JP3741519B2 - 有機高分子系グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法、下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法 - Google Patents
有機高分子系グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法、下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3741519B2 JP3741519B2 JP14817097A JP14817097A JP3741519B2 JP 3741519 B2 JP3741519 B2 JP 3741519B2 JP 14817097 A JP14817097 A JP 14817097A JP 14817097 A JP14817097 A JP 14817097A JP 3741519 B2 JP3741519 B2 JP 3741519B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- organic polymer
- agent
- group
- liquid
- water
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な有機高分子系グラウト剤組成物に関する。またその有機高分子系グラウト剤組成物を用い、軟弱崩壊性地盤や漏水地盤に加圧注入し、該地盤を固結させて安定化させる地盤改良方法、老朽化した下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法等に関する。
詳しくは基本的に1ショット注入方式〜2ショット注入方式のいずれかで取扱え、高強度で弾性に富む有機高分子ゲルを生成させることで、離漿がなく長期間安定な、基本的に2液型の新規な有機高分子系グラウト剤組成物を提供し、かつその該グラウト剤組成物を含有する薬剤を加圧注入し固結させて行なう地盤改良方法、老朽化した下水道管の地下水止水方法やその他有害物質封止方法等に関する。
【0002】
ここで地盤改良方法とは、建設基礎掘削工事現場、地下鉄掘削工事現場、下水道敷設の為の掘削工事現場、液状化によって地上構築物に多大な被害が予想されその危険回避を目的とした地盤改良工事現場等の脆弱あるいは漏水地盤(以下単に不安定地盤と言う)に地盤注入用グラウト剤(以下単にグラウト剤と言う)を加圧下で注入浸透または噴射混合させて該地盤を一体固結させ、これによって不安定地盤の透水性を極限まで低下せしめるとともに強固な耐久性の有る地盤へと改良する為の方法を言う。
【0003】
また老朽化した下水道管の地下水止水方法とは、特に口径があまり大きくない公知の自送式パッカー注入器を介して止水工事が可能な老朽化下水道管を対象とし、該亀裂欠陥や接合部欠陥や欠損部等で見られる地下水漏出箇所または下水漏出箇所を長期間止水する方法を言う。
また有害物質封止方法とは、銅、鉛、カドミウム、錫、亜鉛、ヒ素、6価クロム等で代表される人体に有害な該金属化合物を多量に含有する産業廃棄物や鉱砕などから、降雨時の水への浸透及びその溶解流出によって該有害元素を高濃度で含む汚染水が系外へ漏出して2次災害が発生することがないように、極限まで非透水性を向上させる方法を言う。
【0004】
なお、1ショット方式とは主剤と硬化剤とを予め混合し、その混合液を単管等を介して1液で注入する方法であり、また1.5ショット方式とは主剤と硬化剤とを注入管入口附近で衝突混合させてその混合液を注入する方法を言う。また更に2ショット方式とは主剤と硬化剤とを二重管や3重管等の多重管からなる注入管を介して別々に供給し、該注入管の先端部で衝突混合させ、吐出させる方法を言う。
【0005】
【従来の技術】
従来、トンネル工事、都市土木工事に際して不安定地盤の強化安定化や止水を目的とした地盤改良方法に際しては、種々のグラウト剤がその対象地盤に応じて選定され用いられてきた。
特に現在最も多く使用されているグラウト剤には水ガラス系グラウト剤がある。一方、その使用割合はまだ少ないが有機高分子系グラウト剤組成物が1960年代後半以降種々提案され、例えばアクリルアマイド系グラウト剤、尿素系グラウト剤、ウレタン系グラウト剤等が知られている。
【0006】
アクリルアマイド系グラウト剤は該モノマーによる地下水汚染を引き起こし、人体に悪影響をもたらせた為、その使用が現在では厳しく制限されており、実質的に使用できない実態にある。
また尿素系グラウト剤とは、主に尿素とホルマリンとから誘導された尿素樹脂を主成分とするグラウト剤であるが、これには遊離ホルマリンが発生することという課題や液ライフが短いこと等の多くの課題があり、現在ではほとんど使用されなくなっている。
【0007】
またウレタン系グラウト剤では、例えば、特開昭47−36616号に水溶性モノオールとジイソシアナート化合物とから誘導された末端にイソシアナート基を有するウレタンプレポリマーを主成分とする有機高分子系グラウト剤組成物に関する開示がある。また例えば、特開昭50−152507号には、イソシアナートプレポリマーと水との混合液を地盤改良液とする地盤改良方法に関する開示があり、また特に近年では特開平3−293424号、特開平4−102615号等に於いてウレタン系グラウト剤を用いた岩盤固結工法に関する開示例が数多く見られる。
【0008】
また更に、ウレタン系の2液型の土層硬化剤組成物に関する開示例が、例えば特開平4−185694号や特開平4−185695号等に見られる。また特開平5−78665号等には、発泡硬化を特徴とするウレタン系グラウト剤組成物を用いてなる岩盤固結用薬剤に関する開示例がある。また例えば特開平4−283290号には珪酸ソーダ水溶液(水ガラス溶液)とポリイソシアナート組成物とを用いた土質などの安定化用注入薬液組成物及びそれを用いた安定強化止水工法に関する開示がある。また浸透性や耐久性にすぐれたウレタン系グラウト剤組成物に関する開示例では、特開平6−207174号等に代表される開示がある。
すなわち近年の有機高分子系グラウト剤には、ウレタン系グラウト剤がその耐久性と高度な止水性の点から注目され、岩盤固結安定化剤として高い評価を得ている。該組成物が唯一有機高分子系グラウト剤として現在でも使用されている代表的な例である。
【0009】
しかしながら、前記した公知のウレタン系グラウト剤のおおくは毒性の強いイソシアナート化合物やその誘導体を大量に取扱うため、薬傷の危険性や引火火災の危険性が強く懸念されているのが現状である。
【0010】
ところで平成7年1月に発生した阪神大震災の被害は軟弱地盤上及びその地下部分に構築された構造物に多大な被害が発生した事実から、その復旧方法や不安定地盤上のすべての構造物に対する安全性確保や恒久的な対地震基礎土木構築方法等に大きな課題を提起したと言える。特に主要な都市部の、液状化が予想される地盤上にすでに構築された種々の公共的重要構造物の安全性確保が強く求められており、そのような意味においても、安全に取扱え、優れた長期耐久信頼性のある新規なグラウト剤が市場に早期に提供されることが強く要求されている。同様に埋立地や砂地盤等の軟弱地盤上やその内部に、新規に大型構造物を建造または増築する等のニーズにおいても恒久的な地盤改良とその強化安定確保が必須となっている点からも同様である。
