JP3760960B2 - 視線位置検出装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、眼球運動に基づいて3次元的な視線位置を検出する視線位置検出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
眼球運動に基づいて視線位置を検出する視線位置検出装置は、例えば、テレビジョン受信機等の画像出力装置の画質評価に利用されている。この画像出力装置における視線を使った評価は、画面上の視線の動きを分析することによる評価であり、この評価により、例えば、NTSC方式による画面とハイビジョンによる画面における視線の動きを比較すると、NTSC方式による画面では視線が画面中央付近に集中するが、ハイビジョンによる画面では視線が広い範囲で動き、より自然な動きに近いことが知られている。
【0003】
また、視線位置の検出は、ヘッドアップディスプレイを用いた情報入力やコンピュータグラフィックスを用いた仮想現実世界におけるインタフェース等に利用することも考えられる。
【0004】
上記のような各種分野において視線位置検出装置は利用され得るが、この場合、当然視線位置の検出はできるだけ正確になされることが望ましい。また、視線位置は、奥行き方向も含めた3次元的な位置として検出できる方が、視線位置の利用範囲も広がるので好ましい。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来では、例えば不規則な付随意眼球運動として、一点を見つめるときに無意識に生じる固視微動や瞬きによる一時的な眼球運動の変化等により視線位置検出の際に不要なノイズ成分が生じてしまい、精度よく視線位置の検出を行うことが困難であった。
【0006】
例えば、文献「吉松浩他:“ヘッド・マウント・ディスプレイにおける眼球運動の定量的評価”,3次元画像コンファレンス’94,第63〜68ページ,1994年」には、奥行き方向に前後運動する指標を追従する際の視線位置の変化を眼球運動の測定データに基づいて求めた結果が示されているが、ここでは眼球運動データに平滑化等のフィルタ処理を行っていないので、求められた視線位置に誤差が多いという問題がある。
【0007】
また、例えば特公平5−83248号公報には、眼球運動データにフィルタ処理を施してノイズ除去を行い視線位置の検出を行う技術が示されているが、この技術では、眼球移動方向、移動速度等の情報に基づいて、眼球移動方向ごとに適応的に複数のフィルタの切り換えを行うようになっており、フィルタ処理に手間が掛かると共に、フィルタ自身の効果が十分ではないという問題があった。このフィルタの効果が十分でない理由は次のように考えられる。すなわち、随意眼球運動は、大きく分類すると、直線的なサッカードと滑らかな追従眼球運動の2種類に分類されるが、サッカードの始点と終点部分では視線は連続だが微分不可能となり、その平滑化が難しいからである。
【0008】
ところで、本出願の発明者等は、例えば文献「吉松浩他:“水平両眼固視微動のドリフト成分のフラクタル次元解析”,テレビジョン学会誌Vol.49,No.8,第1042〜1051ページ,1995年」に示されるように、移動平均法による波形の平滑化によって、眼球運動の測定データからノイズ成分を取り除く技術を提案している。この技術では、ノイズ成分を取り除くために設けられた測定データの前処理において、測定データの波形から視線の大域的な運動に相当する眼球運動の低周波成分と超微小振幅且つ高周波の成分として知られるトレマー成分とを取り除くために、移動平均法を用いてFIR(有限インパルス応答)バンドパスフィルタを形成し、測定データの波形から微小振幅成分であるドリフト成分を抽出し、その波形を解析するようにしている。しかしながら、この技術では、解析可能な眼球運動成分は、注視時の微小振幅成分(ドリフト成分)に限られるという不具合があった。
【0009】
また、移動平均法による波形の平滑化の場合には、波形が急激に変化する部分で、微小な位相のずれを生じ、その後の計算で誤差を生じるという問題点がある。
【0010】
また、移動平均法による波形の平滑化の場合には、そのフィルタ特性はFIRフィルタとなり、位相のずれは少ないが、周波数特性が良くないために、平滑化後の波形に高周波成分すなわちノイズ成分が混入する。そのため、平滑化後の波形に対して時間微分処理を行う場合、時間微分された波形ではノイズの効果が増強され、時間微分された波形の判別が難しいという問題点がある。
