JP3828238B2 - 限流器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、短絡電流および過電流を限流するために用いられる限流器に関する。さらに詳しくは、互いに常温電気抵抗率が異なる複数のPTC(positive temperature coefficient) ポリマー層からなるPTCポリマー部の表面に、一対の電極が融着されてなるPTC素子を備えてなる限流器に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の限流器はPTC素子を備えてなる。該PTC素子は、面状発熱体、温度センサ、短絡電流保護素子または過電流保護素子などとして用いられる。また、前記PTC素子は、PTCポリマー部と、該PTCポリマー部に電流を流すためにPTCポリマー部に接触する一対の電極とからなる。前記PTCポリマー部の「PTC」とは、抵抗の温度係数が正であることを意味する。すなわち、PTCポリマー部は、常温での電気抵抗率(常温電気抵抗率)が低く、高温になると急激に抵抗率が上昇する特性(正の抵抗温度特性)を示す。この特性をPTC特性という。
【0003】
図9は、PTC素子のPTC特性を示すグラフである。図9において、縦軸は電気抵抗率(Ω・cm)、横軸は温度(℃)を示す。図中で符号Tcを用いて示される温度は、電気抵抗率が急激に変化し始める温度であり、転移温度という。
【0004】
前記PTCポリマー部は、電気絶縁性を有するポリマーに粒子状の導電性物質が混練された複合材料からなる。前記ポリマーは、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはナイロンなどであり、前記粒子状の導電性物質は、カーボンブラックまたは金属粒子である。かかるばあい、PTC特性は、発熱などの温度上昇により、PTCポリマー部の温度がポリマーの溶融温度を超えたときに、ポリマーが体積膨脹し、ポリマーの非晶質部分(結晶粒界部分)に存在していた粒子状の導電性物質が互いに離れることにより発現すると考えられている。
【0005】
短絡電流および過電流から電気回路を保護するために、前記PTC素子を電気回路に適用した例が、特開平4−266001号公報に開示されている。
【0006】
事故による短絡電流や過電流ではなく、通常の負荷電流がPTC素子に流れている状態(以下、「負荷電流通電状態」という)においては、PTC素子の電気抵抗はたとえば数mΩ程度である。また、負荷電流が連続的に流れるとジュール熱により、PTCポリマー部の温度が上昇するが、温度上昇が少ないのでPTC素子の電気抵抗の上昇はわずかである。もし、事故が発生し、電気回路に短絡電流または過電流が流れると、PTCポリマー部の温度が急激に上昇し、特定の温度(転移温度Tc)を超えると、PTCポリマー部は低抵抗状態から高抵抗状態へと変化する。
【0007】
PTCポリマー部の一例として、ポリエチレンに粒子状の導電性物質であるカーボンブラックが混練され分散されてなるPTCポリマー部がある。当該PTCポリマー部では、ポリエチレンの温度が135℃を超えるあたりで、ポリエチレンが大きく膨脹する。したがって、ポリエチレンの非晶質部分(結晶粒界部分)に存在していたカーボンブラックの粒子間隔が急激に広がり、PTCポリマー部の状態が低抵抗状態から高抵抗状態へ急激に転移する。その結果、高抵抗状態になったPTC素子の電気抵抗は、低抵抗状態のときの1000倍以上になる。
【0008】
前述のように、短絡電流や過電流がPTC素子に流れ込むと、PTCポリマー部の抵抗が急激に上昇し、短絡電流および過電流を抑制することができる。PTC素子によって抑制された電流の波高値は、限流波高値とよばれる。PTC素子により抑制された電流は、電気回路に設置された開閉器などで遮断される。電流が遮断されるとPTC素子にはジュール熱が発生しなくなると同時に、PTC素子の内部の熱が外部に方散されるので、PTCポリマー部の温度が低下する。PTC素子の温度が転移温度Tc以下に低下すると、負荷電流の再通電が可能となる。このように、短絡電流および過電流が流れた際に、PTC素子の電気抵抗の大幅な増大により、電気回路を保護することができる。
【0009】
大きな負荷電流を通電するための(大電流通電用の)PTC素子は、常温電気抵抗率が低いPTCポリマー部を選定して形成される。しかし、常温電気抵抗率が低いPTCポリマー部を用いて限流器を形成すると、常温電気抵抗率が高いPTCポリマー部を用いて限流器を形成したばあいに較べて、短絡電流または過電流が流れたときのPTCポリマー部の温度上昇が緩やかで、電気抵抗の増大に要する時間が長くなるので、限流波高値(限流動作中に電気回路に流れた電流の最大値)が高くなるという問題がある。
【0010】
かかる問題を解決するために、PTCポリマー部の常温電気抵抗率を高くしてPTC素子が形成されたばあい、PTC素子自身の抵抗値が高くなり、連続して通電できる負荷電流の値が小さくなるという問題がある。
【0011】
かかる問題を解決するために、連続して通電できる負荷電流の値の低下を抑制しつつ限流波高値を下げうるPTC素子が、特開平9−69412号公報に開示されている。当該PTC素子は、互いに常温電気抵抗率が異なる複数のPTCポリマー層からなる多層構造のPTCポリマー部と、前記複数のPTCポリマー層のうちの最上層のPTCポリマー層の外側表面上および前記複数のPTCポリマー層のうちの最下層のPTCポリマー層の外側表面上に融着された少なくとも一対の電極とからなる。前記PTCポリマー層は、単層構造のPTCポリマー部と同様に、ポリエチレンに粒子状の導電性物質が混練され分散されてなる。
【0012】
図10は、PTCポリマー部が複数のPTCポリマー層からなる従来の限流器の一例を示す説明図である。図10において、11はPTCポリマー部、12は、一対の電極である2つの電極、13はPTC素子、30は、電極20に電気的に接続された導電板、31は導電板30を介して電極20に電流を供給するための電流導入端子、32は絶縁枠、33は、PTC素子10に圧力をかけるためのばね状の弾性体、34は、PTC素子10を保護するための絶縁容器、35aはボルト、35bはナット、36は、絶縁容器34の内側の高さを一定に保つためのスペーサーを示す。なお、絶縁枠32は、短絡電流または過電流がPTC素子に流れ、限流動作が起こったときに発生するアークによって生成された導電性のガスにより、電流導入端子31間で短絡が生じるのを防止するために、PTCポリマー部11の周辺部に設けられる。
【0013】
図10に示される限流器のPTCポリマー部11は、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなる。一方のPTCポリマー層の常温電気抵抗率が、他方のPTCポリマー層の常温電気抵抗率に較べて高くなっている。なお、本明細書において、常温電気抵抗率の高いまたは低いは、相対的なものである。PTCポリマー層を構成するポリマーの材質、PTCポリマー層により混練された粒子状の導電性物質の材質および粒径、導電性物質をPTCポリマー層に混ぜる割合、およびPTCポリマー層の製造条件などを変更することにより、所定の常温電気抵抗率を有するPTCポリマー層をうることができる。
【0014】
