JP3820779B2 - 歯車ポンプ及びこれを用いた燃料供給装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯車ポンプ及びこれを用いた燃料供給装置と歯車モータに係り、油圧装置等の流体圧源はもとより、ガソリン等の極めて粘度の低い流体を加圧吐出するエンジンへの燃料供給用にも好適なものに関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料を加圧してエンジンに供給するための燃料供給装置には、ガソリン等の極めて粘度の低い流体でも高圧で吐出でき、しかも、漏れが少なくて効率の高いポンプが必要である。特に、直噴ガソリンエンジンの燃料供給ポンプでは、水の2分の1以下、一般の油圧作動油の約100分の1という極めて低粘度のガソリンを、エンジンの圧縮工程でも吹込めるように10MPaを超えるほどの高い圧力で吐出しなければならないため、極力漏れを少なくして高い容積効率を実現しなければならない。また、エンジンルーム内に機器を効率良く配置するため、燃料ポンプの小形化も求められている。
【0003】
歯車ポンプは部品点数が少なくて小形,低コストである長所により、このような燃料ポンプへの適用が有望視される一方、一般に高圧用ポンプとして用いられるプランジャポンプと比較して流体の内部漏れが多いため、ガソリンのような低粘性流体を高圧に昇圧することが難しいという短所があった。
【0004】
これに対し、従来の内部漏れが少ない歯車ポンプ(従来技術1)としては、例えば、特公昭45−16300 号公報に記載されているように、密封されたケーシングと、該ケーシング内で互いにかみ合って流体を吸入・吐出するそれぞれに軸を有する駆動歯車および従動歯車と、該歯車軸が貫通する穴を有し前記歯車を回転摺動可能に挟設する一対の側板と、吐出された流体の吐出圧によって歯車に向かって押圧されて該歯車の歯先をシールするシールブロックと、側板の反歯車側に、吸込ポートにつながる低圧側と吐出ポートにつながる高圧側を区切ってシールするシール部材とを設け、該シール部材により吸込ポート部の周囲を囲んで内部を低圧領域とし、駆動歯車軸及び従動歯車軸は該シール部材の包囲範囲外の高圧領域に配置したものがある。
【0005】
この歯車ポンプは、側板の歯車側面への摺接により側面隙間を微少に維持して漏れを抑える構造である。このとき歯車側面に過大な押付力が加わらないよう、側板の反歯車側の面に設けたシール部材により高圧が作用する領域を調整している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来技術1の歯車ポンプは、駆動歯車軸の周囲が高圧領域内にあるため、外部へ貫通している軸のシール耐圧性を高くする必要があった。駆動歯車においてはポンプ外部にまで軸が貫通しているため、内部の流体をシールする回転軸シールの装着が必要である。回転軸シールとして信頼性の高いオイルシールは、軸の摩耗や傾きに対しても安定した密封性能を保ち、直噴ガソリンエンジンの燃料供給ポンプに使用する上でも高い信頼性が得られるが、耐圧性が低く、高いものでも1MPa程度である。
【0007】
これに対し、樹脂等でできた耐圧性が20MPaを超えるような高圧用の回転軸シールも存在するが、耐圧性に優れる反面、軸の摩耗や芯ずれ、粗さなどに対して密封面の追従性が悪く、信頼性の点でゴム製のオイルシールより劣っている。このため、自動車部品はもとより長期にわたって信頼性を求められる機器への使用の際に問題である。
【0008】
