JP3858814B2 - 回転機械の調整方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば車両空調装置に用いられる冷媒圧縮機等の回転機械に関し、特に、回転機械が備える回転体の軸線方向へのスライド移動可能量を所定量に調整するための調整方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、図7(a)においては、車両空調装置に用いられるピストン式の冷媒圧縮機を示す。即ち、冷媒圧縮機のハウジング80には回転軸81が回転可能に支持されているとともに、該ハウジング80内には、ラグプレート82、斜板83及びピストン84等からなる周知の圧縮機構が収容されている。そして、車両の走行駆動源たるエンジンによって回転軸81が回転駆動されることで、該回転軸81と共にラグプレート82及び斜板83が回転する。従って、ピストン84がシリンダボア85内で往復動されて、冷媒ガスの圧縮が行われる。なお、ハウジング80には、回転軸81のハウジング80外部への突出端部側に、ハウジング80の外部への回転軸81に沿った冷媒漏洩を防止するシール部材98が設けられている。
【0003】
前記冷媒圧縮機には、回転軸81の軸線L方向前後へのスライド移動可能量(以下スラストクリアランスとする)を、極少ない所定量(例えば0.1mm)に当接規制する移動規制手段が備えられている。即ち、回転軸81の軸線L方向前方(図面左方)側へのスライド移動は、該回転軸81と一体のラグプレート82が、スラストベアリング86を介してハウジング80の内壁面87に当接することで規制される。また、回転軸81の軸線L方向後方(図面右方)側へのスライド移動は、該回転軸81の後端面88の外周部88aが、ハウジング80に圧入固定された調整部材89の前端面90に当接することで規制される。
【0004】
このように、前記回転軸81のスラストクリアランスを、極少ない所定量に管理することで、例えば、回転軸81のスライド移動によるシール部材98のシール不良を防ぐことができる。
【0005】
さて、図7(b)に示すように、従来においては、前記調整部材89のハウジング80への圧入、さらには回転軸81のスラストクリアランスの所定量X1への調整を、専用の圧入治具92を用いて行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
即ち、前記圧入治具92は、円柱状の本体93と、該本体93の前端面に設けられ、本体93よりも小径なクリアランス管理部94とからなっている。本体93とクリアランス管理部94との境界に位置する段差の壁面は、押圧部95をなしている。圧入治具92において、クリアランス管理部94の長さ、つまり押圧部95からクリアランス管理部94の先端面までの距離は、調整部材89の厚みYと、回転軸81のスラストクリアランスの所定量X1とを加えた値に設定されている。
【0007】
前記圧入治具92は、クリアランス管理部94を、調整部材89の中心部に形成された挿通孔96に後方側から挿通させて用いられる。そして、この状態で、押圧部95によって調整部材89の後端面97を押圧することで、該調整部材89を回転軸81側に押し込んで、クリアランス管理部94の先端面を回転軸81の後端面88の中央部88bに圧接させる。
【0008】
従って、前記回転軸81が軸線L方向前方側へ押圧され、該回転軸81の軸線L方向前方側へのスライド移動が、ラグプレート82とハウジング80の内壁面87との当接によって規制された状態がもたらされる。この状態となれば、圧入治具92のクリアランス管理部94が、調整部材89の前端面90から所定量X1だけ回転軸81側に突出される。従って、回転軸81の後端面88と調整部材89の前端面90との間の距離、つまり回転軸81のスラストクリアランスが、所定量X1に設定されることとなる。
【0009】
【特許文献1】
特開2001−263228号公報(第7−10頁、第1−3図)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記特許文献1で開示された、回転軸81のスラストクリアランスの調整手法においては、圧入治具92のクリアランス管理部94を、回転軸81の後端面88の中央部88b、つまり調整部材89との当接箇所(外周部88a)とは異なる部分に当接させている。従って、回転軸81の後端面88(外周部88a及び中央部88b)の加工精度の影響を受けて、回転軸81のスラストクリアランスを高精度に設定できない問題があった。
【0011】
即ち、図7(b)の状態において、後端面88の中央部88bと調整部材89の前端面90との間の距離を所定量X1に設定できたとしても、実際の当接箇所である外周部88aと前端面90との間の距離が、後端面88の加工精度の影響を受けて所定量X1からずれてしまうのである。
【0012】
