JP3832384B2 - 車両の衝突予測波形の生成方法 - Google Patents

車両の衝突予測波形の生成方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両衝突時の衝突波形を予測し時間軸波形として生成する車両の衝突予測波形の生成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、エアバッグシステムを装備した車両では、当該車両の衝突を感知してエアバッグを作動(膨張・展開)させるためにエアバッグセンサが配設されている。このエアバッグセンサの衝撃感度について種々の特性のものを開発するような場合、その衝撃感度の評価は、試験対象のエアバッグセンサを実車に取り付けて実際の衝突試験を繰り返し、各試験でのエアバッグセンサに加わる減速度等のデータを衝突波形として採取し分析することで行われている。
【0003】
特に、近年では、エアバッグが作動・展開することにより乗員に作用する力を、種々の条件に応じて好適に調節できるようにすることが求められるようになりつつある。すなわち、衝突速度やシートベルトの着用状態、或いは乗員の体格などに応じて、エアバッグの展開強さが、非展開および低出力と高出力の3段階で切換制御されるようにすることが求められるようになって来ている。
【0004】
そして、このようにエアバッグの出力を切り換える閾値を決定するためには、エアバッグセンサについて種々の条件下での加速度もしくは減速度データ(Gデータ)が必要とされる。例えば車速について言えば、種々の異なる車速下でのGデータが要求されることになる。このように、エアバッグセンサについて、従来の高出力展開時の性能評価に加えて新たな評価が求められ、しかも、かかる評価を種々の条件下で行うことが必要であるので、採取すべきデータの種類および量は飛躍的に増大しつつある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のような実車を用いての衝突試験は、車両の破壊試験であり試験回数には自ずから限りがある。従って、得られるデータ数も不可避的にある程度限られたものとならざるを得ない。このことは、エアバッグセンサの衝撃感度だけでなく、実車での衝突試験で得られる衝突波形に基づいて採取されるべき他の種々の衝突データについても同様である。
【0006】
また、特に、新車の車体開発と連係してエアバッグセンサの開発が行われるような場合、エアバッグセンサの性能評価は実車を用いての衝突試験に依らざるを得ないので、その実際的な開発活動は車体の開発活動よりもかなり遅れて始められることとなり、その開発スケジュールや期間に大きな制約を受けるという問題がある。
【0007】
このような問題に関連して、衝突時の車体減速度の予測を行う方法や有限要素解析法を用いて衝突シミュレーションを行う方法などが種々試みられているが、何れも実用化に至っていないのが実情である。尚、例えば、特開平7−271290号公報には、車両の衝突シミュレータ及びこれを用いたシミュレーション試験方法が開示されている。
【0008】
周知のように、車両の衝突波形には低周波成分と高周波成分とが含まれており、エアバッグセンサはこの両方の成分に基づいてエアバッグを作動させる閾値が設定されるものであるが、特に、高周波成分については、その予測やシミュレーションが困難で、その方法は確立されていない。
【0009】
この発明は、上記技術的課題に鑑みてなされたもので、実車を用いた所定条件での衝突試験に基づいて、他の条件での車両衝突時の衝突波形を予測し衝突予測波形を生成することができる方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このため、本願発明に係る車両の衝突予測波形の生成方法は、車両が第1所定速度で衝突する際の衝突波形を時間軸波形として求める工程と、上記衝突波形を所定の変換手段により低周波成分と高周波成分とに分離する工程とを備えている。そして、上記低周波成分については、所定の車体変形モデルによるモデル化に基づいた車体のエネルギ吸収特性から、上記第1所定速度での衝突波形の低周波成分に対応するエネルギ値に基づいて、上記第1所定速度よりも低い第2所定速度での低周波成分の衝突波形を時間軸波形として求める。一方、上記高周波成分については、所定の車体振動モデルにより高周波領域での現象をモデル化すると共に、複数の周波数帯域に分解した上で、各周波数帯域での実効値を求めて周波数成分の強度化を行い、該強度化データの上記第1所定速度での衝突波形の高周波成分に対応するエネルギ値に基づいて、上記第1所定速度よりも低い第2所定速度での高周波成分の衝突波形を時間軸波形として求める。そして、上記第2所定速度での高周波成分の衝突波形と低周波成分の衝突波形とを合成し、この第2所定速度での衝突波形を時間軸波形として生成する工程を備えたものである。
