JP3827350B2 - Il−6産生に起因する疾患の治療剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はインターロイキン−6レセプター(IL−6R)に対する抗体(抗IL−6R抗体)を含んで成る、インターロイキン−6(IL−6)の産生に起因する疾患の予防又は治療剤に対する。
【0002】
【従来の技術】
IL−6は多機能性を有するサイトカインで、免疫、血液、急性期反応等の様々な段階で作用し〔Taga, T.ら、Critical Reviews in Immunol.1992;11:265-280.〕、多発性骨髄種の増殖因子として作用するに加え種々の疾患、例えば、リウマチ〔Hirano, T.ら、Eur J Immunol.1988;18:1797-1801; Houssiau, F.A. らArth Rheum.1988;31:784-788. 〕Castleman's disease 〔Yoshizaki, K. らBlood 1989;74:1360-1367; Brant, S.J.らJ Clin Invest.1990;86:592-599.〕のようなプラズマサイト−シスがみられる病気、あるいはメサンギウム細胞増殖性腎炎〔Ohta, K.らClin Nephrol.(Germany)1992;38:185-189; Fukatsu, A.らLab Invest.1991;65:61-66; Horii, Y. らJ Immunol.1989;143:3949-3955. 〕、腫瘍増殖に伴う悪液質〔Strassmann, G.らJ Clin Invest.1992;89:1681-1684.〕などでも重要な役割をはたしていると考えられている。
【0003】
遺伝子操作によってhuman IL−6(hIL−6)を過剰発現させたH−2Ld hIL−6トランスジェニックマウス(IL−6 Tgm)ではIgG1プラズマサイト−シス、メサンギウム増殖性腎炎、貧血、血小板減少症、自己抗体の出現などが観察され〔宮井達也ら:第21回日本免疫学会発表「H−2Ld hIL−6トランスジェニックマウスの加齢に伴う血液および血清学的変化」;1991〕、IL−6の多彩な疾患に対する関与が示唆された。
しかしながら、インターロイキン−6レセプターに対する抗体が、インターロイキンの生産に対する疾患に対して有効であることは知られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明は、インターロイキン−6の生産に起因する疾患の予防又は治療剤を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明はインターロイキン−6レセプターに対する抗体を含んで成る、インターロイキン−6の生産に起因する疾患の予防又は治療剤を提供する。
インターロイキン−6の生産に起因する疾患としては、例えばプラズマサイト−シス、例えばリウマチ、キャスルマン病(Castleman’s disease);高イムノグロブリン血症;貧血;腎炎、例えばメサンギウム増殖性腎炎;悪液質等が挙げられる。
【0006】
本発明で使用されるIL−6レセプター抗体は、IL−6によるシグナル伝達を遮断し、IL−6の生物学的活性を阻害するものであれば、その由来および種類(モノクローナル、ポリクローナル)を問わないが、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。この抗体はIL−6Rと結合することにより、IL−6とIL−6Rの結合を阻害して、IL−6のシグナル伝達を遮断し、IL−6の生物学的活性を阻害する抗体である。
【0007】
モノクローナル抗体の産生細胞の動物種は哺乳類であれば特に制限されず、ヒト抗体またはヒト以外の哺乳動物由来であってよい。ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、その作成の簡便さからウサギあるいはげっ歯類由来のモノクローナル抗体が好ましい。げっ歯類としては、特に制限されないが、マウス、ラット、ハムスターなどが好ましく例示される。
【0008】
このようなIL−6レセプター抗体としては、MR16−1抗体(Tamura, T.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90,11924-11928,1993)、PM−1抗体(Hirata, Y.ら、J.Immunol.143,2900-2906,1989)などが挙げられる。
モノクローナル抗体は、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作成できる。すなわち、IL−6Rを感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作成できる。
