JP3743798B2 - カテコールアミンの定量方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中のカテコールアミンを高感度で迅速に定量する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カテコールアミンは、一般的にはカテコール核とアミングループをもつ有機化合物の総称であるが、慣例としてドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンを指す。
カテコールアミンの定量方法としては、誘導体化後、GC、GC‐MSを用いる方法や、カテコールアミンを酸化後、電気化学計測する方法(分析化学便覧、改訂4版、1170頁)などが知られているが、これらの方法は、誘導体化や酸化等の前処理や特殊な装置を要するという問題があるし、また、イムノアッセイも開発されているが、この手法はコストがかかりすぎる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情の下、カテコールアミン含有試料中のカテコールアミンを、簡単な操作で、高感度かつ迅速に、しかも精度よく安価に定量する方法を提供することを課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、試料中のカテコールアミンの定量について鋭意研究を重ねた結果、Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体が、5‐スルホサリチル酸等の光受容配位子と三元錯体を形成し、該錯体が水溶液中でTb(III)と光受容配位子間のエネルギー移動に基づく蛍光を発する[Anal.Chim.Acta,153,229(1983)]という既知の現象に着目し、このような水溶液を利用して、これにカテコールアミンを加えると光受容配位子との配位子置換反応により、光受容配位子が遊離され黄緑色蛍光強度が減衰或いは低下するようになることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1)Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と2‐ヒドロキシ‐5‐スルホ安息香酸、1,2‐ジヒドロキシベンゼン‐3,5‐ジスルホン酸又は2,3‐ジヒドロキシナフタレンからなる光受容配位子との三元錯体を含む水溶液に、カテコールアミンを含む試料を加え、かつpHを11〜13とした水溶液を調製したのち、励起光により黄緑色蛍光を発生させ、該蛍光強度の減衰度に基づいて該試料中のカテコールアミンの濃度を求めることを特徴とするカテコールアミンの定量方法。
(2)Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と2‐ヒドロキシ‐5‐スルホ安息香酸、1,2‐ジヒドロキシベンゼン‐3,5‐ジスルホン酸又は2,3‐ジヒドロキシナフタレンからなる光受容配位子との三元錯体を含む水溶液に、カテコールアミンを含む試料を加え、かつpHを11〜13とした水溶液を調製したのち、励起光により黄緑色蛍光を発生させ、該蛍光強度を、カテコールアミン濃度と蛍光強度との関係を示す検量線と照合して該試料中のカテコールアミンの濃度を求めることを特徴とするカテコールアミンの定量方法。
(3)アミン‐N‐ポリカルボン酸類がエチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸である前記(1)又は(2)記載の定量方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の定量方法において用いられるTb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体については、それと光受容配位子とが化合して三元錯体を形成するものであれば特に制限されないが、好ましくは配位子のアミン‐N‐ポリカルボン酸類として、Tb(III)イオンとの錯生成定数の大きな、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸や、これらに対応するプロピオン酸誘導体などが用いられる。
【0007】
このような配位子をもつTb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体としては、特にNa[Tb(H2O)3EDTA]5H2Oが錯体の安定性の点で好ましい。Tb(III)イオンの配位数は8であり、6配位のEDTAなどが結合しても2個の配位座が残る。従って、この残った配位サイトを用いて単座や2座の配位子との三元錯体を形成することが可能である。この錯体は単離精製したものを用いるのが好ましい。