また、特許文献1の調整手法においては、圧入治具92の押圧部95を調整部材89の後端面97に当接させるとともに、圧入治具92のクリアランス管理部94を、調整部材89を挿通させて回転軸81の後端面88に当接させている。従って、回転軸81のスラストクリアランスの調整精度に、調整部材89の加工精度(特に厚み)の影響を受ける問題があった。
【0013】
本発明の目的は、回転体のスライド移動可能量を精度良く設定することが可能な回転機械の調整方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1に記載の調整方法は、第1工程と第2工程とを備えている。第1工程においては、調整部材を、該部材が所属するハウジング又は回転体に対して、回転体のスライド移動可能量をゼロとする基準位置まで圧入する。つまり、移動規制手段における実際の当接箇所が当接された状態を、調整部材の基準位置(ゼロ点位置)としている。従って、第2工程において、調整部材の圧入位置を、当接状態にある移動規制部と当接部とが離間する方向へ前記所定量だけ基準位置から変更すれば、回転体のスライド移動可能量は精度良く、言い換えれば移動規制部及び当接部並びに調整部材の加工精度の影響を受けることなく、所定量に調整されることとなる。
【0015】
請求項2の発明は請求項1において、前記第2工程は、回転体を移動規制部に向かって前記所定量だけ押し込むことで行われる。回転体を移動規制部に向かって前記所定量だけ押し込めば、調整部材は、当接部又は移動規制部によって押圧されることで、当接状態にある移動規制部と当接部とが離間する方向へ前記所定量だけ基準位置から圧入位置が変更される。つまり、本発明の第2工程においては、例えば調整部材を押圧用工具によって直接的に押圧するのではなく、回転体を介して間接的に調整部材を押圧するようにしている。従って、例えば、調整部材を、押圧用工具が入り込み難い位置に配置する構成を採用したとしても、第2工程を行うことが容易となる。
【0016】
請求項3の発明は請求項2において、前記回転機械は、外部駆動源との間での動力伝達のために、回転体の一部がハウジング外に露出される構成である。そして、前記第2工程における回転体の押込みは、該回転体の露出部分において行われる。従って、例えば、ハウジングの組立済みの状態つまり調整部材がハウジング外に露出されていない状態においても第2工程を行うことができる。よって、従来の回転機械の組立手順を殆ど変更することなく、つまり従来の回転機械の製造設備を殆ど変更することなく、請求項2の調整方法を適用することができる。
【0017】
請求項4の発明は請求項1〜3のいずれかにおいて、前記ハウジングは、複数のハウジング構成体を互いに接合固定することで構成されている。第1ハウジング構成体には回転体が回転可能に支持されているとともに、該第1ハウジング構成体に隣接する第2ハウジング構成体には移動規制部が設けられている。そして、前記第1工程は、第1ハウジング構成体と第2ハウジング構成体との接合固定に起因して調整部材が押圧されることで、該接合固定工程と同時に行われる。つまり、本発明によれば、専用の第1工程を必要とせず、回転体のスライド移動可能量の調整を安価に行うことができる。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの調整手法を適用するのに特に好適な回転機械について言及するものである。すなわち、前記ハウジング内には、回転体としての回転軸の回転によってシリンダボア内でピストンが往復動されることでガス圧縮を行う圧縮機構が収容されている。前記回転軸の端部にはロータリバルブが設けられている。該ロータリバルブは、回転軸と同期回転することでシリンダボアと吸入圧力領域との間の通路を開閉可能な構成である。そして、前記ロータリバルブに当接部が設けられている。
【0019】
前記ロータリバルブは、例えば、回転体の軸線方向前後へのスライド移動可能量が過大となってしまった場合には、前記通路の開閉機能に支障を及ぼす虞がある。従って、このような態様において請求項1〜4のいずれかの発明を具体化して、回転体のスライド移動可能量の調整精度の向上を図ることは、特に有効である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を車両用空調装置に用いられるピストン式容量可変型圧縮機(回転機械)の調整方法に具体化した第1〜第3実施形態について説明する。なお、図面の左方を前方、右方を後方とする。そして、第2及び第3実施形態においては、第1実施形態との相違点についてのみ説明し、同一部材には同じ番号を付して説明を省略する。
【0021】
(第1実施形態)
図1に示すように、回転機械としてのピストン式容量可変型圧縮機(以下単に圧縮機とする)は、シリンダブロック11と、その前端に接合固定されたフロントハウジング12と、シリンダブロック11の後端に弁・ポート形成体13を介して接合固定されたリヤハウジング14とを備えている。アルミニウム系の金属材料よりなるシリンダブロック11、フロントハウジング12及びリヤハウジング14は、複数の通しボルト20(図1では一つのみ図示)によって締結固定され、圧縮機のハウジング10を構成する。