【0009】
より具体的には、モノクローナル抗体を作成するには次のようにすればよい。例えば、前記感作抗原としては、欧州特許出願公開番号EP325474号に開示されたヒトIL−6Rの遺伝子配列を用いることによって得られる。ヒトIL−6Rの遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または、培養上清中から目的のIL−6Rタンパク質を精製し、この精製IL−6Rタンパク質を感作抗原として用いればよい。
また、マウス由来の前記感作抗原としては、日本特許出願公開番号特開平3−155795に開示されたマウスIL−6Rの遺伝子配列を用い、上記ヒトIL−6Rの遺伝子配列を用いたのと同様な方法にしたがえばよい。
【0010】
IL−6Rは細胞膜上に発現しているものの他に細胞膜より離脱している可能性のもの(sIL−6R)が抗原として使用できる。sIL−6Rは細胞膜に結合しているIL−6Rの主に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL−6Rと異なっている。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはマウス、ラット、ハムスター、ウサギ等が使用される。
【0011】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物に腹腔内または、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate−Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4−21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0012】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J.Immunol.123:1548, 1978), p3−U1 (Current Topics in Micro-biology and Immunology 81:1-7, 1978), NS−1 (Eur.J.Immunol.6:511-519, 1976), MPC−11 (Cell, 8:405-415, 1976): SP2/0 (Nature, 276:269-270, 1978), FO (J.Immunol.Meth.35:1-21, 1980),S194 (J.Exp.Med.148:313-323, 1978), R210 (Nature, 277:131-133, 1979)等が好適に使用される。
【0013】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルステインらの方法 (Milsteinら、Methods Enzymol.73:3-46, 1981)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0014】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1−10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、この他、その種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0015】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000−6000程度のPEG溶液を通常、30−60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0016】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノブテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローン化が行われる。
【0017】
このようにして作成されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に移植して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0018】
さらに、前記の方法により得られるモノクローナル抗体は、塩析法、ゲル濾過法、アフィニテイークロマトグラフィー法等の通常の精製手段を利用して高純度に精製することができる。
このようにして、作成されるモノクローナル抗体は、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA,ELISA)、蛍光抗体法(Immunofluorescence Analysis)等の通常の免疫学的手段により抗原を高感度かつ高精度で認識することを確認することができる。
