JP3878375B2 - 建物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、傾斜地に切り工を行い造成した造成地に構築する建物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
眺望に優れ、光と風とを存分に享受できるという斜面地の特性を活かせば、丘陵地は優れた住宅地になる可能性を有する。そこで、斜面の多い我が国にあっても傾斜地に建物を構築することが行われており、図3、図4にその一例を示すと、急傾斜地1に中高層の建物2を構築する場合、土地の有効利用を図るために、まず、急傾斜地1の下方部分に切り工を行い、傾斜面を削り、また適宜な盛土をして平坦な造成地3とし、この造成地3に中高層の建物2として、例えば6階建てで斜面側が片側廊下の住棟を構築する。図中1aは切り工を行う前の既存斜面を示す。
【0003】
そして、急傾斜地1の崩壊対策として、斜面崩壊の発生要因を低減し、斜面の安定を図るため、急傾斜地1に地滑りを未然に防ぐための抑制工として法枠工14を設ける。この法枠工14は、法面にコンクリート製の枠14aを格子状に組み、枠14a内に石を詰めて法面を保護し、また、必要に応じてアンカー14bを傾斜面に打ち込んで地山の変形を出来るかぎり抑えようとするものである。
【0004】
さらに、地滑り力に対抗する構造物を設置して斜面安定を図る抑止工として、切り工を行った後の残存する傾斜面の下部にコンクリートを打設したり、コンクリートブロックを積み上げるなどして擁壁15を構築する。
【0005】
このようにして急傾斜地1に建物2を構築するには、傾斜地に切り工を施工し、切り工による斜面崩壊を防止するためにさらに抑制工と抑止工などによる斜面安定対策工を施している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、斜面の多い我が国において、その資源を有効に活用している地域が少ないという状況や、最近問題となっている崖崩れによる災害発生は、急峻な地形と雨量の多い気象条件のもとでは、前記したような抑制工と抑止工などによる斜面安定対策工を施しただけの、すなわち、擁壁工事を主流とする土木面だけからの斜面対策では地盤の安全を十分に図ることが困難であるということを示している。
【0007】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、傾斜地に切り工を施してここに建物を構築する場合に、傾斜面の崩壊に対して自然との共存を図りながら建物の安全性を確保でき、しかも、どのような地形の斜面にも柔軟に対応できる建物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するため、第1に、傾斜地に切り工を行い造成した造成地に構築する建物であって、建物の傾斜面側に、傾斜面崩壊後に予測される安定斜面の高さ位置まで、建物本体と離間させて土圧壁を構築し、建物本体と前記土圧壁とを連結部材で結合したこと、第2に、土圧壁高さは、少なくとも傾斜地崩壊後に予想される安定斜面の高さ位置とすることを要旨とするものである。
【0009】
第3に、連結部材は、土圧壁を支持する水平梁と該水平梁からの土圧力を建物本体に伝達する跳梁とからなること、第4に、建物本体に土圧壁および地震力に抵抗する耐力壁を設けること、第5に、建物本体と土圧壁との間の地下に土圧による滑りや転倒を防止する地下構造物を構築することを要旨とするものである。
【0010】
第6に、水平梁と跳梁は、建物本体と土圧壁との間に構築する外部廊下もしくは空中廊下の一部を構成すること、第7に、耐力壁は建物本体の戸境壁であること、第8に、地下構造物は水槽、倉庫、駐車場などの施設であることを要旨とするものである。
【0011】
請求項1〜5記載の本発明によれば、傾斜面が崩壊したときは、傾斜面崩壊後に予測される安定斜面の高さ位置まで、建物本体と離間させて土圧壁が予め構築してあるから、崩れ落ちる土砂はこの土圧壁にそって堆積され、従来のように傾斜面に抑制工を設けなくても、建物の安全が確保される。そして、土圧壁が受ける土圧は梁、特に、水平梁と跳梁とで建物本体に伝達される。
【0012】
