JP3819090B2 - 有機化合物の分解方法、有機化合物の分解装置、微生物の単離方法および新規微生物 - Google Patents

有機化合物の分解方法、有機化合物の分解装置、微生物の単離方法および新規微生物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機化合物分解能を有する微生物を用いた有機化合物の分解方法、有機化合物分解能を有する微生物を用いた有機化合物の分解装置、有機化合物分解能を有する微生物の単離方法および有機化合物分解能を有する新規微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種の工場で洗浄剤等として使用されてきたトリクロロエチレン、ジクロロエチレン、フッ化ビニル、3,3,3-トリフルオロ-2- プロペン、2,3-ジクロロヘキサフルオロ -2-ブテン、臭化ビニル等のハロゲン化炭化水素やトルエン、フェノール、1-ブロモナフタレン、ブロモベンゼンあるいはクレゾール等の芳香族系炭化水素等の有機化合物の環境への漏出が大きく問題視されている。上述したような有機化合物は、その使用規制を強化する方向で進んでいるが、現在までに有機化合物で汚染された環境、例えば汚染土壌や汚染地下水の問題は依然として残っている。
【0003】
そこで、有機化合物で汚染された土壌や地下水等の環境を浄化することが検討されている。例えば、真空抽気や燃焼等の物理的な方法で汚染環境を浄化することも提案されているが、より低コストで環境負荷の少ない手法として、微生物を利用して汚染環境中の有機化合物を分解する方法が注目されている。また、有機化合物の直接的な分解処理技術として、熱・光による分解法等も知られているが、同様にコストや操作性の面から微生物を用いた有機化合物の分解方法が注目されている。
【0004】
例えば、上述した微生物を用いた有機化合物の生物分解法としては、メタンの添加を必要とするメタン資化性菌を利用する方法(特開平 2-92274号公報参照)や、フェノール、トルエン、クレゾール等の芳香族化合物による誘導を必要とする菌を利用する方法(特開平 8-66182号公報参照)、または、変異菌種を用いる方法(特開平8-228767号公報参照)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、上述した従来の有機化合物の分解方法は、添加物や誘導物質が必要であったり、変異菌種を用いるため、有機化合物の分解効率(処理効率)等を維持することが難しく、さらに汚染環境の浄化等に適用することを考えた場合、添加物や誘導物質を含めて新たな物質や変異菌種を環境に加えることは、別の汚染(2次汚染)を引き起こすおそれがあり、真の環境浄化にはならないという問題を有している。特に、環境に有害なフェノール、トルエン、クレゾール等の芳香族化合物による誘導を必要とする菌を使用する方法は、新たな環境汚染を引き起こすおそれが大きい。また、変異菌種を環境中に散布することは、安全性の面で問題を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の微生物を用いた有機化合物の分解方法では、有機化合物を分解するに必要な酵素を誘導する物質や変異菌種等を環境中に散布することが必要である。特に、誘導物質として、環境に有害な化学物質等を必要とする場合、あるいは変異菌種を環境中に散布した場合には、2次汚染を引き起こす可能性があり、環境を浄化する方法としては必ずしも満足のいくものではなかった。また、従来の微生物を用いた有機化合物の方法では、添加物や誘導物質を必要とするため、分解操作や分解効率等を維持することが難しいという問題を有している。
【0007】
このようなことから、汚染環境に、添加物や誘導物質等の新たな物質や変異菌種を添加することなく、例えば汚染環境中の有機化合物を有効に分解することができ、さらには有機化合物の分解操作や分解効率等を容易に維持することが可能な有機化合物の分解方法が強く求められている。
【0008】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、添加物、誘導物質あるいは変異菌種を必要とせずに、有機化合物を有効に分解することができ、また例えば汚染環境の浄化に適用した場合には環境負荷を極力低減することができる有機化合物の分解方法、該有機化合物の分解方法を適用した有機化合物の分解装置、有機化合物の生物分解に有効な微生物を効率よく単離することを可能とした微生物の単離方法、さらには添加物や誘導物質を必要とせずに、有機化合物を効率よく分解し得る新規微生物を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の有機化合物の分解方法は、第1の有機化合物に汚染された環境または前記環境と接触した試料に由来し有機化合物分解能を有する微生物と前記第1または第2の有機化合物とを接触する工程と、前記微生物により前記第1または前記第2の有機化合物を分解する工程とを具備したことを特徴としている。
【0010】
請求項1記載の本発明第2の有機化合物の分解方法は、第1のハロゲン化炭化水素に汚染された環境または前記環境と接触した試料から微生物を採取する工程と、密閉状態で気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるような第2のハロゲン化炭化水素を含む環境で、前記採取した微生物を培養する工程と、前記培養した微生物を分離する工程と、前記分離した微生物を前記第2のハロゲン化炭化水素の分解能に基づいて選択する工程と、前記選択した微生物を、前記第1のハロゲン化炭化水素、前記第2のハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種を含む環境に微生物のコロニーを形成するよう接触させる工程と、前記微生物により前記第1のハロゲン化炭化水素、前記第2のハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種を分解する工程とを具備し、前記選択する工程により選択された微生物が YMCT-001(FERM BP-5382) であることを特徴としている。
【0011】
請求項2記載の本発明第3の有機化合物の分解方法は、ハロゲン化炭化水素に汚染された環境または前記環境と接触した試料から微生物を採取する工程と、密閉状態で気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるような前記ハロゲン化炭化水素を含む環境で、前記採取した微生物を培養する工程と、前記培養した微生物を分離する工程と、前記分離した微生物を前記ハロゲン化炭化水素の分解能に基づいて選択する工程と、前記選択した微生物を、前記ハロゲン化炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を含む環境に微生物のコロニーを形成するよう接触させる工程と、前記微生物により前記ハロゲン化炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を分解する工程とを具備し、前記選択する工程により選択された微生物が YMCT-001(FERM BP-5382) であることを特徴としている。
【0012】
請求項3記載の本発明第4の有機化合物の分解方法は、 YMCT-001(FERM BP-5382) を、ハロゲン化炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を含む環境に微生物のコロニーを形成するよう接触させる工程と、前記微生物により前記ハロゲン化炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を分解する工程とを具備することを特徴としている。
【0013】
本発明の第1の微生物単離方法は、第1のハロゲン化炭化水素に汚染された環境または前記環境と接触した試料から微生物を採取する工程と、密閉状態で気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるような第2のハロゲン化炭化水素を含む環境で、前記採取した微生物を培養する工程と、前記培養した微生物を分離する工程と、前記分離した微生物を前記第2のハロゲン化炭化水素の分解能に基づいて選択する工程とを具備し、前記選択する工程により選択された微生物が YMCT-001(FERM BP-5382) であることを特徴としている。
【0014】
本発明の第2の微生物単離方法は、ハロゲン化炭化水素に汚染された環境または前記環境と接触した試料から微生物を採取する工程と、密閉状態で気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるような前記ハロゲン化炭化水素を含む環境で、前記採取した微生物を培養する工程と、前記培養した微生物を分離する工程と、前記分離した微生物を前記ハロゲン化炭化水素の分解能に基づいて選択する工程とを具備し、前記選択する工程により選択された微生物が YMCT-001(FERM BP-5382) であることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の新規微生物は、コマガテラ属、アルスロバクター属、ブレビバクテリウム属、クラビバクター属、ミコバクテリウム属、テラバクター属またはレニバクテリウム属に属し、有機化合物耐性を有し、かつ有機化合物分解能を有することを特徴としている。
