JP3816440B2 - シリコン酸化膜の評価方法及び半導体装置の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜を評価するシリコン酸化膜の評価方法、並びに、その評価方法を用いる半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
バイポーラトランジスタ、MOSFET、メモリー素子等のシリコン半導体素子では、その絶縁膜としてシリコン基板を熱酸化することにより形成したシリコン酸化膜を用いている。熱酸化によるシリコン酸化膜のうちでも、素子分離用のフィールド絶縁膜は厚いが、ゲート絶縁膜やトレンチキャパシタの誘電体膜として用いられるシリコン酸化膜は非常に薄い。しかし、半導体装置の高密度化と共にこれら薄い絶縁膜は更なる薄膜化が求められている。
【0003】
熱酸化法で形成された約10nm以下の薄い酸化膜の場合、この膜厚は原子層に換算すると数10原子層に相当する。そのため、シリコン酸化膜の膜質の評価としては、原子、分子レベルで行う、物理化学的構造解析によることが望まれている。
しかし、従来の評価方法においては、シリコン酸化膜の評価を非破壊で行なう手段がなく、形成された半導体素子の電気的特性から評価しなければならなかった。半導体素子の電気的特性には、熱酸化工程だけではなく、その後の電極形成工程や、熱処理工程等の製造工程からの影響も大きい。このため、半導体素子の電気的特性から熱酸化条件を明確に定めることができず、適切な熱酸化条件を定めるためには試行錯誤を重ねなければならず、非効率的であるという問題があった。
【0004】
例として、半導体装置の表面や界面の状態を直接観察する方法には、原子吸光分析法や、オージェ電子分光分析法や、赤外反射吸収分光分析法等の方法や、断面透過電子顕微鏡や、走査トンネル電子顕微鏡や、走査原子間力顕微鏡等による方法が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、原子吸光分析法やオージェ電子分光分析法、断面透過電子顕微鏡、走査トンネル電子顕微鏡、走査原子間力顕微鏡等の方法は、観察に当たり試料が破壊されてしまうと共に、真空中に試料を置く必要がある。このため、製造中の半導体基板を直接観測することができない。したがって、観測用のダミー試料を半導体試料とは別個に用意して観測する必要がある。
【0006】
しかし、ダミー試料の表面状態は、実際に半導体回路が製作される半導体基板の表面状態と必ずしも一致しておらず、その結果、誤差が生ずる。また、半導体製造装置内にダミー試料用のスペースを確保する必要があるため、製造効率が低下し、時間や労力を必要とするという問題があった。
これに対して、赤外吸収分析法は、非接触、非破壊の観測法であると共に、通常の大気圧下で観測できることから、半導体装置の製造工程中の半導体基板を直接観測できる。
【0007】
本発明の目的は、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜を、非接触、非破壊で観測し、その膜質を評価することができるシリコン酸化膜の評価方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜をインラインで評価することができる半導体装置の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜の膜質を評価するシリコン酸化膜の評価方法において、波数1100〜1230cm-1の範囲の入射光に対する吸収率又は反射率のスペクトルに基づいて、前記シリコン酸化膜の前記シリコン基板との界面における前記シリコン酸化膜が前記シリコン基板に入り込んだ凹凸構造を評価することを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法によって達成される。
上述したシリコン酸化膜の評価方法において、前記シリコン基板の、評価される前記シリコン酸化膜が形成された面と反対側の面に形成されたシリコン酸化膜を予め除去しておくことが望ましい。
【0012】
上述したシリコン酸化膜の評価方法において、前記シリコン基板中に、赤外光を吸収する赤外光吸収領域を設けることが望ましい。また、前記赤外光吸収領域の吸光度が2以上であることが望ましい。更に、前記シリコン基板中に不純物を導入することにより前記赤外光吸収領域を形成することが望ましい。
上述したシリコン酸化膜の評価方法において、評価される前記シリコン酸化膜が形成された面と反対側の面での反射光の影響がほとんどなくなるように、前記シリコン基板が所定厚さ以上であることが望ましい。
【0015】
上記他の目的は、上述したシリコン酸化膜の評価方法を用いて評価する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法によって達成される。
【0017】
【作用】
本発明によれば、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜の膜質を評価するシリコン酸化膜の評価方法において、波数1100〜1230cm-1の範囲の入射光に対する吸収率又は反射率のスペクトルに基づいて、シリコン酸化膜のシリコン基板との界面におけるシリコン酸化膜がシリコン基板に入り込んだ凹凸構造を評価するようにしたので、シリコン酸化膜の界面を正確に評価することができる。
また、本発明によれば、シリコン基板中に、赤外光を吸収する赤外光吸収領域を設けたので、シリコン基板の裏面からの反射による影響をなくすことができる。
【0022】
【実施例】
[第1の実施例]
本発明の第1の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法について図1乃至図3を用いて説明する。
シリコン酸化膜の評価装置
本実施例によるシリコン酸化膜の評価装置を図1に示す(田隅三生著:「FT=IRの基礎と実際」第109頁参照)。図1に示す評価装置は、フーリエ変換赤外分光法(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)による外部反射方式の赤外吸収スペクトル測定装置である。
【0023】
評価されるべき試料8として、シリコン酸化膜が形成されたシリコン基板が中央に載置されている。試料8の右側の照明系から入射された赤外光が試料8の表面で反射され、その反射光が左側の測定系により測定、解析される。
試料8の右側の照明系には、赤外光を発光する光源1が設けられ、光源1の出射側に干渉計2と偏光子3が設けられている。光源1からの赤外光は干渉計2及び偏光子3を介して平行光線束となって出射される。偏光子3を設けることにより、入射面(光路面)に電場が平行であるP波の赤外光が出射される。
