JP3640826B2 - 環境浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、微生物を用いて汚染環境を浄化する環境浄化方法に関する。特に、環境の浄化が完了した時点、あるいは、浄化領域以外へ微生物が拡散する可能性が生じた場合に、この浄化用微生物と拮抗作用を有する微生物やその抽出物等を浄化用微生物に作用させることにより、自然生態系を元に戻し、浄化用微生物による2次汚染等を防止し、特に土壌や海洋等の開放系環境において生態系への影響を与えずに微生物の浄化処理を可能とする、微生物による環境浄化方法およびそれに用いる微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、有害で難分解性の化学物質が様々な環境中から検出されており、これらの化学物質による環境汚染が問題となっている。これらの環境汚染は、様々な産業活動の結果として排出された廃水や廃棄物が、湖沼・河川・海水・土壌・地下水等の環境中への漏洩すること等により引き起こされている。
【0003】
特に、石油等の炭化水素系化合物やトリクロロエチレン等の有機塩素化合物による土壌汚染が、様々な生産活動拠点で発見されている。これらの深刻な環境汚染の再発を防止すると共に、すでに汚染されてしまった環境を浄化し、元の状態に戻していく技術の確立が強く望まれている。
【0004】
中でも、土壌やそれに伴う地下水の汚染は、汚染物質の地下水による拡散に伴い、より一層の汚染拡大を引き起こす危険性がある。
【0005】
こうした環境を浄化して修復する技術としては、例えば、汚染された地下水を汲み上げて揮発性の有機物を分離し活性炭に吸着させる曝気処理、汚染土壌を太陽や熱源にさらし揮発性有機物を熱により蒸発させる加熱処理、汚染土壌にボーリング穴を設け真空で汚染物質を吸引する真空抽出、または汚染土壌を真空釜に入れて加熱し吸引して抽出する真空釜処理等がある。
【0006】
これらの物理化学的方法は、高濃度なスポットとして存在する汚染に対しては有効であるが、先に述べたような土壌や地下水の汚染のように、低濃度で広範囲におよぶ汚染を浄化するには、コスト・操作性・能力等の面で不十分と言わざるを得ない。
【0007】
これらの問題を解決できる方法として、近年微生物による生物学的な処理を用いた土壌浄化方法が検討されている。土壌汚染を引き起こしている難分解性化合物、例えば、芳香族化合物や有機塩素化合物を分解する微生物は数多く知られており、特に土壌に棲息できる微生物で汚染物質を分解する方法であれば、少ない投入エネルギーで浄化処理を行うことが期待できる。
【0008】
この様な状況から、汚染土壌に分解菌を直接散布・投入し、土壌中で汚染物質を直接分解・無害化する技術の開発が行われている。
【0009】
しかし、環境中にこれらの分解菌を散布・投与することにより、本来存在しなかった微生物が環境中に多数存在することになる。微生物による分解であるため、リスクアセスメント上においてもやむを得ないものの、浄化修復処理が完了した時点において本来の状態に戻すことが望ましい。
【0010】
また、浄化作業中においても、浄化作業領域から微生物が外部へ拡散することは、微生物による2次汚染等を引き起こす可能性がある。このため、外部から投入した微生物は、浄化作業中は浄化領域内だけにとどめ、作業終了時には作業領域内から取り除く、あるいは、死滅させることが理想的である。
【0011】
このため、現在では、塩素処理等により微生物の殺菌処理を行っているが、この方法では、塩素による弊害が生じたり、生態系内に存在する他の全ての微生物も殺菌されてしまう等の問題がある。また、こうした塩素処理は閉鎖系においてのみ有効で、土壌処理等の開放系の場合は、殺菌・消毒剤を環境中に散布できないといった問題があった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点に鑑み、汚染環境中に、この汚染物質分解能を有する微生物を投入して汚染物質を分解することにより環境を浄化した後に、浄化領域内に汚染物質分解能を有する微生物に拮抗作用を有する微生物および/あるいはこの微生物の抽出物を作用させることにより、汚染物質分解能を有する微生物の増殖を抑制して、微生物処理による2次汚染等を防止することを目的とする。
【0013】
特に汚染土壌や汚染海域等の開放系環境において、生態系へ影響を与えずに微生物による浄化処理を可能とすることを目的とする。
【0014】