【0022】
なお、前記シリンダブロック11、フロントハウジング12及びリヤハウジング14は、それぞれハウジング構成体をなしており、特に、シリンダブロック11を第1ハウジング構成体として、リヤハウジング14を第2ハウジング構成体として、それぞれ把握することができる。
【0023】
前記シリンダブロック11とフロントハウジング12とで囲まれた領域にはクランク室15が区画されている。クランク室15内には、回転体としての回転軸16が回転可能に配設されている。回転軸16は鉄系の金属材料により構成されている。回転軸16は、車両の走行駆動源(外部駆動源)であるエンジンEgに動力伝達機構PTを介して作動連結されており、エンジンEgから動力の供給を受けて回転される。なお、回転軸16の前端部は、転がり軸受タイプのラジアルベアリング18を介してフロントハウジング12に支持されている。フロントハウジング12と回転軸16との間には軸シール部材19が介在されている。
【0024】
前記クランク室15において回転軸16上には、ラグプレート21が一体回転可能に固定されている。ラグプレート21とフロントハウジング12の内壁面12aとの間には、スラストベアリング17が介在されている。
【0025】
前記クランク室15内には、カムプレートとしての斜板23が収容されている。斜板23は、回転軸16にスライド移動可能でかつ軸線Lに対する傾斜角度(軸線Lと直交する平面との間でなす角度)を変更可能に支持されている。ヒンジ機構24は、ラグプレート21と斜板23との間に介在されている。従って、斜板23は、ヒンジ機構24を介したラグプレート21との間でのヒンジ連結、及び回転軸16の支持により、ラグプレート21及び回転軸16と同期回転可能であるとともに、回転軸16の軸線L方向へのスライド移動を伴いながら回転軸16に対し傾動可能となっている。
【0026】
複数のシリンダボア11a(図においては一箇所のみ示す)は、前記シリンダブロック11において回転軸16の後端側を取り囲むようにして貫通形成されている。片頭型のピストン25は、各シリンダボア11aに往復動可能に収容されている。シリンダボア11aの前後開口は、弁・ポート形成体13及びピストン25によって閉塞されており、このシリンダボア11a内にはピストン25の往復動に応じて体積変化する圧縮室26が区画されている。各ピストン25は、シュー27を介して斜板23の外周部に係留されている。従って、回転軸16の回転にともなう斜板23の回転が、シュー27を介してピストン25の往復動に変換される。
【0027】
前記リヤハウジング14内には、吸入室(吸入圧力領域)28及び吐出室29がそれぞれ区画形成されている。吸入室28はリヤハウジング14の中央部に形成されているとともに、吐出室29は吸入室28の外周を取り囲むようにして形成されている。弁・ポート形成体13には、圧縮室26と吐出室29とを連通する吐出ポート32、及び吐出ポート32を開閉するリードバルブよりなる吐出弁33が形成されている。シリンダブロック11には、ロータリバルブ41を備えた吸入弁機構35が設けられている。
【0028】
そして、前記吸入室28の冷媒ガスは、各ピストン25の上死点位置から下死点側への移動により、吸入弁機構35を介して圧縮室26に吸入される(吸入行程)。圧縮室26に吸入された冷媒ガスは、ピストン25の下死点位置から上死点側への移動により所定の圧力にまで圧縮され、弁・ポート形成体13の吐出ポート32及び吐出弁33を介して吐出室29に吐出される(吐出工程)。
【0029】
前記シリンダブロック11には、シリンダボア11aに囲まれた中心部にバルブ収容室42が形成されている。バルブ収容室42は、円柱状をなすとともに後方側で吸入室28に連通されている。バルブ収容室42と各圧縮室26とは、シリンダブロック11に形成された複数(図においては一箇所のみ示す)の吸入連通路43を介してそれぞれ連通されている。
【0030】
前記バルブ収容室42内には、ロータリバルブ41が回転可能に収容されている。ロータリバルブ41はアルミニウム系の金属材料により構成されており、略円筒状をなしている。ロータリバルブ41は、その後端面がバルブ収容室42(即ちシリンダブロック11)から吸入室28側に突出された状態、つまり後端面が吸入室28内に配置された状態となっている。
【0031】
前記回転軸16の後端はバルブ収容室42内に配置され、該後端の圧入凹部16aには、ロータリバルブ41が圧入固定されている。従って、ロータリバルブ41と回転軸16とは一体化されて一軸様をなしており、ロータリバルブ41は回転軸16の回転、つまりはピストン25の往復動に同期して回転される。
【0032】
