JP3775516B2 - 有限要素法解析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は異質材質からなる積層構造の有限要素法解析を行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から繊維強化プラスチック(以下、FRPと略称する)複合材圧力容器の詳細な構造解析は、固体要素または軸対称固体要素を用いた有限要素法(以下、FEMと略称する)で行われている(「円筒形軽量容器の開発について」、竹花立美、高圧ガス保安協会液化石油ガス研究所研究発表会要旨集、1988、参照)。
【0003】
そして、この方法により構造解析を行った結果、試作品試験結果と上記方法による解析結果との相関が極めて良い一致を示すことが確認されたことが記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の方法では、固体要素でFRP複合材圧力容器をモデル化することになるので、圧力容器の最も内層である金属ライナー、圧力容器の長さ方向の補強を達成するための繊維配向角±αのヘリカル巻き層、および圧力容器の周方向の補強を達成するためのフープ巻き層を、層ごとにそれぞれメッシュ分割しなければならない。なお、ここで、ヘリカル巻き層およびフープ巻き層がFRPからなる層である。
【0005】
また、FRP複合材圧力容器は肉薄の殻構造であるから、満足のいく解析結果を得ようとすれば、固体要素のアスペクト比を十分に考慮した上、構造を細かくメッシュ分割しなければならなくなる。
したがって、固体要素でFRP複合材圧力容器をモデル化した場合には、図9に軸対称固体要素を用いたFRP複合材圧力容器のFEMメッシュ分割図を示すように、モデル化が複雑化するとともに、モデル全体の要素数と節点数とが非常に多くなってしまう。また、材料異方性を持つFRP複合材は、圧力容器のドーム部分(内径、外径が一様でない部分)では、繊維配向角αが一定でないから、各点において材料定数が変化し、ドーム部分を覆うFRPヘリカル巻き層を表す固体要素については要素ごとにその材料特性の指定を行わなければならない。これは、要素数が多い場合には大変な作業になってしまう。さらに、要素数、節点数が多くなれば、FEM解析を行うために必要なメモリの容量および所要時間が大幅に増加してしまうことになる。
【0006】
このような点を考慮して、FRP複合材圧力容器をシェル要素でモデル化することが考えられる。
しかし、この場合には、図10に示すように、圧力容器の各層(図10の場合には、金属ライナー層を1つの層として示しているとともに、ヘリカル巻き層およびフープ巻き層を他の層として示しているが、ヘリカル巻き層とフープ巻き層とをそれぞれ層として取扱ってもよい)をシェル要素で表現し(図10においては、金属ライナー層に対応する節点がn1,n2,n3,n4、ヘリカル巻き層とフープ巻き層とからなる層に対応する節点がn11,n12,n13,n14で示されている)、圧力容器の肉厚方向におけるシェル要素の節点どうしを剛体梁要素(図10においては、太い実線で示されている)で結んで、古典シェル理論の肉厚方向に歪みが零であるという仮定を現実化することが必要である。したがって、要素数と節点数とが層の数に比例して増加し、FEM解析を行うために必要なメモリの容量および所要時間が大幅に増加してしまうことになる。また、節点間に剛体梁要素を作成する作業が必要になり、作業が複雑化してしまう。
【0007】
上述の不都合は、解析対象が圧力容器以外のものであっても、異質材質からなる積層構造であれば、同様に発生する。
【0008】
【発明の目的】
この発明は上記の目的に鑑みてなされたものであり、要素数および節点数を大幅に低減するとともに、剛体梁要素を作成するというような作業を不要にして作業を簡単化することができる、異質材質からなる積層構造の有限要素法解析方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1の有限要素法解析方法は、異質材質からなる積層構造のモデルを、第1のシェル要素の節点と、該第1のシェル要素の特性および材料物性の定義と、第2のシェル要素の前記第1のシェル要素の節点に対するオフセット距離と、前記該第2のシェル要素の特性および材料物性の定義としてメモリに記憶し、有限要素法解析を行う手段が、前記第1のシェル要素の節点と前記オフセット距離から前記第2のシェル要素の節点を算出するとともに、前記第1のシェル要素および第2のシェル要素の節点と、前記第1のシェル要素および第2のシェル要素の特性および材料物性の定義に基づく有限要素法解析を行う方法である。
【0011】
【作用】