また、本発明の他の目的は、上記環境浄化方法に用いるのに好適な新規微生物を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明の微生物による環境浄化方法は、環境中に存在する汚染物質に前記汚染物質を分解する第1の微生物を接触させて前記汚染物質を分解し、次いで前記第1の微生物に対して拮抗作用を有する第2の微生物あるいは前記第2の微生物の抽出物を前記第1の微生物に作用させて、前記第1の微生物の増殖を抑制する微生物による環境浄化方法であって、前記第2の微生物は、シュードモナス セパシア( Pseudomonas cepacia )AY−001 FERM P−17110菌株、シュードモナス セパシア( Pseudomonas cepacia )AY−002 FERM P−17111菌株、シュードモナス セパシア( Pseudomonas cepacia )AY−003 FERM P−17112菌株、シュードモナス セパシア( Pseudomonas cepacia )AY−004 FERM P−17113菌株、シュードモナス フルオレセンス( Pseudomonas fluorescens )AY−006 FERM P−17114菌株、バチルス属sp.( Bacillus sp. )AY−007 FERM P−17115菌株およびバチルス属sp.( Bacillus sp. )AY−008 FERM P−17116菌株からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0016】
第2の微生物の抽出物としては、例えば、第2の微生物から培養液中に放出される物質や、第2の微生物の菌体を破砕したものから調製される物質等があるが、これに限られるものではなく、第2の微生物から得られるものであればよい。第2の微生物とその抽出物の両方を第1の微生物に作用させてもよい。
【0017】
こうした構成により、汚染物質を分解する第1の微生物の増殖を抑制し、その環境系への影響を低減させることができる。第1の微生物の増殖を抑制する結果、第1の微生物を死滅させれば、環境修復後に自然生態系を元に戻し、微生物処理による2次汚染等を防ぐことが可能となる。
【0018】
前記汚染物質としては、例えば、有害化学物質、特に有機塩素化合物や芳香族化合物等がある。
【0019】
こうした有機塩素化合物としては、トリクロロエチレン(TCE)、シスジクロロエチレン(cis-DCE )、ジクロロエチレン、ビニルクロライド、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン等が挙げられる。
【0020】
また、芳香族化合物としては、フェノール、トルエン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等が挙げられる。
【0021】
汚染物質を分解することのできる第1の微生物としては、例えば、ジャニバクター属、アルスロバクター属、ブレビバクテリウム属、クラビバクター属、マイコバクテリウム属、テラバクター属、レニバクテリウム属の細菌が挙げられる。
【0022】
中でも、ジャニバクター ブレビス(Janibacter brevis) 、アルスロバクター グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis )、ブレビバクテリウム リネンス(Brevibacterium linens)、クラビバクター ミシガネンス(Clavibacter michiganense)、マイコバクテリウム ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis)、テラバクター テュメッセンス(Terrabacter tumescens )、レニバクテリウム サルモニナルム(Renibacterium salmoninarum)が好ましく用いられる。
【0023】
特に、ジャニバクター ブレビスが好ましく、ジャニバクター ブレビス YMCT-001 FERM BP-5282菌株(特願平8−309719では、コマガテラ ブレビス (Komagatella brevis) YMCT-001 FERM BP-5282菌株と記載した。以下、YMCT-001株と記す)が更に好ましく用いられる。
【0024】
第2の微生物としては、バチルス(Bacillus)属および/あるいはシュードモナス(Pseudomonas )属の微生物が好ましく用いられる。
【0025】
中でも、新規微生物であるシュードモナス セパシア(Pseudomonas cepacia )AY-001 FERM P-17110菌株、シュードモナス セパシア(Pseudomonas cepacia )AY-002 FERM P-17111菌株、 シュードモナス セパシア(Pseudomonas cepacia )AY-003 FERM P-17112菌株菌株、 シュードモナス セパシア(Pseudomonas cepacia )AY-004 FERM P-17113菌株、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens )AY-006 FERM P-17114菌株、バチルス属 sp. (Bacillus sp. )AY-007 FERM P-17115菌株、 バチルス属 sp. (Bacillus sp. )AY-008 FERM P-17116菌株が好ましく用いられる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳述する。
