JP3884614B2 - 液体燃料の噴射方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は液体燃料の噴射方法に関するものであり、詳しくは、自動車や発電所の内燃機関等において有用な液体燃料の噴射方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自動車や発電所等の内燃機関においては、液体燃料が微細な液滴として燃焼室に噴射された後、空気と混合されて燃焼することによって、熱や電気等へのエネルギー変換が行われる。ここで、燃焼室に噴射する液体燃料の液滴の微細化が不十分であると燃焼効率が不十分となるため、液体燃料としては、軽油、灯油、液化天然ガス(LNG)、プロパン等の比較的微細化しやすいものが用いられている。
【0003】
ところで、近年、省エネルギー化に伴い、これらの内燃機関においては燃焼効率のさらなる向上が求められている。そこで、液体燃料の燃焼効率を向上させる技術に関する検討が進められており、様々な方法が提案されている。例えば、特開平5−302701号公報には、希釈剤としての超臨界流体を液体燃料に混合し、その混合物を燃焼室に噴射して燃焼させる技術が開示されている。また、特開昭64−75587号公報には、液体燃料に水を添加した燃料混合物を、過剰量の酸素又は空気と混合して、水の亜臨界状態又は超臨界状態で燃焼させる方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の方法を用いた場合であっても、噴射時の燃料温度を最適の温度に制御しなければ液体燃料を燃料室に噴射する際の液体燃料の減圧沸騰、添加成分の析出、噴射前後の液体燃料の密度変化、液体燃料の拡散性等の影響により液体燃料の液滴を必ずしも十分に微細化することはできず、燃焼効率を十分に向上させるための方法としては未だ十分なものではなかった。したがって、液体燃料の燃焼に伴い発生するNO、NO2等の窒素酸化物(NOx)やすす(カーボン)等の有害物質の量を十分に抑制することができなかった。
【0005】
本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、液体燃料の液滴の十分な微細化と十分に低い燃焼温度での液体燃料の燃焼とを可能とし、液体燃料の燃焼効率を十分に高めるとともにNO、NO2等の窒素酸化物(NOx)やすす(カーボン)等の有害物質の発生を十分に抑制することを可能とする液体燃料の噴射方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、液体燃料に、その液体燃料の臨界温度よりも低い臨界温度を有する超臨界流体を添加して得られる燃料混合物を、液体燃料の沸点以上の温度で噴射することによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の液体燃料の噴射方法は、液体燃料と、前記液体燃料の臨界温度よりも低い臨界温度を有する超臨界流体であって二酸化炭素、水素、メタン、エタン、プロパン及び前記液体燃料の燃焼により生じる排気ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種である超臨界流体と、を含有する燃料混合物を、前記液体燃料の沸点以上の温度で噴射することを特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、液体燃料に、その液体燃料の臨界温度よりも低い臨界温度を有する超臨界流体を添加して得られる燃料混合物を、液体燃料の沸点以上の温度で噴射することによって、液体燃料を燃料室に噴射する際の液体燃料の減圧沸騰、添加成分の析出、噴射前後の液体燃料の密度変化、液体燃料の高拡散性等の効果が得られるため、燃料混合物の液滴が十分に微細化される。また、液体燃料の燃焼に伴い生じる熱が超臨界流体に奪われて燃焼温度が低下する。したがって、液体燃料の燃焼効率を十分に高めるとともに、NO、NO2等の窒素酸化物(NOx)やすす(カーボン)等の有害物質の発生を十分に抑制することが可能となる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明において用いられる液体燃料噴射装置の一例を示す概略構成図である。図1において、液体燃料1、並びに液体燃料1の臨界温度よりも低い臨界温度を有する超臨界流体2はそれぞれ燃料タンク3及び超臨界流体タンク4に収容されている。液体燃料タンク2は流路5aに接続されており、流路5aに設けられた、液体燃料1中の固形分を除去するためのフィルタ6a、液体燃料1の流量を調節するためのバルブ7a、液体燃料1を流路5aに送液するためのポンプ8aを経て液体燃料1を混合機9aに供給することが可能となっている。