前記ロータリバルブ41の外周面41aと、バルブ収容室42の内周面42aとは、バルブ収容室42においてロータリバルブ41を回転可能に支持するためのすべり軸受面を構成している。回転軸16の後端部は、ロータリバルブ41を介することでシリンダブロック11に回転可能に支持されている。
【0033】
前記ロータリバルブ41は、吸入室28と連通する筒内空間44を有している。ロータリバルブ41には、この筒内空間44とロータリバルブ41の外周面41a側とを連通する導入通路45が設けられている。導入通路45の出口45aは、ロータリバルブ41の外周面41a上に開口している。ロータリバルブ41の回転即ち回転軸16の回転に伴い、導入通路45の出口45aは、シリンダブロック11の吸入連通路43の入口43aに間欠的に連通する。つまり、ロータリバルブ41は、回転軸16と同期回転することでシリンダボア11aと吸入室28との間の冷媒通路を開閉可能な構成とされている。
【0034】
前記シリンダボア11aが吸入行程の状態にあるときには、導入通路45の出口45aと吸入連通路43の入口43aとが連通する。シリンダボア11aが吸入行程の状態にあるときには、吸入室28の冷媒が、筒内空間44、導入通路45及び吸入連通路43を経由してシリンダボア11aの圧縮室26に吸入される。
【0035】
一方、前記シリンダボア11aが吐出行程の状態にあるときには、導入通路45の出口45aと吸入連通路43の入口43aとの連通が遮断される。シリンダボア11aが吐出行程の状態にあるときには、圧縮室26内の冷媒が吐出ポート32から吐出弁33を押し退けて吐出室29へ吐出される。
【0036】
前記回転軸16内には通孔47が形成されている。通孔47はロータリバルブ41に設けられた孔48を介して筒内空間44に連通されている。吸入室28は、筒内空間44、孔48、及び通孔47を介してクランク室15と連通されている。
【0037】
吐出室29とクランク室15とは、圧力供給通路49で接続されている。圧力供給通路49上には容量制御弁52が介在されている。容量制御弁52は、吐出室29からクランク室15への冷媒流量を制御する。クランク室15の冷媒は、筒内空間44、孔48、及び通孔47を経由して吸入室28へ流出する。クランク室15内の圧力が増大すると斜板23の傾斜角度が小さくなり、クランク室15内の圧力が減少すると斜板23の傾斜角度が大きくなる。容量制御弁52は、クランク室15内の圧力を調整して傾斜角度を制御する。
【0038】
なお、回転軸16、ラグプレート21、ロータリバルブ41、斜板23、シュー27及びピストン25は、冷媒の圧縮を行うための圧縮機構を構成する。
次に、前記回転軸16の軸線L方向前後へのスライド移動可能量を所定量に当接規制する移動規制手段について詳述する。
【0039】
前記圧縮機の運転時において、ピストン25に作用する冷媒ガスの圧縮荷重は、シュー27、斜板23、ヒンジ機構24、ラグプレート21及びスラストベアリング17を介して、フロントハウジング12の内壁面12aによって受承される。つまり、この圧縮荷重の作用による、回転軸16、ラグプレート21、斜板23及びピストン25等の一体物の軸線L方向前方側へのスライド移動は、ラグプレート21及びスラストベアリング17を介して、フロントハウジング12の内壁面12aによって当接規制される。従って、フロントハウジング12の内壁面12aを、移動規制手段の構成要素として把握することができる。
【0040】
前記リヤハウジング14において吸入室28には、軸線Lを中心とした円筒内周面を有する挿通孔50が設けられている。挿通孔50には、リヤハウジング14とは別部材とされた、アルミニウム系の金属材料からなる円筒状の調整部材51が圧入固定されている。なお、本実施形態では、回転軸16に対するロータリバルブ41の圧入代が、挿通孔50に対する調整部材51の圧入代よりも大きく設定されており、ロータリバルブ41の圧入強度が調整部材51のそれよりも大きく設定された状態となっている。
【0041】
前記調整部材51の中央部には、外部冷媒回路から吸入室28への冷媒ガスの導入を許容する透孔51aが貫通形成されている。調整部材51において、吸入室28内でロータリバルブ41の後端面と対向する前端面が移動規制部51bをなし、このロータリバルブ41の後端面が当接部41bをなしている。移動規制部51bは、当接部41bとの当接により、回転軸16の後方(軸線L方向のうちの他方側)へのスライド移動を規制する。従って、移動規制部51b及び当接部41bを、移動規制手段の構成要素として把握することができる。
【0042】
ここで、回転軸16のスライド移動がスラストベアリング17を介したラグプレート21と内壁面12aとの当接により規制された状態において、当接部41bと移動規制部51bとの間に形成される所定量のクリアランスを、「X」とする。このクリアランスXは、回転軸16のスライド移動可能量に相当する。そしてこのクリアランスXは、例えば、圧縮機のハウジングにおける回転軸16の回転を許容しつつ、回転軸16のスライド移動に起因して発生する回転軸16と軸シール部材19との接触位置のずれを良好に抑えるべく設定される。なお、このクリアランスXは、例えば0.1mm程度であり、図面においてはクリアランスXを誇張して描いてある。