【0011】
また最近では、軟弱地盤の市町村部に於いてすら地下空間利用が盛んに行なわれようとしているのが現状であり、地下土木作業に際して中長期(3ケ月から数年の間)の地盤の強化安定化は必須であり、中長期の事前の地盤安定化工事が強く求められており、その為のグラウト剤が必要となっている。
また近年の主要な社会問題の中の1つとして、屋外に放置または貯蔵されている有害な重金属イオンを多く含む鉱砕や同産業廃棄物などがのざらしで放置されると、その結果、人が住む環境が著しく汚染され動植物等に甚大な被害をもたらす危険性が懸念されている。従って、このような環境汚染による被害を防止することという課題を緊急に解決する方法等が求められており、その有害物質の封止方法が模索されている。
かかる社会情勢に照らすと、特に安全性が充分確保された浸透注入固結性とその耐久性(恒久性)および高止水性(非透水性)に富んだ新規な有機高分子系グラウト剤を早期に提供することは大変意義深いものがあると言える。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記したように、中長期の耐久性が十分期待できる安全性に富んだ有機高分子系グラウト剤に関する組成物が強く求められており、その要請に添う新規な組成物を提供することにある。
より具体的には、以下の5つの主な課題を同時に解決することが可能な新規な有機高分子系の溶液型ないし半懸濁型グラウト剤を提供することにある。
【0013】
その1として、高い浸透注入固結性を持ち、長期間その固結強度安定化が図れるなどの恒久性・耐久性機能に富んでいること。
その2として、基本的に主剤・硬化剤の2液型からなり、瞬結(数秒ゲル化)から長結(数時間ゲル化)までゲルタイムを容易に調整可能であること。
その3として、1ショット方式〜2ショット方式のいずれかの方式で容易に取扱え、注入管理が容易に出来ると共に、注入作業現場の安全性が確保されていること。
その4として、固結ゲルは経日でほとんど離漿することなく高弾性でかつ耐酸性や耐アルカリ性に優れること。
その5として、注入固結体の透水性が極めて小さく、止水効果が高いこと。
【0014】
【課題を解決する為の手段】
本発明者は鋭意研究を行なった結果、前記課題を解決する為の手段として、特定された成分からなる熱硬化性プレポリマー含有組成物をグラウト剤組成物とすることで、前記課題
(目的)を解決することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の有機高分子系グラウト剤とは、主剤液が、下記の一般式(1)[化3]
【化3】
−Si(R1)n−(X)3-n (1)
(但し、R1は水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Xは−OH基、−O-・Na+基、−O-・K+基または−O-・Li+基から選ばれた少なくとも1種、nは0〜1をそれぞれ表す。)
で表される活性シラノール基末端が1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、その活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲である活性シラノール基含有プレポリマーの1種または2種以上の1〜75重量%を含有して成る水溶液であり、その100容量部に対し、硬化剤液が、カルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有する酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを適宜含有する無機混合物からなる無機質硬化剤の0.1〜80重量%を含有してなる水溶液であり、その1〜500容量部とを混合して成る有機高分子系グラウト剤である。
【0016】
また本発明の地盤改良方法とは、不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式〜2ショット方式のいずれかの方式で本発明の有機高分子系グラウト剤を加圧注入し固結させて、該地盤を強化または止水し或いは止水性を極限まで高めることを特徴とする地盤改良方法である。
【0017】
特に好ましい該地盤改良方法には、不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式〜2ショット方式のいずれかの方式で本発明の異なるゲルタイムを有する有機高分子系グラウト剤の2種以上を用いて複相注入し固結させて、該地盤を強化または止水し、或いは止水性を極限まで高めることを特徴とする地盤改良方法が挙げられる。
【0018】
また本発明の下水道管の地下水止水方法とは、地下埋設下水道管の地下漏水箇所に対し、小口径の自送式パッカー注入器を介して本発明の有機高分子系グラウト剤をその漏水部とその周辺に加圧注入し固結させて止水することを特徴とする下水道管の地下水止水方法である。
【0019】
また本発明の有害物質封止方法とは、屋外に放置または貯蔵されている重金属イオン等の有害物質を含む鉱砕や産業廃棄物から、降雨等の浸透水によって該有害物質が外部に漏出するのを極限まで抑制するに際し、本発明の有機高分子系グラウト剤を使用し、該有害物質と一体固結させることにより、該有害物質の雨等の水による外部への漏出を防止することを特徴とする有害物質封止方法である。
【0020】
前記した本発明の有機高分子系グラウト剤では以下に示す態様がより好ましい。すなわち、主剤液は、その単独液のpH値が特に9〜14のアルカリ性または0.1〜6の酸性のいずれかに調整されていることが好ましく、より好ましくは、主剤液は、その単独液のpH値が特に0.5〜3の強酸性を示すように、事前に調整されていることがより好ましい。また更には、その単独液のpH値が特に10〜13.8の強アルカリ性を示すように事前に調整されていることが大いに最も好ましいことである。
【0021】
また更に、主剤液中の活性シラノール基含有プレポリマー含有濃度が5〜50重量%にありその主剤液の100容量部に対し、硬化剤液の20〜100容量部とを混合させることを特徴とすることは大いに好ましいことである。そして活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部が、エチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるポリエーテルであることを特徴とすることはより大いに好ましい態様である。
【0022】
また前記した一般式(1)のR1がメチル基またはエチル基、一般式(1)のXが−OH基、−O-・Na+基または−O-・K+基のいずれかからなることや、活性シラノール基含有プレポリマーが、その活性シラノール基末端を1分子中に平均2〜6ケ含有し、かつその活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲にあることなどもまた特に最も好ましい態様のひとつである。