【0027】
本発明において、汚染物質分解能を有する微生物に対して拮抗作用を有する微生物の条件としては、汚染物質分解能を有する微生物に対して拮抗作用を有するだけでは不十分であり、以下の条件を満たすことが必要である。
【0028】
まず、第一の条件として、主として、汚染物質分解能を有する微生物に対して拮抗作用を発現し、浄化領域に棲息する他の微生物に対しては作用を及ぼさないことが必要である。他の微生物にも拮抗作用を発現して、死滅させたり菌の交代現象を起こしたりすることは生態系の破壊につながり好ましくない。又、他の微生物に対して増殖促進作用を有することも生態系の破壊につながり好ましくない。
【0029】
第二の条件として、汚染物質分解能を有する微生物が死滅後は、拮抗作用が存続しないように、拮抗作用の働く期間をコントロールできることが必要である。自然生態系を元に戻した後まで拮抗作用が存続すると、生態系へ何らかの影響を及ぼし好ましくないからである。
【0030】
この観点からは、拮抗作用を示した後は拮抗微生物が死滅するようにしてもよいが、拮抗微生物による2次汚染を防止するには、拮抗微生物自体を環境中に投入するよりは、拮抗微生物の抽出物を投入する方が好ましい。
【0031】
したがって、上述の条件に加えて、拮抗微生物の抽出物が拮抗作用を示しかつこの拮抗作用を示す物質の作用が一定期間後は消失することが好ましい。
【0032】
こうした抽出物は、容易に入手できることが望ましい。例えば、拮抗微生物の培養液中や、菌体をフレンチプレス、ホモジナイザー、あるいは溶菌酵素(リゾチウム等)で破砕したものから調製できることが好ましい。
【0033】
汚染物質分解浄化能を有する微生物に対して拮抗作用を有する微生物(以下「拮抗微生物」と記す)が、これらの条件を満たす場合には、こうした拮抗微生物あるいはその抽出物を浄化領域に投入して、汚染物質分解浄化能を有する微生物を浄化領域で増殖抑制あるいは死滅させることが可能となる。
【0034】
本発明の新規微生物は、有機塩素化合物分解能を有するジャニバクター属の細菌に対して拮抗作用を有し、かつ上記条件を満たすものを検索した結果、下記の様にして環境中から分離された細菌である。
【0035】
まず、有機塩素化合物で汚染された土壌や水系環境サンプル(地下水)を採取し、地下水の場合にはそのまま、土壌の場合には抽出液を、ジャニバクター ブレビスYMCT-001株を全面に接種したLB寒天培地上に接種し、15℃でインキュベートした。
【0036】
なお、土壌抽出液は、滅菌したバイアル瓶に土壌1gと蒸留水9gとを入れて混合し、超音波処理あるいは充分振盪後に得られた水溶液である。表1にLB培地の組成を示す。
【0037】
【表1】
10日間のインキュベートの後、プレート上にジャニバクター ブレビスYMCT-001株が生育できずにハローが生じたコロニーを単離した。
【0038】
次いで、最初に用いた土壌抽出液や水系環境サンプルをLB寒天培地に接種したものに、得られた単離細菌を接種した。
【0039】
同様に10日間インキュベーション後、土壌や地下水サンプル中の細菌に対してほとんど生育阻害を示さなかった7菌株を、ジャニバクター ブレビスYMCT-001株の拮抗菌として選択した。
【0040】
これらの拮抗菌による拮抗作用の機構は不明であるが、下記の実施例から明らかなように、拮抗菌を汚染物質分解能を有する微生物に直接接触させなくても、これらの拮抗菌の培養液にも拮抗作用が認められた。したがって、この拮抗作用は、これらの菌が体外に放出する何らかの化学物質が、汚染物質分解能を有する微生物と接触することで生じていると考えられる。
【0041】
こうした拮抗物質は単一物質とは限らず、複数の物質が相乗的に作用している可能性もある。
【0042】
また、このジャニバクター ブレビスYMCT-001株への拮抗作用は、他の細菌に対しては殆ど影響を示さないことから、本発明者らは、この化学物質は、抗生物質等のように不特定の細菌に対して影響を与える物質ではないと考える。
【0043】
ジャニバクター ブレビスYMCT-001株の拮抗菌として選択された7菌株の菌学的性質を検索したところ、下記のような結果が得られた。
【0044】
以上の菌学的性質から、「バージェイズ マニュエル オブ システマティック バクテリオロジー ボリューム2、1986(Bergeys´ Manual of Systematic Bacteriology,Volume2、1986)」にしたがって検索を行なったところ、シュードモナス セパシア(Pseudomonas cepacia )に属せしめるのが適当と認められた。
