JP3882110B2 - 核融合炉用中性子増倍材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温特性および延性に優れた核融合炉用中性子増倍材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、核融合炉用中性子増倍材としては、金属ベリリウム微小球が標準材料とされてきた。というのは、この金属ベリリウム微小球は、中性子反応断面積が大きく、中性子の数を増やす中性子増倍効果に優れることから、効果的に中性子を増やすことができ、その結果増倍した中性子により燃料であるトリチウムを増殖させることができるため、核融合燃料サイクルの有利な向上が望めるからである。
【0003】
ところが、近年、核融合炉の発電効率を高め、寿命を延長するために、中性子増倍材をより高温( 600〜900 ℃)で、かつより高い中性子照射環境(〜20000 appmHe)で使用する計画が進められている。
しかしながら、上記した金属ベリリウムは、従来の使用環境下では問題はないものの、より高温での使用に際しては種々の問題が取り沙汰されている。
【0004】
すなわち、金属ベリリウムは、従来考えられていた 400℃程度までの使用温度、3000 appmHe 程度までの中性子照射環境では、核融合炉用中性子増倍材として問題はないけれども、使用温度が 600℃以上になると冷却管破断等の事故発生時に高温水蒸気により酸化されて水素を生成し、水素爆発等の危険性が生じ、またスエリングが大きくなって、容器の破損等を生じるおそれがあり、かような高温発電ブランケットの中性子増倍材としては使用できない可能性がある。
【0005】
従って、現在、高温で使用できる中性子増倍材の開発が進められている。
このような高温で使用できる中性子増倍材としては、ベリリウム金属間化合物が注目を浴びている。
例えば、ベリリウム金属間化合物の一つであるBe12Tiは、600 ℃の蒸気と接しても酸化せず、またブランケット構造材であるSUS316LNとの両立性試験においても 600℃ではほとんど反応せず、さらに 800℃における反応層厚さは金属ベリリウムの約1/10であり、化学的に極めて安定であることが判明している。また、中性子照射試験でのスエリング特性についての調査結果からも、Be12Tiは金属ベリリウムに比べてスエリング量が格段に小さいことが解明されている。
このように、ベリリウム金属間化合物は、高温での中性子増倍材として優れた特性を有することが明らかになってきている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ベリリウム金属間化合物は、室温において脆いため、その加工や取り扱いが極めて難しいところに問題を残していた。
すなわち、機械加工中に欠け等の欠陥が発生し易いことから、歩留りや生産性の低下を余儀なくされ、また微小球とした後も割れが発生しないように、その取り扱いに細心の注意を必要としていたのである。
【0007】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、高温での特性に優れるのは言うまでもなく、高い延性をそなえ、その加工や取り扱いが極めて容易な、高温特性および延性に優れた核融合炉用中性子増倍材を提案することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、中性子増倍材として単味のベリリウム金属間化合物を使用するのではなく、ベリリウム金属間化合物と少量の金属を共存させることにより、所期した目的が有利に達成されるとの知見を得た。
すなわち、ベリリウム金属間化合物相と金属相の複合相とすることにより、加工性および取り扱い性の改善に関し、望外の成果が得られたのである。
本発明は、上記の知見に由来するものである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.少なくとも一種のベリリウム金属間化合物相と金属相との複合相からなることを特徴とする核融合炉用中性子増倍材。
【0010】
2.上記ベリリウム金属間化合物相が、Beと、Ti,V,Zr,Nb,Ta,Mo,WまたはYとの化合物であることを特徴とする上記1記載の核融合炉用中性子増倍材。
【0011】
