JP3877948B2 - モデル構築方法およびモデル構築システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多変数統計手法によるプロセスモデルの構築方法及び構築システムに関し、特に時間と共にプロセス特性が変化する、いわゆる時変プロセスに適応できるモデルを構築する方法および構築システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化学プロセスなどで、例えばソフトセンサー等によるプロセス監視、プロセス制御などを行うためには、対象とする化学プロセスのモデルを構築することが必要である。そして、このようなモデルとして、通常、ニューラルネットワーク・モデル、多変数統計モデルなどの経験モデルが使用されている。
多変数統計モデルの構築に当たっては、統計的手法によるプロセスのモデル同定を行う際の変数間の共線性の問題を回避するためには、PLS(Partial Least Squares )方式が有効であって、入力変数の共線性の問題を解決する一般的な手法として使用されている。
【0003】
ところで、上述したこれらのプロセス・モデルでは、時間の経過と共に進行する、反応器の触媒の劣化、熱交換器や加熱炉のファウリング、加熱炉や反応器の触媒のコーキングなどにより、プロセス特性が時間と共に変化する化学プロセスに対しては、プロセス特性が変化する度にモデルの作り直しが必要であった。
例えば、PLS方式を使って構築したモデルは、プロセス特性が変化すると、モデルの性能が低下するので、新たなデータを付け加えてモデルを再度、構築し直すことが必要であった。
【0004】
そこで、プロセス特性が時間と共に変化するこれらプロセス(以下、簡単に時変プロセスと言う)にオンラインでモデルを適用するために、時変プロセスのプロセス特性を反映したオンラインモデル適応スキームが必要である。
そのために、適応的にモデルを更新する手法として再帰PLS(RPLS)アルゴリズムがHellandらによって導入され、更に、Qinがこの方法を改良し、忘却ファクターを導入することによって適応的にオンラインモデルを同定することが出来るとしている(S. J. Qin(1998), Recursive PLS algorithms for adaptive data modeling, Computers Chemical Engineering Vol.22, No.4/5, pp.503-514 )。
【0005】
ここで、図7を参照して、RPLSアルゴリズムを簡単に説明する。図7はデータブロック図であって、横軸に時間を取り、縦軸に時間と共に変化する入力変数及び出力変数を取っていて、xiは入力変数、yiは出力変数である。
図7では、入力変数は入力変数1から入力変数20の20個、出力変数は出力変数1の1個であって、各変数に対する時系列サンプルデータをウィンドウで区切っている。図7では、各ウィンドウは、131サンプルずつの4個のブロックのウィンドウとなっている。
再帰PLSモデル構築方式ではない通常のPLSモデル構築方式では、第1のウィンドウのデータブロックでモデルを構築した後、第2のウィンドウのデータブロックになった時点で、プロセス特性が変化してモデルの再同定が必要になると、第1のウィンドウのデータブロックと第2のウィンドウのデータブロックのデータを合わせた全てのデータを用いて、モデルを同定し直すことが必要になる。
【0006】
一方、再帰PLSモデル構築方式では、プロセス特性が変化したためにモデルの再同定が必要になった場合、先ず、第2のウィンドウのデータブロックのデータだけから第2のウィンドウのデータブロックのモデルを作成し、次いで、第1のウィンドウのデータブロックに基づくモデルと第2のウィンドウのデータブロックに基づくモデルを統合することにより、第1及び第2のウィンドウのデータブロック全体のモデルを得る手法である。
再帰PLSモデル構築方式の利点は、計算機の計算負荷が軽くなることもあるが、なんと言っても大きな利点は、モデル結合の際、以前のモデルに重み(忘却ファクターと呼ぶ)を乗じることにより、オンライン適応モデルの同定が可能になることである。
【0007】
すなわち、再帰PLSモデルは、時系列データセットを一定時間の間隔毎のウィンドウで区切り、各ウィンドウのデータセット毎にPLSサブモデルを構築し、サブモデルを結合することによってPLSモデルを得るものである。尚、時系列データセットとは経過時間に対応したデータセットを言う。
これにより、再帰PLSモデル構築方式は、PLSモデル構築に必要な計算を簡略化するとともに、各サブモデルに対し忘却ファクターを乗じて全体モデルを構築することにより、時間と共にプロセス特性が変化する対象プロセス、即ち時変プロセスに対し適応性を持ったモデルを同定することができる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述したQinの手法には、以下に説明するような問題がある。
第1の問題は、各ウィンドウのデータブロック(時系列データセット)の構成に制約があることである。すなわち、各データブロックの平均値及び標準偏差が等しくなくてはならないということである。
第2の問題は、各ウィンドウのデータブロックのデータ正規化のためのスケーリングを同じにしなければならないということである。
第3の問題は、各データブロックの平均値がゼロのデータセットは取り扱えないことであって、Qinは、その場合、全ての要素が1/(n−1)1/2 に等しい列を、Xブロックに付加するという特殊な手続きを提案している。
第4の問題は、モデルの適応化のための忘却ファクターを決定する方法が言及されていないために、指数関数的に古いデータセットを割り引くことが一般的な方法とされていることである。
【0009】
本発明の目的は、上記のような制約を取り除いた一般化した再帰PLSモデルを構築する方法及びモデル構築システムを提供することである。
