JP3794141B2 - 差圧式燃料噴射弁 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ニードル弁前後の差圧によりニードル弁を進退させて燃料噴孔を開閉する差圧式燃料噴射弁の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開平6−280711号公報には、燃料が満たされた差圧室に先端が臨んだピストンと、この差圧室に後面が臨んだニードル弁とを備え、電歪アクチュエータでピストンを進退させることにより、ニードル弁前後に燃料圧の差圧を発生させ、この差圧によってニードル弁を進退させて燃料噴孔を開閉するように構成した差圧式の燃料噴射弁が開示されている。
【0003】
このような差圧式燃料噴射弁は、アクチュエータの駆動制御による高精度の燃料噴射時期制御と、ニードル弁の前後に作用する燃料圧を利用した高い燃料噴射圧とを両立できるため、特に燃焼室内に直接燃料を噴射する直噴式ガソリンエンジンのような内燃機関に適している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の差圧式燃料噴射弁は、電歪アクチュエータの伸縮によりピストンを進退させているから、ピストンのストローク調整が困難であり、かつ、ピストンを瞬間的に進退させて差圧室の圧力を変化させ、これにより生じるニードル弁前後の差圧によってニードル弁を進退させる構成となっているため、例えば差圧室の内部容積,アクチュエータの変位量,ニードル弁を閉弁方向に付勢するリターンスプリングのバネ力等のばらつきに起因して、製品間でニードル弁のリフト特性や噴射燃料の流量(燃料噴射量)に、ばらつきを生じ易いという問題があった。このため、各部材を極めて高精度に製造する必要があり、製造コストの大幅な上昇を招いていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、請求項1の発明は、燃料が満たされた差圧室に先端が臨んだピストンと、差圧室に臨んだ後面及びこの後面に作用する燃料圧に対向する燃料圧を受ける受圧面を有するニードル弁とを備え、アクチュエータでピストンを進退させることにより生じるニードル弁前後の差圧により、このニードル弁を進退させて燃料噴孔を開閉する差圧式燃料噴射弁において、上記差圧室のみに連通する密閉空間である調整室が設けられるとともに、この調整室内部の容積を変化させる容積調整手段を有することを特徴としている。
【0006】
容積調整手段によって調整室内部の容積を変化させることにより、この調整室が連通する差圧室の内部容積が調整される。このため、ピストンの進退に伴って発生するニードル弁前後の差圧が調整され、ひいてはニードル弁のリフト特性及び噴射燃料の流量を調整することができる。
【0007】
また、請求項2の発明では、上記差圧室は、ピストンの先端が臨んだ変圧室と、ニードル弁の後面が臨んだ背圧室と、これら変圧室と背圧室とを連通する連通路と、を有し、この連通路の途中に上記調整室が連通している。
【0008】
請求項3の発明では、上記容積調整手段は、一端部が調整室内に臨み、自身が進退されることにより調整室内の容積を増減するアジャストスクリュである。
【0009】
また請求項4の発明は、アジャストスクリュに、調整室内に臨んだ弾性体が取り付けられていることを特徴としている。
【0010】
【発明の効果】
本発明によれば、容積調整手段によって調整室内部の容積を変化させることにより、この調整室が連通する差圧室の内部容積を調整することができる。このため、ピストンの進退に伴って発生するニードル弁前後の差圧が調整され、ひいてはニードル弁のリフト特性及び噴射燃料の流量を簡単に調整することができる。この結果、製品間でニードル弁のリフト特性及び噴射燃料の流量を簡単に適正化することができる。
【0011】
また、容積調整手段による調整室の容積調整を、燃料を噴射させながら行うことにより、短時間で簡単かつ正確な調整が可能である。
【0012】
加えて請求項2の発明によれば、調整室が、差圧室の中で変圧室と背圧室とを連通する連通路に連通しているため、調整室の容積が変圧室や背圧室の圧力分布に与える悪影響が最小限に抑制され、例えば変圧室の圧力分布が不均一となることによって生じるピストンの傾動、ひいてはピストン摺動抵抗の増大やスティック現象の発生が効果的に抑制される。
【0013】