そこで、従来の歯車ポンプ(従来技術2)として、例えば、特開平8−219029 号公報に記載されているように、シール部材内部の低圧領域に側板を貫通する両歯車軸を含むようにしたものが案出されている。この歯車ポンプは、側板の歯車側においても歯車軸の周囲は低圧となり、駆動歯車軸の外部へのシール耐圧性を低くできるが、両歯車の歯底径より外径側では吸込ポート近傍を除いて高圧領域であるため、圧力差によって歯底から歯車軸に向かって放射状に流れる内部漏れが存在する。これが歯車側面と側板間での側面漏れであり、駆動歯車の両側面,従動歯車の両側面の計4面において漏れが生ずる。上述した理由により、駆動歯車軸の周囲は低圧とする必要があるが、外部と直接接しない従動歯車軸の周囲は低圧にする必要はない。しかし、上記従来技術2の歯車ポンプは従動歯車軸の周囲も低圧としており、上述のように歯車側面の計4面において漏れが生じるため、ガソリンのような低粘度の流体を高圧に昇圧する場合、この漏れによって高い容積効率が得られないという問題があった。特に、エンジンの燃料供給ポンプとして用い、これをエンジンで駆動する構成とした場合には、回転数が低くて吐出量が小さい領域では、吐出量に対して漏れ量が大きいために十分な吐出圧が得られなくなり、その結果としてエンジンを始動できない、アイドリングが不安定になる等の問題が生ずる。また、これらの短所を克服して低回転域でも十分な吐出圧を得るためにはポンプの吐出量を大きくしなければならないため、高回転域では過剰に吐出することになり、エネルギー損失が増して燃費が低下する、燃圧を調整する圧力制御弁からのリリーフ流量が増して発熱する等の問題も生ずる。
【0009】
更には、従来技術2のシール部材は複雑な形状であったため、その形状に合わせたシール部材、一般にはゴム製のガスケットを成形する必要があった。また組立上、必然的にガスケットと収納溝間には隙間が必要で、吐出圧によりゴムが内周側に変形することにより初めてゴムと溝とが接触し、ポンプが停止して吐出圧が下がると再び離れるという動作を繰り返す。このため、シール位置が安定せず圧力バランスが不安定になる上、ゴムのねじれ,摩耗等が起き易いという短所があった。
【0010】
本発明の目的は、簡単な構成により内部漏れを減少し、低回転域から高回転域まで広い範囲で高い効率と高い吐出圧が得られると共に、小形軽量化が図れる歯車ポンプおよび歯車モータを得ることにある。
【0011】
本発明の他の目的は、かかる歯車ポンプを用いて確実なエンジン始動及びより安定したアイドリング運転ができ、燃費が向上し、吐出圧の脈動が少ない燃料供給装置を得ることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、密封されたケーシングと、該ケーシング内で互いにかみ合って流体を吸入・吐出するそれぞれに軸を有する駆動歯車および従動歯車と、該歯車軸が貫通する穴を有し前記歯車を回転摺動可能に挟設する一対の側板と、前記側板の反歯車側に、吸込ポート部につながる圧力側と吐出ポートにつながる圧力側を区切ってシールするシール部材とを備えた歯車ポンプにおいて、前記吸込ポート部および前記駆動歯車軸の周囲を吸込ポート圧力領域とし、前記従動歯車軸は周囲を吐出ポート圧力領域となるように前記シール部材を設けたものである。
【0013】
又、上記目的を達成するために、本発明は、密封されたケーシング内で互いにかみ合って流体を吐出するそれぞれに軸を有する駆動歯車および従動歯車と、該歯車軸が貫通する穴を有し前記歯車を回転摺動可能に挟設する一対の側板と、前記吐出された流体の吐出圧によって前記歯車に向かって押圧されて該歯車の歯先をシールするシールブロックと、前記側板の反歯車側に、吸込ポート部につながる低圧側と吐出ポートにつながる高圧側を区切ってシールするシール部材とを備えた歯車ポンプにおいて、前記吸込ポート部および前記駆動歯車軸の周囲を低圧領域とし、前記従動歯車軸の周囲を高圧領域となるように前記シール部材を設けたものである。
【0014】
上記構成において、前記両側板の形状を、前記両側板の前記歯車の側面と接する面が、前記シールブロック側において、前記歯車の歯先円よりも外径側まで延びた形状とし、前記シールブロックの少なくとも一部を前記歯車とともに前記両側板で挟持した構成にすることが好適である。
【0015】
なお、前記シール部材は1つの閉曲線とするとともに、該閉曲線を構成するすべての曲線の曲率中心点を該閉曲線の内部方向に有する概ねたまご型とすること、さらには、前記側板の反歯車側に、前記シール部材とは別個に、従動歯車軸近傍の位置に弾性部材を設けることが好適である。
【0016】