【0045】
なお、以下の菌株についても、「バージェイズ マニュエル オブ システマティック バクテリオロジー ボリューム2、1986」にしたがって検索を行なった。
【0046】
以上の諸性質から本菌株は、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia )に属せしめるのが適当であると認められた。
【0047】
以上の諸性質から本菌株は、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia )に属せしめるのが適当であると認められた。
【0048】
以上の諸性質から本菌株は、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia )に属せしめるのが適当であると認められた。
【0049】
以上の諸性質から本菌株は、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens )に属せしめるのが適当であると認められた。
【0050】
以上の諸性質から本菌株は、グラム陽性芽胞形成桿菌のバチルス(Bacillus)属に属すると考えられる。
【0051】
多くの科学的性質より、バチルス コアグランス(Bacillus coagulans ) と類似していると考えられるが、「炭水化物からの酸の産生」のマンニトール、ソルビトールおよびN−アセチル−D−グルコサミンに対する性質が異なっており、バチルス属に属するが、種の特定は困難である。したがって、バチルス・スピーシーズ(Bacillus sp.)に属せしめるのが適当であると認められた。
【0052】
多くの科学的性質より、バチルス コアグランス(Bacillus coagulans)と類似していると考えられるが、「炭水化物からの酸の産生」のマンニトール、ソルビトールおよびN−アセチル−D−グルコサミンに対する性質が異なっており、バチルス属に属するが、種の特定は困難である。したがって、バチルス・スピーシーズ(Bacillus sp.)に属せしめるのが適当であると認められた。
【0053】
また、後述する実施例からも明らかなように、上記の7菌株はジャニバクター属とその近縁の細菌に対して、比較的特異的に拮抗作用を有する。
【0054】
本発明者らは、これら7菌株のタイプストレインを用いてジャニバクター属とその近縁の細菌に対する拮抗作用を検討した。
【0055】
シュードモナス セパシアのタイプストレインとしては、JCM5964 を用い、シュードモナス フルオレセンスのタイプストレインとしてはJCM5963 を用い、バチルス コアグランスのタイプストレインとしてはJCM2257 を用いた。汚染物質分解浄化能を有する微生物としては、ジャニバクター ブレビス YMCT-001株を使用した。
【0056】
これらのタイプストレインは、YMCT-001株に対して、本発明の菌株(AY-001〜AY-004株およびAY-006〜AY-008株)ほど良好な特異的な拮抗作用を示さなかった。したがって、本菌株を新菌株と認定し、それぞれ、シュードモナス セパシアAY-001株(Pseudomonas cepacia AY-001)、シュードモナス セパシアAY-002株(Pseudomonas cepacia AY-002)、シュードモナス セパシアAY-003株(Pseudomonas cepacia AY-003)、シュードモナス セパシアAY-004株(Pseudomonas cepacia AY-004)、シュードモナス フルオレセンスAY-006株(Pseudomonas fluorescens AY-006)、バチルス スピーシーズAY-007株(Bacillus sp. AY-007) 、バチルス スピーシーズAY-008株(Bacillus sp. AY-008) と命名し、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した( 寄託番号:FERM P−17110 、FERM P−17111 、FERM P−17112 、FERM P−17113 、FERM P−17114 、FERM P−17115 、FERM P−17116)。以下においては、上記7菌株を、それぞれAY-001、AY-002、AY-003、AY-004、AY-006、AY-007、AY-008株と記する。
【0057】
本発明の7菌株を培養するために用いられる培地の栄養源としては、通常の微生物の生育に必要であって各菌株が資化可能な栄養源であれば如何なる炭素源、窒素源および無機塩類等でもよい。例えば、LB培地、NB培地等、および各種無機塩培地が使用できる。