【0019】
本発明に使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体に限られるものではなく、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変したものであってよい。例えば、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウスのモノクローナル抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域とからなるキメラ抗体を使用することができ、このようなキメラ抗体は、既知のキメラ抗体の製造方法、特に遺伝子組換技法を用いて製造することができる。
【0020】
さらに、再構成(reshaped)したヒト抗体を本発明に用いることができる。これはヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域によりヒト抗体の相補性決定領域を置換したものであり、その一般的な遺伝子組換手法も知られている。その既知方法を用いて、本発明に有用な再構成ヒト型抗体を得ることができる。
【0021】
なお、必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク(FR)領域のアミノ酸を置換してもよい(Satoら、Cancer Res.53:1-6, 1993)。このような再構成ヒト抗体としてヒト型化PM−1(hPM−1)抗体が好ましく例示される(国際特許出願公開番号WO92−19759を参照)。
【0022】
さらには抗原に結合し、IL−6の活性を阻害するかぎり抗体の断片、たとえばFabあるいはFv,H鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)をコードする遺伝子を構築し、これを適当な宿主細胞で発現させ、前述の目的に使用することができる。(例えば、Birdら、TIBTECH, 9:132-137, 1991; Hustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 85, 5879-5883, 1988 を参照) 。さらに、scFvを作成するために用いるH鎖およびL鎖のFvには、上記再構成された抗体のV領域を用いることができる。
【0023】
本発明のIL−6レセプター抗体を有効成分とするIL−6の生産に起因する疾患の予防治療剤は、IL−6のシグナル伝達を遮断し、IL−6の生産に起因する疾患に有効である限り、本発明において使用することができる。
本発明の予防治療剤は、好ましくは非経口的に、たとえば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等により全身あるいは局部的に投与することができる。さらに、少なくとも一種の医薬用担体または希釈剤とともに医薬組成物やキットの形態をとることができる。
【0024】
本発明の予防治療剤のヒトに対する投与量は患者の病態、年齢あるいは投与方法により異なるが、適宜適当な量を選択することが必要である。例えば、およそ1−1000mg/患者の範囲で4回以下の分割用量を選択することができる。また、1−10mg/kg/週の用量で投与することができる。しかしながら、本発明の予防治療剤はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0025】
本発明の予防治療剤は常法にしたがって製剤化することができる。たとえば、注射用製剤は、精製されたIL−6R抗体を溶剤、たとえば、生理食塩水、緩衝液などに溶解し、それに、吸着防止剤、たとえば、Tween80、ゼラチン、ヒト血清アルブミン(HSA)などを加えたものであり、または、使用前に溶解再構成するために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥のための賦形剤としては例えばマンニトール、ブドウ糖などの糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0026】
【実施例】
以下、参考例、および実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
参考例1. B6L d −IL−6トランスジェニックマウスの作製
H−2Ld プロモーターと連結したヒトIL−6cDNAを含有する3.3kbp のSphI−XhoI断片(Ld −IL−6)(Suematsuら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,86,7547,1989)を、Yamamuraら、J.Biochem.96,357,1984 に記載されている方法に従ってC57BL/6J(B6)マウス(日本クレア)からの受精卵の前核にマイクロインジェクションにより注入した。