又、前記側板の歯車側に、吸込ポートおよび駆動歯車軸の周囲のみを包囲する隆起部を設けることが好適である。
【0018】
又、上記目的を達成するために、本発明の燃料供給装置は、上述の歯車ポンプの吸込ポートに燃料タンクに至る管路を接続し、前記歯車ポンプの吐出ポートに燃料噴射弁に至る管路を接続し、前記歯車ポンプをエンジンの回転力もしくは電動機で駆動するように構成したものである。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の歯車ポンプの実施例を図を用いて説明する。
【0021】
まず、本発明の歯車ポンプの第1実施例を図1〜図5を用いて説明する。
【0022】
図1は本発明の歯車ポンプの第1実施例を示す縦断面図、図2は図1におけるA−A断面図、図3は図1におけるB−B断面図、図4は図1におけるC−C断面図を示す。また図5は側面漏れの形態を示す図である。
【0023】
歯車ポンプのケースはカバー41,ケーシング37より構成されており、軸受39,39′を介して駆動軸31aと一体になった駆動歯車31が軸支されている。従動歯車32は駆動歯車31と歯幅がほぼ等しく、互いにかみ合って回転しポンプ作用を行う。側板34,34′は両歯車31,32の側面に摺接して、歯車の側面シールを行うと共に、両歯車軸31a,32aの軸受を兼ね備え、このシール側板34,34′によって駆動歯車31,従動歯車32の両軸が平行かつ所定の間隔を有して支持されている。ケーシング37は図3,図4に示すように内部が円筒形をなすもので、両歯車31,32とは離れてこれを包囲している。ケーシング37とカバー41とで側板34,34′および両歯車31,32を挟み込んで支持している。ただし、ケーシング37の内部深さは、両側板34,34′と歯車31又は32を重ねた厚さよりもわずかに深くなっているため、側板34,34′とケース37,41とは直接接触せず、両者間に間挿されたシール部材38,38′の弾性力を介して挟設支持されている。
【0024】
両側板34,34′は、図3,図4に示すように吸込用流通孔となる吸込ポート35を有しており、吸込ポート35近傍における外縁Rは両歯車31,32の歯先円の径にほぼ等しく形成されている。シールブロック33は吸込ポート35近傍において両歯車31,32の歯先シールを行うもので、カバー41およびケーシング37とは別個に構成されている。シールブロック33のそれぞれのシール面も、両歯車31,32の歯先円の径とほぼ等しく形成され、そのシール面が両側板34,34′の外縁Rに接合した状態で両持ち保持されている。
【0025】
吸込ポート35は側板34,34′およびシールブロック33とケーシング37において形成されて、両歯車31,32のポンプ作用によって吸込ポート35より吸い込まれた流体はケーシング37内に放出され、このケース内に充満すると、吐出ポート36より外部に吐出される。
【0026】
シール部材38,38′は、側板34,34′およびシールブロック33の端面に形成された溝にはめ込まれ、吸込ポート35の接合面のシールを行うものである。これはケーシング37内の圧力すなわち吐出圧力と、吸込ポート35部の圧力すなわち吸込圧力との圧力差によって、ケーシング37内の流体がこの接合面を通って吸込ポート35と連通しないようにするためのものである。と同時に側板34,34′の反歯車側面の圧力分布を決定し、側板34,34′の歯車側面の圧力との軸方向推力をバランスさせ、歯車31,32に対してスラストな推力が生じないようにする役割を担うものである。すなわち、シール部材38の内側を吸込圧力、外側を吐出圧力に区画することで、側板34、34′の両面にはケース内の圧力の大きさが等しく作用するようになっており、軸方向の圧力バランスが得られる。と同時に側板34,34′の歯車側面シールが良好に行われる。
【0027】