また、建物本体では、この土圧や地震力は、耐力壁と地下構造物で受ける。よって、傾斜面からの土圧は土圧壁と建物本体とが一体となってその総体重量でこれを受け止めて斜面の安定を図る。また、土圧壁は建物本体と一体となっているから、周囲の自然環境に対する圧迫感を軽減できる。
【0013】
さらに、建物本体と土圧壁は離間させて構築されるので、がけの湿気が建物本体の住宅内に伝わらないようにすることができる。
【0014】
請求項6記載の本発明によれば、前記作用に加えて、水平梁と跳梁は、建物本体と土圧壁との間に構築する外部廊下もしくは空中廊下の一部を構成するから、土圧壁からの土圧を建物本体に伝達するための伝達部材を空中廊下の構成部材と兼用でき、これを別途格別に設けずにすむ。また、建物本体と傾斜面との間に外部廊下もしくは空中廊下により空間が形成されるから、安全性が高まる。
【0015】
請求項7記載の本発明によれば、前記作用に加えて、耐力壁を建物本体の戸境壁とすることにより、土圧壁からの土圧を受ける部材を別途格別に設けずにすみ、居住空間が狭くなることがないだけでなく、耐力壁は太い柱と厚い壁で構成されることになるから断熱性や遮音性に優れた住環境を形成でき、居住性が向上すると同時に建物自体の強度も向上する。
【0016】
請求項8記載の本発明によれば、前記作用に加えて、土圧壁と建物本体を支持する地下構造物は水槽、倉庫、駐車場などの施設とすることにより、地下構造物の有効利用が図れる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の建物の実施の形態を示す縦断側面図、図2は同上平面側の説明図で、図3、図4に示した従来例と同一の構成要素には同一の参照符号を付してある。本発明の従来と同様に、急傾斜地1に切り工を行い、傾斜面を削って平坦な造成地3とし、この造成地3に中高層の建物2として、例えば6階建てで斜面側が片側廊下の住棟を構築する。
【0018】
本発明では、切り工により造成した造成地3と傾斜面との境に擁壁として垂直な擁壁としての土圧壁4を構築する。この土圧壁4の高さは、傾斜面が崩壊した場合に、自然に崩れ落ちる土砂が堆積し、予想崩壊土量を受け止めることができて、崩壊によりその後に自然に形成される安定斜面1bとして予測される高さに設定する。
【0019】
また、土圧壁4は図2に示すように崩壊の際の衝撃土圧が端部に逃げるよう平面円弧形に形成したが、これに限定されるものでなく、他の実施形態として土圧を受けとめるように適宜角部を有する折り曲がり型や直線形にも形成することもできる。
【0020】
この土圧壁4は建物2の本体との間で、土圧壁4に接してこれと平行に水平梁5を設け、該水平梁5と建物2の本体とを、水平梁5に直角で適宜間隔で設けた複数本の跳梁6で結合する。これにより、水平梁5と跳梁6とで土圧壁4を補強する。この場合、水平梁5と跳梁6とは土圧壁4と建物2の本体との間に設けられる空中廊下7の構成部材となるとともに、土圧壁4から建物2の本体への土圧の伝達部材となる。
【0021】
水平梁5は外部廊下16を構成することもあり、また、前記空中廊下7はこれを屋根または天井を有さない場合は外部廊下16として形成される。
【0022】
建物2の本体には、戸境壁で形成する耐力壁8を設ける。この耐力壁8は前記水平梁5と跳梁6とからの土圧力や地震力を受けるものとして太い柱と厚い壁とで構成する。
【0023】
また、建物2の本体と土圧壁4とをより強固に支持するための基礎の構造体として、建物2の本体と土圧壁4との間の地下に土圧による滑りや転倒を防止するための地下構造物9を建物2の本体および土圧壁4とを連結するようにしてこれと一体に構築する。この地下構造物9は常時は水槽、倉庫、駐車場などに使用可能なよう構成する。さらに、地下構造物9はこれを地下室として住居の利用に供するものとすることもできる。
【0024】
前記地下構造物9は衝撃土圧が大きく、受動土圧が必要なときにつけるものであり、これを省略することも可能である。
【0025】
さらに、図示は省略するが、傾斜面の安定を図るため、傾斜面に集水装置を張り巡らす。この場合、集水装置は通常は水無し川として枯れ山水の庭園が形成され、降雨量の多い季節には流れとなって、水を潔め、池となるような庭園が形成されるように造園するとよい。