【0027】
その受精卵を、疑妊娠処置した雌性ICRマウスの卵管内に移植した。その後、生まれたマウスについて、ヒトIL−6cDNAの組込みをEcoRI消化した尾部DNAのサザンブロット分析により、プローブとしてヒトIL−6cDNAの32P−標識TaqI−BanII断片を用いてスクリーニングした。組込みが認められた個体とB6マウスを交配して同じ遺伝子型を持つマウスのラインを確立した。
【0028】
参考例2. ラット抗IL−6R抗体の調製
マウス可溶性IL−6R生産性CHO細胞を Saitoら、J.Immunol.147,168-173,1991に記載されているようにして調製した。この細胞を、5%ウシ胎児血清(FBS)を含有するαMEM中で37℃にて、空気中5%CO2 の加湿雰囲気下で培養した。馴化 (conditioned)培地を回収し、そしてマウスsIL−6R調製物として使用した。培地中のマウスsIL−6Rの濃度は、サンドイッチELISAにより、モノクローナル抗マウスIL−6R抗体RS15(Saito ら、J.Immunol.147,168-173,1991)及びラビットポリクローナル抗−マウスIL−6R抗体を用いて測定した。
【0029】
マウスsIL−6RをマウスsIL−6R調製物から、モノクローナル抗マウスIL−6R抗体(RS12)を吸着させたアフィニテイーカラムにより精製した。フロインドの完全アジュバント中50μgの精製マウスsIL−6RによりWisterラットを皮下注射免疫し、次に2週間後から1週間に1回、フロインドの不完全アジュバント中50μgのマウスsIL−6Rにより4回皮下に追加免疫した。最後の追加免疫から1週間後、ラットに100μlのリン酸緩衝液(PBS)中50μgのマウスsIL−6Rを静脈内投与した。
【0030】
3日後にラットより脾臓を摘出し、そしてポリエチレングリコール(ベーリンガーマンハイム)を用いて、ラットの脾細胞とマウスp3U1ミエローマ細胞とを10:1の比で融合処理した。96−ウエルプレート(Falcon3075)のウエル中37℃にて、10%FBSを含有するRPMI1640培地100μl中で一夜インキュベートした後、ヒトIL−6を含有するヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)含有培地100μlを各ウエルに添加した。4日間にわたり毎日、培地の半分をHAT培地により置換した。
【0031】
7日後、抗マウスsIL−6Rを産生するハイブリドーマをマウスsIL−6R−結合アッセイ(ELISA)により選択した。要約すれば、ハイブリドーマの培養上清100μlを60分間、ラビットポリクローナル抗−ラットIgG抗体を1μg/mlでコートしたプレート中でインキュベートした。プレートを洗浄し、そして100μg/mlのマウスsIL−6Rと共にインキュベートした。洗浄後、ラビットポリクローナル抗−マウスIL−6R抗体を2μg/mlで加え、そしてプレートを洗浄し、そしてアルカリ性ホスファターゼ−結合ヤギポリクローナル抗−ラビットIgG抗体(Tago)と共に60分間インキュベートした。
【0032】
最後に、洗浄後、プレートを、アルカリホスファターゼの基質(Sigma 104;p−ニトロフェニルホスフェート)と共にインキュベートし、そして405nmにてプレートリーダー(東ソー)を用いて読み取った。マウスsIL−6Rを認識するハイブリドーマを限界希釈法により2回クローニングした。腹水の作製のため、BALB/c nu/nuマウスに0.5mlのプリスタンを2回注射し、そして3日後に3×106 個の樹立されたハイブリドーマ細胞を腹腔内注射した。10〜20日後に腹水を集め、そして腹水からプロテインGカラム(Oncogene Science)を用いてモノクローナル抗体MR16−1を精製した。
【0033】
MR16−1により生産された抗体のIL−6に対する中和効果を、MH60.BSF2細胞 (Matsuda ら、Eur.J.Immunol.18:951-956, 1988) による 3H−チミジンの取り込みにより試験した。MH60.BSF2細胞を96−ウエルプレートに1×104 細胞/200μl/ウエルの量で分配し、マウスIL−6(10pg/ml)とMR16−1又はRS12抗体とをウエルに加え、そして細胞を37℃にて5%CO2 中で44時間培養した。次に、各ウエルに 3H−チミジン(1 mci/ウエル)を加え、4時間後に 3H−チミジンの取り込みを測定した。
【0034】
実施例1.
参考例1において作製したB6 IL−6トランスジェニックマウス(B6 IL−6 Tgm)を自家繁殖したヒトIL−6 cDNAを持つトランスジェニックマウス31匹及びヒトIL−6 cDNAを持たない正常同腹仔11匹(いずれも4週齢;雄性)を用いた。B6 IL−6 Tgmは6匹づつ5群(第1〜5群)に分け、第1群のみ7匹とした。また正常同腹仔に第6群5匹及び第7群6匹に分けた。
