JP3895292B2 - 金属発泡体の製造方法 - Google Patents

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、衝撃吸収,制振性,遮音性に優れた軽量構造部材を始めとし、機能材料としても使用可能な金属発泡体を製造する方法に関する。
【0002】
【従来技術及び問題点】
金属発泡体は、多数の気泡が金属マトリックスに分散した多孔質材料であり、衝撃吸収,制振性,遮音性,断熱性に優れた軽量構造部材としての応用・展開が期待されている。従来の金属発泡体製造方法は、内部にガスが発生した金属溶湯を鋳造して鋳物内部にガスを取り込む鋳造法(Simone AE, Gibson LJ. Acta mater. (1998) 46: 3109,米国特許第4713277号明細書等),合金粉末に発泡剤を混合した圧粉成形体を加熱して発泡反応で生成した気泡を焼結体内部に残留させる粉末冶金法(Koerner C et al,. Mater. Sci. Tech. (2000), 16: 781,Baumgartner F et al., Adv. Eng. Mater. (2000) 2: 168等)に大別される。
【0003】
鋳造法は、比較的簡単に大量の金属発泡体を作製できるが、凝固プロセスの制限があるため任意合金系の金属発泡体を製造することが困難である。たとえば、合金元素を添加した系では、発泡剤の発泡から溶湯の凝固までの期間に第2相の晶出や母相濃度の不均質化が生じやすい。第2相の晶出や母相濃度の不均質化は、気泡の成長を抑制し、或いは気泡の合体を促進させ、結果として良好なセル構造が得られ難くなる。
【0004】
粉末冶金法は、種々の合金粉末から複雑形状の金属発泡体を製造できる利点があるが、粉末を圧粉,焼結してプリフォームを作製する段階で僅かながらも気孔がプリフォームに導入される。導入された気孔は、プリフォームを加熱して発泡反応を開始させるとき、反応生成物であるガスが優先的に排出される流路として働く。その結果、発泡反応で発生したガスを有効に利用できず、良好なセル構造が得られない。十分に緻密なプリフォームの作製に高価な高温静水圧プレス装置(HIP)が必要なことも、粉末冶金法の欠点である。更に、アルミニウムやアルミニウム合金等を金属マトリックスに使用する場合、表面に存在する強固な酸化皮膜が焼結反応を阻害しプリフォームの緻密度が低下しやすくなる。しかも、粉末冶金法による金属発泡体では、金属マトリックスを構成する粉末相互の結合が原子レベルで十分に進行していないことが多く、鋳造法による金属発泡体に比較して強度が高いものの脆くなる。その結果、品質安定性,信頼性の高い金属発泡体が得られ難い。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、従来の金属発泡体がもつ問題を解消すべく案出されたものであり、金属板の間に発泡剤を微細に均一分散させたプリフォームを加熱することにより、多数の気泡を金属マトリックスの内部に発生させ、金属種や発泡剤に関する制約も緩和した金属発泡体を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の製造方法は、その目的を達成するため、複数の金属又は合金板の間に発泡剤を充填した積層体をロール圧下して金属又は合金板を相互に圧延接合し、金属又は合金板を裁断して重ね合わせ、重ね合わせた金属又は合金板を再度ロール圧下するサイクルを繰り返すことにより、金属マトリックスに発泡剤が微細分散したプリフォームとし、該プリフォームを加熱して発泡剤を発泡させることを特徴とする。