【0024】
出射された赤外光はミラー4aにより反射され、凹面鏡4bにより集光されて試料8の表面に斜めに入射する。凹面鏡4b及び4cを回転し、試料8の高さを所定の位置にすることにより、試料8への入射角を変えることができる。
試料8からの反射光は凹面鏡4cにより平行光線束となり、ミラー4dにより反射され、MCT(Mercury Cadmium Telluride)検出器5に入射される。MCT検出器5は試料8からの反射光を検出する。MCT検出器5からの検出信号はプリアンプ6により増幅され、演算部7に出力される。演算部7はプリアンプ6からの検出信号により、試料8表面の反射率を演算し、後述するようにシリコン酸化膜の誘電関数を求める。
【0025】
本実施例では、凹面鏡4b及び4cを回転することにより、試料8に対して異なる角度で入射する複数の入射光を照射するようにし、複数の入射光に対する試料8からの反射光をそれぞれ測定する。複数の入射光と複数の反射光から異なる角度に対する反射率をそれぞれ演算し、異なる角度に対する反射率に基づいて、シリコン酸化膜の誘電関数を求める。このようにして求めた誘電関数に基づいてシリコン酸化膜の膜質を評価する。
【0026】
なお、本実施例のシリコン酸化膜の評価方法では、誘電体表面で反射する光に関し、電気ベクトルの入射面内にある光の反射率がゼロになる入射角であるブルースター角よりも大きい角度で入射する入射光と、ブルースター角よりも小さい角度で入射する入射光による反射率は、シリコンの反射率に対しての酸化シリコンの反射率が大きく変化し、シリコン酸化膜の誘電関数をより正確に求めることができる。
【0027】
シリコン酸化膜の評価方法の原理
次に、本実施例のシリコン酸化膜の評価方法の原理について説明する。
一般に、赤外分光測定によって得られるスペクトルは、物質、ここではシリコン酸化膜の電磁波に対する応答、つまり誘電率によって支配されている。誘電率は、物質の原子・分子レベルでは構造を反映するため、赤外スペクトルの吸収反射ピークに着目すると物質構造が評価できる。しかし、実測されるスペクトルは、それ以外に基板や光学系、そして膜の場合には、その厚さの情報が混在したものとして検出される。
【0028】
そのため、従来の評価方法ではシリコン酸化膜の構造の違いを解析する場合には、膜厚の情報を差し引くために、膜厚が同程度の参照試料を用意する必要がある。すなわち、光学系としては全く同じものを使用し、シリコン基板の情報は測定後に差し引き、更に、シリコン酸化膜の膜厚がほぼ同じ程度(5%以内)である必要があった。
【0029】
したがって、従来の赤外分光測定による評価方法ではシリコン酸化膜の構造を比較することは同程度の膜厚の膜同士でしか行えなかったのである。
本実施例によるシリコン酸化膜の評価方法は、そのような従来の不都合を解消し、異なる膜厚のシリコン酸化膜同志であっても、膜質を比較することができるようにしている。
【0030】
一般に、シリコン酸化膜の誘電率は、
ε=ε′+iε″
と複素表記される。赤外光のような電磁場は、シリコン酸化膜のような物質中に入ることにより位相変化を伴うからである。また、誘電率は、波長(波数)によって異なるため、波数の関数(誘電関数)として表記する必要がある。
【0031】
なお、本明細書においては、誘電率及び屈折率を複素数として取扱い、それぞれε、nと表記することとする。
このように、誘電関数は、波数の関数として複素表記される。したがって、誘電関数としては、実部と虚部という未知数が2つとなり、単に赤外光によるシリコン酸化膜の反射率を測定するだけでは誘電関数を求めることができない。
【0032】
本願発明者等は、異なる入射角の2つ以上の赤外光による反射光を測定することにより、シリコン酸化膜の2つ以上の反射率を用いれば、実部と虚部という2つの未知数を有する誘電関数を求めることができる点に着想した。
すなわち、異なる入射角の赤外光によるシリコン酸化膜の2つ以上の反射率に基づいて、数値計算により、実部と虚部という2つの未知数を有する誘電関数を解くことができる点に着目し、シリコン酸化膜の評価方法に適用することとした。
【0033】
そのようにして求めた誘電関数に基づいて、比較するシリコン酸化膜の膜厚から計算して予測反射率を求め、比較するシリコン酸化膜の実際に測定された反射率と比較することにより、シリコン酸化膜の膜質を評価する。
シリコン酸化膜による反射光は、表面垂直(入射面平行)であるP偏光となっている。シリコン酸化膜の場合、膜厚方向に構造が遷移していると予想されるため、透過光やS偏光(入射面に垂直な偏光)を用いるより、本実施例のように入射光としてP偏光を用いることが望ましい。
【0034】
なお、誘電関数を求める従来の方法として、クラマース・クロニッヒの関係式を用いた方法がある。全波数領域について反射率の測定が行えれば、次に示すクラマース・クロニッヒの関係式によって誘電関数が求められる。
【0035】
【数1】
しかしながら、基板内等の複雑な多重反射による反射光がある場合には、クラマース・クロニッヒの関係式による方法を用いることができない。このため、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜のように多重反射される評価対象に対しては用いることができない。
【0036】
本実施例によるシリコン酸化膜の評価方法において、シリコン酸化膜である膜が1層の場合における反射率rは、次のように表される。
【0037】
【数2】
入射電磁場と反射電磁場と屈折電磁場とを古典的に解いていくと、フレネルの式で知られている次の式で表される。
Yj =(cosθj )/nj
r=(Y1 −Y2 )/(Y1 +Y2 )
基板上の膜のような複数の界面を有する場合には、入射光に対する出射光の強度比は、膜中を流れるエネルギ−との干渉を考慮して次式になる。
【0038】
【数3】
この式は、振幅反射率であるため、実測されるエネルギ反射率を表す式をもとに、外面での外部反射と内部反射を計算する。シリコン基板中での多重反射は、干渉せず、ただ、足し合わされると仮定し、級数表現すると、次式が得られる。
上式により、検出される反射率Rを求めることができる。
【0039】
なお、上記式におけるA2 R0 なる項は、シリコン基板による反射率とシリコン基板の裏面による反射率を表している。この項は、実際の半導体装置を形成するシリコン基板の場合、不純物が添加されていることによりシリコン基板の反射率に相違があること、シリコン基板の裏面はミラー研磨されていないため散乱が生じることを考慮した値である。