【0043】
次に、上記構成の圧縮機におけるクリアランスXの調整手順について説明する。
図2は、リヤハウジング14をシリンダブロック11側に対して組み付ける際の手順を示す圧縮機の要部拡大図である。なお、前述の圧縮機構は既に組み込まれた状態となっている。
【0044】
リヤハウジング14をシリンダブロック11側(第2ハウジング構成体側)に対して組み付ける際には、先ず、調整部材51を挿通孔50に対して、リヤハウジング14がシリンダブロック11に接合された完成状態よりも浅い位置まで圧入する。
【0045】
そして、図2(a)に示すように、リヤハウジング14の前面側をシリンダブロック11の後面側に対向するように配置した状態で、調整部材51の移動規制部51bとロータリバルブ41の当接部41bとが当接した状態となるようにリヤハウジング14及びシリンダブロック11を配置する。なお図2(a)は、この状態においてもリヤハウジング14がシリンダブロック11に当接していない状態を示している。
【0046】
そしてこの状態から、通しボルト20(図1参照)を締め込み、調整部材51の移動規制部51bをロータリバルブ41の当接部41bに対して軸線L方向に押圧するようにしてリヤハウジング14をシリンダブロック11側に対して接合固定する。このとき、通しボルト20の締め込みによって、リヤハウジング14がシリンダブロック11に当接する位置まで押し込まれることになる。この押込みの際には、回転軸16の前方へのスライド移動がラグプレート21等を介してフロントハウジング12の内壁面12aによって規制された状態となる。そしてこのとき、ロータリバルブ41の当接部41bが調整部材51の移動規制部51bを押圧することで、調整部材51は挿通孔50においてその押込み量分だけ後方に圧入位置が変更されることになる(第1工程)。
【0047】
これにより、図2(b)に示すように、調整部材51の移動規制部51bがロータリバルブ41の当接部41bに当接された状態で、リヤハウジング14がシリンダブロック11に接合固定される。つまり、この状態では、回転軸16のスライド移動が移動規制手段により当接規制された状態、即ち、回転軸16のスライド移動可能量がゼロとされた状態となるように、挿通孔50における調整部材51の圧入位置が基準位置に仮決めされている。
【0048】
なお、本実施形態では、回転軸16に対するロータリバルブ41の圧入強度が挿通孔50に対する調整部材51の圧入強度よりも大きく設定されている。そのため、前記第1工程において調整部材51とロータリバルブ41との間に押圧力が作用しても、回転軸16に対するロータリバルブ41の圧入位置(圧入深さ)が変更されることなく挿通孔50に対する調整部材51の圧入位置(圧入深さ)が変更される。
【0049】
そして図2(c)に示すように、図2(b)の状態(図2(c)では二点鎖線で示す)から、ハウジング10の外部に突出されている回転軸16の前端面16bを後方に向けて押圧することで、ハウジング10に対して回転軸16をクリアランスX分だけスライド移動させる(第2工程)。したがって、ロータリバルブ41の当接部41bが調整部材51の移動規制部51bを押圧することで、調整部材51は挿通孔50においてクリアランスX分だけ後方に押し込まれる。これにより、移動規制手段と回転軸16との間に、クリアランスXが形成されることとなる。なお、前述の回転軸16の後方への押圧作業は、ネジ式の送り機構等を有する自動機などによって行われる。
【0050】
上記構成の本実施形態においては、次のような効果を奏する。
(1)第1工程においては、調整部材51を、リヤハウジング14に対して、回転軸16のスライド移動可能量をゼロとする基準位置まで圧入する。つまり、移動規制手段における実際の当接箇所が当接された状態を、調整部材51の基準位置(ゼロ点位置)としている。従って、第2工程において、調整部材51の圧入位置を、当接状態にある移動規制部51bと当接部41bとが離間する方向へ所定量(クリアランスX相当量)だけ基準位置から変更すれば、回転軸16のスライド移動可能量は精度良く前記所定量に調整されることとなる。言い換えれば、回転軸16のスライド移動可能量が、移動規制部51bや当接部41bの加工精度の影響を受けることなく、精度良く前記所定量に調整される。
【0051】
(2)第2工程は、回転軸16を移動規制部51bに向かって前記所定量(クリアランスX相当量)だけ押し込むことで行われる。回転軸16を移動規制部51bに向かって前記所定量だけ押し込めば、調整部材51は、当接部41bによって押圧されることで、当接状態にある移動規制部51bと当接部41bとが離間する方向へ前記所定量だけ基準位置から圧入位置が変更される。つまり、第2工程においては、例えば調整部材51を押圧用工具によって直接的に押圧するのではなく、回転軸16及びロータリバルブ41を介して間接的に調整部材51を押圧するようにしている。従って、例えば、調整部材51を、押圧用工具が入り込み難い位置に配置する構成を採用したとしても、第2工程を行うことが容易となる。
