JP3882584B2 - 乱流の解析システム並びに乱流解析プログラム - Google Patents

乱流の解析システム並びに乱流解析プログラム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は流体機器や流体関連機器における流れの数値解析方法に関わり、特に乱流場を非定常解析する計算方法であるラージ・エディ・シミュレーションにおいて、SGS応力のモデル係数を自動的に決定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
流体機器の設計や開発では、流れの数値解析が利用されることが多い。そして対象とする流れ場の多くは乱流である。乱流の解析方法の一つにラージ・エディ・シミュレーション(LES)がある。
【0003】
流れの数値解析手法の多くは、解析の対象となる領域を、空間的に有限個の領域、あるいは有限個の物理量定義点に分割して扱う。これを空間の離散化といい、一般的にはメッシュ分割,要素分割,セル分割などとよぶ。空間を離散化すると、たとえばメッシュ幅よりもサイズが小さい渦などの流れ構造は、もはや解像できなくなってしまう。しかし、こうした微小な流れ構造も、全体の流れ場に影響を及ぼすので、その影響を考慮する必要がある。こうした微小な流れ構造(波数空間上での高波数域の速度の変動成分)の影響をサブグリッドスケールモデル(SGSモデル)として考慮し、流れを非定常計算するのがLESである。
【0004】
空間の離散化は、物理量の空間的な変動の、高波数成分を除去する一種のローパスフィルタとみなすことができ、このフィルタをグリッドフィルタとよぶ。波数空間において、グリッドフィルタにより除去される高波数の領域のことをサブグリッドスケールとよび、除去されない低波数域のことをグリッドスケールとよぶ。また波数空間上でグリッドスケールに含まれる物理量の空間変動成分のことをグリッドスケール成分(GS成分)とよび、サブグリッドスケールに含まれる空間変動成分をサブグリッドスケール成分(SGS成分)とよぶ。
【0005】
任意の物理量をφであらわすとき、空間的に分布するφにグリッドフィルタを作用させて得られる値を
【0006】
【数42】
Figure 0003882584
【0007】
であらわす。
【0008】
空間の離散化で解像できなくなった微小な流れ構造、すなわち空間的な速度変動のSGS成分が、流れの運動量変化に及ぼす影響は、応力の形であらわれる。この応力をサブグリッドスケール応力(SGS応力)という。
【0009】
速度のi方向成分をui と表すとき、SGS応力は数1であらわされる。
【0010】
【数1】
Figure 0003882584
【0011】
SGS応力中の
【0012】
【数43】
Figure 0003882584
【0013】
については直接的には計算することができないため、SGS応力に対してモデル化が必要となる。
【0014】
SGS応力に対する代表的なSGSモデルに、スマゴリンスキーモデルがある。スマゴリンスキーモデルは数2で表される渦粘性型のSGSモデルである。
【0015】
【数2】
Figure 0003882584
【0016】
ここでグリッドスケールでの歪率テンソルは数3で与えられる。
【0017】
【数3】
Figure 0003882584
【0018】
スマゴリンスキーモデルでは渦動粘性係数をモデル定数Cを含んだ数4で与える。
【0019】
【数4】
Figure 0003882584
【0020】
なお、本明細書においては数式の記述において、アインシュタインの総和規約を用いるものとする。また任意のテンソルΦijに対し、Φij * はその非等方成分Φij *≡Φij−δijΦkk/3をあらわすものとする。
【0021】
スマゴリンスキーモデルのモデル定数は流れの性状によりその最適値が異なる。例えば一様等方性乱流ではその最適値は0.03 から0.04 程度の値であり、チャンネル乱流では0.01 程度の値が最適値である。
【0022】
そのためスマゴリンスキーモデルを用いた解析で精度の高い結果を得るためには、対象とする流れ場に適したモデル定数を用いる必要がある。しかし複雑な流れ場を対象とするとき、そのようなモデル定数のチューニングは極めて難しい。
【0023】
そこで流動状態に応じてモデル定数の局所的な値を自動的に算出する方法が提案されている。その方法はフィジックス オブ フルイズ エー 4(1992年)第633頁から第635頁(Physics of Fluids A 4 (1992) pp.633-635 )に記載されたものである。この方法をもちいたSGSモデルはダイナミック・スマゴリンスキーモデル(DSM)と呼ばれる。またこのときモデル定数を算出するために用いる計算手続きはリリーの最小自乗法とよばれる。
【0024】
SGSモデルにスマゴリンスキーモデル以外のモデルを適用する場合についても、モデル定数を自動的に算出する方法が提案されている。例えば数5はスケール相似則モデルの一つであるバーディナモデルであるが、これと数2,数4のスマゴリンスキーモデルとを線形結合したモデルとして、数6に示すミックスドモデルがある。
【0025】
【数5】
Figure 0003882584
【0026】
【数6】
Figure 0003882584
【0027】
数6のミックスドモデルを対象として、式中に含まれるスマゴリンスキーモデル部のモデル定数Cを算出する方法が、フィジックス オブ フルイズ A 5(1993年)第3186頁から第3196頁(Physics of Fluids A 5(1993)pp.3186-3196)に記載されている。この方法はダイナミック・ミックスドモデル(DMM)とよばれる。ダイナミック・ミックスドモデルにおいても、モデル定数の算出手続きにはリリーの最小自乗法が用いられている。
【0028】
また数7に示すツーパラメータ・ミックスドモデルはミックスドモデルの一種であり、モデル定数を2つ含むモデルである。
【0029】
【数7】
Figure 0003882584
【0030】
この2つのモデル定数を自動的に算出する方法はフィジックス オブ フルイズ 7(1995年)第2831頁から第2847頁(Physics of Fluids 7 (1997) pp.2831-2847)に記載されている。この方法はダイナミック・ツーパラメータ・ミックスドモデル(DTMM)と呼ばれる。またこの方法でモデル定数を算出するために用いられる方法はやはり、リリーの最小自乗法である。
【0031】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術における問題点は、数値的に不安定な点である。すなわち、SGSモデルのモデル定数の自動算出に従来の技術を用いた解析では、数値振動が生じやすく、場合によっては非物理的な振動解が計算結果として得られる。さらには計算途中においてゼロ割りやフローティングポイントオーバーフローなどが生じ、計算の続行が不能となることもある。