【0035】
投与スケジュールは次の通りとした。
第1群(B6 IL−6 Tgm):4週齢(実験第1日)にラットIgG1抗体(KH5)(対照抗体)を2mg/0.2ml静脈内注射し、5週齢(実験第8日)以降、週2回づつ(3ないし、4日毎)100μgのKH5抗体を皮下注射した。
第2群(B6 IL−6 Tgm):4週齢にMR16−1抗体を2mg/0.2ml静脈内注射し、5週齢以後週2回づつ100μgのMR16−1を皮下注射した。
【0036】
第3群(B6 IL−6 Tgm):4週齢にリン酸緩衝液0.2mlを静脈内注射し、そして5週齢以降週2回づつ100μgのMR16−1を皮下注射した。
第4群(B6 IL−6 Tgm):4週齢に2mg/0.2mlのMR16−1を静脈内注射し、そして5週齢以降2週間ごとに400μgのMR16−1を皮下注射した。
【0037】
第5群(B6 IL−6 Tgm):4週齢に2mg/0.2mlのMR16−1を静脈内注射し、そして5週齢以降2週間ごとに1mgのMR16−1を皮下注射した。
第6群(B6 同腹仔):4週齢に対照抗体KH5を2mg/0.2ml静脈内注射し、そして5週齢以降週2回づつ100μgのKH5を皮下注射した。
第7群(B6 同腹仔):4週齢に2mg/0.2mlのMR16−1を静脈内注射し、そして5週齢以降週2回づつ100μgのMR16−1を皮下投与した。
【0038】
本発明において使用した試験方法は次の通りである。
体重および尿蛋白測定:毎週体重測定ならびに尿蛋白試験紙(Combistics三共)による尿蛋白測定を行った。尿蛋白は3+(100−300mg/dl)以上を陽性とした。
採血:実験開始時(4週齢)より隔週に眼窩静脈叢より採血を行い、実験終了時(18週齢)には後大静脈より全採血を行った。
【0039】
血球数測定:micro cell counter(Sysmex F−800)により、白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、血小板数(PLT)ならびにヘモグロビン量(HGB)を測定した。また、実験終了時には一部の群(1,2,6,7群)について血液塗抹標本を作製し、白血球分画を行って百分比を算出した。
【0040】
血中IgG1濃度測定:standardとしてmyeloma proteinを用いたマウスIgG1特異的ELISAで測定を行った。
血中hIL−6濃度測定:hIL−6特異的ELISAで測定を行った。
血中抗ラットIgG抗体価(IgG class)測定:投与抗体はマウスにとって異種抗体であるため投与抗体に対する抗体産生の有無をラットIgGを抗原としたELISAで測定を行った。測定はラット抗体を投与されたadultのIL−6 Tgm血清をstandardとし、ユニット化して表示した。
【0041】
血清生化学値の測定
実験終了時の1,2,3,6および7群のマウスの血清について、総蛋白質(TP)、アルブミン(Alb)、グルコース(Glu)、トリグリセライド(TG)、クレアチニン(CRE)、血中尿素窒素(BUN)、カルシウム(Ca)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、グルタミン−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)およびグルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)の各値をオートアナライザー(COBAS FARAII,Roche社)で測定した。
【0042】
骨髄および脾細胞のFACSによる解析:実験終了時に1,2,6,7群各1匹づつの骨髄ならびに脾細胞を採取し、FACScan(ベクトン・ディッキンソン)による細胞表面抗原の解析を実施した。使用した抗体は各々Gr−1(骨髄細胞)、CD4,CD8,B220(脾細胞)に対する抗体(ファーミンジェン社)である。
剖検:実験終了時に剖検を実施し、脾重量の測定ならびに主要臓器の肉眼的観察を行った。
【0043】
結果
体重:各群の体重推移を図1に示した。1群および3群では体重増加が観察された。他の群には体重変化の違いは観察されなかった。
尿蛋白:1群では13週齢より尿蛋白陽性個体が出現し(図2)、剖検時までに7匹中4匹(16週齢で2匹、17週齢で2匹)が死亡したが他の群では死亡例は観察されなかった。3群でも実験終了時までに6例中2例で尿蛋白陽性個体が出現したが、それ以外の群では認められなかった。
【0044】