金属又は合金板を重ね合わせた界面が消失したマトリックスに微細な発泡剤が均一分散した組織が得られるまでロール圧下した後、裁断,重合せ,再度のロール圧下を繰り返すことが好ましい。具体的には、材質や圧下条件にもよるが、圧下率50%程度でロール圧下する場合には4回程度の繰返しで目標組織が得られる。ロール圧下された積層体を裁断して重ね合わせる際、合せ面に発泡剤を追加撒布することもできる。
【0007】
金属又は合金板は、材質に特段の制約を受けるものではないが、塑性変形抵抗の小さな材質ほどロール圧下による圧延接合が促進される。軽量性を重視するときアルミニウム,アルミニウム合金,マグネシウム,マグネシウム合金,チタン,チタン合金等が使用される。触媒,吸着剤等の機能が要求される用途では、ニッケル,ニッケル合金,貴金属,亜鉛,亜鉛合金,鉛,鉛合金,錫,錫合金等が使用される。発泡剤も、材質の特段の制約を受けるものでなく、水素化チタン,水素化ジルコニウム,炭酸カルシウム等の無機系発泡剤やアゾ化合物,ヒドラジン誘導体等の有機系発泡剤が使用可能である。
【0008】
【作用及び実施の形態】
本発明に従った金属発泡体は、次の工程で製造される。
一対の金属又は合金板1,1の間に発泡剤2を充填した積層体3を用意する(図1a)。積層体3を圧下ロール4,4の間に通して圧延すると、金属又は合金板1,1が相互に圧延接合されると共に、発泡剤2も圧潰されて金属又は合金板1,1の界面に分散する(図1b→c)。ロール圧下された積層体5を所定サイズに裁断し、相互に重ね合わせる(図1c→d)。裁断した積層体6,6を重ね合わせる際、合せ面に発泡剤2を撒布しても良い。追加撒布する発泡剤としては、粒径の小さな発泡剤が好ましい。重ね合わせた積層体6,6を再度圧下ロール4,4に通して圧延すると、積層体6,6相互の圧延接合,発泡剤2の微細均一分散が進む。
【0009】
ロール圧下→裁断→重合せの繰返しにより、積層体6,6相互の金属組織が圧延接合された金属マトリックスに微細な発泡剤が均一分散したプリフォーム7が得られる(図2)。金属マトリックスは、ロール圧下により緻密な組織となり、積層体6,6の界面の大半が消失する。ロール圧下→裁断→重合せの繰返し回数は、目標とする金属発泡体の用途に応じて適宜設定される。たとえば、微細気泡が多数分散している金属発泡体が必要な場合には繰返し回数を多くして発泡剤を十分に微細均一分散させるが、軽量化を狙った通常の構造部材用では4〜6回の繰返しで良い。
【0010】
次いで、プリフォーム7を加熱することにより、発泡剤2を発泡させる。プリフォーム7の加熱には、たとえば図3に示す加熱装置10が使用される。
加熱装置10は、基台11の頂面に支持台12を配置し、支持台12に載置されたプリフォーム7を取り囲む誘導コイル13を備えている。基台11は耐熱性に優れたステンレス鋼,耐熱鋼等で作られ、支持台12は昇温したプリフォーム7が焼き付き難いアルミナ,ジルコニア,サイアロン等のセラミックで作製されている。誘導コイル13に通電するとプリフォーム7が高周波加熱され、発泡剤2の発泡反応が開始する。
【0011】
加熱条件は、使用する金属又は合金板1,1及び発泡剤2の材質に応じて定められる。金属又は合金板1,1にクリープ変形が生じるように、金属又は合金板1,1の融点T(℃)を基準として(T−10)〜(T−50℃)の範囲に加熱温度を設定することが好ましい。加熱温度を高く設定するほど、発泡反応が急激に進行し、得られる金属発泡体の気孔率が高くなる。
【0012】