また、調整室の連通路がいわゆる絞り部として機能し、変圧室と背圧室との間で伝達される圧力脈動を効果的に低減することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、調整治具等を用いてアジャストスクリュを回動することにより、このアジャストスクリュを進退させて、調整室ひいては差圧室の内部容積を更に簡単に調整することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、弾性体が調整室内の燃料圧に応じて弾性変形することにより、調整室を含めた差圧室内に生じる圧力脈動を効果的に低減することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、この発明に係わる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、この発明の第1実施例に係わる燃料噴射弁を示す断面図である。この燃料噴射弁は、例えば筒内直接噴射式のガソリンエンジンのような内燃機関に好適に使用されるもので、ノズルホルダ10の先端部に螺合するノズルナット12によって、先端部に燃料噴孔14が貫通形成されたノズルボディ16が固定され、かつ、ノズルホルダ10の内部に差圧室18が隔成されている。なお、ノズルボディ16の外周に凹設された周方向溝には、ノズルホルダ10内部壁面との間をシールするOリング20が配設されている。
【0018】
差圧室18は、アクチュエータとしてのピエゾ素子21の伸縮に応じて軸方向に進退駆動されるピストン22の先端22aが臨んだ変圧室26と、ノズルボディ16の内部に摺動可能に収容されているニードル弁24の後面24aが臨んだ背圧室28と、変圧室26と背圧室28とを連通する連通路30と、を有している。
【0019】
そしてニードル弁24には、その後面24aに背圧室28内の燃料圧が作用するとともに、この燃料圧に対向する燃料圧がその前面側の傾斜する受圧面24bに作用する。このため、ピストン22の進退に応じて差圧室18内の容積及び内圧が変化し、これに伴ってニードル弁24前後に差圧が生じる。そして、この差圧によって、ニードル弁24を進退させて燃料噴孔14を開閉するように構成されている。
【0020】
なお、この実施例では、ニードル弁24が図1において最も左方向(閉弁方向)に移動すると、円錐状に形成されたニードル弁24の先端面24cが同じく円錐状に形成されたノズルボディ16のシート面に着座して燃料噴孔14を閉じるとともに、ニードル弁24が図1の右方向(開弁方向)に移動すると燃料噴孔14が開くように構成されている。
【0021】
詳述すると、ノズルホルダ10に穿設された燃料導入通路32を通って環状溝34に圧送されてくる燃料は、ノズルボディ16に形成された径方向孔16aを通って、ノズルボディ16の内部壁面とニードル弁24との間に隔成される燃料溜まり室36内に導入されるとともに、例えばニードル弁24の後部外周面とノズルボディ16の内周面との間の微少隙間を通って差圧室18内へ導入される。
【0022】
ここで、ニードル弁24は、受圧面24bが形成された後部が前部に比して大径に形成されているから、燃料溜まり室36内の高い燃料圧は、全体として受圧面24bを介して開弁方向に作用する。一方、ニードル弁24の後面24aには閉弁方向の高い燃料圧が作用する。この後面24aの受圧面積は受圧面24bの受圧面積よりも大きいので、両者の燃料圧が等しい状態では、ニードル弁24は閉状態に保たれる。
【0023】
また、ピエゾ素子21は、図外のコントロールユニットの制御により印加される電圧のオン,オフに応じて伸縮するもので、内燃機関が稼動している状態では、通常、図1に示すように所定の電圧が印加されて最も伸張した状態にある。このとき、ピストン22は差圧室18内の燃料圧に対向して最も前進した位置にあり、また、上述したように燃料噴孔14は閉じられている。
【0024】
この伸張状態でピエゾ素子21への電圧印加を一時的にオフにすると、図2(a)に示すようにピエゾ素子21が収縮し、これに伴ってピストン22が差圧室18内の燃料圧により後退方向に移動する。これにより差圧室18内の容積が増加し、図2(b)に示すように差圧室18の内圧が即座に低下する。この結果、上述したようにニードル弁24の前後で差圧が生じ、図2(c)に示すようにニードル弁24が若干の位相遅れを伴って開弁方向にリフトする。
【0025】
