JP3847409B2 - クロマトグラフィーの試料導入条件決定法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クロマトグラフィーの試料導入時間および試料導入間隔を決定する方法に関する。また、本発明は並列接続された複数のカラムを用いたクロマトグラフィー連続分離法に必要なカラムの数を決定する方法に関する。より詳細には、少量の試料を用いて1回だけ予備試験を行なうことによって、カラムの数を決定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
液体試料中に含まれている複数の成分を分離する方法として、クロマトグラフィーによる分離法が広く用いられている。
クロマトグラフィーによって多量の試料を処理するために、さまざまな技術が提案されている。例えば、カラムの径を大きくして充填剤の量を増やし、1つのカラムで処理することができる量を多くする方法がある。しかし、この方法では溶離液がカラムを素通りしてしまうチャンネリング現象が生じることが多い。このため、分離される成分の純度が低下し、所期の目的を達成できないことがある。したがって、分離される成分の純度を維持するためには、カラムの径を一定値以下に制限しなければならない。そこで、複数のカラムを並用して分離する方法が開発され、今日でも多用されている。この方法によれば、原理的に多量の成分を精度良く分離することが可能である。
【0003】
一方、近年ではクロマトグラフィーによって試料を連続的に処理することが求められている。このような連続処理のためには、複数のカラムを並列に接続し、試料を一定の導入時間をかけて順番にカラムに導入して行く方法が有効である。こうして最後のカラムまで試料を導入し終えたら、最初に導入したカラムから試料を再度導入し、このサイクルを繰り返すことによって系を止めずに連続的な処理を行なうことができる。
このような複数のカラムを並列接続した系を用いて成分を分離するときには、なるべく試料導入時間を長くして1本のカラムに対して多くの試料を一度に導入するとともに、次回の導入までの間隔をできるだけ短くするのが好ましい。分離される成分の純度を許容範囲内に保ちながら、最適な条件を見出すことができれば、カラムの本数を減らすことができる。カラムの本数を減らすことができれば、系が簡単になり、分離操作が単純化してコスト削減にもつながる。
従来は、試料を何度もカラムに導入して溶出曲線を取得する予備試験を繰り返すことによって、カラムの本数を決定していた。しかしながら、貴重な試料を用いる場合には、予備試験を複数回行なうことが許されない場合がある。このような場合には、正確な最適条件を見出す手段がなく、カラムの最小数を求めることもできなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、このような従来技術の問題点を解消し、1回の予備試験で最適な試料導入時間、試料導入間隔を求め、最小のカラム本数を正確に求めることができる方法を提供することを目的とした。また、複数回予備試験を行なうことが許されない貴重な成分を分離する場合に、最小限の予備試験で効率のよい分離条件を見出すことができる方法を提供することをも目的とした。
【0005】
【課題を解決するための手段】
これらの課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、予備試験で求めた各成分のピーク時間と分散値を基礎としてシミュレーションを行なうことによって、最適な試料導入時間、試料導入間隔およびカラムの本数を正確に決定することができることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、微量の試料をカラムに導入して溶出液の吸光度を測定することによって溶出曲線を作成し、この溶出曲線から分離すべき各成分のピーク時間μn'と分散σn'2を求め、
式(1)の溶出曲線に基づいて、試料導入時間hおよび試料導入開始から次の試料導入開始までの試料導入間隔Tを変えてシミュレーションを行なうことによって、分離すべき成分が許容純度を維持できる最大試料導入時間hmaxおよび最小試料導入間隔Tminを求めることを特徴とする、クロマトグラフィーの試料導入時間および試料導入間隔を決定する方法:
【数2】
Figure 0003847409
(上式において、mは1つのカラムへの試料導入回数、aは分離すべき成分数であり、
μn = μn' + h/2
σn 2 = σn '2+ h2/12 である)
を提供するものである。
【0006】
また、本発明は、並列接続された複数のカラムに一定の試料導入時間をかけて試料を間隔を空けずにかつ重ならないように順次導入し、最後のカラムに導入後さらに最初のカラムから順番に試料を導入する操作を繰り返し、各カラムから溶出される成分を検出器で検出しながら必要な成分を分離するクロマトグラフィーによる連続分離法に必要な最小のカラムの本数を決定する方法であって、上記の方法にしたがって最大試料導入時間hmaxおよび最小試料導入間隔Tminを求め、Tmin/hmax(小数点以下繰り上げ)を必要なカラムの本数とする、ことを特徴とする、クロマトグラフィーによる連続分離法に必要な最小のカラムの本数を決定する方法を提供するものである。
【0007】
