JP3890916B2 - 弁管理システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラント運転上の信頼性を維持しつつ、プラント運転情報から弁の内部流体状態を評価し、弁の劣化診断を行うことで、プラント内に多数配置された弁の保全を省力化することを提案する弁管理システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
プラント内の弁の減肉を原因とする破断漏洩事故や隔離機能の低下を未然に防ぐことは重要な課題である。これはプラント停止や要求出力の低下による経済的損失が大きいだけでなく、放射性物質などの内部の有害物質が漏洩,拡散することは危険度が高い上、社会的影響が非常に大きいことから明らかである。
【0003】
一般に、配管経路に介設されている弁は、摺動部分の摩耗などによる機械的損傷,キャビテーション流発生などによって起こる減肉に起因する水理的損傷によって寿命に達する。
【0004】
ところで、弁の寿命評価は、劣化の確認は目視などで行われていたが、一部の弁について、センサによる劣化評価が行われるようになった。
【0005】
たとえば機械的損傷による劣化に関しては、すでに特開2000−65246号公報の技術等によって容易にこれを評価可能であり、水理的劣化に関しては特開平2−1507402号公報のように弁の上流,下流側の圧力の差圧をセンサ等で測ることによって評価することができる。
【0006】
このように従来は、弁にセンサを取り付けることで弁の劣化を把握し、交換や検査の時期を決定する方法が採られていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
弁に取り付けるセンサは非常に高価であり、配管経路に大小さまざまな弁が多数存在するプラントなどではすべての弁を管理するには非経済的な保全方法である。
【0008】
よって、従来法で経済性を満たす弁の保全を行うには、設計上重要な箇所のみにセンサを取り付けて弁の水理的寿命を評価し、それ以外は目視のみで検査する方法が採られていた。
【0009】
このため、従来の方法ではプラント内すべての弁の保全が実質不可能となり、信頼性が低い問題点を有していた。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、プラント内のすべての弁を対象として、弁の使用条件,環境,弁の幾何情報などを考慮して弁の危険度をランク付けし、保全対象となる弁の絞り込みを行い、信頼性が高く、経済的な弁の保全システムを提供することを目的としたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、弁の入り口圧力と入り口口径,弁開度,流体の流量から求まる弁絞り部での圧力および流体速度を求め、この圧力を流体の飽和蒸気圧と比較することで、キャビテーションやフラッシングなどの流体状態の変化を評価し、評価した流体状態,弁絞り部での流体速度および弁に使用される材料の特性から弁の水理的寿命を数値的に評価し、弁の危険度をランク付けすることで検査対象となる弁の絞り込み支援を行う。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態を利用した弁管理システムを原子力プラントに適用した場合の全体構成の一例を図1に示す。
【0013】
本実施形態のシステムは入力装置101,運転情報データ格納装置102,環境・材料データ格納装置103,弁・流体データ格納装置104,弁危険度評価手段105,表示装置106を備えている。
【0014】
なお、運転情報データ格納装置102は、各弁の開度や、流量,圧力などのプラントに据付られたセンサによって得られる情報、また、環境・材料データ103は流体中の溶存酸素濃度,PHや各弁に使用されている材料の硬度,靭性,疲労強度などの情報,弁・流体データ格納装置104は弁と配管の口径,接続方法,配置情報,種類などの情報をそれぞれ格納している。弁危険度評価手段105はこれら3つのデータ格納装置から情報を引き出し、プラントの運転状態を反映し、キャビテーションやフラッシングなどの弁の内部流体状態を評価し、その結果から弁の危険度をランク付けして表示装置106によって可視化する。
【0015】
以下に、本実施形態のシステムを構成する各装置の詳細について説明する。
【0016】
図2は運転情報データ格納装置102のデータ格納形式を示す。運転情報データ格納装置102ではプラント内の弁にIDをつけ、弁の開度ごとの流量特性データ,開度と流量特性の関係に関与するプラグ(弁体)の形状データを含む構成である。弁のIDは、系統名−(弁機能−)弁番号の書式で記述される。弁番号は弁に任意に付けられる番号である。プラグ形状は開度が変化したときの流量特性の変化に大きく依存する。
【0017】