【0032】
こうした数値不安定を防ぐ目的で、統計的に一様な方向への平均操作を用いる方法が提案されており、その一例はフィジックス オブ フルイズ エー 3(1991年)第1760頁から第1765頁(Physics of Fluids A 3 (1991)pp.1760-1765)に記載されている。但しこうした平均操作は単純な体系にしか適用できず、またその物理的な根拠も不明であるため、一般的な解決策ではない。乱流の解析方法の一つであるLESにおいて、SGS応力のモデル式中に含まれるモデル係数もしくはモデル定数の局所的な値を、瞬時の流動状況に応じて自動的に算出することが望ましい。さらに加えて、数値的な不安定現象が生じにくい、数値的に安定な計算方法であることが望ましい。
【0033】
本発明の目的は、乱流の解析方法の一つであるLESにおいて、SGS応力のモデル式中に含まれるモデル係数もしくはモデル定数を、自動的に算出し、数値的に安定な乱流の解析方法,乱流の解析システム並びに乱流解析プログラムを提供することにある。
【0034】
【課題を解決するための手段】
本発明は、該離散化に伴い空間的には解像することができなくなった高波数域の速度の空間変動成分が流体の運動に与える影響であるサブグリッドスケール応力(SGS応力)をモデル化したモデル式を計算する計算手順が前記計算機メモリもしくは記録媒体に保存され、物理量の空間変動の波数成分のうち該離散化に伴い空間的には解像することができなくなった高波数域 ( サブグリッドスケール ) の成分をサブグリッドスケール成分(SGS成分),物理量の空間変動の波数成分のうちSGS成分ではない低波数域(グリッドスケール)の成分をグリッドスケール成分(GS成分)とし、物理量の空間変動の高波数成分を除去する作用をもつ空間フィルタであるテストフィルタを、物理量の空間変動の前記
GS成分に対して作用させ、前記GS成分のうちの高波数域の成分を除去した残りの低波数域(テストスケール)の成分をテストスケール成分(TS成分)とし、物理量の空間変動の波数成分のうち前記TS成分には含まれない高波数域(サブテストスケール)の成分をサブテストスケール成分(STS成分)とする場合、速度ベクトルの前記GS成分を算出し、前記計算メモリもしくは前記記録媒体に記憶する手段と、前記算出された前記速度ベクトルのGS成分のデータに基づき、運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量の近似値と、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量の近似値と、テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量の近似値とを算出する手段と、運動エネルギーの該TS成分の粘性散逸量とテストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量との和が、運動エネルギーの該GS成分の粘性散逸量とグリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量との和に等しくなるという、前記計算メモリもしくは前記記録媒体に保存された局所スケール間平衡仮定関係式の計算手順を呼び出す手段と、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を、SGS応力テンソルと、速度の空間変動のGS成分に対する歪率テンソルとの内積に(−1)を乗じたのち、テストフィルタを作用させて得られる値であるとみなし、このとき該SGS応力テンソルを、その値をまだ定めていないモデル係数を、1つだけ含む前記モデル式で与えるとき、該局所スケール間平衡仮定関係式を、該値をまだ定めていないモデル係数について整理することにより、該SGS応力のモデル式に含まれる該モデル係数を算出するためのモデル係数算出式を導き、該モデル係数算出式を用いて該モデル係数を計算してグリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を計算する手段とを備えたことを特徴とする。
【0035】
【発明の実施の形態】
SGS応力は流れの運動量ベクトルを時間・空間的に変化させる作用をもつ。そのため必然的に、流れの運動エネルギー変化に対しても作用を及ぼすことになる。
【0036】
数8にサブグリッドスケール運動エネルギー(SGS運動エネルギー)の時間変化に関する簡略式を示す。
【0037】
【数8】
Figure 0003882584
【0038】
SGS運動エネルギーは、速度の空間変動のSGS成分がもつ運動エネルギーに相当する。数8の中の保存項は、移流項や拡散項など、SGS運動エネルギーの輸送に関連した項であり、SGS運動エネルギーの生成や消滅には直接的には関係しない項である。SGS運動エネルギーの生成・消滅に関与するのは、運動エネルギーのSGS成分の粘性散逸量と、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量である。数8において、粘性散逸は消滅項として働き、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達は生成項として働く。運動エネルギーのSGS成分の粘性散逸量は数9で与えられ、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量は数10で与えられる。
【0039】
【数9】
Figure 0003882584
【0040】
【数10】
Figure 0003882584
【0041】
また、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量は数11で与えれれる。
【0042】
【数11】
Figure 0003882584
【0043】
数11に示されるように、SGS応力が関与するのは、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量に関してである。
【0044】
数12にグリッドスケール運動エネルギー(GS運動エネルギー)の時間変化に関する簡略式を示す。
【0045】
【数12】
Figure 0003882584
【0046】
GS運動エネルギーは、速度の空間変動のGS成分がもつ運動エネルギーに相当する。数12において、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸は消滅項として働き、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量もまた消滅項として働く。すなわち、GS運動エネルギーの一部が消滅し、その消滅分がSGS運動エネルギーの生成分となる。