本発明の予備試験は、極めて少量の試料があれば行なうことができる。通常は、1〜10μl程度の試料があれば十分である。予備試験は導入時間を無視しうる程度であることが必要とされるため、多量の試料を導入してはならない。
予備試験には、分離を行なう系に使用されているカラムと同条件のカラムを用いる。すなわち、充填剤の種類および量、カラムの径などを一致させておく必要がある。また、試料導入速度、溶離液および成分の検出方法も一致させておく必要がある。成分の検出方法は、紫外線などを照射して溶出液の吸光度を測定することによって行なうのが一般的である。予備試験は、分離を行なう系の中のカラムを用いて行なってもよい。
予備試験によって得られた溶出曲線から、分離すべき成分のピーク時間μn'と分散σn'2を求める。試料の導入量を増やして試料導入時間がhになったときの各試料のピーク時間μnと分散σn 2は、これらの値に基づいて以下の式で表される(Kubin, M,"Beitrag zur Theorie der Chromatographie", Collect. Czech.Chem.Commun.,30,1104-1118(1965))。なお、nは成分の種類を示す。
【数3】
μn = μn' + h/2
σn 2 = σn '2+ h2/12
【0008】
吸光度Aは、ピーク時間μと分散σの関数f(μ,σ)であることから、溶出曲線は以下の式で表される。式中、aは分離すべき成分の数である。
【数4】
Figure 0003847409
関数fはガウス分布であることから、同じカラムに試料を繰り返して導入した場合の溶出曲線は、以下の式で表される。式中、Tは試料導入開始から次の試料導入開始までの試料導入間隔である。
【0009】
【数5】
Figure 0003847409
この式を利用してシミュレーションを行なえば、分離後の各成分の純度を予測することができる。成分の純度を許容できる範囲内に維持しながら、可能な限りhを大きくし、Tを小さくすることによって、hmaxとTminを求めることができる。このhmaxとTminにより分離操作を行なうことによって、1本のカラムで効率よく成分を分離することが可能になる。
また、Tmin/hmaxを計算し、小数点以下を繰り上げることによって最低限必要なカラムの本数を求めることもできる。このようにして求めた試料導入時間hmaxで必要最小限のカラムに順次試料を導入して行けば、並列接続の系で非常に効率のよい分離を行なうことができる。
【0010】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す成分、割合、操作順序等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下の実施例に示す具体例に制限されるものではない。
(実施例1)
本実施例において、下記構造を有するフマル酸セモチアジル(R体)とその光学異性体(S体)からなるラセミ体を、純度98%以上でR体とS体に光学分割する際の最適な試料導入条件を決定した(R体とS体の分配係数差1以上)。
【化1】
Figure 0003847409
ラセミ体は4重量%のエタノール溶液にして試料とした。なお、本明細書でいう純度は、R体とS体の濃度差を、R体とS体の総濃度で割った値である。
予備試験の系として、単一カラムからなるクロマトグラフを使用した。カラムは、内径4.6mm、長さ250mmの Chiralpak AS (ダイセル化学(株)製:充填剤粒子径10μm)を使用した。カラム入口には試料を注入するための6ポートバルブを設置し、カラム出口にはフマル酸セモチアジルを検出するための検出器を設置した。
【0011】
シリンジを用いて6ポートバルブから試料1μlを0.6ml/分の速度で導入した。その後、溶離液である100%エタノールを0.6ml/分の速度で導入した。カラム出口から出てくる溶出液に300nmの紫外線を照射して吸光度変化を測定することによって、R体とS体のピーク時間μn'と分散σn'2を求めた。結果は以下のとおりであった。
μR' = 8.4min σR2 = 0.068min2
μS' = 17.1min σS2 = 0.36 min2
式(1)にしたがって、S体の純度を98%に固定し、試料導入時間を変動させてR体の純度をシミュレーションした。結果は図1に示すとおりであった。これとまったく同じ条件で実際に試料導入時間を変動させてR体の純度を測定した結果も図1に併せて示した。シミュレーション結果と実験結果は極めてよく符合した。いずれの場合も、R体純度が98%以上を維持する最大試料導入時間は2分であることを示している。
同様にして、S体の純度を98%に固定し、試料導入時間を2分にして試料導入間隔を変動させることによってR体の純度をシュミレーションした。また、これと同じ条件で実際に2回の試料導入の間隔を変動させてR体の純度を測定した。結果は図2に示すとおりであった。両者の結果はほぼ符合し、試料導入間隔が16分以上であればR体の純度はほぼ100%であることを示していた。
【0012】
(実施例2)
本実施例において、並列接続された複数のカラムで構成される系によるラセミ体溶液の分割を行なった。
本実施例で用いた試料およびカラムは実施例1と同一である。また、並列接続された複数のカラムで構成される系として、図3に示す系を用いた。また、カラムの本数は実施例1の結果を踏まえ、最小試料導入間隔を最大試料導入時間で割った値である8本にした。