【0040】
この値は、実際の測定値と適合させることにより求めることとする。シリコン酸化膜が形成されていないシリコン基板のみの絶対反射率は金ミラーを用いて校正する。金ミラーは反射率の基準として用いられるミラーであって、全ての波長領域に亘って反射率が1であると仮定できるものである。この金ミラーの反射率を1として、シリコン基板のみの絶対反射率を求める。このようにして測定した測定値に基づいて、A2 R0 項の値を求めておく。
【0041】
その後は、誘電関数が与えられれば、実測されるスペクトルのシミュレーションを行うことができる。
シリコン酸化膜の評価方法
図2に、2つ以上の角度の入射角による反射率から誘電関数を求める方法の手順を示す。
【0042】
まず、初期値として、入射角θと、膜厚tと、屈折率nとを設定する(ステップS1)。入射角θは測定条件から知ることができ、膜厚tは別の測定方法により測定する。屈折率nとしては、シリコン酸化膜として取り得る誘電率ε(=n2 )の範囲内にある複数の値を設定する。
次に、上述した式から、設定された複数の屈折率nに対する反射率Rをそれぞれ求める(ステップS2)。これにより、屈折率nと反射率Rの計算値の関係を示すグラフが求まる。
【0043】
次に、屈折率nと反射率Rの計算値との関係を示すグラフを用いて、反射率Rの実測値から逆にシリコン酸化膜の屈折率nを求める(ステップS3)。求めた屈折率nから、誘電率ε(=n2 )を求めることができる。
上述したステップS1〜S3による誘電率ε(=n2 )の演算を、必要な波数領域に亘って行うことにより、誘電関数を求めることができる。
【0044】
このようにして求めた誘電関数を用いて、本実施例では、シリコン酸化膜の膜質について評価を行う。その一般的方法について説明する。
まず、評価の基準となるように厳格に制御された製造条件でシリコン基板上にシリコン酸化膜を形成する。そのようにして形成された基準シリコン酸化膜について上述した方法により誘電関数を求める。
【0045】
続いて、評価対象であるシリコン酸化膜が形成されたシリコン基板に対して、シリコン酸化膜が基準シリコン酸化膜と同じ膜質であるとして、同一の誘電関数を仮定し、疑似的に評価対象のシリコン酸化膜の反射率のスペクトルを演算する。
続いて、評価対象のシリコン酸化膜の反射率のスペクトルの実測値と、疑似的に求めた反射率のスペクトルとを比較する。比較の結果、実測されたスペクトルと疑似的に求めたスペクトルとで差があれば、その差が、評価対象であるシリコン酸化膜と基準シリコン酸化膜との膜構造の相違を反映していることとなり、基準シリコン酸化膜に対する膜質を評価することができる。
【0046】
次に、シリコン酸化膜の膜質を評価する具体的方法として、膜厚が異なるシリコン酸化膜の評価方法の手順について説明する。
まず、基準シリコン酸化膜として、シリコン基板上に100nm厚のシリコン酸化膜を熱酸化により形成する。そのようにして形成された基準シリコン酸化膜について上述した方法により誘電関数を求める。100nm厚のシリコン酸化膜を評価基準としたのは、この程度の厚さのシリコン酸化膜では膜厚方向に対して膜厚の変化が少ないと考えらる領域が支配的であると考えられるからだある。
【0047】
続いて、評価対象であるシリコン酸化膜に対して、その概算膜厚を別の手段により測定する。評価対象であるシリコン酸化膜が、基準シリコン酸化膜と同一の膜質であり、膜厚だけが異なると仮定して、評価対象のシリコン酸化膜の反射率のスペクトルを疑似的に演算する。
続いて、評価対象のシリコン酸化膜の反射率のスペクトルを実測し、その実測値と、疑似的に求めた反射率のスペクトルとを比較する。比較の結果、実測されたスペクトルと疑似的に求めたスペクトルとで差があれば、その差が、評価対象であるシリコン酸化膜と基準シリコン酸化膜との膜構造の相違を反映していることとなり、基準シリコン酸化膜に対する膜質を評価することができる。
【0048】
次に、シリコン酸化膜の膜質を評価する他の具体的方法として、酸化温度が異なるシリコン酸化膜の評価方法の手順について説明する。
まず、基準シリコン酸化膜として、正確に温度測定しながらシリコン基板上にシリコン酸化膜を形成する。そのようにして形成された基準シリコン酸化膜について上述した方法により誘電関数を求める。
【0049】
続いて、酸化温度だけが異なり、他の条件を同じにして製造したシリコン酸化膜について上述した方法により誘電関数を求める。
このようにして求めた基準シリコン酸化膜の誘電関数と、評価対象であるシリコン酸化膜の誘電関数とを比較すれば、その差が膜質の差を反映していることとなり、基準シリコン酸化膜に対する膜質を評価することができる。
【0050】
実施例1−1
熱酸化によりシリコン基板上に約9nm厚のシリコン酸化膜を形成したものを評価対象として、2つ以上の異なる角度(40°、80°)で入射する入射光に対する反射率を測定する。測定結果を図3に示す。入射光の角度を40°と80°にしたのは、シリコン酸化膜のブルースター角(約74°)の前後の角度を選ぶことにより、図3に示すように、異なる角度の入射光に対する反射率に大きな相違を生じるようにするためである。図3に示す反射率の2つの測定値を用いて誘電関数を計算により求める。
【0051】
シリコン酸化膜をフッ酸で除去し、表面に実質的に何も形成されていないシリコン基板を用意し、そのシリコン基板の反射率を基準として評価対象の反射率を相対値として定める。
表面に何も形成されていないシリコン基板の反射率の測定値は、反射率を1と仮定する金ミラーの反射率を基準として定められる。この測定値よりシリコン基板自体の吸収とシリコン基板の裏面の反射によるA2 R0 項の値を求める。入射角度により裏面反射率、透過光の光路長が異なるので、測定する角度毎にA2 R0 項の値を求める。
【0052】
誘電関数を設定し、求めたA2 R0 項の値を用いて、反射率Rを次に示す式を用いて計算する。
【0053】
【数4】
計算された反射率Rを実際に測定した測定値と比較し、測定値と最も近い誘電率の値を必要な波数領域にわたって求める。このようにして求めた誘電関数をもとにして、例えば、膜厚を変更して計算を行ない、実測値と比較して、膜厚が異なるシリコン酸化膜の膜質を評価する。
【0054】
本実施例によるシリコン酸化膜の評価方法は、膜厚が異なるシリコン酸化膜の他にも、酸化温度や、酸化前処理、酸化雰囲気、酸化炉への導出入温度、酸化後熱処理等の酸化条件が異なる膜に対しても有効である。
シリコン酸化膜を形成する条件を変えた場合には、その酸化条件によってシリコン酸化膜の膜構造が異なるため、本実施例の方法により誘電関数を求めて膜構造を比較する。
