JP3789339B2 - ブラシレスdcモータの設計方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,ロータにマグネットを有するブラシレスDCモータに関する。さらに詳細には,コイルやマグネットによる磁束をなるべく有効にリラクタンストルクやマグネットトルクとして利用するようにしたブラシレスDCモータの設計方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ブラシレスDCモータの一般的な構造を図13に示す。この種のブラシレスDCモータは,ティース101が等配に設けられたステータ102と,マグネット103を有するロータ104とにより構成されている。ロータ104には,マグネット103を取り付けるための磁石取り付け穴105が設けられている。磁石取り付け穴105の外側の部分の磁性材をリブ106という。隣接するマグネット103間には,ロータ104の軸心部分とリブ106とを繋ぐブリッジ107が存在している。なお図13では,ステータ102の各ティース101に巻回されているコイルは省略されている。
【0003】
このようなブラシレスDCモータでは,各マグネット103の磁束の大部分がステータ102に鎖交する(図13中の「d軸」)。すなわちマグネットトルクに関与する。一方,ステータ102の励磁磁束の大部分は,ティース101を通ってロータ104に鎖交する(図13中の「q軸」)。すなわちリラクタンストルクに関与する。ここで,ロータ104のブリッジ107の幅をティース101の幅に合わせて設定することで,q軸の磁束の経路の断面積を確保できる。これにより,リラクタンストルクを最大限に利用できる。また,d軸の磁束の経路とq軸の磁束の経路とが,空隙付近のロータ104の磁性体に関しては分離されている。このため,両磁束が空隙にて干渉することが少ない。したがって,空隙の磁束分布に,トルク発生状況によって大きな不均一が生じることがない。このことは,トルク脈動やそれに起因する振動が小さくて済むことを意味する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,前記した従来のブラシレスDCモータには,次に説明する問題点があった。すなわち,この種のブラシレスDCモータでは,マグネット103の磁束やステータ102の励磁磁束のそれぞれの一部が不可避的に,ロータ104のリブ106を通って図13中の「d軸」の磁束が「q軸」へ,また「q軸」の磁束が「d軸」へと流れてしまう。これが磁束の漏れである。そして,これらの磁束漏れの程度は,常に同じな訳ではなく,ブラシレスDCモータの駆動状況等によりまちまちである。このため,マグネットトルクおよびリラクタンストルクの大きさ,またそれらの比率が一定せず,このことによるトルク脈動が存在する。図14は,マグネットトルクよりリラクタンストルクが優位な場合のトルクの波形である。図15は,マグネットトルクがリラクタンストルクより優位な場合のトルクの波形である。いずれも,コイル電流を一定に保って回転させた場合の電気角4分の1周期分を示している。どちらの場合も,マグネットトルクTmとリラクタンストルクTrとの高さが異なっているため,合成のモータトルクTtは繋ぎ領域にて変動している。これがトルク脈動の原因となるのである。
【0005】
本発明は,前記した従来のブラシレスDCモータが有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,マグネットトルクとリラクタンストルクとの双方を利用するブラシレスDCモータにおいて,漏れ磁束の変動による悪影響をなるべく小さくし,両トルクをバランスよく効果的に利用する設計方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この課題の解決を目的としてなされた本発明に係るブラシレスDCモータの設計方法では,磁石取り付け穴が設けられたロータと,複数のスロットが円周方向に等ピッチに配列されたステータと,前記磁石取り付け穴に取り付けられたマグネットとを有し,前記磁石取り付け穴が前記マグネットよりも円周方向に長いブラシレスDCモータについて,ロータのリブ部の径方向の幅Wrが前述の数1の式で与えられる値を超えないように設定る。
【0007】
