JP3795075B2 - 上皮細胞の腫瘍化抑制用カロチノイド剤 - Google Patents

上皮細胞の腫瘍化抑制用カロチノイド剤 Download PDF

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Description

発明の分野
この発明は上皮細胞の腫瘍化抑制用カロチノイド剤(carotenoid agent)および該カロチノイド剤を用いる処置法に関する。特にこの発明はメラニン細胞の黒色腫化抑制用カロチノイド剤および該カロチノイド剤を用いる処置法に関する。
発明の背景
以下の説明は特にメラニン細胞と黒色腫に関するものであるが、その他の上皮細胞に関しても類似の議論が適用できることは当業者には明らかである。
黒色腫は、タンニンとして認識されている褐色のメラニンを生成する皮膚細胞(メラニン細胞)の変性に起因する。あざやそばかすはメラニン細胞が多く含まれる部分に発生する。
黒色腫は一般に皮膚を日光にさらすことによって発生する。色白の人々、特にあざのある人は黒色腫になりやすい。
メラニン細胞の増殖分裂様式が光の影響により変化を受けて黒色腫が発生すると考えられる。黒色腫は身体の他の部位へ広がる悪性の場合がある。広がらない黒色腫は良性黒色腫と呼ばれている。
黒色腫は通常は露出した皮膚に形成されるが、口腔内のような部位で発生することもある。
黒色腫は増殖して大きくなるので、身体の他の部位まで広がる前に外科的に除去しなければならない。黒色腫が内部臓器まで広がると、その除去または治療はより困難となり、化学療法または放射線療法が必要となる。従って、メラニン細胞の黒色腫化を抑制することができるならば、黒色腫の処置に関連する問題も少なくすることが可能となる。
カロチノイド、特にβ−カロチンが乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、頸部癌、心臓病および脳卒中の発生率を低減させ、また、しみやあざの変性を抑制するということが仮定されている。これに関連して、哺乳類の体内においてはβ−カロチンがビタミンA、ビタミンA類似体またはレチノイドに変換されるという仮定がなされている[ムーン(Moon R. C.)、「癌の化学的予防剤としてのカロチノイドとレチノイドの比較検討」、J. Nutr.、第119巻、第127頁〜第134頁(1989年)]。カロチノイド、特にβ−カロチンが化学的予防剤の研究において重要な化合物となっているのは、このプロビタミンA活性および酸化的損傷抑制能に起因する。例えば、特に細胞内での正常な代謝の副生物であるフリーラジカルを失活させるために抗酸化剤が用いられている。
β−カロチンは赤血球生成性プロトポルフィリン症(erythropoietic protoporphyria;EPP)の治療に用いられている。EPPはポルフィリン化合物の代謝阻害をもたらす遺伝病である。この病気をもつ患者の皮膚を日光にさらすと、直ちに水泡が形成される。
先に例示した特定の癌の発生率を低減させるのにカロチノイドが有効であろうということが仮定されているが、カロチノイドがメラニン細胞の黒色腫化を抑制するのに有効であるという可能性を実証した研究は全くなされていない。
このような理由から、カロチノイドがメラニン細胞の黒色腫化の抑制または低減に有効であるかどうかを決定するための研究をおこなった。この研究に際しては、カロチノイドの性状や化学的特性に起因して該化合物をヒトに適用するのは困難であるという問題を解決することが必要であった。
カロチノイドは親油性であるために、水に有効量溶解させることができない。カロチノイドは低密度リポタンパク質と共に血流中へ輸送されると考えられる。
これまでのところ、正常な細胞と変換細胞に対するβ−カロチンの効果を調べるために、β−カロチンを溶剤(例えば、テトラヒドロフラン、ブタノール、クロロホルム、ヘキサン、ジメチルスルホキシド、エタノール)を用いて溶解させるかまたはリポソームミセルとする生体外での試験がいくつかおこなわれている。従来のリポソーム製剤は細胞系の培養において毒性を示すので、その用途は限定される。これらの点に関しては下記の文献を参照されたい:
(i)ベンラム(Benram J. S.)、パング(Pung. A.)およびチャーリー(Churley M.)ら、「化学的に誘発される腫瘍変換に対する種々のカロチノイドによる予防」、Carcinogenesis、第12巻、第671頁〜第678頁(1991年)、
(ii)ハズカ(Hazuka M. B.)、プラサド−エドワーズ(Prasad−Edweards J.)およびニューマン(Newman F.)ら、「β−カロチンは形態学的分化を誘発し、培養中のメラニン細胞のアデニルサイクラーゼ活性を低下させる」、J. Am. Coll. Nutr.、第9巻、第143頁〜第149頁(1990年)、
(iii)シュルツ(Schulz T. D.)、チュー(Chew B. P.)およびシーマン(Seaman W. R.)ら、「ヒトの癌細胞の生体外増殖に対するリノール酸の共役ジェン誘導体およびβ−カロチンの抑制効果」、Canc. Letters、第63巻、第125頁〜第133頁(1992年)、
(iv)シュヴァルツ(Schwartz J. L.)およびシュクラール(Shklar G.)、「生体外のヒトの癌細胞系に対するカロチノイドとα−トコフェロールの選択的細胞毒効果」、J. Oral Maxillofac Surg.、第50巻、第367頁〜第373頁(1992年)、
(v)シュヴァルツ、タナカ(Tanaka J.)およびカンデカール(Khandekar V.)ら、「ヒトのSCC−25扁平上皮癌細胞内のアルキル化剤の活性調節因子としてのβ−カロチンおよび/またはビタミンE」、Canc. Chemother. Pharmacol.、第29巻、第207頁〜第213頁(1992年)、
(vi)チャン(Zhang L-X.)、クーニー(Cooney R. V.)およびバートラム(Bertram J. S.)、「カロチノイドはC3H/10T1/2細胞内においてギャップ結合能を高めて脂質の過酸化を抑制する;該化合物のこれらの特性と癌に対する化学的予防作用との関係」、Carcinogenesis、第12巻、第2109頁〜第2114頁(1991年)、
(vii)チャン、クーニーおよびバートラム、「カロチノイドはそれらのプロビタミンAまたは抗酸化剤としての特性とは無関係にコネキシン43遺伝子発現の調節能を高める」、Canc. Res.、第52巻、第5707頁〜第5712頁(1992年)。
上記の溶剤は、投与量によって左右される毒性効果を示すことが知られている。これらの溶剤は静脈内投与製剤または注射用製剤の成分としてはヒトの血液またはリンパ液と適合しない。
従って、カロチノイドを投与する場合には適当なキャリアーを使用しなければならない。このような理由から本発明者は、上皮細胞の腫瘍化、特にメラニン細胞の黒色腫化に対するカロチノイドの抑制効果を調べるための生体外試験をおこなった。
発明の概要
本発明によれば、適切な非毒性キャリアー媒体に水不溶性カロチノイド成分を有効量含有する上皮細胞の腫瘍化抑制用カロチノイド剤が提供される。
本発明はまた、適切な非毒性キャリアー媒体中に配合した水不溶性カロチノイド剤を上皮細胞に有効量投与することを含む上皮細胞の腫瘍化抑制方法を提供する。
上皮細胞は哺乳類の上皮細胞であってもよく、好ましくは皮膚細胞であり、特に好ましくはメラニン細胞である。本発明のより好ましい態様においては、上皮細胞はヒトの上皮細胞、特に好ましくはヒトのメラニン細胞である。
好ましくは、水不溶性カロチノイド成分にはβ−カロチンが含まれる。本発明のさらに好ましい態様においては、水不溶性カロチノイド成分にはβ−カロチンが2〜50重量%含まれる。さらに好ましくは、水不溶性カロチノイド成分にはβ−カロチンが20〜40重量%含まれる。より好ましくは、水不溶性カロチノイド成分にはβ−カロチンが30重量%含まれる。
好ましくは、キャリアー媒体には次の群から選択される沈澱防止剤が含まれる:脂肪酸、トリグリセリド脂質、非鹸化性脂質製剤、可溶性炭化水素およびこれらの任意の混合物。
トリグリセリド脂質は植物から得られる脂肪および/または油(特に好ましくは種子油、例えば綿実油、ひまわり油またはこれらの任意の混合物)から選択するのが好ましいが、動物源、例えば獣肉および魚肉から得られる脂肪および/または油から選択してもよい。キャリアー媒体に配合するには種子油が特に好ましく、就中、大豆油が特に好ましい。