【0047】
図1に、上に述べた波数空間での運動エネルギー伝達に関する概念図を示す。図1は波数空間上でのエネルギースペクトルを表しており、運動エネルギーの
GS成分の粘性散逸1、およびSGS成分の粘性散逸2により、運動エネルギーの一部は熱として散逸する。また、運動エネルギーのGS成分の一部は、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達3により、運動エネルギーのSGS成分に移動する。
【0048】
上述した波数空間上での運動エネルギーの伝達特性は、計算の数値安定性および計算精度の観点から極めて重要である。グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を過小評価するということは、GS運動エネルギーの減衰が小さいということで、グリッドスケールの高波数域に運動エネルギーが蓄積されることになる。すなわち、非物理的な高波数の数値振動が生じやすくなる。その反対にエネルギー伝達量を過大評価すると、GS運動エネルギーの減衰が大きくなり、特に高波数域での減衰が大きくなる。そのため微小な流れ構造を解像することができなくなってしまい、解析結果の精度が悪くなる。したがってSGS応力のモデルには、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を適切に模擬することが求められる。
【0049】
従来の技術に記載したSGSモデルのモデル定数の決定法はすべて、リリーの最小自乗法を用いたものであった。ここでリリーの最小自乗法について説明する。
【0050】
まず、物理量の空間変動の高波数成分を除去する空間フィルタであるテストフィルタを導入する。このとき任意の物理量φにテストフィルタを作用させて得られる値を
【0051】
【数44】
Figure 0003882584
【0052】
と表記することにする。また、テストフィルタを物理量のGS成分に作用させ、GS成分のうちの高波数域の成分を除去した、残りの低波数領域をテストスケールとよび、その成分をテストスケール成分(TS成分)とよぶ。また全波数域からテストスケールを除去した残りの高波数領域をサブテストスケールとよび、その成分をサブテストスケール成分(STS成分)とよぶことにする。
【0053】
このとき、空間的な速度変動のSTS成分が運動量に及ぼす影響であるサブテストスケール応力(STS応力)は、数13で与えられる。
【0054】
【数13】
Figure 0003882584
【0055】
SGS応力とSTS応力の間には、数14に示す関係式が成り立つ。
【0056】
【数14】
Figure 0003882584
【0057】
この関係式は恒等式であり、ジャーマノ恒等式と呼ばれる。
【0058】
リリーの最小自乗法では、ジャーマノ恒等式中のSGS応力およびSTS応力に対し、同一のSGSモデルを適用する。また、このときの残差テンソルを数15で定義する。
【0059】
【数15】
Figure 0003882584
【0060】
SGS応力に対するモデル式にC1からCnまでのn個のモデル定数が含まれる場合について考える。リリーの最小自乗法では、数16に示すように、残差テンソル成分の自乗和の、モデル定数に対する偏微分値が、すべてのモデル定数に対して0となるよう、モデル定数C1〜Cnを求める。
【0061】
【数16】
Figure 0003882584
【0062】
この手続きは一般の最小自乗法と同じである。すなわち、リリーの最小自乗法は、ジャーマノ恒等式をなるべく満足するように、モデル式で与えられたSGS応力テンソルの成分値を最適化する方法である。
【0063】
このように、リリーの最小自乗法自体は、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達特性に関しては、直接的には何一つ言及していない。しかし、ジャーマノ恒等式に関する残差テンソルが十分に小さくなるならば、SGS応力テンソルの成分に関する近似精度が十分に高くなることが期待でき、数11の関係を通し、エネルギー伝達量に関しても高い近似精度が得られると期待される。
【0064】
ところで従来の技術では、SGS応力のモデルとしてスマゴリンスキーモデル,ミックスドモデル,ツーパラメータ・ミックスドモデルが適用されている。これらのモデルはすべて、モデル中に渦粘性型のモデルを含んだものである。渦粘性型のモデルを含んだモデルを採用していることには理由がある。ミックスドモデルやツーパラメータ・ミックスドモデルの非渦粘性モデル部はスケール相似則モデルになっている。一般にスケール相似則モデルは、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を過小評価する傾向があり、それ単独での解析では数値的に不安定になりやすい。そのため渦粘性係数を適切に選べば十分なエネルギー伝達量を与えられる渦粘性型のモデルと併用し、数値的に安定化させている。
【0065】
渦粘性型のSGSモデルでは、数2に示すように、SGS応力の非等方成分テンソルが、グリッドスケールの歪率テンソルに比例すると仮定している。しかしこの仮定が成立しない場合も多いことが知られており、それは例えば東京大学出版会 数値流体力学シリーズ 3乱流解析 (1995年) 第83頁などに記載されている。
【0066】
つまり数値的な安定性を求めるためには渦粘性型のモデルが必須であるが、しかし渦粘性型のモデルではSGS応力テンソルの成分については十分には近似できないということになる。このような渦粘性型のモデルを含んだSGSモデルに対し、リリーの最小自乗法を適用する場合、SGS応力テンソルの成分に関して十分に高い近似精度を得ることは難しい。その結果、リリーの最小自乗法自体がエネルギー伝達特性の近似手法でないこともあり、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量に関しても、高い近似精度は期待できない。こうしたことにより従来の技術では、計算が数値的に不安定になりやすかったものと考えられる。
【0067】
以上の考察より、上記の目的を達成するためには波数空間上でのエネルギー伝達特性を十分に反映させる必要があると考えられる。
【0068】
ここで次の仮定を設ける。すなわち、
「テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量は、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量と、サブテストスケールでありかつグリッドスケールである波数領域からのエネルギーの粘性散逸量との和に等しい」