血液学的所見:1群では、ヘモグロンビン量(図3)および赤血球数(図4)の減少が認められ、加齢とともにその程度は著しいものとなった。血小板数(図5)は一端増加したのち急激に減少した。3群では、1群よりやや遅れて同様の傾向が観察された。一方、2,4,5群では何れの群においてもヘモグロビン量、赤血球数の減少、血小板数の増加およびそれに続く減少は認められなかった。末梢血塗抹による白血球分画の観察では、1群で好中球および単球の増加、それにともなうリンパ球比率の減少が認められたが2群はほぼ正常値を示した(表1)。また、6群と7群の間には有意な差は存在しなかった。
【0045】
【表1】
【0046】
血中IgG1濃度:1群では、実験開始直後より著明な血中IgG1濃度の上昇が観察され最終的には正常マウスの100倍程度の濃度に達した(図7)。3群は1群よりやや遅れてIgG1濃度の上昇が観察された。これに対し、2,4,5群ではIgG1濃度の上昇は観察されず、実験期間中ほぼ一定の濃度であった。また、正常マウスでは抗体投与にともなう変化は観察されなかった。
【0047】
血中hIL−6濃度:血中hIL−6濃度(図8)は、IgG1と同様に推移し、1群および3群で血中濃度の上昇が観察されたのに対し、他の群では実験期間中ほぼ一定であった。
血中抗ラットIgG抗体価:1,3および6群ではラットIgGに対する抗体が検出された(表2)。1および3群では全例高い抗体価を示したが、6群で抗体価が上昇していたのは5匹中2匹であった。一方、その他の群では有意の上昇は観察されなかった。
【0048】
【表2】
血清生化学値の測定
1群と3群は、TPの増加とAlbの減少が認められた。TGとALPは、1群と3群で低下し、1群ではGluの低下もみられた。2群ではこれらの変化はみられなかった。
【0049】
【表3】
FACSによる解析:1,2,6,7群のFACSによる骨髄細胞(BM)および脾細胞(sp)の解析を行ったところ1群のBM細胞では顆粒球系前駆細胞であるGr−1陽性細胞の比率が極端に増加していた(図9、図10)が2群では同腹仔と同様の値を示した。また、6群と7群の間にはほとんど差がなかった。sp中のCD4,CD8,B220陽性細胞の比率は1群で形質細胞の増加によるCD8およびB220陽性細胞の減少が認められた以外は各群間に差は認められなかった(表4)。
【0050】
【表4】
【0051】
剖検所見:1群および3群では、全身リンパ節の腫脹、脾臓の膨張が顕著であり(図11)、腎臓の退色も著明であった。一部、肝臓の腫大も観察された。これらの変化はその他の群では観察されず、2,4,5群は同腹仔とくらべて脾臓が軽度に腫脹している以外は著変はみられなかった。
次に、この実験の結果を説明する。コントロール抗体投与IL−6 Tgm(1群)では、IgG1プラズマサイト−シス、貧血、血小板増加、血小板減少、腎不全、血清生化学値の異常など多彩な病態が観察されたが、これらの発症をMR16−1はほぼ完全に抑制し得ることが明らかとなった。
【0052】
IL−6はB細胞を形質細胞へ最終分化させることが知られており〔Muraguchi, A. らJ Exp Med.1988;167:332-344. 〕、IL−6 TgmはIL−6産生により、血中のIgG1濃度が上昇し、血清中のTP値の増加およびAlb値の低下がみられた。これらのことは、IgG1プラズマサイト−シスが発症したことを示している。
【0053】
これに伴い、全身のリンパ節や脾臓などのリンパ系組織が著明に腫大することが、1および3群で病状進行により全身状態が悪化しているにも関わらず体重増加が観察された原因であろう。MR16−1はこれらの症状を完全に抑制すると同時に血中IL−6濃度の増加も抑制した。したがって、IL−6 Tgmで認められる加齢に伴う血中IL−6濃度の増加はプラズマサイト−シスの進行と直接関係していることが確認された。すなわち、増殖した形質細胞自身がIL−6を盛んに産生することによってさらに形質細胞が増殖し、結果的にIL−6が大量に産生されることにあると考えられた。
【0054】
IL−6の血液系に対する作用としては、血小板増加作用〔Ishibashi, T. らProc Natl Acad Sci USA 1989;86:5953-5957; Ishibashi, T. らBlood 1989;74:1241-1244.〕や小球性貧血を引き起こす作用〔Hawley, R.G.らJ Exp Med.1992;176:1149-1163. 〕が知られている。IL−6 Tgmではこれらに加えて多クローン性B細胞活性化(polyclonal B cell activation)進行に関連した自己免疫性と考えられる〔宮井達也ら、前掲〕、加齢に伴う血小板減少が観察される。
【0055】