クロマトグラフのカラム入口に設置した各バルブの向きは、バルブ(5)のみF方向とし、その他のバルブ(6〜12)はE方向とした。また、カラム出口に設置した各バルブの向きは、バルブ(21)をA方向とし、バルブ(22〜28)をD方向とした。また、検出器出口に設置したバルブ(33、34)の向きはH方向とした。また、洗浄用溶離液の流路に設置されたバルブ(35、36)は共に閉じておいた。
【0013】
ポンプ(4)を稼動して試料貯槽(2)中のラセミ体溶液を第1カラム(13)から順番に0.6ml/分で導入した。各カラムへの導入時間は2分とした。1本のカラムへの導入が終了した時点で、そのカラムの入口バルブをE方向にして溶離液の導入を開始し、同時に次のカラムの入口バルブをF方向にしてラセミ体溶液の導入を開始した。このようにして第1カラム(13)にラセミ体溶液の導入を開始してから16分後に第8カラム(20)への導入が完了した。その後も、続けて第1カラム(13)から同様にラセミ体溶液の導入を継続し、計1時間導入を行なった。その後、全カラムからフマル酸セモチアジルが溶出するまで溶離液をカラムに導入し続けた。
【0014】
カラム出口のバルブ(21〜28)の向きは、以下のa)およびb)にしたがって制御した。条件a)およびb)は、第m成分検出器によって第nカラムの溶出液内に第m成分を検出した場合について一般化して記載したものである(第1成分がR体、第2成分がS体に対応する)。成分を検出した時点でa)にしたがってバルブを操作し、ただちに検出器の洗浄を開始した。検出器の洗浄が完了した時点で、さらにb)にしたがってバルブを操作した。なお、以下のa)およびb)において、m+1が2を越える場合はm+1を1とし、n+1が8を越える場合はn+1を1とする。
a)第m+1成分検出器に他のカラムの溶出液が導入されていない場合は、第nカラム溶出液を第m+1成分検出器に導き、それ以外の場合は第nカラム溶出液を第m成分受器に導いた。
b)第n+1カラム溶出液がいずれの検出器にも導かれていない場合は、第n+1カラム溶出液を第m成分検出器に導いた。
【0015】
検出器の洗浄は、成分が検出された時点で溶離液のポンプ(37)を駆動し、バルブ(35、36)を開き、検出器出口のバルブ(33、34)をG方向にして溶離液を3.6ml/分で30秒間流すことによって行なった。洗浄終了時には、ポンプ(37)を止め、バルブ(35、36)を閉じて、検出器出口のバルブ(33、34)をH方向に戻した。
この方法にしたがって、ラセミ体溶液を1時間カラムに導入し続けた後、溶離液を流すことによってすべてのR体およびS体の溶出が完了したところで系を止めた。第1成分受器に入っているR体の純度と、第2成分受器に入っているS体の純度を測定したところ、R体は99.6%であり、S体は98.7%であった。
【0016】
【発明の効果】
本発明の方法を用いれば、1回の予備試験で最適な試料導入時間と試料導入間隔を求めることができる。また、これらの値に基づいて、複数のカラムを並列接続した系で分離を行なう際のもっとも効率が良いカラムの本数を正確に求めることができる。分離条件を最適化するために何度も予備試験を行なう必要がないため、本発明の方法は貴重な試料を分離する際に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】試料導入時間とR体の純度の関係図である。
【図2】試料導入間隔とR体の純度の関係図である。
【図3】並列接続された複数のカラムで構成される系の概略図である。
【符号の説明】
1: 溶離液貯槽
2: 試料貯槽
3、4、37: ポンプ
5〜12: バルブ(3方弁)
13〜20: カラム
21〜28: バルブ(5方弁)
29: 第2成分検出器
30: 第1成分検出器
31: 第1成分受器
32: 第2成分受器
33、34: バルブ(3方弁)
35、36: 開閉バルブ

Claims (2)

  1. 微量の試料をカラムに導入して溶出液の吸光度を測定することによって溶出曲線を作成し、この溶出曲線から分離すべき各成分のピーク時間μn'と分散σn'2を求め、式(1)の溶出曲線に基づいて、試料導入時間hおよび試料導入開始から次の試料導入開始までの間隔Tを変えてシミュレーションを行なうことによって、分離すべき成分が許容純度を維持できる最大試料導入時間hmaxおよび最小試料導入間隔Tminを求めることを特徴とする、クロマトグラフィーの試料導入時間および試料導入間隔を決定する方法。
    Figure 0003847409
    (上式において、mは1つのカラムへの試料導入回数、aは分離すべき成分数であり、 μn = μn' + h/2 、σn2 = σn'2+ h2/12である)
  2. 並列接続された複数のカラムに一定の試料導入時間をかけて試料を間隔を空けずにかつ重ならないように順次導入し、最後のカラムに導入後さらに最初のカラムから順番に試料を導入する操作を繰り返し、各カラムから溶出される成分を検出器で検出しながら必要な成分を分離するクロマトグラフィーによる連続分離法において、必要な最小のカラムの本数を決定する方法であって、請求項1の方法にしたがって最大試料導入時間hmaxおよび最小試料導入間隔Tminを求め、Tmin/hmax(小数点以下繰り上げ)を必要なカラムの本数とする、ことを特徴とする、クロマトグラフィーによる連続分離法に必要な最小のカラムの本数を決定する方法。
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