前述のように限流器を、互いに常温電気抵抗率が異なる複数のPTCポリマー層からなるPTCポリマー部を用いて形成することにより、短絡電流または過電流がPTC素子に流れたとき、ジュール熱によるPTCポリマー部の発熱が、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層に集中し、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層の温度上昇を大きくすることができる。したがって、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層の電気抵抗が急激に増大し、短絡電流および過電流を抑制することができる。
【0015】
かかる従来の限流器によれば、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層の発熱を促進することによって、限流動作までの時間を短縮し、限流波高値を低減することができる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
従来の限流器は、前述のように、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層を用いて多層構造のPTCポリマー部が形成されている。したがって、短絡電流および過電流が流れたときのPTC素子の発熱を常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層に集中させることによって、限流動作までの時間を短縮し、限流波高値を低減することができる。しかし、ある特定のPTCポリマー層の常温電気抵抗率を単に高くするだけでは、発熱を常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層に効率よく集中させることは難しい。
【0017】
さらに、ある特定のPTCポリマー層の常温電気抵抗率を単に高くするだけでは、PTC素子自身の電気抵抗が高くなり、当該PTC素子を含んでいる限流器が接続された電気回路の連続通電性能が大きく損なわれる。そこで、連続通電性能が損なわれないように、PTC素子と電極との接触界面の面積を大きくすることにより、PTC素子全体の電気抵抗を下げるばあいがある。しかし、面積を大きくすると、短絡電流および過電流が流れた際の限流波高値が大きくなってしまうという問題がある。
【0018】
また、PTC素子の発熱が常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層に集中すると、PTCポリマー部の温度がポリマーが溶融する温度をはるかに超えてポリマーの分解温度に達し、電極と常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層とのあいだでアークが発生する。したがって、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層が消耗し、PTCポリマー部が多層構造であることによりえられる効果がなくなってしまう。とくに、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層を有する多層構造のPTCポリマー部においては、連続通電電流を低下させないように、PTC素子全体の抵抗を下げる必要がある。そこで、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層の厚さを薄くし、PTC素子全体の抵抗を下げるばあいがある。しかし、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層の厚さを極端に薄くすると、一回の限流動作で常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層が蒸発してしまい、繰り返し限流動作を行うことができないという問題がある。
【0019】
本発明はかかる問題を解決するためになされたものであり、多層構造を有するPTCポリマー部を含んでなる限流器において、連続通電性能を大きく損なうことなく、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層の限流動作時の発熱を促進し、限流波高値を低下させるとともに、限流動作の可能な回数を増加し、優れた限流性能を有する限流器を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明の限流器は、互いに常温電気抵抗率が異なる複数のPTCポリマー層からなる多層構造のPTCポリマー部と、前記複数のPTCポリマー層のうちの最上層のPTCポリマー層の外側表面上および前記複数のPTCポリマー層のうちの最下層のPTCポリマー層の外側表面上に融着された少なくとも一対の電極とからなるPTC素子を備えてなる限流器であって、前記電極がPTCポリマー部に押しつけられるように、該電極に圧力が加えられ、さらに、常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の常温電気抵抗率をρL1とし、常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の常温電気抵抗率をρL2とし、前記複数のPTCポリマー層からなる多層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子を備えてなる限流器に短絡電流および過電流が流れ込んだ際に、PTC素子によって抑制される電流の波高値をIpとし、常温電気抵抗率がρL2であるPTCポリマー層のみからなる単層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子を備えてなる限流器に短絡電流および過電流が流れ込んだ際に、PTC素子によって抑制される電流の波高値をIp′とするとき、Ip<Ip′の関係を満たすものである。
【0021】
さらに、前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρH1とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρH2とするとき、ρH1>ρH2の関係を満たすものである。
【0022】
また、前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の抵抗をR1とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の抵抗をR2とするとき、R1>R2の関係を満たすものである。
【0023】
なお、PTCポリマー層の抵抗Rは、式(1)により表される。
【0024】
【数1】
【0025】
式(1)において、ρはPTCポリマー層の常温電気抵抗率、SはPTCポリマー層と融着電極との1つの界面の面積(以下、単に「電極面積」という)、LはPTCポリマー層の厚さを示す。
【0026】
また、前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層のPTC特性における転移温度をTC1とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層のPTC特性における転移温度をTC2とするとき、TC1<TC2の関係を満たすものである。
【0030】
【発明の実施の形態】
つぎに、本発明の限流器の実施の形態について説明する。
【0031】
実施の形態1.