以上述べたように本ポンプはいわゆる可動側板タイプのシールブロック形歯車ポンプであり、両歯車31,32の側面を側板34,34′でシールし、歯先をシールブロック33でシールしてポンプの内部漏れを極小化させるものである。側板34,34′の役割は吐出圧力の大小によらず歯車側面との隙間を常に一定に保つためのものであり、基本的には歯車31,32と接触しているため巨視的な隙間はない。もし側板内面が高圧になれば側板背面の隙間に導かれた流体も高圧になるので軸方向の圧力平衡が保たれる結果、側板34,34′は常に歯車側面との接触を保つようになっている。
【0028】
しかし、可動側板タイプのシールブロック形歯車ポンプは、内部漏れを極力抑えて高効率化を図る構成であるものの、単に側板を有するのみではガソリンのような極めて粘性の低い流体を扱う場合は十分でなく、さらに漏れを減らすことが望ましい。
【0029】
このため本発明の歯車ポンプはシール部材38,38′により、吸込ポート35部および駆動歯車軸31aの周囲を囲んで内部を低圧領域とし、従動歯車軸32aはシール部材の包囲範囲外の高圧領域に配置したものである。この歯車ポンプの側面漏れ形態は図5のように駆動歯車31の両側面の2面のみとなる。すなわち、上述したようにシール部材38,38′を配置することにより、従動歯車軸32の周囲は側板34,34′の歯車側においても反歯車側においても高圧となり、一方歯車外周も高圧であるため、圧力差がなく、その結果、従動歯車側では側面漏れが発生しない。このため従来技術2の歯車ポンプに比べて側面漏れがほぼ半減し、容積効率が大幅に向上する。歯車ポンプの内部漏れは、側面漏れ,歯先漏れ,かみ合い漏れ,シール部材からの漏れの4つに分けられるが、このうち最も割合が大きく漏れ全体の7割程度を占める側面漏れを半減できるので、その効果は非常に大きい。
【0030】
また、駆動歯車軸周囲は低圧としてあるので、ポンプ外部との回転軸シールに信頼性の高いオイルシールを使用することができ、軸の摩耗や傾きに対しても安定した密封性能を保ち、直噴ガソリンエンジンの燃料供給ポンプに使用する上でも高い信頼性が得られる。
【0031】
なお、シール部材38,38′の形状、もしくはシール部材38,38′が収納される側板34,34′およびシールブロック33の溝の形状は、図3に示すように概ねたまご形状を成すことが望ましい。
【0032】
本発明では、シール部材38,38′またはその収納溝を形成するすべての曲線が一方向のRであり、概ね楕円やたまご型を成す単純形状であるため、通常のゴム製の丸いOリングを溝の周長に合わせて選ぶだけでよく、製作工数の削減によりコストが低減できる上、Oリングの周長を溝よりやや小さく選ぶことによりゴムと溝とは常に接触を保つため、安定した圧力バランスが得られ、ゴムの移動がないので耐久性も向上できる効果がある。
【0033】
次に、本発明の歯車ポンプの第2実施例を図6ないし図8を用いて説明する。
【0034】
図6は、図1におけるA−A断面相当図、図7は図6におけるD−D断面図、図8は図6におけるE−E断面図を示す。第1実施例との相違点は、シールブロック33aが両歯車31,32の歯幅とほぼ同じ厚みになり、両歯車に加えシールブロックも側板34a,34a′により挟設保持されている点である。
【0035】
先の第1実施例ではシールブロック33を両側板34,34′に両持ち支持させ、互いの凹凸の部分円筒面同士で接触シールする構成であったが、本実施例によれば、シールブロック33aと側板34a,34a′の間のシール面が平面なので、加工が格段に簡単になる上、高い精度が容易に得られ、隙間ができにくくなる。しかも、側板34a,34a′の面は歯車31,32の摺動面と同じ面なので、このシール面を形成するために新たに必要となる加工面はシールブロック33aの両端の2面だけで済み、加工工数を大幅に低減できる。その上、シールブロック33aの歯先シール面を成す部分円筒面は後で歯先で削ってしまうので、先の実施例のシールブロック33のように、隙間を防ぐための高精度の加工は不要となる長所がある。
【0036】
なお、運転を開始するとシールブロック33aは吐出圧によって押付けられ、歯車31,32の歯先で削られて歯車側へ移動していく、と同時に隙間のない良好な歯先シール面が形成されていくが、ピン46により移動量が規制されているので必要以上に削られることはない。