プリフォーム7を誘導加熱している間、基台11に溶接した熱電対14で温度制御する。プリフォーム7に熱電対を直接溶接すると、プリフォーム7の詳細な温度変化を測定できるが、発泡中にプリフォーム7から熱電対が外れやすくなる。この点、非接触の放射温度計でプリフォーム7の温度変化を把握することが好ましい。発泡反応FはCCDカメラ15で観察したプリフォーム7の体積膨張として判定される。CCDカメラ15で観察した発泡反応Fが設定値に達したとき、誘導コイル13への通電を停止し、プリフォーム7を冷却する。その結果、無数の気泡が内部に分散した金属発泡体8が得られる。金属発泡体8は、ロール圧下による圧延接合で金属組織が強固に結合した緻密な金属マトリックスに、ロール圧下→裁断→重合せの繰返しで微細均一分散した発泡剤2から生じた気泡が均一分散した多孔質構造をもっている。そのため、品質安定性,信頼性の高い製品となる。
【0013】
多孔質構造は、連通気泡が外部に臨むオープンセル構造,独立気泡が内部に分散したクローズドセル構造の何れでも良い。発泡剤の充填量,ロール圧下→裁断→重合せの繰返しによる発泡剤の分散度,加熱による発泡反応Fの進行度を制御することにより、オープンセル又はクローズドセル型の間で多孔質構造を自由に変えられる。或いは、クローズドセル型の金属発泡体を面削することによってオープンセル型にすることもできる。気密性が要求される用途ではクローズドセル型の金属発泡体に、通気性が要求される用途ではオープンセル型の金属発泡体に作製される。製造された金属発泡体は、通気性を利用したフィルタ,大きな比表面積を利用した触媒,吸着剤,流体貯蔵素子等としての展開も期待できる。
【0014】
本発明の製造方法は、金属種や発泡剤の材質に大きな制約が加わる鋳造法,粉末の取扱いが面倒で製品の品質安定性,信頼性に問題のある粉末冶金法に比較して、多様な金属又は合金板,発泡剤を使用でき、目標に応じた性能が金属発泡体に付与される。しかも、既存の圧延設備を利用でき、金属発泡体の製造自体も容易になる。
【0015】
【実施例】
板厚3mmの純アルミニウム板(JIS 1050)を幅30mm,長さ300mmに裁断した2枚の試験片を用意した。試験片を350℃で1時間加熱した後、アセトンで脱脂し、ワイヤブラシで表面を清浄化した。粒径45μmの水素化チタン粉末を試験片重量に対して0.5質量%の割合で一方の試験片の上に均一撒布し、他方の試験片を重ね合わせ、試験片の縁部をステンレス鋼製留め具で固定した積層体を得た。
【0016】
積層体をマッフル炉に装入し、Alの再結晶温度よりも低い200℃で5分焼鈍した後、径252mmの圧下ロールに通し、圧下率50%で圧延した。圧延された積層体は、長さ600mm,幅30mmであった。圧延後の積層体を半分の長さに裁断して相互に重ね合わせ、更に圧下率50%で圧延した。裁断,重合せ,圧延を6回繰り返し、マトリックスの間に水素化チタン粒子が分散している厚み3mmのプリフォームが得られた。
【0017】
6回の繰り返しでは、64層(=26)の純アルミニウムとなるはずであるが、圧延接合で純アルミニウム板の界面が完全に金属結合しているため僅かな界面が顕微鏡観察で検出されるだけであった。しかも、ロール圧下でプリフォームとされるため、粉末冶金法に比較して緻密な組織をもつプリフォームであった。純アルミニウム板の間にある水素化チタン粉末は、1回の圧延(図5a)では比較的大粒径のまま偏在していたが、圧延を6回繰り返した後(図5b)では微細粒子としてアルミニウムマトリックスに分散していた。
【0018】
プリフォーム7を支持台12に載置し、誘導コイル13により昇温速度2℃/秒で550℃まで加熱した。発泡反応は、プリフォーム7の体積増加をCCDカメラ15で観察することにより検出できる。熱電対14の指示温度が450℃に達した段階で発泡反応51が開始され、550℃に達した段階でプリフォーム7の体積が最大になった。この時点で、プリフォーム7の加熱を停止し空冷した。加熱中にプリフォーム7の色調が銀白色から赤色に変わったことから、熱電対14の指示温度がプリフォーム7の実温度よりも遥かに低く、発泡反応中にプリフォーム7が最低でも650℃に達したことが予想される。