また、超臨界流体タンク4は流路5bに接続されており、流路5bに設けられた、超臨界流体2中の固形分を除去するためのフィルタ6b、超臨界流体2の流量を調節するためのバルブ7b、超臨界流体2を流路5bに送液するためのポンプ8b、超臨界流体2と後述する排気ガスとを混合するための混合器9b、装置停止時における燃料混合物の逆流を防止するための逆止弁10を経て混合器9aに供給することが可能となっている。さらに、バルブ7a、7bは流量コントローラ11と電気的に接続されており、バルブ7a、7bから流量コントローラ11に液体燃料1又は超臨界流体2の流量に関するデータ信号が送られるとともに、流量コントローラ11からバルブ7a、8bに液体燃料1又は超臨界流体2の流量に関する制御信号が送られて、混合器9aにおいて液体燃料1と超臨界流体2とを所定の組成比で混合して燃料混合物12を得ることが可能となっている。
【0011】
混合器9aはヒータ13及び噴射ノズル14を備える流路5cに接続されており、燃料混合物12を、ヒータ13によって液体燃料の沸点以上の温度に加熱した後、十分に微細化された液滴として噴射ノズル14から燃焼室15内に噴射することが可能となっている。
【0012】
なお、図1に示す装置においては、燃焼室14内での液体燃料1の燃焼に伴い生じる排気ガスを、流路5dを通して排気口(図示せず)から系外に放出してもよく、また、排気ガスの一部又は全部を流路5eを通して混合器9bに供給してもよい。流路5eにはセンサ16、フィルタ6e、バルブ7e及びポンプ8eが設けられているとともに、センサ16と流量コントローラ11、並びにバルブ7eと流量コントローラ11がそれぞれ電気的に接続されており、センサ6から流量コントローラ11に排ガス中の所定の成分の含有量に関するデータ信号、バルブ7eから流量コントローラ11に排ガスの流量に関するデータ信号がそれぞれ送られるとともに、流量コントローラ11からバルブ7eに排気ガスの流量に関する制御信号が送られて、混合器9bに供給される排気ガスの流量を調節することが可能となっている。また、図1には示していないが、流路5eに透過膜等の分離手段を設けて、排ガス中に含まれる特定の成分を混合器9bに供給することもできる。
【0013】
上記本発明の方法を用いることによって、液体燃料1を含有する燃料混合物12の液滴の十分な微細化と十分に低い燃焼温度での液体燃料1の燃焼とが可能となり、その結果、液体燃料1の燃焼効率を十分に高めるとともにNO、NO2等の窒素酸化物(NOx)やすす(カーボン)等の有害物質の発生を十分に抑制することが可能となる。したがって、本発明の液体燃料の噴射方法によれば、従来より内燃機関等に用いられている液体燃料の他、従来の方法では液滴を十分に微細化することができなかった液体燃料を用いた場合であっても、十分に高い燃焼効率と排気ガス中の有害物質の十分な低減とを達成することが可能となる。
【0014】
なお、特開平5−302701号公報に記載されているように、希釈剤としての超臨界流体を液体燃料に添加する技術は従来より知られているが、このように液体燃料の粘度を調整しただけでは液体燃料を燃料室に噴射する際の液体燃料の減圧沸騰、添加成分の析出、噴射前後の液体燃料の密度変化、液体燃料の拡散性等の効果が不十分であるため、液体燃料の液滴を必ずしも十分に微細化することはできない。すなわち、本発明によって得られる燃焼効率向上効果及び有害物質の発生の抑制効果は、前述の通り、液体燃料と上記特定の臨界温度を有する超臨界流体とを含有する燃料混合物を、上記特定の温度で噴射することによって初めて得られるものである。
【0015】
本発明にかかる液体燃料としては、具体的には、従来より内燃機関等に用いられている軽油(沸点:170〜350℃、臨界温度:200〜500℃)、ガソリン(沸点:50〜300℃、臨界温度:170〜450℃)、n−デカン(沸点:174℃、臨界温度:345℃)、メタノール(沸点:65℃、臨界温度:240℃)等が挙げられる。
【0016】
また、本発明にかかる超臨界流体としては、液体燃料の臨界温度よりも低い臨界温度を有するものである限りにおいて特に制限されないが、好ましくは常温で気体のものであり、具体的には、二酸化炭素(臨界温度:31℃)、水素(臨界温度:−240℃)、メタン(臨界温度:−83℃)、エタン(臨界温度:32℃)、プロパン(臨界温度:97℃)等が挙げられる。また、図1に示すように、液体燃料の燃焼により生じる排気ガスを超臨界流体として用いてもよい。これらの中でも、臨界温度が100℃以下である超臨界流体を用いると液体燃料の燃焼効率向上効果と有害物質の発生の抑制効果とがより高められる傾向にあるので好ましく、二酸化炭素、水素、メタン及び排気ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0017】