【0052】
(3)圧縮機は、エンジンEgとの間での動力伝達のために、回転軸16の一部がハウジング10外に露出される構成である。そして、第2工程における回転軸16の押込みは、該回転軸16の露出部分において行われる。従って、例えば、ハウジング10の組立済みの状態つまり調整部材51がハウジング10外に露出されていない状態においても第2工程を行うことができる。よって、従来の圧縮機の組立手順を殆ど変更することなく、つまり従来の圧縮機の製造設備を殆ど変更することなく、調整部材51の圧入位置を、当接状態にある移動規制部51bと当接部41bとが離間する方向へ前記所定量だけ基準位置から変更することができる。
【0053】
(4)第1工程は、シリンダブロック11とリヤハウジング14との接合固定に起因して調整部材51が押圧されることで、この接合固定工程と同時に行われる。つまり、本発明によれば、専用の第1工程を必要とせず、回転軸16のスライド移動可能量の調整を安価に行うことができる。
【0054】
(5)仮に軸線L方向へのスライド移動可能量が過大に調整されてしまった場合には、吸入弁機構35において導入通路45の出口45aと吸入連通路43の入口43aとが互いに軸線L方向に大きくずれる虞がある。この場合、これが吸入室28からシリンダボア11aへの冷媒導入量が不足する原因に繋がるなど、冷媒導入機能に支障を及ぼし兼ねない。したがって、このようなロータリバルブ41を備えた態様において本実施形態を適用して、回転軸16のスライド移動可能量の調整精度の向上を図ることは、特に有効であるといえる。
【0055】
(6)ロータリバルブ41の外周面41aと、バルブ収容室42の内周面42aとは、ロータリバルブ41をバルブ収容室42において回転可能に支持するためのすべり軸受面を構成し、回転軸16はロータリバルブ41を介することでハウジング10に回転可能に支持されている。即ち、ロータリバルブ41は、回転軸16とロータリバルブ41との一体構造物においてバルブ収容室42の内周面42aから径方向の外力を受ける支持箇所とされている。
【0056】
つまり、このような構成においては、回転軸16に対するロータリバルブ41の圧入強度は、前述の外力に対して充分な強度に設定される必要がある。このような構成においては、例えば、回転軸16に対するロータリバルブ41の圧入位置(圧入深さ)を調整するために比較的大きな力が必要となる。そのため、例えば、この調整によって回転軸16のスライド移動可能量の調整を行うことは困難である。
【0057】
一方、調整部材51は、軸線L方向への外力のみが作用する部材として構成されていればよく、挿通孔50に対する調整部材51の圧入強度は、比較的小さな強度とすることが可能である。しかも調整部材51に対しては冷媒の圧縮に伴う圧縮荷重が作用しないため、前述の圧入強度は可及的に小さく設定され得る。したがって、回転軸16のスライド移動可能量の調整が容易になる。
【0058】
(第2実施形態)
図3に示すように本実施形態においては、調整部材51がシリンダブロック11に圧入固定されている点が上記第1実施形態とは異なる。
【0059】
即ち、挿通孔50は、シリンダブロック11の後端面に形成された延出部11bにおいて、バルブ収容室42と吸入室28とを連通するようにして設けられている。回転軸16は、この挿通孔50に圧入固定された調整部材51の移動規制部51bと当接部41bとの当接によって、後方へのスライド移動が規制される。
【0060】
調整部材51を挿通孔50において位置決めする際には、図4(a)に示すように、シリンダブロック11にリヤハウジング14を接合固定する前の状態で、調整部材51を、挿通孔50に対して後方から圧入する。そして、挿通孔50において調整部材51を前方に押し込み、移動規制部51bを介してロータリバルブ41の当接部41bを前方に押圧する(第1工程)。これにより、回転軸16のスライド移動が移動規制手段により当接規制された状態、即ち、回転軸16のスライド移動可能量がゼロとされた状態となるように、挿通孔50における調整部材51の圧入位置が基準位置に仮決めされる。
【0061】
そしてこの状態から、図4(b)に示すように、前記第1の実施形態と同様に、回転軸16の前端面16bを後方側に押圧することで、調整部材51を挿通孔50においてスライド移動させて所定量のクリアランスXを形成する。
【0062】
本実施形態においても上記第1実施形態の(1)、(2)、(3)、(5)、(6)と同様な効果を奏する。
(第3実施形態)
図5に示すように本実施形態においては、調整部材51がハウジング10側ではなく回転軸16側のロータリバルブ41に圧入固定されている点が上記第1実施形態とは異なる。