弁・流体データ格納装置104は図3のような弁の形状・配置データと図4および図5のような弁内部流体情報を含む構成となる。
【0018】
弁の形状データ301はプラント内の各弁の出入口口径,ストロークなどの弁の外観および内部形状やプラント内の基準点からの弁入口および出口の空間座標すなわち弁の3次元配置データ,弁とつながる配管のID等を含む構成である。形状はバルブの種類を表している。例えばグローブバルブ(GLB),逆止弁(CHK)を示している。材質は弁に使われている材料を格納している。特に弁が複数の材質で構成されている場合は、すべての情報を格納する。
【0019】
弁配置データ302はプラント内での弁・配管・プラント機器の3次元空間座標を示す。弁については弁出入口の中心の座標を格納する。
【0020】
弁接続データ303は弁出入り口とそれぞれつながる部品のIDを格納している。
【0021】
弁内部流体情報は、弁内部を流れる流体の流量Q,弁入口での流速v1 および圧力P1 ,弁出口での流速v2 および圧力P2 ,温度Tをプラント内の弁ごとに図4および図5のようにテーブル化したものを含む構成である。図4の弁内部流体情報(設計値)はプラント設計時においてヒートバランスによって求められる定格出力での各パラメータを格納する。
【0022】
一方、図5の弁内部流体情報(運転値)はプラント運転時の弁内部を流れる流体の情報を格納する。
【0023】
図6は流体の特性値を格納する。ある温度(セルシウス度)における流体の飽和蒸気圧(Pa)および比重(g/cm3)を格納している。
【0024】
図7はプラントの機器601および機器602を結ぶ配管系統を示す。プラントでは常に機器601,602、例えば機器601は復水回収タンク、602は復水器である。プラントにおいて機器の内部圧力P1 ,流量Q,流体温度Tは常に測定している。いま、何らかの原因によって出力が低下した場合、プラントでは弁603,604の開度を調節することにより、出力を一定に保つ。
【0025】
弁の開度を調節する際には弁603から604までの流体の流速v2や圧力P2,弁604から機器602までの流体の流速v3 や圧力P3 は変化する。特に各弁の弁絞り部での圧力Pc ,vc は弁の開度によって大きく変化する。
【0026】
これら各パラメータの変化は運転条件の変化により常に更新され、弁の開度を変更してもその開度に応じた弁内部の流体情報を知ることが可能となる。
【0027】
環境・材料データ103は図8で示す材料データベースと図9で示す水質データベースを含む構成である。
【0028】
図8で示す材料データベースは弁に使われる材料の硬さ,疲労強度,靭性等の機械的特性を評価してテーブル化したものである。
【0029】
図9の水質データは弁内部に流れる流体の溶存酸素量,PH等の水質をテーブル化したものである。
【0030】
本システムはこれら各データ格納装置から得られるデータを入力として弁危険度評価手段105によってプラント運転情報を反映した弁の危険評価を行う。この評価は詳細には図10および図11のような手段で行われる。
【0031】
流体評価1001は運転情報データ格納装置102から各弁の開度における流量特性データを、弁・流体データ格納装置104から弁内部流体情報(運転値),弁形状データを入力して現在の運転情報における弁内部流体情報(運転値)の各パラメータの値を更新し、弁の内部流体状態を弁絞り部での圧力Pc およびvc と流体温度での飽和蒸気圧と比較することで弁の流体状態を評価する。
【0032】
ここでそれぞれのパラメータの導出方法および弁絞り部での流体状態評価方法についての詳細を図12に示す。
【0033】
流体状態評価1001は弁IDをキーとして、配管形状・配置DBから弁口径データ、プラント運転情報データから流量特性データを検索し、この値を入力として弁を図13のような簡略化モデルに変換する。ここで弁口径データは弁出入口流路断面積S1 およびS2 を求めるために用い、流量特性データは弁絞り部の流路断面積SR を求める。図の矢印は流体の進行方向を示す。弁内部速度は流量Qと流路断面積から
【0034】
とそれぞれ求めることができ、弁絞り部での圧力Pc は、ベルヌーイの定理より
【0035】
のように求めることができる。
【0036】
求めた弁絞り部の圧力Pc と飽和蒸気圧Pv を流体温度Tをキーとして流体情報DBから求め、Pv/Pcを求める。
【0037】
弁リスク評価1002は流体評価1001において求められた、流体情報を入力して弁の現在の危険度を評価する。
【0038】
詳細には図11のような処理フローで処理される。
【0039】
