JP3877887B2 - 変性ジエン系ゴムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に自動車タイヤ用のゴム材料として有用な、各種特性に優れた変性ジエン系ゴムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車タイヤゴムとしては、ポリブタジエンゴム(BR)、あるいはスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を主成分とし、他に天然ゴムなどを配合したゴム組成物が用いられている。
【0003】
近年、自動車の低燃費化の要求と雪上及び氷上における走行安全性の要求が高まり、自動車タイヤトレッドゴムとして、転がり抵抗が小さく(すなわち、反発弾性の大きく)、かつ雪上及び氷上における路面グリップ(すなわち、ウエットスキッド抵抗)の大きなゴム材料の開発が望まれている。ところが、ポリブタジエンゴム(BR)のように反発弾性の大きなゴムはウエットスキッド抵抗が低い傾向があり、一方、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)には、ウエットスキッド抵抗は大きいが、転がり抵抗も大きいという問題があった。
【0004】
従来から、上記のような課題を解決する方法として、リチウム系触媒の存在下で、低シスジエン系ゴムを変性剤によって化学変性させる方法が数多く提案されている。例えば、低シスBRをベンゾフェノン化合物で変性する方法が、特開昭58−162604号公報及び特開昭59−117514号公報に提案されており、自動車タイヤの転がり抵抗が小さく、ウエットスキッド抵抗が大きく、また反発弾性も改善されると報告されている。さらに、芳香族チオケトンで変性する方法が米国特許第3755269号明細書に記載されている。
【0005】
特公平6−53766号公報、特公平6−57769号公報、そして特公平6−78450号公報には、活性なアルカリ金属末端を有するジエン系ゴムを、ニトロアミノ化合物、ニトロ化合物、ニトロアルキル化合物などと反応させることにより、反発弾性に優れ、低温硬度が低いゴムが得られる旨記載されている。
【0006】
しかしながら、低シスBRは耐摩耗性が不十分であり、変性によってもこの問題点は解決されない。また、SBRでも反発弾性が低く、変性後もこの欠点の充分な解決には至らない。
【0007】
さらに、特に自動車タイヤの製造に用いるゴム材料としては、高いレベルのウエットスキッド抵抗を示しながら、高い引張弾性率、破断強度、そして伸びをも示し、さらに低い転がり抵抗を示す変性ジエン系ゴムが望まれるが、そのような性質を示すゴム材料は、これまでに知られていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特に自動車タイヤ用のゴム材料として有用な、高いレベルのウエットスキッド抵抗を示しながら、引張弾性率、破断強度、そして伸びが向上し、さらに転がり抵抗の低下も実現した変性ジエン系ゴムを提供することを、その目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アルカリ金属系触媒を用いて共役ジエン系ゴムを製造した後、直ちに、2,4−ジニトロベンゼンスルフェニルクロライド、4−ニトロベンゼンスルフェニルクロライド、4−ニトロベンゼンスルホニルクロライド、2−アセトアミドベンゼンスルホニルクロライド、1−アミノナフチル−5−スルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、ジメチルスルファモイルクロライド、ジメチルスルホニルクロライド、および2,4−ジニトロベンゼンスルホニルクロライドからなる群より選ばれる変性剤と接触させることを特徴とする変性ジエン系ゴムの製造方法にある。
【0010】
本発明の変性ジエン系ゴムの製造方法において、変性剤は、2,4−ジニトロベンゼンスルフェニルクロライドもしくはジメチルスルファモイルクロライドであることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の変性ジエン系ゴムの製造原料となるジエン系ゴムは、たとえば、共役ジエン系モノマー、又は共役ジエン系モノマー及びこれと共重合可能なモノマーをアルカリ金属系触媒を用いて重合して得られる。ただし、アルカリ金属原子がジエン系ゴム末端に結合したもの、また重合方法に関係なく(例えば溶液重合、乳化重合など)、ポリマー連鎖中に二重結合を有するゴムに、後からの反応でアルカリ金属を付加させたものであってもよい。