【0011】
一方、左右の視線が3次元空間上で交差しない場合において視線位置を検出する方法として、例えば特開平8−14828号公報では、疑似逆行列を用いてステレオカメラの左右の視線の共通法線の中点を最小近似解とする技術が示されているが、この技術では、計算方法が複雑であり、視線位置の計算に時間が掛かるという問題があった。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ノイズ成分を低減して、迅速且つ精度よく3次元的な視線位置の検出を行うことが可能な視線位置検出装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の視線位置検出装置は、右眼および左眼各々の眼球運動を測定して時系列的な眼球運動データを生成する眼球運動測定手段と、この眼球運動測定手段によって生成された眼球運動データに対してウェーブレット解析による平滑化処理を施す平滑化手段と、この平滑化手段によって平滑化された眼球運動データに基づいて、3次元的な視線位置を検出する視線位置検出手段とを備え、視線位置検出手段において、左眼および右眼の各視線ベクトルが最も近づいた位置の距離線分ベクトルの中点を3次元的な視線位置として近似して検出するようにしたものである。
【0014】
本発明の視線位置検出装置では、時系列的に測定された眼球運動データに対してウェーブレット解析による平滑化処理が施され、この平滑化された眼球運動データに基づいて、3次元的な視線位置が検出される。ウェーブレット解析を用いて眼球運動データに対する平滑化処理を行うことによって、ノイズ成分が少なく精度のよい視線位置の検出を行うことが可能となる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る視線位置検出装置の構成を示すブロック図であり、図2は図1におけるセンサ部の構成を示す説明図である。また、図3は図1におけるコンピュータの構成を示すブロック図である
【0017】
図1に示したように、本実施の形態に係る視線位置検出装置は、眼球運動の時系列データを測定するためのセンサ部11と、このセンサ部11の出力をアナログ−ディジタル(以下、「A/D」という。)変換するA/Dコンバータ12と、このA/Dコンバータ12の出力データを取り込み、後述する種々の処理を行うコンピュータ13と、このコンピュータ13による処理結果を表示する表示装置14とを備えている。
【0018】
センサ部11は、強膜反射法(前出の吉松浩他の文献“水平両眼固視微動のドリフト成分のフラクタル次元解析”参照。)により眼球運動を測定するものであり、図2に示したように、眼球Eに対して赤外光を照射する発光ダイオード21と、この発光ダイオード21の左右両側に配置される2つのフォトダイオード22,23と、フォトダイオード22,23の各出力信号を用いて所定の演算を行い、時系列データとして出力する演算回路24とを備えている。なお、左右両眼の眼球運動を測定する場合には、センサ部11は片眼ずつ設けられる。センサ部11は、例えばゴーグル型の保持部材に取り付けられ、被験者に保持部材を装着したときに、眼球Eの下側に配置されるようになっている。なお、本実施の形態におけるセンサ部11は、本発明における眼球運動測定手段に対応する。
【0019】
フォトダイオード22,23は、それぞれ眼球の白目と黒目の境界における反射光量を検出するようになっている。演算回路24は、眼球運動の水平方向成分の時系列データとしてフォトダイオード22,23の出力信号の差を出力し、眼球運動の垂直方向成分の時系列データとしてフォトダイオード22,23の出力信号の和を出力するようになっている。なお、この場合、特に眼球運動の垂直方向成分の時系列データは眼球運動に対して非線形になるが、その補正はコンピュータ13によって行われる。
【0020】
なお、眼球運動の測定は、強膜反射法によるものに限らず、例えば二重プルキニエ反射光法(文献「T.N.Cornsweet,H.D.Crane:“Accurate two−dimentional eye tracker
