JP3773465B2 - 気孔径分布測定方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被測定物より小角X線散乱法に基づき得られた散乱X線スペクトラムから、200nm以下の気孔群の気孔径分布を解析する手法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
被測定物より小角X線散乱法に基づき得られた散乱X線スペクトラムから、Fankchen法に基づいて被測定物に含有される気孔群を構成する代表的な気孔径と気孔含有率を求める方法が知られている。
【0003】
以下に、散乱X線スペクトラムから上記Fankchen法に基づいて被測定物に含有される気孔群を構成する代表的な気孔径と気孔含有率を算出する原理を述べる。
【0004】
被測定物に小角X線散乱法に基づきX線を照射して得られる散乱X線スペクトルは、被測定物中に含有される気孔群を構成する個々の気孔の大きさに依存する。気孔群には大きさの異なる気孔が混在しているため、被測定物から得られる散乱X線スペクトルは異なる気孔径を有する気孔から得られる散乱X線スペクトルの重ね合わせとなる。Fankchen法では小角X線散乱法に基づき得られた散乱X線スペクトルを、以下のように解析する。
【0005】
小角X線散乱法に基づいて得られた散乱X線スペクトラムにおいて、測定角度2θを散乱ベクトルkの二乗、
2=(4πsinθ/λ)2
と変換し、
散乱X線強度Yを、
Log10(Y)
と変換した、標準スペクトラムを求める。
ここで、λは被測定物に照射したX線の波長である。
【0006】
上記のように変換された標準スペクトラムにおいて、k2値の大きい領域における標準スペクトラムの減衰率と等しい傾きを持つ直線Li
Log10(Yi)=−αDi2 i+Log10(βi
を、定義する。
【0007】
上記標準スペクトラムから直線Liを引き算して、差分スペクトラムを求める。上記差分スペクトラムにおいて、直線Liの傾きを決定したk2領域より小さいk2領域にて、上記手順と同様に直線Li+1を定義し、差分スペクトラムからさらに引き算を行ない、更なる差分スペクトラムを求める。
【0008】
上記手順を直線Li+1の傾き(−αDi+1)の値が、直線Liの傾き(−αDi)の値より大きくなるまで繰り返す。
【0009】
このようにして得られた直線群Liの傾き(−αDi)から、被測定物に含有される気孔の形状が球であると仮定したときの気孔径Di(単位、オングストローム、10-10m)は、
i=(√((5αDi)/(Log10e)))×2
として得られ、
さらに、気孔径Diに対する気孔含有率Fi(単位、質量%)は、
i=(βi/(0.61.5×(0.5Di3)/Σ((βi/(0.61.5×(0.5Di3))×100
として得ることができる。
【0010】
以上の手順にて、被測定物質から得られた散乱X線スペクトラムより、Fankchen法に基づいて被測定物に含有される気孔群を構成する代表的な気孔径及びそれらの気孔含有率を算出することができる。
【0011】
しかし、上記Fankchen法では、被測定物から得られた散乱X線スペクトラムの任意のk2領域における減衰率と一致する傾き(−αDi)を有する直線群を定義することから、気孔径分布解析に不可欠である所定の気孔径に対する気孔含有率を解析できない。つまり、Fankchen法では気孔径分布解析が不可能である問題がある。
【0012】
さらにFankchen法では直線群Liを引くk2領域を明確に定義していないことから、解析者がこのk2領域を任意に決定できるため、同一スペクトラムの解析においてでさえ、解析者間で傾き(−αDi)の解析値が異なる問題がある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、Fankchen法では不可能であった、所定の気孔径D iに対する気孔含有率Fiを得る手法、特に200nm以下の領域での気孔径分布測定法を提供する。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、所定の気孔径Di(i=1〜n)に対応する傾き(−αDi)を有する直線群Liの一次結合(ΣLi)で得られる合成スペクトラムを、直線群Liのy切片(Log10βi)を最小二乗法を用いて最適化して、前述の小角X線散乱法に基づき得られた散乱X線スペクトラムを変換して得られる標準スペクトラムに近似させる手法である。これにより、所定の気孔径Diに対する気孔含有率Fiを得ることができるため、被測定物中に含有される気孔群に対する気孔含有率、すなわち気孔径分布を解析することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明でいう被測定物は、連続体中に分散された気孔群であり、前記気孔群の分散状態に拠らない。本発明において気孔群とは連続体中に存在する空隙の集合体を示し、ここでいう連続体とは気体、液体または固体のいずれでもよい。
【0016】
連続体中に存在する気孔群は、材質の異なる複数の連続体中に分散されていてもよいが、好ましくは1種類連続体中に分散された気孔群である。単一の連続体に気孔群が分散されたとき最も正確な気孔径分布を得ることができるからである。