【0058】
培養は好気条件下で行うことができ、液体培養でも固体培養でも良い。培養温度は各菌株が良好に生育できる温度範囲であればよく、この範囲内で培養することが望ましい。
【0059】
また、これらの拮抗微生物が放出する拮抗作用を有する物質(以下「拮抗物質」と記す」を、浄化領域に投与する場合には、培養の条件は、拮抗物質を好適に得られる条件であればよい。
【0060】
なお、培養液から得られた拮抗物質を環境中へ投与するときには、生態系への負荷を軽減するために、培養液に含まれる炭素源や拮抗物質は極力少なくする必要がある。
【0061】
したがって、栄養培地で拮抗微生物を大量培養した後に、無機塩培地あるいは浄化領域中の水で更に培養した培養液を用いることが望ましい。
【0062】
拮抗菌あるいは拮抗物質の浄化領域への投入濃度や投入の間隔は、汚染物質分解浄化能を有する微生物の増殖を効果的に抑制あるいは死滅させられる濃度および投入の間隔であれば良い。
【0063】
以下、実験結果に基づいて本発明の好適な実施例について説明するが、これらは本発明の範囲を何等限定するものではない。
【0064】
AY-001、AY-002、AY-003、AY-004、AY-006、AY-007、AY-008株を自然に、もしくは人工的手段によって変異させて得られる変異株であっても、汚染物質分解能を有する微生物の増殖を抑制できる限り、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0065】
(実施例1)
AY-001株を上記のLB培地で15℃、pH約7で3日間培養した後、遠沈・洗菌操作を3回繰り返し、菌体のみを取り出した。遠沈は10000rpmで6分間行い、洗浄には表2に示す無機塩培地を使用した。
【0066】
【表2】
得られたAY-001株の菌体を、無機塩培地に再懸濁させて、さらに3日間培養した。無機塩培地のAY-001株含有量は、約3.6x108CFU/mlとした。3日間の培養後、培養液を孔径0.2 μmのメンブレンフィルターで濾過滅菌して、AY-001株の菌体の混入していない培養液を得た。
【0067】
一方、ジャニバクター ブレビスYMCT-001株をLB培地で25℃、pH約7で2日間培養した後、遠沈・洗菌操作(10000rpmで6分間、無機塩培地)を3回繰り返して菌体のみを取り出した。
【0068】
得られたYMCT-001株の菌体を、濾過・滅菌されたAY-001培養後の培養液に懸濁させ、25℃で培養した。この培養液のYMCT-001株含有量は、約3.6x108CFU/mlとした。
【0069】
培養中は、経日的にサンプリングを行い、YMCT-001株の生菌体数を測定した。生菌体数の測定は、平板希釈法により行った。結果を表3に示す。
【0070】
(実施例2)
AY-001株の代わりにAY-002株を用い、無機塩培地のAY-002株含有量を約3.5x108CFU/mlとし、YMCT-001株を約3.5x108CFU/mlとなるようにAY-002株培養後の培養液に懸濁させた以外は、実施例1と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【0071】
(実施例3)
AY-001株の代わりにAY-003株を用い、無機塩培地のAY-003株含有量を約3.3x108CFU/mlとし、YMCT-00 株を約3.3x108CFU/mlとなるようにAY-003株培養後の培養液に懸濁させた以外は、実施例1と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【0072】
(実施例4)
AY-001株の代わりにAY-004株を用い、無機塩培地のAY-004株含有量を約3.4x108CFU/mlとし、YMCT-001株を約3.4x108CFU/mlとなるようにAY-004株培養後の培養液に懸濁させた以外は、実施例1と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【0073】
(実施例5)
AY-001株の代わりにAY-006株を用い、無機塩培地のAY-006株含有量を約3.7x108CFU/mlとし、YMCT-001株を約3.7x108CFU/mlとなるようにAY-006株培養後の培養液に懸濁させた以外は、実施例1と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【0074】
(実施例6)
AY-001株の代わりにAY-007株を用い、無機塩培地のAY-007株含有量を約3.1x108CFU/mlとし、YMCT-001株を約3.1x108CFU/mlとなるようにAY-007培養後の培養液に懸濁させた以外は、実施例1と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【0075】
