JP3799426B2 - トランスジェニック動物の作成方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は非増殖型組換えアデノウイルスを用いて外来遺伝子をゲノム内に導入して得られるトランスジェニック動物、および該トランスジェニック動物の作成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トランスジェニック動物の作成は、従来より困難であり、目的とするトランスジェニック動物の作成が可能な施設は極めて限られているのが現状である。
従って、トランスジェニック動物の簡便かつ効率的な作成方法の開発が強く望まれている。
一方、本発明者らは、非増殖(E1A欠損)型の組換えアデノウイルスが宿主ゲノム中にほとんど組み込まれないこと(Rosenfeld et al., Science 252, 431-434 (1991)) から、遺伝子制御の研究や体細胞遺伝子治療の開発のための遺伝子発現に利用されてきた(Akli et al., Nat. Genet. 3, 224-228 (1993)) ことに着目して種々研究を重ね、LacZ遺伝子を含む非増殖型アデノウイルスが、前核期の無卵膜マウス卵子に感染することが可能であり、悪影響なしに卵割期の着床前胚において発現することを明らかにした(Tsukui et al., J. Mamm. Ova.
Res., 10(1), (1993,4) 150-151) 。
しかし、この方法によっても発現は一過性であり、安定なトランスジェニック動物を作成することには成功していなかった(Tsukui et al., Mol. Reprod. Dev. 42 , 291-297 (1995)) 。
【0003 】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の第1の目的は、外来遺伝子をゲノムに導入されたトランスジェニック動物の簡便かつ効率的な作成方法を提供することにある。さらに本発明の第2の目的は、本発明の方法によって作成されたトランスジェニック動物を提供することにある。
【0003】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、非増殖型組換えアデノウイルスが動物の卵子のゲノム中に組み込まれ、そして組み込まれた該アデノウイルスDNAが動物の生殖細胞系に移行すること、すなわち非増殖型組換えアデノウイルスを用いることによりトランスジェニック動物を作成し得ることを発見した。本発明はかかる発見に基づきさらに研究を重ねて完成するに至ったものである。
【0004】
即ち、本発明の要旨は、
(1) 外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスを卵膜を除去した動物受精卵に感染させた後、この胚を借り親動物の子宮に移植することを特徴とするトランスジェニック動物の作成方法、
(2) 外来遺伝子が、生理活性タンパク、抗体、マーカー遺伝子としての発色タンパクまたはマーカー遺伝子としての薬剤耐性タンパクをコードする塩基配列を有するヌクレオチドである前記(1)記載のトランスジェニック動物の作成方法、
(3) 非増殖型組換えアデノウイルスを卵膜を除去した動物受精卵に感染させる場合の投与量が5×107 〜108 pfu/mlであることを特徴とする前記(1)または(2)記載のトランスジェニック動物の作成方法、
(4) 非増殖型組換えアデノウイルスが、CAGプロモーター支配下に発現するものである前記(1)〜(3)いずれかに記載のトランスジェニック動物の作成方法、
(5) 非増殖型組換えアデノウイルスが、核移行シグナルを含むものである前記(1)〜(4)いずれかに記載のトランスジェニック動物の作成方法、
(6) 外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスの1コピーだけが動物受精卵のゲノムに組み込まれることを特徴とする前記(1)〜(5)いずれかに記載のトランスジェニック動物の作成方法、並びに
(7) 外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスを卵膜を除去した動物受精卵に感染させた後、この胚を借り親動物の子宮に移植することによって作成されたトランスジェニック動物、に関する。
【0005】
即ち、本発明の要旨は、
(1) 外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスを投与量5×10 〜10 pfu/mlで、卵膜を除去した動物受精卵に感染させた後、この胚を借り親動物の子宮に移植することを特徴とするトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法、
(2) 外来遺伝子が、生理活性タンパク、抗体、マーカー遺伝子としての発色タンパクまたはマーカー遺伝子としての薬剤耐性タンパクをコードする塩基配列を有するヌクレオチドである前記(1)記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法、
(3) 非増殖型組換えアデノウイルスが、CAGプロモーター支配下に発現するものである前記(1)または(2)に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法、