【0012】
ジエン系ゴムの具体例としては、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。好ましくは、BRあるいはSBRである。目的に応じて、単独、もしくは二種以上の組合わせを選択することが可能である。また、他のゴム材料を併用することもできる。
【0013】
分子末端にアルカリ金属原子が結合したジエン系ゴムは、共役ジエン系モノマー、又は共役ジエン系モノマー及びこれと共重合可能なモノマーを、アルカリ金属系触媒の存在下で重合することにより得られるもので、ポリマー連鎖の少なくとも一端にアルカリ金属原子が結合した重合停止前のリビング重合体である。この重合反応に際しては、アルカリ金属系触媒、重合溶媒、ランダマイザー、共役ジエン単位のミクロ構造調節剤などの通常使用される化合物を用いることが可能であり、共役ジエン系ゴムの製造方法については特に制約は受けない。
【0014】
ジエン系ゴムに後からの反応でアルカリ金属を付加させたものとしては、アルカリ金属系触媒、アルカリ土類金属系触媒又はチグラーナッタ系触媒などを用いた溶液重合、レドックス型触媒系を用いた乳化重合、あるいはその他の重合方法によって、共役ジエンモノマー、又は共役ジエンモノマーとそのモノマーと共重合可能なモノマーとを重合又は共重合させて得られた上記のジエン系ゴムにアルカリ金属を付加させたものを挙げることができる。
【0015】
ジエン系ゴムのアルカリ金属付加は、通常実施されている方法が用いられる。例えば、共役ジエン系ゴムを炭化水素溶媒中で通常のアルカリ金属系触媒と、エーテル化合物、アミン化合物、あるいはホスフィン化合物などの極性化合物の存在下に30〜100℃の温度で数十分〜数十時間の条件で付加反応が行なう方法を利用することができる。アルカリ金属系触媒は、ジエン系ゴム100g当り、通常は0.1〜10ミリモルの範囲で使用される。0.1ミリモル未満では反発弾性の向上は得られず、10ミリモルを超えるとジエン系ゴムの架橋、切断などの副反応が生じて反発弾性の向上に寄与しない。極性化合物の使用量はアルカリ金属系触媒に1モルに対して通常0.1〜10モル、好ましくは0.5〜2モルである。
【0016】
重合及び付加反応に使用されるアルカリ金属系触媒としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムなどの金属、これらの金属を含有する炭化水素化合物、又はこれらの金属と極性化合物との錯体を挙げることができる。好ましいものとしては、炭素原子数が2〜20個の炭化水素基を有する有機リチウム、ナトリウム、あるいはカリウム化合物を挙げることができ、具体的な化合物の例としては、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−オクチルリチウム、n−デシルリチウム、フェニルリチウム、2−ナフチルリチウム、2−ブチルフェニルリチウム、4−フェニルブチルリチウム、シクロヘキシルリチウム、4−シクロペンチルリチウム、1,4−ジリチオ−ブテン−2、ナトリウムナフタレン、ナトリウムビフェニル、カリウム−テトラヒドロフラン錯体、カリウムジエトキシエタン錯体、α−メチルスチレンテトラマーのナトリウム塩などが挙げられる。
【0017】
重合反応やアルカリ金属付加反応は、炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、あるいはジオキサンなどのアルカリ金属系触媒を分解しない溶媒中で行なわれる。炭化水素溶剤としては脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び、脂環族炭化水素が利用できる。炭化水素溶剤の具体例としては、炭素数が2〜12のプロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびエチルベンゼンなどを挙げることができる。なお、反応溶媒は単独で用いてもよく、あるいは二種以上を混合して使用することもできる。変性する時の溶媒の量は、ゴム100gに対して400〜2000ミリリットル、好ましくは500〜1000ミリリットルである。溶媒量が400ミリリットル未満では反応系の粘度が上昇し、充分な撹拌ができず、一方、2000ミリリットルを超えると反応槽当たりの生産性が低下する。
【0018】