【0037】
このような構成のシールブロックタイプの歯車ポンプにおいても、図8に示すようにシール部材38aにより駆動歯車軸周囲を低圧に、従動歯車軸周囲を高圧にすることによって、先の実施例同様に側面漏れをほぼ半減させることができ、より一層の容積効率向上を図ることができる。
【0038】
次に、本発明の歯車ポンプの第3実施例を図9ないし図11を用いて説明する。
【0039】
図9は本発明の歯車ポンプの第3実施例を示す縦断面図であり、図10は図9におけるF−F断面図、図11は図9におけるG−G断面図を示す。本実施例は歯先シールにシールブロックを用いないで、図10に示すように両歯車31,32の歯先をケーシング37bの内面に直接摺接させることにより歯先シールを行う形式の可動側板式歯車ポンプに関する。このため本ポンプでは両ケース41b,37bに対して両歯車の歯先を位置決めする必要があり、両歯車とも両ケースにはめ込まれた軸受39,39′ならびに40,40′により軸支されている。
【0040】
一方、側板34b,34b′には先のシールブロックタイプと異なり、軸受の機能はなく、軸方向の厚さが比較的薄くなっている。
【0041】
ケーシング37bには両歯車31,32の外径とほぼ等しい径の眼鏡状の孔が設けられ、この孔の中に両側板34b,34b′ならびに両歯車31,32が収納されている。
【0042】
このような構成の可動側板式歯車ポンプにおいても、図11に示すようにシール部材38bにより駆動歯車軸周囲を低圧に、従動歯車軸周囲を高圧にすることによって、先の実施例同様に側面漏れをほぼ半減させることができ、より一層の容積効率を図ることができる。
【0043】
上記いずれの本発明の実施例においても、側面漏れの形態は図5に示す漏れと同一である。
【0044】
次に、本発明の歯車ポンプの第4実施例を図12を用いて説明する。
【0045】
上述の本発明の歯車ポンプの実施例のものは、シール部材を駆動歯車側のみに寄せて配し、この部分でのシール部材の弾性力により両歯車を両側板で押圧支持する構成である。このため、従来技術の駆動・従動歯車側共に対称な弾性力で押圧する構造に比べ、側板の軸方向の推力バランスが不安定になる可能性がある。最悪の場合、両側板がハの字型に開いて駆動歯車側面にのみ摺接し、逆に従動歯車側面には過大な隙間ができて漏れが増えてしまうことが懸念される。さらに、歯車の片当たりによる側板の摩耗も懸念される。
【0046】
このため図12に示す第4実施例では、従動歯車側に弾性部材45を設け、シール部材38の弾性力の不平衡力を補正し、両歯車側面に確実に側板が摺接シールされるよう構成したものである。弾性部材45はシール部材38と材質を同じにした方が構成し易く、ゴムが適当である。これによりポンプ自身が受ける振動や運転圧力の大小に左右されず、広い運転範囲での安定した側面シールが可能となり、漏れを低減することができる。と同時に歯車の側板への片当たりがなくなるので、耐摩耗性,耐久性が向上する。
【0047】
次に、本発明の歯車ポンプの第5実施例を図13ないし図15を用いて説明する。
【0048】
本実施例では、側板の側面シールに必要な部分のみを隆起させて歯車に摺接させ、必要のない部分は徹底的に逃げることにより、側面シールのより一層の安定化を図る構成としたものである。
【0049】
図15に示すように側板34d′の歯車に摺接する側の面は、側面シールに必要な吸込ポート35の周囲および駆動歯車軸周囲のみを残し、不要な面を掘り下げる構成としてある。これにより、側面シールに必要な面をより確実に歯車側面に摺接させることができるので、歯車側面,側板側面の平坦度不良の影響を受けにくくなる上、仕上げの必要な面積が小さくなるので加工時間も短縮できる。
【0050】
この際、特に従動歯車側面の摺接箇所が少なくなるので、歯車の傾きが懸念される。そこで側板34d′では先の必要シール部以外にも、歯車軸から見て吸込ポートと点対称の位置の近傍にシール部と同じ高さの部位を残し、先のシール面と合わせて歯車を押圧支持することにより、歯車の傾きを防止している。
【0051】