【0017】
本発明における気孔径分布解析法は、次に示す通りである。
被測定物から小角X線散乱法に基づき得られた散乱X線スペクトラムを、横軸を散乱ベクトルkの二乗、
k2=(4πsinθ/λ)2
として変換し、さらに縦軸を散乱強度Yの常用対数
Log10(Y)
として変換した、標準スペクトラムf(k2)を求める。
ここでθは散乱X線強度を測定した角度2θの2分の1、λは被測定物に照射したX線の波長である。
【0018】
本発明においては、被測定物に照射するX線は単色化されていればどんな波長を用いてもよいが、好ましくはCuKα特性X線の波長である1.54056×10-10m(1.54056Å)より長い波長を使用することが望ましい。これより波長の短い特性X線を用いた場合には、解析できる気孔径の大きさの上限が小さくなり、気孔径分布の測定可能領域が狭くなる問題が生じるからである。
【0019】
さらに、気孔の形状が球であると仮定したときの、所定の気孔径Di(単位、オングストローム、10-10m)に対応する直線群Li
Log10(Yi)=−αDi2+Log10(βi)、 (i=1からn)
ここで、
αDi=(Log10e×Di 2)/20
の一次結合で表される合成スペクトルg(k2)、
g(k2)=Σ(Li
を算出するが、このときに本発明では、前述の標準スペクトルf(k2)と合成スペクトルg(k2)が一致するように、直線群Liのy切片であるLog10(βi)の組み合わせを算出することが本質的である。
【0020】
次に、f(k2)とg(k2)が一致したときの、所定の気孔径Diを有する直線群Liのβiから、個々の気孔径Diに対する気孔含有率Fi(単位、質量%)を
i=(βi/(0.61.5×(0.5Di3)/Σ((βi/(0.61.5×(0.5Di3))×100
として算出する。
【0021】
得られた気孔含有率Fiは通常
ΣFi=100
となるように、規格化を行うことで、所定の気孔径Diに対する気孔含有率Fiを得ることができる。
【0022】
また、本発明の気孔径分布測定法において、直線の傾き(−αDi)の関数である所定の気孔径Diが、D1からDi+1(i=1〜n)まで等間隔にn分割されて規格化されていることが望ましい。このようにDiを予め規格化することにより、気孔径分布測定結果が一般性を有するものとなり、被測定物間の気孔径分布の比較、測定者間での気孔径分布の比較等を容易にすることが可能となる。気孔径Diを等間隔にn分割して規格化する手法は、等差数列のような線形的手法でも、等比数列のような非線形的手法でもよい。
【0023】
また、本発明において、前記標準スペクトルf(k2)と合成スペクトルg(k2)を一致させるために直線群Liのy切片Log10(βi)を決定する手法に関しては、最小二乗法を用いてf(k2)とg(k2)の統計的残差R
R=Σ|f(k2)−g(k2)|/Σ|f(k2)|
が最小となるようなLog10(βi)の組み合わせを求めることが望ましい。最小二乗法としては一般的なGauss−Neuton法や修正Marqurd法や共役方向法のみならず、それらと同等以上の性能を有するアルゴリズムを用いてもよい。また、残差Rは一般な統計解析で広く用いられるR2値などを用いてもよい。
【0024】
本発明で測定できる最大の気孔径は、測定装置の小角分解能(測定可能な最小の2θ値)により決定される。本発明者の実験的検討結果に基づけば、汎用測定装置の小角分解能で測定できる200nm以下であることが好ましく、100nm以下が特に好ましい。
【0025】
以上のようにして被測定物から得られた気孔径分布は、規格化された気孔径Diに対する気孔含有率Fiが得られることから、被測定物間の気孔径分布を相対的に比較することが可能である。
【0026】
本発明の気孔径分布測定方法は、X線を発生し被測定物に照射するX線照射手段と、被測定物より発生する散乱X線スペクトルを測定するためのX線検出手段とからなる小角X線散乱装置から得られた散乱X線スペクトルのすべてに適用できる。
【0027】
図1は、本発明の測定方法を行うための装置の構成を示した図である。前記の小角X線散乱装置を用いて、被測定物から散乱X線スペクトルを取得し、気孔径分布を解析するための装置構成を示す模式図である。
【0028】
X線照射源1よりX線が照射され、スリット2により絞られたX線が、試料ホルダー3に取り付けられた被測定試料により散乱される。スリット2はX線照射源1からの直接光を除去するため、3スリット型もしくはクラツキ型もしくは分光結晶型のいずれかを用いればよい。
【0029】
また、試料ホルダー3は被測定試料をそのまま取り付ける形態のものだけでなく、被測定試料を流体中に分散させ、環流させる機能を有するものでもよい。被測定試料により散乱された散乱X線は真空パス4を通り、検出器5にて検出される。検出器5はシンチレーションカウンターもしくはPSPC(位置敏感型比例計数管)もしくはIP(イメージングプレート)もしくはCCDを用いればよい。
【0030】
検出器5にて取得した散乱X線強度データは、データ記憶部6に記憶される。散乱X線強度の測定は、入力端末7にて指定された測定条件または条件記憶部8に記憶済みの測定条件を参照し、装置制御部9にて実行される。