図面を参照しながら、本発明の限流器の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の限流器の一実施の形態を示す断面説明図である。図1において、1aは第1のPTCポリマー層、1bは第2のPTCポリマー層、2は、第1のPTCポリマー層1aおよび第2のPTCポリマー層1bに融着される電極(以下、「融着電極」という)、3は、第1のPTCポリマー層1aと第2のPTCポリマー層1bとからなるPTCポリマー部、および融着電極2を備えてなるPTC素子を示す。さらに、図10と同一の部分は同じ符号を用いて示す。
【0032】
第1のPTCポリマー層1aおよび第2のPTCポリマー層1bは、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層であり、2層構造のPTCポリマー部を構成している。融着電極2は、銅板に銀またはニッケルなどによるメッキが施されたものである。融着電極2は、PTCポリマー部に熱融着されることによりPTCポリマー部に融着される。熱融着法の具体例としては、PTCポリマー部に融着電極2を押しつけた状態で、PTCポリマー部および融着電極2を加熱することにより、PTCポリマー部が軟化し融着電極2がPTCポリマー部に融着する。
【0033】
融着電極2は、限流動作後の融着電極2とPTCポリマー部(第1のPTCポリマー層1aおよび第2のPTCポリマー層1b)との電気的な接続状態がわるくなることを防ぐために孔が設けられる。当該孔は、限流動作時に、融着電極2とPTCポリマー部とのあいだで発生するアークにより生成される導電性のガス(PTCポリマー部を構成するポリマーの分解ガス)を外部に逃がすために設けられる。孔により、融着電極2とPTCポリマー部との電気的な接続状態がわるくなること、および融着電極2がPTCポリマー部から剥がれることを防止できる。孔は、融着電極2とPTCポリマー部との界面に対して垂直な方向に設けられる。融着電極2とPTCポリマー部との界面に対して平行な孔の断面の形状は、円状であっても、角状であっても、非対称な鍵穴状であってもよい。なお、孔内部の少なくとも一部には、融着電極2をPTCポリマー部に融着する際にPTCポリマー部の一部が突出せしめられる。図1に示される融着電極2の各孔内部には、半分程度までPTCポリマー部の一部が突出せしめられている。さらに、孔の代わりに融着電極2に多数の溝を設けてもよい。なお、前記溝内部の少なくとも一部には、融着電極2とPTCポリマー部とを融着する際に、軟化したPTCポリマー部が突出せしめられる。
【0034】
導電板30は、電流導入端子31から入力された電流を融着電極20に供給する。導電板30および電流導入端子31は、銅板に銀やニッケルなどのメッキが施されたものである。融着電極2、導電板30および電流導入端子31は互いに電気的に接続されている。なお、導電板30は電流導入端子31と一体化されていてもよい。また、導電板30は、融着電極2と一体化され、PTCポリマー部に融着されていてもよい。
【0035】
第1のPTCポリマー層1aの常温電気抵抗率は、第2のPTCポリマー層1bの常温電気抵抗率よりも比較的高い。互いに常温電気抵抗率の異なる第1のPTCポリマー層1aおよび第2のPTCポリマー層1bの常温電気抵抗率は、PTCポリマー層を構成するポリマーの材質、PTCポリマー層により混練された粒子状の導電性物質の材質および粒径、導電性物質をPTCポリマー層に混ぜる割合、およびPTCポリマー層の製造条件などを変更することにより異ならせることができる。
【0036】
たとえば、常温電気抵抗率が高い第1のPTCポリマー層1aは、厚さが0.2mm程度であり、常温電気抵抗率が0.6Ω・cmであり、常温電気抵抗率が低い第2のPTCポリマー層1bは、厚さが0.9mm程度であり、常温電気抵抗率が0.1Ω・cmである。
【0037】
絶縁枠32は、短絡電流または過電流がPTC素子に流れ、限流動作が起こったときに発生するアークによって生成された導電性のガスにより、2つの電流導入端子31間で短絡が生じるのを防止するために、PTCポリマー部の周辺部に設けられる。絶縁容器34は、ボルト35aおよびナット35bを締め付けることによりPTC素子を固定しうる。弾性体33は、たとえば板ばねであり、電流導入端子31と絶縁容器34とのあいだに配置される。弾性体33は、PTCポリマー部の表面に対して垂直な方向において、融着電極2およびPTCポリマー部からなるPTC素子3と、導電板30と、電流導入端子31とに弾性的な圧力を及ぼす。その結果、限流動作時に発生するアークによるPTCポリマー部からの融着電極2の剥離を防止し、PTC素子3、導電板30および電流導入端子31相互間の接触状態がよくなる。
【0038】
短絡電流または過電流が流れると、PTCポリマー部自身の発熱(ジュール熱の発生)に加えて、PTCポリマー部と融着電極2との界面の接触抵抗による発熱(ジュール熱の発生)が加わり、該ジュール熱によりPTCポリマー部の温度が上昇する。PTCポリマー部の温度が転移温度を超えると、PTCポリマー部と融着電極2との界面近傍に存在するポリマーが溶融し、粒子状の導電性物質間の距離が増大し、PTCポリマー部は低抵抗状態から高抵抗状態へと変化する。このとき、PTCポリマー部のうち、融着電極2との界面の近傍部分は、転移温度をはるかに超えて分解温度に達し、アークが発生する。発生したアークにより生成される導電性ガスは、PTCポリマー部と融着電極2とのあいだに残留することなく融着電極2に設けられた貫通孔から放出される。また、融着電極2を弾性体33によりPTCポリマー部に押しつける(圧力を加える)ことで、アークにより融着電極が素子から剥離するのを防ぐことができる。
【0039】
前述のように、融着電極2に貫通孔を設けるとともに、融着電極2をPTCポリマー部に押しつけうるように形成することにより、導電性ガスによりPTCポリマー部と融着電極2との接触状態がわるくなることがなく、限流動作前後でのPTC素子の抵抗の変化を小さくすることができる。
【0040】