) 非増殖型組換えアデノウイルスが、核移行シグナルを含むものである前記(1)〜()いずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法、
) 外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスの1コピーだけが動物受精卵のゲノムに組み込まれることを特徴とする前記(1)〜()いずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法、並びに
)外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスを投与量5×10 〜10 pfu/mlで、卵膜を除去した動物受精卵に感染させた後、この胚を借り親動物の子宮に移植することによって作成されたトランスジェニック非ヒト哺乳動物、に関する。
【0006】
本発明に用いられる非増殖型アデノウイルスは、幾つかの特徴を有する。すなわち、アデノウイルスは、第1に宿主の範囲がきわめて広く、第2に組み換え遺伝子を非分裂細胞中に導入させることが可能である。
【0007】
非増殖型組換えアデノウイルスは、かかる性質を有することから、前核期における動物受精卵に対するベクターとして期待される。しかしながら、本発明者らの研究では、非増殖型アデノウイルスベクターの1種であるSRαプロモーターの制御下にある大腸菌LacZ遺伝子を含むAdex4SRLacZLを使用して前核期における動物受精卵に対する遺伝子導入を試みたが、感染卵子から発育した13.5日胎仔において発現を検出することができなかった(Tsukui, T., et al. Mol. Reprod. Dev. 42, 291-297 (1995))。
【0008】
本発明においては、動物細胞に感染した後外来遺伝子の発現を可能とするため、アデノウイルスベクターにプロモーターを導入する必要があるが、かかるプロモーターとしては従来アデノウイルスを用いる遺伝子導入に使用されてきたものはいずれも使用可能であり、特にCAGプロモーター(Araki et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92, 160-164 (1995)) が好適に用いられる。
【0009】
本発明において、外来遺伝子の発現産物が細胞質に蓄積されることによる毒性が懸念される場合は、外来遺伝子とともに核移行シグナル配列を組み込んでもよい。核移行シグナル配列はアデノウイルスベクターにより感染細胞の核内で発現され核外に分泌された外来遺伝子産物が再び核内に移行することを促進する(Daniel Kalderon et al., Cell 39 , 499-509 (1984)) 。
【0010】
本発明者らは、ウイルス組み込みの結果を明確にするために、以下には1例として、新たなベクターであるAxCANLacZを用いる。このAxCANLacZは、外来遺伝子(LacZ)により発現するβ−ガラクトシダーゼ(β−gal)活性の同定のために、トランスジェニックマウスで普遍的発現に用いられるCAGプロモーターの支配下にある核標的化されたLacZ遺伝子を含む。このベクターの調製は以下のようにして行うことができる〔Kanegae,Y. et al., Nucleic Acids Research, 1995, vol. 23, 3816-3821 〕。例えば、Kanegae らの方法により、アデノウイルスの複製に必要なE1A蛋白質を産生させず、外来遺伝子を発現するように設計し、また細胞および組織での発現を確認できるように、CAGプロモーターの支配下に大腸菌由来のLacZ遺伝子を挿入することにより調製できる。
【0011】
本発明に用いられる外来遺伝子としては、特に限定されるものではなく、その有用性の観点から、生理活性タンパク、抗体、マーカー遺伝子としての発色タンパク、マーカー遺伝子としての薬剤耐性タンパク等をコードする塩基配列を有するヌクレオチドが挙げられる。生理活性タンパクとしては、サイトカイン類(例えば、インターロイキン−1〜15、インターフェロン−α,βもしくはγ、腫瘍壊死因子−αもしくはβ、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン、成長ホルモン、インシュリン、インシュリン様成長ホルモン等)、神経栄養因子類、α−1アンチトリプシン、血液凝固第8因子、血液凝固第9因子、α−ガラクトシダーゼ等が挙げられる。マーカー遺伝子としての発色タンパクとしては、β−ガラクトシダーゼ、GFP(Green fluorescent protein)等が挙げられる。マーカー遺伝子としての薬剤耐性タンパクとしては、アミノグリコシドフォスフォトランスフェラーゼ等が挙げられる。
【0012】
本発明のトランスジェニック動物を作成する方法は、以下のようにして行うことができる。本発明において、トランスジェニック動物とは、生殖系に導入された外来遺伝子を含有するヒト以外の哺乳動物をいう。このような動物としてはマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ等が挙げられる。
【0013】
以下にマウスを例として、トランスジェニック動物の典型的な作成方法を説明する。