【0017】
本発明の第1の有機化合物の分解方法においては、有機化合物の分解に汚染環境由来の有機化合物分解能を有する微生物を用いている。
【0018】
また、本発明の第2の有機化合物の分解方法においては、有機化合物分解能を有する微生物を、有機化合物耐性および有機化合物分解能を指標として、有機化合物に汚染された環境または前記環境と接触した試料より単離し、単離された微生物を用いて有機化合物を分解している。
【0019】
さらに、本発明の第3の有機化合物の分解方法においては、有機化合物の存在様態が、環境中または該環境と接触した試料中に存在する有機化合物の存在様態と全く同じとなるように微生物の培養条件を設定して、微生物を分離する。そして、分離した微生物の中から有機化合物分解能を有する微生物を単離し、単離された微生物を用いて有機化合物を分解している。ここで、有機化合物の存在様態とは、有機化合物の種類、量、存在比、存在形態(気体、液体、固体等)等の全ての状態を同時に表す概念である。
【0020】
本発明の第1、第2および第3の有機化合物の分解方法に用いる微生物は、有機化合物耐性を有しており、有機化合物を炭素源として生育可能であるため、添加物や誘導物質等を必要とせずに、有機化合物を有効に分解処理することができる。さらに、本発明の第1、第2および第3の有機化合物の分解方法を適用した有機化合物の分解装置によれば、有機化合物の分解能の維持や分解効率の安定化等を簡便に行うことが可能となる。従って、本発明の有機化合物の分解方法を汚染環境の浄化に適用した場合、添加物や誘導物質等を必要としないことに加えて、微生物自体も汚染環境に由来するため、環境負荷が極めて少なく、2次汚染等を引き起こすおそれがない。
【0021】
本願において、有機化合物とは、トリクロロエチレン、シス−ジクロロエチレン、トランス−ジクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化ビニル、四塩化炭素、フッ化ビニル、3,3,3-トリフルオロ-2- プロペン、2,3-ジクロロヘキサフルオロ -2-ブテン、臭化ビニル等のハロゲン化炭化水素およびトルエン、フェノール、クレゾール、1-ブロモナフタレン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンおよびポリ塩化ビフェニル類等の芳香族系炭化水素に代表される、各種の有機化合物の総称である。また、本願において、微生物とは、各種の細菌、放線菌、糸状菌、酵母、変形菌、藻類あるいは原生動物等を包括する概念である。
【0022】
また、有機化合物の分解に用いる汚染環境由来の細菌等の微生物は、有機化合物耐性を有することから汚染環境中でコロニーを形成することが通常可能であり、この場合には、大気(気相)中に揮発して存在する有機化合物とコロニーとが大気(気相)中で直接接触する可能性が大きい。このとき、有機化合物の分解に用いる汚染環境由来の微生物が、有機化合物を大気(気相)中から直接取り込んで炭素源として利用することが可能な微生物であるならば、液体中に存在する有機化合物だけでなく、大気(気相)中に揮発して存在する有機化合物をも生物分解することができるので好ましい。このような特性を示す微生物は、多種類存在することが推測され、例えば、コマガテラ属、アルスロバクター属、ブレビバクテリウム属、クラビバクター属、ミコバクテリウム属、テラバクター属またはレニバクテリウム属に属する細菌等を本発明の有機化合物の分解方法および分解装置に適用した場合には、これらの細菌は揮発した有機化合物を大気(気相)中から直接取り込んで炭素源として利用することができるため、大気(気相)中に揮発した形態の有機化合物を生物分解することが可能となる。しかしながら、微生物として、後述するコマガテラ属に属する新規微生物、特に、コマガテラ・ブレビス(Komagatella brevis)を本発明の有機化合物の分解方法および分解装置に適用した場合には、コマガテラ・ブレビスは揮発した有機化合物を大気(気相)中から直接取り込んで炭素源として利用する能力に優れているため、大気(気相)中に揮発した形態の有機化合物を効果的に生物分解することが可能となる。
【0023】
また、本発明の第1および第2の微生物の単離方法においては、汚染環境から採取した試料中の微生物を、まず高濃度に有機化合物が存在する条件下で培養しているため、高度の有機化合物耐性を有する微生物を効率よく分離することができる。そして、このような有機化合物耐性のみを指標として選別した微生物の中から、有機化合物分解能を有する微生物を選択しているため、有機化合物の分解性および有機化合物の分解装置の維持性に優れた微生物を効率よく得ることができる。なお、微生物の種によって生理的要求が異なるのが通例であるので、微生物を培養する際に、1種の培地に限ることなく適宜培地の組成および形態を変更し、温度等の条件も適宜設定することにより、多様な微生物を分離することができる。また、第1の微生物の単離方法の場合には、任意に設定された培養条件下で微生物を培養することにより、特定の性質を有する微生物を容易に分離することが可能である。さらに、第2の微生物の単離方法の場合には、有機化合物の存在様態を、微生物が採取された環境中と同一にして微生物を培養することにより、有機化合物耐性を有する微生物を確実に分離することができ、有機化合物分解能を有する微生物を効率的に単離することが可能となる。
【0024】
また、本発明の有機化合物の分解装置においては、第1の有機化合物に汚染された環境あるいは該汚染環境から採取した試料中より単離され、高度の有機化合物耐性と有機化合物分解能を有する微生物を保持し、保持した微生物と第1あるいは第2の有機化合物とを接触させているので、有機化合物の分解能の維持や分解効率の安定化等を簡便に行うことが可能となる。なお、第1および第2の有機化合物としては、前述した各種の有機化合物を挙げることができる。
【0025】
本発明の有機化合物の分解装置において、該分解装置の形態としては、特に限されず、例えば、バイオリボン浄化法、バイオリアクタ処理法、バイオフィルタ浄化法、注入浄化法およびバイオカラム処理法を適用した有機化合物の分解装置を挙げることができる。
【0026】
バイオリボン浄化法を適用した有機化合物の分解装置は、有機化合物分解能を有する微生物、特に、本発明の新規微生物を疎水性多孔質膜の内部に担持し、微生物が担持された疎水性多孔質膜を土壌中に埋設することにより、疎水性多孔質膜に対する有機化合物の吸着や有機化合物の蒸発力等を駆動力として土壌中の有機化合物を疎水性多孔質膜の内部に導入し、疎水性多孔質膜の内部で微生物により有機化合物を分解する。バイオリボン浄化法を適用した有機化合物の分解装置において、疎水性多孔質膜は、微生物を保持する保持手段と該保持手段に保持された微生物および有機化合物を接触させる接触手段とを兼ねている。
【0027】
疎水性多孔質膜としては、テフロン等で疎水性を付与する処理を施した多孔質体やテフロン等の疎水性材料を含有する多孔質体を用いることが好ましい。そして、疎水性多孔質膜の疎水性を調節することにより、疎水性多孔質膜の内部に有機化合物を導入する際の駆動力として、地下水の蒸発力を効率的に利用することができる。
【0028】
また、バイオリボン浄化法を適用した有機化合物の分解装置によれば、該分解装置を土壌中に埋設した後は、特に、メンテナンスやエネルギーを必要とすることなく、有機化合物を効率的に分解することができる。
【0029】
なお、土壌とは、地表以下の環境の全てを含む概念であり、土壌、土壌水、地下水およびそれらを含むものすべてを指している。
【0030】
また、バイオリアクタ処理法を適用した有機化合物の分解装置は、揚水した地下水、真空抽出した気体あるいは掘削した土壌を、バイオリアクタ内に保持された有機化合物分解能を有する微生物、特に、本発明の新規微生物と接触させることにより、バイオリアクタ内部で有機化合物を分解する。バイオリアクタ処理法を適用した有機化合物の分解装置において、微生物を保持する保持手段としては、通常、外部から閉鎖された反応槽等が該当し、また、該保持手段に保持された微生物および有機化合物を接触させる接触手段としては、地下水、真空抽出した気体あるいは掘削した土壌をバイオリアクタの反応槽に導入するためのポンプや導入管等が該当する。
【0031】
バイオリアクタにおいて、外部から閉鎖された反応槽等に微生物を保持し、また微生物と有機化合物とを接触させる場合には、該反応槽等の内部環境、例えば、pH、温度および溶存酸素濃度等を、反応槽等に保持した微生物の生理的要求にしたがって最適な条件に維持すると、微生物による有機化合物の分解効率が高まると共に、長期にわたり微生物による有機化合物の分解反応を維持することができる。すなわち、バイオリアクタ内における環境は、微生物による有機化合物の分解反応が最も高くなる状態に維持されることが望ましい。有機化合物の分解反応が最も高くなる状態は、微生物の種によって異なるので、バイオリアクタ内における環境は、反応槽等に保持した微生物の種の要求にしたがって適宜変更する。したがって、バイオリアクタ処理法を適用した有機化合物の分解装置においては、自然環境中では有機化合物の分解活性を維持不能な微生物をも有機化合物の分解に適用することが可能となる。また、揚水した地下水、真空抽出した気体あるいは掘削した土壌は、反応槽等の内部における有機化合物の分解活性が最も高くなるように導入量等が調節されて、微生物を保持した反応槽等に導入される。