このようにしたブラシレスDCモータでは,ロータのリブ部は,マグネットの磁束のうちステータに鎖交しない漏れ磁束φr1だけでその飽和磁束密度Bzに達している。このため,いかなる状況下においても漏れ磁束φr1はそれ以上ほとんど増加せず,ほぼ一定である。このため,漏れ磁束φr1の変動に伴うマグネットトルクの変動がごく軽微である。これにより,トルク脈動が軽減されている。このような設定は,総トルクに対するマグネットトルクの寄与が,総トルクに対するリラクタンストルクの寄与より大きいブラシレスDCモータに適用される。
【0008】
あるいは本発明に係るブラシレスDCモータの設計方法では,ロータのリブ部の径方向の幅Wrが前述の数2の式で与えられる値を超えないように設定してもよい。このようにしたブラシレスDCモータでは,ロータのリブ部は,ステータの励磁磁束のうちリブ部で漏れてしまいロータの軸心部に鎖交しない漏れ磁束φr2だけでその飽和磁束密度Bzに達する。このため,いかなる状況下においても漏れ磁束φr2はそれ以上ほとんど増加しない。このため,漏れ磁束φr2の変動に伴うリラクタンストルクの変動がごく軽微である。これにより,トルク脈動が軽減されている。このような設定は,総トルクに対するリラクタンストルクの寄与が,総トルクに対するマグネットトルクの寄与より大きいブラシレスDCモータに適用される。
【0009】
本発明に係るブラシレスDCモータの設計方法では好ましくは,ロータのリブ部の径方向の幅が,前述の数1の式で与えられる値と,前述の数2の式で与えられる値との小さい方を超えないように設定るとよりよい。このようにしたブラシレスDCモータでは,マグネットトルク,リラクタンストルクとも,変動がごく軽微である。これにより,トルク脈動がより効果的に軽減されている。
【0010】
また,本発明に係るブラシレスDCモータの設計方法では,Bz/BmおよびBz/Bbが1.8〜4.4の範囲内となるように設定する。このように設定したブラシレスDCモータでは,マグネットトルクやリラクタンストルクに関与する磁束により,ロータの磁性体がその飽和磁束密度Bzに至ることがない。すなわちロータの磁性体は,磁化曲線が直線的に変化する領域が使用されるのである。このため,磁気飽和によるエネルギーロスがない。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下,本発明のブラシレスDCモータを具体化した実施の形態について,添付図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態は,12スロットのステータと4極のロータとにより構成されるブラシレスDCモータについて本発明を具体化したものである。
【0012】
本実施の形態に係るブラシレスDCモータは,図1に示すような構造のものである。このブラシレスDCモータのステータ2は,円周方向に等ピッチに配列された12本のティース1を有している。一方,ロータ4は,4個のマグネット3を有している。各マグネット3は,ロータ4の外周に沿ったいわゆる順円弧形状のものである。ロータ4における各磁石取り付け穴5は,マグネット3よりも円周方向に長めに形成されている。各マグネット3は,各々の磁石取り付け穴5の円周方向中央に取り付けられているものとする。このため,各マグネット3の両端には隙間がある。各磁石取り付け穴5は,ロータ4の外周にごく近接して形成されている。このため,各磁石取り付け穴5の外側の磁性体は,ごく細い。この,各磁石取り付け穴5の外側の磁性体の部分をリブ6という。磁石取り付け穴5と磁石取り付け穴5との間には,ロータ4の中心部分とリブ6とを繋ぐブリッジ7が存在する。なお,図1においては,ステータ2のコイルを省略している。
【0013】
本実施の形態に係るブラシレスDCモータのロータ4における各部分の寸法の名称を,図2により説明する。まず,マグネット3の外周側における周方向の幅の半分を有効磁極幅Wmという。有効磁極幅Wmは,マグネット3の外周側における周方向中央から端までをリブ6に沿って円弧状に測った距離である。そして,リブ6のうち,マグネット3の一方の端から磁石取り付け穴5の端までの部分の内側の長さをリブ長Lrという。そして,ブリッジ7の周方向の幅をブリッジ幅Wbという。ブリッジ幅Wbは,隣り合う磁石取り付け穴5の間の最短の直線距離である。次に,ブリッジ7の径方向の長さをブリッジ長Lbという。ブリッジ長Lbは,磁石取り付け穴5の径方向の幅に等しい。そして,リブ6の径方向の幅をリブ幅Wrという。リブ6の幅が一定でない場合には,マグネット3より外側の範囲内で最も小幅な箇所の幅をリブ幅Wrとする。