と仮定する。図2を用いてこの仮定を説明する。図2は波数空間上でのエネルギースペクトルの概念図を示している。上記の仮定は、サブテストスケールでありかつグリッドスケールである波数領域7でのエネルギー授受の平衡を仮定するものである。つまりこの領域7に入ってくるエネルギーは、テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量6であり、この領域7から出ていくエネルギーは、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量3′および、運動エネルギーのSTS成分でありかつGS成分である成分の粘性散逸量5であって、こうしたエネルギー流入流出がバランスすると仮定する。この仮定は厳密には正しくないが、領域7の範囲がそれほど広くない場合には、近似的に成立すると考えられる。LESの計算においては、領域7の範囲は、グリッドフィルタとテストフィルタとの二重フィルタの特性幅に対応する波数、およびグリッドフィルタの特性幅に対応する波数の間の範囲となる。これらの波数の比はおよそ2程度の値となるが、乱流場では乱流領域にあたる慣性小領域の範囲が数桁のオーダーに達することもあることを考えると、上記の仮定は決して悪くはない近似だと考えられる。
【0069】
ちなみに運動エネルギーのSTS成分でありかつGS成分である成分の粘性散逸量5は、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量1′と、TS成分の粘性散逸量4との差で与えられる。
【0070】
以降、上記の仮定を「局所スケール間平衡仮定」とよぶことにする。局所スケール間平衡仮定を表す式は、数17で与えられる。
【0071】
【数17】
Figure 0003882584
【0072】
以降、数17を「局所スケール間平衡仮定関係式」とよぶ。ここで運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量は数18で与えられる。
【0073】
【数18】
Figure 0003882584
【0074】
またテストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量は数19で与えられる。
【0075】
【数19】
Figure 0003882584
【0076】
局所スケール間平衡仮定関係式は、波数空間上でのエネルギー伝達特性をモデル化したものであり、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量自体をその式中に含むものである。従って局所スケール間平衡仮定関係式を満たすようにSGS応力モデルのモデル係数を調整してやれば、エネルギー伝達特性を十分に反映した、数値的に安定なSGSモデル定数の自動算出法が構築できると考えられる。
【0077】
本発明の実施の形態では、例えば、運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量の近似値と、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量の近似値と、テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量の近似値とを局所スケール間平衡仮定関係式に代入する。さらにグリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を局所スケール間平衡仮定関係式に代入するに際し、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を、SGS応力テンソルと速度の空間変動のGS成分に対する歪率テンソルとの内積に(−1)を乗じたのち、テストフィルタを作用させて得られる値とみなす。さらにこのときSGS応力テンソルを、その値をまだ定めていないモデル係数を1つだけ含むモデル式で与える。しかるのち、SGS応力テンソルのモデル式中の、値がまだ定められていないモデル係数について局所スケール間平衡仮定関係式を整理することにより、未定であったモデル係数の値を算出するためのモデル係数算出式が求まるから、これを用いてモデル係数を算出する。以上の手続きを含んだLESの解析方法を提供することにより、上記の目的は達成される。
【0078】
また、局所スケール間平衡仮定関係式のグリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量の評価に、その定義式である数11の関係を用いることが望ましい。このときSGS応力テンソルのモデル式には、未定のモデル係数を1つだけ含むものを用いるが、これは局所スケール間平衡仮定関係式がスカラー式であるからで、未知量は1つのみでなければならないからである。
【0079】
また、運動エネルギーのTS成分およびGS成分の粘性散逸量の差を0と近似して与えることも可能であり、対象とする乱流場の波数空間上での乱流領域のレンジが極めて広い場合など、粘性散逸の効果を無視できる場合に演算量を減らせる利点をもつ。
【0080】
また、テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量を、STS応力テンソルと速度の空間変動のTS成分に対する歪率テンソルとの内積に、(−1)を乗じた値で与え、さらにこのとき、STS応力テンソルを、その値がまだ定められていないモデル係数を、1つも含まないモデル式で与えても良い。
【0081】
テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量を、その定義式である数19で与えると、更にその解析精度が高まることが期待される。また、STS応力テンソルのモデルに、未定のモデル係数が1つも含まれていないから、局所スケール間平衡仮定関係式に含まれる未知数はSGS応力のモデル係数1つのみで、容易にモデル係数算出式を導出できる。
【0082】
また、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量を、速度の空間変動のGS成分に対する歪率テンソルの絶対値の2乗と、動粘性係数との積の2倍の値に、さらにテストフィルタを作用させて得られた値、またはそれと等価の値で与える。また、運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量を、速度の空間変動のTS成分に対する歪率テンソルの絶対値の2乗と、動粘性係数との積の2倍の値、もしくはそれと等価の値で与えても良い。運動エネルギーのTS成分,GS成分の粘性散逸量を、その定義式である数10,数18で与えるので、更なる解析精度の向上が望める。