【0055】
その比較結果と、半導体素子を形成した後の電気特性との相関関係を求めることにより、シリコン酸化膜の製造工程の製造条件を最適化することができる。
[第2の実施例]
本発明の第2の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法を図4乃至図13を用いて説明する。
【0056】
本実施例では、反射赤外分光法(IR−RAS:InfraRed Reflection Absorption Spectroscopy)を用いて、シリコン酸化膜の界面を評価する。
シリコン酸化膜の界面の評価方法の原理
本願発明者等は、シリコン酸化膜の構造を評価するのに、反射赤外分光法(IR−RAS)を用いて、赤外吸収スペクトルでの波数が1250cm-1付近及び1060cm-1付近の信号を測定することが有効であることを提案している。
【0057】
しかしながら、波数が1250cm-1付近及び1060cm-1付近の信号は、シリコン酸化膜の膜構造に関する情報を示すものではあるが、半導体素子の特性を決定するとされている、シリコン基板とシリコン酸化膜の界面の構造を表すものではない。
波数が1060cm-1付近の信号は、シリコン原子と酸素原子の結合(Si−O)の伸縮振動の横光学的(TO:Transverse Optical)フォノンによる吸収を表し、波数が1250cm-1付近の信号は、シリコン原子と酸素原子の結合(Si−O)の伸縮振動の縦光学的(LO:Longitudinal Optical)フォノンによる吸収を表している。このように、これらの信号は共にシリコン酸化膜バルク(全体)としての性質を示すものであり、シリコン基板とシリコン酸化膜の界面の構造を表すものではない。
【0058】
このため、実際の半導体素子の特性に大きな影響を与えるシリコン基板とシリコン酸化膜の界面の構造を表す信号が、赤外吸収スペクトルのどの波数範囲に有効に現れるかが不明であった。
本願発明者等は、反射赤外分光法(IR−RAS)による反射率又は吸収率のスペクトルのどの波数範囲に注目すればよいかについて、鋭意研究した結果、反射赤外分光法で測定したシリコン酸化膜の反射率又は吸収率のスペクトルのうち、波数が約1100〜1230cm-1の範囲の信号を着目すればよいことがわかった。
【0059】
シリコン基板とシリコン酸化膜の界面を考えた場合、この界面は必ずしも平坦ではなく、図4に模式的に示したように、シリコン基板10中にシリコン酸化膜12が所々入り混んだような構造をしていると考えられる。このとき、シリコン酸化膜12は、図4に示すように、シリコン酸化膜12の膜部分12aと、シリコン基板10中に杭のように食い込んだ杭部分12bとに分けて考えることができる。
【0060】
このうち、シリコン酸化膜12の膜部分12aは、波数が1250cm-1付近及び1060cm-1付近の信号を測定することで評価できる。一方、シリコン酸化膜12の杭部分12bは、周囲及び下部がシリコンのバルクであることから、熱処理工程等でシリコン結晶中に析出する酸化シリコンと似たような環境下にあるものと考えられる。
【0061】
シリコン結晶中に固溶する酸化シリコンによる赤外吸収信号が、1100cm-1から1230cm-1の波数範囲に現れることが指摘されている(S.M.Hu、J.Appl.Phys.,vol 51,page 5945、(1980))。したがって、シリコン酸化膜12の杭部分12bによる赤外吸収信号も、1100cm-1から1230cm-1の波数範囲に現れると思われる。
【0062】
図5は、シリコン基板を純水中にある時間だけ放置したときの酸化シリコンの赤外吸収スペクトルを示すグラフである。シリコン基板を放置すると、シリコン基板表面に島状に自然酸化膜が形成されていくことが知られている。放置時間が長くなると酸化が進み、島状の自然酸化膜が大きくなる。放置時間が長くなると、図5に示すように、1100cm-1から1230cm-1の波数範囲での吸収が多くなり徐々に変化している。
【0063】
シリコン基板とシリコン酸化膜との界面では、自然酸化膜と同様に、シリコン中にシリコン酸化膜が入り込んだ構造をしているので、シリコン基板とシリコン酸化膜との界面の構造を知るためには、1100cm-1から1230cm-1の波数範囲の信号をモニタすればよいことがわかる。
実施例2−1
図6は、シリコン基板の(100)面を硫酸と過酸化水素の混合液に浸して形成した自然酸化膜のIR−RASスペクトル(a)と、硝酸溶液に浸して形成した自然酸化膜のIR−RASスペクトル(b)である。図7はスペクトル(a)とスペクトル(b)の差スペクトルである。
【0064】
波数1230−1250cm-1付近のLOフォノンによる吸収ピークと、波数1060cm-1付近のTOフォノンによる吸収ピークとで、その大きさと位置が違っているので、図7に示すように、差スペクトルにもその違いが表れている。しかし、図7に示すように、aで示される波数1100−1200cm-1の範囲にもスペクトル差があることがわかる。
【0065】
図8は、図6及び図7におけるシリコン基板を1気圧の酸素雰囲気中で800℃に加熱し、3nm程度の熱酸化膜を形成した後のIR−RASスペクトルである。スペクトル(a)は、硫酸と過酸化水素の混合液により自然酸化膜を形成した後に熱酸化したもの(膜厚2.9nm)であり、スペクトル(b)は、硝酸溶液による自然酸化膜を形成した後に熱酸化したもの(膜厚3.2nm)である。図9はスペクトル(a)とスペクトル(b)の差スペクトルである。
【0066】
図8に示すように、LOフォノン、TOフォノンによる吸収ピークは、その後の熱酸化により、ほぼ同程度のものとなっており、両者にはわずかな膜厚の差による違いしかみられない。そして、硝酸溶液処理によるものの方がわずかに膜厚が厚いことがわかる。
実際に、両方の熱酸化膜をエリプソメトリーで測定したところ、硫酸と過酸化水素の混合液による自然酸化膜(スペクトル(a))の膜厚は2.9nmであり、硝酸溶液による自然酸化膜(スペクトル(b))の膜厚は3.2nmであり、硝酸溶液処理によるものの方がわずかに厚い。
【0067】
しかし、1100−1200cm-1の波数領域においては、スペクトル(a)の方が大きく、これは図6及び図7に現れている傾向と一致する。すなわち、熱酸化後でも、その前処理の影響が1100−1200cm-1の波数領域にかけて現れており、IR−RASスペクトルのこの波数領域に注目することで熱酸化膜の組成の違いが分かることになる。
【0068】
実施例2−2