【0032】
さらに、バイオリアクタの反応槽等に微生物を保持する場合には、微生物を培養液等に浮遊させた遊離状態で保持することが可能であるが、微生物を適当な担体に担持させておくことが好ましい。微生物を担体に担持することで、微生物を高密度に維持することが可能となり、有機化合物の分解をさらに効率的に行うことができる。このような担体は、微生物種によって適宜変更可能であるが、微生物を担持可能な多孔質体を含むものが好ましい。このような多孔質体としては、例えば、微生物のマイクロハビタットを形成できるものが好ましい。マイクロハビタットとは、数μm程度の孔隙中における微生物の微小な住居のことである。
多孔質体は粒状あるいは層状等、様々な形態を選択することができ、例えば、セラミックス、ガラス、ケイ酸カルシウム、シリカ、アルミナおよび鹿沼土のような団粒構造を持つ土壌粒子等の無機材料や活性炭、ウレタンフォーム、光硬化樹脂、アニオン交換樹脂、セルロース、リグニン、キチンおよびキトサン等の有機材料からなる多孔質体の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの多孔質体としては、安価なものが望ましい。さらに、微生物の保持や生育に適した構造を有したものが望ましく、例えば、数μm〜数十μmの孔隙を持つ多孔質体が望ましい。または、アルギン酸カルシウムゲル、アガロースゲル、カラギーナンゲル等による包括固定担体も好ましい。さらに、多孔質体と親水性ゲルの複合担体に利用可能である。
【0033】
さらに、バイオフィルタ処理法を適用した有機化合物の分解装置は、真空抽出した気体あるいは有機化合物を含有する気体等を、フィルタケース内のフィルタに担持された有機化合物分解能を有する微生物、特に、本発明の新規微生物と接触させることにより、フィルタケース内で有機化合物を分解する。バイオフィルタ処理法を適用した有機化合物の分解装置において、微生物を保持する保持手段としては、通常、外部から閉鎖されたフィルタケース等が該当し、また、該保持手段に保持された微生物および有機化合物を接触させる接触手段としては、真空抽出した気体をフィルタケース内のフィルタに導入するためのポンプや導入管等が該当する。
【0034】
バイオフィルタ処理法を適用した有機化合物の分解装置において、外部から閉鎖されたフィルタケースに微生物を保持し、また微生物と有機化合物とを接触させる場合には、該フィルタケース等の内部環境、例えば、温度および溶存酸素濃度等を、フィルタケース等に保持した微生物の生理的要求にしたがって最適な条件に維持すると、微生物による有機化合物の分解効率が高まると共に、長期にわたり微生物による有機化合物の分解反応を維持することができる。すなわち、フィルタケース内における環境は、微生物による有機化合物の分解反応が最も高くなる状態に維持されることが望ましい。有機化合物の分解反応が最も高くなる状態は、微生物の種によって異なるので、フィルタケース内における環境は、反応槽等に保持した微生物の種の要求にしたがって適宜変更する。したがって、バイオフィルタ処理法を適用した有機化合物の分解装置においては、自然環境中では有機化合物の分解活性を維持不能な微生物をも有機化合物の分解に適用することが可能となる。また、真空抽出した気体等は、フィルタケース等の内部における有機化合物の分解活性が最も高くなるように導入量等が調節されて、微生物を保持したフィルタケース等に導入される。
【0035】
さらに、フィルタケースに微生物を保持する場合には、微生物を適当なフィルタに担持させておくが、フィルタの構成部材には、濾紙、各種の天然繊維やプラスチック繊維の不織布、織布、プラスチックの発泡体等を用いることができる。また、前述した各種の担体を適用することも可能である。なお、フィルタの構成部材は、有機化合物により溶解しないものが選ばれる。
【0036】
バイオフィルタ処理法を適用した有機化合物の分解装置によれば、特に、抽出気体中の有機化合物を効率的に分解可能であり、土壌の不飽和帯に存在する有機化合物の分解に多用される。
【0037】
また、注入浄化法を適用した有機化合物の分解装置は、有機化合物分解能を有する微生物、特に、本発明の新規微生物を土壌中に投入することにより、自然環境中で土壌中に投入した微生物により有機化合物を分解する。注入浄化法を適用した有機化合物の分解装置において、微生物を保持する保持手段は該微生物を土壌等の環境中に投入する形態で保持する培養タンク等であり、該保持手段に保持された微生物と有機化合物とを接触させる接触手段は、環境中に該保持手段より微生物を投入する輸送ポンプおよび供給配管等である。
【0038】
環境中で微生物と有機化合物とを直接接触させる方法を用いる場合には、環境中の有機化合物を分解することが知られている微生物、例えば、本発明による新規微生物を予め適量に至まで培養しておき、土壌等の環境中に培養した微生物を投入するようにすることが望ましい。また、環境中に微生物を投入する場合には、微生物の活動を活発にし、環境中において微生物による有機化合物の分解反応の速度を高くするために、微生物の生存環境を整備する目的から、例えば、グルコース等の物質や酸素等の適量を環境中に適宜投入することが望ましい。なお、グルコース等の物質は、固体の状態で環境中に投入するよりも、微生物が容易に利用でき、また、撹拌作業等による時間およびエネルギーのロスを最小限に抑えることができるので、水溶液の形態で環境中に投入することが望ましい。
【0039】
さらに、微生物以外に、環境中にグルコース等の物質あるいは酸素等の適量を投入する場合には、微生物、グルコース等の物質あるいは酸素等を別個に環境中へ投入してもよいが、環境中へ投入する以前に微生物を最適な状態としておくために、それぞれを予め混合した後に環境中へ投入することが望ましい。
【0040】
また、環境中で微生物と有機化合物とを直接接触させる方法を用いた場合には、微生物を担体に担持させておくことが好ましい。微生物を担体に担持することで、微生物を高密度に維持することが可能となり、他の生物との生存競争から微生物を保護することができるので、有機化合物の分解を効率的に行うことができる。このような担体は、微生物種によって適宜変更可能ではあるが、通常、上述したような多孔質体が用いられる。このような多孔質体では、微生物のマイクロハビタットが形成されるものが望ましく、マイクロハビタットは微生物を過酷な環境から保護する働きを有する。例えば、外部環境が微生物の生存に影響を与えるような乾燥状態になったとしても、マイクロハビタットの中には毛管水が保持されているために、微生物への水分の供給は保たれる。また、マイクロハビタット中の微生物は、土壌等の環境中において、原生動物等の捕食から保護される。そのため、多孔質体を含む担体により、人工的にマイクロハビタットを形成することにより、微生物の生残性を向上することが可能となる。
【0041】
多孔質体は、安価なものが望ましい。また、土壌等の環境中へ投入して用いるという使用環境を考慮して、土壌等の環境中における分散性、移動性等を損なわないものが望ましく、例えば、粒径が1μm〜10mm程度の粒子状のものが好ましい。さらに、微生物の保持や生育に適した構造を有したものが望ましく、例えば、100nm〜100μmの孔隙を持つ多孔質体が望ましい。
【0042】
さらに、バイオカラム処理法を適用した有機化合物の分解装置は、有機化合物分解能を有する微生物、特に、本発明の新規微生物あるいは該微生物を担持した担体を透水性物質で構成された筒状体等に充填し、該筒状体等を土壌中に埋設することにより、筒状体等を透過した透過水と筒状体等の内部に保持された微生物とが接触し、筒状体等の内部で微生物により有機化合物を分解する。バイオカラム浄化法を適用した有機化合物の分解装置において、筒状体等は、微生物を保持する保持手段として機能するだけでなく、土壌中で移動する地下水を筒状体等の内部に透過させる接触手段としても機能する。
【0043】
筒状体等を構成する透水性物質としては、多孔質構造を有する金属やセラミックス等を用いることができる。そして、筒状体等における透水性を調節することにより、適当量の透過水と筒状体等の内部に充填された微生物とを接触させ、微生物により有機化合物を分解することができる。微生物を担持させる担体としては、上記した各種の担体を用いることができる。
【0044】
バイオカラム処理法を適用した有機化合物の分解装置は、主に、地下水中に含まれる有機化合物の分解に好適に用いることができる。また、バイオカラム処理法を適用した有機化合物の分解装置によれば、該分解装置を土壌中に埋設した後は、メンテナンスやエネルギーを必要とすることなく、有機化合物を経済的かつ効率的に分解することができる。
【0045】
本発明による有機化合物分解能を有する新規微生物は、上述した本発明の微生物の単離方法により得られ、有機化合物を分解するコマガテラ属、アルスロバクター属、ブレビバクテリウム属、クラビバクター属、ミコバクテリウム属、テラバクター属またはレニバクテリウム属に属する細菌である。
【0046】