そして、忘却ファクターを適応的に決定する手法を提供して、再帰PLSモデルの適用範囲を広げるとともに、再帰PLSモデルの適応性能を向上させることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係るモデル構築方法(以下、第1の発明方法と言う)は、時系列データセットからなるプロセスデータをウィンドウで区切り、各ウィンドウ毎のデータセットに基づいて作成したサブモデルを結合することによって統計的にモデル同定を行う、いわゆる再帰PLS(Partial Least Square)方式によってプロセス・プラントのモデルを構築する方法であって、
一のデータセット及びその前のデータセットの入力データセット及び出力データセットのそれぞれについて、自動スケーリング演算を行い、次いでモデル作成演算を行うステップと、
一のデータセット及びその前のデータセットのスケーリング情報を結合して結合データセットのスケーリング情報を得るステップと、
それぞれのデータセットの平均値および標準偏差から得られる結合データセットに基づいてPLSモデルを作成するステップと
を有することを特徴としている。
従来の方法は、それぞれのデータセットの各変数の平均値と標準偏差が等しくなければならないという制約があったが、本発明は、この制約を取り払い、それぞれのデータセットの平均値および標準偏差から結合モデルを得るための一般的な式を確立している。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る別のモデル構築方法(以下、2の発明方法という)は、時系列データセットからなるプロセスデータをウィンドウで区切り、各ウィンドウ毎のデータセットに基づいて作成したサブモデルを結合することによって統計的にモデル同定を行う、いわゆる再帰PLS(Partial Least Square)方式によってプロセス・プラントのモデルを構築する方法であって、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLSファクターのそれぞれの最大数をベースとした記録目的のPLSサブモデルを作成する第1PLSモデル演算処理ステップと、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLSファクターのそれぞれの最適値をベースとした予測目的のPLSサブモデルを作成する第2PLSモデル演算処理ステップと、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLS回帰係数を演算するPLS回帰係数演算処理ステップと、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットに基づいて忘却ファクタを演算する忘却ファクター演算処理ステップと、
忘却ファクターを用いないで第1の結合モデルを得る演算処理ステップと、
忘却ファクターを用いて第2の結合モデルを得る演算処理ステップと、
第1及び第2の結合モデルを評価する評価ステップとを備え、
前記忘却ファクター演算処理ステップでは、一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットの同定モデルの回帰係数ベクトルをそれぞれSRC1及びSRC2とし、SRC1とSRC2との間の角度の余弦を(<SRC1,SRC2>)とすると、次式:
(<SRC1,SRC2>+1)/2
に基づいて、定量的に忘却ファクターを計算することを特徴とする。
【0012】
第1の発明方法を実施する本発明に係るシステムは、時系列データセットからなるプロセスデータをウィンドウで区切り、各ウィンドウ毎のデータセットに基づいて作成したサブモデルを結合することによって統計的にモデル同定を行う、いわゆる再帰PLS(Partial Least Square)方式によってプロセス・プラントのモデルを構築するモデル構築システムであって、
一のデータセットの入力データセット及び出力データセットのそれぞれについて、自動スケーリング演算する自動スケーリング演算処理部、モデル作成演算処理するモデル作成演算処理部、及び得たスケーリング情報を格納するスケーリング格納部と、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのスケーリング情報を結合して結合データセットのスケーリング情報を生成するスケーリング演算処理部と、
結合データセットのPLSモデルを作成するPLS演算処理部と
を有することを特徴としている。
【0013】
第2の本発明方法を実施する本発明に係るシステムは、時系列データセットからなるプロセスデータをウィンドウで区切り、各ウィンドウ毎のデータセットに基づいて作成したサブモデルを結合することによって統計的にモデル同定を行う、いわゆる再帰PLS(Partial Least Square)方式によってプロセス・プラントのモデルを構築するモデル構築システムであって、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLSファクターのそれぞれの最大数をベースとした記録目的のPLSサブモデルを作成する第1PLSモデル演算処理部と、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLSファクターのそれぞれの最適値をベースとした予測目的のPLSサブモデルを作成する第2PLSモデル演算処理部と、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLS回帰係数をそれぞれ演算するPLS回帰係数演算処理部と、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットに基づいて忘却ファクタをそれぞれ演算する忘却ファクター演算処理部と、
忘却ファクターを用いないで第1の結合モデルを得る演算処理部と、