【0011】
この場合において、上記車体変形モデルには、好ましくは、バネ体と質量体とで成る解析モデルが用いられ、上記車体振動モデルには、好ましくは、所定の振動を発生する振動子を車体の所定の各部に対応させて成る解析モデルが用いられる。
また、上記変換手段としては、より好ましくは、高速フーリエ変換器が用いられる。
【0012】
更に、以上の場合において、上記高周波成分を複数の周波数帯域に分解する際には、より好ましくは、等比間隔で周波数分割が行われる。
また更に、以上の場合において、衝突における反発領域については、車種に応じて、加速度の減少割合に基づいた補正係数により補正を行うことが好ましい。また更に、以上の場合において、低・中速領域では、第1及び第2の両所定速度の速度差に応じた加速度比に基づいた補正係数による補正を行うことがより好ましい。
【0013】
また更に、以上の場合において、車体重量に差がある場合には、車体重量比に基づいた補正係数による補正を行うことがより好ましい。
また更に、以上の場合において、上記衝突予測波形はエアバッグセンサの衝撃感度評価に用いられても良い。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る車両の衝突予測波形の生成方法の実施の形態を、例えば、エアバッグセンサの衝突性能評価に適用した場合について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る衝突予測波形の生成方法の基本的なアルゴリズムを示す説明図である。尚、このアルゴリズムに基づいた具体的な工程(ステップ)の流れ及び工程内容の説明については後述する。
【0015】
上記図1に示されるように、本実施の形態では、まず、対象車両が衝突する際の実際の衝突波形を得るために、実車を用いて所定速度(このときの速度を第1所定速度と称する。)での衝突試験を行い、その際にエアバッグセンサに加わる振動加速度Gのパルスデータ(衝突波形データ)を時間軸波形として採取する(グラフ▲1▼参照)。
【0016】
このように実車を用いての衝突試験で得られた衝突波形を所定の変換手段により分解し、低周波成分(グラフ▲2▼)と高周波成分(グラフ▲4▼)とに分離する。尚、本実施の形態では、後で詳しく説明するように、この衝突波形の分解に用いる変換手段として、所謂、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を行う変換器を採用した。この変換器は、好ましくはプログラム処理で高速フーリエ変換を行うものである。
【0017】
次に、低周波成分については、所定の車体変形モデルによる単純モデル化に基づいた車体のエネルギ吸収特性から上記第1所定速度での衝突波形の低周波成分に対応するエネルギ値に基づいて、第1所定速度よりも低い第2所定速度での低周波成分の衝突波形を時間軸波形として求める(グラフ▲3▼参照)。
【0018】
この低周波成分を車体のエネルギ吸収特性から予測計算するために、図2に模式的に示すような、質量体3とバネ体4とで成る車体変形モデルを適用した。すなわち、第1所定速度で壁面に衝突する車体が変形してエネルギ吸収を行う現象を、図2に示されるように、質量体3が走行路1上を第1所定速度で走行し、1つのバネ体4を介して壁面2に第1所定速度で衝突する際に、バネ体4が弾性的に変形してエネルギ吸収を行う現象で単純モデル化し、その際のエネルギ吸収特性を解析して、所謂、つぶれ線図を求める。尚、図3は、図2の車体変形モデルによる低周波領域の減速度(G)特性を時間軸波形として求めたもので、実車を用いての衝突波形を高速フーリエ変換器で分解して得られる低周波成分のセンサパルスに相当するものである。
【0019】
そして、上記第1所定速度よりも低い第2所定速度について、上記の車体変形モデルによる単純モデル化に基づいて車体のエネルギ吸収特性を計算し、そのつぶれ線図を求める。次に、速度の2乗比によって両速度でのエネルギ比を計算し、この計算結果に基づいて、図1のグラフ▲3▼に示されるように、第1所定速度よりも低い第2所定速度での低周波成分の衝突予測波形が時間軸波形として得られる。