3.上記金属相が、Be,Zr,TiおよびVのうちから選んだいずれかであることを特徴とする上記1または2記載の核融合炉用中性子増倍材。
【0012】
4.上記ベリリウム金属間化合物相の割合が、体積比率で50〜99%であることを特徴とする上記1,2または3記載の核融合炉用中性子増倍材。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に従う中性子増倍材では、ベリリウム金属間化合物相の間に金属相を介在させることにより、この金属相がベリリウム金属間化合物相同士を固着し、その結果、中性子増倍材全体の延性が向上して、加工性や取り扱い性の有利な改善が実現されるのである。
【0014】
ここに、本発明におけるベリリウム金属間化合物相としては、以下に示すような、Beと、Ti,V,Zr,Nb,Ta,Mo,WまたはYとの化合物がとりわけ有利に適合する。
Be12Ti(1550℃),Be17Ti2 (1650℃),Be12V(1700℃),Be13Zr(1800℃),Be17Zr2 (1600℃),Be12Nb(1700℃),Be17Nb2 (1800℃),Be12Ta(1850℃),Be17Ta2 (1970℃),Be12Mo(1700℃),Be12W(1750℃),Be22W(1600℃),Be13Y(1920℃)。但し、( )内は融点。
上記のベリリウム金属間化合物はいずれも、融点が高く、耐酸化性に優れ、優れた耐熱性を示す。
また、かようなベリリウム金属間化合物は、金属ベリリウムに比べると、中性子増倍効果は若干劣るけれども、トリチウムインベントリやブランケット構造材との反応性は小さく、特に耐スエリング性は極めて良好である。
【0015】
また、本発明における金属相としては、Be,Zr,TiおよびVのうちから選んだいずれかが好適である。というのは、これらの金属はいずれも、ベリリウム金属間化合物相の隙間に効果的に位置して、ベリリウム金属間化合物を含む増倍材全体としての延性を有利に高めるからである。
とくに、BeやZrは、中性子増倍機能をも併せ持つので、一層有利に適合する。
【0016】
さらに、かような中性子増倍材におけるベリリウム金属間化合物相の比率は、体積比率で50〜99%程度とすることが有利である。
というのは、配合比率が50 vol%に満たないと、蒸気等との反応性やスエリング性の低下が著しく、一方99 vol%を超えると、金属相による延性改善の効果が低下して加工性や取り扱い性の劣化が避けられないからである。
【0017】
なお、本発明に従う中性子増倍材微小球の大きさは、平均粒径で 0.1〜3.0 mm程度とすることが望ましい。またその真球度は、粒径×0.5 mm以下とすることが好ましい。
また、中性子増倍材中のベリリウム金属間化合物相の大きさは、円相当径で100μm 程度以下とするのが好適である。
さらに、中性子増倍材中のFe濃度は0.4mass%以下程度、また酸化物の混入量は5.0 mass%以下程度とすることが好ましい。
【0018】
次に、本発明に従う中性子増倍材の製造方法について説明する。
本発明では、中性子増倍材の製造方法を特に限定することはないが、従来から公知の回転電極法や粉末冶金法が特に有利に適合する。
・回転電極法
回転電極法によって中性子増倍材微小球を製造するには、まず消耗電極を作製する必要がある。この消耗電極を作製するには、所望の金属間化合物の組成比を満足する量の各化合物構成成分および金属相の比率に相当する量の金属を用意し、これらを溶解し、鋳造したのち、所定の電極形状に機械加工する。
ついで、得られた消耗電極を用い、回転電極法によって、中性子増倍材微小球を製造する。
なお、この際の製造条件は特に限定されることはないが、好適条件について述べると次のとおりである。
・雰囲気ガス圧:500〜12000 Torr
・アーク電流:100〜1000A
・消耗電極の回転速度:4〜1000 m/s
【0019】
・粉末冶金法
この方法によって中性子増倍材微小球を製造するには、所望の組成比になる金属間化合物の粉末と所定の金属相比率になる量の金属粉とを混合し、球形の金型等に装填し、冷間プレス等で球形に圧粉成形したのち、真空雰囲気中で焼結して微小球とする。
【0020】
上記の回転電極法によって得られた中性子増倍材微小球の顕微鏡写真を図1に示す。この中性子増倍材は、ベリリウム金属間化合物相としてBe12Ti(体積比率:95%)を、また金属相としてBeを用いた場合である。