本実施の形態においては、多層構造を有するPTCポリマー部の一例として、互いに常温電気抵抗率が異なる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層からなるPTCポリマー部が示されている。図2は、図1の限流器に含まれる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層のPTC特性曲線を示すグラフである。図2において、縦軸は電気抵抗率(Ω・cm)、横軸は温度(℃)を示す。第1のPTCポリマー層のPTC特性曲線は実線を用いて示され、第2のPTCポリマー層のPTC特性曲線は一点鎖線を用いて示される。なお、常温電気抵抗率が高い第1のPTCポリマー層の常温電気抵抗率をρL1とし、常温電気抵抗率が低い第2のPTCポリマー層の常温電気抵抗率をρL2とする。さらに、第1のPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρH1とし、第2のPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρH2とする。また、第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の性質によっては、図2に示されるρH1とρH2との大小関係が逆転することもある。
【0041】
さらに、第1のPTCポリマー層1aと第2のPTCポリマー層1bとの接触抵抗が大きければ、第1のPTCポリマー層1aと第2のPTCポリマー層b1との界面で発熱が起こり、第1のPTCポリマー層1aのみに発熱を発生させることが阻害される。したがって、第1のPTCポリマー層1aと第2のPTCポリマー層1bとの接触抵抗を小さくするために、一般的に、第1のPTCポリマー層1aと第2のPTCポリマー層1bとは熱融着されている。
【0042】
短絡電流または過電流がPTC素子に流れ込むと、PTCポリマー部の電気抵抗が増大し、短絡電流および過電流を限流することができる。もし、PTCポリマー部が1つのPTCポリマー層のみからなるならば、PTC素子全体で発熱し限流動作を行う。これに対し、PTCポリマー部が互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなるばあい、限流動作は第1のPTCポリマー層(常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層)で発現する。すなわち、第1のPTCポリマー層の方が、第2のPTCポリマー層よりも発熱しやすいので、第2のPTCポリマー層に較べ急激に温度が上昇する。したがって、第1のPTCポリマー層の方が先に転移温度に達し、電気抵抗が増大する。
【0043】
一方、PTCポリマー部を2層構造にすることにより連続通電性能を損なうことがないようにするためには、PTC素子の電気抵抗を、単層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子の電気抵抗とほぼ同程度の大きさにする必要がある。
【0044】
図3および図4は、限流器に含まれるPTC素子の一般的な電気的特性を示すグラフである。図3(a)は、限流器に含まれるPTC素子の電気抵抗(PTC素子抵抗)と限流波高値との一般的な関係を示すグラフである。図3(a)において、縦軸は限流波高値Ip(A)、横軸はPTC素子抵抗R(mΩ)を示す。図3(a)のグラフは、短絡試験用の回路を用いて試験を行うことによりえられる。図3(b)は、限流器に含まれるPTC素子の電極面積と限流波高値との一般的な関係を示すグラフである。図3(b)において、縦軸は限流波高値Ip(A)、横軸は電極面積S(cm2)を示す。図3(b)のグラフは、2層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子中の各PTCポリマー層の厚さおよび常温電気抵抗率を一定の値とし、図3(a)のグラフから読み取られた値と式(1)とをもちいてえられる。図4(a)は、限流器に含まれるPTC素子の常温電気抵抗率と電極面積との一般的な関係を示すグラフである。図4(a)において、縦軸は電極面積S(cm2)、横軸は常温電気抵抗率ρL(Ω・cm)を示す。図4(a)のグラフは、PTC素子抵抗を任意の値としたばあいに、計算により求められた限流波高値に対する常温電気抵抗率と、図3(b)のグラフから読み取られた限流波高値に対する電極面積とをもちいてえられる。図4(b)は、限流器に含まれるPTC素子の推定限流波高値と常温電気抵抗率との一般的な関係を示すグラフである。図4(b)において、縦軸は推定限流波高値Ip(A)、横軸は常温電気抵抗率ρL(Ω・cm)を示す。図4(b)のグラフは、PTC素子抵抗を任意の値とし、2層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子中の各PTCポリマー層の厚さを一定の厚さとしたばあいに、図3(b)および図4(a)のグラフから読み取られた値および式(1)を用いてえられる。なお、図4(b)のグラフの縦軸の値は、図3(a)のグラフの縦軸の限流波高値のように実際の短絡試験などでえられた値ではなく、計算などによりえられた値である。図4(b)においては、図3(a)の縦軸の限流波高値と区別するために、限流波高値を推定限流波高値として示す。
【0045】
一般的に、PTC素子の限流波高値Ipは、PTC素子の常温電気抵抗率ρLにより決まる。PTCポリマー部が2層構造であるばあい、PTC素子の限流波高値Ipは、第1のPTCポリマー層の常温電気抵抗率に依存する。また、PTCポリマー部を構成する第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の常温電気抵抗率が同じであるならば、すなわち、ρL1=ρL2であるならば、2層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子の限流波高値は、単層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子の限流波高値と等しくなる。ここで、互いに常温電気抵抗率が異なる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層からなる2層構造のPTCポリマー部の限流波高値をIpとし、常温電気抵抗率がρL2である単層構造のPTCポリマー部の限流波高値をIp′とする。前記IpとIp′との関係が式(2)を満たすように、PTCポリマー部を形成することにより、連続通電性能を損なうことなく、限流波高値を小さくすることができる。