using first and fourth Purkinje images”,JOURNAL OF THE OPTICAL SOCIETY OF AMERICA,VOLUME63,NUMBER8,第921〜928ページ,1993年」参照。)を用いてもよい。
【0021】
A/Dコンバータ12は、所定のサンプリング周波数でセンサ部11の出力をサンプリングしてディジタルデータに変換するようになっている。
【0022】
コンピュータ13は、A/Dコンバータ12の出力データに対してウェーブレット解析によるデータの平滑化を行った後、後述の計算手法により両眼の2つの視線を3次元空間上の直線の方程式で表し、それらの2直線の距離線分の中点を奥行き方向を含む3次元的な視線位置として検出するようになっている。また、コンピュータ13は、視線位置の検出結果を表示装置14に表示させるようになっている。
【0023】
また、より詳細にはこのコンピュータ13は、図3に示したように、全体の制御を行う中央演算装置131と、キーボード等で構成されてA/Dコンバータ12の出力データや後述の計算手法における初期条件ベクトル情報等を入力する入力装置132と、視線位置の検出に必要なプログラムや種々の情報を記憶するメモリ133と、中央演算装置131で求められた視線位置の情報を出力する出力装置134とを備えて構成される。なお、本実施の形態におけるコンピュータ13は、本発明における平滑化手段および視線位置検出手段に対応する。
【0024】
ここで、入力装置132は、各種情報の入力インタフェースとしての機能を有するものであり、また、ディスク等の記録媒体の読み取り装置、マウス、キーボード等のポインティングデバイス等の装置をも含むものである。
【0025】
また、出力装置134は、少なくとも表示装置14とコンピュータ13との間のインタフェースとしての機能を有するものであり、さらに、ディスク等の記録媒体への書き込み装置、プリンタ等の装置をも含むものである。
【0026】
次に、図4に示す流れ図を参照して、本実施の形態に係る視線位置検出装置の動作について説明する。まず、センサ部11によって眼球運動を測定し、得られた時系列データを、A/Dコンバータ12によって所定のサンプリング周波数(例えば200Hz)でディジタル化し、このA/Dコンバータ12の出力データをコンピュータ13に入力する(ステップS101)。なお、ここで、時系列データは、眼球運動の水平方向成分および垂直方向成分に対応する2次元データであり、任意の2次元座標系すなわち極座標系や直交座標系上の座標に相当する。また、時系列データは、例えば視線の方向(角度)を表し、この場合、単位は度(deg)である。
【0027】
次に、コンピュータ13は、入力した時系列データに対してウェーブレット解析によるデータの平滑化を行う(ステップS102)。具体的には、例えば、2次元データである時系列データのうちの一方の座標軸のデータをx(t)(ただし、tは時間)としたとき、例えば16384点の1次元の時系列データx(t)に対し、9レベルまでのウェーブレット変換を行い、高周波成分を含む上位2または3レベルを除いたウェーブレット係数を用いてウェーブレット逆変換を行い、1次元の時系列データx(t)の波形の平滑化を行う。これにより、純粋なノイズを除去することができると共に、例えば固視微動の各成分のうちのトレマー成分を除き、マイクロサッカード成分およびドリフト成分を抽出することができる。
【0028】
次に、コンピュータ13は、平滑化された時系列データを用いて3次元的な視線位置の検出を行う(ステップS103)。具体的には、コンピュータ13は、以下のような計算手法により3次元的な視線位置を計算する。
【0029】
図5は、本実施の形態における3次元的な視線位置の計算手法を説明するための説明図である。図5において、左眼LE、右眼REの中点を座標原点Oとし、また、右眼REの眼球位置ベクトルをA、左眼LEの眼球位置ベクトルを−Aとする。また、原点Oから所定の距離の位置に規準点を設定し、原点Oからこの規準点への距離ベクトルをDとする。さらに、規準点を通り、距離ベクトルDに垂直な仮想的な測定スクリーン51を設定する。また、左眼LE、右眼REの各視線ベクトルlL,rRとそのスクリーン51の交点を眼球運動データの測定点l1,r1とする。センサ部11において測定された左右眼の水平方向、垂直方向各々の眼球運動データは、この測定点l1,r1として測定される。従って、基準スクリーン51よりも手前の位置を見つめると、左右眼の測定点l1,r1は、その左右の位置が反転し、基準スクリーン51よりも遠方の位置を見つめると、左右眼の測定点l1,r1は、その左右の位置が反転しないようになっている。