まず、雌マウスにPMSG(ウマ絨毛性性腺刺激ホルモン)、hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)を腹腔内に注射して過排卵を誘起する。精子提供用の雄には同系統の雄マウスを用いる。培養およびウイルスとの反応は、すべて5%CO2 、95%空気、37℃の条件で行う。
hCGの投与後16時間に、卵丘細胞に包まれた未受精卵をTYH( マウス体外受精用培地 (Toyoda et al., Jpn. J. Anim. Reprod. 16 , 147-151 (1971)))中に採取し、予めTYHで2時間前培養を行った精子を最終濃度が150精子/μLとなるように加えて体外受精を行う。受精してから3〜6時間後に受精卵をWM・EDTA(受精卵発生用培地(Hoshi et al., Jpn. J. Zootech. Sci. 56, 931-937 (1985)))に移し、ヒアルロニダーゼおよび酸性タイロード液(pH2.5)で卵丘細胞および卵膜を除去する。
次に、AxCANLacZ等の、外来遺伝子の導入された非増殖型アデノウイルスを106 〜108 pfu/ml、好ましくは5×107 〜108 pfu/mlの投与量で、該ウイルスとの反応時間を2〜8時間としてウイルス感染を行う。
【0014】
ウイルス感染後の胚を借り親マウスの子宮に移植する。
【0015】
得られた産仔のゲノムに外来遺伝子の導入された非増殖型アデノウイルスが伝達されたか否かを確認する。
【0016】
次に、以上のようにして得られたトランスジェニックマウスと野生型のマウスとを交配して得られる子孫のF1において、該トランスジーンが安定に伝達され、組換え非増殖型アデノウイルス由来の外来遺伝子が発現していることを確認する。
【0017】
以上のようにして得られるトランスジェニックマウスについては、以下のような性質が観察される。
後述の実施例において示すように、3匹のマウスすべてにおいて、1コピーの組み込み、すなわち完全なアデノウイルスDNAが観察される(図1)。これに反して、卵子の前核中にDNAをマイクロインジェクションした場合には、トランスジェニック動物への組み込みは、縦列の頭一尾方式で配列された多数のトランスジーンのクラスターとなって生ずる。これらの現象は、アデノウイルスの末端蛋白質が、裸のDNA分子の場合と異なり、マウス卵子中でのウイルスゲノムの縦列形成を阻止しているのかも知れない。
【0018】
メンデルの法則に従った安定な生殖細胞系遺伝が認められるが、この事実は、アデノウイルスゲノムの組み込みが1−細胞期におけるDNA合成の期間前または期間中に起こったことを示す。前核中へのDNAのマイクロジェクションの場合には、1−細胞期の受精卵への遺伝子の組み込みが約70%の頻度で起こることが報告されている(Bishop et al., Mol. Biol. Med., 6 , 283-298 (1989)) 。レトロウイルスベクターの他の場合は、分裂中の胚(好ましくは4−または8−細胞期)に感染するときは(Rubenstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83, 366-368 (1986))、前ウイルス組み込み(proviral integration) が1個以上の細胞中で独立に起こり得る。従って、生殖細胞系遺伝率は、モザイク形成により(Jaenisch et al., Cell 24, 519-529 (1981)) 、一般的に低い。
【0019】
F1子孫へのアデノウイルストランスジーンの遺伝の場合は、転位は一切示されない(図3)。これに反して、ウイルス複製と宿主細胞に対する細胞毒性の誘導を支配するE1A遺伝子を含む野生型のアデノウイルスの場合の組み込み事象は、培養された細胞系中で多くの転位が起こるようにみえる(Dorsch, M. K. et al., J. Virol. 34, 305-314 (1980)、Visser, L. et al., J. Virol. 39, 684-693 (1981))。一つの可能性は、細胞毒性をもつE1A遺伝子の欠損により、組み込まれたアデノウイルスDNAが、マウスの1−細胞から生殖細胞系へゲノム中で安定な状態で維持されるというものである。
【0020】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
なお、実施例中のコスミド、DNA、各種酵素、大腸菌、培養細胞などを取り扱う諸操作およびサザン分析は、特に断らない限り、「Molecular Cloning A Laboratory Manual. T. Maniatisら編、第 2版 (1989) ,Cold Spring Harbor Laboratory 」に記載の方法に準じて行った。
【0021】
実施例1(組換えアデノウイルスゲノムの卵子前核における転写および翻訳の確認)
まず、卵膜の存在または非存在の状態で、前核期にある1−細胞卵子に感染するAxCANLacZの能力を試験した。