忘却ファクターを用いて第2の結合モデルを得る演算処理部と、
第1及び第2の結合モデルのを評価する評価処理部とを備え、
前記忘却ファクター演算処理処理部は、一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットの同定モデルの回帰係数ベクトルをそれぞれSRC1及びSRC2とし、SRC1とSRC2との間の角度の余弦を(<SRC1,SRC2>)とすると、次式:
(<SRC1,SRC2>+1)/2
に基づいて、定量的に忘却ファクターを計算することを特徴とする。
【0014】
本発明者は、第2の発明方法で、各データセットの同定モデルの回帰係数ベクトル間の角度COSを用いて、定量的に忘却ファクターを計算する手法を提案している。
本手法によれば、プロセス特性の変化が大きな場合には小さな忘却ファクターを採用し、プロセス特性の変化が小さい場合には大きな忘却ファクターを採用することにより、モデル適応の性能を向上させることができる。
具体的には、最適次元数のモデルの回帰係数ベクトルをそれぞれSRC1、SRC2とすると、SRC1とSRC2の間の角度の余弦(Cosine、以下、COSと言う)を計算する。この値を〈SRC1,SRC2〉と定義すると、〈SRC1,SRC2〉は、−1から+1の間の値となる。そして、〈SRC1,SRC2〉を0から1の値に変換するどのような関数も忘却ファクターを決定する計算式として採用できる。
本発明では、有効な計算式例として、(〈SRC1,SRC2〉+1)/2
を示している。
【0015】
また、プロセス特性の変化の態様には、以下のような色々なケースが考えられる。
(1)入力構造及びX−Y関係が共に変化しない。
(2)X−Y関係は変化しないが、入力構造が変化する。
(3)入力構造が変化しないが、X−Y関係が変化する。
(4)入力構造及びX−Y関係の両方が変化する。
【0016】
プロセス特性の変化がどのような原因で起きたのか知ることがモデルの構築に重要である。しかし、データセット間の角度の測定だけでは、入力構造の変化か、X−Y関係の変化かは判断できないので、本発明者は、プロセス特性変化を引き起こす原因を診断し推定する方法を以下に説明するように考案した。
即ち、忘却ファクターを乗じないモデルをチェック用に準備しておき、これらのモデルから得られたチェック用の結合モデルの性能を評価することにより判断できる。
忘却ファクターの値が小さく、かつチェック用結合モデルの性能が良い場合は、入力構造のみに変化があり、X−Y関係には殆ど変化がないと推測できる。逆に、忘却ファクターの値が小さく、かつチェック用の結合モデルの性能が悪かった場合は、X−Y関係にも変化があったと推測する。
【0017】
本発明に係るモデル構築システムは、既知の構成のコンピュータと記憶装置とを利用して容易に構成することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、添付図面を参照して、実施形態例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
本発明で使用する各記号の意味を表1に示す。
表1
B 対角行列
CPLS PLS回帰係数行列
Er データセットXに対する残差行列
Fr データセットYに対する残差行列
P データセットXに対するローディング行列
Q データセットYに対するローディング行列
r 入力行列のランク
T データセットXに対するスコア行列
ti データセットXに対するスコアベクトル
X 入力データ行列
Y 出力データ行列
λ 忘却ファクター
(・)T 行列またはベクトルの転置
(・)-1 行列またはベクトルの転置
【0019】
XとYを、平均値が中心で適当にスケーリングされたデータセットとする。
‘n’個のサンプル、‘m’個の入力変数、および‘p’個の出力変数を持っているケースを考える。
PLSファクターの最高数(Xのランク‘r’と同じ)がモデルに保持されているとき、以下のように書ける。
X=TPT +Er =TPT
尚、残差Er は非常に小さく、無視できる。
また、
Y=TBQT +Fr
残差Fr は、スコアベクトルt1 からtr まで直交していることが表示される。
【0020】
上記の関係を用いて、PLS手法によって、以下のように書ける。
【数1】
【0021】
これは、すべての実際的な目的のために、XブロックをPT に取り替えることができ、かつ、PLSファクターの最大数がモデルに保持されたという条件で、YブロックをBQT に取り替えることができることを意味する。このことは、データ圧縮のために重要なことである。
【0022】
試料を分析する際にサンプルより多くの変数を持っている分光分析器のデータとは対照的に、プロセスデータは、通常、変数の数よりはるかに多くのサンプル数を持っている。また、共線性のために、PLSファクター‘r’の数は、入力変数‘m’の数よりもはるかに小さくなると考えられる。
このことは、Xブロックにとって、nxmデータマトリックスを同等なrxmマトリックスに圧縮し、また、通常、n>>m>>rであるから、yブロックにとってはnxpデータマトリックスがrxpマトリックスに圧縮される。
その結果、[X,Y]ペアーか[PT ,BQT ]ペアーを扱うかは、それほど重要ではなくなる。
【0023】
PLS回帰係数マトリックスは、以下のように与えられる。
【数2】
【0024】
例えば、[X1 ,Y1 ]が1000サンプルで10個のX変数、1個のY変数を持ったデータセットで、2番目のデータセット[X2 ,Y2 ]も同じサイズであるとする。従来のPLSの手順によれば、先ず、最初に[X1 ,Y1 ]に対して1000サンプルで1番面のPLSモデルを作成し、次いで[X2 ,Y2 ]に対して2000サンプルで2番目のPLSモデルを作成しなければならない。
【数3】
【0025】
本発明で提案する方法では、1000個のサンプルでそれぞれ2個のPLSモデルを作って、次におよそ20の「サンプル」で、結合したPLSモデルを作ることである。