さらに、本発明では図13に示すように側板34dの反歯車側の面も不要な部分は掘り下げて、シール部材38の内周部と従動歯車32の軸受周囲のみ残し、残りの箇所はすべて一段低くした構造としている。
【0052】
シール部材38は外圧シールのため基本的には溝の外周部は不要であり、またこの不要な外周部まで等しく同じ高さとしていることにより、側面シールが維持できなくなる問題が起こる。例えば本発明の歯車ポンプをエンジンのカム軸の回転力によってカップリングを介して駆動する場合、取付の芯ずれやエンジン振動等により少なからず駆動歯車軸は半径方向の外力を受けて傾こうとする。歯車軸が傾くと本来はこの傾きに合わせて両側板も傾こうとし、側面シールを維持し続ける。ところが側板の反歯車側とケース間の隙間はごく微少であるため、側板外周部まで均一な高さであると、ある程度傾いた時点で側板端面とケースが接触し、それ以上側板が自由に傾けなくなる。このため駆動歯車軸の傾きに側板が追従できず、結果、側面に隙間ができて漏れが増加してしまう。そこで側板34dでは不要な外周部を掘り下げることにより、ケース内面との接触を防いで駆動歯車31の傾きに側板34dを追従させ、安定した側面シールを実現している。
【0053】
次に、本発明の歯車ポンプの第6実施例を図16を用いて説明する。
【0054】
上述した本発明の従動歯車軸周囲を高圧として圧力差をなくして漏れを低減する構造では、従動歯車軸受を潤滑する流体も循環しないので、冷却不足による温度上昇や摩耗粉の詰まりによる軸受の摩耗,焼付きが懸念される。そこで、図16に示す本発明の第6実施例では、側板34e′の歯車側において従動歯車軸周囲に複数の放射状の突起を設け、この突起の高さを側面シール面と同等の高さとしたものである。隣り合う2個の突起と従動歯車側面とで囲まれた空間についてみると、歯車表面に近い部分では流体は粘性により歯車の回転と共に移動し、囲まれた空間内を内から外に流れる流れが起きる。歯車側面の軸周囲の流体は外径側へと放射状に流れていくので、軸周囲の流体を補給する流れが発生し、従動歯車軸受部においては紙面に垂直方向の奥から手前へ向かって流体が流れる。この結果、軸受の潤滑が良好に行われ、摩耗を抑えて耐久性を向上させることができる。
【0055】
次に、本発明の歯車ポンプを用いたエンジンの燃料供給装置の一実施例を図17を用いて説明する。
【0056】
この図に示す燃料系は、燃料をタンク6より移送するフィードポンプ2と、フィードポンプ2より吐出された燃料をさらに加圧する高圧用の歯車ポンプ3と、歯車ポンプ3に回転駆動力を与えるエンジン(動力)1と、フィードポンプ2の吐出圧力を調節する低圧プレッシャレギュレータ4と、歯車ポンプ3の吐出圧力を調節する高圧可変プレッシャレギュレータ5と、歯車ポンプ3より吐出された燃料を噴射する燃料噴射弁7と、エンジン停止後の燃料圧力を保持する逆止弁8と、燃料噴射弁7に入力電流を与える駆動回路11と、燃料噴射弁7に与える燃料圧力を計測する圧力センサ12と、各種センサからの情報を元に駆動回路11に入力信号を与えるコントロールユニット10とを有して構成されている。
【0057】
この歯車ポンプ3は図1ないし図16のいずれかに示した歯車ポンプであり、高圧燃料供給ポンプとして使用される。
【0058】
ここでエンジン動力とは主としてエンジン1の回転動力のことを指し、クランク軸やカム軸にカップリングを介して直接ポンプを接続して駆動したり、あるいはプーリーやギヤ列等を介して駆動するなどの機械的駆動力のことをいう。
【0059】
本実施例は本発明の車両用エンジンの燃料系を筒内噴射式ガソリンエンジンの燃料系に適用した例であり、燃料噴射圧力すなわち歯車ポンプ3の吐出圧力は3〜15MPa程度と高圧に昇圧する必要がある。このためエンジン始動時に燃料が所定の圧力まで上昇するのに時間がかかるので、逆止弁8によりエンジン停止後も燃料圧力を高圧のまま保持し、再始動時の昇圧性を向上させている。
【0060】