【0083】
テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量,運動エネルギーのTS成分およびGS成分の粘性散逸量に関し、物理的に正しい定義式を用いることにより、高い解析精度が得られるものと期待される。
【0084】
SGS応力を、渦粘性型のモデル式を含んだモデル式で与え、SGS応力テンソルの近似において、スマゴリンスキーモデルやミックスドモデルなど、渦粘性型のモデル部を含むモデル式を適用しても良い。渦粘性型のモデルは、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を近似するモデルとして適しており、計算の安定性向上にも寄与する。よって、解析精度の向上と、計算安定性の向上とが期待できる。
【0085】
(実施例)
以下、本発明の実施例を図3により説明する。図3は、乱流の解析方法に、LESを用いた場合の流れの非定常計算のフローチャートの一例を示すものである。また本例は密度一定の非圧縮性流れの場合を想定したものである。
【0086】
まず初めに解析領域の形状データ,物性値,時間刻みといった、計算条件等の入力をS1において行う。ついでS2において速度,圧力等の初期値を設定する。ついでS3において、解析時刻tをゼロクリアする。ついでS4において、数20に示す運動量保存式の、移流項による速度の加速量を計算し、計算機メモリに保存しておく。
【0087】
【数20】
Figure 0003882584
【0088】
ついでS5において、SGS応力項および粘性項による速度の加速量を計算し、計算機メモリに保存しておく。ついでS6において、圧力項による速度の加速量を計算し、計算機メモリに保存しておく。ついでS7において、計算機メモリ上に保存された移流項,SGS応力項および粘性項,圧力項による速度の加速量を用いて速度場を更新する。ついでS8においてS7で更新された速度場が、質量保存式を満足するか判定する。質量保存を十分には満足していない場合にはS9で速度・圧力の修正計算を行った後、再度S8で質量保存則の満足度をチェックする。S8において速度場が質量保存則を満たすと判断された場合は、S10において計算結果をモニタあるいは磁気ディスク上のファイルなどに出力する。ついでS11において解析時刻tが、解析終了時刻tendを越えたかどうか判定する。解析終了時刻を越えていない場合は、S12において解析時刻を更新し、さらにS4にもどり、S4からS10までの手続きを行ったのち、再度S11の判定を行う。S11で解析時刻が解析終了時刻を越えたと判断されたときは、計算を終了する。
【0089】
本発明は図3のフローチャートでのS5のSGS応力項および粘性項の計算において、SGS応力テンソルを算出するために用いる。
【0090】
ここで本発明に係る第1の実施例につき説明する。
【0091】
まずここで、グリッドフィルタをトップハットフィルタとみなし、さらにグリッドフィルタの特性幅について、その4乗以上に関する項を無視して、数21で近似する。
【0092】
【数21】
Figure 0003882584
【0093】
つぎにテストフィルタを数22で定義する。
【0094】
【数22】
Figure 0003882584
【0095】
このときテストフィルタの特性幅として、グリッドフィルタの特性幅の1乃至2倍程度の値を与えておく。
【0096】
数21および数22を用いて数13で定義されるSTS応力を整理し、グリッドフィルタの特性幅についてその4乗以上に関する項を無視すると、STS応力を近似するモデル式が数23で与えられる。
【0097】
【数23】
Figure 0003882584
【0098】
数23のモデル式は、値が未定であるモデル係数を、1つも含んでいない。
【0099】
数10,数11,数18,数19,数23を局所スケール間平衡仮定関係式である数17に代入すると、数24が得られる。
【0100】
【数24】
Figure 0003882584
【0101】
ついでSGS応力テンソルを数25のモデル式で近似する。数25のSGS応力テンソルを近似するモデル式は、渦粘性モデル部と、非渦粘性モデル部からなる。非渦粘性モデル部は、その値が未定であるモデル係数を含まないものとする。このとき、数25のモデル式に含まれる、値が未定のモデル係数は渦動粘性係数のみである。
【0102】
【数25】
Figure 0003882584
【0103】
数25を数24に代入して整理すると、数26が得られる。
【0104】
【数26】
Figure 0003882584
【0105】
数26は数25の唯一のモデル係数である渦動粘性係数の算出式である。数26の右辺は既知量のみから構成されるので、数26を用いれば、渦動粘性係数を容易に求めることができる。
【0106】
数26より算出した渦動粘性係数をもってSGS応力を近似し、図3のS5においてSGS応力項を計算すれば、流動状況に応じた、瞬時・局所的なモデル係数の最適値をもちいて解析したことになるので、高い解析精度が期待できる。さらに本実施例によれば、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達特性が十分に反映されるため、数値的に安定であることが期待できる。
【0107】
ここで本発明に係る第2の実施例について説明する。ここで数25のSGS応力モデルの非渦粘性モデル部を数27で与える。
【0108】
【数27】
Figure 0003882584
【0109】
すなわちSGS応力を、渦粘性モデルのみで近似する。数25,数27を数24に代入して整理すると、渦動粘性係数の算出式である数28が得られる。
【0110】
【数28】
Figure 0003882584
【0111】
数28より算出した渦動粘性係数をもってSGS応力を近似し、図3のS5においてSGS応力項を計算すれば、第1の実施例で述べた効果に加えて、SGS応力のモデルの、非渦粘性モデル部については計算しなくてすむため、計算時間の短縮と使用メモリ量の節約が可能となる。
【0112】
ここで、本発明に係る第3の実施例について説明する。ここで数25のSGS応力モデルの非渦粘性モデル部を、数29で与える。
【0113】
【数29】
Figure 0003882584
【0114】
すなわち、非渦粘性モデル部を、バーディナモデルで与える。数25,数29を数24に代入して整理すると、渦動粘性係数の算出式である数30が得られる。
【0115】
【数30】
Figure 0003882584
【0116】
数30より算出した渦動粘性係数をもってSGS応力を近似し、図3のS5においてSGS応力項を計算すれば、第1の実施例で述べた効果に加えて、バーディナモデル部がSGS応力テンソル成分について高い近似精度を有することからして、さらに高い精度の解析結果が得られると期待できる。