同図に示したとおり、本発明によれば、Be12Ti粒子の周りがαBe相で均一に覆われていることが分かる。
【0021】
【実施例】
表1に示す組成のベリリウム金属間化合物相および金属相からなる中性子増倍材を、回転電極法または粉末冶金法によって製造した。なお、得られた中性子増倍材の粒径は0.7〜1.3 mmである。
かくして得られた各中性子増倍材の中性子増倍効果、耐スエリング性、延性、構造材との反応性、蒸気との反応性、トリチウムインベントリおよび熱伝導率について調べた結果を、表2に示す。
【0022】
なお、各特性は次のようにして評価した。
・中性子増倍効果
中性子増倍効果は、構成元素の持つ中性子反応断面積、中性子吸収断面積および中性子捕獲断面積の値を考慮して、従来の金属ベリリウム微小球を用いた場合の中性子増倍効果を 1.0とし、それとの相対比で評価した。
・耐スエリング性
700℃で、材料中に生成するHe量が4000ppmとなる中性子照射条件において、スエリング量を判断するものとし、スエリングの程度に応じ、小(スエリング量:0.5 vol%以下)、中(スエリング量:0.5 vol%超、3.0 vol%以下)、大(スエリング量:3.0 vol%超)で評価した。なお、スエリング量は体積変化率(ΔV/V×100(%))で求めた。
・延性
室温において、直径が約1mmφの微小球に対し、圧縮速度:0.2 mm/minの条件で圧縮試験を行い、かかる圧縮試験後の形態によって評価した。
【0023】
・構造材との反応性
6NのHe雰囲気中にて、ステンレス鋼を、800〜1000hの反応性試験に供し、その際の構造材との反応の程度に応じ、小(反応層:50μm 以下)、中(反応層:50μm 超、200μm 以下)、大(反応層:200μm 超)で評価した。
・蒸気との反応性
800℃において、水蒸気との反応試験を行い、その際の水蒸気との反応の程度に応じ、小(ほとんど酸化しない)、中(酸化する)、大(酸化により破壊する)で評価した。
・トリチウムインベントリ
スエリングの実験を行った試料について、昇温脱離法により測定したトリチウム量でトリチウムインベントリを評価した。すなわち、トリチウムインベントリの程度に応じ、小(極めて少ない)、中(幾分生じる)、大(かなり生じる)で評価した。
【0024】
【表1】
Figure 0003882110
【0025】
【表2】
Figure 0003882110
【0026】
表2に示したとおり、発明例はいずれも、延性および耐スエリング性に優れ、また適正な中性子増倍効果を有し、さらにトリチウムインベントリが小さく、構造材との反応性および蒸気との反応性も低い。
これに対し、No.1およびNo.8の比較例は、ベリリウム金属間化合物が100vol%であるため、延性に乏しい。
また、No.38 の従来例は、金属ベリリウムが100vol%であるため、中性子増倍効果や延性には優れるものの、スエリングやトリチウムインベントリが大きく、また構造材との反応性および蒸気との反応性も大きい。
【0027】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、高温での特性に優れるのは言うまでもなく、加工性が良好で歩留りや生産性に優れ、さらには取り扱いも極めて容易な、核融合炉用中性子増倍材を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に従う中性子増倍材の顕微鏡写真である。

Claims (4)

  1. 少なくとも一種のベリリウム金属間化合物相と金属相との複合相からなることを特徴とする核融合炉用中性子増倍材。
  2. 上記ベリリウム金属間化合物相が、Beと、Ti,V,Zr,Nb,Ta,Mo,WまたはYとの化合物であることを特徴とする請求項1記載の核融合炉用中性子増倍材。
  3. 上記金属相が、Be,Zr,TiおよびVのうちから選んだいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の核融合炉用中性子増倍材。
  4. 上記ベリリウム金属間化合物相の割合が、体積比率で50〜99%であることを特徴とする請求項1,2または3記載の核融合炉用中性子増倍材。
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