【0023】
またその活性シラノール基含有プレポリマーが、総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲のポリエーテルモノオール及び/またはポリエーテルポリオールと、下記一般式(2)[化4]
【化4】
OCN−R2−Si(R3)m−(Y)3-m (2)
(但し、式中のR2は炭素数3以上のアルキレン基を、R3はメチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Yは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基、オキシム基またはアセトキシル基から選ばれた1種、mは0〜1をそれぞれ表す。)
で表されるイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲で反応させて得た活性シリル基含有プレポリマーを、更にアルカリ金属水酸化物含有水溶液や無機酸含有水溶液のいずれかの存在下で加水分解して調整されたものであることはより更に好ましい態様である。
【0024】
またそのイソシアナートシランが、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルジエトキシメチルシランまたはγ−イソシアナートプロピルジメトキシメチルシランから選ばれた1種とすること、またそのポリエーテルポリオールが、総和重量平均ヒドロキシル価が20mgKOH/g〜350mgKOH/gの範囲、かつそのポリエーテル鎖長部がエチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるジオ−ル及び/またはトリオールであり、NCO/OH当量比が0.95〜1.05の範囲であることを特徴とすることはより更に最も好ましい態様と言える。
【0025】
また本発明の有機高分子系グラウト剤では、無機質硬化剤がブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつセメント粉、水砕スラグ粉、無水石膏、半水石膏または2水石膏等から選ばれた1種または2種以上から成ることが良い。
【0026】
また無機質硬化剤がブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にある生石灰及び/または消石灰であることや、無機質硬化剤がブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつ酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたは塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であること、または無機質硬化剤がブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にある塩化アルミニウムであることをそれぞれ特徴とすることは特に最も好ましい態様である。
即ち、本発明は以下の(1)〜(19)を提供するものである。
【0027】
(1) 主剤液が、下記一般式(1)[化5]
【化5】
−Si(R1)n−(X)3-n (1)
(但し、R1は水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Xは−OH基、−O-・Na+基、−O-・K+基または−O-・Li+基から選ばれた少なくとも1種、nは0〜1をそれぞれ表す。)
で表される活性シラノール基末端が1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、その活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲である活性シラノール基含有プレポリマーの1種または2種以上の1〜75重量%を含有する水溶液であり、
硬化剤液が、カルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有する酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを含有する無機物混合物からなる無機質硬化剤の0.1〜80重量%を含有する水溶液であり、該主剤液の100容量部に対して、該硬化剤液の1〜500容量部を混合して成る有機高分子系グラウト剤。
【0028】
(2) 主剤液が、その単独液のpH値が9〜14のアルカリ性または0.1〜6の酸性のいずれかに調整したものであることを特徴とする(1)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0029】
(3) 主剤液が、その単独液のpH値が0.5〜3の強酸性となるように、硬化剤液と混合する前に事前に調整されたものであることを特徴とする(1)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0030】
(4) 主剤液が、その単独液のpH値が10〜13.8の強アルカリ性となるように、硬化剤液と混合する前に事前に調整されたものであることを特徴とする(1)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0031】
(5) 活性シラノール基含有プレポリマーの含有濃度が5〜50重量%である主剤液の100容量部に対し、硬化剤液の20〜100容量部を混合してなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0032】
(6) 活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部が、エチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるポリエーテルであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0033】
(7) 一般式(1)のR1がメチル基またはエチル基のいずれかであり、Xが−OH基、−O-・Na+基または−O-・K+基のいずれかであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0034】
(8) 活性シラノール基含有プレポリマーが、その活性シラノール基末端を1分子中に平均2〜6ケ含有し、かつその活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0035】
(9) 活性シラノール基含有プレポリマーが、総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲であるポリエーテルモノオール及び/またはポリエーテルポリオールと、下記一般式(2)[化6]
【化6】
OCN−R2−Si(R3)m−(Y)3-m (2)