【0117】
ここで、本発明に係る第4の実施例について説明する。ここで数25のSGS応力モデルの非渦粘性モデル部を、数31で与える。
【0118】
【数31】
Figure 0003882584
【0119】
このとき、数31に含まれるモデル定数の値は、あらかじめ設定しておく。数31のモデル定数の設定については、まずSGS応力を数32に示すモデルで与え、これに対して従来の技術で用いられてきたリリーの最小自乗法を適用し、算出する。
【0120】
【数32】
Figure 0003882584
【0121】
したがって数31を数25に代入して得られるSGS応力のモデル式では、値が未定のモデル係数はやはり、渦動粘性係数のみである。渦動粘性係数の算出式は、数25,数31を数24に代入して整理することにより得られ、数33で表される。
【0122】
【数33】
Figure 0003882584
【0123】
本実施例においても、第3の実施例と同様の効果が期待される。
【0124】
ここで、本発明に係る第5の実施例について説明する。ここで数25のSGS応力モデルの非渦粘性モデル部を、数34で与える。
【0125】
【数34】
Figure 0003882584
【0126】
数34は、SGS応力をテイラー展開を用いて近似したものである。数25,数34を数24に代入して整理することにより、本実施例での唯一のモデル係数である、渦動粘性係数の算出式が数35のように得られる。
【0127】
【数35】
Figure 0003882584
【0128】
本実施例においても、第3の実施例と同様の効果が期待される。
【0129】
ここで本発明に係る第6の実施例について説明する。ここで数25のSGS応力モデルの渦動粘性係数を数4で与える。すなわち数25のSGS応力モデルの渦粘性モデル部を、スマゴリンスキーモデルで与える。このとき、値が未定のモデル係数は、モデル定数Cのみである。数4,数25を数24に代入して整理すると、モデル定数Cの算出式である数36が得られる。
【0130】
【数36】
Figure 0003882584
【0131】
数36より算出したモデル定数CをもってSGS応力を近似し、図3のS5においてSGS応力項を計算すれば、第1の実施例で述べたのと同様の効果が期待できる。また、本実施例において、数25で与えられるSGS応力モデルの非渦粘性モデル部については、第2,第3,第4,第5の実施例で述べたのと同様のものが適用できる。
【0132】
ここで本発明に係る第7の実施例について説明する。ここではまず、グリッドフィルタをトップハットフィルタとみなし、グリッドフィルタの特性幅の4乗に関する項まで考慮して、数37で近似する。
【0133】
【数37】
Figure 0003882584
【0134】
つぎにテストフィルタを数22で与え、2次中心差分法を用いて近似する。このとき、数22の中の2階微分項は、打切り誤差について4次の項まで考慮すると、数38のように表せる。
【0135】
【数38】
Figure 0003882584
【0136】
すなわち、数22を2次中心差分法で離散化すると、グリッドフィルタの特性幅の4乗に関する打ち切り誤差項があらわれるため、テストフィルタとしては、実際には数39のフィルタを用いたことになる。
【0137】
【数39】
Figure 0003882584
【0138】
数37および数39を用いて数13で定義されるSTS応力を整理し、グリッドフィルタの特性幅についてその4乗以下に関する項までを考慮すると、STS応力を近似するモデル式が数40で与えられる。
【0139】
【数40】
Figure 0003882584
【0140】
数40のモデル式は、値が未定であるモデル係数を、1つも含んでいない。
【0141】
SGS応力のモデル式である数25と、STS応力のモデル式である数40を局所スケール間平衡仮定関係式である数17に代入して整理すると、数41が得られる。
【0142】
【数41】
Figure 0003882584
【0143】
数41は数25の唯一のモデル係数である渦動粘性係数の算出式である。数41の右辺は既知量のみから構成されるので、数41を用いれば、渦動粘性係数を容易に求めることができる。
【0144】
数41より算出した渦動粘性係数をもってSGS応力を近似し、図3のS5においてSGS応力項を計算すれば、流動状況に応じた、瞬時・局所的なモデル係数の最適値をもちいて解析したことになるので、高い解析精度が期待できる。さらに本実施例によれば、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達特性が十分に反映されるため、数値的に安定であることが期待できる。さらに本実施例は、第1,第2,第3,第4,第5,第6の実施例がSTS応力をグリッドフィルタの特性幅の2乗に関する項まで考慮したのに対し、さらに加えて4乗に関する項につていも考慮しているため、STS応力に関して近似精度が高い。それにともないテストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量に関する近似精度も高くなるので、第1から第6の実施例に比べてさらに高精度の解析結果が期待できる。
【0145】
次に、各々のデータフローを説明する。図4は、SGS応力テンソルの渦粘性モデル部における、渦動粘性係数を算出する際のデータフローを示すものである。GS成分の速度ベクトルデータ11は、すでに求まっているものとする。12は、GS成分の歪率テンソルの算出部であり、GS成分の速度ベクトル11を用いてGS成分の歪率テンソルを算出する。13では、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量を、12で求めたGS成分の歪率テンソルを用いて算出する。14は、SGS応力テンソルの非渦粘性モデル部の算出部であり、GS成分の速度ベクトル11を用いて、例えば数27,数29,数31,数34等の近似式により算出する。15では、TS成分の速度ベクトルをGS成分の速度ベクトル11を用いて算出する。算出に用いるテストフィルタには、例えば数22,数39等を適用する。16はTS成分の歪率テンソルの算出部であり、15で求めたTS成分の速度ベクトルを用いて算出する。17では、運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量を、16で求めたTS成分の歪率テンソルを用いて算出する。18はSTS応力テンソルの算出部で、11のGS成分の速度ベクトル、15のTS成分の速度ベクトル等を用い、例えば数23,数40等の近似式によってSTS応力テンソルの近似値を算出する。19では渦動粘性係数を算出する。
【0146】