【0008】
Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体は、水溶液中において、前記の残った配位サイトに、光受容配位子を結合させて三元錯体を形成させることができ、これを光で励起することにより、特有のシャープな黄緑色蛍光を発生させることができる。これは、配位子が光エネルギー受容体となり、このエネルギーがTb(III)に流れ込むことにより生じる。この黄緑色蛍光は、例えば波長317nmの励起光を用いた場合で蛍光波長548nmのものとして得られる。この光受容配位子としては特に2‐ヒドロキシ‐5‐スルホ安息香酸(5‐スルホサリチル酸)が蛍光強度の安定性と化学的安定性の点で好ましい。
【0009】
そして、このような黄緑色蛍光を発生させうる、三元錯体は、水溶液中においてカテコールアミンが加えられると、配位結合されている光受容配位子がカテコールアミンにより置換され、黄緑色蛍光が少なくとも部分的に消失し、該蛍光強度が減衰あるいは低下するか、なくなるという特有の挙動を示す。
次に、この置換反応の1例のスキームを示す。
【0010】
【化1】
【0011】
この反応スキームに示されるように、黄緑色蛍光を発生させるようにした系における、Tb(III)‐EDTAと5‐スルホサリチル酸との三元錯体に対し、カテコールアミンが加えられると、これが5‐スルホサリチル酸と置換して、Tb(III)‐EDTAに配位結合するように作用し、5‐スルホサリチル酸は遊離し、それにより黄緑色蛍光が消失する。
【0012】
本発明方法においては、Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と光受容配位子との三元錯体を含む水溶液の示すこのような挙動を利用して、カテコールアミンを含む試料が、Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と光受容配位子との三元錯体を含む水溶液に加えられる。
黄緑色蛍光を発生させるようにした系においては、上記挙動が顕著に発現する、pH11〜13好ましくは11.5〜12.5といった12付近のpH範囲に特定することが重要である。
【0013】
このような系を調製するには、例えば、カテコールアミンを含む試料を、Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と光受容配位子との三元錯体を含む水溶液に加えたのち、pHをpH調整剤で11〜13好ましくは上記12付近の範囲に調整するか、あるいはカテコールアミンを含む試料を、Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と光受容配位子との錯体及びpH調整剤を含む水溶液に加え、その結果該水溶液がpH11〜13好ましくは上記12付近となるようにすることにより行われる。pHがこの範囲を逸脱すると、蛍光強度の変化が小さくなり、感度が低下する。pH調整剤としては、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0014】
上記の、Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と光受容配位子との三元錯体を含むか、あるいは該錯体に加えさらにpH調整剤を含む水溶液は、例えばTb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体水溶液と光受容配位子水溶液とを混合するか、あるいはこれらとpH調整剤又はその水溶液とを混合することにより調製することができる。
【0015】
上記水溶液においては、Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸錯体及び光受容配位子は、該水溶液全量に対し、好ましくは、前者で5×10-6〜5×10-5モル/リットルの濃度範囲となるように、また後者で前者の濃度の2〜6倍、好ましくは3〜5倍の濃度範囲になるように供される。
このような条件下では、カテコールアミンによる前記置換反応は室温において、通常30秒以内に平衡に達する。また、その蛍光強度は大気下で1時間以上安定である。
【0016】
Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と光受容配位子との錯体において蛍光を発生させるための励起光の波長は、240〜260nm又は320〜340nmの範囲が好ましい。例えば、実施例1のように所定EDTA錯体と5‐スルホサリチル酸を用いる場合には、258nmで最大の蛍光強度が発現されるのでこの波長を用いるのが最適である。
【0017】
本発明方法では、前記したように、所定三元錯体を含む水溶液に、カテコールアミンを含む試料を加え、かつpHを11〜13とした水溶液を調製したのち、励起光により黄緑色蛍光を発生させ、該蛍光強度の減衰度に基づいて該試料中のカテコールアミンの濃度が求められる。
なお、試料中のカテコールアミンの濃度は、上記蛍光強度の減衰度に対応して求まるカテコールアミン量と、試料自体の用量とから当然のこととして求められる。
【0018】
本発明方法において、具体的には、前記したように、所定三元錯体を含む水溶液に、カテコールアミンを含む試料を加え、かつpHを11〜13とした水溶液を調製したのち、励起光により黄緑色蛍光を発生させ、該蛍光強度を、カテコールアミン濃度と蛍光強度との関係を示す検量線と照合して該試料中のカテコールアミンの濃度が求められる。この場合、先ず、蛍光光度計を用いて、上記のように調製された水溶液において発生させた所定蛍光の蛍光強度とカテコールアミン濃度との関係を示す検量線を作成し、この検量線に基づいて、カテコールアミン含有試料を定量するのが簡便である。
【0019】
本発明方法によれば、微量あるいは希薄濃度のカテコールアミンの定量が可能になる。例えば、DL‐アドレナリンの場合には、ブランクの3σ値から求めた検出限界は約180ppb(1×10-6モル/リットル)で、それから約91ppm(0.5ミリモル/リットル)までの広範囲の濃度のものの定量に対応することができる。
【0020】
本発明方法においては、例えばカテコールアミン濃度2×10-5モル/リットルの系の定量の場合、塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオンがそれぞれ1×10-3モル/リットル程度共存しても、これらの妨害を受けない。
【0021】
本発明方法で定量される対象物すなわち検体である、カテコールアミンを含む試料(カテコールアミン含有試料)としては、カテコールアミンを微量含む血液、血漿、リンパ液又は尿等の生体試料が挙げられる。
【0022】
本発明方法は、生体試料に多く含まれる、鉄(III)、銅(II)、亜鉛(II)イオン等の金属イオンにより妨害されることがあるが、これはマスキング剤、例えばEDTAのようなキレート剤を用いることにより防ぐことができる。EDTAを用いる場合、これを適当量、例えば1ミリモル/リットル程度過剰に加えることで、これら金属イオンは、それぞれ1×10-5モル/リットル、1×10-5モル/リットル、1ミリモル/リットル程度の濃度で混在していても本発明方法の支障にはならない。
【0023】
本発明方法に用いられるTb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体水溶液は常温で安定に保存でき、例えばTb(III)‐EDTA水溶液は、常温で1ヶ月以上安定に保存可能である。
【0024】
【発明の効果】
本発明方法によれば、試料中のカテコールアミンを、室温で迅速に蛍光強度測定法により定量することができる。本発明方法は、定量可能範囲が広く、かつ錯体が水溶液中で長期間安定であるため、リンパ液、血液、尿や、それらから抽出・濃縮されたカテコールアミンの定量に好適であり、極めて実用的価値が高い。
【0025】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
実施例1
25mlメスフラスコ中で、5ミリモル/リットルのNa[Tb(H2O)3EDTA]5H2O水溶液100μl、10ミリモル/リットルの5‐スルホサリチル酸水溶液200μl及び1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液250μlを混合してTb(III)−EDTA−5‐スルホサリチル酸三元錯体を含む水溶液を調製し、これにDL‐ノルアドレナリンを含む検液を加え、イオン交換水を用いて全量25mlとした。2、3分室温で放置した後に、蛍光光度計にて励起波長258nmとした際の蛍光スペクトルを得た。添加したDL‐ノルアドレナリンの濃度が高くなるに従い、蛍光波長約548nmにおける各最大ピークの黄緑色蛍光の強度が減少することが認められた。蛍光スペクトルの変化を図1に示す。図1において、横軸は励起波長258nmの際の蛍光波長を、縦軸は相対蛍光強度を表わす。Na[Tb(H2O)3EDTA]5H2O及び5‐スルホサリチル酸の濃度は、それぞれ2×10-5モル/リットル及び8×10-5モル/リットル、反応溶液のpHは12である。図中、A、B、C、D、E、FはそれぞれDL‐ノルアドレナリン濃度0モル/リットル、0.5×10-6モル/リットル、1×10-5モル/リットル、2×10-5モル/リットル、4×10-5モル/リットル、1×10-4モル/リットルの検液をそれぞれ添加した場合のものである。他の種類のカテコールアミンである、DL‐ドーパミンやDL‐アドレナリンでも同様の蛍光スペクトルの変化を示すグラフが得られた。