【0031】
データ記憶部6に記憶された散乱X線強度データと、条件記憶部8に格納されている本発明に基づく気孔径分布解析に必要な所定の気孔径に対する直線群Liから、気孔径分布演算部10にて気孔径分布を解析し、結果を表示部11に表示する。
【0032】
【実施例】
以下に、実施例、比較例をあげて更に具体的に本発明を説明する。
【0033】
(実施例、比較例)
試料として三菱化学(株)製「マフテック」;平均気孔径16nm(TEM透過型電子顕微鏡による画像解析値)を用意した。
この材料はアルミナ・シリカの鉱物組成から成る主にムライトであり、この材料中には直径数10nmの気孔が含まれていることが知られている。
【0034】
上記の試料について小角X線散乱法に基づく散乱X線スペクトルの測定を行った。小角X線散乱法に基づく散乱X線の測定は小角X線散乱装置ユニットCN2230F型(理学電機製)を使用した。測定条件はCuKα特性X線を使用し、管電圧40kV、管電流30mAの条件にて実施した。
【0035】
前記試料は試料ホルダに挟みこみ被測定試料とした。
【0036】
本発明により得られた結果(実施例)を図2に示した。実施例においては、気孔径Diに対応する直線群Liは7.5nmから47.5nmまで5nm間隔にて9分割する直線群を用いて解析した。なお、比較の例として、従来技術であるFankchen法により結果を求めたところ、9.1nmの気孔が25.3質量%、14.2nmの気孔が74.7質量%含有されていた。
【0037】
実施例では、規格化された気孔径に対する気孔含有率、すなわち気孔径分布が得られる。それに対して、従来技術であるFankchen法では、比較例に示した通り、代表的な気孔径に対する気孔含有率しか得られないことから、本発明による気孔径分布測定方法が気孔径分布測定法として優れるものであることが、明らかである。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、小角X線散乱法に基づき得られた散乱X線スペクトラムから、被測定物中に含有される200nm以下の気孔群の、規格化された気孔径に対する気孔含有率、つまり気孔径分布を容易に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る気孔径分布測定装置の構成図。
【図2】本発明の実施例に係る測定結果を示す図。
【符号の説明】
1 X線照射源
2 スリット
3 試料ホルダー
4 真空パス
5 検出器
6 データ記憶部
7 入力端末
8 条件記憶部
9 装置制御部
10 気孔径分布演算部
11 表示部

Claims (6)

  1. 被測定物より、小角X線散乱法に基づいて得られる散乱X線スペクトラムから、横軸を散乱ベクトルkの二乗(k2 =(4πsinθ/λ)2)、縦軸を強度Yの常用対数(Log10 Y)とする標準スペクトラムf(k2 )を求め、更に、気孔径Di(ここでi=1〜nの自然数)に対応する傾き(−αDi )を有する直線群Li (Log10i=−αDi2 i+Log10βi で表す。)の一次結合(ΣLi)で表される合成スペクトラムg(k2 )により、前記標準スペクトラムf(k2)を近似したときの直線群Liのy切片(Log10 βi )と傾き(−αDi)より、所定の気孔径Diに対する気孔含有率を求めることを特徴とする気孔径分布測定方法。
  2. 前記所定の気孔径Diが等間隔にn分割されていることを特徴とする請求項記載の気孔径分布測定方法。
  3. 所定の気孔径Diに対応する傾きを有する直線群Liの1次結合で表される合成スペクトラムg(k2 )と前記標準スペクトラムf(k2)との残差が最小となるように、最小二乗法で直線群Li のβiを定めることを特徴とする請求項又は請求項記載の気孔径分布測定方法。
  4. 測定気孔径範囲が200nm以下であることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項記載の気孔径分布測定方法。
  5. 測定気孔径範囲が100nm以下であることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の気孔径分布測定方法。
  6. X線を発生し被測定物に照射するX線照射手段と、被測定物より散乱するX線を測定するためのX線検出手段と、前記検出したX線の強さを前記散乱角と関連付けてスペクトルデータとして記憶する手段と、所定の気孔径に応じた複数の直線群の数式を記憶する手段と、前記スペクトルデータより標準スペクトルを計算し、更に前記直線群の一次結合が前記標準スペクトルを近似するように、前記直線群のy切片(Log10 βi)を最小二乗法で調整、計算する手段と、前記計算の結果として、前記直線群のy切片(Log10 βi)と傾き(−αDi )より被測定物中の所定気孔径に対する気孔含有率を算出し、前記所定気孔径と共に前記所定気孔径に対する気孔含有率を表示する手段とからなる気孔径分布測定装置。
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