図10は、約950℃で熱酸化し、約900℃で炉から引き出したシリコン基板のIR−RASスペクトルである。図11は、室温付近まで炉内で冷却してから引き出したシリコン基板のIR−RASスペクトルである。図12は、図10のスペクトルと図11のスペクトルの差スペクトルである。
【0069】
図12に示すように、この実施例でも、LOフォノン、TOフォノンによる吸収ピークが膜厚に応じて現れている。
ところで、注目すべきことに、図12では、図10、図11において見られなかったピークが波数1114cm-1付近に現れている。引き出し温度の差によってシリコン酸化膜中の固定電荷量が異なることが知られており、この波数1114cm-1付近のピークは、固定電荷量の差に対応したものと考えられる。シリコン酸化膜中の固定電荷量は、界面の凹凸形状に依存することが知られている。
【0070】
しかも、図10におけるシリコン基板と、図11におけるシリコン基板の差は最後の酸化雰囲気の差によるものであるから、シリコン基板とシリコン酸化膜の界面の構造が異なると考えられる。したがって、波数1114cm-1付近のピークは、シリコン基板とシリコン酸化膜の界面の構造の差を表すものと考えられる。
【0071】
実施例2−3
図13は、熱酸化前の前処理が異なる膜のIR−RASスペクトルである。
スペクトル(a)は、シリコン基板の(100)面を5%のフッ酸で1分間だけ前処理した後、過酸化水素と水の1対1の混合溶液に20分間浸漬し、その後、100℃で熱処理することにより、シリコン基板上に形成したシリコン酸化膜のスペクトルである。このシリコン酸化膜の膜厚をエリプソメトリーで測定したところ1.54nmであった。
【0072】
スペクトル(b)は、シリコン基板の(100)面をフッ酸とフッ化アンモニウムの7対1の混合溶液(BHF:Buffered Hydragen Fluoride)で5分間だけ前処理した後、過酸化水素と水の1対1の混合溶液に20分間浸漬し、その後、100℃で熱処理することにより、シリコン基板上に形成したシリコン酸化膜のスペクトルである。このシリコン酸化膜の膜厚をエリプソメトリーで測定したところ2.18nmであった。
【0073】
図13に示すように、両方のシリコン酸化膜とも、波数1230−1250cm-1付近のLOフォノンによる吸収ピークと、波数1060cm-1付近のTOフォノンによる吸収ピークは同じであり、両方のシリコン酸化膜の膜質がほぼ同じである。
しかし、図13に示すように、1100−1200cm-1の波数領域においては、スペクトル(a)の方がスペクトル(b)よりも大きい。したがって。熱酸化後でも、その前処理の影響が1100−1200cm-1の波数領域にかけて現れている。図13から、スペクトル(a)の界面の方が、スペクトル(b)の界面よりも凹凸が小さいことがわかる。
[第3の実施例]
本発明の第3の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法を図14乃至図16を用いて説明する。
【0074】
上述した第1及び第2の実施例では、シリコン基板上のシリコン酸化膜での反射光を測定してシリコン酸化膜を評価するようにしている。しかしながら、図14に示すように、本来、入射光aがシリコン酸化膜22で反射する反射光bのみを測定したいにもかかわらず、シリコン基板20の裏面で反射してシリコン酸化膜22を透過した光cも同時に測定されてしまう。このため、シリコン基板20上に形成されたシリコン酸化膜22の構造解析や、シリコン基板20とシリコン酸化膜22の界面近傍の観察が、不正確になると共に、解析や評価に時間と労力が必要であるとう問題があった。
【0075】
本実施例は、このような問題を解決して、シリコン酸化膜で反射する反射光bのみを測定することを可能にするものである。
本実施例の原理
本実施例の原理を図15に示す。
図15に示す原理によれば、シリコン基板20中に赤外光を吸収する赤外光吸収領域24を設けることにより、シリコン基板の被測定側ではない界面からの反射成分を無視できるようにしている。
【0076】
赤外光を吸収する赤外光吸収領域24はシリコン基板20中の全領域に形成してもよいし、シリコン基板20内に所定の評価領域を設け、その評価領域のシリコン基板20内に設けるようにしてもよい。
また、シリコン基板20上に形成された半導体素子下の領域に赤外光吸収領域24を設けるようにしてもよい。半導体素子に用いられる予定のゲート酸化膜を直接的に評価することができ、最終的に形成された半導体素子の電気的特性と比較する場合に有効である。
【0077】
なお、吸光度が大きくなっても、シリコン基板20が薄いと屈折光を吸収し切れずに基板表面から再び出射してしまう。そこで、シリコン基板20を厚くすることにより光路長を長くし、シリコン基板内を透過するあいだに透過成分を吸収することが望ましい。
実施例3−1
0.5mm厚のシリコン基板中に、ホウ素を1×1015原子/cm3 の濃度で添加した場合について検討する。入射角が80度の赤外光を照射した場合の絶対反射率は8〜10%程度となる。
【0078】
一方、シリコン基板の表面からの理論的な反射率は次のフレネルの式により求めることができる。
【0079】
【数5】
シリコンの誘電率を11.7とすると、上記フレネルの式から、シリコン基板の表面からの理論的な反射率は5.5%となるので、上述した濃度をホウ素を添加したシリコン基板からの反射光には、シリコン基板内部からの多重反射成分がかなり含まれていることがわかる。
【0080】
ここで、シリコン基板の厚さを1cmで規格化した場合の内部吸収成分は、次に示すランバート則
【0081】
【数6】
に従うとして吸光度を求めると、0.1〜0.3程度となり屈折率の吸収には不十分である。シリコン基板内に屈折する光を、基板内部でほぼ吸収するには吸光度が2以上(吸収率が99%以上)であればよいので、シリコン基板の厚さが10mm以上であることが望ましい。
【0082】
シリコン基板内における赤外光の吸収は、シリコンの格子振動による吸収と、自由キャリアによる吸収と、波数1100cm-1では格子間酸素による吸収と、3つの態様が考えられる。シリコンの格子振動による吸収は弱く、格子間酸素による吸収は熱処理により変化して特定領域のみに吸収をもたらす。このため、自由キャリアによる吸収を利用することが有効であると考えられる。そこで、シリコン基板の測定領域に自由キャリアの濃度を増加させ、基板中の透過成分を減衰させればよい。
【0083】
図16は、5mm厚のシリコン基板中に添加されたホウ素の濃度と、吸光度との関係を示すグラフである。図16から明らかなように、5mm厚のシリコン基板の場合、吸光度が2以上となる自由キャリア濃度(ホウ素濃度)は1×1018/cm3 以上となる。1cm厚のシリコン基板の場合は、自由キャリア濃度(ホウ素濃度)は1×1016/cm3 以上となる。