そして、再びピエゾ素子21に電圧を印加することにより、ピエゾ素子21が伸張してピストン22が前進し、差圧室18における内部容積が減少するとともに内圧が増加し、これに伴うニードル弁24前後の差圧によりニードル弁24が閉弁方向に移動する。
【0026】
ここで、変圧室26は、ピストン22のストロークに対する差圧室18内の容積変化が大きくなるように、少なくとも背圧室28より大径で、ピストン22と略同径に形成されている。なお、ピストン22の外周に凹設された周方向溝にはノズルホルダ10内周面との間をシールするOリング38が介装されている。また、変圧室26内部には、主にピストン22の後退方向への移動応答性を向上する目的で、ピストン22を常時後退方向に付勢する皿バネ40をピストン22の先端22aと変圧室26の壁面との間に介在させてある。
【0027】
また、背圧室28内には、ニードル弁24を常時閉弁方向に付勢するリターンスプリング42が配設されており、例えば内燃機関を停止した状態で燃料噴孔14が確実に閉じられようになっている。このリターンスプリング42に対応してニードル弁24の後面24a及びノズルホルダ10の内部底面が段付形状に凹設されている。更に、背圧室28内には、ノズルボディ16の端面とノズルホルダ10の壁面との間に介装されるディスタンスピース44が配設されており、このディスタンスピース44とニードル弁24の後面24aとの間にはニードル弁24のリフト量に対応する間隙が形成されている。
【0028】
連通路30は、差圧室18内の圧力分布が不均一とならないように、変圧室26の軸方向中心と背圧室28の軸方向中心とを連通している。また連通路30は、少なくとも変圧室26や背圧室28よりも小径な細い管状に形成されており、変圧室26と背圧室28との間で伝達される圧力脈動を低減する絞り部として機能している。
【0029】
そして、本実施例にあっては、連通路30の途中に連通する調整室50がノズルホルダ10の内部に形成されるとともに、この調整室50内の容積を調整する容積調整手段としてのアジャストスクリュ52の先端52aが調整室50に臨んでいる。すなわち、調整室50を含めた差圧室18内に燃料が満たされており、調整室50は差圧室18の一部を構成している。
【0030】
詳述すると、調整室50は、一端が連通路30の中央部に開口する小径部50aと、この小径部50aより大径に形成され、一端がノズルホルダ10の側面に開口する大径部50bと、小径部50aの他端と大径部50bの他端とを接続する円錐形状の接続部50cとにより構成されている。小径部50a及び大径部50bは連通路30と直交する方向に延びており、また大径部50bの開口部側の内周面には雌ネジ部50dが形成されている。
【0031】
アジャストスクリュ52は、その後端側外周面に雌ネジ部50dに螺合する雄ネジ部52bが形成されるとともに、ノズルホルダ10の外部に突出する後端面に調整用治具(図示省略)が係合する係合部52cが凹設されている。そして、係合部52cに嵌合する治具を介してアジャストスクリュ52を回動することにより、アジャストスクリュ52が軸方向に進退移動し、これに伴って調整室50ひいては差圧室18内の容積が増減する。
【0032】
なお、アジャストスクリュ52の先端側の平滑な外周面に凹設された周方向溝には、調整室50の大径部50bの平滑な内周面との間をシールするOリング54が介装されている。
【0033】
次に、本実施例の作用効果を説明する。
【0034】
差圧室18内の容積をV,差圧室18の容積変化量をΔV,燃料の体積弾性率をK,差圧室18内の圧力変化量をΔPとすると、次式が成立する。
【0035】
【数1】
ΔP=K・ΔV/V …(1)
つまり、差圧室18内の圧力変化量ΔPは、差圧室18内の容積Vに反比例し、差圧室18内の容積変化量ΔVに比例している。
【0036】
ここで、ニードル弁24のリフト特性及び噴射燃料の流量は、差圧室18内の圧力変化量ΔPに応じたニードル弁24前後の差圧に応じて変化することから、差圧室18内の容積V,差圧室18内の容積変化量ΔVに比例するピエゾ素子21の変位量,リターンスプリング42のバネ付勢力等のばらつきに起因して、製品間でばらつきを生じ易い。
【0037】
本実施例によれば、アジャストスクリュ52を介して調整室50内の容積を調整することによって、差圧室18内の容積Vを変化させ、これにより差圧室18内の圧力変化量ΔPを調整し、ひいてはニードル弁24のリフト特性及び噴射流量を調整することができる。従って、差圧室18内の容積V,ピエゾ素子21の変位量,リターンスプリング42の付勢力等のばらつきを相殺して、製品間におけるリフト特性ばらつきや噴射燃料の流量ばらつきを容易に修正することができる。