(但し、式中のR2は炭素数3以上のアルキレン基を、R3はメチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Yは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基、オキシム基またはアセトキシル基から選ばれた1種、mは0〜1をそれぞれ表す。)
で表されるイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲で反応させて得られた活性シリル基含有プレポリマーを、更にアルカリ金属水酸化物含有水溶液または無機酸含有水溶液のいずれかの存在下で加水分解して得られたものであることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0036】
(10) イソシアナートシランが、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルジエトキシメチルシランまたはγ−イソシアナートプロピルジメトキシメチルシランから選ばれた1種であることを特徴とする(9)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0037】
(11) ポリエーテルポリオールが、総和重量平均ヒドロキシル価が20mgKOH/g〜350mgKOH/gの範囲であり、かつそのポリエーテル鎖長部がエチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるジオ−ル及び/またはトリオールであり、NCO/OH当量比が0.95〜1.05の範囲であることを特徴とする(9)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0038】
(12) 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつセメント粉、水砕スラグ粉、無水石膏、半水石膏または2水石膏等から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0039】
(13) 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつ生石灰及び/または消石灰であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0040】
(14) 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつ酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたは塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0041】
(15) 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にある塩化アルミニウムであることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0042】
(16) 不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式、1.5ショット方式または2ショット方式のいずれかの方式で(1)〜(15)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤を加圧注入し固結させて、該地盤を強化または止水することを特徴とする地盤改良方法。
【0043】
(17) 不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式、1.5ショット方式または〜2ショット方式のいずれかの方式で、(1)〜(15)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤の中から選択され、かつ異なるゲルタイムを有する該有機高分子系グラウト剤の2種以上を用いて複相注入し固結させて、該地盤を強化または止水することを特徴とする地盤改良方法。
【0044】
(18) 地下埋設下水道管の地下漏水箇所に対し、小口径の自送式パッカー注入器を介して(1)〜(15)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤をその漏水部及びその周辺に加圧注入し固結させて止水することを特徴とする下水道管の地下水止水方法。
【0045】
(19) 屋外に放置または貯蔵されている重金属イオン等の有害物質を含む鉱砕または産業廃棄物から、水等により該有害物質が外部へ漏出するのを防止する有害物質封止方法であって、(1)〜(1)5のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤を使用して、該有害物質と一体固結させることにより、該有害物質が外部へ漏出するのを防止することを特徴とする有害物質封止方法。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下に本発明をより詳細に説明する。
本発明の有機高分子系グラウト剤は、要約すると活性シラノール基含有プレポリマー(イ)と水(ロ)とカルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有してなる酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを含有する混合物から成る無機質硬化剤(ハ)の3成分を必須成分とするものである。
【0047】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、下記の一般式(1)[化7]
【化7】
−Si(R1)n−(X)3-n (1)
(但し、R1は水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Xは−OH基、−O-・Na+基、−O-・K+基または−O-・Li+基から選ばれた少なくとも1種、nは0〜1をそれぞれ表す。)
で表される活性シラノール基末端が1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、かつその活性シラノール基導入部分を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲である1種または2種以上からなる組成物であり、その製造方法等には特に制約はない。
【0048】
その活性シラノール基含有プレポリマー(イ)に於ける前記一般式(1)に於いて、R1として好ましくはメチル基、エチル基のいずれかであり、また好ましいXとしては−OH基、−O-・Na+基または−O-・K+基から選ばれた少なくとも1種である。特に最も好ましいXとしては、−OH基または−O-・Na+基である。
ここで、さらに詳しく説明すると、上記Xとして、−OH基を持つ活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、一般に酸性領域下で比較的安定な性質を持つ。