2つのデータセットでさえ、計算時間の削減は明らかであり、より多くて大きいデータセットでは、非常に大きな計算コストの削減が可能である。
【0026】
ここまでの所は、平均が中心で自動スケーリングしたデータセットを考えてきた。スケーリングしていない生のデータセットについては、以下の通りの方法を提案する。
2つのデータセット[X1 ,Y1 ]と[X2 ,Y2 ]があり、それぞれのPLSモデルを構築すると仮定する。通常は、データセットの自動スケーリングを個別に行い、それからPLS評価を実施する。
【数4】
である。
【0027】
期間を区切ってモデルを構築する大きな理由は、プロセス特性が時間と共に変化するのに対し、モデルをそれらの変化挙動に追従させたいからであって、この状況に対応する自然な方法は、システムの現在の状況を表していない古い測定値への重みを小さくすることである。
【0028】
指数関数的に古い測定値を割り引くことが、従来の一般的な方法である。この場合、古い測定値につけられる重みは、忘却ファクターと呼ばれ、記号λで示される。
以下に説明するように、λは、0≦λ≦1であって、追従性能とノイズ選択率の最適なトレードオフとして選択される。小さなλの値は、モデルのアップデートを激しいものとするが、回帰係数がデータのノイズを拾いやすくなる。逆に、大きなλの値は回帰係数を安定させるが、モデルのアップデート手順の機敏性を減少させる。
プロセス特性の変化が遅く段階的である場合は、λを一定値にすることも考えられるが、プロセス特性が、急激に変化しやすい時は、忘却変数λをオンラインで適応させることが望まれる。
プロセス特性の突然の変化が検知された時の標準的な仕組みは、λを小さな値に減少させることである。これはモデリング過程から過去の値を取り去る効果がある。その後で、λを1に近い値に増加させる。
【0029】
次に、プロセスの特性の変化をどのようにして検知するかを説明する。
1番目のデータセット[X1 ,Y1 ]からのPLSモデルを算定したと仮定する。RPLSでは、次の2つの手法を採用することができる。
(i)PLSファクターの最大数をベースにした記録目的のモデル、
(ii)クロスバリデーション手順で選択されたPLSの最適値ナンバーをベースとした予測目的のモデル
である。
【0030】
本発明の目的を達成するには、予測モデルが最も重要であるから、特に、最適次元数を与えるPLSによる回帰係数に注目して、これをSRC1 で示すものとする。この回帰係数は、スケーリングされたXとYブロックに関するものである。
データ[X2 ,Y2 ]が来たとき、それが平均中心で、スケーリングされていれば、PLSモデルが構築される。これにより、再び、2つのモデル、つまり、1つは記録用モデル、もう1つは予測用モデルが決定される。このデータセットに対する最適な次元数による回帰係数は、SRC2 として決定される。
SRC1 とSRC2 間の角度のCOSは、2つのサブモデルの間の位置合わせを示している。もし、COSが小さく、2つのベクトルが互いに近い位置にあれば、プロセス特性に急激な変化がないことを示し、忘却ファクターは大きな値を取ることが出来る。逆に、COSが大きく、位置があっていなければ、プロセス特性が変化したことを示し、サブモデルを結合するのに小さな忘却ファクターを採用することができる。
【0031】
COSは、−1から+1の間の値をとるので、これを0から1のλの値に写像する。写像できるものであれば、どのような数学関数でも採用できる。例えば、次の関数λが有効な例である。
λ=(〈SRC1,SRC2〉+1)/2
ここで、記号〈SRC1 ,SRC2 〉はSRC1 とSRC2 間の角度のCOSを示す。Xブロックの全ての変数が出力変数を予測するのに重要ではないかも知れない。よって、SRC1 とSRC2 間の角度を計算する際、Xのキー変数だけを使用することが出来る。例えば、VIPのような測定値がこの目的で提供される。
忘却ファクターのこの値で、Xブロックとして、
【数5】
Yブロックとして、
【数6】
を使用して、2つのサブモデルが結合PLSモデルを得るために結合される。
【0032】
その際、PLSファクターの最大数が、それぞれのサブモデルで維持されることを注意することが必要である。予測目的では、最適なファクター数のモデルが、クロスバリデーションから導き出される。スケーリング情報も忘却ファクターの値を考慮することによりアップデートされる。
【0033】
プロセス特性の変化に関して2つのモデルを考慮しなければならない。1つは入力空間を記述するものであり、もう1つはXからYへの関係である。
プロセス特性の変化に関し、以下のようなパターンが考えられる。
(1)入力構造とX−Y関係に変化なし。
(2)入力構造のみ変化。
(3)X−Y関係のみ変化。
(4)入力構造とX−Y関係両方変化
【0034】
モデルアップデートメカニズムは、上述したプロセス特性の変化の4個のパターンの全ての可能性を取り扱うことができることが必要である。スケーリングされたXとYブロック間の回帰係数は、入力空間の相関構成やX−Y関係における混乱により変わりうる。SRC1 とSRC2 間の角度の測定だけでは、2つの原因を区別できない。
そこで、診断を助けるために、PLSサブモデルが得られたら、直ぐにデータを捨て去らずに、すなわち、λ=1として2つのPLSサブモデルを結合し、Yブロックで説明される変数に示される、得られたモデルの性能を調べる。
もし、このモデルの性能がサブモデルの性能に匹敵するものであれば、X−Y関係に大きな変化がなかったことを示している。そしてSRC1 とSRC2 の不整合は、2つのデータセットの入力空間相関に変化があったことを示す。λ=1とした2つのPLSサブモデルの結合モデルの性能が悪ければ、X−Y関係に変化があったことを示す。これは、より重大な問題で、もっと小さなλの値を採用すべきである。
【0035】