燃料混合物における超臨界流体の配合量は、液体燃料の燃焼効率向上効果や有害物質の発生の抑制効果を損なわない限りにおいて特に制限されないが、燃料混合物全量を基準として好ましくは1〜50重量%であり、より好ましくは5〜25重量%である。超臨界流体の配合量が前記下限値未満の場合には液体燃料の燃焼効率が低下したり有害物質の発生が十分に抑制されない傾向にあり、他方、前記上限値を超えると液体燃料の燃料効率が低下する傾向にある。
【0018】
燃料混合物を噴射するときの温度は、前述の通り、液体燃料の沸点以上であることが必要である。燃料混合物を噴射するときの温度が液体燃料の沸点未満であると、燃料混合物の液滴が十分に微細化されず、その結果、液体燃料の燃焼効率が不十分となる。
【0019】
また、燃料混合物を噴射するときの温度は、液体燃料の沸点以上且つ燃料混合物の臨界温度以上であることが好ましい。液体燃料の沸点以上且つ燃料混合物の臨界温度以上の温度で燃料混合物を噴射すると、液体燃料の燃焼効率向上効果と有害物質の発生の抑制効果とがより高められる傾向にある。
【0020】
さらに、燃料混合物を噴射するときの温度は、液体燃料の臨界温度以下であることが好ましい。燃料混合物を噴射するときの温度が液体燃料の臨界温度を超えると、燃料供給手段や噴射手段への負荷が大きくなり、装置の耐久性が低下する傾向にある。
【0021】
また、燃料混合物を噴射するときの圧力は、燃料混合物を十分に微細化することが可能であれば特に制限されないが、好ましくは1〜200MPaであり、より好ましくは10〜150MPaである。燃料混合物を噴射するときの圧力が前記下限値未満の場合、燃料混合物の液滴が十分に微細化されず、液体燃料の燃焼効率が不十分となる傾向にある。他方、燃料混合物を噴射するときの圧力が前記上限値を超えると、燃料供給手段や噴射手段への負荷が大きくなり、装置の耐久性が低下する傾向にある。
【0022】
本発明において、燃料混合物の噴射手段としては特に制限されず、従来より公知のものが使用可能であるが、例えば、図1に示すように、噴射ノズルを用いて燃料混合物を十分に微細化された液滴として好適に噴射することができる。ここで、燃料混合物の液滴の平均粒径は50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。燃料混合物の液滴の平均粒径が前記上限値を超えると、液体燃料の燃焼効率が不十分となるとともにすす等の有害物質の発生が十分に抑制されない傾向にある。
【0023】
このようにして微細化された燃料混合物の液滴が酸素含有ガスと混合されて燃焼することによって、有害ガスの発生を十分に抑制しながら十分に高い燃焼効率をもって液体燃料から熱や電気等へのエネルギー変換を行うことが可能となる。
【0024】
なお、図1には、液体燃料1と超臨界流体2とをそれぞれ別個のタンク3、4に収容し、混合器9a内において両者を混合して燃料混合物12とした後に燃料混合物12を噴射する場合の例を示したが、本発明においては、予め液体燃料と超臨界流体とから調製された燃料混合物をそのまま噴射してもよい。
【0025】
【実施例】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(燃料混合物の液滴の粒径の測定)
実施例1
n−デカン(沸点:174℃、臨界温度:345℃)80重量部と二酸化炭素(臨界温度:31℃)20重量部とを混合して燃料混合物(臨界温度(BWR式による計算値):約300℃)を調製した。
【0026】
次に、図2に示す装置を用いて、燃料混合物を噴射したときの液滴の粒径をレーザ光回折法により測定した。すなわち、上記の燃料混合物12を圧力容器17に収容し、恒温槽18中で燃料混合物を加熱するとともに、ポンプ8で圧力容器17内を加圧して、燃料混合物12を流路5を通して噴射ノズル14から噴射した。そして、He−Neレーザ発振機20、検出器16及び情報処理手段21を備えるレーザ光回折測定装置22を用いて、噴射ノズル14から噴射された燃料混合物12に光を照射したときの回折パターンを測定し、得られた回折パターンに基づいて燃料混合物の液滴の粒径を求めた。なお、燃料混合物12を噴射するときの圧力は圧力計19を用いて計測した。
【0027】
上記の測定により得られた、燃料混合物の液滴の粒径と体積頻度との相関を図3に示す。上記の方法における燃料混合物の液滴の平均粒径は9.2μmであり、燃料混合物の液滴が十分に微細化されていることが確認された。
【0028】
実施例2及び比較例1〜3