MR16−1はこのようなIL−6の直接および間接的な血球系に対する作用を完全に抑制したが同腹仔の血球数には影響しなかった。したがって、正常状態において抗IL−6レセプター抗体は血球系になんら影響を及ぼさないことが確認できた。また、IL−6 Tgmでは骨髄中の顆粒球系前駆細胞と考えられるGr−1陽性細胞比率の増加および末梢好中球比率の増加が観察された。IL−6が好中球を増加させることは知られているもののその詳細な機序は未だ明らかになっていない。今回の検討でこの作用が骨髄の前駆細胞レベルですでに起こっている現象であることが判明した。ここでもMR16−1はIL−6の作用を完全に抑制し、骨髄と末梢血中の好中球レベルには影響を与えなかった。
【0056】
MR16−1はIL−6 Tgmで観察される腎炎の発症も抑制した。IL−6はメサンギウム細胞のオートクライン増殖因子としてメサンギウム増殖性腎炎の発症に密接に関与していると報告されており、IL−6 Tgmの腎炎も組織学的にメサンギウム増殖性腎炎であることが確認されているが、IL−6によって亢進された免疫系の関与も否定できない〔勝目朝夫ら:第21回日本免疫学会発表「SCID×(SCID×H−2Ld hIL−6 transgenic mouse)マウスの特性」;1991〕。いずれにしても今回の実験で尿蛋白出現および腎炎による死亡の抑制がみられたことから、IL−6産生に起因する腎炎発症の抑制に抗IL−6レセプター抗体が有効であることが明らかとなった。
【0057】
IL−6 Tgmでは、悪液質の指標である血清中Glu値とTg値の著しい低下が観察された。今回の実験では、1群ではGlu値とTg値が低下し、2群ではこれらの値がほぼ正常と同程度に回復したことから、MR16−1抗体の投与が悪液質の改善に効果があることが示された。
MR16−1はラットIgG1で、マウスにとっては異種蛋白であるため投与抗体に対する抗体が産生され投与抗体が無効になることが容易に想像される。
【0058】
今回の実験では初回感作時に大量の抗原に暴露されることによって免疫学的寛容が誘導されることを期待して初回に2mg/mouseの抗体を静脈内投与した群を設定した。MR16−1投与群の内この処置を施した群(2,4,5群)では投与間隔、投与量に関係なく抗ラットIgG抗体は検出されず、完全な発症抑制効果が観察されたが、3群は抗ラットIgG抗体が上昇しコントロール抗体投与群である1群よりやや発症が遅れたのみで結局は同様の病態を呈した。
【0059】
したがって、この処置が免疫学的寛容誘導に有効であったと考えられるが、抗ラットIgG抗体は同様のスケジュールでコントロール抗体を投与した1群の全例および6群の2/5例でも検出された。IL−6 Tgmはプラズマサイト−シスが進行するとpolyclonal B cell activationが起こるため、1群および3群で検出された抗ラットIgG抗体が投与抗体特異的抗体であると断定はできないが、2,4,5群では初回感作時に大量の抗原に暴露されたことによる免疫学的寛容誘導効果と大量のMR16−1投与による特異抗体産生抑制作用〔斉藤浩之ら、前掲〕とが相まって完全な寛容が誘導されたのではないかと考えられた。
今回の実験で、抗IL−6レセプター抗体が正常レベルには影響を与えずにIL−6産生に起因する種々の疾患に対して極めて有効であることが明らかとなった。
【0060】
実施例2.
colon26誘導悪液質モデルに対するマウスIL−6レセプター抗体の効果を検討した。マウスは6週齢の雄性BALB/cを用い、実験開始日にcolon26の2mm角のブロックをマウスの側腹部皮下に移植した。マウスIL−6レセプター抗体MR16−1(参考例2参照)は、実験開始日のcolon26移植直前に2mg/マウスを静脈内投与し、それ以降7,11,14,18日目に0.5mg/マウスを皮下投与した(n=7)。
【0061】
この方法では、異種蛋白のラット抗体に対する中和抗体が出現しづらいことを以前の実験で確認している。なお、担癌コントロール群には、ラットIgGlコントロール抗体(KH5)を同様のスケジュールで投与した(n=7)。また、非担癌コントロール群としてPBS投与群を設置した(n=7)。実験開始後、連日体重を測定し、実験開始11および15日目に血清生化学的値および血中イオン化カルシウム濃度を測定した。
【0062】
担癌コントロール群では、10日目以降、非担癌コントロール群に比べ著明な体重減少が観られたが、MR16−1投与群では部分的な体重減少抑制効果を示した(図12)。11日目の血中トリグリセリド濃度および15日目の血中グルコース濃度を各々、図13、図14に示す。これらの値は担癌コントロール群では非担癌コントロール群に比べ顕著に減少したが、MR16−1投与群では、グルコースについては抑制傾向が、トリグリセリドについては有意な抑制効果が観察された。
【0063】
11日目の血中イオン化カルシウム濃度は、担癌コントロール群で非担癌コントロール群に比べ顕著に上昇したが、MR16−1投与群では有意な抑制効果を示した(図15)。
上記実験と同様のスケジュールで延命効果を確認する実験を行った(n=10)。その結果、MR16−1投与群では、延命効果があることが認められた(図16)。
【0064】
実施例3.