本発明によるカロチノイド剤には水不溶性カロチノイド成分を0.1〜10重量%、就中、1〜5重量%配合するのが特に好ましい。
非毒性キャリアー媒体には乳化剤も配合するのが好ましい。乳化剤はツイーン(Tween)ソルビタンの脂肪酸エステルとポリオキシエチレンとの反応生成物、グリセロール脂肪酸エステルおよび脂肪酸のアセチル化エステルから選択するのが好ましい。グリセロールモノオレエートは特に好ましい乳化剤である。
非毒性キャリアー媒体には水溶性分散剤も配合するのが好ましい。水溶性分散剤として特に好ましいものは糖またはポリオール、就中、ソルビトールおよびグリセロールである。
本発明のいずれの態様においても、メラニン細胞と接触させるカロチノイド剤の有効量は、好ましくは0.1〜10.0μg/ml、就中、,0.3〜3.0μg/mlである。このような濃度は適当な希釈剤を用いて調整すればよい。希釈剤は細胞増殖に適した培地、水性緩衝液、通常の静脈用製剤(等張塩水および5%デキストロース溶液を含む)、血漿およびこれらの任意の混合物から選択するのが好ましい。
この明細書で用いる「混合物」には、エマルション、溶液および結晶懸濁液を含む種々の物理的形態のものが含まれる。
実施例
以下の実施例はカロチノイド組成物のメラニン細胞の処置における効能と該組成物の相対的非毒性(relative non−toxicity)を例証するものである。
以下の実施例を添付図に基づいて説明する。
図1は正常はヒトのメラニン細胞内でのDNA合成に対するβ−カロチンの効果を示すグラフである。要するに、DNA合成はβ−カロチンの使用量を最大にすることによって著しく抑制されるが、使用量が少ない場合にはほとんどまたは全く抑制されない。UV試験のための前処理量としては1.0μg/mlを選択した。これは該使用量が、DNA合成に対して最小の効果をもたらすβ−カロチンの最大濃度だからである。β−カロチンと共にメラニン細胞を24時間培養した。各々のデータポイントは対照に対する標準誤差が6ウェル+/−%の平均値である。
図2はβ−カロチンの存在下または不存在下でのUVB照射処理に付した後の正常なヒトのメラニン細胞の生存率を示すグラフである。要するに、UVB(500mJ/cm2)の照射から0.05時間後の細胞の生存率は、β−カロチンを存在させる場合はβ−カロチンを存在させない場合に比べて、ほぼ20%高くなる。この効果は経時的に維持された。各々のデータポイントは対照に対する標準誤差が3ウェル+/−%の平均値である。
図3はβ−カロチンの存在下または不存在下でのUVB照射処置に付したメラニン細胞のノーザン分析を示すグラフである。要するに、500mJ/cm2の照射から24時間後に発生するUVBによるc−junの誘導は最も高くなる(基礎レベルの36.2倍に相当する)。c−fosの誘導は照射から2時間後に最大となる(発現度は基礎レベルの57倍に相当する)。UVBによる誘導はβ−カロチンによって実質的に阻害される。c−jun発現は照射誘導は4時間後、β−カロチンによって11.1倍増大するが、UVBによる誘導は24時間後には完全に阻害される。β−カロチンを存在させない場合またはUVBを照射させない場合のこれらの遺伝子の基礎発現度は図示する全てのRNAレベルから差し引いた。ブロットは18Sによるローディングに対して補正した。
図4はβ−カロチンの存在下または不存在下での正常なヒトのメラニン細胞内でのDNA合成を示すグラフである。要するに、β−カロチンで前処理することによって、UVB照射(400mJ/cm2)から24時間後のDNA合成量は増大する。この効果は照射から4時間後には認められない。各々のデータポイントは、対照に対する標準誤差が6ウェル+/−%の平均値である。
図5は、実施例で使用したストラタリンカー・クロスリンカー(Stratalinker Crosslinker)装置に用いたUVP灯のスペクトル分布を示すグラフである。