つまり、所定の車体変形モデルによる単純モデル化に基づいた車体のエネルギ吸収特性から、上記第1所定速度での衝突波形の低周波成分に対応するエネルギ値に基づいて、第1所定速度よりも低い第2所定速度での低周波成分の衝突予測波形が時間軸波形として求められる。
【0020】
一方、高周波成分については、所定の車体振動モデルにより高周波領域での現象をモデル化するとともに、複数の周波数帯域に分解した上で、各周波数帯域での実効値を求めて周波数成分の強度化を行い、該強度化データの上記第1所定速度での衝突波形の高周波成分に対応するエネルギ値に基づいて、上記第1所定速度よりも低い第2所定速度での高周波成分の衝突波形を時間軸波形として求められる。
【0021】
車体の高周波での振動現象をモデル化するために、図4及び図5に模式的に示すように、質量体3とバネ体4とで成る車体変形モデルに対して、特定の振動を発生させる複数の振動子5を車体の各部にそれぞれ対応させた振動モデルを適用した。尚、図6は、図4の車体振動モデルによる高周波領域の減速度(G)特性を時間軸波形として求めたもので、実車を用いての衝突波形を高速フーリエ変換器で分解して得られる高周波成分のセンサパルスに相当するものである。
この車体振動モデルに基づいて、高周波成分を複数の周波数帯域に分解し、それぞれの実効値(RMS値)をとって強度化する。
【0022】
そして、低周波成分における場合と同様の手法でエネルギ計算を行い、上記第1所定速度よりも低い上記第2所定速度での高周波成分の衝突予測波形を時間軸波形として求める(図1のグラフ▲5▼参照)。つまり、上記車体振動モデルによるモデル化に基づいた強度化データの上記第1所定速度での衝突波形の高周波成分に対応するエネルギ値に基づいて、第1所定速度よりも低い上記第2所定速度での高周波成分の衝突予測波形が時間軸波形として求められる。
【0023】
以上のようにして、実車による衝突試験を行った第1所定速度よりも低い第2所定速度について、低周波成分および高周波成分の各々の衝突予測波形を時間軸波形として求めた後、両波形を再構成することにより、低周波および高周波の両成分を含んだ衝突予測波形が得られる(グラフ▲6▼参照)。
【0024】
すなわち、実車を用いた所定条件(第1所定速度)での衝突試験に基づいて、他の条件(第2所定速度)での車両衝突時の衝突波形を予測し衝突予測波形を生成することができる。換言すれば、この第2所定速度については、実車を用いての衝突試験を行うことなく、衝突波形を予測データとして得ることができるのである。特に、車両の衝突波形に含まれる高周波成分について、その予測ができるようになる。
【0025】
この結果、実車を用いての衝突試験の試験回数には限りがあり、得られるデータ数も不可避的にある程度限られたものとならざるを得ないけれども、衝突試験が行えなかった他の条件については、予測データとしての衝突波形をえることができるので、車両の衝突特性についてよりきめ細かな評価を行うことが可能になる。
また、特に、新車の車体開発と連係してエアバッグセンサの開発が行われるような場合でも、車体の開発スケジュールに大きく制約されることなく、エアバッグセンサの性能評価を行うことが可能になり、その開発スケジュールや期間についての自由度を高めることができるようになる。
【0026】
本実施の形態では、上述のようにして得られる衝突波形の予測データ(衝突予測波形)の精度をより高めるために、種々の改良を施した。
精度向上のための改良ポイントの一つとして、実際の衝突波形を低周波成分と高周波成分とに分解する際に用いるフィルタの特性による影響がある。
この周波数成分の分離の際に、従来、一般的な移動平均を用いたフィルタ処理を行った場合、図7において破線で示されるように、低周波領域での位相遅れが大きく、低周波成分についての予測精度に悪影響を及ぼしていた。そこで、移動平均を用いてのフィルタ処理に代えて高速フーリエ変換によるフィルタを用いるようにした。この結果、図7において実線で示されるように、位相遅れが大幅に改善された。
【0027】