【0027】
実施例2
実施例1における図1の各最大ピークの黄緑色蛍光強度とDL‐ノルアドレナリンのモル濃度の対数値とを関数として図2に示す検量線を作成した。全量25mlの測定液に対して、180ppb〜91ppm(1×10-6〜5×10-4モル/リットル)の範囲のDL‐ノルアドレナリンの定量が可能であることが分る。
図2の検量線において、横軸はDL‐ノルアドレナリンのモル濃度の対数値、縦軸は相対蛍光強度を表わす。測定における励起波長は258nmであり、蛍光検出波長は548nmである。Na[Tb(H2O)3EDTA]5H2O及び5‐スルホサリチル酸の濃度は、それぞれ2×10-5モル/リットル、8×10-5モル/リットル、反応溶液のpHは12である。
他の種類のカテコールアミンである、DL‐ドーパミンやDL‐アドレナリンでも同様の曲線からなる検量線が得られた。
【0028】
実施例3
蛍光強度とpHの関係をDL‐ノルアドレナリンの存在下、非存在下で調べた。5×10-3モル/リットルのNa[Tb(H2O)3EDTA]5H2O水溶液100μl、10-2モル/リットルの5‐スルホサリチル酸水溶液200μl、それにDL‐ノルアドレナリンを加える試料については0.01モル/リットルのDL‐ノルアドレナリン水溶液50μlを添加し、1モル/リットルのNaOH水溶液の添加量を0〜12.5mlまでの適量加え、イオン交換水を用いて全量25mlとした。各々の溶液の蛍光光度及びpHを測定した。548nmにおける蛍光強度とpHの関係を図3にグラフで示す。図3において、横軸は溶液のpH、縦軸は相対蛍光強度を表わす。Na[Tb(H2O)3EDTA]5H2O及び5‐スルホサリチル酸の濃度は、各々2×10-5モル/リットル、8×10-5モル/リットルであり、水酸化ナトリウムにてpH調整を行った。●はDL‐ノルアドレナリン非存在下での、また、○はDL‐ノルアドレナリン2×10-5モル/リットル存在下での蛍光強度変化をそれぞれ示す。他の種類のカテコールアミンである、DL‐ド‐パミンやDL‐アドレナリンでも同様のグラフで示される測定結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1においてDL‐ノルアドレナリンを添加した場合における蛍光スペクトルの変化を示すグラフ。
【図2】 実施例2において作成した検量線を示すグラフ。
【図3】 実施例3における蛍光強度とpHの関係を示すグラフ。
Claims (3)
- Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と2‐ヒドロキシ‐5‐スルホ安息香酸、1,2‐ジヒドロキシベンゼン‐3,5‐ジスルホン酸又は2,3‐ジヒドロキシナフタレンからなる光受容配位子との三元錯体を含む水溶液に、カテコールアミンを含む試料を加え、かつpHを11〜13とした水溶液を調製したのち、励起光により黄緑色蛍光を発生させ、該蛍光強度の減衰度に基づいて該試料中のカテコールアミンの濃度を求めることを特徴とするカテコールアミンの定量方法。
- Tb(III)−アミン‐N‐ポリカルボン酸類錯体と2‐ヒドロキシ‐5‐スルホ安息香酸、1,2‐ジヒドロキシベンゼン‐3,5‐ジスルホン酸又は2,3‐ジヒドロキシナフタレンからなる光受容配位子との三元錯体を含む水溶液に、カテコールアミンを含む試料を加え、かつpHを11〜13とした水溶液を調製したのち、励起光により黄緑色蛍光を発生させ、該蛍光強度を、カテコールアミン濃度と蛍光強度との関係を示す検量線と照合して該試料中のカテコールアミンの濃度を求めることを特徴とするカテコールアミンの定量方法。
- アミン‐N‐ポリカルボン酸類がエチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸である請求項1又は2記載の定量方法。
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