図6は、UVB照射処理に付したメラニン細胞に対するβ−カロチンの処理効果を比較する実験結果を示す4種のヒストグラムである。要するに、メラニン細胞を1μg/mlのβ−カロチンの存在下または不存在下で24時間処理した結果と適当な対照を用いた結果を比較したものである。培地を除去した後、細胞に100mJ/cm2または500mJ/cm2のUVBを照射した。次いで、新鮮な培地を加えて細胞をさらに、1.4〜24時間培養し、全てのRNAを単離した。これらのヒストグラムは4種の正常なコーカソイドのメラニン細胞系に関する4種の独立したノーザン分析の結果(ローディングに対して補正した結果)を示す。
図7は、UVB照射処理(100mJ/cm2)に付した細胞のDNA結合活性に対するβ−カロチンの処理効果を示す。
図8は、UVB照射処理(500mJ/cm2)に付した細胞のDNA結合活性に対するβ−カロチンの処理効果を示す。要するに、4種の正常なコーカソイドのメラニン細胞(NCM)系からの核抽出物のDNA結合活性を測定するために、NFカッパB共通配列を用いるゲル移動度シフトアッセイ(gel mobility shift assay)をおこなった。NCMはβ−カロチン1.0μg/mlを用いて24時間前処理した後、UVB照射処理(500mJ/cm2)に付し、次いで照射処理から1.4〜24時間後にアッセイをおこなった。
図9はヒトのメラニン細胞をO−テトラデカノイルフォルボール13−アセテート(TPA)、3−イソブチル1−メチルキサンチン(IBMX)またはTPAとIBMXとの混合物で処理した後、UVB照射をおこなったときまたは該照射をおこなわなかったときのRNAの全合成量を示す。要するに、メラニン細胞をTPA(10ng/ml)もしくはIBMX(0.1mM)または適当な対照を用いて24時間処理した効果を示す。培地を除去した後、細胞にUVBを照射し(100mJ/cm2)、次いでTPAもしくはIBMXを含有するか、または含有しない新鮮な培地を添加して1時間培養し、さらに照射処理をおこなった後、RNAを単離した。これらのヒストグラムは、2種の正常なコーカソイドの新生児のメラニン細胞系についての2種の独立したノーザン分析の結果(ローディングに対して補正した結果)を示す。
図10はUV照射に対するヒトのメラニン細胞の反応の原因と考えられる細胞内機構の概要を示す。
図1および図5は、DNA合成活性の尺度である三重水素化されたチミジンの取り込み率(%)」に関する。
本発明に関しておこなった実験の詳細を以下に説明する。
実験に関する資料
(a)細胞培養
ヒトの新生児の包皮を0.25%トリプシン(4℃)中に一夜放置した。この培養をおこなった後、組織をこすりおとし、メラニン細胞を回復させた。このメラニン細胞を次の成分を含有するMCDB151培地[シグマ社(Sigma)製]中で培養した:2%牛胎児血清、0.3%牛下垂体エキス[クロネチックス社(Clonetics Corp.)製]、10ng/mlTPA、2mMCaCl2、5μg/mlインスリンおよび0.1mM IBMX(シグマ社製)。
(b)化学薬品
β−カロチンは藻類ドゥナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)から単離した。β−カロチンは全カロチノイド中に85〜90%含まれ、残りの半分はオキシカロチノイド(ルテインおよびゼアキサンチン)であり、半分はα−カロチンであった。γ−カロチンは通常は高圧液体クロマトグラフィーによっては検出されない。大豆油は大豆から単離した。β−カロチンと大豆油との結晶懸濁液を調製した。この懸濁液を乳化して下記の組成物を調製した。該組成物は加熱または濾過による滅菌処理に付した。細胞系についての試験をおこなう前に、各々の小瓶中の該組成物は各試験に使用する新鮮な小瓶を用いて低温小瓶[コスター社(Costar)製]に小分けした。実験の全操作を通じて、β−カロチンが直接光にさらされるのを避けた。β−カロチンの乳化組成物の配合組成は次の通りである:
成 分 配合量(重量%)
β−カロチン 2.4
大豆油 6.8
グリセリルモノオレエート 7.2
グリセロール 66.7
水 16.9