請求項1の有限要素法解析方法であれば、異質材質からなる積層構造のモデルを、第1のシェル要素の節点と、該第1のシェル要素の特性および材料物性の定義と、第2のシェル要素の前記第1のシェル要素の節点に対するオフセット距離と、前記該第2のシェル要素の特性および材料物性の定義としてメモリに記憶し、有限要素法解析を行う手段が、前記第1のシェル要素の節点と前記オフセット距離から前記第2のシェル要素の節点を算出するとともに、前記第1のシェル要素および第2のシェル要素の節点と、前記第1のシェル要素および第2のシェル要素の特性および材料物性の定義に基づく有限要素法解析を行うのであるから、層の数が増加した場合であっても、要素数および節点数の増加を大幅に抑制することができ、しかも、剛体梁要素を作成することなく単にオフセット距離を設定するだけで、古典シェル理論の肉厚方向に歪が零であるという仮定を実現でき、しかも、有限要素法解析を達成することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面によってこの発明の実施の態様を詳細に説明する。
図1は、この発明の、異質材質からなる積層構造の有限要素法解析のためのモデル化方法の一実施態様を説明するフローチャートである。なお、このフローチャートは、FEM解析対象として、図2にFRP複合材圧力容器の一部を断面図として示すように、アルミニウムなどの金属からなる金属ライナー層1と、FRPの繊維配向角を±α(ここで、0°<α<90°)に設定したヘリカル巻き層2と、FRPからなるフープ巻き層3とをこの順に積層してなるものを採用した場合について説明している。ただし、異質材質からなる積層構造であれば、これ以外の構造であっても同様に適用可能であることはもちろんである。なお、図3は、図2にその一部を示すFRP複合材圧力容器の全体を示す縦断面図、図4はこのFRP複合材圧力容器の製造工程を示す概略図である。このFRP複合材圧力容器は、中央部の内径を大きく設定し、両端部を絞り込んで内径を小さく設定した金属ライナー層1の外表面のほぼ全範囲に、ヘリカル巻き層2を設け{図4中(A)参照}、さらに、ヘリカル巻き層2の外表面の中央部(内径を大きく設定した部分)にフープ巻き層3を設け{図4中(B)(C)参照}、さらに、両端の絞り込み部に口金4を設けてなる。
【0014】
ステップSP1において金属ライナー層1の肉厚の中心で節点を定義し、ステップSP2において金属ライナー層1を表すシェル要素を定義する。ここで、金属ライナー層1を表すシェル要素の定義は従来公知であり、例えば、シェル要素として三角形、四角形などの平面要素、または曲面要素を採用し、金属を表すシェル要素の特性の定義、金属の材料物性(等方性弾塑性体)の定義を行うことにより達成される。
【0015】
次いで、ステップSP3において、金属ライナー層1の肉厚方向の中心と、FRP層(ヘリカル巻き層2およびフープ巻き層3)の肉厚方向の中心との間の距離をオフセット距離として算出し、ステップSP4においてオフセット距離を用いてFRP層を表すシェル要素を定義する。ここで、FRP層を表すシェル要素の定義は従来公知であり、例えば、FRPを表すシェル要素の特性の定義、FRPラミナ(ヘリカル巻き層2、フープ巻き層3を構成するために用いられる薄板状のFRP)の材料物性(直交異方性弾性体)の定義を行うことにより達成される。さらに説明すると、ラミナ(一方向繊維強化材)をいろいろな角度(繊維配向角)に幾重にも積み重ねたFRP積層板を表すシェル要素の要素特性と材料特性は、個々のラミナの材料主軸座標系(繊維方向および繊維に垂直方向に沿って定義された座標系)における直交異方性材料特性、繊維配向角、および各ラミナの厚さに基づいて定義される。具体的には、FRP積層板を表すシェル要素の膜、曲げ、横せん断および膜−曲げ連成挙動用材料特性を計算する。
【0016】
図5は図1のフローチャートに基づくモデル化を概略的に説明する図である。
先ず、金属ライナー層1の肉厚方向の中心で節点(図5中、n1,n2,n3,n4参照)を定義し、これらの節点で規定されるシェル要素を定義する。これにより、金属ライナー層1のモデル化が達成できる。
次いで、金属ライナー層1のシェル要素の節点で定まる平面からの距離をオフセット距離に設定することによってFRP層を表すシェル要素を定義する。これにより、FRP層のモデル化が達成できるとともに、両シェル要素間において古典シェル理論の肉厚方向に歪みが零であるという仮定を実現することができる。
【0017】
図6は図2に示す構成のFRP複合材圧力容器の胴部中間点から付属品取り付け部中心までの10°のセクタを用いた金属ライナー層1のメッシュ分割を示す図である。図6と図9とを比較すれば、シェル要素を用いてモデル化を行うことにより、FEM解析精度を低下させることなく、要素数を著しく減少できることが分かる。
【0018】
また、金属ライナー層1をモデル化するに当っては節点の設定およびシェル要素の設定が必要であるが、FRP層をモデル化するに当っては節点の設定が不要であり、しかも剛体梁要素の作成も不要であるから、全体として要素数、節点数の増加を大幅に抑制することができるとともに、要素作成作業を大幅に簡単化することができる。
【0019】
さらに、材料異方性を持つFRP層を表すシェル要素の材料特性の設定を簡単化することができるとともに、FEM解析に必要な計算時間を大幅に短縮することができる。また、固体要素を用いてモデル化した場合と同様に高精度の解析結果を得ることができる。