【0014】
本実施の形態に係るブラシレスDCモータでは,リブ幅Wrが,次の2つの式をいずれも満たすように設定されている。すなわちリブ幅Wrは,(1)式の右辺で与えられる値と,(2)式の右辺で与えられる値とのいずれか小さい方の値を超えないように設定されている。
【0015】
【数5】
Figure 0003789339
R:マグネット3からステータ2へ向かう磁束に対するリブ6での漏れ磁束の比率
Q:ステータティース1からロータ4のブリッジ7を通る磁束に対するリブ6での漏れ磁束の比率
Bz:ロータ4の磁性材の飽和磁束密度
Bm:ロータ4のリブ6のd軸方向の磁束密度
Bb:駆動時におけるロータ4のブリッジ7の磁束密度
【0016】
リブ幅Wrについてこのような設定をしている理由は,次の点にある。すなわちリブ幅Wrは,ブラシレスDCモータが発生するトルクに大きく影響するのである。なぜなら,マグネット3の磁束はステータ2に鎖交することによりマグネットトルクを誘起するのであるが,その磁束の一部がリブ6で不可避的に漏れてしまうのである。よって,リブ6での漏れ磁束の多寡により,マグネットトルクの大きさが左右されるのである。そして,漏れ磁束の多寡は,リブ幅Wrにより大きく左右されるのである。同様のことがリラクタンストルクについても言える。すなわち,ステータ2の励磁磁束はロータ4のブリッジ7を通って軸心部に鎖交することによりリラクタンストルクを誘起するのであるが,その磁束の一部がリブ6で不可避的に漏れてしまうのである。よって,リブ6での漏れ磁束の多寡により,リラクタンストルクの大きさが左右されるのである。そして,漏れ磁束の多寡は,リブ幅Wrにより大きく左右されるのである。
【0017】
このうちのマグネット3からの磁束について,図3および図4によりさらに説明する。図3にロータ4の外周付近を直線展開して示すように,マグネット3の磁束の大部分は,エアギャップを経てステータ2に鎖交する。この磁束φmが,マグネットトルクに関与するのである。磁束φmによるリブ6の径方向の磁束密度がBmである。ここで,マグネット3の磁束の一部が,リブ6を通って,ステータ2に鎖交せず隣のマグネット3へ流れ込んでしまう。これはマグネットトルクに関与しないので,漏れ磁束φr1である。マグネット3の全磁束から漏れ磁束φr1を差し引いた残りが磁束φmである。漏れ磁束φr1によるリブ6の周方向の磁束密度がBr1である。なお図3(後出の図5も同様)では,リブ幅Wrを実際より太く描いている。
【0018】
磁束密度Bmは,図4のグラフに示すようにリブ幅Wrに左右される。漏れ磁束φr1がリブ幅Wrに左右されるからである。すなわち破線のカーブで示すように,リブ幅Wrが大きいと磁束密度Bmが小さい。したがってマグネットトルクが稼げない。リブ幅Wrが大きいと,リブ6の周方向の磁気抵抗が小さく,漏れ磁束φr1がその分多くなるからである。これに対し実線のカーブで示すように,リブ幅Wrが小さいと磁束密度Bmが大きい。したがって大きなマグネットトルクが得られる。リブ幅Wrが小さいと,リブ6の周方向の磁気抵抗が大きく,漏れ磁束φr1がその分少なくなるからである。なお,リブ長Lrが大きいことによっても,リブ幅Wrが小さいことと同様の効果がある。また,リブ長Lrが小さいことによっても,リブ幅Wrが大きいことと同様の効果がある。なお図4中の横軸θxは,ロータ4における位相角である。
【0019】
次に,ステータ2からロータ4に鎖交する磁束について,図5によりさらに説明する。図5にロータ4の外周付近を直線展開して示すように,ステータ2からエアギャップを経てロータ4に鎖交する磁束の大部分は,ブリッジ7を通って軸心部に流れ込む。この磁束φbが,リラクタンストルクに関与するのである。磁束φbによるブリッジ7の径方向の磁束密度がBbである。ここで,ステータ2からロータ4に進入した磁束の一部が,リブ6を通って,ブリッジ7に鎖交せずステータ2へ戻ってしまう。これはリラクタンストルクに関与しないので,漏れ磁束φr2である。ステータ2からロータ4に進入した全磁束から漏れ磁束φr2を差し引いた残りが磁束φbである。漏れ磁束φr2によるリブ6の周方向の磁束密度がBr2である。
【0020】