本実施例によれば、高圧燃料供給ポンプ3が漏れが少なくて低回転域から高い容積効率を得られるので、エンジン始動時やアイドリング時等の低い回転数でも十分高い圧力で燃料を供給することが可能となり、エンジン1を確実に始動できると共に、より安定したアイドリング運転ができ、これにより円滑に発進できる等の効果が得られ、このエンジン1を搭載した車両の運転性能が向上する。また、低回転域での容積効率の低下を補うために吐出量の大きいポンプを選定する必要がなくなるので、高圧燃料ポンプ3とフィードポンプ2が小形のもので済むと共に、常用回転域から高回転域で過剰な燃料を吐出することがなくなり、エネルギー損失が減少して燃費が向上し、更には高圧可変プレッシャレギュレータからのリリーフ流量が最小限に抑えられ、キャビテーションや発熱を防止できる等々、多くの効果を得ることができる。さらに、フィードポンプ2の吐出圧によって歯車ポンプ3の吸込ポートの圧力が燃料の飽和蒸気圧よりも高く保たれるので、キャビテーションとこれによる壊食が防止され、高い性能と信頼性を長期間にわたって保てるようになる。また、歯車ポンプ3は製作が容易で低コストなのでエンジンや車両のコストも低減できる上、小形で軽量なのでエンジンルーム内の機器の配置が容易になる等の効果も得られる。
【0061】
さらに、歯車ポンプ3を電気モータで駆動する構成とし、圧力センサ12からのフィードバック信号と、他のセンサからの情報に基づいてモータの回転数を調整して燃料圧力を制御する構成としてもよい。
【0062】
このように構成すれば、所望の燃圧に保つために必要最小限の流量だけを吐出するようになるので、高圧可変プレッシャレギュレータが不要になる上、リターン流量がないので燃料温度の上昇を抑えてキャビテーションの発生を抑制できる等の不具合発生を解消できる。その上、歯車ポンプの回転数をエンジンの回転数とは無関係に選定できるので、1種類のポンプで多機種のエンジンに対応できるようになり、ポンプの開発から生産,保守までのコストが低減でき、量産効果によるポンプの生産コスト低減の効果も一層大きくなる。
【0063】
尚、上記のように、本発明の歯車ポンプは水の2分の1以下の粘度しかないガソリンでも高圧かつ高効率に加圧供給できるので、水や食品,薬品等、他の流体にも用いられる。勿論、本発明の歯車ポンプを油圧装置の油圧源に用いれば、漏れが小さくて高い容積効率が得られるので、より高い圧力で吐出することが可能となる。従って、これまでは25MPa程が限界とされていた歯車ポンプの使用圧力を30MPaをも超える圧力まで高めることが可能となり、ピストンポンプ等の高価なポンプを用いていたシステムも低コストの歯車ポンプで済むようになってシステム全体のコスト低減を図ることができる。
【0064】
さらに、本発明の歯車ポンプの吐出ポートに流体圧源から供給される高圧の供給ポートを、吸込ポートにリザーバへ至る低圧の戻りポートをそれぞれ接続して流体を流せば、前出の図中に示した矢印とは反対の向きに歯車が回転して流体エネルギーを機械的な回転のエネルギーに変換する歯車モータとして作用する。この歯車モータを用いれば、小流量から大流量まで広い範囲にわたって高い効率が得られるので、モータの起動,停止時の特性が向上すると共に小形化と低コスト化が図れる等の効果が得られる。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な構成によりポンプの内部漏れが低減し、低回転域から高回転域まで広い範囲で高い効率と高い吐出圧が安定して得られると共に、小形軽量化も図れる歯車ポンプおよび歯車モータを得ることができる。又、かかる歯車ポンプを用いて確実なエンジン始動及びより安定したアイドリング運転ができ、燃費が向上し、吐出圧の脈動が少ない燃料供給装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の歯車ポンプの第1実施例を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図である。
【図4】図1のC−C断面図である。
【図5】本発明の第1実施例の歯車ポンプの側面漏れ形態を示す図である。
【図6】本発明の歯車ポンプの第2実施例を示す縦断面図である。