なお、以上のようにしてモデル化が行われた後におけるFEM解析に関しては、オフセット距離を用いてFRP層のシェル要素を算出する他は従来公知(例えば、節点変位を示すマトリクスを定義するとともに、節点力を示すマトリクスを定義し、これらのマトリクスと任意に与えられる外力とに基づいて各シェル要素の曲げによる変形と面内力による変形とを算出する)であるから、詳細な説明を省略する。
【0020】
以上の実施態様においては、ヘリカル巻き層2とフープ巻き層3とを総合してFRP層とし、このFRP層に対応するシェル要素を用いてモデル化を行う場合について説明したが、ヘリカル巻き層2とフープ巻き層3とをそれぞれオフセット距離を用いてモデル化してもよいことはもちろんである。また、オフセット距離の基準となる面を金属ライナー層1の節点で定まる平面に設定する代わりに、任意の面(例えば、金属ライナー層1とFRP層との境界面)に設定し、この面を基準として金属ライナー層1のシェル要素のオフセット距離、FRP層のシェル要素のオフセット距離をそれぞれ設定してもよい。もちろん、金属とFRP以外の材料からなる積層構造にも適用することが可能である。
【0021】
【実施例】
図7に示す、酸化ベリリウムと銅との積層構造(長さと幅と各層の厚みとの比が1.0:0.1:0.05に設定されている)を有するバイメタル片の熱膨脹変形をFEM解析によって解析した。なお、このバイメタル片は室温が75℃の初期状態において無応力であり、温度を200℃にまで上昇させた場合における熱応力(熱膨脹係数の差に起因する応力)に起因するバイメタル片のたわみを計算した。また、このFEM解析を行うに当って、ソリッド要素によるモデル化{図8中(A)参照}、およびこの実施態様によるモデル化{図8中(B)参照}を採用し、それぞれについて最大たわみを計算した。
【0022】
ソリッド要素によるモデル化を行った場合には、図8中(A)に示すように、節点の数が24であるとともに、ソリッド要素の数が6であったのに対して、この実施態様によるモデル化を行った場合には、図8中(B)に示すように、節点の数が8であるとともに、シェル要素の数が3であり、さらに1つのオフセット距離が必要であった。したがって、この実施態様によるモデル化を採用することによって要素数(節点数をも含む全体としての数)を著しく減少できることが分かる。もちろん、要素数が著しく減少することに伴なって解析のための所要時間も大幅に短縮される。
【0023】
また、両モデル化に基づいてFEM解析を行って最大たわみ(長さに対する比)を計算したところ、ソリッド要素によるモデル化に基づく場合が0.003249524であり、この実施態様によるモデル化に基づく場合が0.003260086であり、理論解析結果である0.00325に対して良い一致が見られた。
【0024】
【発明の効果】
請求項1の発明は、層の数が増加した場合であっても、要素数および節点数の増加を大幅に抑制することができ、しかも、剛体梁要素を作成することなく単にオフセット距離を設定するだけで、古典シェル理論の肉厚方向に歪が零であるという仮定を実現でき、しかも、有限要素法解析を達成することができるという特有の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の、異質材質からなる積層構造の有限要素法解析のためのモデル化方法の一実施態様を説明するフローチャートである。
【図2】FRP複合材圧力容器の一部を示す断面図である。
【図3】FRP複合材圧力容器の全体を示す縦断面図である。
【図4】FRP複合材圧力容器の製造工程を示す概略図である。
【図5】図1のフローチャートに基づくモデル化を概略的に説明する図である。
【図6】図2に示す構成のFRP複合材圧力容器の胴部中間点から付属品取り付け部中心までの10°のセクタを用いた金属ライナー層1のメッシュ分割を示す図である。
【図7】酸化ベリリウムと銅との積層構造を有するバイメタル片の斜視図である。
【図8】図7のバイメタル片のソリッド要素によるモデル化と、この発明の実施態様によるモデル化とを示す図である。
【図9】図2に示す構成のFRP複合材圧力容器の軸対称固体要素を用いたFEMメッシュ分割図である。
【図10】シェル要素を用いた従来のモデル化方法を説明する概略図である。
Claims (1)
- 異質材質からなる積層構造のモデルを、第1のシェル要素の節点と、該第1のシェル要素の特性および材料物性の定義と、第2のシェル要素の前記第1のシェル要素の節点に対するオフセット距離と、前記該第2のシェル要素の特性および材料物性の定義としてメモリに記憶し、有限要素法解析を行う手段が、前記第1のシェル要素の節点と前記オフセット距離から前記第2のシェル要素の節点を算出するとともに、前記第1のシェル要素および第2のシェル要素の節点と、前記第1のシェル要素および第2のシェル要素の特性および材料物性の定義に基づく有限要素法解析を行うことを特徴とする有限要素法解析方法。
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