また、本発明による有機化合物分解能を有する新規微生物は、上述した本発明の微生物の単離方法により得られ、有機化合物を分解するコマガテラ属に属する細菌であり、分類学的には、後述するように、コマガテラ・ブレビスとして分類される細菌である。コマガテラ・ブレビスとして分類される細菌には、後に詳述するYMCT−001株が挙げられるが、YMCT−001株はコマガテラ・ブレビスとして分類される細菌のひとつであって、YMCT−001株のみがコマガテラ・ブレビスとして分類される細菌であるとは限らない。換言すれば、コマガテラ・ブレビスとして分類される細菌は、YMCT−001株以外の株をも含む種である。
【0047】
コマガテラ属、アルスロバクター属、ブレビバクテリウム属、クラビバクター属、ミコバクテリウム属、テラバクター属またはレニバクテリウム属に属する細菌は、まず高濃度の有機化合物に対する耐性のみを指標に微生物を選別する、あるいは有機化合物の存在様態を微生物を採取した環境と同一として選別し、その中から有機化合物分解能を有する細菌として単離されたものであり、有機化合物を唯一の炭素源として成育することが可能である。
【0048】
なかでも、コマガテラ属に属する細菌、特に、コマガテラ・ブレビスは、添加物や誘導物質を必要とせずに、例えばトリクロロエチレン(以下、TCEと記す)、シス−ジクロロエチレン(以下、cis-DCEと記す)、トランス−ジクロロエチレン(以下、trans-DCEと記す)、1,1-ジクロロエチレン(以下、1,1-DCEと記す)、テトラクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化ビニル、四塩化炭素、フッ化ビニル、3,3,3-トリフルオロ-2- プロペン、2,3-ジクロロヘキサフルオロ -2-ブテン、臭化ビニル等のハロゲン化炭化水素やトルエン、フェノール、クレゾール、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1-ブロモナフタレン、ブロモベンゼン、ポリ塩化ビフェニル類等の芳香族系炭化水素に代表される各種有機化合物に対して高分解能を示す。コマガテラ・ブレビスは、生存環境中において、周囲の有機化合物の濃度がおよそ500 ppm に達するまでは有機化合物に対する耐性を示すとともに、周囲の有機化合物を分解して成育する。また、一般に、微生物を用いて有機化合物等の有害物質の分解を行う場合には、微生物を貧栄養下におき、微生物が有害物質を基質として利用せざるをえない条件とする。これは、有害物質とともに、微生物が有害物質より基質として利用しやすい物質が共存した場合には、微生物は有害物質より基質として利用しやすい物質を優先して利用してしまうためである。しかしながら、コマガテラ・ブレビスは、生存環境中において、自らが基質としうる炭素源、例えば、グルコースと有機化合物とが共存していたとしても、グルコースのみを分解することなく、有機化合物の分解を同時に行うことができる。このとき、有機化合物以外の炭素源、例えばグルコースが、コマガテラ・ブレビスの生存環境中に、10000 mg/L以下の範囲で有機化合物とともに存在していたとしても、コマガテラ・ブレビスは有機化合物の分解活性を維持することができる。さらに、グルコースが1800mg/L以下の範囲では、コマガテラ・ブレビスはグルコースが存在しない場合と同様、あるいはそれ以上の有機化合物の分解活性を維持することができる。従って、コマガテラ・ブレビスは、汚染環境の浄化等に対する有効性および実用性に優れ、また利用範囲が非常に広いものである。さらに、有機化合物の分解速度は、有機化合物の分解を開始した時点でのコマガテラ・ブレビスの菌数に比例して増大するので、有機化合物の濃度に応じて、有機化合物と接触するコマガテラ・ブレビスの菌数を調節することにより、有機化合物の分解速度を調節することが可能である。また、有機化合物の分解に際し、コマガテラ・ブレビスと有機化合物とを接触させるには、有機化合物を含有する試料中にコマガテラ・ブレビスを直接投入する手法等があげられるが、コマガテラ・ブレビスを各種の担体に担持して固定化した後、有機化合物と接触させると、多数の菌体を有機化合物と接触させることが可能となり、有機化合物の分解速度をさらに高めることができる。
【0049】
なお、上記した本発明によるコマガテラ属に属する細菌、特に、コマガテラ・ブレビスとして分類される細菌のひとつであるYMCT−001株は、工業技術院生命工学工業技術研究所に「FERM BP−5282」として寄託されている。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0051】
本発明の有機化合物の分解方法は、有機化合物に汚染された環境、あるいはこの汚染環境と接触した試料由来の有機化合物分解能を有する微生物を用いることを基本としている。以下に、本発明の有機化合物の分解方法の一実施形態について、図1を参照して述べる。
【0052】
まず、有機化合物に汚染された環境から試料(汚染環境)を採取する(図1-101)。ここで、試料採取を行う汚染環境としては、有機化合物に汚染された環境であれば特に限定されるものではなく、例えば汚染土壌、汚染地下水、汚染河川水、汚染湖沼水等が挙げられる。汚染対象となる有機化合物についてもTCE、cis-DCE、trans-DCE、1,1-DCE等、特に限定されるものではない。
【0053】
次に、採取した汚染環境またはこの汚染環境と接触した試料から、有機化合物分解能を有する微生物を単離する(図1-102)。このように、採取した汚染環境中で成育する微生物の中から、有機化合物分解能を有する微生物を単離することによって、有機化合物に対して耐性を有するとともに、有機化合物を炭素源として成育可能な微生物を効率よく得ることができる。すなわち、有機化合物耐性を有し、かつ有機化合物分解能を有する微生物が効率よく得られる。このような微生物によれば、後述する有機化合物の生物分解工程において、添加物や誘導物質等を用いることなく、安定した有機化合物分解能が簡便に得られるため、有機化合物の安定かつ効率的な分解性能を容易に維持することができる。
【0054】
有機化合物分解能を有する微生物は、上記した単離工程(後に詳述する)で得られるものであればよく、具体的な微生物として特に限定されるものではないが、例えばミクロコッカス属、ストマトコッカス属、プラノコッカス属、スタフィロコッカス属、アクチノミセス属、アミコラータ属、アルスロバクター属、ブレビバクテリウム属、クラビバクター属、コリネバクテリウム属、ゴルドナ属、コマガテラ属、ミコバクテリウム属、ノカルディア属、ピメロバクター属、レニバクテリウム属、ロドコッカス属およびテラバクター属に属する細菌等が挙げられる。表1および表2に、上記した各属の細菌の代表種( Type Strain)を示す。これら細菌に関しては、特開平 7-96289号公報にミクロコッカス属あるいはスタフィロコッカス属の細菌を利用することが記載されているが、これらの属の細菌のうち全ての種が必ずしも実際の汚染環境下で良好な有機化合物分解能を有するわけではないことが明らかとなった。
【0055】
ここで、実際に浄化が必要な環境とは、一般に、第1にpHが 4〜10、第1の条件に加えさらに第2に温度が 277〜313K、第1および第2の条件に加えさらに第3に有機化合物濃度が 30ppb〜500ppmの広い範囲にわたっている。これらの環境で生存、増殖し分解能を長時間維持し、より短時間で有機化合物を分解できなければ、汚染土壌や地下水中に放置、接触、散布、容器に入れての埋設、担体に固定した後に散布等して使用するタイプの有機化合物を分解する微生物として利用することはできない。
【0056】
本発明者らは、本発明の微生物の単離方法における培養工程および有機化合物耐性を有する微生物の選択工程を経て抽出した有機化合物耐性の微生物のうち、特に細菌について、上記汚染環境条件下での有機化合物分解活性(具体的にはTCE分解能)を評価した。その結果、第1と第2の条件において利用できるのは、表1および表2に併記した有機化合物分解能が△、○、◎の種であった。第3の条件まで満足させるためには、○、◎で示した種でなければならない。◎で示した種は、より短時間(5日間以内に 90%以上分解)で有機化合物を分解することができることから最も好ましい。これらの細菌は何らかの酸化酵素(例えばメタンモノオキシゲナーゼ、トルエンモノオキシゲナーゼ、アンモニア酸化酵素等)を体内に有し、あるいは体外へ放出し、これらの酵素が有機化合物の分解に関わっているものと考えられる。
【0057】
【表1】
Figure 0003819090
【表2】
Figure 0003819090
次に、有機化合物分解能を有する微生物の単離工程について、上記した細菌を例として詳述する。
【0058】
すなわち、まず採取した汚染環境に上述したような有機化合物を適量加えて培養し(図1-102-1)、この培養物から高濃度の有機化合物に対して耐性を有する微生物(耐性菌)を分離する(図1-102-2)。なお、微生物の培養に際しては、有機化合物の存在様態を、微生物を採取した環境と同一にすることもできる。この耐性菌の分離例を以下に示す。なお、以下の例(後述する実施例を含む)で用いた無機塩培地は以下の組成を有するものである。なお、培地は、抽出する微生物の生理的な要求により適宜変更されるものであり、以下の無機塩培地に限定されるものではない。
【0059】
[無機塩培地組成(無機塩培地1L中)]