【0030】
ここで、距離ベクトルDの終点から測定点l1,r1までのベクトルを左右眼の各々でL,Rとすると、左眼LE、右眼REの各視線ベクトルlL,rRは、上記のベクトルA,D,L,Rを用いて、以下の式(1),(2)のようにパラメータ表示される。
【0031】
左眼視線ベクトルlL(s)=−A+(D+L+A)s …(1)
【0032】
右眼視線ベクトルrR(t)= A+(D+R−A)t …(2)
【0033】
この2つの視線ベクトルlL(s),rR(t)の交点が3次元的な視線位置になるが、一般に3次元空間中では必ずしも2つの視線ベクトルlL(s),rR(t)は交点を持たないので、本実施の形態では2つの視線ベクトルlL(s),rR(t)が最も近づいた位置の距離線分ベクトル2dの中点gを3次元的な視線位置として近似する。
【0034】
このとき、距離ベクトル2dが定義される位置のパラメータをs0,t0とすると、これらの点lL(s0),rR(t0)において、距離ベクトル2dと2つの視線ベクトルlL(s),rR(t)は直交する。また、3次元の視線位置を表すベクトルをXとすると、この視線位置ベクトルXは、距離ベクトル2dと直交する。
【0035】
以上の直交条件から、以下の式(3),(4)が成り立つ。
【0036】
[{−A+(D+L+A)s0}−X]・X=0 …(3)
【0037】
[{ A+(D+R−A)t0}−X]・X=0 …(4)
【0038】
よって、これらの式から3次元の視線位置ベクトルXは、以下の式(5)で与えられる。
【0039】
X={lL(s0)+rR(t0)}/2 …(5)
【0040】
コンピュータ13において、以上のような計算手法により3次元の視線位置を検出する場合には、まず、A/Dコンバータ12からの眼球運動データが、入力装置132を介して中央演算装置131に入力される。中央演算装置131は、入力された眼球運動データを平滑化して、上記測定点l1,r1を示すベクトルL,Rの情報としてメモリ133に一時的に記憶する。一方、初期条件ベクトル情報として眼球位置ベクトルAおよび距離ベクトルDの値が入力装置132から入力される。ここで入力された初期条件ベクトルA,Dも、中央演算装置131を介してメモリ133に一時的に記憶される。
【0041】
中央演算装置131は、メモリ133に一時的に記憶されたベクトル情報から、式(5)の演算を実行し、この演算結果を出力装置134から出力する。これにより3次元の視線位置ベクトルXが求められる。
【0042】
コンピュータ13は、以上のようにして計算された視線位置の結果を表示装置14に表示させて(ステップS104)、動作を終了する。
【0043】
ここで、本実施の形態では、ウェーブレット解析によるデータの平滑化(以下、「ウェーブレット平滑化」ともいう。)を行っているが、図6ないし図18を参照して、その優位性について説明する。
【0044】
まず、図6ないし図8は、上記の方法により時系列的に得られた奥行き方向の視線位置の運動の波形を横軸を時刻、縦軸を計算された奥行き方向の視線位置として示した図である。なお、図6は、平滑化前の眼球運動データから得られた原波形を示すものであり、図7は、移動平均法を用いた平滑化(以下、「移動平均平滑化」という。)を行った後の波形を示し、図8は、ウェーブレット平滑化を行った後の波形を示すものである。また、図9および図10は、それぞれ図6の波形中の領域61,62を拡大して示した波形図である。同様に図11および図12は、それぞれ図7の波形中の領域71,72を拡大して示した波形図、図13および図14は、それぞれ図8の波形中の領域81,82を拡大して示した波形図である。
【0045】
また、図15ないし図17は、3次元的な視線位置の軌跡を示した図であり、図15は、実際に得られた3次元的な視線位置の原軌跡を示した図、図16は、移動平均平滑化を行った後の波形を用いて視線位置の軌跡を再現した場合の軌跡を示した図、図17は、ウェーブレット平滑化を行った後の波形を用いて視線位置の軌跡を再現した場合の軌跡を示した図である。
【0046】