【0063】
即ち、ロータリバルブ41の筒内空間44を構成する内孔60には、ロータリバルブ41とは別部材とされた、アルミニウム系の金属材料からなる円筒状の調整部材61が圧入固定されている。調整部材61は中央部に外部冷媒回路から吸入室28への冷媒ガスの導入を許容する透孔61aを備えている。調整部材61は、その後端面61bがロータリバルブ41の後端面よりも後方に突出されるようにして配設されている。
【0064】
本実施形態では、吸入室28において前方を臨むリヤハウジング14の前面14aが、回転軸16の後方へのスライド移動を当接規制する移動規制部として機能する。そして、調整部材61の後端面61bが、移動規制部と当接する当接部として機能する。
【0065】
調整部材61をロータリバルブ41の内孔60において位置決めする際には、先ず、調整部材61を、内孔60に対して、リヤハウジング14がシリンダブロック11に接合された完成状態よりも浅い位置まで圧入する。
【0066】
そして図6(a)に示すように、リヤハウジング14の前面14a側をシリンダブロック11の後面側に対向するように配置し、通しボルト20(図1参照)を締め込み、移動規制部(前面14a)を介して当接部(後端面61b)を前方に押圧するようにしてリヤハウジング14を接合固定する(第1工程)。これにより、回転軸16のスライド移動が移動規制手段により当接規制された状態、即ち、回転軸16のスライド移動可能量がゼロとされた状態となるように、内孔60における調整部材61の圧入位置が基準位置に仮決めされる。
【0067】
そしてこの状態から、図6(b)に示すように、前記第1実施形態と同様に、回転軸16の前端面16bを後方側に押圧することで、調整部材61を内孔60においてスライド移動させて所定量のクリアランスXを形成する(第2工程)。
【0068】
本実施形態においては上記第1実施形態の(1)〜(6)と同様な効果を奏する。
なお、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で例えば以下の態様でも実施できる。
【0069】
○ 第1及び第2の実施形態では、調整部材51が挿通孔50に内嵌圧入される構成としたが、例えば、ハウジング10において軸線L方向に突出する凸部を設け、この凸部に対して調整部材51を軸線L方向にスライド移動可能に外嵌圧入する構成においても本発明の調整方法を適用可能である。
【0070】
○ 第3の実施形態では、調整部材61がロータリバルブ41の内孔60に対して内嵌圧入される構成とした。これに代えて、ロータリバルブ41の後端を後方に延長するとともに、調整部材61の外径及び内径を大径化し、この調整部材61を、前述のロータリバルブ41の延長部分の外周面上において軸線L方向にスライド移動可能に外嵌圧入する構成においても本発明の調整方法を適用可能である。
【0071】
○ 前記実施形態では、リヤハウジング14やロータリバルブ41に対して圧入固定した調整部材51,61を利用してクリアランスXを調整したが、調整部材51,61を用いず、回転軸16に対するロータリバルブ41の圧入位置を調整することでクリアランスXを調整するようにしてもよい。この場合、ロータリバルブ41の当接部41bと、該当接部41bと当接するリヤハウジング14の前面(移動規制部)14aとの間の所定量のクリアランスが、前記クリアランスXとなる。
【0072】
○ ロータリバルブ41が回転軸16に一体形成された構成において本発明の調整方法を適用してもよい。
○ 前記実施形態ではロータリバルブ41を用いた吸入弁機構35を採用したが、これに代えて、リードバルブタイプの吸入弁機構を採用した構成において本発明の調整方法を適用してもよい。
【0073】
○ ワッブルタイプの容量可変型圧縮機において本発明の調整方法を適用してもよい。
○ 片頭ピストンを備えた固定容量型ピストン式圧縮機において本発明の調整方法を適用してもよい。
【0074】
○ 両頭ピストン式の圧縮機において本発明の調整方法を適用してもよい。
○ 斜板23に換えてウエーブカムをカム体として用いた、ウエーブカムタイプのピストン式圧縮機において本発明の調整方法を適用してもよい。
【0075】
○ 例えばスクロールタイプやベーンタイプ等、ピストン式以外の圧縮機において本発明の調整方法を適用してもよい。
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0076】
(1)前記ロータリバルブは、回転軸とは別部材とされるとともに、回転軸に対して軸線方向に圧入固定され、回転軸の軸線方向へのスライド移動可能量は、回転軸に対するロータリバルブの圧入位置を変更することで所定量とされる請求項5に記載の回転機械の調整方法。
【0077】
(2)ハウジングに回転可能に支持された回転軸の回転運動をピストンの往復運動に変換するとともにこのピストンの往復運動に基づいてガス圧縮を行う圧縮機構を備えたピストン式圧縮機であって、