【0019】
得られたアルミニウム発泡体は、平面視(図6a)で発泡前のプリフォーム(破線で示す)よりもサイズが小さくなっているが、側面視(図6b)で発泡前プリフォームの3倍を超える厚みになっていた。アルミニウム発泡体の中心部に比較的大きな気泡が観察されたが、他の部分には微細な気泡が均一分散していた。アルキメデス法でアルミニウム発泡体の空隙率を測定したところ、粉末冶金法で純アルミニウム粉末から得られる発泡体と同じ0.44であった。
粉末冶金法によるとき、発泡体のマトリックスとして純アルミニウム粉末は適切な材質ではなく、低融点,半溶融状態を活用したシルミン(Al−12%)粉末が使用されている。本発明でも、シルミン板を使用すると、微細気泡がより均一に分散した空隙率の高い多孔質構造のアルミニウム発泡体が得られる。
【0020】
以上の例では、純アルミニウム板,水素化チタン粉末を使用しているが、本発明はこれに拘束されるものではなく、種々の金属又は合金板,発泡剤を使用可能なことは勿論である。たとえば、マグネシウム,マグネシウム合金,チタン,チタン合金,ニッケル,ニッケル合金,貴金属,白金族,亜鉛,亜鉛合金,鉛,鉛合金,錫,錫合金等をマトリックスに使用する場合でも、同様に微細気泡が均一分散したセル構造をもつ金属発泡体が得られた。
【0021】
【発明の効果】
以上に説明したように、マトリックスを形成する金属又は合金板の間に発泡剤を充填した積層体をロール圧下し、裁断して重ね合わせ、再度ロール圧下する工程を繰り返すことにより、マトリックスに発泡剤が微細均一分散したプリフォームが得られる。プリフォームを加熱することにより発泡反応が生起し、内部に多数の気泡が存在する金属発泡体が得られる。この製造法では、通常の圧延設備を使用できることから粉末冶金法に比較して製造工程が簡単であり、品質安定性,信頼性の高い金属発泡体が得られる。また、金属又は合金板,発泡剤に加わる制約も少ないため、鋳造法による金属発泡体の製造に比較して、種々の用途に叶った特性を備えた金属発泡体が製造される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の製造工程を説明する図
【図2】 ロール圧下,裁断,再ロール圧下の繰り返しで発泡剤が微細均一分散されることを説明する図
【図3】 プリフォームを加熱して発泡反応させる加熱装置の概略図
【図4】 プリフォーム(a)が加熱されて金属発泡体(b)となる説明図
【図5】 ロール圧下の繰り返しに応じて発泡剤の分散形態が異なることを示した断面写真
【図6】 発泡反応で得られたアルミニウム発泡体の平面写真(a)及び側断面写真(b)
【符号の説明】
1:金属又は合金板 2:発泡剤 3:積層体 4:圧下ロール 5:ロール圧下された積層体 6:裁断,重ね合わせた積層体 7:プリフォーム 8:金属発泡体
10:加熱装置 11:基台 12:支持台 13:誘導コイル 14:熱電対 15:CCDカメラ

Claims (2)

  1. 複数の金属又は合金板の間に発泡剤を充填した積層体をロール圧下して金属又は合金板を相互に圧延接合し、金属又は合金板を裁断して重ね合わせ、重ね合わせた金属又は合金板を再度ロール圧下するサイクルを繰り返すことにより、金属マトリックスに発泡剤が微細分散したプリフォームとし、該プリフォームを加熱して発泡剤を発泡させることを特徴とする金属発泡体の製造方法。
  2. 金属又は合金板を重ね合わせた界面が消失した金属マトリックスに微細な発泡剤が均一分散した組織が得られるまで重ね合わせた金属又は合金板をロール圧下した後、裁断,重合せ,再度のロール圧下を繰り返す請求項1記載の製造方法。
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