【0084】
なお、シリコン基板中にこのような高濃度の不純物を添加すると、シリコン基板の酸化のメカニズムが変化して、半導体素子の特性に影響を与える虞れがある。
このため、赤外光吸収領域を形成する場合には、不純物の導入方法を工夫することが望ましい。
【0085】
例えば、シリコン基板の裏面からイオン打ち込みにより不純物を添加するようにする。シリコン基板の表面がイオン打ち込みにより劣化するのを防止することができる。また、シリコン基板の表面に保護膜を形成し、熱拡散により裏面から不純物を添加するようにしてもよい。
また、シリコン基板に不純物をイオン注入等により赤外光吸収領域を形成する場合、不純物濃度のプロファイルを急峻にしないようにすることが望ましい。あまり、不純物濃度のプロファイルを急峻にすると、赤外光吸収領域により赤外光が著しく反射する虞れがあるからである。
【0086】
なお、以上の説明ではシリコン基板にホウ素を導入して自由キャリアとしてホールの濃度を高くするようにしたが、ヒ素を導入して自由キャリアとして電子の濃度を高くするようにしてもよい。
[第4の実施例]
本発明の第4の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法を図17乃至図22を用いて説明する。
【0087】
本実施例は、赤外反射吸収分光法によるシリコン酸化膜の界面の凹凸構造について新たなモデルを設定し、そのモデルに適合するように誘電関数を定めることにより、界面の凹凸構造を定量化しようとするものである。
シリコン酸化膜の反射率の計算は、次のような手順で行なうようにしている((ボルン著「光学の原理1,2,3」参照)。
【0088】
まず、図17に示すように、シリコン基板30上に複数の層320、321、…、32mが積層されていると仮定する。特性行列を用いた次式から反射率Rを求める。
【0089】
【数7】
【0090】
【数8】
上記式における未知数は、入射角度θと、入射光波数νと、各層320、321、…、32mでの誘電関数ε0、ε1、…、εm、各層の厚さd0、d1、…、dmである。
本実施例の原理
本実施例では、図18に示すように、シリコン基板30上にシリコン酸化膜32が形成されている場合に、シリコン酸化膜32が、酸化シリコンからなる層32aと、界面にシリコン粒と酸化シリコン粒が混在する混在層32bとにより構成されているというモデルを設定し、有効媒質理論により混在層32bの誘電関数を求めるようにしている。
【0091】
シリコン基板中に波長に対して十分小さい酸化シリコン粒が存在する系における入射電場に対する反射などの応答は有効媒質理論によって説明される(キッテル著「固体物理学入門」上・下参照)。有効媒質理論とは、基板(媒質)中の酸化物は外部電場に対して分極するので、外部電場と酸化物による分極電場の和に対して媒質は応答すると考えるものである。
【0092】
有効媒質理論によれば、シリコン酸化物の形状、電場に対する配置、大きさ、密度によってスペクトルが変化する。図19に示すように、シリコン酸化粒の形状を各主軸長をa1,a2,a3とする楕円体とし、その密度をfとしたときには次式のようになる。
【0093】
【数9】
そこで、図17の混在層32bで示したように、界面の凹凸構造を有効媒質理論を近似的に適用できるように解釈する。その結果、界面凹凸部分の形状と密度と厚さから界面凹凸が定量できる。
シリコン酸化膜の界面構造の定量評価の手順は次の通りである。
【0094】
まず、シリコン基板30上のシリコン酸化膜32に赤外光を入射し、反射光のスペクトルを測定する。
次に、前述した第1の実施例の方法により、シリコン基板30とシリコン酸化膜32の誘電関数を求める。
次に、最小2乗法などの最適化アルゴリズムにより、実測された赤外光スペクトルから界面凹凸の形状、大きさの未知数を決定する。
【0095】
実施例4−1
図20に赤外反射スペクトルの実測値を示す。スペクトルaは、シリコン基板上に約5nm厚の厚いシリコン酸化膜を形成した場合の赤外反射スペクトルであり、スペクトルbは、シリコン基板上に約2nm厚の薄いシリコン酸化膜を形成した場合の赤外反射スペクトルである。両方のシリコン酸化膜は、膜厚以外は同一の熱酸化条件により製造した。
【0096】
厚いシリコン酸化膜の場合(スペクトルa)は、全体の膜厚に比べて、界面凹凸である混在層32bの厚さの比率が低いので、混在層32bの影響が少なく、界面凹凸がないものとみなすことが可能である。
一方、薄いシリコン酸化膜の場合(スペクトルb)は、界面凹凸である混在層32bに影響されることになる。
【0097】
したがって、スペクトルaとスペクトルbとの比較した場合、その相違する点は、主として界面の凹凸構造を表していると考えられる。
図20において、スペクトルaとスペクトルbを比較した場合、次のような相違が観測される。
第1に、波数1255cm-1のLOフォノンのピークが、スペクトルaに比べてスペクトルbの方が低波数側にシフトしている点である。
【0098】
第2に、1100−1200cm-1の波数領域において、スペクトルaに比べてスペクトルbの方が大きい点である。
これらの特徴は、界面凹凸形状である酸化シリコン粒の形状と大きさのファクターにより変化する。図20の実測値から、最適化方法により界面凹凸のファクターの値を導くと、凹凸形状因子L=0.3、表面密度f=0.9となる。
【0099】
凹凸形状因子Lが0.3であるということは、酸化シリコン粒の厚さ方向と表面方向がほぼ同じであるということを示し、表面密度fが0.9であるということは膜全体の9割がシリコン酸化膜であることを示している、したがって、薄いシリコン酸化膜の場合、膜の半分が界面凹凸領域と評価できる。
そのような評価結果に基づいてモデルを設定し、そのモデルから計算により求めた赤外反射スペクトルを図21に示す。スペクトルaが厚いシリコン酸化膜に対する赤外反射スペクトルであり、スペクトルbが薄いシリコン酸化膜に対する赤外反射スペクトルである。
【0100】
図20の実測値のスペクトルと図21の計算値のスペクトルとは概ね一致しており、上述した定量的評価が適切であることがわかる。
実施例4−2
図22に赤外反射スペクトルの実装値を示す。スペクトルaは、シリコン基板上に約5nm厚の厚いシリコン酸化膜を形成した場合の赤外反射スペクトルであり、スペクトルbは、シリコン基板上に約1nm厚の薄いシリコン酸化膜を形成した場合の赤外反射スペクトルである。両方のシリコン酸化膜は、膜厚以外は同一の熱酸化条件により製造した。
【0101】
この実施例2は、実施例1の場合よりも、スペクトルbのLOフォノンのピークが大きく、低波数側にシフトしている。