すなわち、酸性下で調製された活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、その水溶液中で活性シラノール基が、下記式(A)[化8]
【化8】
のように解離していて良く、負電荷を持った安定なミセル及び/又は微小コロイドを成していて良い。
【0049】
また、Xとして−O-・Na+基及び/又は−O-・K+基を持つ前記(イ)は、一般にアルカリ性領域下で比較的安定な性質を示す。
すなわち、pH値で9〜13のアルカリ性領域下で調製された(イ)は、その水溶液中で活性シラノール基が、下記式(B)[化9]及び/又は式(C)[化10]で示されるような解離平衡にあるものとして良く、正電荷を持った安定なミセル及び/又は微小コロイドを成していて良い。
【化9】
【化10】
また、例えば1分子中に−Si−O-・Na+と−Si−O-・K+のように、両方の活性シラノール基を持つものであっても好ましく包含される。
【0050】
前記一般式(1)の官能基構造からも明らかなように、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、条件によっては、単独で30分以内の比較的短時間内に急増粘したりゲル化して架橋構造を形成する等の基本的性質を持つ。
特に主剤液中の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)含有濃度が必要以上に高かったりするとその挙動が顕著に表われる傾向がしばしば見られる。したがって本発明の主剤液では活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の含有濃度を1〜75重量%の範囲とすることが肝要なこととして挙げられる。より好ましくは1〜60重量%の範囲、更に好ましくは5〜50重量%の範囲とすることが良い。
【0051】
その活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の水希釈溶液は、特に制約されるものではないが、例えば一般式(1)中のXが−OH基主体である場合は酸性領域で取扱うことが肝要なことであり、また一方、例えば一般式(1)中のXが−OH基とその他の基、例えば−O-・Na+基、−O-・K+基または−O-・Li+基等の1種とが主体であったりする場合にはアルカリ性領域で取扱うことが、液ライフを確保する意味で好ましいこととして挙げられる。
【0052】
ところで、本発明記載の前記した活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を得る為には、その前駆体樹脂として下記一般式(3)[化11]
【化11】
−Si(R4)m−(Z)3-m (3)
(但し、R4は塩素原子、水素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Zは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基、オキシム基またはアセトキシル基から選ばれた1種、mは0〜1をそれぞれ表す。)
で表される活性シリル基末端を1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、かつその活性シリル基導入部分を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲にある活性シリル基末端含有ポリマー(以下の記載では単にプレポリマーと呼び活性シラノール基含有プレポリマーと区別して用いる。)が好ましい前駆体樹脂例として挙げられる。
そして、そのプレポリマーをアルカリ金属水酸化物や無機酸の存在下に水で加水分解し、必要に応じて単分子有機縮合成分を形外へ除去する等の製造方法によって、容易に本発明の主剤液として必須な活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を容易に得ることが出来る。
【0053】
上記したアルカリ金属水酸化物としては、具体的例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられ、その1種または2種以上を併用して用いても良い。好ましくは水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムである。一般的に前記アルカリ金属水酸化物の使用割合は、特に制約されるものではないが、一般式(3)のZで表される基の1モル当量に対して0.1〜2モル当量に相当する量を用いることが好ましい。より好ましくは0.3〜1.2モル当量相当分である。より最も好ましくは0.5〜1モル当量相当分を用いると良い。
【0054】
また、無機酸としては、すでに公知の強酸性無機単量体物質が挙げられ、特に制約はない。具体的な例としては、例えば塩酸、炭酸、硝酸、硫酸、燐酸、ホウ酸等を例示できる。その無機酸の使用割合は一般的には、所謂触媒として使用する量で十分である。具体的には、反応系pH値を酸性に保つ量が良く、より好ましくはpHが0.5〜3の範囲で保てる量とすることが良い。
【0055】
また更に、必要に応じて行なう単分子有機縮合成分を形外へ除去する手段としては、特に制約はなく、例えば減圧処理、空気バブリング処理、限外ロ過精製処理などを適宜選択して用いれば良い。その時の温度条件等については制約はないが、室温〜100℃未満、好ましくは20℃〜80℃で行なうことが好ましい。
【0056】
従って、本発明の主剤液の構成成分としては、結果的に、前記活性シラノール基含有プレポリマー(イ)と水(ロ)以外にプレポリマーに由来する単分子有機縮合成分、過剰なアルカリ金属水酸化物、遊離無機酸などを適宜含有していて何等問題ない。むしろアルカリ金属水酸化物の存在は大いに好ましい。
【0057】
その際、プレポリマーの加水分解反応処理に於いて、本発明の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)が直ちにゲル化したりまたは著しい増粘がないようにプレポリマーの加水分解条件をあらかじめ適切に求めておく等の、事前の製造条件の検討をおこなって好ましい条件を求める工夫が必要であることは言うまでもない。
すなわち、プレポリマーを本発明の活性シラノール基含有プレポリマーの前駆体樹脂として用いる際には、一般的に、例えば比較的高濃度の酸性水溶液中に、最終的に75重量%以下の活性シラノール基含有プレポリマー濃度となるようにプレポリマーを少しずつ添加し、すばやく加水分解反応を完結させる方法で製造出来る。必要に応じて脱縮合成分処理を行なうことも良い方法である。また別の方法として、例えば比較的高濃度のアルカリ水溶液中に、最終的に75重量%以下の活性シラノール基含有プレポリマー濃度となるようにプレポリマーを少しずつ添加し、すばやく加水分解反応を完結させる方法も同様に製造方法として採用できる。そして必要に応じて脱縮合成分処理を行なうことも良い方法である。
【0058】