Ip<Ip′ (2)
【0046】
つぎに、式(2)を満たすためのPTCポリマー層の構成条件について述べる。一般に、限流波高値Ipは、融着電極の面積(電極面積)Sと、常温電気抵抗率ρLに依存し、実験式(3)で近似的に求められる。
【0047】
【数2】
【0048】
なお、kは比例定数を示し、電気回路の条件および限流器(とくに融着電極)の形成法などにより決まる値であり、係数α、β、γは、PTCポリマー層を形成する際に使用される材料によって異なる。たとえば、ポリエチレンにカーボンブラックを混練してPTCポリマー層を形成したばあいは、係数α、β、γの範囲は式(4−a)、式(4−b)および式(4−c)で示される。
−2.0<α<2.0 (4−a)
−1.5<β<1.5 (4−b)
−0.5<γ<0.5 (4−c)
式(3)にもとづき、式(2)はつぎの式(5)で表される。
【0049】
【数3】
【0050】
さらに、一般に、PTC素子の電気抵抗をR、単層構造のPTCポリマー部の常温電気抵抗率をρL、PTCポリマー部の厚さをt、PTCポリマー部と融着電極との接触する面の面積をSとすると、R、ρL、tおよびSのあいだには、式(6)の関係が成り立つ。
R=ρL・t/S (6)
PTCポリマー部が2層構造のばあい、PTCポリマー部の厚さをt、第1のPTCポリマー層の厚さをt1、第2のPTCポリマー層の厚さをt2とすると、PTCポリマー部の厚さは式(7)で表される。
t=t1+t2 (7)
したがって、PTCポリマー部が2層構造のばあい、PTC素子の電気抵抗Rは式(8)で表される。
R=(ρL1・t1+ρL2・t2)/S (8)
また、PTCポリマー部が単層構造のばあい、PTC素子の電気抵抗Rは式(9)で表される。
R=ρL2・t/S (9)
したがって、式(5)は式(10)で表される。
【0051】
【数4】
【0052】
たとえば、ポリエチレンにカーボンブラックを混練してPTCポリマー層を形成したPTC素子において、PTC素子の電気抵抗Rが2.8mΩのとき、電源が周波数60Hzの単相交流、電源電圧が300Vrms、推定短絡電流Isが50kArms、投入位相が60°の短絡試験回路で試験を行うと、α=0.9、β=−0.7、γ=0.08となる。なお、前記投入位相とは、電気回路を短絡したときの電源の電圧位相をいう。
【0053】
本実施の形態においては、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなるPTCポリマー部を有する限流器について述べたが、PTCポリマー層の数は2つに限られず、さらに多くの層を設けたばあいにおいても、同様の原理にもとづき理解され、同様の効果がえられる。
【0054】
実施の形態2.
つぎに、本発明の限流器の実施の形態2について説明する。本実施の形態における限流器の構造は、実施の形態1に示される限流器の構造と同様である。ここで、PTC素子に短絡電流が流れたときの、常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層(第1のPTCポリマー層)と常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層(第2のPTCポリマー層)との平均温度の比較を行う。前記第1のPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρH1とし、第2のPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρH2とする。さらに、短絡電流が流れたときの、第1のPTCポリマー層の平均温度上昇値をT1とし、第2のPTCポリマー層の平均温度上昇値をT2とする。平均温度上昇値とは、PTCポリマー層の温度が層全体に一様に上昇したと仮定したばあいの温度上昇値をいう。
【0055】
図5は、本発明の限流器に含まれる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の高温電気抵抗率比に対する平均温度上昇値比の変化を示すグラフである。図5において、縦軸は平均温度上昇値比、横軸は高温電気抵抗率比を示す。なお、前記高温電気抵抗率比とは、第1のPTCポリマー層の高温電気抵抗率ρH1の、第2のPTCポリマー層の高温電気抵抗率ρH2に対する比であり、ρH1/ρH2で示される。さらに、前記平均温度上昇値比とは、第1のPTCポリマー層の平均温度上昇値T1の、第2のPTCポリマー層の平均温度上昇値T2に対する比であり、T1/T2で示される。
【0056】
図5によると、第1のPTCポリマー層の高温電気抵抗率の値が第2のPTCポリマー層の高温電気抵抗率の値より小さい、すなわち高温電気抵抗率比ρH1/ρH2<1のとき、平均温度上昇値比T1/T2も1より小さく、第2のPTCポリマー層にも発熱が生じていることが分かる。当該第2のPTCポリマー層の発熱により、本発明の目的である第1のPTCポリマー層のみの発熱促進が妨げられる。その結果、PTCポリマー部の温度上昇の効率が下がり、限流動作開始までの時間が長くなり、限流波高値Ipが高くなる。すなわち、限流波高値Ipをより低くするためには、第1のPTCポリマー層の高温電気抵抗率ρH1が第2のPTCポリマー層の高温電気抵抗率ρH2よりも高いことが必要である。第1のPTCポリマー層の高温電気抵抗率ρH1が第2のPTCポリマー層の高温電気抵抗率ρH2よりも高く設定されることで、第1のPTCポリマー層での発熱を促進し続けることができる。したがって、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間が短縮され、限流波高値を低減することができる。
【0057】
本実施の形態においては、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなるPTCポリマー部を有する限流器について述べたが、PTCポリマー層の数は2つに限られず、さらに多くの層を設けたばあいにおいても、同様の原理にもとづき理解され、同様の効果がえられる。
【0058】
実施の形態3.