【0026】
以上のようにして、傾斜面からの土圧のほとんどは、常時は土圧壁4で支持している。本発明は傾斜面はいつかは崩壊するという前提にたつものであり、地震や降雨が原因で傾斜面が崩壊した場合、崩れ落ちる土砂を土圧壁4に積極的に誘導し、これにそって堆積させ受け止める。この場合、土圧壁4は、傾斜面崩壊後に予測される安定斜面の高さ位置まで予め構築してあるから、崩壊して土砂が土圧壁4を乗り越えて建物2の側に流れ込むおそれはない。
【0027】
土圧壁4に加わった土圧は、一部は、円弧状の土圧壁4にそって、該土圧壁4の端部の方向に逃げ、各部均等に土圧がかかる。そして、さらに空中廊下7の水平梁5と跳梁6とにより建物2の本体の側に伝達され、耐力壁8で支持される。
【0028】
また、土圧壁4からの土圧は地下構造物9にも伝達され、衝撃土圧からの建物2の本体の水平の滑りや転倒を防止する。
【0029】
このようにして傾斜面の土圧を空中廊下7の水平梁5と跳梁6を介して建物2の本体の側の太い柱と厚い壁を備えた耐力壁8や地下構造物9により、土圧壁4と建物2の本体とが一体となってその総体重量で受け止め、斜面の安定を図る。
【0030】
なお、建物2の本体の高さを変更することでその総重量を変えることができ、面積を大きくすることで応力が増大するから、これにより斜面の勾配や土圧の強度とのバランスをとることが可能であり、どのような地形の斜面にも対応できる。
【0031】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の建物は、傾斜地に切り工を施してここに建物を構築する場合に、土圧壁と建物本体とが一体となって傾斜面の土圧を受け止め、その圧力を建物の総体重量で抑えて斜面の安定を図るようにしたから、住民の生活の一部となり日毎慣れ親しんでいる里山の風景を大きく破壊することなく、傾斜面の崩壊に対して自然との共存を図りながら建物の安全性を確保でき、しかも、どのような地形の斜面にも柔軟に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の建物の実施の形態を示す縦断側面図である。
【図2】本発明の建物の実施の形態を示す平面側の説明図である。
【図3】従来の建物の縦断側面図である。
【図4】従来の建物の平面側の説明図である。
【符号の説明】
1…急傾斜地 1a…既存斜面
1b…安定斜面 2…建物
3…造成地 4…土圧壁
5…水平梁 6…跳梁
7…空中廊下 8…耐力壁
9…地下構造物
14…法枠工 14a…枠
14b…アンカー 15…擁壁
16…外部廊下
Claims (8)
- 傾斜地に切り工を行い造成した造成地に構築する建物であって、建物の傾斜面側に、傾斜面崩壊後に予測される安定斜面の高さ位置まで、建物本体と離間させて土圧壁を構築し、建物本体と前記土圧壁とを連結部材で結合したことを特徴とする建物。
- 土圧壁高さは、少なくとも傾斜地崩壊後に予想される安定斜面の高さ位置とする請求項1記載の建物。
- 連結部材は、土圧壁を支持する水平梁と該水平梁からの土圧力を建物本体に伝達する跳梁とからなる請求項1または請求項2記載の建物。
- 建物本体に土圧壁および地震力に抵抗する耐力壁を設ける請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の建物。
- 建物本体と土圧壁との間の地下に土圧による滑りや転倒を防止する地下構造物を構築する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の建物。
- 水平梁と跳梁は、建物本体と土圧壁との間に構築する外部廊下もしくは空中廊下の一部を構成する請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の建物。
- 耐力壁は建物本体の戸境壁である請求項5または請求項6のいずれかに記載の建物。
- 地下構造物は水槽、倉庫、駐車場などの施設である請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の建物。
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