従って、本発明の主剤液を事前に調整する際に用いることが出来る前記の前駆体樹脂の使用量は、酸またはアルカリ性の水溶液中に高くともおおよそ80重量%以内、好ましくは65重量%以内、更に好ましくは55重量%以下とすることが肝要なこととして挙げられる。
【0059】
本発明の主剤液を構成している成分としてはすでに説明しているように、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)と水(ロ)とから成っている。
一方、前記した一般式(3)の活性シリル基含有プレポリマー等も、その基本的な性質として加水分解反応や本発明の硬化剤液と共存させることで架橋体を形成する性質を持つ。従って、本発明の主剤をあえて活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を含有する水溶液とする理由は、プレポリマー主体の主剤液ではその硬化反応には加水分解反応が必須であると同時に単分子有機縮合成分の遊離が伴うという課題があるが、本発明の主剤液組成物ではその課題が解消されると言うことが利点としてまず挙げられる。すなわち、本発明の主剤液組成物ではより安定したゲル化挙動とその固結強度特性が確保出来ることが、本発明の有機高分子系グラウト剤の特徴点の一つとして加えることが出来る。
【0060】
また一般にプレポリマー自体が疎水性の強い物質である場合、水と混合すると2層分離する為に水媒体からなる有機高分子系グラウト剤組成物の形成が全く困難であるという課題があった。それに対し、本発明の主剤液組成物では、そうした疎水性の強い基本的に水と非相溶な性質を示す(2層分離する性質)プレポリマーを前駆体樹脂として用いて誘導された活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、親水性や自己乳化性に富むものとなり、結果として全く2相分離することのない良好な水混和性の性質を発揮するのである。またその架橋ゲルは水にほとんど不溶な強固な固結体を形成する。
【0061】
すなわち、そうした水と非相溶な性質を示す(2層分離する性質)プレポリマーを前駆体樹脂として用いて誘導された本発明の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)含有水溶液を本発明の主剤液として用いると、そのホモゲル固結体は疎水性/親水性バランス比(sp値とも言う)が高く設定できる結果、ホモゲルの耐水性や非水膨潤性が著しく向上する。また例えばそれを用いて行なった地盤改良固結体(サンドゲル)に於いても長期耐水耐久性や非透水性が従来にない高性能を発揮する特徴を持つという結果を生んだのである。
【0062】
従って、本発明の有機高分子系グラウト剤の主要な特徴の一つに加えられるべき性質としては、前記したこと、即ち、本発明の水系の有機高分子系グラウト剤の固結体の疎水性/親水性バランス比を極限まで向上させることが可能になるということが挙げられる。
【0063】
また前記した前駆体樹脂以外の前駆体樹脂を用いて本発明の主剤液を調整または製造することも本発明に好ましく包含される。その前記した以外の前駆体樹脂の例としては、例えば1分子中0.7ケ以上のジクロロシラン基及び/またはトリクロロシラン基を含有してなり、その官能基を除いた主鎖の重量平均分子量が400〜50,000の範囲にある樹脂であって、かつそれから誘導される活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、水との混合状態で、2層分離することのない油滴状やコロイド状または完全に水と混和して透明になる性質を有するものであれば好ましく含まれる。
【0064】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、活性シラノール基末端を1分子中に好ましくは0.7ケ以上有していることを必須な要件としたが、その理由は0.7ケ未満の場合には、充分なゲル強度、特に圧縮強度に欠け、良好な有機グラウト剤組成物とならない傾向にあるからである。好ましくは平均2〜6ケである。特に好ましくは平均2〜3ケである。
【0065】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量は400〜50,000であることを必須要件としたが、その理由は、400未満では、有機高分子系グラウト剤の靱性または弾性が劣り、50,000を越えると、剛性不足及び薬剤粘度が高すぎて一定範囲への地盤浸透固結性を十分確保できない傾向にあるからである。特に該主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000であると活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を比較的低粘度体の組成物とすることが出来、好ましい。
【0066】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部のガラス転移温度は特に制約されるものではないが、100℃以下とすることが良い。より好ましくは20℃以下、最も好ましくは−100℃〜10℃が良い。
【0067】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)としては、具体的には、例えばポリアルキレンオキサイドより誘導されたポリエーテルポリオールを主骨格とするいわゆるポリエーテル系高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のポリエーテル系プレポリマー、ポリエーテルエステル高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のポリエーテルエステル系プレポリマー、ポリエステル高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のポリエステル系プレポリマー、脂肪族ポリカーボネート高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のポリカーボネート系プレポリマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類の重合によって誘導される液状アクリルゴム高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のアクリル系プレポリマー、等が挙げられる。
ここで、これらのプレポリマー種の中では経済性の点でポリエーテル系プレポリマーが好ましい。
【0068】
本発明の主剤液のpH値は9〜14のアルカリ性領域、0.1〜6の酸性領域のいずれかとして良く、特に制約はないが、一般的な事実として、そのpH値によっては主剤液自体の保存安定性が異なることをここで指摘しておきたい。
すなわち、主剤液の保存安定性を長時間に渡り確保する為には、例えば本発明の主剤液pH値を最終的に0.5〜3の強酸性領域で保つことが好ましい。しかし該強酸性領域で調整された本発明の主剤液は無限の時間に対しては安定ではない。また一方、pH値を10〜13.8の強アルカリ性領域で調整された本発明の主剤液では、アルカリ水ガラス溶液と同等な良好な液保存性(液ライフ)を確保できる性質を持つ。したがって本発明の主剤液ではpH値が10〜13.8の範囲の強アルカリ性領域で取扱うことがより最も優位な態様と言える。