マウスの1−細胞卵を卵膜を有するまま又は卵膜を除去したのち、1×108 pfu/mlのAxCANLacZ(核移行シグナルを有するアデノウイルス)で感染させた。感染させた卵子を培養し、感染24時間後の2−細胞期で染色した。β−ガラクトシダーゼ活性は、組織化学的(X−Gal)染色(Beddington et al., Development 106, 37-46 (1989)) により検出した。その結果、、β−gal活性は、感染卵から発育した2−細胞胚(ウイルス感染24時間後)の核中に、明確に局在していることが分かった。この結果は、組換えアデノウイルスゲノムが卵子の前核中に移行し、そして感染後24時間以内に転写/翻訳されることを示した。他方、卵膜の存在下では、β−gal活性は検出されなかった。従って、卵膜の除去は、感染のための前提条件である。
【0022】
実施例2(組換えアデノウイルスゲノムの卵子ゲノムへの組み込みの確認)
アデノウイルスゲノムがマウス卵子ゲノム中に組み込まれたか否かを明らかにするために、blastocyst(培養4日後)における感染胚を借り親の子宮に移植した。27匹の生まれたマウスの尾静脈血から単離したゲノムDNAを制限酵素EcoRVおよびHindIII で消化した。サザンブロット分析を行うと、図1に示すように、3匹のものはアデノウイルスDNAを含んでいた。2〜4レーンはそれぞれ、ウイルスの内部断片と同定された。そして、宿主ゲノムへのアデノウイルスゲノムの組み込みにより生じたウイルス−細胞DNAの連結断片と推定されたものに星印を付した。
3匹のマウス(ACL9.1 、9.3 および9.23)はすべて、1個のアデノウイルスゲノムを保持し、以上の分析により、アデノウイルスゲノムはマウスゲノム中にランダムに組み込まれたことが分かった。
【0023】
<実験方法>
マウスのゲノムDNA(10μg)をEcoRVまたはHindIII で消化し、1.0%アガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜ハイボンド−N(アマシャム社製)上にブロットし、そしてランダムにジゴキシゲニン標識されたプローブにハイブリダイズさせ、サザン分析を行った。
【0024】
実施例3(トランスジェニック動物中での外来遺伝子LacZの発現)
さらに、本発明者らは、この3匹のトランスジェニック動物中での外来遺伝子LacZの発現を試験した。耳のパンチングにより採取した組織片を常法によりX−gal染色法(Beddington et al., Development 106, 37-46 (1989)) で染色した。3匹のトランスジェニック動物のうち2匹(ACL9.3 と9.23)において実際にβ−gal活性が検出された。しかし他の1匹(ACL9.1)では検出されなかった。
【0025】
実施例4(子孫F1への組換えアデノウイルスの伝達)
アデノウイルスDNAが子孫F1に伝達したか否かを確かめるために、3匹のトランスジェニックマウスをICR系マウスと自然交配させた。トランスジェニックマウスの1匹(図1、ACL9.23)に由来した妊娠13.5日目の10匹のF1の胎盤から単離したゲノムDNAをHindIII で消化した。サザン分析により、アデノウイルストランスジーン(transgene)はF1子孫10匹の中の6匹に伝達したことが分かった(図3)。これらの断片パターン(図3、レーン1、3、4、7、8および10)は、親のトランスジェニックマウスの断片パターン(図3、レーンACL9.23)と一致した。他の2匹のトランスジェニックマウス(ACL9.1 およびACL9.3)のウイルストランスジーンも子孫F1に伝達した(それぞれ、21匹中の11匹および13匹中の7匹)。したがって、アデノウイルストランスジーンは、F1子孫に安定に遺伝することが確認されたといえる。アデノウイルストランスジーンの生殖細胞系への伝達はメンデルの法則に従っており、転位は全く認められなかった(図3)。
【0026】
実施例5(アデノウイルストランスジーンの発現の確認)
F1子孫でのアデノウイルストランスジーンの発現をさらに検討するために、同じサンプル(図3)由来の10匹のF1胎仔についてβ−gal活性の染色を行った。全面的かつ強烈な暗青色の染色が10匹のF1胎仔中の6匹で観察された。このことは、遺伝したアデノウイルストランスジーンが実際にLacZ遺伝子を発現したことを示すものである。対照的にアデノウイルストランスジーンを受け取らなかった他の4匹の胎仔は、全く染色されなかった。他のトランスジェニックマウスの系列については、ACL9.3 由来の13匹のF1胎仔のうちの7匹がβ−gal活性を示した。以上を総合すると、これらのデータは、F1子孫におけるLacZ発現がアデノウイルストランスジーンの安定な状態での伝達から生じたことを明示するものである。
【0027】
<実験方法>
胎仔全体を、Allen らの方法(Allen, N. D. et al., Nature 333 ,852-855 (1988))の改良法によりβ−gal活性を調べるためX−galを用いて染色した。すなわち、胎仔を0.5%ホルムアルデヒド、2.5%グルタールアルデヒド、および0.05%NP40を含むリン酸緩衝液(pH7.7)中に4℃で30分間浸漬して固定した。そしてさらに15分間、2回目の固定を行った。固定された胎仔をリン酸緩衝液で3回洗浄し、染色溶液(5mMフェリシアン化カリウム、5mMフェロシアン化カリウム、0.1%NP40および0.5mg/mlのX−galを含むリン酸緩衝液)中に37℃で4時間インキュベートした。
【0028】
実施例6(組み込まれたアデノウイルストランスジーンは1コピーである)
