JP3796810B2 - フェノール系配糖体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、抗酸化剤、抗菌剤、酵素活性測定試薬などに有用な、フェノール系配糖体の製造方法に関する。更に詳しくは、β−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤を利用した糖転移反応により、フェノール類からフェノール系配糖体を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来フェノール系配糖体は自然界に少量ではあるが広く存在し、また優れた生理活性を有するにも関わらず低毒性であることから、食品、医薬品、化粧品など様々な分野での利用が期待されてきた。
【0003】
例えば、ウワウルシやコケモモなどの植物に含有されるハイドロキノン−β−D−グルコピラノシド(アルブチン)は、利尿作用をはじめ、抗酸化作用(Biosci. Biotech. Biochem. 56巻、1658〜1659頁、1992年)、メラニン色素抑制作用(Proc. Jpn. Soc. Invest. Dermatol. 12巻、138〜139頁、1988年)などを有することが知られている。
【0004】
また、カテコール、レゾルシノールの配糖体が皮膚色素沈着症の予防および治療に有効で、皮膚外用剤の成分として利用できること(特開平4−1115号公報)や、頭皮のフケの発生を防止し、頭髪に潤いとしなやかさを与える顕著な作用効果を有することから頭髪化粧料の成分として利用できること(特開平4−5218号公報)も知られている。
【0005】
ハイドロキノン配糖体、カテコール配糖体、レゾルシノール配糖体などが種々の薬理あるいは生理活性を有する優れた物質であることは前述したとおりであるが、その活性はこれらフェノール系配糖体中の非糖部分、即ち、フェノール類部分が担っていることも知られている。
【0006】
しかし、フェノール類自体に毒性があったり、反応性に富むために不安定であったり、水に対する溶解度が低く扱いにくい等の様々な問題点があり、フェノール類を食品、医薬品、化粧品などとして使用する際に不都合があり、これらを無毒化、安定化、水溶化のなされた配糖体の形で用いることが望まれていた。
【0007】
フェノール系配糖体は、自然界に存在する物質であることから、該配糖体を得る方法として、植物などから抽出する方法が考えられているが、含量が低い上に夾雑物が多く、必要量の精製品を得るのは非常に困難である。
【0008】
化学合成によってフェノール系配糖体を作ることも可能であるが、構造選択的に合成する為には、水酸基の保護、脱保護などといった煩雑な操作を必要とし、反応工程が多段階におよぶだけでなく、なお立体異性体の混入は避けられず、目的物の分離精製が非常に困難なものとなる。
【0009】
また酵素による製造方法、具体的にはβ−グルコシダーゼを用いる方法としては、特開平5−176785号公報に、更にセルラーゼを用いる方法は、特開平6−284897号公報に開示されている。しかし、いずれもアルブチンの反応収率が極めて低い(各特許の実施例から計算した値は、前者で約1.5%、後者で約0.05%)という欠点があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、β−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤を用いて、抗酸化剤、抗菌剤、酵素活性測定試薬などに有用な、β型フェノール系配糖体を収率よく製造する製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、フェノール類と、β−1,3グルコシル化合物とを、β−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤の存在下で反応させることにより、フェノール系配糖体を収率良く製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、フェノール類(A)と、β−1,3グリコシル糖化合物(B)とを、β−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤(C)の存在下で反応させるフェノール系配糖体の製造方法である。
【0013】
本発明の製造方法は、特に、β−1,3グリコシル糖化合物(B)が、β−1,3グルコシル多糖又はβ−1,3グルコシルオリゴ糖であることを特徴とする製造方法や、β−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤(C)が、ストレプトマイセスspDIC−108菌株(微工研条寄第253号)から得られる糖転移酵素、キタラーゼ又はドリセラーゼであることを特徴とする製造方法や、
【0014】
特にフェノール類(A)が、下記の一般式(I)