【0069】
前記した活性シラノール基含有プレポリマー(イ)含有水溶液である本発明の主剤液は、化学的な視点で見ると、その基本的な性質(活性)は、例えば分子内に−Si−OHや−Si−O-・Na+を主体に持つとされるアルカリ水ガラス水溶液や、主に分子内に−Si−OHを主体に持つとされる酸性水ガラス水溶液等とそれぞれ対応するpH領域においては同様な基本的性質(活性)を持つと言うことが、本発明の有機高分子系グラウト剤のもうひとつの特徴として加えることが出来る。
【0070】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、前駆体樹脂である前記したプレポリマーを適宜加水分解処理することで得られることから、好ましいプレポリマーとは、即ち、活性シリル基末端を1分子中に好ましくは0.7ケ以上有していること、好ましくは平均2〜6ケ有していること、特に好ましくは平均2〜3ケ有しているものが好ましいと言える。
また好ましいプレポリマーの主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量で見ると、その主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量は400〜50,000の範囲と言うことになる。特に主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000であるプレポリマーを本発明の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の前駆体樹脂として使用することはおおいに好ましい。
【0071】
また前記したプレポリマー自体を得る一般的な方法の例としては、例えば特開昭50−156599号公報に代表されるポリエーテル骨格を持つシリル変性組成物の製造方法、または特開昭53−139695号公報に代表されるポリエステル骨格を持つシリル変性組成物の製造方法等が具体的に適用できる。
【0072】
より最も好ましい活性シラノール基含有プレポリマー(イ)には、総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲である水溶性のポリエーテルモノオール及び/またはポリエーテルポリオールと、下記一般式(2)[化12]
【化12】
OCN−R2−Si(R3)m−(Y)3-m (2)
(但し、式中のR2は炭素数3以上のアルキレン基を、R3はメチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Yは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基、オキシム基またはアセトキシル基から選ばれた1種、mは0〜1をそれぞれ表す。)
で表されるイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲で反応させて得られたものを、更にアルカリ金属水酸化物含有水溶液または無機酸含有水溶液中のいずれかの存在下で加水分解して得られたものが挙げられる。
その理由としては、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の製造に必要な原料が市場で容易に入手できること、1段反応でプレポリマーが製造可能であること、毒性が低く保存安定性に優れる活性シラノール基含有プレポリマー(イ)が誘導できること、分子連鎖中にウレタン結合が存在することによりその固結ゲルは土や砂粒子との密着性向上がおおいに期待出来ることなどの点が挙げられる。また前記一般式(2)のYは好ましくは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基とすることがより好ましい。
【0073】
また更に、ポリエーテルポリオールの総和重量平均ヒドロキシル価が20mgKOH/g〜350mgKOH/gの範囲であり、かつそのポリエーテル鎖長部がエチレンオキサイド(以下単にEOと言う)の15〜100重量%とプロピレンオキサイド(以下単にPOと言う)またはブチレンオキサイド(以下単にBOと言う)の85〜0重量%から構成されてなるジオールまたはトリオールであり、NCO/OH当量比で0.95〜1.05の範囲であるものとすることを特徴とする前記の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)はより更に好ましい例である。
前記ジオールまたはトリオールは、より好ましくはEOの30〜90重量%とPO及び/またはBOの70〜10重量%、より最も好ましくはEOの50〜85重量%とPO及び/またはBOの50〜15重量%から構成されてなるものとすることが良い。
以下においては、ポリオールとイソシアナートシランとを反応して得られたものを更に加水分解する方法で調整された活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を特に「活性Sポリマー」と呼ぶこととする。
【0074】
前記したポリオール類は常温で液体または固体であってよく、好ましくは常温で液体のものが良い。常温で液体であるとは、単独で常温で液体であることはもちろん、2種以上のポリオールを併用した場合において、その1種以上が固体であっても混合物が常温で液体であれば含むものとする。就中、常温で固体のポリオール成分を全ポリオール中に25重量%以内で併用使用し、かつ常温で液体を保つものは好ましく使用出来る。
さらには、必須成分である水(ロ)と良く混和することで、最終的に誘導される活性シラノール基含有プレポリマー(イ)が、室温で液体またはミクロな懸濁液状態(乳化状態とも言う)を安定に保つことができるポリオール類を選定使用することもできる。
しかし、前記ポリオールが、その主鎖の高分子鎖長部のガラス転移温度または融点のいずれかがが基本的に100℃以上でかつ高結晶性の性質を持つ場合には、誘導された最終反応生成物も室温で塊状固体の性質を保持したままであり、たとえ必須成分である水(ロ)と混合されても、常温で液体を保つことが困難であるので除外されて良い。
【0075】
なお、前記した総和重量平均ヒドロキシル価とは、それぞれ分子量が異なる同種または異種のポリオール成分を単独及び/または併用使用した場合の、全ポリオール成分の平均ヒドロキシル価を表す。
【0076】
また活性Sポリマーを誘導する為に便利なポリオール原料としては、その総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲とすることが好ましいとした。この範囲であれば、活性Sポリマーを用いて調整された本発明の有機高分子系グラウト剤を用いた固結体の弾性と1軸圧縮強度等の剛性とがバランス良く確保されるからである。 またそのヒドロキシル価が10mgKOH/g未満のポリオールの使用では、誘導される活性Sポリマーが高粘度組成物となりやすく、保存性に欠け、かつまた最終的に得られる本発明の有機高分子系グラウト剤の架橋密度が不十分でホモゲル強度が低くなる傾向にあり、好ましくない。また一方、そのヒドロキシル価が450mgKOH/gを超えるポリオールの使用では、誘導された活性Sポリマーの製造単価が高くなる傾向にあり、また最終的な有機高分子系グラウト剤が硬くて脆いものとなりやすい傾向にある。