Na2 HPO4 9.8g
KH2 PO4 1.7g
(NH4 2 SO4 1.0g
MgSO4 ・7H2 O 0.1g
MgO 10.75mg
CaCO3 2.0mg
ZnSO4 ・7H2 O 1.44mg
FeSO4 ・7H2 O 0.95mg
CoSO4 ・7H2 O 0.28mg
CuSO4 ・5H2 O 0.25mg
3 BO3 0.06mg
濃塩酸 51.3μL
まず、例えば高濃度のTCEで汚染された地下水や土壌を採取し、地下水の場合にはそのまま、土壌の場合には抽出液を、無機寒天培地上に接種、あるいは、0.1Mリン酸ナトリウムバッファ 0.1mLおよびトップアガー 0.5mLに加え、密閉可能な容器内に作製した無機塩寒天培地上に重層する。なお、抽出液は、滅菌したバイアル瓶に土壌1gと蒸留水9gとを導入して混合し、超音波処理あるいは十分振盪した後に得られた水溶液である。トップアガー重層時には、トップアガーを固化した後、例えばTCE−アセトニトリル溶液を添加して密閉し、298Kに設定した恒温槽内で 5〜10日間程度培養する。この際、TCE等の有機化合物は、例えば密閉容器内の有機化合物の気相濃度が50〜10000ppmとなるように加える。この後、無機寒天培地上、あるいは、トップアガーに出現したコロニーを白金耳で分離して、有機化合物耐性菌を得る。
【0060】
次に、上述した有機化合物耐性菌の中から有機化合物分解能を有する微生物
(分解菌)を選択する(図1-102-3)。この分解菌の選択例を以下に示す。
【0061】
まず、分離した耐性菌をそれぞれLB液体培地に接種し、例えば298K、100rpmで 1晩振盪培養して菌の前培養を行い、菌懸濁液をそれぞれ得る。次いで、バイアルビンに菌懸濁液 100μL 分の菌体(OD 660=1.0 )と無機塩培地25mLとを入れ、有機化合物例えばTCEおよびcis-DCEをそれぞれ1ppmになるように加える。バイアルビンをテフロンコートされたブチルゴムキャップとアルミキャップシールで密封して、例えば298K、100rpmで振盪培養し、有機化合物の分解を観察することによって、有機化合物分解能を有する耐性菌を選択する。すなわち、有機化合物耐性を有し、かつ有機化合物分解能を有する細菌を単離する。有機化合物の濃度はガスクロマトグラフを用いてヘッドスペース法で測定し、有機化合物の分解率を算出する。図2に耐性菌による有機化合物の分解試験結果の一例を示す。
【0062】
上述した有機化合物分解能を有する微生物の単離工程においては、汚染環境中の微生物、例えば、細菌を一旦高濃度の有機化合物を含む雰囲気中で培養しているため、菌数を絞り込むことができ、これによって有機化合物耐性菌を効率よく得ることが可能となる。このとき、有機化合物として、各種の有機化合物を用いることが可能であるが、微生物を採取した環境中に存在した有機化合物を用いると、該有機化合物に耐性を示す微生物(例えば、細菌)を容易に単離することができる。また、その際に気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるようにTCE等を加えた条件下で培養することで、より高度の耐性を有し、TCE等の有機化合物を唯一の炭素源としても成育可能な微生物を効率よく得ることができる。TCE等の気相濃度が50ppm 未満であると、培養後の生存菌数が増加して耐性菌の分離効率が低下すると共に、得られる耐性菌の有機化合物耐性が不十分となるおそれがある。一方、TCE等の気相濃度が10000ppmを超えても耐性菌の分離効率が低下する。また、TCE等の気相濃度が50〜100ppmの範囲では分解菌単離率は、出現した全コロニーの1/38、 100〜 4000ppmの範囲では分解菌単離率は出現した全コロニーの 1/4、4000〜 8000ppmの範囲では分解菌単離率は出現した全コロニーの 1/1、8000〜10000ppmの範囲では分解菌単離率は出現した全コロニーの 1/2と、高い確率で分解菌を入手することができる。このようなことから培養時のTCE等の気相濃度は4000〜8000ppm の範囲とすることがより好ましい。
【0063】
また、有機化合物分解能を有する微生物の単離工程において、汚染環境から採取した試料中の微生物を高濃度に有機化合物が存在する条件下で培養する際に、試料中の微生物を固体培地に白金耳等により適量接種し、有機化合物の気相濃度が50〜10000ppmの範囲の条件下で培養すると、有機化合物に耐性の微生物は、多くの場合、固体培地上にコロニーを形成するので、微生物のコロニーおよび有機化合物は大気(気相)中で直接接触することとなる。微生物のコロニーおよび気相濃度が50〜10000ppmの範囲の有機化合物を大気(気相)中で接触させることにより、有機化合物分解能を有する可能性のある微生物を効率的かつ容易に分離および選択することができ、必要に応じてコロニーを単離して容易に純粋培養を行うことが可能となる。したがって、迅速かつ確実に有機化合物耐性を示す微生物を得ることができる。なお、汚染環境から採取した試料中の微生物を高濃度に有機化合物が存在する条件下で培養する際、pH等の培地の組成および培養温度は適宜変更することができ、微生物に対して求める特性、例えば、成育条件に合わせてpH等の培地の組成および培養温度を適宜変更することにより、所望の特性(例えば、成育条件)を示す微生物を容易に選択することが可能となる。また、微生物を培養する培地としては、微生物がコロニーを形成することが可能である形態の培地、例えば、固体培地等を用いることが望ましい。
【0064】
そして、上述した有機化合物耐性のみを指標に選別した微生物(例えば、上記耐性菌)の中から、有機化合物分解能を有する微生物(例えば、上記分解菌)を選択することで、有機化合物を唯一の炭素源として成育可能であるとともに、有機化合物の高分解能を有する微生物を効率よく単離することができる。すなわち、添加物や誘導物質を必要とせずに有機化合物を分解し、かつ有機化合物の分解工程における安定性に優れた微生物が効率よく得られる。また、有機化合物に耐性を示す微生物の中から有機化合物を分解する微生物を選択する際に、使用用途に応じて各種の有機化合物を用いて選択工程を実施することによって、種々の有機化合物に対して分解能を示す微生物、例えば細菌を容易に得ることができる。なお、使用用途によっては、単一の有機化合物に対して分解能を示す微生物であってもよいが、環境浄化等に用いる場合には、種々の有機化合物に対して分解能を示す微生物の方が実用性が高く好ましい。
【0065】
なお、以上の工程は微生物の単離方法に相当するものである。また、本発明のコマガテラ属に属し、有機化合物を分解する新規微生物、すなわち、有機化合物分解能を有するコマガテラ・ブレビスの一種(工業技術院生命工学工業技術研究所に「FERM BP−5282」として寄託)は、上述した有機化合物に耐性を示す微生物の分離例および有機化合物を分解する微生物の選択例に基く微生物の単離工程により得られた微生物の一つである。コマガテラ・ブレビスについては後に詳述する。
【0066】
この後、上記有機化合物分解能を有する微生物の単離工程で得た、有機化合物耐性を有し、かつ有機化合物分解能を有する微生物、例えば細菌を、分解対象の有機化合物に接触させ、対象有機化合物の生物分解を行う(図1-103)。この生物分解工程は、例えば廃棄物としての有機化合物(有機化合物を含む廃水や廃ガス等を含む)を分解する際や、有機化合物で汚染された環境の浄化等、種々の有機化合物の生物分解処理に適用することができる。
【0067】
上述した有機化合物の生物分解工程は、添加物や誘導物質等を必要とせずに有機化合物を有効に微生物分解することができ、また用いる微生物(例えば細菌)自体も汚染環境から単離したものであるため、環境に有害な添加物や誘導物質等による二次汚染、さらには微生物散布による二次汚染のおそれもない。また、添加物や誘導物質等を必要としないことから、有機化合物の生物分解処理を簡便に維持することができる。従って、特に汚染環境の浄化に対して有効である。例えば、環境浄化として有機化合物の生物分解を行う場合には、有機化合物を含む汚染環境中で、分解対象の有機化合物を上記微生物(例えば細菌)と接触させて分解すればよく、これによって環境負荷を極力低減した上で、汚染された環境を効率よく浄化することができる。浄化対象となる汚染環境としては、前述した土壌、地下水、河川水等が挙げられる。
【0068】
分解対象となる有機化合物としては、上述したように、TCE、cis-DCE、trans-DCE、1,1-DCE、テトラクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化ビニル、四塩化炭素、フッ化ビニル、3,3,3-トリフルオロ-2- プロペン、2,3-ジクロロヘキサフルオロ -2-ブテン、臭化ビニル、トルエン、フェノール、クレゾール、ジクロロベンゼン、1-ブロモナフタレン、ブロモベンゼンおよびポリ塩化ビフェニル類等が挙げられ、分解対象に応じて分解菌を選択すればよい。特に、本発明によるコマガテラ属に属する細菌、特に、コマガテラ・ブレビスは、上記した各種の有機化合物のいずれに対しても分解能を示すため、利用範囲が広く実用性に優れるものである。
【0069】