この組成物は次の様にして調製した。β−カロチンと大豆油との結晶懸濁液を加熱し、グリセリルモノオレエートを添加した。この油性相を高剪断混合によってグリセロールの水性相中に分散させた後、60〜70℃での均質化処理に付した。均質化圧は通常は8,000〜10,000PSIであるが、使用するホモジナイザーに応じて変化させてもよい。得られた組成物は加熱による滅菌処理に付した。一般的には、加熱は分散用容器(3mlのガラス製小瓶)中において121℃で15分間の圧熱処理によっておこなう。所望により、抗酸化剤としてトコフェロールを0.3%添加することによって、毒性物の経時的生成を防止してもよい。
(c)実験条件
紫外線(UV)照射は細胞に対して重大な損傷、例えば、遺伝的突然変異、発癌の促進およびその他の有害な変化等をもたらす。ヒトに対するUV照射の潜在的に有害な効果は主としてUVBスペクトル(即ち、波長が290〜320nmの放射線)に起因する。この点に関しては次の文献を参照されたい:ギルヒレスト(Gilchrest B. A.)、ソーラー(Soler N. A.)、スタッフ(Staff J. S.)およびミーム(Mihm M. C. Jr.)「ヒトの日焼け反応:組織学的および生化学的研究」、J. Am. Acad. Dermatol.、第5巻、第411頁〜第422頁(1981年)。UV照射の別の形態はUVC照射である。日光に含まれるUVC放射線は254nmのオーダーの波長を有する放射線であるが、生物学的にはUVB放射線のような問題はもたらさない。これは、日光に含まれるUVC放射線が地球のオゾン層によって強く吸収されるからである。従って、この実験においてはメラニン細胞に対するUVB照射の効果およびメラニン細胞をカロチノイドで処理することによる該効果の変化を検討した。細胞はプラスチック製容器内で培養したのでUVC放射線は実験系から遮断された。
メラニン細胞のUVB照射はストラタリンカー・クロスリンカー装置[ストラタジーン社(Stratagene)製]を用いておこなった。、該装置は、UVX−31ラジオメーター[ユー・ブイ・ピー社(UVP Inc.)製]で測定したときに放射極大中心を302nmに示すUVP灯を5個具有する。波長が280nmよりも短い放射線は組織培養皿に蓋を装着させることによって遮断した。図5は該UVP灯のスペクトル分布を示す。
(d)RNA分析
全てのRNAは、界面活性剤を用いる溶解処理に付した後、フェノール−クロロホルム抽出とエタノール沈澱処理をおこなうことによって単離した。RNA(15μg)を変性ホルムアルデヒド/アガロースゲル上でのサイズ分画処理に付した後、毛細管ブロッティング法によってナイロン製フィルター上に移した。ブロットを32Pで標識化したcDNAプローブにさらした後、次の成分を含有する媒体(42℃)中でのハイブリッド形式処理に24時間付した:50%ホルムアミド[2X SSC、5Xデンハルツ(Denhardts)]、0.1% SDS、10%デキストランスルフェートおよび100μg/ml鮭精子DNA。次いで、フィルターを60℃で0.5−0.1X SSCのストリンジェンシー(stringency)まで洗浄した後、フィルム(フジフィルム社製)を用いてオートラジオグラムを−80℃で3〜10日間撮影した。オートラジオグラムはGS−365ソフトウェア[ヘーファー・サイエンティフィック社(Hoefer Scientific)製]を用いるデンシトメトリーによって定量した。
(e)遺伝子プローブ
c−junプローブはプラスミドpHJからの1.2kb Sal 1/Hpa Iフラグメントである[ボーマン(Bohmann)、1987年]。c−fosプローブはプラスミドBK28からの1.8kb Xho I/Eco RIフラグメントである[ヴェルマ(Verma)、1988年]。18Sプローブは、プラスミドpBからのEco RI消化と5.6kbフラグメントの分離によって単離した[ゴンザレス(Gonzalez)、1988年]。
(f)細胞の計数とDNA合成の測定
細胞は0.25%トリプシンを用いて収集し、クールターカウンター[クールター・インストゥルメント社(Coulter Instruments)製]を用いて計数した。生存度はトリパンブルー排除(trypan blue exclusion)によって決定した。DNA合成は、培地に添加した(メチル−3H)−チミジン2.5mCi/ml(20Ci/mmol)[デュポン−ニューイングランド・ヌクレア社(Dupont−New England Nuclear)製]を用いて培養終了前4時間にわたって標識化することによって測定した。メラニン細胞はPh. D.細胞ハーベスター[ケンブリッジ・リサーチ社(Cambridge Research Inc.)製]を用いて収集した。取り込まれた放射能量は液体シンチレーションカウンターLS5000TD[ベックマン・インストゥルメンツ社(Beckman Instruments)製]を用いて測定した。