3匹のマウスすべてにおいて、1コピーの組み込み、すなわち完全なアデノウイルスDNAが観察された(図1)。これに反して、卵子の前核中にDNAをマイクロインジェクションした場合には、トランスジェニック動物への組み込みは、縦列の頭一尾方式で配列された多数のトランスジーンのクラスターとなって生ずる。これらの現象は、アデノウイルスの末端蛋白質が、裸のDNA分子の場合と異なり、マウス卵子中でのウイルスゲノムの縦列形成を阻止しているのかも知れない。
【0029】
実施例7(組み込み効率に対するウイルス投与の影響)
受精卵の卵丘細胞および卵膜を除去した後、表1に記載の投与量でAxCANLacZを感染させ、インビトロでblastocystまで培養した後、借り親の子宮に戻した。実際、1×107 、5×107 および1×108 (pfu/ml)で感染した胚を移植し、それぞれ55、32、および36匹の動物個体が得られた。これらの個体について、LacZ遺伝子をプローブとするサザンブロット解析により得られた結果を表1に示す。表1から明らかなように、ウイルスの投与量が1×107 pfu/mlの場合(2/55)に比べて、5×107 pfu/mlの場合(4/32)および1×108 pfu/mlの場合(4/36)は、組み込み効率が飛躍的に向上することが分かる。これは、通常のウイルス感染の場合と異なりウイルス投与量の増加による動物細胞の死滅を考慮する必要がないため、ウイルス投与量の高い方が効率が向上するという結果が得られたものと思われる。
【0030】
【表1】
Figure 0003799426
【0031】
【発明の効果】
本発明の方法によって簡便かつ効率的にトランスジェニック動物を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、非増殖型アデノウイルスDNAの組み込みのサザン分析による同定を示す電気泳動の写真である。27匹の動物の尾から単離されたゲノムDNAをEcoRVおよびHindIII で消化し、AxCANLacZ配列と98%の相同性を有するpAxCANLacZのコスミドDNAをプローブとして用いた。aはEcoRV消化、bはHindIII 消化のデータである。白丸は、アデノウイルスの末端断片である。星印は組み込み事象後のウイルス−細胞DNAの連結断片を示す。
【図2】図2は、3匹のトランスジェニックマウスゲノムに組み込まれたアデノウイルスDNAを示す。太線は組換えアデノウイルスAxCANLacZの制限酵素地図を示す。
【図3】図3は、F1子孫への生殖細胞系の遺伝およびF1上でのアデノウイルストランスジーンの発現を示す電気泳動の写真である。LacZ発現性のトランスジェニックマウス(ACL9.23)をICR雌と交配させ、発生した10匹のF1胎仔を妊娠後13.5日に試験に供した。その10個の胎盤から単離されたゲノムDNAを図1に示すものと同様の手順によりサザン分析に付した。レーン1、3、4、7、8および10はアデノウイルストランスジーンの伝達があったことを示し、レーン2、5、6および9は、かかる伝達がなかったことを示す。星印は組み込み事象後のウイルス−細胞DNAの連結断片を示す。

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  1. 外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスを投与量5×10 〜10 pfu/mlで、卵膜を除去した動物受精卵に感染させた後、この胚を借り親動物の子宮に移植することを特徴とするトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法。
  2. 外来遺伝子が、生理活性タンパク、抗体、マーカー遺伝子としての発色タンパクまたはマーカー遺伝子としての薬剤耐性タンパクをコードする塩基配列を有するヌクレオチドである請求項1記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法。
  3. 非増殖型組換えアデノウイルスが、CAGプロモーター支配下に発現するものである請求項1または2に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法。
  4. 非増殖型組換えアデノウイルスが、核移行シグナルを含むものである請求項1〜いずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法。
  5. 外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスの1コピーだけが動物受精卵のゲノムに組み込まれることを特徴とする請求項1〜いずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作成方法。
  6. 外来遺伝子を導入した非増殖型組換えアデノウイルスを投与量5×10 〜10 pfu/mlで、卵膜を除去した動物受精卵に感染させた後、この胚を借り親動物の子宮に移植することによって作成されたトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
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