磁束密度Bbについても先述の磁束密度Bmと同様に,リブ幅Wrやリブ長Lrに左右される。漏れ磁束φr2がリブ幅Wrやリブ長Lrに左右されるからである。すなわち,リブ幅Wrが大きい(リブ長Lrが小さい)と磁束密度Bbが小さい。したがってリラクタンストルクが稼げない。これに対し,リブ幅Wrが小さい(リブ長Lrが大きい)と磁束密度Bbが大きい。したがって大きなリラクタンストルクが得られる。
【0021】
次に,マグネットトルクとリラクタンストルクとの合計であるモータトルクについて考察する。ここで,ステータに施された三相巻線のインダクタンスを固定座標から回転座標に変換した等価な二相機を考える。するとそのモータトルクTtは,一般的に次式で表される。
【0022】
【数6】
Figure 0003789339
P:極対数
φmMAX:φmの最大値
Id(d軸電流):ロータ4の磁極中心(マグネット3の周方向の中央)に対面しているティース1のコイルの励磁電流
Iq(q軸電流):ロータ4の磁極間(すなわちブリッジ7)に対面しているティース1のコイルの励磁電流
Ld:ロータ4の磁極中心に対面しているティース1のコイルのインダクタンス
Lq:ロータ4の磁極間に対面しているティース1のコイルのインダクタンス
【0023】
数6の式では,第1項がマグネットトルクに相当し,第2項がリラクタンストルクに相当する。これより,リラクタンストルクは,LdとLqとの差の大きさに比例することがわかる。なお,数6の式において,(Ld−Lq)が負であったとしても,Idが負でありかつIqが正であれば第1項と第2項との符号が一致する。よって,両トルクが増長し合うこととなる。ここで,ステータのコイルのインダクタンスはコイルに鎖交する磁束の量の時間変化に比例する。よって,漏れ磁束が少なければコイルに鎖交する磁束の量が相対的に多くなり,リラクタンストルクが大きいこととなる。
【0024】
このようなLdとLqとの差の大きさについて,リブ幅Wr(もしくはリブ長Lr)とロータ4の回転角θxとにより図6のグラフのように示される。図6は,インダクタンスの大きさを表す図として縦軸を絶対値で示している。このグラフから,|Ld−Lq|がリブ幅Wrに左右されることがわかる。すなわち破線のカーブで示すように,リブ幅Wrが大きいと|Ld−Lq|が小さい。したがってリラクタンストルクが稼げない。これに対し実線のカーブで示すように,リブ幅Wrが小さいと|Ld−Lq|が大きい。したがって大きなリラクタンストルクが得られる。なお,リブ長Lrが大きいことによっても,リブ幅Wrが小さいことと同様の効果がある。また,リブ長Lrが小さいことによっても,リブ幅Wrが大きいことと同様の効果がある。なお図6のグラフ中のH1は,リブ幅Wrが小さい場合の|Ld−Lq|の平均値である。H2は,リブ幅Wrが大きい場合の|Ld−Lq|の平均値である。
【0025】
上記を総合すれば以下のようになる。すなわち,ステータ2の任意のティース1から見て,ロータ4の磁気抵抗が低い状態であれば,そのティース1からロータ4への鎖交磁束が多いことはもちろんである。しかしながら,漏れ磁束φr2が多いと,ロータ4の回転角にかかわらず,ティース1からロータ4への鎖交磁束があまり変わらないことになる。これは,ティース1からロータ4への鎖交磁束が最も大きい位置に移動しようとするロータ4のトルク,すなわちリラクタンストルクが小さいことを意味するのである。このために,漏れ磁束φr2の多寡がリラクタンストルクの大きさに影響するのである。
【0026】
続いて,リブ幅Wrが満たすべき条件について説明する。リブ幅Wrは,リブ6が漏れ磁束φr1,φr2によってその飽和磁束密度に達するかもしくはこれを超える程度に小さいとよいのである。なぜなら,リブ幅Wrが前述したように小さければ,リブ6の周方向の磁気抵抗が非常に大きく,漏れ磁束φr1,φr2が抑制されるからである。また,いかなる状況下においても漏れ磁束φr1,φr2の大きさがあまり変わらないことになるからである。
【0027】
まず,マグネット3の磁束に基づく条件について考察する。リブ6の径方向(d軸方向)の磁束密度Bmは,マグネット3からエアギャップを経てステータ2に鎖交しマグネットトルクに関与する磁束φmと,有効磁極幅Wmと,ロータ4の厚み(積厚)Lhとを用いて,次式のように表される。
【0028】
【数7】
Figure 0003789339
【0029】
また,リブ6の周方向の磁束密度Br1は,マグネット3の磁束のうちのリブ6による漏れ磁束φr1と,リブ幅Wrと,厚み(積厚)Lhとを用いて,次式のように表される。
【0030】
【数8】
Figure 0003789339