図1を参照して、2つのPLSサブモデルを結合する手順を要約する。
ステップS1 で、対象プロセスのデータを格納しているデータ格納部から一つの前のウィンドウ及び現在のウィンドウの入力データセット及び出力データセットを読み出す。
ステップS2 で、記憶装置に記憶されているスケーリング情報に基づき、それぞれについて、スケーリング演算し、同時に記憶されているスケーリング情報を更新する。
ステップS3 で、それぞれの最大ファクタモデルの演算を行い、得た最大ファクタモデルを記憶装置に記憶させる。
ステップS4 で、それぞれの最適ファクタモデルの演算を行い、得た最適ファクタモデルを記憶装置に記憶させる。
ステップS5 で忘却ファクタを演算する。ステップS6 で演算して得た忘却ファクタを用いて2個のPLSサブモデルを結合する。更にステップS7 で予測出力を表示する。
一方、ステップS5 で忘却ファクタ=1を用いて2個のPLSサブモデルを結合し、ステップS6 でプロセス特性の変化の原因診断を行う。
【0036】
更に、添付図面を参照して、実施例を挙げて本発明の実施の形態をより詳細に説明する。
実施例1
本実施例は、第1の発明方法を化学プラントの実際の蒸留装置に適用した事例である。図8は本発明を適用した実施例1の対象プロセスである蒸留装置の構成を示すフローシートである。
実施例1は、第1の発明方法によるRPLSアルゴリズムを用いて、ソフトセンサーによる蒸留装置の塔頂留出組成モデルを構築した事例を示す。本実施例のプロセス装置10は、2種類の原料油からケトンとアルコールを分離する蒸留装置であって、第1原料管12及び第2原料管14からそれぞれ供給され、原料管16に合流した原料油を蒸留して、塔頂からアルコール蒸気を、塔底からケトンを流出させる蒸留塔18と、アルコール蒸気を凝縮させる凝縮器20と、塔底に設けられたリボイラー22とを備えている。
凝縮器20で凝縮されたアルコールは、一部が還流管22を通って蒸留塔18に還流され、残部が製品としてアルコール製品管24を通って外部に送出される。蒸留塔18の塔底から流出したケトンは、ケトン製品管26を通って外部に送出される。リボイラー22には、スチームが熱源としてスチーム管28を通って供給される。
【0037】
第1原料管12、第2原料管14、アルコール製品管24、ケトン製品管26、及びスチーム管28には、それぞれ、流量計30、32、34、36及び38、並びに流量調節弁40、42、44、46、及び48が設けてある。また、還流管22には、流量計50が設けてある。
蒸留塔18の塔頂部、上下の塔中間部、及び塔底部に、それぞれ、温度計52、54、56、及び58が設けてある。また、リボイラー22の出口、凝縮器20のガス側、及び凝縮器20の液出口には、温度計60、62、及び64が設けてある。
更に、蒸留塔18には、塔頂圧力を測定する圧力計66及び塔底の液面を検出する液面計68が設けてある。
【0038】
蒸留装置のモデル作成の目的は、塔頂から留出するアルコール中の不純物成分組成を出力変数y1 とし、入力変数であるプロセス変数x1 〜x20から出力変数y1 を推定するソフトセンサーモデルを構築することである。出力変数y1 及び各入力変数x1 〜x20は、以下の通りである。
y1 :塔頂から留出するアルコールの留出組成
x1 〜x4 :塔内温度(温度計52、54、56、及び58)
x5 :リボイラー出口温度(温度計60)
x6 :留出コンデンサー気相側出口温度(温度計62)
x7 :留出コンデンサーコンデンス液温度(温度計64)
x8 :フィード1流量(流量計30)
x9 :フィード1バルブ開度(流量調節弁40)
x10:フィード2流量(流量計32)
x11:フィード2バルブ開度(流量調節弁42)
x12:環流量(流量計50)
x13:留出量(流量計34)
x14:留出バルブ開度(流量調節弁44)
x15:缶出量(流量計36)
x16:缶出バルブ開度(流量調節弁46)
x17:リボイラー蒸気流量(流量計38)
x18:リボイラーバルブ開度(流量調節弁48)
x19:塔頂圧力(圧力計66)
x20:塔液面(液面計68)
【0039】
蒸留装置10のプロセスデータとして、20のX変数と1つのY変数を含む524個のデータが与えられ、変数の情報だけが利用可能な時、本実施例の目的は、XブロックとYブロック間のデータを関係付けるモデルを構築することである。
モデル構築のために、データを131サンプルの4ブロックに分割し、初めの3ブロックのデータを使用して、本発明方法をモデル構築に適用する。
【0040】
1)計算機負荷の比較
ここでは、標準のPLSアルゴリズムに対する再帰PLS方式の計算時間削減に焦点を当てるために、2つのデータブロックだけを考える。
標準のPLSアルゴリズム方式では、PLSモデルは131個のサンプルからなる最初のデータブロックに対して構築され、次いで、もう一つのPLSモデルが262個のサンプルを有する2つのデータブロックの両方に対して構築される。
再帰PLS方式では、先ず、初のデータブロックに対しPLSモデルが構築する。2番目のデータブロックが来た時、PLSモデルを分けて構築し、それから2つのPLSサブモデルを結合し、全体のモデルを得る。どちらのケースでも20次元のPLSモデルが構築され、正しい比較を実施することが出来る。
浮動小数点演算の累積数について、再帰PLS方式は必要な浮動小数点演算数を20%削減した。従ってブロックワイズRPLSアルゴリズムの使用は有利である。
【0041】
2)モデル係数と予測性能の比較
この問題を検討するため、初の3個のデータブロックを使ってモデルを構築し、4番目のデータブロックをクロスバリデーションに使用した。
先ず、2つの方法で、1つはブロックワイズなRPLSアルゴリズム、もう一つは3個のデータブロック全てを考慮した標準のPLSアルゴリズムによる方法でモデルを構築する。
【0042】
RPLSアルゴリズムでは3個のサブモデル全てに対して20次元が維持されたのに対し、集合モデルでは5次元だけが維持される。これは、他の次元は予測値にほとんど影響がないからである。