実施例1の場合と同様にして、界面凹凸のファクターの値を導くと、凹凸形状因子L=0.7、表面密度f=0.9となる。
凹凸形状因子Lが0.7であるということは、酸化シリコン粒が、厚さ方向を1とすると表面方向がおよそ5である平べったいものであることを示し、表面密度fが0.9であるということは膜全体の9割がシリコン酸化膜であることを示している、したがって、シリコン酸化膜のほぼ全体が界面凹凸領域であると評価できる。
【0102】
なお、シリコン酸化膜に対する赤外吸収スペクトルは、酸化温度、酸化雰囲気、酸化後熱処理、酸化前処理等の酸化条件の影響を受けて変化する。これらのスペクトルに対して同様の方法により界面凹凸構造のファクターを求めることができ、界面界面の凹凸構造を定量化することができる。
また、赤外吸収スペクトル同士を比較する場合には、上述したように、スペクトルのピークの波数の相違や、ピークの相対的高さの差、ピークとバレー間の盛り上がり等の点に着目することが望ましい。
[第5の実施例]
本発明の第5の実施例による半導体装置の製造装置を図23を用いて説明する。
【0103】
上述した第1乃至第4の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法は、いずれの場合も、非接触、非破壊の観測法であると共に、通常の大気圧下で観測できる。したがって、半導体装置の製造工程として、上述した第1乃至第4の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法を実行する工程を設け、製造中の半導体基板を直接観測して評価することができる。
【0104】
本実施例による半導体装置の製造装置を図23に示す。この半導体装置の製造装置は、評価工程を含む半導体装置の製造方法を実施することができる。
最も上流側に熱処理炉40が設けられている。熱処理炉40では、シリコン基板上に熱酸化膜を形成するための熱処理を行なう。
熱処理炉40の下流側には、熱処理炉40と連続的な処理が可能なようにIR−RAS測定装置42が配置されている。IR−RAS測定装置42では、上述した第1乃至第3の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法が実行される。
【0105】
IR−RAS測定装置42の下流側には、IR−RAS測定装置42と連続的な処理が可能なようにCVD装置44が配置されている。CVD装置44では、シリコン酸化膜上に多結晶シリコン層等を堆積する。
次に、本実施例による半導体装置の製造装置の動作について、シリコン基板上にトランジスタを形成する場合を例として説明する。
【0106】
まず、シリコン基板であるウエーハを熱処理炉40に導入し、シリコン基板表面に薄いシリコン酸化膜であるゲート酸化膜を形成する。
次に、ゲート酸化膜が形成されたウエーハをIR−RAS測定装置42に搬送し、上述した第1乃至第3の実施例による方法によりゲート酸化膜の膜構造を評価する。評価の結果、不良であると判断されたウエーハは、この段階でリジェクトされる。したがって、その後の無駄な製造プロセスを行なう必要がなくなり、製造効率が向上する。
【0107】
評価の結果、良品であると判断されたウエーハは、CVD装置44に搬送され、ゲート酸化膜上にゲート電極となる多結晶シリコンが堆積される。
このように本実施例によれば、ゲート酸化膜の評価を、シリコン基板上に形成された直後にインラインで行なうことができ、その評価結果に基づいて、熱処理条件等の最適化を効率的に行なうことができる。
【0108】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によれば、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜の膜質を評価するシリコン酸化膜の評価方法において、波数1100〜1230cm-1の範囲の入射光に対する吸収率又は反射率のスペクトルに基づいて、シリコン酸化膜のシリコン基板との界面におけるシリコン酸化膜がシリコン基板に入り込んだ凹凸構造を評価するようにしたので、シリコン酸化膜の界面を正確に評価することができる。
また、本発明によれば、シリコン基板中に、赤外光を吸収する赤外光吸収領域を設けたので、シリコン基板の裏面からの反射による影響をなくすことができる。
【0111】
また、本発明によれば、シリコン基板とシリコン酸化膜の界面に、シリコン粒と酸化シリコン粒が混在する混在層が存在し、有効媒質理論により混在層の誘電関数を求めるモデルを設定し、反射率から演算されたシリコン酸化膜の誘電関数をモデルに適合させるようにしたので、シリコン酸化膜の界面を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例によるシリコン酸化膜の評価装置を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法による測定結果を示すグラフである。
【図4】シリコン基板とシリコン酸化膜の界面を模式的に示す図である。
【図5】シリコン基板を純水中に放置したときの赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6】シリコン基板の(100)面を硫酸と過酸化水素の混合液に浸して形成した自然酸化膜のIR−RASスペクトル(a)と、硝酸溶液に浸して形成した自然酸化膜のIR−RASスペクトル(b)を示すグラフである。
【図7】図6のスペクトル(a)とスペクトル(b)の差スペクトルを示すグラフである。
【図8】図6及び図7におけるシリコン基板に引き続き熱酸化膜を形成した後のIR−RASスペクトルを示すグラフである。スペクトル(a)は、硫酸と過酸化水素の混合液により自然酸化膜を形成した後に熱酸化したものであり、スペクトル(b)は、硝酸溶液による自然酸化膜を形成した後に熱酸化したものである。
【図9】図8のスペクトル(a)とスペクトル(b)の差スペクトルを示すグラフである。
【図10】約950℃で熱酸化した後に約900℃で炉から引き出したシリコン基板のIR−RASスペクトルを示すグラフである。
【図11】約950℃で熱酸化した後に室温付近まで炉内で冷却してから引き出したシリコン基板のIR−RASスペクトルを示すグラフである。
【図12】図10のスペクトルと図11のスペクトルの差スペクトルを示すグラフである。
【図13】熱酸化前の前処理が異なる膜のIR−RASスペクトルを示すグラフである。スペクトル(a)は、シリコン基板の(100)面を5%のフッ酸で前処理した場合のシリコン基板のスペクトルであり、スペクトル(b)は、シリコン基板の(100)面をフッ酸とフッ化アンモニウムの7対1の混合溶液で前処理した場合のシリコン基板のスペクトルである。