【図7】図6のD−D断面図である。
【図8】図6のE−E断面図である。
【図9】本発明の歯車ポンプの第3実施例を示す縦断面図である。
【図10】図9のF−F断面図である。
【図11】図9のG−G断面図である。
【図12】本発明の歯車ポンプの第4実施例を示す図3相当図である。
【図13】本発明の歯車ポンプの第5実施例を示す縦断面図である。
【図14】図13のH−H断面図である。
【図15】図13のI−I断面図である。
【図16】本発明の第6実施例を示す横断面図である。
【図17】本発明の歯車ポンプを用いたエンジンの燃料供給装置の一実施例を示す構成図。
【符号の説明】
1…筒内噴射エンジン、2…フィードポンプ、3…歯車ポンプ、4…低圧プレッシャレギュレータ、5…高圧可変プレッシャレギュレータ、6…燃料タンク、7…燃料噴射弁、8…逆止弁、10…制御装置、11…燃料噴射弁駆動回路、12…圧力センサ、31…駆動歯車、32…従動歯車、33…シールブロック、34…側板、35…吸込ポート、36…吐出ポート、37…ケーシング、38…シール部材、39…軸受、40…軸受、41…フロントケース、42…Oリング、43…回転軸シール、44…止め輪、45…弾性部材、46…ピン。
Claims (7)
- 密封されたケーシングと、該ケーシング内で互いにかみ合って流体を吸入・吐出するそれぞれに軸を有する駆動歯車および従動歯車と、該歯車軸が貫通する穴を有し前記歯車を回転摺動可能に挟設する一対の側板と、前記側板の反歯車側に、吸込ポート部につながる圧力側と吐出ポートにつながる圧力側を区切ってシールするシール部材とを備えた歯車ポンプにおいて、前記吸込ポート部および前記駆動歯車軸の周囲を吸込ポート圧力領域とし、前記従動歯車軸は周囲を吐出ポート圧力領域となるように前記シール部材を設けたことを特徴とする歯車ポンプ。
- 密封されたケーシング内で互いにかみ合って流体を吐出するそれぞれに軸を有する駆動歯車および従動歯車と、該歯車軸が貫通する穴を有し前記歯車を回転摺動可能に挟設する一対の側板と、前記吐出された流体の吐出圧によって前記歯車に向かって押圧されて該歯車の歯先をシールするシールブロックと、前記側板の反歯車側に、吸込ポート部につながる低圧側と吐出ポートにつながる高圧側を区切ってシールするシール部材とを備えた歯車ポンプにおいて、前記吸込ポート部および前記駆動歯車軸の周囲を低圧領域とし、前記従動歯車軸の周囲を高圧領域となるように前記シール部材を設けたことを特徴とする歯車ポンプ。
- 請求項2に記載の歯車ポンプにおいて、前記両側板の形状を、前記両側板の前記歯車の側面と接する面が、前記シールブロック側において、前記歯車の歯先円よりも外径側まで延びた形状とし、前記シールブロックの少なくとも一部を前記歯車とともに前記両側板で挟持したことを特徴とする歯車ポンプ。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の歯車ポンプにおいて、前記シール部材は1つの閉曲線とするとともに、該閉曲線を構成するすべての曲線の曲率中心点を該閉曲線の内部方向に有する概ねたまご型としたことを特徴とする歯車ポンプ。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の歯車ポンプにおいて、前記側板の反歯車側に、前記シール部材とは別個に、従動歯車軸近傍の位置に弾性部材を設けたことを特徴とする歯車ポンプ。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の歯車ポンプにおいて、前記側板の歯車側に、吸込ポートおよび駆動歯車軸の周囲のみを包囲する隆起部を設けたことを特徴とする歯車ポンプ。
- 請求項1乃至6のいずれか1項に記載の歯車ポンプの吸込ポートに燃料タンクに至る管路を接続し、前記歯車ポンプの吐出ポートに燃料噴射弁に至る管路を接続し、前記歯車ポンプをエンジンの回転力もしくは電動機で駆動するように構成したことを特徴とするエンジンの燃料供給装置。
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