つぎに、本発明の限流器の実施の形態3について説明する。本実施の形態における限流器の構造は、実施の形態1に示される限流器の構造と同様である。
【0059】
短絡電流または過電流がPTC素子に流れたとき、ジュール熱の発生は、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層である第1のPTCポリマー層に集中することは先に述べた。しかし、第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の電気抵抗は、各PTCポリマー層の常温電気抵抗率だけに依存して決まるのではなく、PTC素子の厚さまたはPTC素子の表面積などPTC素子の構造によっても決定される。したがって、PTC素子の構造の設定を誤ると、第1のPTCポリマー層での発熱促進の効果が小さくなるばあいがある。
【0060】
ここで、PTC素子に短絡電流が流れたときの、第1のPTCポリマー層と第2のPTCポリマー層との平均温度の比較を行う。前記第1のPTCポリマー層の平均温度上昇値をT1とし、第2のPTCポリマー層の平均温度上昇値をT2とする。さらに、第1のPTCポリマー層の層全体の抵抗をR1とし、第2のPTCポリマー層の層全体の抵抗をR2とする。
【0061】
図6は、本発明の限流器に含まれる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の抵抗比に対する平均温度上昇値比の変化を示すグラフである。図6において、縦軸は平均温度上昇値比、横軸は抵抗比を示す。なお、前記抵抗比とは、第1のPTCポリマー層の層全体の抵抗R1の、第2のPTCポリマー層の層全体の抵抗R2に対する比であり、R1/R2で示される。
【0062】
図6によると、第1のPTCポリマー層の層全体の抵抗が第2のPTCポリマー層の層全体の抵抗より低い、すなわち抵抗比R1/R2<1のとき、平均温度上昇値比T1/T2も1より小さく、第2のPTCポリマー層にも発熱が生じていることが分かる。当該第2のPTCポリマー層の発熱により、本発明の目的である第1のPTCポリマー層のみの発熱促進が妨げられる。その結果、PTCポリマー部の温度上昇の効率が下がり、限流動作開始までの時間が長くなり、限流波高値Ipが高くなる。すなわち、限流波高値Ipをより低くするためには、第1のPTCポリマー層の層全体の抵抗R1が第2のPTCポリマー層の全体の抵抗R2よりも高いことが必要である。第1のPTCポリマー層の層全体の抵抗R1が第2のPTCポリマー層の層全体の抵抗R2よりも高く設定されることで、第1のPTCポリマー層での発熱を促進し続けることができる。したがって、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間が短縮され、限流波高値を低減することができる。
【0063】
本実施の形態においては、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなるPTCポリマー部を有する限流器について述べたが、PTCポリマー層の数は2つに限られず、さらに多くの層を設けたばあいにおいても、同様の原理にもとづき理解され、同様の効果がえられる。
【0064】
実施の形態4.
つぎに、本発明の限流器の実施の形態4について説明する。本実施の形態における限流器の構造は、実施の形態1に示される限流器の構造と同様である。
【0065】
短絡電流または過電流がPTC素子に流れたとき、ジュール熱の発生は、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層である第1のPTCポリマー層に集中することは先に述べた。しかし、限流動作が発現する温度(第1のPTCポリマー層の転移温度)の設定を誤ると、第1のPTCポリマー層での発熱促進の効果が小さくなるばあいがある。ここで、PTC素子に短絡電流が流れたときの、第1のPTCポリマー層と第2のPTCポリマー層との転移温度の比較を行う。前記第1のPTCポリマー層の転移温度をTC1とし、第2のPTCポリマー層の転移温度をTC2とする。
【0066】
図7は、本発明の限流器の動作を説明するためのPTC特性曲線を示すグラフである。図7において、縦軸は電気抵抗率(Ω・cm)、横軸は温度(℃)を示す。第1のPTCポリマー層のPTC特性曲線は実線を用いて示され、第2のPTCポリマー層のPTC特性曲線は一点鎖線を用いて示される。図7(a)は、第1のPTCポリマー層の転移温度TC1が第2のPTCポリマー層の転移温度TC2よりも低いばあいの各PTC特性曲線を示すグラフである。一方、図7(b)は、第1のPTCポリマー層の転移温度TC1が第2のPTCポリマー層の転移温度TC2よりも高いばあいの各PTC特性曲線を示すグラフである。
【0067】
図7(b)によると、第1のPTCポリマー層の転移温度TC1が第2のPTCポリマー層の転移温度TC2よりも高いと、短絡電流または過電流が流れPTC素子全体の温度が上昇したばあい、第2のPTCポリマー層の発熱が促進されるばあいがある。かかるばあい、本発明の目的である第1のPTCポリマー層での発熱促進が妨げられる。その結果、PTCポリマー部の温度上昇の効率が下がり、限流動作開始までの時間が長くなり、限流波高値Ipが高くなる。すなわち、限流波高値Ipをより低くするためには、図7(a)に示されるように、第1のPTCポリマー層の転移温度TC1が第2のPTCポリマー層の転移温度TC2よりも低い(TC1<TC2)ことが必要である。第1のPTCポリマー層の転移温度TC1が第2のPTCポリマー層の転移温度TC2よりも低く設定されることで、第1のPTCポリマー層での発熱を促進し続けることができる。したがって、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間が短縮され、限流波高値を低減することができる。
【0068】
本実施の形態においては、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなるPTCポリマー部を有する限流器について述べたが、PTCポリマー層の数は2つに限られず、さらに多くの層を設けたばあいにおいても、同様の原理にもとづき理解され、同様の効果がえられる。
【0069】
実施の形態5.