【図14】IR−RAS測定における、シリコン酸化膜が形成されたシリコン基板への入射光、屈折光、反射光の光路を示す図である。
【図15】本発明の第3の実施例によるシリコン酸化膜の評価方法の原理を示す図である。
【図16】シリコン基板中に添加されたホウ素の濃度と、吸光度との関係を示すグラフである。
【図17】本発明の第4の実施例におけるシリコン酸化膜のモデルを説明するための図である。
【図18】本発明の第4の実施例におけるシリコン酸化膜のモデルを説明するための図である。
【図19】本発明の第4の実施例におけるシリコン酸化膜のモデルを説明するための図である。
【図20】シリコン基板上にシリコン酸化膜を形成した場合の赤外反射スペクトルの実測値を示すグラフである。スペクトル(a)は、シリコン基板上に厚いシリコン酸化膜を形成した場合であり、スペクトル(b)は、シリコン基板上に薄いシリコン酸化膜を形成した場合である。
【図21】シリコン基板上にシリコン酸化膜を形成した場合の赤外反射スペクトルの計算値を示すグラフである。スペクトル(a)は、シリコン基板上に厚いシリコン酸化膜を形成した場合であり、スペクトル(b)は、シリコン基板上に薄いシリコン酸化膜を形成した場合である。
【図22】シリコン基板上にシリコン酸化膜を形成した場合の赤外反射スペクトルの実測値を示すグラフである。スペクトル(a)は、シリコン基板上に厚いシリコン酸化膜を形成した場合であり、スペクトル(b)は、シリコン基板上に薄いシリコン酸化膜を形成した場合である。
【図23】本発明の第5の実施例による半導体装置の製造装置を示す図である。
【符号の説明】
1…光源
2…干渉計
3…偏光子
4a、4d…ミラー
4b、4c…凹面鏡
5…MCT検知器
6…プリアンプ
7…演算部
9…試料
10…シリコン基板
12…シリコン酸化膜
12a…膜部分
12b…杭部分
20…シリコン基板
22…シリコン酸化膜
24…赤外光吸収領域
30…シリコン基板
32a…酸化シリコン層
32b…混在層
40…熱処理炉
42…IR−RAS測定装置
44…CVD装置
Claims (14)
- シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜の膜質を評価するシリコン酸化膜の評価方法において、
波数1100〜1230cm-1の範囲の入射光に対する吸収率又は反射率のスペクトルに基づいて、前記シリコン酸化膜の前記シリコン基板との界面における前記シリコン酸化膜が前記シリコン基板に入り込んだ凹凸構造を評価することを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項1記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記入射光が、入射面に対して偏光されていることを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項1記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記入射光が、前記シリコン酸化膜表面に対して斜めに入射していることを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記シリコン基板の、評価される前記シリコン酸化膜が形成された面と反対側の面に形成されたシリコン酸化膜を予め除去しておくことを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記シリコン酸化膜が、自然酸化膜であることを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記シリコン基板中に、赤外光を吸収する赤外光吸収領域を設けたことを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項6記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記赤外光吸収領域の吸光度が2以上であることを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項6又は7記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記シリコン基板中に不純物を導入することにより前記赤外光吸収領域を形成することを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項8記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
イオン注入又は熱拡散により、前記シリコン基板中に不純物を導入することを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項8又は9記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記シリコン基板中に前記不純物としてボロンを導入することを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項10記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記赤外光吸収領域におけるボロンの濃度が、厚さ1cm当たり約1×1016原子/cm2 以上であることを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項6乃至11のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
評価される前記シリコン酸化膜が形成された面と反対側の面での反射光の影響がほとんどなくなるように、前記シリコン基板が所定厚さ以上であることを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項12記載のシリコン酸化膜の評価方法において、
前記シリコン基板の厚さが1cm以上であることを特徴とするシリコン酸化膜の評価方法。 - 請求項1乃至13のいずれか1項に記載のシリコン酸化膜の評価方法を用いて評価する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
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