【0038】
図2及び図3において、破線は、実線の状態からアジャストスクリュ52を所定量だけ図1の上方向に後退させて、調整室50内の容積を増加させた状態を示している。この破線の状態では、図3に示すように噴射流量が実線の状態より所定量だけ小さくなっていることが分かる。つまり、調整室50内の容積を変化させることによって、噴射流量を比例的に変化させることができ、その調整作業が極めて容易である。
【0039】
更に、アジャストスクリュ52は、ノズルホルダ10の外部から操作可能であり、実際に燃料を噴射しながら調整することができるから、短時間で簡単かつ正確な流量調整が可能である。
【0040】
加えて、調整室50は、差圧室18の中で変圧室26と背圧室28とを連通する小径な連通路30に連通しているから、変圧室26や背圧室28の圧力分布に与える悪影響が最小限に抑制されている。この結果、変圧室26内の圧力分布が不均一となってピストン22が傾動し、これによりピストン22の摺動抵抗が増大してスティック現象を生じるような事態が効果的に回避される。
【0041】
図4は、本発明の第2実施例に係わる燃料噴射弁のアジャストスクリュ近傍の断面図で、この第2実施例は、アジャストスクリュ52の先端52aに、調整室50内に臨んだ弾性体56を固着してある点で、第1実施例と異なっている。そして、この弾性体56が調整室50内の燃料圧に応じて弾性変形することにより、調整室50を含めた差圧室内の圧力脈動を吸収し、この圧力脈動を効果的に低減することができる。
【0042】
図5は本発明の第3実施例に係わる燃料噴射弁のアジャストスクリュ近傍の断面図で、この第3実施例は、調整室50内に臨んだ弾性体58が、リング状に形成されるとともに、相対的に小径となったアジャストスクリュ52の先端部60外周に凹設された周方向溝60aに嵌合している点、及び調整室50の大径部50bがアジャストスクリュ52の先端部60の形状に応じて段付き形状に形成されている点で、第2実施例と異なっている。この第3実施例では、第2実施例と同様、弾性体58により調整室50を含めた差圧室内の脈動を吸収できることに加え、弾性体58を周方向溝60aに嵌合するだけでよいから、その取付作業が簡素化されるという実用的な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1実施例に係わる燃料噴射弁を示す断面図。
【図2】(a)がピエゾアクチュエータの変位を示す特性図、(b)が差圧室の内圧変化を示す特性図、(c)がニードル弁のリフト特性図。
【図3】噴射燃料の流量を示す特性図。
【図4】第2実施例に係わる燃料噴射弁のアジャストスクリュ近傍の断面図。
【図5】第3実施例に係わる燃料噴射弁のアジャストスクリュ近傍の断面図。
【符号の説明】
18…差圧室
21…ピエゾ素子(アクチュエータ)
22…ピストン
24…ニードル弁
24a…後面
24b…受圧面
26…変圧室
28…背圧室
30…連通路
50…調整室
52…アジャストスクリュ(容積調整手段)
Claims (4)
- 燃料が満たされた差圧室に先端が臨んだピストンと、差圧室に臨んだ後面及びこの後面に作用する燃料圧に対向する燃料圧を受ける受圧面を有するニードル弁とを備え、アクチュエータでピストンを進退させることよって生じるニードル弁前後の差圧により、このニードル弁を進退させて燃料噴孔を開閉する差圧式燃料噴射弁において、
上記差圧室のみに連通する密閉空間である調整室が設けられるとともに、この調整室内部の容積を変化させる容積調整手段を有することを特徴とする差圧式燃料噴射弁。 - 上記差圧室は、ピストンの先端が臨んだ変圧室と、ニードル弁の後面が臨んだ背圧室と、これら変圧室と背圧室とを連通する連通路と、を有し、この連通路の途中に上記調整室が連通していることを特徴とする請求項1に記載の差圧式燃料噴射弁。
- 上記容積調整手段が、一端部が調整室内に臨み、自身が進退されることにより調整室内の容積を増減するアジャストスクリュであることを特徴とする請求項1又は2に記載の差圧式燃料噴射弁。
- 上記アジャストスクリュに、上記調整室に臨んだ弾性体が取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の差圧式燃料噴射弁。
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