(実施例7)
AY-001株の代わりにAY-008株を用い、無機塩培地のAY-008株含有量を約3.8x108CFU/mlとし、YMCT-001株を約3.8x108CFU/mlとなるようにAY-008株培養後の培養液に懸濁させた以外は、実施例1と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【0076】
(実施例8)
YMCT-001株の代わりに、それぞれ、アルスロバクター グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis )、ブレビバクテリウム リネンス(Brevibacterium linens)、クラビバクター ミシガネンス(Clavibacter michiganense)、マイコバクテリウム ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis )、テラバクター テュメッセンス(Terrabacter tumescens )、レニバクテリウムサルモニナルム(Renibacterium salmoninarum)を用いて実施例1と同様の試験を行った。
【0077】
無機塩培地のAY-001株含有量(CFU/ml)は、AY-001株培養後の培養液に懸濁される各菌の量(CFU/ml)とほぼ一致させた。結果を表4に示す。
【0078】
(実施例9)
AY-001株培養後の培養液を一定期間(1、2、3、および4週間)15℃で保存した後に使用した以外は、実施例1と同様の試験を行った。
【0079】
結果を表5に示す。表に示されたYMCT-001株の生菌体数(CFU/ml)は、AY-001培養液に懸濁させ3日目に測定したものである。
【0080】
(実施例10)
汚染物質分解能を有する微生物を散布した土壌中に、拮抗作用を有する微生物の培養液を添加し、汚染物質分解能を有する微生物の生存状態を観察した。
【0081】
図1は、本実施例に使用したライシメータの模式図を示す。ライシメータの大きさは約400cm×400cm×800cmで、内部に関東ローム層の土壌が詰められている。
【0082】
ライシメータに詰めた土壌には、環境中の土壌と同様に、透水層4および難透水層5からなる飽和帯6と不飽和帯7とが構成されている。
【0083】
地下水を、ポンプ1で活性炭吸着塔3を経由して、この土壌中に循環させた。循環速度は0.01m/日とした。
【0084】
汚染物質分解能を有する微生物として、YMCT-001株を用い、拮抗微生物としてAY-001株を用いた。
【0085】
YMCT-001株の土壌中への散布は、各微生物散布用井戸2へYMCT-001株の懸濁液を注入することで行った。土壌のYMCT-001株含有量が約3.2x107CFU/mlとなるように散布した。
【0086】
実施例1と同様の方法でAY-001株を培養し、菌体を除去した培養液を得た。
【0087】
YMCT-001株を散布してから3日後に、この培養液を、各微生物散布用井戸2へ間欠的に添加することで、拮抗物質を含む地下水を揚水循環させた。培養液の添加は、3〜4日おきに行った。
【0088】
AY-001株培養後の培養液を各微生物散布用井戸2へ添加する時点で土壌中に含有されるYMCT-001株の生菌数と、添加する培養液を得るために使用されたAY-001株の菌数の比率が、約1:3〜5となるようにした。
【0089】
こうした条件で土壌中のYMCT-001株の生存を観察した。
【0090】
土壌中のYMCT-001株の生菌数の測定は、透水層4の土壌をサンプリングし、LB培地(ホスホマイシン100 μg/ml含有)を用いて平板希釈法で行った。また、一般細菌数も、LB培地(ホスホマイシンを含まず)を用いて平板希釈法により測定した。結果を表6に示す。
【0091】
(比較例1)
AY-001株培養液の培養液の代わりに無機塩培地を用い、YMCT-001株を約3.4x108CFU/mlとなるように、この無機塩培地に懸濁させた以外は、実施例1と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【0092】
(比較例2)
AY-001株培養後の培養液の代わりに無機塩培地を用いた以外は、実施例8と同様の試験を行った。結果を表4に示す。
【0093】
(比較例3)
AY-001株培養後の培養液の代わりに無機塩培地を用い、土壌のYMCT-001株含有量が約3.4x107CFU/mlとなるようにYMCT-001株を土壌中に散布した以外は、実施例10と同様の試験を行った。結果を表6に示す。
【0094】
(比較例4)