【0031】
ここで,マグネットトルクに関与する磁束φmに対する漏れ磁束φr1の比率(φr1/φm)をRで表すこととする。このRを用いると,数8の式は,次のように表される。
【0032】
【数9】
Figure 0003789339
【0033】
一方,リブ6が漏れ磁束φr1によってその飽和磁束密度Bz以上に達するための条件は,d軸方向の磁束密度Bmと飽和磁束密度Bzとの比Bz/Bmを用いて,次式のように表される。
【0034】
【数10】
Figure 0003789339
【0035】
これに数7の式および数9の式を代入すると,次式が得られる。
【0036】
【数11】
Figure 0003789339
【0037】
これをリブ幅Wrについて解くことにより,次式が得られる。
【0038】
【数12】
Figure 0003789339
【0039】
ここでリブ6の磁気抵抗を考える。漏れ磁束φr1に対するリブ6の磁気抵抗は,リブ長Lrに比例し,リブ幅Wrに反比例する。このことを考慮すると数12の式は結局,次式のようになる。
【0040】
【数13】
Figure 0003789339
【0041】
したがって最終的には,数13の式の両辺にWrをかけて平方根を取ることにより,前出の数5の(1)式が得られるのである。このため,リブ幅Wrは,数5の(1)式の右辺で与えられる値以下でなければならないのである。
【0042】
次に,ステータ2からロータ4に鎖交する磁束に基づく条件について考察する。ブリッジ7の径方向(q軸方向)の磁束密度Bbは,ステータ2からロータ4の軸心部に鎖交する磁束φbと,ブリッジ幅Wbと,ロータ4の積み厚Lhとを用いて,次式のように表される。
【0043】
【数14】
Figure 0003789339
【0044】
また,リブ6の周方向の磁束密度Br2は,ステータ2の磁束のうちのリブ6による漏れ磁束φr2と,リブ幅Wrと,積み厚Lhとを用いて,次式のように表される。
【0045】
【数15】
Figure 0003789339
【0046】
ここで,リラクタンストルクに関与する磁束φbに対する漏れ磁束φr2の比率(φr2/φb)をQで表すこととする。このQを用いると,数15の式は,次のように表される。
【0047】
【数16】
Figure 0003789339
【0048】
一方,リブ6が漏れ磁束φr2によってその飽和磁束密度Bz以上に達するための条件は,q軸方向の磁束密度Bbと飽和磁束密度Bzとの比Bz/Bbを用いて,次式のように表される。
【0049】
【数17】
Figure 0003789339
【0050】
これに数14の式および数16の式を代入すると,次式が得られる。
【0051】
【数18】
Figure 0003789339
【0052】
これをリブ幅Wrについて解くことにより,次式が得られる。
【0053】
【数19】
Figure 0003789339
【0054】
ここでリブ6の磁気抵抗を考える。漏れ磁束φr2は,リブ6のうちマグネット3とブリッジ7との間の部分(長さLr)だけでなく,マグネット3に接している部分(長さWm)をも通る。よって,漏れ磁束φr2に対するリブ6の磁気抵抗は,リブ長と有効磁極幅との和(Lr+Wm)に比例し,リブ幅Wrに反比例する。このことを考慮すると結局,前出の数5の(2)式が得られるのである。このため,リブ幅Wrは,前出の数5の(2)式の右辺で与えられる値以下でなければならないのである。
【0055】
上記より,マグネットトルクの磁束とリラクタンストルクの磁束との双方を考慮すると,リブ幅Wrは,数5の(1)式の右辺で与えられる値と,数5の(2)式の右辺で与えられる値とのいずれか小さい方の値以下でなければならないのである。このために本実施の形態のブラシレスDCモータでは,リブ幅Wrについて前述のような設定をしたのである。したがって本実施の形態のブラシレスDCモータでは,漏れ磁束φr1,φr2自体非常に小さく,かつ,その変動がほとんどない。なお,式中に使用した「R」および「Q」は,モータ設計時に設定できるパラメータである。
【0056】
ここで,数5の各式中のBz/Bm,Bz/Bbについて説明する。このためまず,この種のモータの鉄心に用いられる代表的な磁性材である珪素鋼板の磁化特性を説明する。ここでは,サンプルE:50A10000(JIS),サンプルF:50A400(JIS),サンプルG:35A230(JIS),サンプルH:6.5%Si珪素鋼板の4種類のサンプルについて説明する。図7の磁化曲線のグラフに示すように,これらの珪素鋼板の一般的な使用領域での飽和磁束密度Bzは,1.8〜2.2テスラの範囲内にある。