(g)核タンパク質抽出物
細胞は全面の約50〜60%まで増殖させた後、以下のセクション(i)に記載の実験プロトコルに従って処理した。細胞は次の成分を含有する氷上の低張緩衝液中において15分間膨潤させた:10mM HEPES(pH7.8)、0.1mM EDTA、10mM KCC、1mM DTT、PMSF。細胞質ゾルのタンパク質フラクションは、ノニデット(Nonidet)P−40を0.5%まで添加した後、遠心分離(500g、5分間)によって核から分離させることによって入手した。核タンパク質は残存するペレットを高張緩衝液[20μM HEPES(pH7.9)、350mM NaCl、1mM DTT、1mM PMSF]を用いる透析処理(10℃、2時間)に付すことによって単離した。単離した核タンパク質は−80℃で凍結保存した。定量は波長230nm、260nmおよび320nmにおける光学濃度からの計算によっておこなった。
(h)ゲル移動度シフトアッセイ
各々の抽出物試料5μgを、32pで標識化したNFカッパBの共通オリゴヌクレオチド10,000cpmと共にインキュベートした。1時間インキュベートした後、試料を低イオン強度のポリアクリルアミドゲル中での電気泳動処理に付した。タンパク質:DNA複合体の定量はデンシトメトリーによっておこなった。
(i)実験プロトコル
実験は下記のタイムテーブルに従っておこなった。
Figure 0003795075
正常なヒトのメラニン細胞を適当な容器(6ウェルプレート、96ウェルプレート、75cmもしくは175cmフラスコ)内に接種し、全面の50〜60%まで増殖させた。「処理」グループの場合には、次いで新鮮な培地とβ−カロチン(1.0μg/ml)を添加し、細胞をβ−カロチンと共に24時間インキュベートした。インキュベーションをおこなった後、細胞をPBSを用いて2回洗浄し、次いでUVBを照射した(500mJ/cm2)。照射後、β−カロチンを含有しない新鮮な培地を添加し、さらに1時間、2時間、4時間および24時間インキュベートした。「0.05時間」は、UVB照射後、細胞を3分以内に収集した時点を意味する。「対照」グループにおいては、β−カロチン処理以外は「処理」グループと全く同様の処理をおこなった。
結果の検討
図1によれば、β−カロチンの添加量が最大の場合には、DNA合成は著しく抑制されるが、添加量が少ない場合にはこのような抑制効果はほとんどまたは全くみられない。UV照射実験のためのβ−カロチンの前処理量としては1.0μg/mlを選択したが、これはDNA合成に対する最小の効果を得るためのβ−カロチンの最大濃度が1.0μg/mlだからである。β−カロチンはメラニン細胞と共に24時間インキュベートした。各々のデータポイントは、対照に対する標準誤差が6ウェル+/−%の平均値である。
図2は、UVBの照射(500mJ/cm2)から0.05時間後の細胞の生存率はUVB照射のみの場合に比べてβ−カロチンを存在させる場合の方が約20%高くなることを示す。この効果は経時的に維持された。各々のデータポイントは、対照に対する標準誤差が3ウェル+/−%の平均値である。
図3は、500mJ/cm2の照射から24時間後に発生するUVBによるc−jumの誘導が最も大きくなることを示す(基礎レベルの36.2倍に相当する)。c−fosの誘導は照射から2時間後に最大となる(発現度は基礎レベルの57倍に相当する)。UVBによるc−fosの誘導はβ−カロチンによって実質的に阻害される。c−jun発現は照射から4時間後にβ−カロチンによって11.1倍増大するが、24時間後にはUVBによる誘導は完全に阻害される。β−カロチンを存在させない場合またはUVBを照射させない場合のこれらの遺伝子の基礎発現度は図示する全てのRNAレベルから差し引いた。ブロットは18Sによるローディングに対して補正した。