次に、上述した有機化合物に耐性を示す微生物の単離例および有機化合物を分解する微生物の選択例に基く微生物の単離工程例により得られた微生物の一つであるコマガテラ属に属する細菌、特に、コマガテラ・ブレビスを代表する株(以下、YMCT−001株と略記する)、すなわち本発明の新規微生物のひとつについて述べる。
【0070】
YMCT−001株の細菌学的性質は、以下に示す通りである。
【0071】
Figure 0003819090
Figure 0003819090
Figure 0003819090
Figure 0003819090
上述した細菌学的性質をもとに、「バージェイズ マニュアル オブ システマティック バクテリオロジー ボリューム2,1986(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, Volume 2, 1986 )」および「バージェイズ マニュアルオブ デターミナティブ バクテリオロジー 1994(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology, 1994)」に従って検索を行ったところ、YMCT−001株は、胞子を形成せず、細胞の形態が多形性を示すグラム陽性桿菌で、土壌等の自然環境に広く分布しているコリネフォルム細菌と同定された。しかしながら、YMCT−001株は、上記文献に記載されているいずれの菌種とも性状が異なり、YMCT−001株の分類学的な位置を確定するには至らなかった。
【0072】
そこで、遺伝的性質から分類を試みるために、YMCT−001株の16S rRNAの塩基配列を決定し、上記した細菌学的性質をも考慮して、YMCT−001株の16S rRNAの塩基配列とYMCT−001株に近縁と考えられる菌種の16S rRNAの塩基配列とを比較し、Gene Works(帝人システムテクノロジー株式会社)を用いて近隣結合法(NJ法: neighbor-joining method)により分子系統樹を作成した。図3に、得られた分子系統樹を示す。
【0073】
図3に示したように、遺伝子による解析によれば、YMCT−001株はテラバクター属に属する細菌と近縁関係にあり、進化距離から検討すると、YMCT−001株はテラバクター属と近縁関係にあるが、異なる属に属する細菌である可能性が高いことが示唆された。なお、図3において、分子系統樹の枝の長さは推定塩基置換数に比例し、バーのスケールは進化距離を示している。次に、YMCT−001株とテラバクター属に属する細菌との細菌学的性質を考慮して検討したところ、(e)化学分類学的性質に記載したように、YMCT−001株では、細胞壁のジアミノ酸が meso-ジアミノピメリン酸であるのに対し、テラバクター属に属する細菌は細胞壁のジアミノ酸が LL-ジアミノピメリン酸であり、細胞壁のジアミノ酸の型が異なるという結果を得ることができた。一般に、細胞壁のジアミノ酸の型は、分類学的に属を区別する一指標である。
【0074】
したがって、本発明者らは、YMCT−001株のテラバクター属に対する進化距離およびYMCT−001株の細菌学的性質に鑑みて、YMCT−001株をテラバクター属と近縁関係にある新種と位置づけるのが最も妥当であるとの結論に達し、YMCT−001株を新しい属に属する新種の細菌と認め、コマガテラ・ブレビス(Komagatella brevis)と命名した。
【0075】
そこで、コマガテラ・ブレビスを中心とする進化距離に着目して細菌学的性質を検討した。この進化距離が比較的近いものについて、コマガテラ・ブレビスと同様の性質を示すか否かについて調べた結果が前述した表1および表2である。その結果、これらの表から明らかなように、アルスロバクター属、ブレビバクテリウム属、クラビバクター属、ミコバクテリウム属、テラバクター属またはレニバクテリウム属がコマガテラ属と同様の性質を示すことが分かった。前述した図3には、これらの各属の、コマガテラ属からの進化距離を示している。
【0076】
YMCT−001株の培養に関し、YMCT−001株は277Kから313Kまでの温度範囲で成育可能ではあるが、培養温度は 283〜303Kとすることが好ましく、最も適する培養温度は 288〜298Kである。また、培地のpHは 6.0〜 9.5、さらに pH6.5〜 8.5とすると好ましく、最も培養に適する培地のpHは 7.5〜 9.0である。培地としては、一般細菌用のLB培地、NB培地等、および各種無機塩培地を用いて成育可能である。
【0077】
YMCT−001株は、TCE、cis-DCE、trans-DCE、1,1-DCE等を唯一の炭素源として成育可能であり、かつテトラクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化ビニル、四塩化炭素、フッ化ビニル、3,3,3-トリフルオロ-2- プロペン、2,3-ジクロロヘキサフルオロ -2-ブテン、臭化ビニル、トルエン、フェノール、クレゾール、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1-ブロモナフタレン、ブロモベンゼンおよびポリ塩化ビフェニル類等の種々の有機化合物に対して分解能を示す。従って、有機化合物に汚染された環境の微生物による浄化・分解処理等において、有効かつ幅広く利用することができ、実用性に優れるものである。また、YMCT−001株をバイオリアクタに適用し、菌数を調整することによって、より高濃度の有機化合物を効率よく分解することができる。なお、YMCT−001株は、 pH6.0〜8.5 および 283〜303Kの温度範囲で有機化合物を良好に分解するので、YMCT−001株をバイオリアクタに適用した場合には、バイオリアクタ内の菌床のpHを6.0 〜8.5 とし、かつ温度を 283〜303Kの範囲に制御することが望ましい。
【0078】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0079】
(実施例1)
まず、バイアルビンに前述した無機塩培地25mLとYMCT−001株のLB培地培養液 100μL (OD 660=1.0)分の菌体とを入れ、これを複数用意した。別々のバイアルビンに、TCE、cis-DCE、trans-DCEをそれぞれ1ppmの濃度になるように加えた。これらを298K、100rpmで振盪培養しつつ、ガスクロマトグラフィを用いて各有機化合物の濃度の経時変化を測定した。それらの結果を図4に示す。
【0080】
図4から明らかなように、いずれの有機化合物も10日以内で検出されなくなった。なお、これら以外にも、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化ビニル、テトラクロロエチレン、ジクロロベンゼン、ポリ塩化ビフェニル(PCB)類に対しても分解活性を示した。
【0081】
(実施例2)
まず、バイアルビンに無機塩培地25mLと共に、YMCT−001株のLB培養液 100μL (OD 660=1.0)分の菌体を入れたもの(サンプル A)、サンプル Aと比較して25倍の菌数となるように遠心濃縮した菌液 100μL 分の菌体を入れたもの(サンプル B)、サンプル Aと比較して 100倍の菌数となるように遠心濃縮した菌液 100μL 分の菌体を入れたもの(サンプル C)、およびサンプル Aに用いた培養液を 1/4稀釈した菌液 100μL 分の菌体を入れたもの(サンプル D)をそれぞれ用意した。
【0082】
上述した各サンプルにTCEをそれぞれ1ppmの濃度になるように加え、298K、100rpmで振盪培養しつつ、TCE濃度の経時変化をそれぞれ測定した。それらの結果を図5に示す。図5から明らかなように、TCEの分解を開始する時点において、TCEと接触する菌数を増やすことによって、TCEの完全分解に至る時間を大幅に短縮できることが分かる。
【0083】
(実施例3)
TCE濃度を1ppm、2ppm、3ppm、cis-DCE濃度を1ppm、5ppm、8ppm、trans-DCE濃度を1ppm、2ppmと変化させると共に、25倍濃縮菌液 100μL 分の菌体を加える以外は、実施例2と同様にして分解試験を行った。それらの結果を図6、図7および図8にそれぞれ示す。これらの図から明らかなように、YMCT−001株は高濃度の有機化合物の分解能力を有することが分かる。
【0084】
(実施例4)
まず、バイアルビンに無機塩培地25mLと共に、YMCT−001株のLB培養液 100μL (OD 660=1.0)分の菌体を入れ、グルコースを全有機炭素( TOC)として、0.18mg/L(サンプル E)、18mg/L(サンプル F)、1800mg/L(サンプル G)、10000mg/L (サンプル H)および無添加(対照区;サンプル I)となるように調整した各サンプルをそれぞれ用意した。
【0085】
上述した各サンプルにTCEをそれぞれ1ppmの濃度になるように加え、298K、100rpmで振盪培養しつつ、TCE濃度の経時変化をそれぞれ測定した。それらの結果を図9に示す。
【0086】
図9から明らかなように、YMCT−001株は、TCEおよびグルコースが共存していたとしても、本実施例におけるグルコース濃度の範囲でTCE分解活性を示した。また、図9から明らかなように、YMCT−001株は、グルコースが0.18mg/L〜1800mg/Lの範囲では、グルコースが共存しない場合と同等、あるいはそれ以上のTCE分解活性を示した。なお、TCE以外にも、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化ビニル、テトラクロロエチレン、ジクロロベンゼンおよびポリ塩化ビフェニル(PCB)類に対してほぼ同様の分解活性を示した。