【0057】
そして,前述のd軸方向の磁束密度Bmやq軸方向の磁束密度Bbがあまりに飽和磁束密度Bzに近いと,エネルギー損失が多いことを意味する。磁化力に対して磁束密度Bm,Bbがさほど上がらないからである。このため,ブラシレスDCモータの回転状況如何にかかわらず磁束密度Bm,Bbが飽和磁束密度Bzに近づかないように設定すべきである。そのためには,磁束密度Bm,Bbの設定値は,1テスラ以下とすべきである。一方,磁束密度Bm,Bbの設定値があまりに小さいと,モータの性能が十分には得られない。よって,磁束密度Bm,Bbの設定値は,0.5〜1.0テスラの範囲内とする。これより,Bz/Bm,Bz/Bbが取るべき範囲は,1.8〜4.4となる。
【0058】
本実施の形態のブラシレスDCモータでは,そのトルクの波形は図8に示されるものとなる。このグラフは,有効励磁極開角が励磁極ピッチとほぼ等しく設定されている場合のものであり,電気角4分の1周期分を示している。マグネットトルクTmは,おおむね,有効励磁極開角に等しい区間において発生する。リラクタンストルクTrは,ロータ4のマグネット3がステータ2の有効励磁ティース1に整列する前後において発生する。よってリラクタンストルクTrは,マグネットトルクTmに対して電気角で90°位相が進んだ状態で2倍の周期を有している。そのため,マグネットトルクTmとリラクタンストルクTrとは相互に補完しあう。
【0059】
そして,ロータ4のリブ幅Wrが前述のように設定されているので,マグネットトルクTm,リラクタンストルクTrとも,漏れ磁束φr1,φr2の影響により変動することがほとんどない。このため,両トルクのピーク値が同じであれば総合のモータトルクTtはほぼ一定である。そして,120°通電の三相モータを考えた場合,モータトルクTtは,6つの通電パターンに対して60°の有効区間があればよい。したがって,通電の切り換えが,モータトルクTtが一定であるタイミングで行われれば,三相モータとしてのモータトルクは,脈動がほとんどない極めて滑らかなものとなる。
【0060】
なお,ブラシレスDCモータによっては,モータトルクTtに対してマグネットトルクTmが支配的であるものもある(図9参照)。このようなブラシレスDCモータの場合には,数5の(1)式のみ考慮することとしてもよい。すなわちその場合のリブ幅Wrは,数5の(1)式の右辺で与えられる値以下であればよい。あるいはブラシレスDCモータによっては,モータトルクTtに対してリラクタンストルクTrが支配的であるものもある(図10参照)。このようなブラシレスDCモータの場合には,数5の(2)式のみ考慮することとしてもよい。すなわちその場合のリブ幅Wrは,数5の(2)式の右辺で与えられる値以下であればよい。ここで,マグネットトルクTmあるいはリラクタンストルクTrが支配的であるとは,次のようなことをいう。すなわち,図8〜図10のようなグラフにおいて,マグネットトルクTmの積分強度がリラクタンストルクTrの積分強度より大きい場合に,マグネットトルクTmが支配的であるという。逆の場合には,リラクタンストルクTrが支配的であるという。
【0061】
なお,ブラシレスDCモータによっては,ロータ4のマグネット3が,磁石取り付け穴5の周方向中央ではなく片寄って取り付けられている場合がある。そのような磁極についての有効磁極幅Wmは,次のように定義すればよい。厳密に考えれば,そのマグネット3からのd軸磁束が,両隣のマグネットのいずれへ鎖交するかによる。すなわち,右隣のマグネットへ鎖交する磁束と左隣のマグネットへ鎖交する磁束との境界から端部までとするべきである。しかし,図11に示すように図中左寄りに片寄ったマグネット3の場合,鎖交する磁束は,磁気経路的に低抵抗である左隣へ多く流れようとする。しかしながら,隣接する磁極のマグネットの配置は相対的に逆の配置構成となるため,磁極対とした場合,磁束量はほとんど変わらないこととなる。よって,磁石取り付け穴5の周方向中央をもってその磁極の有効磁極幅Wmの境界と定めてもかまわない。
【0062】