実施例2及び比較例1〜3においては、燃料混合物の組成、並びに燃料混合物を噴射するときの温度及び圧力をそれぞれ表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、燃料混合物を噴射したときの液滴の粒径を測定した。
【0029】
上記の測定により得られた、燃料混合物の液滴の粒径と体積頻度との相関を図3に示す。実施例2における燃料混合物の液滴の平均粒径は4.5μmであり、燃料混合物の液滴が十分に微細化されていることが確認された。これに対して、比較例1における燃料化合物の液滴の平均粒径は72μmであり、比較例2の場合は14μmであり、比較例3の場合は29μmであり、いずれも燃料混合物の液滴の微細化が不十分であった。
【0030】
【表1】
【0031】
(燃焼試験)
比較例4
図2に示す装置の噴射ノズル14をエンジンの燃焼室(図示せず)に接続し、比較例1と同様の条件で噴射ノズル14から燃焼室内に噴射して、液体燃料を燃焼させたときの排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)及びすすの量を測定した。なお、窒素酸化物の定量は排ガス分析計を用いて行った。また、すすの定量は、スモークメータを用いて、排気ガスの一部を吸引し、濾紙に付着したすす量を計測することにより行った。
【0032】
実施例3〜4及び比較例5〜6
実施例3〜4及び比較例5〜6においては、燃料混合物の組成、並びに燃料混合物を噴射するときの温度及び圧力をそれぞれ表2に示す通りとしたこと以外は比較例4と同様にして燃焼試験を行い、比較例4を基準としたときの排気ガス中に含まれる窒素酸化物及びすすの低減率を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2に示すように、実施例3〜4においては、いずれも窒素酸化物及びすすの発生が十分に抑制されており、液体燃料からのクリーンなエネルギー変換が可能であることが確認された。これに対して、比較例5においては窒素酸化物の発生が十分に抑制されておらず、また、比較例6においてはすすの発生が十分に抑制されていなかった。
【0035】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明の液体燃料の噴射方法によれば、液体燃料の液滴の十分な微細化と十分に低い燃焼温度での液体燃料の燃焼とが可能となり、液体燃料の燃焼効率を十分に高めるとともにNO、NO2等の窒素酸化物(NOx)やすす(カーボン)等の有害物質の発生を十分に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において用いられる液体燃料噴射装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例で用いた液体燃料の液滴の粒径測定装置を示す概略構成図である。
【図3】実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた、燃料混合物の液滴の粒径と体積頻度との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1…液体燃料、2…超臨界流体、3…燃料タンク、4…超臨界流体タンク、5、5a、5b、5c、5d、5e…流路、6a、6b、6e…フィルタ、7a、7b、7e…バルブ、8、8a、8b、8e…ポンプ、9a、9b…混合器、10…逆止弁、11…流量コントローラ、12…燃料混合物、13…ヒータ、14…噴射ノズル、15…燃焼室、16…検出器、17…圧力容器、18…恒温槽、19…圧力計、20…He−Neレーザ発振機、21…情報処理手段、22…レーザ光回折装置。
Claims (3)
- 液体燃料と、前記液体燃料の臨界温度よりも低い臨界温度を有する超臨界流体であって二酸化炭素、水素、メタン、エタン、プロパン及び前記液体燃料の燃焼により生じる排気ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種である超臨界流体と、を含有する燃料混合物を、前記液体燃料の沸点以上の温度で噴射することを特徴とする液体燃料の噴射方法。
- 前記液体燃料を噴射するときの温度が前記液体燃料の沸点以上であり且つ前記燃料混合物の臨界温度以上であることを特徴とする、請求項1に記載の液体燃料の噴射方法。
- 前記液体燃料を噴射するときの温度が前記液体燃料の臨界温度以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体燃料の噴射方法。
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