【0087】
(実施例5)
まず、バイアルビンに、約100ppmのcis-DCEに汚染された体積25mlの褐色森林土 (cis-DCE 100mg/kg土壌)と無機塩培地10mLとYMCT−001株のLB培養液 100μL (OD 660=1.0)分の菌体とを加え(cis-DCE液中濃度約4ppm)、それ以外は実施例2と同様にして分解試験を行った。その結果、土壌に含まれていたcis-DCEは 7日後に検出されなくなった。
【0088】
(実施例6)
まず、バイアルビンに約2ppmのcis-DCEと約1ppmのTCEに汚染された地下水25mLとYMCT−001株のLB培養液 100μL (OD 660=1.0)分の菌体とを加え、それ以外は実施例2と同様にして分解試験を行った。その結果、cis-DCEおよびTCE共に14日以内に検出されなくなった。
【0089】
(実施例7)
YMCT−001株を各種の担体に保持して固定化し、 10ppmのTCEの分解試験を行った。担体としては、以下の表3に示すものをそれぞれ用いた。図10に固定化菌による分解試験結果の一例(担体:アルギン酸カルシウムゲル)を示す。図10から明らかなように、遊離状態の細菌と比較して、多量の細菌を分解対象物と接触させることができる固定化菌体を用いることによって、より高濃度の有機化合物を短時間で分解することができた。
【0090】
【表3】
Figure 0003819090
(実施例8)
テフロン製濾紙をYMCT−001株の懸濁液(OD 660=1.0)に浸漬し、25℃の下で18時間振盪培養を行った後、減圧処理を行って、濾紙の内部にYMCT−001株を担持した。なお、YMCT−001株を担持直後は、水が濾紙の内部に浸潤しているため、発水性を回復するまで乾燥させた。このようにしてYMCΤ−001株を担持したテフロン製濾紙111を準備した。
【0091】
一方、 400cm× 400cm× 800cmのコンクリート性ライシメータに、各種の有機化合物で汚染された土壌を詰めた。このとき、図11に示すように、アクリル製容器に詰めた土壌には、環境中の土壌と同様に、不飽和帯112と、透水層113および難透水層114からなる飽和帯115とが構成されている。
【0092】
そして、この土壌中に、YMCT−001株を担持した上記テフロン製濾紙111を難透水層114まで達するように埋め込んだ。この様子を、図11に示す。なお、土壌中における有機化合物の濃度は、ΤCEの濃度が5ppm、トルエンの濃度が100ppm、フェノールの濃度が100ppm、フッ化ビニルの濃度が5ppmとなっている。
【0093】
そして、YMCΤ−001株を担持したテフロン製濾紙111を土壌中に埋め込んだ後、ライシメータの上部に蓋をして樹脂で密封し、土壌を経時的にサンプリングして、土壌中に含まれる各有機化合物の濃度を測定した。その結果を図12に示す。なお、土壌の温度は15℃に維持されていた。
【0094】
図12から明らかなように、本実施例によれば、各種の有機化合物が土壌中に含まれていたにもかかわらず、全ての有機化合物を確実に分解することができた。(実施例9)
図13に示すバイオリアクタシステム116のタンク117内にYMCT−001株を投入した。そして、給水管118より各種有機化合物で汚染された地下水をタンク117内に導入し、YMCT−001株による有機化合物の分解を行った。なお、地下水中における有機化合物の初期濃度は、ΤCEの濃度が5ppm、トルエンの濃度が100ppm、フェノールの濃度が100ppm、フッ化ビニルの濃度が1ppmであった。また、タンク117の容量は2000L、タンク117内の温度は25℃に維持されており、有機化合物が分解処理された地下水は排出管119より外部へ排出されるようになっている。そして、バイオリアクタシステム116ヘ導入前後の各有機化合物の濃度を測定した。その結果を図14に示す。
【0095】
図14から明らかなように、本実施例によれば、各種の有機化合物が地下中に含まれていたにもかかわらず、全ての有機化合物を確実にかつ安定に分解することができた。得に、ΤCE、トルエンおよびフェノールの分解効率は、極めて良好であった。
【0096】
(実施例10)
粒径が 5mm程度の活性炭にYMCT−001株を担持した後、YMCT−001株を担持した活性炭を内容積1000mlのドラム缶に詰めてバイオフィルタ120を作成した。そして、図15に示すように、土壌124中より、挿入管121、ブロア122および供給管123を介して、バイオフィルタ120に、cis-DCEおよびCFC−113を約1.2 g/m3 の濃度で含有する気体を導入した。そして、バイオフィルタへ導入前後の各有機化合物の濃度を測定した。なお、バイオフィルタ120内の温度は25℃に維持されており、有機化合物が分解処理された気体は排出管125より外部へ排出されるようになっている。その結果を図16に示す。
【0097】
図16から明らかなように、本実施例によれば、各種の有機化合物が気体中に含まれていたにもかかわらず、全ての有機化合物を確実にかつ安定に分解することができた。
【0098】
また、活性炭にYMCT−001株を担持した上記実施例の場合には、活性炭の破かに要する期間は88日であったが、活性炭にYMCT−001株を担持しなかった場合には、活性炭の破かに要する期間は28日であった。したがって、本実施例においては、長期にわたり安定かつ確実な有機化合物の分解を行うことができた。
【0099】
(実施例11)
400cm× 400cm× 800cmのライシメータに、各種有機化合物で汚染された土壌を詰め、図17に示す揚水循環システム126を構築した。ライシメータに詰めた土壌には、環境中の土壌と同様に、不飽和帯112と、透水層113および難透水層114からなる飽和帯115とが構成されている。また、土壌中における有機化合物の初期濃度は、ΤCEの濃度が5ppm、トルエンの濃度が100ppm、フェノールの濃度が100ppm、フッ化ビニルの濃度が1ppmであり、1m/日の割合で揚水循環を行った。なお、ライシメータの上部に蓋をして密封した。そして、この土壌中に、土壌中の菌体濃度が土壌1mlあたり10 8 cfuとなるように、微生物供給装置127から供給管128を通してYMCT−001株を注入した。なお、地下水は、ポンプ129の駆動により給水管130より揚水され、揚水循環システム126内を流通するが、本実施例では活性炭吸着塔131に活性炭は充填されておらず、また、供給装置132よりグルコース等の物質の添加は行われなかった。さらに、土壌の温度は、15℃に維持されていた。そして、土壌中を流通した地下水に含まれる各種有機化合物の濃度を測定した。その結果を図18に示す。
【0100】
図18から明らかなように、本実施例によれば、各種の有機化合物が地下中に含まれていたにもかかわらず、全ての有機化合物を確実にかつ安定に分解することができた。
【0101】
(実施例12)
400cm× 400cm× 800cmのライシメータに、各種有機化合物で汚染された土壌を詰め、0.01m/日の割合で清浄な地下水を揚水循環した。なお、ライシメータに詰めた土壌には、環境中の土壌と同様に、不飽和帯112と、透水層113および難透水層114からなる飽和帯115とが構成されている。また、土壌中における有機化合物の初期濃度は、ΤCEの濃度を5ppm、トルエンの濃度を100ppm、フェノールの濃度を100ppm、フッ化ビニルの濃度を1ppmとした。なお、ライシメータの上部に蓋をして樹脂で密封した。
【0102】
そして、この土壌中に、粒径が約 5mmでYMCT−001株を担持したセラミックス多孔質体を充填した筒状体133を埋設した。この様子を、図19に示す。そして、土壌中を流通した地下水に含まれる各種有機化合物の濃度を測定した。その結果を図20に示す。なお、土壌の温度は、15℃に維持されていた。
【0103】
図20から明らかなように、本実施例によれば、各種の有機化合物が地下中に含まれていたにもかかわらず、全ての有機化合物を確実にかつ安定に分解することができた。
【0104】
(実施例13)
400cm× 400cm× 800cmのライシメータに、各種有機化合物で汚染された土壌を詰め、図21に示す浄化システム134を構築した。土壌中における有機化合物の初期濃度は、ΤCEの濃度が5ppm、トルエンの濃度が100ppm、フェノールの濃度が100ppm、フッ化ビニルの濃度が1ppmであった。そして、この土壌124中に、土壌中の菌体濃度が土壌1mlあたり10 8 cfuとなるように、微生物供給装置135から供給管136および挿入管137を通してYMCT−001株を注入した。なお、供給装置138よりグルコース等の物質の添加は行われなかった。
【0105】
そして、土壌中にYMCT−001株を注入した後、ライシメータの上部に蓋をして樹脂で密封し、土壌を経時的にサンプリングして、土壌中に含まれる各有機化合物の濃度を測定した。その結果を図22に示す。なお、土壌の温度は15℃に維持されていた。
【0106】
図22から明らかなように、本実施例によれば、各種の有機化合物が土壌中に含まれていたにもかかわらず、全ての有機化合物を確実に分解することができた。