図4は、β−カロチンで処理したメラニン細胞における三重水素化チミジンの取り込み量は照射後24時間で増大することを示す。
特定の理論に限定されるものではないが、例示した混合物は非常に微細なエマルションであると考えられる。
図6のヒストグラムは4種の別々のノーザン分析の結果を示す。左側にはUVBを100mJ/cm2照射した結果を示し、右側にはUVBを500mJ/cm2照射した結果を示す。図6のヒストグラムに示すように、c−fosとc−junのRNAレベルは急激に増大し、照射後1時間で最大の発現度に達する。しかしながら、この誘導は一過性のものであり、発現度は照射後4時間で基礎レベルまで低下する。500mJ/cm2の照射後1時間のc−jun発現度は100mJ/cm2の照射の場合に比べてほぼ2倍になる。c−fosの発現度も500mJ/cm2の照射後の場合が高くなる。β−カロチンはUVB照射で誘発されるc−fosの発現を変化させず、また、c−junに対してもわずかな効果を及ぼすだけである。
図7は、照射処理に付したメラニン細胞から単離した核タンパク質のDNA結合活性に関する。転写因子NFカッパBに対する活性は経時的に実質的な影響を受けなかった。細胞質中での核因子カッパB(NFカッパB)の活性は核因子カッパB複合体の不活性なNFカッパB−インヒビターの解離に起因することが知られている。これに関しては次の文献を参照されたい:シモン(Simon M. M.)ら、「UVB照射による細胞不含細胞質ゾル抽出物中の染色体DNA損傷によって核因子カッパB(NFカッパB)活性は独立して誘発される」、The Joural of Investigative Dermatology、第102巻(第4号)、第422頁(1994年)。しかしながら、β−カロチンはNFカッパB結合活性を幾分低下させる。100mJ/cm2の照射によっては基礎レベル以上の結合活性は誘発されないが、β−カロチンはNFカッパB活性に変化をもたらす。
図8は、UVBを500mJ/cm2照射した後の正常なコーカソイドのメラニン細胞のDNA結合活性の測定結果を示す。NFカッパBの典型的なオートラジオグラムを図の左側に示し、測定結果を図の右側に示す。最も低い活性は照射から24時間後にみられる。
図7に示すように、照射量が100mJ/cm2のときにはβ−カロチンはNFカッパBに対して適度な効果をもたらすが、照射量が500mJ/cm2になると、β−カロチンは照射から1時間後にNFカッパB活性を50%以上抑制する。これらのデータは、UVBの照射量が高いときにはNFカッパB結合活性が低レベルに調節されることを示す。
図9は、TPAおよびIBMX中で培養した正常なコーカソイドの新生児のメラニン細胞のノーザン分析の結果を示す。UVBを100mJ/cm2照射した後のc−junの誘導はこれらの培地条件の影響を受けることが判明した。TPAまたはIBMXを用いて24時間処理するか、またはこのような処理をおこなわないメラニン細胞を照射処理に付した後、問題となる因子の存在下または不存在下でさらに1時間インキュベートした。完全培地(即ち、TPAとIBMXの両方を含有する培地)中で照射したメラニン細胞に比べて、c−junの誘導は約50%低下した。さらに、TPAおよびIBMXで処理しない照射メラニン細胞はc−jun発現を、非照射条件下の試料の場合のレベルまで低減させる。RNAレベルは、UVB照射を受けるメラニン細胞内においてTPA、IBMXまたはこれらの混合物の不存在によって影響を受けない。照射量が100mJ/cm2の場合、c−junを完全に誘導させるためには、メラニン細胞はTPAとIBMXの両方を必要とする。
結論