高カルシウム血症を伴うocc−1誘導悪液質モデルに対するIL−6レセプター抗体の効果を検討した。マウスは、6週齢の雄性ヌードマウスを用い、実験開始日にヒト口腔底癌細胞株occ−1をマウスの側腹部皮下に移植した。マウスIL−6レセプター抗体MR16−1(参考例2参照)は、実験開始日のocc−1移植直前に2mg/マウスを静脈内投与し、それ以降7および10日目に100μg/マウスを皮下投与した。(n=6)。
【0065】
この方法では、異種蛋白のラット抗体に対する中和抗体が出現しづらいことを以前の実験で確認している。なお、担癌コントロール群には、ラットIgGlコントロール抗体(KH5)を同様のスケジュールで投与した(n=6)。また、非担癌コントロール群としてPBS投与群を設置した(n=7)。実験開始10および12日目に体重および血中イオン化カルシウム濃度を測定した。
担癌コントロール群では、体重減少が観察されたが、MR16−1投与群では非担癌コントロール群と同様の体重の推移を示し、体重減少が抑制された(図17)。
血中イオン化カルシウム濃度は、担癌コントロール群で非担癌コントロール群に比べ著明な上昇が認められたが、MR16−1投与群では上昇が強く抑制された(図18)。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、各群の動物の推移の体重の増加を示すグラフである。
【図2】図2は、各群の尿蛋白質の陽性率の推移を示すグラフである。1群及び3群以外の群では尿蛋白質の陽性率は0であった。
【図3】図3は、各群のヘモグロビンレベルの推移を示すグラフである。
【図4】図4は、各群の赤血球数の推移を示すグラフである。
【図5】図5は、各群の血小板数の推移を示すグラフである。
【図6】図6は、各群の白血球数の推移を示すグラフである。
【図7】図7は、各群の血清IgG1濃度の推移を示すグラフである。
【図8】図8は、1〜5群でのヒトIL−6濃度の推移を示すグラフである。
【図9】図9は、1群及び2群における、対照抗体IgG及びGr−1抗体による、蛍光抗体セルソーティングの結果を示す図である。
【図10】図10は、6群及び7群における、対照抗体IgG及びGr−1抗体による、蛍光抗体セルソーティングの結果を示す図である。
【図11】図11は、実験終了後の各群の動物の脾臓重量を示すグラフである。
【図12】図12は、各群の動物の体重の推移を示すグラフである。
【図13】図13は、実験11日目のマウスの血中トリグリセリド濃度を示すグラフである。
【図14】図14は、実験15日目のマウスの血中グルコース濃度を示すグラフである。
【図15】図15は、実験11日目のマウスの血中イオン化カルシウム濃度を示すグラフである。
【図16】図16は、担癌マウスの生存率を示すグラフである。
【図17】図17は、実験開始10および12日目のマウスの体重を示すグラフである。
【図18】図18は、実験開始10および12日目のマウスの血中イオン化カルシウム濃度を示すグラフである。
Claims (6)
- インターロイキン−6レセプターに対する再構成ヒト抗体を含んで成る、キャスルマン病(Castleman's disease)の予防又は治療剤。
- インターロイキン−6レセプターに対する再構成ヒト抗体を含んで成る、キャスルマン病により惹起される貧血の予防又は治療剤。
- インターロイキン−6レセプターに対する再構成ヒト抗体を含んで成る、キャスルマン病により惹起される高イムノグロブリン血症の予防又は治療剤。
- インターロイキン−6レセプターに対する再構成ヒト抗体を含んで成る、キャスルマン病により惹起されるリンパ系組織の腫大の予防又は治療剤。
- インターロイキン−6レセプターに対する再構成ヒト抗体を含んで成る、キャスルマン病により惹起されるプラズマサイトーシスの予防又は治療剤。
- 前記再構成ヒト抗体が、再構成ヒトPM-1抗体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
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