標準PLSアルゴリズムでは5次元だけが重要である。図2はこれら2つの方法によって得られたモデル係数(回帰係数)を示す。尚、21番目の係数はモデルの切片項を表している。
標準PLSアルゴリズムの係数は、連続線で示され、RPLSアルゴリズムの係数は菱形と破線で示されている。2つのケースで係数はほとんど同じであることが分かる。
【0043】
2個のモデルによる予測を図3に示す。2個のモデルともプロセスのトレンドをとらえることが出来ており、2個のモデルによる予測は、実際上、一致している。実線は、実際の留出油の組成を示す。
以上のことから、RPLS手法は、標準のPLS手法によるモデルと同等の性能を有していることがわかる。
【0044】
実施例2
実施例2は、数式で表現したモデルを仮定し、シミュレーションした事例を示したものであって、プロセス特性が入力構造、X−Y関係ともに変化が小さい事例に第2の発明方法を適用した例を示す。10個のX変数のデータセットで、以下のモデルから生成された2つのデータセットを考える。10個のX変数のうち、いくつかはYの予測に無関係な変数である。
モデル1
: Y=−3x1−3x2+0.1x5+0.5x6+5x8+x10 +3+noise
モデル2
: Y=−3x1−3x2+0.1x5+0.5x6+5x8+x10 −3+noise
2つのモデルの違いは、切片項である。Xブロックの変数のx5とx8とは、以下の通りである。
x5=−0.7x2
x8=0.3x1+5
ノイズが付加されているので、完全な相関は存在しない。モデル1及び2のそれぞれに、300サンプルが与えられているとする。
【0045】
最初のデータセットに対する10ファクターのPLSモデルが、Yの約88.24%をモデル表現しており、うち最初の2次元で87.71%以上を説明していたとすると、最適なPLSの次数は2である。
2番目のデータセットに対する10ファクターのPLSモデルが、Yの86.45%をモデル表現しており、最初の2次元で86.2%をとらえていたとすると、最適な次数はやはり2である。
VIP値が0.8以上ということによって決定される最初のデータの重要変数は[X1 ,X2 ,X5 ,X8andX10]であり、一方、2番目のデータセットの重要変数は[X1 ,X2 ,X5andX8 ]である。
よって、スケーリングされた回帰係数X1 、X2 、X5 、X8 とX10は、忘却ファクターを評価するために考慮される。この例では、λは0.9966である。このような大きなλの値では、Xブロックの相関構造もX−Y関係も2つのデータブロックで異なってなく完全に互換である。このケースでは、結合モデルの性能をチェックする必要はない。
【0046】
実施例3
実施例3は、数式で表現したモデルを仮定し、シミュレーションした事例を示したものであって、プロセス特性が入力構造のみ変化する事例に第2の発明方法を適用した例を示す。
以下のモデルから生成される2つのデータセットを考える。
モデル
: Y=−3x1−3x2+0.1x5+0.5x6+5x8+x10 −3+noise
2つのデータセットから生成された1つのモデルが得られたとする。データセット間の違いが、Xブロック内の相関構造が異なるという事実により引き起こされる。最初のデータセットにおいて、変数X1 とX8 とは相関があり、X2 とX5 とも同様に相関がある。2番目のデータセットにおいては、X2 とX8 とX10とに相関がある。2つのデータセットにおいて全ての変数にガウスノイズがのっている。
【0047】
最初のデータセットで、10ファクターのPLSモデルがYの85.13%をモデル表現でき、最初の2次元でYの約85%をとらえることが出来る。よって最適なPLSモデルの次数は2である。
2番目のデータセットで10ファクターのPLSモデルがYの約95.43%をモデル表現し、最初の2次元でYの約94.9%をとらえたとすると、この場合の最適PLSモデルの次数はやはり2である。しかし、2番目のモデルの次元がモデルの大きな予測性能を与えている。
VIP値が0.8以上ということによって決定される、最初のデータセットにおける重要な変数は、[X1 ,X2 ,X5 ,X8andX10]であり、一方、2番目のデータセットにおける重要変数は、[X1 ,X2 ,X6 ,X8andX10]である。
【0048】
よって、X1 、X2 、X5 、X6 、X8 とX10のスケーリングされた回帰係数が、忘却ファクターを評価すると考えられる。この例では、λは0.5221と評価される。
この小さなλの値は、Xブロックの相関構造の変化によるものか、あるいはX−Y関係の変化によるものかを診断するために、λ=1で結合された“dry run" を実行する。
結合された10次元のPLSモデルがYの99.3%を説明でき、最初の5次元で95%をとらえていたとする。これは、比較的小さなλの値で高い性能の結合モデルが得られたケースであって、X−Y関係には変化がないがXブロックの相関構造に変化があるケースである。
主にXブロックの古い相関構造を早く忘れるためという観点で、0.5221の忘却ファクターをサブモデルの結合に使用する。これが実施されたとき、10ファクターのPLSモデルは記録用に使われ、3次元のPLSモデルは予測用に保持される。
このケースでは、構成モデルは2次元であるのに対し結合モデルは3次元であるケースである。
【0049】
実施例4
実施例4は、数式で表現したモデルを仮定し、シミュレーションした事例を示したものであって、プロセス特性が入力構造及びX−Y関係も変化する場合に第2の発明方法を適用した例を示す。
以下のモデルを使って生成された2つのデータセットを考える。
モデル1
: Y= 5x1−3x2+0.1x5+0.5x6+5x8+x10 +3+noise
モデル2
: Y=−3x1−3x2+0.1x5+0.5x6+5x8+x10 +3+noise