紫外線照射によるDNA損傷によって多くの転写因子が影響を受けやすいことが文献に報告されている。このような因子にはc−fos遺伝子、c−jun遺伝子、NFカッパB複合体およびAP−1複合体が含まれる。正常なメラニン細胞のDNAに対する紫外線照射損傷に関する応答の仲介に含まれる幾分複雑な推定機構の概略を図10に示す。培養した正常なメラニン細胞に関して一連の実験をおこなった(UVB照射後の該細胞のc−fosとc−junの発現に対するノーザン分析によって検討した)。c−fos遺伝子とc−jun遺伝子に対する効果を調べた実験から得られたデータは幾分矛盾する結果をもたらした。観察された矛盾は多数の影響因子、例えば、使用した紫外線の照射量が上皮細胞中のc−fos遺伝子およびc−jun遺伝子に対する照射効果または誘発応答に対するカロチノイドの効果を調べるのに不適当であった可能性等に起因するかもしれない。従って、異なった実験条件下において、これらの遺伝子に対する照射とカロチノイド処理の効果を調べる必要がある。さらに、junとfosの遺伝子ファミリーの他のメンバー(例えば、jun−B、jun−D、fos−B、fraI、fraII等)が、正常な上皮細胞への紫外線照射に対する応答および該応答に対するβ−カロチンの効果に関連してより重要な役割を果たしている可能性もある。これらの問題を解決するためにはさらに別の実験が必要である。
一方、本願の発明者は、NFカッパB複合体の比較的最近発見された特性に関する研究を最近おこなった。この研究によれば、該複合体によって仲介されるUV損傷応答をβ−カロチンが防ぐということを示す統計的に有意な結果が得られた。本明細書ではこのような結果を説明するために特定の明確な理論を開示するものではないが、NFカッパB複合体は、正常なヒトのメラニン細胞への紫外線照射によって誘発される核酸損傷に対して比較的減弱性で高感度のインジケーターであると考えられる。該メラニン細胞をβ−カロチンを用いて前処理することによって統計的に有意な防止効果が得られるが、この効果はUVBを500mJ/cm2照射してから1時間後に特に高くなる。この防止効果は、スチューデントのt−テストによるp値が0.05よりも小さいときに統計的に有意である。従って、メラニン細胞の黒色腫化およびβ−カロチンによる該黒色腫化の抑制を研究するモデルとして現在知られているもののなかで、NFカッパB複合体は最も適当なモデルと考えられる。

Claims (15)

  1. 有効量の水不溶性カロチノイド0.1〜10重量%および非毒性キャリアーを含有する、正常皮膚細胞の黒色腫への変換抑制用薬剤。
  2. 下記の成分(1)および(2)を含有する請求項1記載の薬剤:
    (1)水不溶性カロチノイド0.1〜10重量%、並びに
    (2)脂肪酸、トリグリセリド脂質、非鹸化性脂質製剤およびこれらの任意の混合物から成る群から選択される沈殿防止剤、
    ソルビタンの脂肪酸エステルとポリオキシエチレンとの反応生成物、グリセロール脂肪酸エステルおよび脂肪酸のアセチル化エステルから成る群から選択される乳化剤、並びに
    糖およびポリオールから成る群から選択される水溶性分散剤
    を含有する非毒性キャリアー90〜99.9重量%。
  3. 正常皮膚細胞が哺乳類の正常皮膚細胞である請求項1または2記載の薬剤。
  4. 正常皮膚細胞がヒトの正常皮膚細胞である請求項1または2記載の薬剤。
  5. 正常皮膚細胞がメラニン細胞である請求項1から4いずれかに記載の薬剤。
  6. 水不溶性カロチノイドがβ−カロチンを含有する請求項1から5いずれかに記載の薬剤。
  7. 水不溶性カロチノイドがβ−カロチンを2〜50重量%含有する請求項6記載の薬剤。
  8. 水不溶性カロチノイドがβ−カロチンを20〜40重量%含有する請求項6記載の薬剤。
  9. メラニン細胞の黒色腫への変換が、DNA転写因子の活性の調節によって抑制される請求項1から8いずれかに記載の薬剤。
  10. 転写因子の活性が、DNAの発現の抑制によって調節される請求項9記載の薬剤。
  11. トリグリセリド脂質が、植物脂肪、植物油、動物脂肪および動物油から成る群から選択される請求項2記載の薬剤。
  12. 乳化剤がグリセロールモノオレエートである請求項2または11記載の薬剤。
  13. 水溶性分散剤が、ソルビトールおよびグリセロールから成る群から選択される請求項2または11記載の薬剤。
  14. 薬剤が0.1〜10.0μg/mlの濃度で水不溶性カロチノイドを含有する請求項1から13いずれかに記載の薬剤。
  15. 薬剤が0.3〜3.0μg/mlの濃度で水不溶性カロチノイドを含有する請求項14記載の薬剤。
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