また、高周波領域についての予測を行う場合、振動の振幅を強度化することで位相情報が失われてしまうため、高周波成分を幾つかの周波数帯域に分割しておき、予測後にこの分割した各周波数帯域をそれぞれ1つの周波数で代表させて元の振動波形に戻すのであるが、この周波数帯域を等差間隔で分割したのでは、波形を再構成する際に、特定の周波数が強調され、その周波数でのGが大きく表れてしまうという難点があった。そこで、等差間隔に代えて等比間隔で周波数帯域の分割を行うことにより、特定の周波数が強調されることがなくなり、自然な波形が得られた。
【0028】
更に、衝突により車体が潰れた後の反発領域の波形は、本発明による予測結果を乗員シミュレーションに用いる場合に影響を及ぼす。しかしながら、車体が潰れ終わった後の現象であるので、上述のアルゴリズムやその基礎を成す考え方では対処することはできない。このため、図8において破線で示されるように、衝突現象後半での予測波形の精度が十分ではないという難点があった。
【0029】
この点に関して、種々のタイプの実車を用いて多数の衝突試験を行った結果、この反発領域での現象は、車種によってかなり異なるが、同一車種については同様の傾向を示すことが分かった。そして、同一車種の場合、この反発領域では、略同じ一定の割合で加速度が減少することが判った。
そこで、反発領域では、加速度の減少割合(つまり、G曲線の傾斜)を補正係数として任意に入力できるようにし、車種に応じて所要の反発補正係数を入力するようにした。これにより、図8において実線で示されるように、衝突現象後半での予測精度を大幅に高めることができるようになった。
【0030】
また、更に、車速が40km/hよりも低い低・中速度領域では、例えば速度12.8km/hについて、図9において破線で示されるように、速度変化の予測精度が十分ではないという難点があった。この点に関し、実車を用いての衝突試験を重ねた結果、車速が40km/hよりも低い速度領域では、図12及び図13において実線,破線,1点鎖線で示されるように、車体の衝突エネルギ吸収特性にかなりの速度依存性があることが判った。
【0031】
このような低・中速域でのエアバッグの展開/非展開を判断する上で必須とされる初期Gのピークレベルをより高精度で予測するために、速度依存係数による補正係数を入力できるようにし、速度に応じて所要の速度依存係数を入力するようにした。これにより、図9において実線で示されるように、速度変化の予測精度を大幅に高めることができるようになった。
【0032】
上記速度依存係数を求める方法について、図11〜図14を参照しながら、より詳しく説明する。同一車種の実車を用いて各設定速度での衝突試験を積み重ね、各試験での加速度データを時間軸データ(加速度−時間曲線)として採取する(図11参照)。この図11のデータを用いて図12に示すように加速度−変位曲線を求める。
【0033】
そして、図13に示すように、初期Gに対応する変位初期の領域を拡大し、2つの速度の衝突直後における加速度比を算出する。例えば、図13に示されたケース1,2,3を例にとって説明すれば、2つの速度の速度差(ΔV)と加速度比(CSD)は次のようになる。
Figure 0003832384
【0034】
上記のような2つの速度の速度差(ΔV)と加速度比(CSD)の演算を、種々の車種について行った結果、図14に示すようなグラフを得た。このグラフから良く分かるように、速度差(ΔV)が大きくなるにつれて加速度比(CSD)は小さくなるように変化し、加速度比(CSD)と速度差(ΔV)との間には負の相関性あることが判った。そして、第1所定速度に基づいて第2所定速度での予測波形を得る際には、低・中速領域では、両速度の速度差に応じた加速度比(CSD)を補正係数(速度依存係数)として用いるようにした。
【0035】
また、更に、車体重量に差がある場合には、図10において破線で示されるように、速度の予測精度が十分でなく、また、衝突時のエネルギ吸収特性にかなりの違いが生じる。そこで、エネルギ吸収特性をより高精度で予測するために、車体重量比による補正係数を入力できるようにし、重量差に応じて所要の補正係数を入力するようにした。これにより、図10において実線で示されるように、予測精度を大幅に高めることができるようになった。
【0036】
以上のような各種の補正により予測精度が高められた衝突予測波形の生成方法を用いて予測を行った結果を実車による衝突試験結果と比較し、加速度および速度の各データについて予測精度の評価を行った。