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、Xは水素原子、水酸基又はニトロ基を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする製造方法や、またはフェノール類(A)が、ハイドロキノン、又はp−ニトロフェノールであることを特徴とする製造方法を含むものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるフェノール類(A)としては、フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール、ニトロフェノール、2−クロロ−4−ニトロフェノールなどが例示され、好ましくはハイドロキノン、p−ニトロフェノールが挙げられる。
【0018】
β−1,3グリコシル糖化合物(B)としては、カードラン、パキマン、パラミロン、シゾフィラン、ラミナラン、酵母細胞壁、ラミナリオリゴ糖などが例示され、好ましくはカードラン、ラミナリオリゴ糖が挙げられる。
【0019】
本発明に使用するβ−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤(C)は、それ自体公知であるが、該酵素がフェノール類(A)に対して糖転移活性を示すことは知られていなかった。
【0020】
この種の酵素剤(C)としては、ストレプトマイセスspDIC−108菌株(微工研条寄第253号)から得られる糖転移酵素であるSGTase、キタラーゼ(和光純薬工業株式会社)や、ドリセラーゼ(協和発酵工業株式会社)が例示される。
【0021】
これらの酵素剤(C)は、そのまま用いてもよいし、固定化あるいは修飾して用いてもよい。ストレプトマイセスspDIC−108菌株(微工研条寄第253号)から得られるSGTaseの製造方法、精製方法、特徴に関しては特公平4−37719号公報に記載されているが、以下にその概略を示す。
【0022】
SGTaseは、ストレプトマイセスspDIC−108菌株を振盪培養、通気培養等で、pH5.0〜8.0、培養温度20〜50℃で1〜6日培養した培養液中に生産される。その作用は、β−1,3グリコシル糖化合物(例えばカードラン、ラミナラン、パキマン、酵母細胞壁など)及びその部分分解物を加水分解し、ビオース、トリオースを主成分とするオリゴ糖を生成する。
【0023】
更に、その際、適当な受容体(例えば多糖、オリゴ糖、配糖体など)が存在すると、生成したオリゴ糖をβ−1,3グリコシド結合を介して受容体に転移させる。その作用温度は10〜70℃で、至適温度は40〜60℃である。また作用pHは4.0〜8.5で、至適pHは5.0〜7.0である。SDS−PAGEから求められる分子量は約3.4万である。
【0024】
酵素剤(C)は、β−1,3グリコシル糖化合物(B)を加水分解し、種々のフェノール類(A)に糖転移させ、フェノール系配糖体を生成させる。
本発明によるフェノール系配糖体の製造方法は、より具体的には、以下に示すような操作で行なわれる。
【0025】
反応容器、例えば、ねじ口ビンや三角フラスコ中で、フェノール類(A)と、β−1,3グリコシル糖化合物(B)とを反応溶媒に混和させ、酵素剤(C)を作用させる。用いるフェノール類(A)は、反応溶媒に対して50重量/容量%以下、好ましくは0.1〜30重量/容量%混和させる。
【0026】
β−1,3グリコシル糖化合物(B)は、反応溶媒に対して50重量/容量%以下、好ましくは0.1〜30重量/容量%混和させる。酵素剤(C)は、反応溶媒に対して、50重量/容量%以下、好ましくは0.1〜30重量/容量%を用いる。これらの原料は、必ずしも反応溶媒に完全溶解している必要はないが、溶解している方が好ましい。
【0027】
反応溶媒は、水もしくは緩衝液でよいが、これに水溶性有機溶媒を加えてもよい。水溶性有機溶媒の例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1〜3のアルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、好ましくは炭素数1〜3のアルコール、アセトニトリルが挙げられる。
【0028】
反応溶媒に占める水溶性有機溶媒の割合は、0〜80容量/容量%、好ましくは0〜60容量/容量%である。緩衝液の種類については特に限定されるものではないが、例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、トリス緩衝液などを用いることができ、好ましくは酢酸緩衝液である。
【0029】
緩衝液のpHは3〜8の範囲内に設定できるが、用いる酵素剤の至適pHに調整するのが望ましい。上述の反応液を10〜70℃、好ましくは40〜60℃の温度条件下で適当時間振盪する。通常1〜2日間で反応の進行は止まる。
反応終了後、生成フェノール系配糖体を精製する場合は、一般的な方法を適宜利用して行なうことができ、精製方法は特に限定されない。
【0030】
例えば、活性炭クロマトグラフィーや逆相クロマトグラフィー(例えば固定相がODSで移動相がアセトニトリル水溶液)などにより反応液から分取することができる。
【0031】
【実施例】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は元よりこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1) ハイドロキノンからのフェノール系配糖体の製造例