AY-001株培養後の培養液の代わりに、無機塩培地にストレプトマイシンを約10μg/mlの割合で添加したものを用い、土壌のYMCT-001株含有量が約3.1x107CFU/mlとなるようにYMCT-001株を土壌中に散布した以外は、実施例10と同様の試験を行った。結果を表6に示す。
【0095】
実施例1、2、3、4、5、6、7と比較例1、あるいは、実施例8と比較例2を比較すれば明らかなように、AY-001〜AY-004株およびAY-006〜AY-008株培養後の培養液は、汚染物質分解能を有する様々な微生物を効果的に死滅させられることがわかる。
【0096】
拮抗微生物そのものを環境中に投与しなくても、拮抗微生物の培養液を投与するだけで、充分効果が得られることから、拮抗作用を有する微生物による二次的環境汚染を起こす恐れがない。
【0097】
AY-001〜AY-004株およびAY-006〜AY-008株を無機塩培地で培養することで、培養液に含まれる栄養源による生態系への影響も低減できる。
【0098】
AY-001〜AY-004株およびAY-006〜AY-008株は、土壌や地下水中から採取したものであるから、浄化領域中の土壌や地下水中でも培養できる。こうした培養液を使用すれば、さらに生態系への影響を低減できる。
【0099】
実施例9から明らかなように、AY-001〜AY-004株およびAY-006〜AY-008株培養後の培養液の拮抗効果は2〜3週間程度で80%以上失活することわかる。したがって、長期にわたり生態系に影響を与えることがなく好ましい。
【0100】
実施例10と比較例3から明らかなように、AY-001〜AY-004株およびAY-006〜AY-008株培養後の培養液は、実際の土壌中の環境でも、汚染物質分解能を有する微生物を効果的に死滅させられることがわかる。
【0101】
また、実施例10と比較例3、比較例4を比較すれば明らかなように、AY-001〜AY-004株およびAY-006〜AY-008株培養後の培養液は、抗生物質であるストレプトマイシンと異なり、一般細菌に対して特別の作用を示すことはなかった。したがって、汚染領域の生態系には殆ど影響を与えることなく、目的の微生物を死滅させることができる。
【0102】
本実施例においては、AY-001〜AY-004株およびAY-006〜AY-008株培養後の培養液を別々に使用したが、これらの2種以上を混合して使用してもよい。
【0103】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0104】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、汚染分解能を有する微生物によって汚染浄化を行う環境浄化方法において、汚染領域に散布した汚染分解能を有する微生物を、生態系に対して殆ど影響を与えることなく、死滅させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例11で用いるライシメータの模式図。
【符号の説明】
1…ポンプ、2…菌散布用井戸、3…活性炭吸着塔、4…透水層、5…難透水層、6…飽和帯、7…不飽和帯。
Claims (2)
- 環境中に存在する汚染物質に前記汚染物質を分解する第1の微生物を接触させて前記汚染物質を分解し、次いで前記第1の微生物に対して拮抗作用を有する第2の微生物あるいは前記第2の微生物の抽出物を前記第1の微生物に作用させて、前記第1の微生物の増殖を抑制する微生物による環境浄化方法であって、
前記第2の微生物は、シュードモナス セパシア( Pseudomonas cepacia )AY−001 FERM P−17110菌株、シュードモナス セパシア( Pseudomonas cepacia )AY−002 FERM P−17111菌株、シュードモナス セパシア( Pseudomonas cepacia )AY−003 FERM P−17112菌株、シュードモナス セパシア( Pseudomonas cepacia )AY−004 FERM P−17113菌株、シュードモナス フルオレセンス( Pseudomonas fluorescens )AY−006 FERM P−17114菌株、バチルス属sp.( Bacillus sp. )AY−007 FERM P−17115菌株およびバチルス属sp.( Bacillus sp. )AY−008 FERM P−17116菌株からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする微生物による環境浄化方法。 - 前記第1の微生物が、ジャニバクター属、アルスロバクター属、ブレビバクテリウム属、クラビバクター属、マイコバクテリウム属、テラバクター属およびレニバクテリウム属のいずれかに属する細菌を含むことを特徴とする請求項1記載の微生物による環境浄化方法。
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