次に,図12に示すように,直線状のマグネット13を有するブラシレスDCモータの場合を説明する。このような形状のロータ14の場合でも,ブリッジWbやブリッジ長Lbについては前述のものと同様に考えてよい。リブ長Lrおよびリブ幅Wrについては,磁石取り付け穴15の磁性体のうち最も小幅な部分をリブ16とし,その長さおよび幅とすればよい。有効磁極幅Wmは,マグネット13そのものの中央から端までではなく,磁気抵抗を考慮した値に置き換える必要がある。具体的には,数5の(1)式中のWmについては,マグネット13の中央からリブ16との境までの長さとする。マグネット13の磁束(d軸)が,マグネット13の外側の幅広の磁性体領域18で周方向に広がってステータに向かうからである。数5の(2)式中のWmについては,磁性体領域18の周方向の磁気抵抗と同じ磁気抵抗を,リブ幅Wrと同じ幅で実現する長さとする。これはかなり短く,磁性体領域18の径方向の幅がリブ幅Wrよりかなり広い場合には,無視してリブ長Lrのみで考えてもよい。
【0063】
以上詳細に説明したように本実施の形態に係るブラシレスDCモータでは,マグネット3の外周側のリブ6の幅Wrを,数5の(1)式の右辺で与えられる値以下としている。また,数5の(2)式の右辺で与えられる値以下としている。このためリブ6は,マグネット3の磁束中の漏れ成分φr1によっても,あるいはステータ2からロータ4に鎖交する磁束中の漏れ成分φr2によっても,容易にその飽和磁束密度Bzに達してしまう。よって,いかなる回転状況下でも漏れ磁束にほとんど変動がない。したがって,マグネットトルクやリラクタンストルクが,漏れ磁束の変動による影響を受けることがない。かくして,総合のモータトルクに,漏れ磁束の変動によるトルクの脈動がほとんど生じないブラシレスDCモータの設計方法が実現されている。これにより,両トルクをバランスよく利用できるのである。
【0064】
このことは特に,希土類系等の強力なマグネットを使用するブラシレスDCモータの場合に意義が大きい。そのようなモータでは,マグネットの起磁力が大きい分,漏れ磁束φr1の変動幅も大きくなりがちだからである。本実施の形態のように構成することにより,そのようなマグネットを使用する場合でも,漏れ磁束φr1の変動による影響を最小限に抑えられるのである。
【0065】
本実施の形態のブラシレスDCモータではまた,Bz/BmおよびBz/Bbを,1.8〜4.4の範囲内に設定している。このため,d軸方向の磁束密度Bmやq軸方向の磁束密度Bbが,飽和磁束密度Bzにあまり近づくことがない。このため,ロータ4の磁性材の磁気飽和によるエネルギーロスが少ないブラシレスDCモータの設計方法が実現されている。
【0066】
また,本実施の形態のブラシレスDCモータでは,マグネットトルクの磁気経路(d軸)とリラクタンストルクの磁気経路(q軸)とが,エアギャップ付近では別々となっている。このことと,前述の漏れ磁束の少なさとが相まって,両トルクとも低下が少ない。また,両磁束の経路が分離されていることは,マグネットトルクの高調波をも抑制している。リラクタンストルクの磁束によるマグネットトルクの磁束の偏向が少ないからである。これにより,音や振動の発生も防止されている。
【0067】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,ロータの磁極数やマグネットの形状,ステータのティース数等は,例示したものに限らない。また,本実施の形態では,ロータがステータの内部に位置する形式のモータを示したが,ロータがステータの外側に位置する形式のモータにも適用可能である。その場合には,ステータコイルの励磁により発生しリラクタンストルクを担う磁束は,ブリッジを経由してマグネットの外側へ出ることになる。
【0068】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明によれば,マグネットトルクとリラクタンストルクとの双方を利用するブラシレスDCモータにおいて,漏れ磁束による悪影響をなるべく小さくし,両トルクをバランスよく効果的に利用するようにした設計方法が提供されている。また,磁気飽和によるエネルギーロスも低減されている。なお,本発明のリラクタンストルク利用のブラシレスDCモータは,特に,車両の電動パワーステアリング装置の駆動用モータに使用した場合に大きな利点が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態に係るブラシレスDCモータの概略構成図である。
【図2】図1中のロータを示す図である。
【図3】ロータのマグネットの磁束の流れを示す直線展開図である。
