させるため、高価な舵角センサなどを用いず、操舵トルクとモータ回転速度データを用いる構成で、低車速走行での操舵時のハンドル戻し状態において操舵トルクがゼロを跨いで符号が切り替わりモータ回転速度と同符号の関係になってしまうような条件においても即座には往き状態と判定せず、ある条件を満たすまでは戻り状態の判定を保持させることで、低車速走行時のハンドル戻し状態で途中でハンドル戻りが停止することなくほぼセンターまで戻ることが可能となり、操舵フィーリングが飛躍的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の模式構造図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の制御装置を示す図である。
【図3】目標電流決定部のブロック構成図である。
【図4】制御部のブロック構成図である。
【図5】往き戻り状態判定部の第1の具体例のブロック構成図である。
【図6】戻りダンパー補償電流算出部のブロック構成図である。
【図7】モータ回転速度と対応する戻りダンパーベース電流値のマップである。
【図8】車速と対応するモータ回転速度オフセット値のマップである。
【図9】車速と対応する車速レシオのマップである。
【図10】車速と対応する戻りアシストレシオのマップである。
【図11】車速と対応する車速トルクレシオのマップである。
【図12】トルクに対応するトルクレシオのマップである。
【図13】トルクと対応する戻りアシストトルクレシオのマップである。
【図14】本発明に係る電動パワーステアリング装置を用いたときの実車低車速走行中におけるハンドル舵角、操舵トルク、モータ電流、モータ回転速度の時間変化を示すグラフである。
【図15】往き戻り状態判定部の第2の具体例のブロック構成図である。
【図16】従来の電動パワーステアリング装置におけるダンパー補償電流算出部のブロック構成図である。
【図17】従来の電動パワーステアリング装置における往き戻り状態判定部のブロック構成図である。
【図18】従来の電動パワーステアリング装置を用いたときの実車低車速走行中におけるハンドル舵角、操舵トルク、モータ電流、モータ回転速度の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
10 電動パワーステアリング装置
11 ステアリングホイール
12 ステアリング軸
13 連結軸
15 ピニオン機構
16 手動操舵トルク発生機構
17 ラック軸
18 タイロッド
19 前輪
20 モータ
21 ボールねじ機構
22 手動操舵トルク検出部
23 車速センサ
24 制御装置
25 モータ電流検出部
26 モータ電圧検出部
27 目標電流決定部
60 往き戻り状態判定部
64A ラッチ処理部

Claims (1)

  1. 車両のステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、前記車両の速度を検出する車速センサと、前記ステアリング系に操舵補助トルクを付加するモータと、前記モータの回転速度を検出するモータ回転速度検出部と、少なくとも前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに応じて前記モータに流す目標電流値を設定し、前記モータを駆動する制御信号を出力するモータ制御手段とを備え、前記モータ制御手段は、前記操舵トルクと前記モータ回転速度の正負によってステアリング系の往き状態、戻り状態を判定する往き戻り状態判定部と、戻り状態の場合には前記操舵トルクセンサからの出力信号に基づく信号に前記モータ回転速度検出部からの出力信号に基づく信号を加算演算する演算手段とを備え、前記演算手段からの出力信号に基づいて戻り制御を行う電動パワーステアリング装置において、
    前記往き戻り状態判定部は、前記操舵トルクが正値で前記モータ回転速度が負値であるか、または前記操舵トルクが負値で前記モータ回転速度が正値であるときで、かつ前記モータ回転速度検出部によって検出されるモータ回転速度の絶対値が第1の所定値以上のとき、判定を戻り状態で保持させ、前記モータ回転速度検出部によって検出されるモータ回転速度の絶対値が前記第1の所定値よりも小さい第2の所定値以下となるまで、前記戻り状態の判定を継続させ、
    前記往き戻り状態判定部は、車速センサによって検出される車速が低車速領域以外である場合には、前記戻り状態の判定を解除することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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