X1 の係数が2つの異なる点である。Xブロックの共線性のあるx5及びx6の変数は以下のような関係がある。
x5=−0.7x2
x6=0.3x1+5
ノイズは全ての変数に加わっている。
【0050】
最初のデータセット1のPLSモデルは10次元のPLSモデルで約94.1%を説明でき、2次元で93.1%が説明できる。次のデータセット2については10ファクターのPLSモデルでYの84.86%が説明でき、2次元では84.71%が説明できる。つまり、2つの良い性能のPLSサブモデルを持っている。
VIP基準は最初のデータセット1の変数では、[X1 ,X2 ,X5andX8 ]が重要であり、データセット2の変数では[X1 ,X2 ,X5 ,X8andX10]が重要であると示している。
【0051】
例えば、忘却ファクターλは0.5324と評価される。これは実施例3の例とほぼ同じである。しかし、λ=1で構築された結合モデルはYのわずか53.2%を説明できるだけで、これは2つのデータセット間のX−Y関係が変化していることを示している。忘却ファクター0.5324がこれらのデータセットを結合するのに採用され、2次元のモデルが予測を維持する。
次に、維持されたモデルが現在のプロセス挙動を予測できるかについて説明する。予測できることを証明するために、2つのノイズのないデータセットを上記のそれぞれのモデルから生成する。新しい結合モデルを使用し、予測をそれぞれのXブロックを使用して行う。
【0052】
図4に出力の比較を示す。図4(a)のプロットはモデル1の出力を示す(青の線は真のデータを、緑の線は予測値を示す)。真値と予測値の間にはかなりのズレがある。モデル2のデータに関しては図4(b)のプロットに示すように予測値は真値にずっと近くなっている。
これはモデルがプロセス状態の変化に良く適応し、モデルの結合に使われたλの値は妥当で、提案した忘却ファクターの評価手法の確実性を与えていることを示している。λ=1の“dry run" は、診断のためだけに必要で、それ以外には不要である。
【0053】
実施例5
実施例5は、実施例1の蒸留装置に第1の発明方法及び第2の発明方法を適用した例を示し、本発明方法で特定した計算手法で決定した忘却ファクターを用いてソフトセンサーモデルを適応的に同定した事例を示している。
データは実施例1と同じデータとし、20個ののX変数と1個のY変数に対し524サンプルのデータが利用可能である。この検討のためにデータを131サンプルの4個のデータブロックに分割する。
最初のデータブロックのPLSモデルが11ファクターを使用し、Xの98.88%、Yの89.2%を説明する。
最初の6次元でYの87.71%を捉える。このように、11ファクターモデルが記録用目的で、一方、6ファクターのモデルを予測目的に使用する。
【0054】
2番目のデータブロックでは9ファクターのPLSモデルは、Xの97.7%を、Yの91.87%を説明するのに使用する。この場合、最初の7ファクターが予測に重要である。変数X1を除き、他の全ての変数は両方のサブモデルにおいて0.8以上のVIP値を持っている。
角度のCOSは約0.53で、その場合λ=0.7641である。λ=1の時の結合モデルの性能は良い性能を示している。実際、データセットにおけるX−Y関係はほとんど同じである。
λ=0.7641を使った結合モデルを構築する。9ファクターのPLSモデルが記録目的で選ばれ、6ファクターのモデルが予測用に維持される。
【0055】
3番目のデータブロックに対し、12ファクターのPLSモデルが記録用に選ばれ、4ファクターのPLSモデルが予測用に維持される。このサブモデルの最初の結合モデルへの結合の、λ=1を採用した“dry run" は、良い性能のモデルが得られる結果になった。
3番目のサブモデルと最初の結合モデルがλ=0.8334を使って2番目の結合モデルとなる。このモデルは記録用に10ファクター、予測用に5ファクターを持っている。
【0056】
図5に結合モデルを用いた留出油組成の予測の結果を示す。図5(a)に示すように、最初の結合モデルは3番目のデータブロックのY変数を予測するのに使用し、図5(b)に示すように、2番目の結合モデルは4番目のデータブロックのY変数を予測するのに使用される。図5(a)及び(b)で、○点は実際の計測値を示す。
図5(a)及び(b)から判るように、どちらのケースでも、予測値がプラントの挙動に良く合っている。
【0057】
最後に、4番目のデータブロックは、記録用に11ファクターのモデル、予測用に4ファクターのモデルとなった。この場合、λは0.9594と評価された。結合モデルの性能は、λ=1を使用してチェックされた。
性能は、Xブロックの相関構造においても、2番目の結合モデルと4番目のデータブロック間のX−Y関係においても変化がなく良かった。3番目の結合モデルが2番目の結合モデルと4番目のサブモデルからλ=0.9594を使って構築された。9ファクターのモデルが記録用に、5ファクターのモデルが将来のXデータによる予測値を作成するために維持される。
【0058】
3番目の結合モデル(5ファクターモデル)の回帰係数と、4個のデータブロック全てのデータを使って得られたモデルの標準PLSモデルの回帰係数とを比較すると、標準PLSモデルでは、4次のPLSモデルが予測には最適であった。
回帰係数を図6にプロットする。尚、図6中、21番の係数はモデル中の切片項を表す。図6は回帰係数はかなり近いことを示している。これは、この検討に使用した4つのデータブロックがかなり似ていることを示している。
【0059】
【発明の効果】
本発明によれば、従来のPLS方式の制約をなくし、一般化した再帰PLSモデルを得る手法を実現し、忘却ファクターを適応的に決定する手法を提供して再帰PLSモデルの適用範囲を拡げ、再帰PLSモデルの適応性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本同定アルゴリズムのフローチャートである。