変性剤としては、2,4−ジニトロベンゼンスルフェニルクロライド、4−ニトロベンゼンスルフェニルクロライド、4−ニトロベンゼンスルホニルクロライド、2−アセトアミドベンゼンスルホニルクロライド、1−アミノナフチル−5−スルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、ジメチルスルファモイルクロライド、ジメチルスルホニルクロライド、および2,4−ジニトロベンゼンスルホニルクロライドからなる群より選ばれる変性剤が挙げられる。
【0019】
好ましい変性剤の例は、2,4−ジニトロベンゼンスルフェニルクロライドおよびジメチルスルファモイルクロライドである。
【0020】
変性剤は、一種単独で用いてもよく、あるいは複数組み合わせて使用してもよい。変性剤の使用量は、末端にアルカリ金属が結合したジエン系ゴムを製造する際に使用するアルカリ金属系触媒1モル、もしくはジエン系ゴムに後からの反応でアルカリ金属を付加する際に使用するアルカリ金属系触媒1モル当り、通常は0.05〜10モルであり、好ましくは0.2〜2モルである。
【0021】
変性剤とアルカリ金属原子が結合したジエン系ゴム又はアルカリ金属付加ジエン系ゴムとの反応は迅速に起こるので、反応温度及び反応時間は広範囲に選択できるが、一般には室温〜100℃で、数秒ないし数時間である。反応はアルカリ金属含有共役ジエン系ゴムと変性剤とを接触させればよく、アルカリ金属系触媒を用いて共役ジエン系ゴムを製造し、その重合溶液に直ちに変性剤を所定量添加する方法、あるいはアルカリ金属の付加反応終了後、引き続いて変性剤を添加する方法が好ましい。得られた変性ジエン系ゴムには分子末端や分子鎖中に変性剤が導入されている。反応終了後、変性ジエン系ゴムは、通常のゴム製造工程におけると同様にして凝固、クラム化して乾燥、回収される。変性ジエン系ゴムはゴム組成物中に少なくとも10重量%必要であり、20重量%以上含まれるのが望ましい。10重量%未満では反発弾性は充分に向上しない。
【0022】
本発明の変性ジエン系ゴムに他のゴムを加えてゴム組成物として使用する場合には、他のゴムとしてNR(天然ゴム)、SBR、IR(イソプレンゴム)、及びイソプレン−ブタジエンゴムなどを利用することができる。これらの併用ゴムは、目的に応じて一種でも複数種であってもよい。また、ゴム成分以外にも、カーボンブラックなどの充填材、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤、プロセスオイル、酸化防止剤、ステアリン酸、亜鉛華などの配合剤を適宜選択して使用することができ、特に制限されない。また、シリカなどの充填材やシランカップリング剤を配合することもできる。
【0023】
本発明の変性ジエン系ゴムは通常、他のゴム成分と混合され、常法により配合剤を混合してゴム組成物とされ、常法により加硫される。混合方法には特に制限はなく、公知の混合方法が利用される。本発明の変性ジエン系ゴムを用いたゴム組成物は、自動車タイヤのゴム材料として特に有用であるが、ホース、ベルト、その他の工業製品としても有利に使用できる。
【0024】
【実施例】
以下、この発明を実施例に基づいて、具体的に説明するが、これらはこの発明の目的を限定するものではない。
実施例及び比較例で得られたゴム状ポリマーのムーニー粘度(ML1+4,100℃)、シス−1,4−構造量及び窒素含有量及びそれらの加硫物の試験評価法として引張試験(100%弾性率;M100,300%弾性率;M300、破壊強度MPa;Tb及び伸び%;Eb)、及びウエットスキッド試験は以下のようにして行った。
【0025】
(1)ムーニー粘度(ML1+4,100℃):JIS K6300に従い島津製作所製のムーニー粘度計(SMV−200)を使用して100℃で1分予熱して4分間測定してゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)として表示した。
(2)シス−1,4−構造量:赤外吸収スペクトル分析法により0.4重量%の二硫化炭素溶液を用いてポリマーのミクロ構造を測定してシス−1,4−構造量を算出した。
(3)窒素含有量:JIS−K0102に従いケルダール法により定量した。
【0026】
(4)引張試験:JIS−K6301に従って、引張弾性率の比(M300/M100)を算出した。また、破断強度(MPa)TB と伸び(%)EB も算出した。
(5)転がり抵抗指数:(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーター(VES)を用いて、温度70℃、周波数10Hzで初期歪み10%、動的歪み2%の条件でtanδを測定して、下記式に従って転がり抵抗指数を算出した。指数の値が大きい方(100以上)が転がり抵抗が低いことを示す。