流体評価1001において求めた各弁のPv/Pc,vc およびP2 を入力データとして、材料データベース,水質データベースから材料のエロージョン感受性を求め、流体のエロージョンしきい速度vd を求める。弁絞り部での流体の速度vc は流体のエネルギーの大きさを表し、vc が大きければ大きいほどエロージョンの発生確率は高くなる。また、材料ごとにエロージョンの感受性は異なるために、弁のエロージョン発生確率は流体の速度と材料の機械的特性の相互作用から求まる。この相互作用はエロージョンしきい速度vd を設定することで評価される。vd は多変量解析を用いた統計解析による手法や、材料疲労特性を考慮したスプリンガーの式等を用いて理論的に算出され、材料ごとに異なる。
【0040】
入力されたデータから、各弁の内部流体状態の評価を次のように行う。内部流体状態とはすなわちノーマル流,キャビテーション流,フラッシュ流の3状態であり、Pv/Pc<1のとき内部流体状態はノーマル流、Pv/Pc>1のときキャビテーション流、Pv/Pc>1かつP2<Pvのときフラッシュ流となる。Pv/PcおよびP2 の値を管理することにより、弁の内部流体状態によるエロージョン発生確率が一元管理可能となる。
【0041】
また、流体の速度によりvc<vdのときエロージョンが発生しにくく、vc>vd のときエロージョン発生しやすくなる。材料ごとのvdとvcを比較することにより、材料ごとのエロージョン発生確率が一元管理可能となる。
【0042】
弁保全度可視化モジュール1003は、この弁内部流体状態の結果、すなわち各弁の内部流体情報を図14のように(vc,Pv/Pc)を座標系中にまとめると、y軸に流体状態によるエロージョン評価、横軸に流体速度による流体評価を表示可能となり弁のエロージョン管理を一覧可能とする。これにより、弁を6つの危険度に分けることができる。すなわち、▲1▼流体状態がフラッシュ流で流体によるエロージョン可能性が高い弁1401、▲2▼流体状態がフラッシュ流で流体によるエロージョン可能性が低い弁1402、▲3▼流体状態がキャビテーション流で流体によるエロージョン可能性が高い弁1403、▲4▼流体状態がキャビテーション流で流体によるエロージョン可能性が低い弁1404、▲5▼流体状態がノーマル流で流体によるエロージョン可能性が高い弁1405、▲6▼流体状態がノーマル流で流体によるエロージョン可能性が低い弁1406に分けることが可能となる。
【0043】
この結果を表示装置1004で顧客に示し、検査対象となる弁の絞込みを行う。このシステムにおいて、弁内部流体情報について設計値と運転値を入力することにより、運転中の弁が設計性能よりもどの程度過酷な運転をしているかを示すことが可能となり、これにより、プラントの運転支援が可能となる。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、プラント内のすべての弁を対象として、弁の使用条件,環境,弁の幾何情報から弁の危険度をランク付けし、保全対象となる弁の絞り込みを行い、信頼性が高く、経済的な弁の保全システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】弁管理システムの概要。
【図2】運転情報データの内容および格納様式。
【図3】弁形状・配置データの内容および格納様式。
【図4】弁内部流体情報(設計値)の内容および格納様式。
【図5】弁内部流体情報(運転値)の内容および格納様式。
【図6】流体飽和蒸気圧および比重―温度定数表。
【図7】プラント機器,配管配置図。
【図8】材料データの内容および格納様式。
【図9】水質データの内容および格納様式。
【図10】弁危険度評価手段構成図。
【図11】弁リスク評価処理フロー図。
【図12】内部流体評価処理フロー図。
【図13】弁簡略化モデル。
【図14】弁危険度可視化モジュール。
【符号の説明】
101…入力装置、102…運転情報データ格納装置、103…環境・材料データ格納装置、104…弁・流体データ格納装置、105…弁危険度評価手段、106…表示装置。
Claims (2)
- 弁の形状・配置データやプラント運転中の弁内部を流れる流体の情報を格納する弁・流体データ格納装置と、弁に使用される材料の機械的特性や内部流体の水質についての情報を格納する環境・材料データ格納装置と、プラント運転時の弁の開度変化による弁内部流体の流量特性の変化についての情報を格納する運転情報データ格納装置と、管路の形状や、管路を流れる流体の流量および弁の上流側圧力を入力し、入力されたパラメータと予め入力されている定数に基づいて、キャビテーションやフラッシング等の弁内部の流体状態を評価する弁危険度評価手段とを有することを特徴とする弁管理システム。
- 前記弁・流体データから、プラント設計時点での理想的な流体情報をさらに有し、各弁の設計時と運転時での弁の危険度を比較し、要求性能以上で運転されている弁を評価することを特徴とする請求項1に記載の弁管理システム。
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