前記回転軸の端部には、この回転軸と同期回転することで、ピストンが収容されたシリンダボアと吸入圧力領域との間の冷媒通路を開閉可能なロータリバルブが圧入固定され、このロータリバルブの外周面と、ハウジングにおいてロータリバルブを収容するために設けられたバルブ収容室の内周面とですべり軸受面が構成されるとともに、回転軸がロータリバルブを介することでハウジングに回転可能に支持されているピストン式圧縮機において、
前記回転体の軸線方向へのスライド移動可能量を所定量に当接規制する移動規制手段を備え、該移動規制手段は、回転体の軸線方向一方側へのスライド移動を、ハウジングに設けられた移動規制部と回転体に設けられた当接部との当接により規制する構成であって、前記移動規制部及び当接部の一方は、該部が設けられるハウジング又は回転体に対して回転体の軸線方向に圧入固定された調整部材によって提供されてなることを特徴とするピストン式圧縮機。
【0078】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜5に記載の発明によれば、回転体のスライド移動可能量の調整精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態のピストン式容量可変型圧縮機の縦断面図。
【図2】(a),(b)及び(c)は、圧縮機の調整手順を説明する図。
【図3】第2実施形態を示す要部拡大断面図。
【図4】(a)及び(b)は、圧縮機の調整手順を説明する図。
【図5】第3実施形態を示す要部拡大断面図。
【図6】(a)及び(b)は、圧縮機の調整手順を説明する図。
【図7】(a)は従来のピストン式圧縮機の概要を示す縦断面図であり、(b)は同圧縮機の要部拡大断面図。
【符号の説明】
10…ハウジング、11…第1ハウジング構成体としてのシリンダブロック、11a…シリンダボア、14…第2ハウジング構成体としてのリヤハウジング、14a…リヤハウジングの前面(移動規制部)、16…回転体としての回転軸、21…ラグプレート、23…斜板、25…ピストン、27…シュー、28…吸入圧領域としての吸入室、41…ロータリバルブ(16,21,23,25,27,41は圧縮機構を構成する)、41a…ロータリバルブの外周面、41b…当接部、42…バルブ収容室、42a…バルブ収容室の内周面、51,61…調整部材、51b…移動規制部、61b…当接部としての調整部材の後端面。

Claims (5)

  1. ハウジングに回転体が回転可能に支持されているとともに、回転体の軸線方向へのスライド移動可能量を所定量に当接規制する移動規制手段を備え、該移動規制手段は、回転体の軸線方向一方側へのスライド移動を、ハウジングに設けられた移動規制部と回転体に設けられた当接部との当接により規制する構成であって、前記移動規制部及び当接部の一方は、該部が設けられるハウジング又は回転体に対して回転体の軸線方向に圧入固定された調整部材によって提供されてなる回転機械において、
    前記調整部材を、該部材が所属するハウジング又は回転体に対して、回転体のスライド移動可能量をゼロとする基準位置まで圧入する第1工程と、
    前記調整部材の圧入位置を、当接状態にある移動規制部と当接部とが離間する方向へ前記所定量だけ基準位置から変更することで、回転体のスライド移動可能量を所定量とする第2工程と
    からなることを特徴とする回転機械の調整方法。
  2. 前記第2工程は、回転体を移動規制部に向かって前記所定量だけ押し込むことで行われる請求項1に記載の回転機械の調整方法。
  3. 前記回転機械は、外部駆動源との間での動力伝達のために、回転体の一部がハウジング外に露出される構成であり、前記第2工程における回転体の押込みは、該回転体の露出部分において行われる請求項2に記載の回転機械の調整方法。
  4. 前記ハウジングは、複数のハウジング構成体を互いに接合固定することで構成されており、第1ハウジング構成体には回転体が回転可能に支持されているとともに、該第1ハウジング構成体に隣接する第2ハウジング構成体には移動規制部が設けられており、前記第1工程は、第1ハウジング構成体と第2ハウジング構成体との接合固定に起因して調整部材が押圧されることで、該接合固定工程と同時に行われる請求項1〜3のいずれかに記載の回転機械の調整方法。
  5. 前記ハウジング内には、回転体としての回転軸の回転によってシリンダボア内でピストンが往復動されることでガス圧縮を行う圧縮機構が収容されており、前記回転軸の端部にはロータリバルブが設けられ、該ロータリバルブは、回転軸と同期回転することでシリンダボアと吸入圧力領域との間の通路を開閉可能な構成であって、前記ロータリバルブに当接部が設けられている請求項1〜4のいずれかに記載の回転機械の調整方法。
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