【図4】マグネットトルクに関与する磁束の磁束密度を示すグラフである。
【図5】ステータからロータに鎖交する磁束の流れを示す直線展開図である。
【図6】インダクタンスLqとインダクタンスLdとの差を示すグラフである。
【図7】代表的な磁性材の磁化曲線を示すグラフである。
【図8】実施の形態に係るブラシレスDCモータのトルクを示すグラフである。
【図9】マグネットトルクが支配的なブラシレスDCモータのトルクを示すグラフである。
【図10】リラクタンストルクが支配的なブラシレスDCモータのトルクを示すグラフである。
【図11】マグネットが片寄って取り付けられているロータを示す図である。
【図12】直線状のマグネットを有するロータを示す図である。
【図13】一般的なブラシレスDCモータの構成図である。
【図14】従来のブラシレスDCモータ(リラクタンストルク優位)のトルクを示すグラフである。
【図15】従来のブラシレスDCモータ(マグネットトルク優位)のトルクを示すグラフである。
【符号の説明】
2 ステータ
3 マグネット
4 ロータ
6 リブ
7 ブリッジ

Claims (3)

  1. 磁石取り付け穴が設けられたロータと,複数のスロットが円周方向に等ピッチに配列されたステータと,前記磁石取り付け穴に取り付けられたマグネットとを有し,前記磁石取り付け穴が前記マグネットよりも円周方向に長く,総トルクに対するマグネットトルクの寄与が,総トルクに対するリラクタンストルクの寄与より大きいブラシレスDCモータの設計方法において,
    Bz:ロータの磁性材の飽和磁束密度およびBm:ロータのリブ部のd軸方向の磁束密度についてBz/Bm1.8〜4.4の範囲内に設定し,
    ロータのリブ部の径方向の幅
    Figure 0003789339
    R:マグネットからステータへ向かう磁束に対するリブ部での漏れ磁束の比率
    Wm:有効磁極幅(周方向)
    Lr:リブ部の周方向の長さ
    で与えられる値を超えないように設定することを特徴とするブラシレスDCモータの設計方法
  2. 磁石取り付け穴が設けられたロータと,複数のスロットが円周方向に等ピッチに配列されたステータと,前記磁石取り付け穴に取り付けられたマグネットとを有し,前記磁石取り付け穴が前記マグネットよりも円周方向に長く,総トルクに対するリラクタンストルクの寄与が,総トルクに対するマグネットトルクの寄与より大きいブラシレスDCモータの設計方法において,
    Bz:ロータの磁性材の飽和磁束密度およびBb:駆動時におけるロータのブリッジの磁束密度についてBz/Bb1.8〜4.4の範囲内に設定し,
    ロータのリブ部の径方向の幅
    Figure 0003789339
    Q:ステータティースからロータのブリッジを通る磁束に対するリブ部での漏れ磁束の比率
    Wb:ロータのブリッジの周方向の幅
    Wm:有効磁極幅(周方向)
    Lr:リブ部の周方向の長さ
    Lb:ブリッジの径方向の長さ
    で与えられる値を超えないように設定することを特徴とするブラシレスDCモータの設計方法
  3. 磁石取り付け穴が設けられたロータと,複数のスロットが円周方向に等ピッチに配列されたステータと,前記磁石取り付け穴に取り付けられたマグネットとを有し,前記磁石取り付け穴が前記マグネットよりも円周方向に長いブラシレスDCモータの設計方法において,
    Bz:ロータの磁性材の飽和磁束密度Bm:ロータのリブ部のd軸方向の磁束密度,およびBb:駆動時におけるロータのブリッジの磁束密度についてBz/BmおよびBz/Bb1.8〜4.4の範囲内に設定し,
    ロータのリブ部の径方向の幅
    Figure 0003789339
    R:マグネットからステータへ向かう磁束に対するリブ部での漏れ磁束の比率
    Wm:有効磁極幅(周方向)
    Lr:リブ部の周方向の長さ
    で与えられる値と,
    Figure 0003789339
    Q:ステータティースからロータのブリッジを通る磁束に対するリブ部での漏れ磁束の比率
    Wb:ロータのブリッジの周方向の幅
    Lb:ブリッジの径方向の長さ
    で与えられる値との小さい方を超えないように設定することを特徴とするブラシレスDCモータの設計方法
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