算出に際しては、12のGS成分の歪率テンソル、16のTS成分の歪率テンソル、13の運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量、17の運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量、14のSGS応力の非渦粘性モデル部、18のSTS応力テンソルを用いる。なお、ここで求めた渦動粘性係数は、SGS応力テンソルの近似式である数2あるいは数25を介し、フローチャート図3のステップS5において、SGS応力項の計算で用いられる。
【0147】
また、図5はSGS応力テンソルの渦粘性モデル部における、渦動粘性係数を算出する際のデータフローを示すものであり、TS成分の歪率テンソル算出部16′以外は、図4と同様である。16′はTS成分の歪率テンソルの算出部であり、12のGS成分の歪率テンソルに対し、テストフィルタ操作を行うことにより算出する(図4ではTS成分の速度ベクトル15を用いて算出)。
【0148】
また、図6は、SGS応力テンソルの渦粘性モデル部における、渦動粘性係数に関するモデル定数を算出する際のデータフローを示すものである。基本的には図4のデータフローと同様である。両者の違いは、図4が渦動粘性係数を求めるデータフローであったのに対し、図6が渦粘性モデルとしてスマゴリンスキーモデルを用いる際(数4)の、モデル定数Cを算出するデータフローである点である。20では渦動粘性係数に関するモデル定数を算出する。算出に際しては、12のGS成分の歪率テンソル、16のTS成分の歪率テンソル、13の運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量、17の運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量、14のSGS応力の非渦粘性モデル部、18のSTS応力テンソルを用いる。
【0149】
また、図7は、TS成分の歪率テンソル算出部16′以外は、図6と同様である。
【0150】
以上のように、本実施例では、乱流の解析方法の一つであるLESにおいて、SGS応力のモデル式に含まれるモデル係数の局所的な値を、瞬時の流動状況に応じて自動的に算出するため、モデル係数のチューニングを必要とせずに、高い精度の解析結果が得られるという効果を奏する。
【0151】
ここで、この乱流解析方法によるプログラムを作成し、このプログラム若しくはこのプログラムを記録した記録媒体でコンピュータによって容易に乱流解析を実施できる。
【0152】
またLESのSGS応力のモデル係数を算出するに際し、本実施例では波数空間上でのエネルギー伝達特性のモデル式である、局所スケール間平衡仮定関係式をもちいる。さらに本実施例では特に、グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量の評価に、その定義式である数11の関係を用いる。そのため本実施例によれば、SGS応力のモデル係数の算出に際し、エネルギー伝達特性が十分に考慮されるから、解析が数値的に安定化するという効果が得られる。
【0153】
更に、テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量を、その定義式である数19で与えるので、高い解析精度が得られるという効果がある。
【0154】
更に、運動エネルギーのTS成分,GS成分の粘性散逸量を、その定義式である数10,数18で与えるので、さらに高い解析制度が得られるという効果がある。
【0155】
更に、テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量,運動エネルギーのTS成分およびGS成分の粘性散逸量に関し、物理的に正しい定義式を用いたことにより、高い解析精度が得られる効果がある。
【0156】
更に、SGS応力を、渦粘性型のモデル式を含んだモデル式で与えるものである。渦粘性型のモデルは計算の安定化に寄与するから、本実施例によれば、数値的に極めて安定な乱流解析が可能となるという効果が得られる。
【0157】
【発明の効果】
本発明によると、乱流の解析方法の一つであるLESにおいて、SGS応力のモデル式中に含まれるモデル係数もしくはモデル定数を、自動的に算出し、数値的に安定な乱流の解析方法,乱流の解析システム並びに乱流解析プログラムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】波数空間上での運動エネルギー伝達の概念図。
【図2】局所スケール間平衡仮定の説明図。
【図3】LESをもちいた流れの非定常計算のフローチャート。
【図4】渦動粘性係数の算出に関するデータフロー。
【図5】渦動粘性係数の算出に関するデータフロー。
【図6】渦動粘性係数に関するモデル定数の算出に関するデータフロー。
【図7】渦動粘性係数に関するモデル定数の算出に関するデータフロー。
【符号の説明】
1…運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量、2…運動エネルギーのSGS成分の粘性散逸量、3…グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量、1′…運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量、2′…運動エネルギーのSGS成分の粘性散逸量、3′…グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量、4…運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量、5…運動エネルギーのSTS成分でありかつGS成分である成分の粘性散逸量、6…テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量、7…サブテストスケールでありかつグリッドスケールである波数領域、11…GS成分の速度ベクトルのデータ、12…GS成分の歪率テンソルの算出部、13…運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量の算出部、14…SGS応力テンソルの非渦粘性モデル部の算出部、15…TS成分の速度ベクトルの算出部、16…TS成分の歪率テンソルの算出部、16′…TS成分の歪率テンソルの算出部、17…運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量の算出部、18…STS応力テンソルの算出部、19…渦動粘性係数の算出部、20…渦動粘性係数に関するモデル定数の算出部、S1…計算条件等の入力ステップ、S2…初期値設定ステップ、S3…解析時刻ゼロクリアステップ、S4…移流項の計算ステップ、S5…SGS応力項・粘性項の計算ステップ、S6…圧力項の計算ステップ、S7…速度場の更新ステップ、S8…質量保存則の満足度の判定ステップ、S9…速度・圧力の修正計算ステップ、S10…計算結果の出力ステップ、S11…計算終了の判定ステップ、S12…解析時刻の更新ステップ。