つぎに、本発明の限流器の実施の形態5について説明する。本実施の形態における限流器の構造は、実施の形態1に示される限流器の構造と同様である。
【0070】
ここで、第1のPTCポリマー層の平均温度上昇値をT1とし、第2のPTCポリマー層の平均温度上昇値をT2とする。図8は、本発明の限流器に含まれる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の常温電気抵抗率比に対する平均温度上昇値比の変化を示すグラフである。図8において、縦軸は平均温度上昇値比、横軸は常温電気抵抗率比を示す。なお、前記常温電気抵抗率比とは、第1のPTCポリマー層の常温電気抵抗率ρL1の、第2のPTCポリマー層の常温電気抵抗率ρL2に対する比であり、ρL1/ρL2で示される。
【0071】
図8によると、少なくとも第1のPTCポリマー層の常温電気抵抗率ρL1が第2のPTCポリマー層の常温電気抵抗率ρL2の2倍程度になるとき、第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層間の常温電気抵抗率比が急激に増大する。すなわち、常温電気抵抗率比を2よりも大きく(ρL1/ρL2>2)することで、第1のPTCポリマー層での発熱を促進し続けることができる。したがって、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間が短縮され、限流波高値を低減することができる。
【0072】
本実施の形態においては、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなるPTCポリマー部を有する限流器について述べたが、PTCポリマー層の数は2つに限られず、さらに多くの層を設けたばあいにおいても、同様の原理にもとづき理解され、同様の効果がえられる。
【0073】
実施の形態6.
つぎに、本発明の限流器の実施の形態6について説明する。本実施の形態における限流器の構造は、実施の形態1に示される限流器の構造と同様である。
【0074】
短絡電流または過電流がPTC素子に流れたとき、ジュール熱の発生は、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層である第1のPTCポリマー層に集中することは先に述べた。当該PTC素子において、連続して通電できる電流を大きくするため、および、第1のPTCポリマー層での発熱を促進するために、第1のPTCポリマー層の厚さが極力薄く設定される。
【0075】
しかし、短絡電流または過電流が流れると、第1のPTCポリマー層と融着電極との間でアークが発生し、第1のPTCポリマー層に含まれるポリマーが分解し、分解ガス(アークドガス)が発生し、第1のPTCポリマー層が消耗してしまう。したがって、第1のPTCポリマー層の厚さをあまり薄く設定することができない。第1のPTCポリマー層の厚さがあまりにも薄いと、短絡電流または過電流がPTC素子に流れた際に、第1のPTCポリマー層が蒸発し、消耗しつくされてしまう。そのため、第1のPTCポリマー層での発熱を促進することにより限流波高値Ipを低くした状態で、繰り返し限流動作を行うことはできない。
【0076】
通常の負荷電流の100倍以上の大きさの電流がPTC素子に流れ込むような短絡事故が発生した際には、PTC素子が動作し、少なくとも2回の短絡事故に耐えることが必要である。少なくとも2回の短絡事故に耐えるためには、第1のPTCポリマー層の厚さを10μm以上に設定する必要がある。かかる設定により、第1のPTCポリマー層での発熱を促進して、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間を短縮させつつ、繰り返し限流動作が可能な限流器を提供することができる。
【0077】
本実施の形態においては、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなるPTCポリマー部を有する限流器について述べたが、PTCポリマー層の数は2つに限られず、さらに多くの層を設けたばあいにおいても、同様の原理にもとづき理解され、同様の効果がえられる。
【0078】
実施の形態7.