1重量/容量%のハイドロキノンと、5重量/容量%のラミナリペンタオースとを含む20mMの酢酸緩衝液pH5.0に、1重量/容量%のドリセラーゼを加え、この混合液を50℃で振盪することにより反応させた。
【0033】
2時間後、反応液を高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略す)分析に付し、フェノール系配糖体の生成を確認した(図1)。HPLC分析には昭和電工株式会社製NH2Pカラムを用い、カラム温度40℃、溶離液73容量/容量%アセトニトリル水溶液、流速0.7ml/min、検出UV280nmで行った。図1中の横軸は溶離時間(分)を縦軸は280nmでの吸光度を表わす。
【0034】
検出されたピークの内、図1中に矢印で示したピークを分取し、これをNMRによる構造解析に供した。その結果、ハイドロキノン−β−D−グルコピラノシド(アルブチン)と同定した。アルブチンのハイドロキノンに対するモル収率は約4.9%であった。
【0035】
(実施例2) p−ニトロフェノールからのフェノール系配糖体の製造例1
1重量/容量%のp−ニトロフェノールと、4重量/容量%のラミナリペンタオースを含む20mMの酢酸緩衝液pH5.0に、0.4重量/容量%のSGTaseを加え、この混合液を50℃で振盪・反応させた。2時間後、反応液をHPLC分析に付し、フェノール系配糖体の生成を確認した(図2)。図2中の横軸は溶離時間(分)を、縦軸は300nmでの吸光度を表わす。
【0036】
HPLC分析には、ジーエルサイエンス株式会社製のODS−2カラムを使用し、カラム温度40℃、溶離液20容量/容量%アセトニトリル水溶液、流速0.7ml/min、検出UV300nmとした。図2中の矢印で示したピークを分取し、NMRで解析した結果、これをp−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシドと同定した。
【0037】
(実施例3)p−ニトロフェノールからのフェノール系配糖体の製造例2
1重量/容量%のp−ニトロフェノールと、4重量/容量%のラミナリペンタオースとを含む20mMの酢酸緩衝液pH5.0に、0.4重量/容量%のキタラーゼを加え、この混合液を50℃で振盪・反応させた。2時間後、反応液をHPLC分析に付し、フェノール系配糖体の生成を確認した(図3)。
【0038】
HPLC分析は、ジーエルサイエンス株式会社製のODS−2カラムを使用し、カラム温度40℃、溶離液20容量/容量%アセトニトリル水溶液、流速0.7ml/min、検出UV300nmで行った。図3中の横軸は溶離時間(分)を縦軸は300nmでの吸光度を表わす。図3中に矢印で示したピークを分取し、NMRで解析した結果、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシドと同定した。該配糖体の収率は約0.5%であった。また、p−ニトロフェノールのオリゴ糖配糖体の生成も確認され、これらを併せた収率は約5.9%であった。
【0039】
【発明の効果】
本発明は、β−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤を用いて、抗酸化剤、抗菌剤、酵素活性測定試薬などに有用な、β型フェノール系配糖体を収率よく製造する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた、アルブチンを含む酵素反応終了液のHPLC分析結果である。横軸は溶離時間(分)を、縦軸は280nmでの吸光度を表わす。
【図2】図2は、実施例2で得られた、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシドを含む酵素反応終了液のHPLC分析結果である。横軸は溶離時間(分)を、縦軸は300nmでの吸光度を表わす。
【図3】図3は、実施例3で得られた、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシドを含む酵素反応終了液のHPLC分析結果である。横軸は溶離時間(分)を、縦軸は300nmでの吸光度を表わす。
Claims (4)
- フェノール類(A)と、β−1,3グリコシル糖化合物(B)とを、β−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤(C)の存在下で反応させるフェノール系配糖体の製造方法であって、β−1,3グルカナーゼ活性を有する酵素剤(C)が、ストレプトマイセスspDIC−108菌株(微工研条寄第253号)から得られる糖転移酵素、キタラーゼ又はドリセラーゼであることを特徴とするフェノール系配糖体の製造方法。
- β−1,3グリコシル糖化合物(B)が、β−1,3グルコシル多糖又はβ−1,3グルコシルオリゴ糖である請求項1に記載の製造方法。
- フェノール類(A)が、ハイドロキノン、又はp−ニトロフェノールである請求項1又は2に記載の製造方法。
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