Claims (2)

  1. 解析しようとする流れ場を空間的に有限個の領域若しくは有限個の点に離散化し、流体の運動を非定常計算する乱流解析プログラムであって、
    該離散化に伴い空間的には解像することができなくなった高波数域の速度の空間変動成分が流体の運動に与える影響であるサブグリッドスケール応力(SGS応力)をモデル化したモデル式を計算する計算手順が前記計算機メモリもしくは記録媒体に保存され
    物理量の空間変動の波数成分のうち該離散化に伴い空間的には解像することができなくなった高波数域(サブグリッドスケール)の成分をサブグリッドスケール成分(SGS成分),物理量の空間変動の波数成分のうちSGS成分ではない低波数域(グリッドスケール)の成分をグリッドスケール成分(GS成分)とし、
    物理量の空間変動の高波数成分を除去する作用をもつ空間フィルタであるテストフィルタを、物理量の空間変動の前記GS成分に対して作用させ、前記GS成分のうちの高波数域の成分を除去した残りの低波数域(テストスケール)の成分をテストスケール成分(TS成分)とし、物理量の空間変動の波数成分のうち前記TS成分には含まれない高波数域
    (サブテストスケール)の成分をサブテストスケール成分(STS成分)とする場合、
    速度ベクトルの前記GS成分を算出し、前記計算メモリもしくは前記記録媒体に記憶する手段と、
    前記算出された前記速度ベクトルのGS成分のデータに基づき、運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量の近似値と、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量の近似値と、テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量の近似値とを算出する手段と
    運動エネルギーの該TS成分の粘性散逸量とテストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量との和が、運動エネルギーの該GS成分の粘性散逸量とグリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量との和に等しくなるという、前記計算メモリもしくは前記記録媒体に保存された局所スケール間平衡仮定関係式の計算手順を呼び出す手段と、
    グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を、SGS応力テンソルと、速度の空間変動のGS成分に対する歪率テンソルとの内積に(−1)を乗じたのち、テストフィルタを作用させて得られる値であるとみなし、このとき該SGS応力テンソルを、その値をまだ定めていないモデル係数を、1つだけ含む前記モデル式で与えるとき、該局所スケール間平衡仮定関係式を、該値をまだ定めていないモデル係数について整理することにより、該SGS応力のモデル式に含まれる該モデル係数を算出するためのモデル係数算出式を導き、該モデル係数算出式を用いて該モデル係数を計算してグリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を計算する手段とを備えたことを特徴とする乱流解析プログラム。
  2. 解析しようとする流れ場を空間的に有限個の領域若しくは有限個の点に離散化し、流体の運動を非定常計算する乱流解析プログラムを記録した記録媒体であって、
    前記記録媒体に記録された、該離散化に伴い空間的には解像することができなくなった高波数域の速度の空間変動成分が流体の運動に与える影響であるサブグリッドスケール応力(SGS応力)をモデル化するモデル式の計算手順が計算機メモリに保存され
    物理量の空間変動の波数成分のうち該離散化に伴い空間的には解像することができなくなった高波数域(サブグリッドスケール)の成分をサブグリッドスケール成分(SGS成分),物理量の空間変動の波数成分のうちSGS成分ではない低波数域(グリッドスケール)の成分をグリッドスケール成分(GS成分)とし、
    物理量の空間変動の高波数成分を除去する作用をもつ空間フィルタであるテストフィルタを、物理量の空間変動の前記GS成分に対して作用させ、前記GS成分のうちの高波数域の成分を除去した残りの低波数域(テストスケール)の成分をテストスケール成分(TS成分)とし、物理量の空間変動の波数成分のうち前記TS成分には含まれない高波数域
    (サブテストスケール)の成分をサブテストスケール成分(STS成分)とする場合、
    前記計算メモリから速度ベクトルの前記GS成分算出する手段と、
    前記算出された速度ベクトルのGS成分のデータに基づき、運動エネルギーのTS成分の粘性散逸量の近似値と、運動エネルギーのGS成分の粘性散逸量の近似値と、テストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量の近似値とを算出する手段と
    運動エネルギーの該TS成分の粘性散逸量とテストスケールからサブテストスケールへのエネルギー伝達量との和が、運動エネルギーの該GS成分の粘性散逸量とグリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量との和に等しくなるという、前記計算メモリに保存された局所スケール間平衡仮定関係式の計算手順を呼び出す手段と、
    グリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を、SGS応力テンソルと、速度の空間変動のGS成分に対する歪率テンソルとの内積に(−1)を乗じたのち、テストフィルタを作用させて得られる値であるとみなし、このとき該SGS応力テンソルを、その値をまだ定めていないモデル係数を、1つだけ含む前記モデル式で与えるとき、該局所スケール間平衡仮定関係式を、該値をまだ定めていないモデル係数について整理することにより、該SGS応力のモデル式に含まれる該モデル係数を算出するためのモデル係数算出式を導き、該モデル係数算出式を用いて該モデル係数を計算してグリッドスケールからサブグリッドスケールへのエネルギー伝達量を計算する手段とを備えたことを特徴とする乱流解析プログラムを記録した記録媒体
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