つぎに、本発明の限流器の実施の形態7について説明する。
【0079】
短絡電流または過電流がPTC素子に流れたとき、ジュール熱の発生は、常温電気抵抗率の高いPTCポリマー層である第1のPTCポリマー層に集中することは先に述べた。しかし、第1のPTCポリマー層と第2のPTCポリマー層との接触界面に大きな接触抵抗が存在すると、該接触界面で発熱が生じてしまい、第1のPTCポリマー層での発熱促進という効果が小さくなるばあいがある。
【0080】
かかる問題を解決するために、第1のPTCポリマー層と第2のPTCポリマー層との互いの接触界面に凹凸を設け、第1のPTCポリマー層と第2のPTCポリマー層との接触面積を増やすことで、第1のPTCポリマー層と第2のPTCポリマー層との接触抵抗を無視できる程度に下げることができる。したがって、第1のPTCポリマー層での発熱を促進し続けることができる。その結果、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間が短縮され、限流波高値を低減することができる。
【0081】
本実施の形態においては、互いに常温電気抵抗率が異なる2つのPTCポリマー層からなるPTCポリマー部を有する限流器について述べたが、PTCポリマー層の数は2つに限られず、さらに多くの層を設けたばあいにおいても、同様の原理にもとづき理解され、同様の効果がえられる。
【0082】
【発明の効果】
本発明の限流器によれば、互いに常温電気抵抗率が異なる複数のPTCポリマー層からなる多層構造のPTCポリマー部と、前記複数のPTCポリマー層のうちの最上層のPTCポリマー層の外側表面上および前記複数のPTCポリマー層のうちの最下層のPTCポリマー層の外側表面上に融着された少なくとも一対の電極とからなるPTC素子を備えてなる限流器であって、前記電極がPTCポリマー部に押しつけられるように、該電極に圧力が加えられ、さらに、常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の常温電気抵抗率をρL1とし、常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の常温電気抵抗率をρL2とし、前記複数のPTCポリマー層からなる多層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子を備えてなる限流器に短絡電流および過電流が流れ込んだ際に、PTC素子によって抑制される電流の波高値をIpとし、常温電気抵抗率がρL2であるPTCポリマー層のみからなる単層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子を備えてなる限流器に短絡電流および過電流が流れ込んだ際に、PTC素子によって抑制される電流の波高値をIp′とするとき、Ip<Ip′の関係を満たすものであるので、連続通電性能を損なうことなく限流波高値を低減でき、高限流化が可能となる。
【0083】
さらに、前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρH1とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρH2とするとき、ρH1>ρH2の関係を満たすものであるばあい、第1のPTCポリマー層での発熱を促進し続けることができ、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間が短縮され、限流波高値を低減することができる。
【0084】
また、前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の抵抗をR1とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の抵抗をR2とするとき、R1>R2の関係を満たすものであるばあい、第1のPTCポリマー層での発熱を促進し続けることができ、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間が短縮され、限流波高値を低減することができる。
【0085】
また、前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層のPTC特性における転移温度をTC1とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層のPTC特性における転移温度をTC2とするとき、TC1<TC2の関係を満たすものであるばあい、第1のPTCポリマー層での発熱を促進し続けることができ、短絡電流または過電流がPTC素子に流れてから限流動作を開始するまでに要する時間が短縮され、限流波高値を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の限流器の一実施の形態を示す断面説明図である。
【図2】 図1の限流器に含まれる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層のPTC特性曲線を示すグラフである。
【図3】 限流器に含まれるPTC素子の一般的な電気的特性を示すグラフである。
【図4】 限流器に含まれるPTC素子の一般的な電気的特性を示すグラフである。
【図5】 本発明の限流器に含まれる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の高温電気抵抗率比に対する平均温度上昇値比の変化を示すグラフである。
【図6】 本発明の限流器に含まれる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の抵抗比に対する平均温度上昇値比の変化を示すグラフである。
【図7】 本発明の限流器の動作を説明するためのPTC特性曲線を示すグラフである。
【図8】 本発明の限流器に含まれる第1のPTCポリマー層および第2のPTCポリマー層の常温電気抵抗率比に対する平均温度上昇値比の変化を示すグラフである。
【図9】 PTC素子のPTC特性を示すグラフである。
【図10】 PTCポリマー部が複数のPTCポリマー層からなる従来の限流器の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1a 第1のPTCポリマー層、1b 第2のPTCポリマー層、2 融着電極、3 PTC素子、30 導電板、31 電流導入端子、32 素子枠、 33 弾性体、34 絶縁容器、35a ボルト、35b ナット、36 スペーサー。
Claims (3)
- 互いに常温電気抵抗率が異なる複数のPTCポリマー層からなる多層構造のPTCポリマー部と、前記複数のPTCポリマー層のうちの最上層のPTCポリマー層の外側表面上および前記複数のPTCポリマー層のうちの最下層のPTCポリマー層の外側表面上に融着された少なくとも一対の電極とからなるPTC素子を備えてなる限流器であって、
前記電極がPTCポリマー部に押しつけられるように、該電極に圧力が加えられ、さらに、
常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の常温電気抵抗率をρL1とし、常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の常温電気抵抗率をρL2とし、前記複数のPTCポリマー層からなる多層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子を備えてなる限流器に短絡電流および過電流が流れ込んだ際に、PTC素子によって抑制される電流の波高値をIpとし、常温電気抵抗率がρL2であるPTCポリマー層のみからなる単層構造のPTCポリマー部を有するPTC素子を備えてなる限流器に短絡電流および過電流が流れ込んだ際に、PTC素子によって抑制される電流の波高値をIp′とするとき、Ip<Ip′の関係を満たし、前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の抵抗をR 1 とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の抵抗をR 2 とするとき、R 1 >R 2 の関係を満たす限流器。 - 前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層のPTC特性における転移温度をTC1とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層のPTC特性における転移温度をTC2とするとき、TC1<TC2の関係を満たす請求項1記載の限流器。
- 前記常温電気抵抗率が最も高いPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρ H1 とし、前記常温電気抵抗率が最も低いPTCポリマー層の高温電気抵抗率をρ H2 とするとき、ρ H1 >ρ H2 の関係を満たす請求項2記載の限流器。
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