これらの図に示したように、ウェーブレット平滑化を行った後の波形(以下、「ウェーブレット平滑化波形」ともいう。)の方が移動平均平滑化を行った後の波形(以下、「移動平均平滑化波形」ともいう。)よりも軌跡が滑らかであり、原波形の平滑化に有効であることが分かる。特に、ウェーブレット平滑化を行った後の波形では、図9ないし図17から分かるように、誤差の生じやすい奥行き方向の遠方において、視線位置の軌跡が移動平均平滑化を行った後の波形と比較して顕著に滑らかとなっている。このことから、ウェーブレット平滑化を行うことが特に奥行き方向の遠方における視線位置の検出に有効であることが分かる。
【0047】
次に、波形の平滑化に関して、ウェーブレット平滑化と移動平均平滑化とを統計的手法を用いて定量的に比較する。
【0048】
まず、3次元的な座標(x,y,z)(ただし、zは奥行き方向の座標、x,yは奥行き方向に対して直交し且つ互いに直交する2方向の座標とする。)の各々について、時系列的な原波形のデータをorg、移動平均平滑化波形のデータをfir、ウェーブレット平滑化波形のデータをwavとし、原波形と各平滑化波形との差の平均(絶対値)を、|平均[org−fir]|,|平均[org−wav]|と表す。そして、ウェーブレット平滑化波形と移動平均平滑化波形とを、上記平均を用いて定量的に比較するために、以下の式(6)を導入する。この式(6)の値を平均比較評価値とする。
【0049】
(|平均[org−fir]|−|平均[org−wav]|)/{(|平均[org−fir]|+|平均[org−wav]|)/2} …(6)
【0050】
同様に、原波形と各平滑化波形との差の標準偏差(絶対値)を、|標準偏差[org−fir]|,|標準偏差[org−wav]|と表し、ウェーブレット平滑化波形と移動平均平滑化波形とを、上記標準偏差を用いて定量的に比較するために、以下の式(7)を導入する。この式(7)の値を標準偏差比較評価値とする。
【0051】
(|標準偏差[org−fir]|−|標準偏差[org−wav]|)/{(|標準偏差[org−fir]|+|標準偏差[org−wav]|)/2}…(7)
【0052】
また、原波形と各平滑化波形との差の歪度(絶対値)を、|歪度[org−fir]|,|歪度[org−wav]|と表し、ウェーブレット平滑化波形と移動平均平滑化波形とを、上記歪度を用いて定量的に比較するために、以下の式(8)を導入する。この式(8)の値を歪度比較評価値とする。なお、歪度とは、データの統計量の偏り具合を示すものであり、スキューネスとも呼ばれる。
【0053】
(|歪度[org−fir]|−|歪度[org−wav]|)/{(|歪度[org−fir]|+|歪度[org−wav]|)/2} …(8)
【0054】
以上の式を用いて、眼球運動波形のサンプリング周波数=200Hz、測定時間=2分30秒、指標は40〜200cmの奥行き方向の正弦波運動を行うCG(コンピュータ・グラフィックス)の正8面体(この正8面体の大きさは、距離に依存して実指標と同様に変化する)、という条件で測定された眼球運動のデータに基づいて、各座標(x,y,z)毎に平均比較評価値、標準偏差評価値および歪度比較評価値を求めたところ、以下の結果が得られた。
【0055】
各座標(x,y,z)についての平均比較評価値:(4.17268,81.3599,98.6184)[%]。
【0056】
各座標(x,y,z)についての標準偏差評価値:(54.8555,52.0288,37.1812)[%]。
【0057】
各座標(x,y,z)についての歪度比較評価値:(36.7786,27.0365,48.3219)[%]。
【0058】
この結果から分かるように全ての評価値に対して正の値が得られたが、このことは、常に移動平均平滑化に比較して、ウェーブレット平滑化の場合の統計量の絶対値が小さいことを意味し、ウェーブレット平滑化による誤差が少ないことを示している。特に、平均比較評価値が小さいことは、ウェーブレット平滑化による誤差が小さいことを示し、また、標準偏差評価値が小さいことは、ウェーブレット平滑化による誤差の広がりが小さいことを示している。また、歪度比較評価値が小さいことは、ウェーブレット平滑化による誤差の分布の偏りが小さいことを示している。
【0059】