転がり抵抗指数=〔比較例のtanδ/実施例のtanδ〕×100
(6)ウエットスキッド指数:スタンレー社製のポータブルスキッド抵抗計を用いてASTM−E303に従って測定した。濡れた路面でのグリップ特性(駆動性能、制動性能及び操縦性能)の指標であり、この数値が大きい程、グリップ特性が良好であることを示す。
ウエットスキッド指数=〔実施例の値/比較例の値〕×100
【0027】
[実施例1]
2リットルの攪拌機及び温度調節器付きステンレス製オートクレーブを使用して、内部を十分に窒素置換したのち、1,3−ブタジエンを23重量%含有するシクロヘキサン溶液1リットルを仕込んだ。次に、触媒としてn−ブチルリチウム(n−ヘキサン溶液)1.17ミリモルを撹拌下に添加し、その後60℃に維持して20分重合した後、変性剤として2,4−ジニトロベンゼンスルフェニルクロリド0.184ミリモルを加えて5分間変性反応を行った。これに10ミリリットルのメタノールを加えて更に5分間攪拌して、室温に戻してから、5リットルの容器にオートクレーブの内容物を移して、これに1.5リットルのメタノールを加えて変性ジエン系ゴムを析出させて濾過分離した。濾過分離により得た変性ジエン系ゴムを、5リットルの容器に移して、これにトルエン1.5リットルを加えて変性ジエン系ゴムを溶解させ、更にメタノール1.5リットルを加えて、変性ジエン系ゴムを析出、沈殿させ、次いで濾過した。この操作を4回繰返して変性ジエン系ゴムを精製した。この精製物に、酸化防止剤として0.11phrのテトラキス−〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(日本チバガイギー社製、Irganox1010)と0.45phrのトリノニルフェニルホスファイト(旭電化株式会社製、TNP)を練り混んだ後に、100℃で1.5時間真空乾燥させて変性ジエン系ゴムを得た。この変性ジエン系ゴムの諸特性を第1表に示す。次いで、第2表に記載の配合組成に従って、ゴム組成物を調製し、これに150℃で12分間プレス加硫した。この加硫物の特性を第3表に示す。
【0028】
[実施例2〜4]
変性剤の添加量を、0.056ミリモル、0.123ミリモル、及び0.247ミリモルに変えた以外は実施例1と同様にして三種類の変性ジエン系ゴムを得た。それらの変性ジエン系ゴムの諸特性を第1表に示す。次いで、第2表に記載の配合組成に従って、ゴム組成物を調製し、これに150℃で12分間プレス加硫した。得られた加硫物の特性を第3表に示す。
【0029】
[実施例5〜6]
変性剤をジメチルスルファモイルクロライドに変え、添加量を0.145ミリモル及び0.230ミリモルに変えた以外は実施例1と同様にして二種類の変性ジエン系ゴムを得た。それらの変性ジエン系ゴムの諸特性を第1表に示す。次いで、第2表に記載の配合組成に従って、ゴム組成物を調製し、これに150℃で12分間プレス加硫した。得られた加硫物の特性を第3表に示す。
【0030】
[比較例1]
変性剤を使用しなかった以外は実施例1と同様して60℃で25分の重合反応を実施した。そのジエン系ゴムの諸特性を第1表に示す。次いで、第2表に記載の配合組成に従って、ゴム組成物を調製し、これに150℃で12分間プレス加硫した。得られた加硫物の特性を第3表に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【発明の効果】
本発明の変性ジエン系ゴムを主成分とするゴム組成物は、高いウエットスキッドを維持しながら、引張弾性率、強さ及び伸びに優れ、転がり抵抗性も向上するので、特に自動車タイヤ材料として有用である。
Claims (2)
- アルカリ金属系触媒を用いて共役ジエン系ゴムを製造した後、直ちに、2,4−ジニトロベンゼンスルフェニルクロライド、4−ニトロベンゼンスルフェニルクロライド、4−ニトロベンゼンスルホニルクロライド、2−アセトアミドベンゼンスルホニルクロライド、1−アミノナフチル−5−スルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、ジメチルスルファモイルクロライド、ジメチルスルホニルクロライド、および2,4−ジニトロベンゼンスルホニルクロライドからなる群より選ばれる変性剤と接触させることを特徴とする変性ジエン系ゴムの製造方法。
- 変性剤が2,4−ジニトロベンゼンスルフェニルクロライドもしくはジメチルスルファモイルクロライドである請求項1に記載の変性ジエン系ゴムの製造方法。
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