【0107】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の有機化合物の分解方法によれば、汚染環境から有機化合物耐性が指標となるように単離した有機化合物分解能を有する微生物を用いているため、環境に有害な添加物や誘導物質、あるいは変異菌種等を必要とせずに、有機化合物を安全かつ有効に分解することができる。従って、汚染土壌や汚染地下水等の原位置修復を2次汚染を招くことなく実施することが可能となる。また、微生物自体も汚染環境に由来するものであるため、微生物による2次汚染のおそれもない。
【0108】
また、本発明の有機化合物の分解装置によれば、汚染環境から有機化合物耐性が指標となるように単離した有機化合物分解能を有する微生物により有機化合物を分解する構成となっているため、環境に有害な添加物や誘導物質、あるいは変異菌種等を用いることなく、有機化合物を安全かつ有効に分解することができる。従って、汚染土壌や汚染地下水等の原位置修復を2次汚染を招くことなく実施することが可能となる。また、微生物自体も汚染環境に由来するものであるため、微生物による2次汚染のおそれもない。
【0109】
さらに、本発明の微生物の単離方法によれば、有機化合物の生物分解に有効な微生物を効率よく単離することが可能となる。
【0110】
また、本発明の有機化合物分解能を有する新規微生物は、環境に有害な添加物や誘導物質等を必要とせず、各種の有機化合物を効率よく分解する。従って、例えば実用的な環境修復技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の有機化合物の生物分解法の一工程例を、本発明の有機化合物分解用微生物の製造工程例と共に示す図である。
【図2】 図1に示す有機化合物分解用微生物の製造工程例の分解菌選択工程における分解試験結果の一例を示す図である。
【図3】 近隣結合法(NJ法: neighbor-joining method)により得られた分子系統樹を示す図である。
【図4】 実施例1におけるYMCT−001株を用いた各種有機化合物の分解試験結果を示す図である。
【図5】 実施例2におけるYMCT−001株の菌数とTCE分解率との関係を示す図である。
【図6】 実施例3におけるTCE濃度を変化させた場合のYMCT−001株によるTCEの分解率を示す図である。
【図7】 実施例3におけるcis-DCE濃度を変化させた場合のYMCT−001株によるcis-DCEの分解率を示す図である。
【図8】 実施例3におけるtrans-DCE濃度を変化させた場合のYMCT−001株によるtrans-DCEの分解率を示す図である。
【図9】 実施例4におけるグルコース存在下でのYMCT−001株によるTCE分解試験結果を示す図である。
【図10】 実施例7における固定化菌および遊離菌を用いた場合のTCE分解試験結果を比較して示す図である。
【図11】 実施例8における有機化合物の分解を実施した状況を示す図である。
【図12】 実施例8におけるYMCT−001株を用いた各種有機化合物の分解試験結果を示す図である。
【図13】 実施例9における有機化合物の分解を実施した状況を示す図である。
【図14】 実施例9におけるYMCT−001株を用いた各種有機化合物の分解試験結果を示す図である。
【図15】 実施例10における有機化合物の分解を実施した状況を示す図である。
【図16】 実施例10におけるYMCT−001株を用いた各種有機化合物の分解試験結果を示す図である。
【図17】 実施例11における有機化合物の分解を実施した状況を示す図である。
【図18】 実施例11におけるYMCT−001株を用いた各種有機化合物の分解試験結果を示す図である。
【図19】 実施例12における有機化合物の分解を実施した状況を示す図である。
【図20】 実施例12におけるYMCT−001株を用いた各種有機化合物の分解試験結果を示す図である。
【図21】 実施例13における有機化合物の分解を実施した状況を示す図である。
【図22】 実施例13におけるYMCT−001株を用いた各種有機化合物の分解試験結果を示す図である。
【符号の説明】
101……汚染環境採取工程
102……有機化合物分解能を有する微生物の抽出工程
102(1) ……有機化合物中での培養工程
102(2) ……耐性菌の単離工程
102(1) ……分解菌の選択工程
103……有機化合物の生物分解工程
111……テフロン製濾紙 112……不飽和帯 113……透水層
114……難透水層 115……飽和帯
116……バイオリアクタシステム 117……タンク
118……給水管 119……排出管 120……バイオフィルタ
121……挿入管 122……ブロア 123……供給管
124……土壌 125……排出管
126……揚水循環システム 127……微生物供給装置
128……供給管 129……ポンプ 130……給水管
131……活性炭吸着塔 132……供給装置 133……筒状体
134……浄化システム 135……微生物供給装置
136……供給管 137……挿入管 138……供給装置

Claims (5)

  1. 第1のハロゲン化炭化水素に汚染された環境または前記環境と接触した試料から微生物を採取する工程と、
    密閉状態で気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるような第2のハロゲン化炭化水素を含む環境で、前記採取した微生物を培養する工程と、
    前記培養した微生物を分離する工程と、
    前記分離した微生物を前記第2のハロゲン化炭化水素の分解能に基づいて選択する工程と、
    前記選択した微生物を、前記第1のハロゲン化炭化水素、前記第2のハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種を含む環境に微生物のコロニーを形成するよう接触させる工程と、
    前記微生物により前記第1のハロゲン化炭化水素、前記第2のハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種を分解する工程とを具備し、
    前記選択する工程により選択された微生物が YMCT-001(FERM BP-5382) であることを特徴とする有機化合物の分解方法。
  2. ハロゲン化炭化水素に汚染された環境または前記環境と接触した試料から微生物を採取する工程と、
    密閉状態で気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるような前記ハロゲン化炭化水素を含む環境で、前記採取した微生物を培養する工程と、
    前記培養した微生物を分離する工程と、
    前記分離した微生物を前記ハロゲン化炭化水素の分解能に基づいて選択する工程と、
    前記選択した微生物を、前記ハロゲン化炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を含む環境に微生物のコロニーを形成するよう接触させる工程と、
    前記微生物により前記ハロゲン化炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を分解する工程とを具備し、
    前記選択する工程により選択された微生物が YMCT-001(FERM BP-5382) であることを特徴とする有機化合物の分解方法。
  3. YMCT-001(FERM BP-5382) を、ハロゲン化炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を含む環境に微生物のコロニーを形成するよう接触させる工程と、
    前記微生物により前記ハロゲン化炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を分解する工程とを具備することを特徴とする有機化合物の分解方法。
  4. 第1のハロゲン化炭化水素に汚染された環境または前記環境と接触した試料から微生物を採取する工程と、
    密閉状態で気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるような第2のハロゲン化炭化水素を含む環境で、前記採取した微生物を培養する工程と、
    前記培養した微生物を分離する工程と、
    前記分離した微生物を前記第2のハロゲン化炭化水素の分解能に基づいて選択する工程とを具備し、
    前記選択する工程により選択された微生物が YMCT-001(FERM BP-5382) であることを特徴とする微生物の単離方法。
  5. ハロゲン化炭化水素に汚染された環境または前記環境と接触した試料から微生物を採取する工程と、
    密閉状態で気相濃度が50〜10000ppmの範囲となるような前記ハロゲン化炭化水素を含む環境で、前記採取した微生物を培養する工程と、
    前記培養した微生物を分離する工程と、
    前記分離した微生物を前記ハロゲン化炭化水素の分解能に基づいて選択する工程とを具備し、
    前記選択する工程により選択された微生物が YMCT-001(FERM BP-5382) であることを特徴とする微生物の単離方法。
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