【図2】実施例1で蒸留塔留出組成の従来のPLSモデルによる予測値と本手法による再帰PLSモデルを使用したソフトセンサーによる予測値の比較である。
【図3】実施例1で蒸留塔留出組成の予測に従来のPLSモデルによる予測値を用いた場合と、本発明方法による再帰PLSモデルを使用した場合のそれぞれのモデルの回帰係数を比較したグラフである。
【図4】実施例4の入力構造、X−Yともに変化するケースで、忘却ファクターを使用した場合の比較。
【図5】実施例5で蒸留塔留出の組成予測に忘却ファクターを使用した場合の実施例、図5(a)はデータブロック1と2の結合モデルからデータブロック3の出力変数を予測したものであり、図5(b)データブロック3を加えた結合モデルからデータブロック4の出力変数を予測したものである。
【図6】実施例5においてデータブロック4つ全てを使って結合モデルを得た場合と、従来のPLSモデル、それぞれのモデルの回帰係数を比較したグラフである。
【図7】実施例1および実施例5に使用した変数の構成概念図である。
【図8】実施例1および実施例5の対象である蒸留装置のフローシートである。
【符号の説明】
10 蒸留装置
12 第1原料管
14 第2原料管
16 原料管
18 蒸留塔
20 凝縮器
22 リボイラー
24 アルコール製品管
26 ケトン製品管
28 スチーム管
30、32、34、36、38 流量計
40、42、44、46、48、50 流量調節弁
52、54、56、58、60、62、64 温度計
66 圧力計
68 液面計
Claims (4)
- 時系列データセットからなるプロセスデータをウィンドウで区切り、各ウィンドウ毎のデータセットに基づいて作成したサブモデルを結合することによって統計的にモデル同定を行う、いわゆる再帰PLS(Partial Least Square)方式によってプロセス・プラントのモデルを構築する方法であって、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLSファクターのそれぞれの最大数をベースとした記録目的のPLSサブモデルを作成する第1PLSモデル演算処理ステップと、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLSファクターのそれぞれの最適値をベースとした予測目的のPLSサブモデルを作成する第2PLSモデル演算処理ステップと、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLS回帰係数を演算するPLS回帰係数演算処理ステップと、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットに基づいて忘却ファクタを演算する忘却ファクター演算処理ステップと、
忘却ファクターを用いないで第1の結合モデルを得る演算処理ステップと、
忘却ファクターを用いて第2の結合モデルを得る演算処理ステップと、
第1及び第2の結合モデルを評価する評価ステップとを備え、
前記忘却ファクター演算処理ステップでは、一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットの同定モデルの回帰係数ベクトルをそれぞれSRC1及びSRC2とし、SRC1とSRC2との間の角度の余弦を(<SRC1,SRC2>)とすると、次式:
(<SRC1,SRC2>+1)/2
に基づいて、定量的に忘却ファクターを計算することを特徴とするモデル構築方法。 - 前記第2の結合モデルを得る演算処理ステップでは、プロセス特性の変化を求め、該プロセス特性の変化が大きな場合ほど小さな忘却ファクターを採用することを特徴とする請求項1に記載のモデル構築方法。
- 時系列データセットからなるプロセスデータをウィンドウで区切り、各ウィンドウ毎のデータセットに基づいて作成したサブモデルを結合することによって統計的にモデル同定を行う、いわゆる再帰PLS(Partial Least Square)方式によってプロセス・プラントのモデルを構築するモデル構築システムであって、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLSファクターのそれぞれの最大数をベースとした記録目的のPLSサブモデルを作成する第1PLSモデル演算処理部と、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLSファクターのそれぞれの最適値をベースとした予測目的のPLSサブモデルを作成する第2PLSモデル演算処理部と、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットのPLS回帰係数をそれぞれ演算するPLS回帰係数演算処理部と、
一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットに基づいて忘却ファクタをそれぞれ演算する忘却ファクター演算処理部と、
忘却ファクターを用いないで第1の結合モデルを得る演算処理部と、
忘却ファクターを用いて第2の結合モデルを得る演算処理部と、
第1及び第2の結合モデルのを評価する評価処理部とを備え、
前記忘却ファクター演算処理処理部は、一のデータセット及び一のデータセットの前のデータセットの同定モデルの回帰係数ベクトルをそれぞれSRC1及びSRC2とし、SRC1とSRC2との間の角度の余弦を(<SRC1,SRC2>)とすると、次式:
(<SRC1,SRC2>+1)/2
に基づいて、定量的に忘却ファクターを計算することを特徴とするモデル構築システム。 - PLSファクターの最大数をベースとした記録目的の結合モデル、及びPLSファクターの最適値をベースとした予測目的の結合モデルを格納する格納部を有することを特徴とする請求項3に記載のモデル構築システム。
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