図15において、破線は補正による改善前の予測データを、実線は補正による改善後の予測データをそれぞれ示している。また、図16において、実線は補正による改善後の予測データを示している。
【0037】
エアバッグの展開タイミングは、正面衝突の際には、例えば衝突後約30msに設定されるが、これらの図から良く分かるように、このエアバッグ展開タイミングまでの予測精度は上記各補正により確実に向上し、衝突後エアバッグ展開タイミングまでの予測速度は、実験値に対して近い値となっており、エアバッグ展開タイミングの変動は、実用上問題ない小さい範囲(±10%以内)とすることができるため、満足できる予測精度が達成できる。
【0038】
次に、本実施の形態に係る衝突予測波形の生成方法の具体的な工程(ステップ)及びその流れについて、図17〜図19のフローチャートを参照しながら説明する。
本実施の形態に係る方法の実行の開始に当っては、まず、ステップ#1で実車を用いての衝突試験を行い、当該車両が第1所定速度で衝突する際の衝突波形(エアバッグセンサのセンサパルス)を時間軸データG(t)として得る。
【0039】
その後、ステップ#2で、高速フーリエ変換によりセンサパルスを分解する。このとき、前述の理由により、等差間隔ではなく等比間隔で、センサパルスを複数(n+1)の周波数帯域に分割する。例えば、比が1.5の等比間隔で分割して、f=100Hz,f=150Hz,f=225Hz,…、とした。
本実施の形態では、100Hz以下の周波数を低周波成分とし、100Hzを越える周波数を高周波数成分とした。すなわち、ステップ#2の工程により、センサパルスは低周波成分(0〜f)と高周波成分(f〜f)とに分解されることになる。
【0040】
そして、周波数帯域に応じて、低周波成分サブルーチン(ステップ#3L)又は高周波成分サブルーチン(ステップ#3H)が実行される。
すなわち、低周波成分(0〜f:G0(t))については、図18に示すサブルーチンが実行される。まず、ステップ#11でセンサパルスの低周波成分G0(t)が呼び出され、これを2重積分して変位Xを求める(ステップ#12)。そして、G0(t)−X線図を求める(ステップ#13)。
【0041】
次に、実車試験における衝突速度(第1所定速度)よりも低い所定の速度を第2所定速度として設定すると共に、前述のように、速度の2乗比によって両速度でのエネルギ比を計算し、第2所定速度でのG01(t)−X線図を計算する(ステップ#14)。
【0042】
そして、この計算結果に基づいて、低い速度(第2所定速度)での低周波成分の衝突予測波形を時間軸波形(G01(t))として作成する(ステップ#15)。
この後、前述のように、反発領域補正および速度依存性補正(ステップ#16及び#17)を行い、低周波成分についての補正後の衝突予測波形(G02’(t))を時間軸波形として得る。
【0043】
一方、高周波成分(f〜f:G1(t),f〜f:G2(t),f〜f:G3(t),…,f〜fn+1:Gn(t),)については、各周波数帯域毎に図19に示すサブルーチンが実行される。まず、ステップ#21でセンサパルスの当該周波数帯域の周波数成分Gm(t)が呼び出され(但し、1≦m≦n)、当該周波数帯域での実効値(RMS)を求めて周波数成分の強度化が行われる(ステップ#22〜#24)。
【0044】
すなわち、まず、Gm(t)を2乗し(2乗値Gm1(t):ステップ#22)、これを平均化する(平均値Gm2(t):ステップ#23)。尚、この平均化においては、時間tの差分dtを例えば0.1ms(dt=0.1ms)とし、また、k=100とした。そして、上記平均値の平方根を求める(Gm3(t):ステップ#24)。
【0045】
このようにして得られたGm3(t)について、低周波成分における場合と同様のエネルギ計算に基づいて、低い速度(第2所定速度)でのGm3’(t)−X線図を計算し(ステップ#25〜#27)、この第2所定速度での高周波成分の衝突予測波形を時間軸波形(Gm3’(t))として作成する(ステップ#28)。この後、前述のように、振動波形に逆変換する(ステップ#29)。
【0046】
以上のようにして、全ての周波数帯域について、第2所定速度での衝突予測波形を得た後、これらのパルス(波形)を再構成する(図17:ステップ#4)。そして、この再構成して得られた波形に対して、前述の重量差補正を行い(ステップ#5)、最終的に、低周波および高周波の両成分を含んだ第2所定速度での衝突予測波形(予測センサパルス)が得られる(ステップ#6)。