次に、図18を参照して、平滑化による誤差を原波形と各平滑化波形との差として表して、移動平均平滑化による誤差とウェーブレット平滑化による誤差とを比較する。図18は、10秒間に亘る奥行き方向の視線位置の誤差を示したものであり、図18(a)は、移動平均平滑化による誤差、図18(b)は、ウェーブレット平滑化による誤差を示したものである。なお、各誤差は、それぞれ以下のような計算式(9),(10)より求められたものである。
【0060】
(org−fir)/{(|平均[org−fir]|+|平均[org−wav]|)/2} …(9)
【0061】
(org−wav)/{(|平均[org−fir]|+|平均[org−wav]|)/2} …(10)
【0062】
図18から分かるように、移動平均平滑化波形では、例えば図18(a)において符号180で示す鋭いピーク状の誤差が奥行き方向の手前(図の縦軸の負の方向)と奥行き方向(図の縦軸の正の方向)とで非対称となり、また、その他の領域においても非対称性を示しているが、ウェーブレット平滑化波形ではこの非対称性は改善されている。このように、移動平均平滑化による誤差の波形において非対称性が見られるのは、急激に波形が変化する部分で平滑化による位相回りを生ずるためと推測される。なお、ウェーブレット平滑化による誤差の波形において対称性がよいのは、ウェーブレット平滑化では位相回りが生じないためと考えられる。
【0063】
このように、ウェーブレット平滑化では、注視時の微小な振幅の眼球運動に対しても、大きな振幅の眼球運動に対しても、精度良く、眼球運動の時系列データの平滑化が可能である。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態に係る視線位置検出装置によれば、ウェーブレット解析を用いて眼球運動の時系列データを平滑化すると共に、平滑化後のデータに基づいて3次元的な視線位置を検出するようにしたので、ノイズ成分を低減して、迅速且つ精度よく3次元的な視線位置の検出を行うことが可能となる。この場合、移動平均法による平滑化のように位相回りが生じないため、例えば、注視時の微小振幅の眼球運動に限らず、大きな振幅の眼球運動に対しても、精度良く眼球運動の時系列データを平滑化することが可能となるという効果を奏する。
【0065】
また、従来では直線的なサッカードの始点と終点部分では視線は連続だが微分不可能となり、その平滑化は難しかったが、ウェーブレット解析による平滑化により、このサッカード成分を含む眼球運動データに対しても1回のフィルタ処理で自然な平滑化を精度よく行うことが可能となる。また、通常、遠方に行くほど検出される視線位置の誤差は大きくなるが、本実施の形態によれば以上のようなウェーブレット解析による平滑化により、遠方の視線位置についても誤差を小さくできるので、特に遠方の視線位置について顕著に効果を上げることが可能となる。
【0066】
さらに、本実施の形態によればウェーブレット平滑化によって、眼球運動の時系列データから瞬き部分を除去することができる。
【0067】
さらに、本実施の形態に係る視線位置検出装置によれば、眼球運動の時系列データの波形から瞬き部分を除去することができる。このことを、図19を参照して説明する。図19(a)は、測定によって得られた眼球運動の時系列データの波形を示したものであり、この波形には、瞬きによって生じた振幅が大きく且つ急峻な変化である瞬き部分41が含まれている。しかしながら本実施の形態では、眼球運動の時系列データに対してウェーブレット平滑化を行うので、図19(b)に示したように、瞬き部分41を含む時系列データの波形から瞬き部分41が自動的に除去されて、瞬き部分41は自然に平滑化される。そして、この平滑後の時系列データは、視線位置の検出に用いられる。
【0068】
このように、本実施の形態によれば、ウェーブレット平滑化によって、眼球運動の時系列データから瞬き部分を除去して自然な平滑化を行うことが可能となるので、瞬きに影響を受けることなく精度よく3次元的な視線位置の検出を行うことが可能となる。
【0069】