すなわち、実車を用いた所定条件(第1所定速度)での衝突試験に基づいて、他の条件(第2所定速度)での車両衝突時の衝突波形を予測し衝突予測波形を生成することができるのである。
【0047】
尚、本発明は、以上の実施態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良あるいは設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【0048】
【発明の効果】
本願発明に係る車両の衝突予測波形の生成方法によれば、実車を用いた所定条件(第1所定速度)での衝突試験に基づいて、他の条件(第2所定速度)での車両衝突時の衝突波形を予測し衝突予測波形を生成することができる。換言すれば、この第2所定速度については、実車を用いての衝突試験を行うことなく、衝突波形を予測データとして得ることができる。特に、車両の衝突波形に含まれる高周波成分について、その予測ができるようになる。
この結果、実車を用いての衝突試験の試験回数には限りがあり、得られるデータ数も不可避的にある程度限られたものとならざるを得ないけれども、衝突試験が行えなかった他の条件については、予測データとしての衝突波形をえることができるので、車両の衝突特性についてよりきめ細かな評価を行うことが可能になる。
【0049】
この場合において、低周波成分についての車体変形モデルには、バネ体と質量体とで成る解析モデルが用いられ、高周波成分についての車体振動モデルには、所定の振動を発生する振動子を車体の所定の各部に対応させて成る解析モデルが用いられるので、車体のエネルギ特性を予測するに際して、十分に確立された解析手法を適用することができる。
【0050】
また、以上の場合において、車両が第1所定速度で衝突するとき衝突波形を低周波成分と高周波成分とに分解する際に用いる変換手段として、高速フーリエ変換器を用いたことにより、移動平均を用いたフィルタ処理を行った場合に比して、低周波領域での位相遅れを抑制することができ、低周波成分についての予測精度をより高めることが可能になる。
【0051】
更に、以上の場合において、上記高周波成分を複数の周波数帯域に分解する際には、等比間隔で周波数分割を行うようにしたことにより、周波数帯域を等差間隔で分割する場合のように、波形を再構成する際に、特定の周波数が強調されてその周波数でのGが大きく表れてしまうことがなくなり、自然な波形が得られるようになる。
【0052】
また更に、以上の場合において、衝突における反発領域については、車種に応じて、加速度の減少割合に基づいた補正係数により補正を行うようにしたことにより、衝突現象後半での予測精度を高めることができる。
【0053】
また更に、以上の場合において、低・中速領域では、第1及び第2の両所定速度の速度差に応じた加速度比に基づいた補正係数による補正を行うようにしたことにより、低・中速域における速度変化の予測精度を高めることができる。
【0054】
また更に、以上の場合において、車体重量に差がある場合には、車体重量比に基づいた補正係数による補正を行うようにしたことにより、車体に重量差がある場合でも、エネルギ吸収特性をより高精度で予測でき、衝突波形の予測精度を高めることができる。
【0055】
また更に、以上の場合において、上記衝突予測波形をエアバッグセンサの衝撃感度評価に用いることにより、特に、新車の車体開発と連係してエアバッグセンサの開発が行われるような場合でも、車体の開発スケジュールに大きく制約されることなく、エアバッグセンサの性能評価を行うことが可能になり、その開発スケジュールや期間についての自由度を高めることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係る衝突予測波形の生成方法の基本的なアルゴリズムを示す説明図である。
【図2】 低周波成分についての車体変形モデルによるモデル化を模式的に示す説明図である。
【図3】 上記車体変形モデルによる低周波成分についてのG特性を示す説明図である。
【図4】 高周波成分についての車体振動モデルによるモデル化を模式的に示す説明である。
【図5】 上記車体振動モデルの衝突状態を模式的に示す説明である。
【図6】 上記車体振動モデルによる低周波成分についてのG特性を示す説明図である。
【図7】 衝突波形分解時におけるフィルタの最適化による低周波領域での位相遅れの改善例を示す説明図である。
【図8】 反発領域での予測精度の改善例を示す説明図である。
【図9】 速度依存係数に基づいた補正による予測精度の改善例を示す説明図である。
【図10】 車体の重量差に基づいた補正による予測精度の改善例を示す説明図である。
【図11】 速度依存係数の算出に用いる加速度−時間データの一例を示す説明図である。
【図12】 上記加速度−時間データに基づいた加速度−変位データの一例を示す説明図である。
【図13】 上記加速度−変位データの要部を拡大して示す説明図である。
【図14】 速度差と速度依存係数の相関性を示す説明図である。
【図15】 補正による予測精度改善前後の加速度−時間データの一例を示す説明図である。
【図16】 補正による予測精度改善前後の速度−時間データの一例を示す説明図である。
【図17】 本実施の形態に係る衝突予測波形の生成方法の具体的な工程を説明するフローチャートである。
【図18】 低周波成分サブルーチンを説明するフローチャートである。
【図19】 高周波成分サブルーチンを説明するフローチャートである。
【符号の説明】
3…質量体
4…バネ体
5…振動子

Claims (8)

  1. 車両が第1所定速度で衝突する際の衝突波形を時間軸波形として求める工程と、
    上記衝突波形を所定の変換手段により低周波成分と高周波成分とに分離する工程と、
    上記低周波成分について、所定の車体変形モデルによるモデル化に基づいた車体のエネルギ吸収特性から上記第1所定速度での衝突波形の低周波成分に対応するエネルギ値に基づいて、上記第1所定速度よりも低い第2所定速度での低周波成分の衝突波形を時間軸波形として求める工程と、
    上記高周波成分について、所定の車体振動モデルにより高周波領域での現象をモデル化すると共に、複数の周波数帯域に分解した上で、各周波数帯域での実効値を求めて周波数成分の強度化を行い、該強度化データの上記第1所定速度での衝突波形の高周波成分に対応するエネルギ値に基づいて、上記第1所定速度よりも低い第2所定速度での高周波成分の衝突波形を時間軸波形として求める工程と、
    第2所定速度での高周波成分の衝突波形と低周波成分の衝突波形とを合成し、上記第2所定速度での衝突波形を時間軸波形として生成する工程と、
    を備えたことを特徴とする車両の衝突予測波形の生成方法。
  2. 請求項1に記載された車両の衝突予測波形の生成方法において、上記車体変形モデルはバネ体と質量体とで成る解析モデルであり、上記車体振動モデルは、所定の振動を発生する振動子を車体の所定の各部に対応させて成る解析モデルであることを特徴とする車両の衝突予測波形の生成方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載された車両の衝突予測波形の生成方法において、上記変換手段は高速フーリエ変換器であることを特徴とする車両の衝突予測波形の生成方法。
  4. 上記高周波成分を複数の周波数帯域に分解する際には、等比間隔で周波数分割を行うことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一に記載の車両の衝突予測波形の生成方法。
  5. 衝突における反発領域については、車種に応じて、加速度の減少割合に基づいた補正係数により補正を行うことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一に記載の車両の衝突予測波形の生成方法。
  6. 低・中速領域では、第1及び第2の両所定速度の速度差に応じた加速度比に基づいた補正係数による補正を行うことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一に記載の車両の衝突予測波形の生成方法。
  7. 車体重量に差がある場合には、車体重量比に基づいた補正係数による補正を行うことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか一に記載の車両の衝突予測波形の生成方法。
  8. 上記衝突予測波形は、エアバッグセンサの衝撃感度評価に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか一に記載の車両の衝突予測波形の生成方法。
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