以上の実施の形態で説明した視線位置検出装置は、例えば視線位置に合わせてカメラが動くような立体ビデオカメラにおける視線位置情報入力装置に応用できる。また、コンピュータグラフィックスを用いた仮想現実世界におけるインタフェース等としても利用できる。また、自動車等で用いられるヘッドアップディスプレイにおける視線を用いた情報入力等にも応用できる。例えば、ナビゲーションシステムによる表示画像中において見た部分を検出し、その部分に関する情報を出力するようなことが可能となる。また、運転時における運転者の視線位置を検出して、わき見運転等に対する注意を促すような情報を出力するようなことが可能となる。このように、本発明の視線位置検出装置は視線位置の検出を利用した種々の装置に適用が可能である。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の視線位置検出装置によれば、ウェーブレット解析を用いて眼球運動データに対する平滑化処理を行って3次元的な視線位置の検出を行うようにしたので、ノイズ成分を低減して、迅速且つ精度よく3次元的な視線位置の検出を行うことが可能となる。この場合、特に、遠方の視線位置の検出の際のノイズ成分を有効に除去することができるので、遠方の視線位置の検出精度を向上させることができる。また、ウェーブレット解析による平滑化処理が1回で済むので、計算に時間を要せず、迅速で効率的な視線位置の検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る視線位置検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1におけるコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図3】図1におけるセンサ部の構成を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る視線位置検出装置の動作を示す流れ図である。
【図5】本発明の一実施の形態における3次元的な視線位置の計算手法を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施の形態において時系列的に得られた奥行き方向の視線位置の運動データの原波形を示した波形図である。
【図7】図6に示した運動データに対する移動平均平滑化後の波形を示した波形図である。
【図8】図6に示した運動データに対するウェーブレット平滑化後の波形を示した波形図である。
【図9】図6の波形中の一部を拡大して示す波形図である。
【図10】図6の波形中の一部を拡大して示す波形図である。
【図11】図7の波形中の一部を拡大して示す波形図である。
【図12】図7の波形中の一部を拡大して示す波形図である。
【図13】図8の波形中の一部を拡大して示す波形図である。
【図14】図8の波形中の一部を拡大して示す波形図である。
【図15】本発明の一実施の形態において3次元的な視線位置の軌跡の原波形を示した波形図である。
【図16】図15に示した原波形に対する移動平均平滑化後の波形を用いて3次元的な視線位置の軌跡を再現した波形図である。
【図17】図15に示した原波形に対するウェーブレット平滑化後の波形を用いて3次元的な視線位置の軌跡を再現した波形図である。
【図18】本発明の一実施の形態において原波形と各平滑化波形との差を比較するための波形図である。
【図19】本発明の一実施の形態におけるウェーブレット平滑化処理により、眼球運動のデータから瞬き部分の除去を行った場合の波形を示した波形図である。
【符号の説明】
11…センサ部、12…A/Dコンバータ、13…コンピュータ、14…表示装置

Claims (2)

  1. 右眼および左眼各々の眼球運動を測定して時系列的な眼球運動データを生成する眼球運動測定手段と、
    この眼球運動測定手段によって生成された眼球運動データに対してウェーブレット解析による平滑化処理を施す平滑化手段と、
    この平滑化手段によって平滑化された眼球運動データに基づいて、3次元的な視線位置を検出する視線位置検出手段と
    を備え
    前記視線位置検出手段において、左眼および右眼の各視線ベクトルが最も近づいた位置の距離線分ベクトルの中点を前記3次元的な視線位置として近似して検出するようにした
    ことを特徴とする視線位置検出装置。
  2. 前記平滑化手段は、前記ウェーブレット解析による平滑化処理を施すことにより、前記眼球運動データに含まれる瞬き部分の除去を行うことを特徴とする請求項1記載の視線位置検出装置。
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