【0077】
活性Sポリマーを得る目的で使用されるポリオール原料としては公知のものを使用して良く、より具体的には例えば以下の(a)〜(f)が好ましい例として挙げられる。
(a)ポリエーテルポリオール
(b)テレケリックなアクリルポリオール
(c)ポリカーボネートポリオール
(d)非晶性ポリエステルポリオール
(e)非晶性ポリエーテルポリエステルポリオール
(f)ロジンポリオール及び/またはその水素付加物
【0078】
(a)ポリエーテルポリオールとしては公知のものであって良く、製造方法等に特に制約はないが、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン、ネオペンチルグリコール、ショ糖、トリエタノールアミン、エチレンジアミン等の安価な活性水素化合物に対し、EO、PO、BO、テトラヒドロフランなどで代表されるアルキレンオキサイド類等の原料物質をアニオン重合やカチオン重合などの方法で作用させて得たものが好ましい例として挙げられる。1分子中にヒドロキシル基が2ケ有るジオールや1分子中にヒドロキシル基が3ケ有るトリオールなどが特に好ましく使用できる。
【0079】
前記したアルキレンオキサイド類の内、EOとPOを両者のモル比で(100:0)〜(15:85)の範囲の付加重合比率で作用させて得た、末端第1級及び/または末端第2級の−OH基を有する2〜6官能性の該ポリオールが、活性Sポリマー含有水溶液としたときの溶液安定性に富むと同時に、水と良く相溶及び/またはミクロ分散安定化出来ることが認められることから好ましいポリオールの例である。また(a)は、液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲とすることが肝要なこととしてあげられる。
【0080】
(b)テレケリックなアクリルポリオールとは、分子末端に選択的にヒドロキシル基が導入された室温で液体のアクリルポリオールを意味する。その合成・製造方法の例は特開平4−132706号公報や特開平5−262808号公報等によってすでに明らかにされており、公知の方法で得てよく、特に制約はない。一般的な(b)は、1分子中にヒドロキシル基が平均2ケ導入されてなるものが挙げられる。また(b)は、液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲とすることが肝要なこととしてあげられる。
【0081】
(c)ポリカーボネートポリオールとは、ラクトン環を含有する化合物を主たる出発物質として、公知の開環触媒の存在下で開環重合反応させて得られるものであり、液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲のものが好ましく使用できる。その製造方法などには特に制約はなく、例えば市場で容易に入手できるものとして、ポリエチレンカーボネートジオール、ポリプロピレンカーボネートジオール、ポリブチレンカーボネートジオール等がある。
【0082】
(d)非晶性ポリエステルポリオールとは、室温で半固体または液体として取扱え、かつ液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲のいわゆる末端ヒドロキシ基含有ポリエステルのことである。またその(d)としては、1分子中にヒドロキシル基として2〜4ケ程度有した、いわゆる公知の軟質ポリエステルが好ましい例として挙げられる。特に制約されるものではないが、(d)の具体例には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンカーボネートジオール、エチレンカーボネートジオール、トリメチロールプロパン、シリコンポリオール、アクリルポリオール、水添オレフィンポリオール等の少なくとも1種と、公知の有機二塩基酸類とをエステル化反応させて得られたものが挙げられ、融点または針入法で測定したTgが100℃未満のものであれば使用できる。
【0083】
(e)非晶性ポリエーテルポリエステルポリオールとは、室温で半固体または液体で、かつ液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲のいわゆる軟質のポリエーテルポリエステルである。また(e)としては、1分子中に末端官能基としてヒドロキシル基を少なくとも1.2ケ以上、好ましくは2〜4ケの範囲で有し、かつポリエーテル鎖が重合度で10以上50以下の繰返し単位を持つ軟質ポリエーテルポリエステルとすることが好ましい例である。特に制約されるものではないが、例えば、分子量500〜1000程度のポリエーテルポリオールと、公知の有機二塩基酸類とをエステル化反応させて得られたものが挙げられ、融点または針入法で測定したTgが100℃未満のものが代表的である。
【0084】
(f)ロジンポリオール及び/またはその水素付加物とは、より具体的には天然ロジンやその水素付加物のグリシドール付加物であるロジンジオール誘導体や、更にそのロジンジオール誘導体に対し更にEO/POを適宜付加して高分子量化したものなどが好ましい例として挙げられ、ヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲の公知のものを適宜選定使用して良い。
【0085】
なお、前記した(c)、(d)または(e)の1種とイソシアナートシランとから誘導された活性Sポリマー等は、そのポリマーの化学的な性質として、ポリオール鎖自体の加水分解安定性がやや欠ける傾向がある。したがって該骨格を有する活性Sポリマーを含有してなる本発明の主剤液では、pHや環境温度による該要因に対する影響等の結果をよく調べて適切な配合条件の決定が成されなければならない。
【0086】
これら(a)〜(f)の中で、活性Sポリマーに関しては、(a)ポリエーテルポリオールから誘導されたものが最も好ましい。そしてその(a)ポリエーテルポリオールの総和ヒドロキシル価の値が20〜350mgKOH/gの範囲とすることがより好ましいことであり、更に好ましくは25〜300mgKOH/gの範囲とすることである。またその(a)ポリエーテルポリオールでは、特に好ましくはポリエーテル系のジオール及び/またはトリオールを挙げることが出来る。
【0087】
前記した(a)〜(f)の少なくとも1種のポリオール、更に好ましくは(a)と一般式(2)で表されたイソシアナートシランとからは、本発明の主剤液の必須成分である活性シラノール基含有プレポリマー(イ)のひとつである活性Sポリマーが非常に安価に調整できる特徴(利点)がある。
【0088】
またここで前記一般式(2)で表されるイソシアナートシランとは、特に制約されるものではないが、具体的には例えばγ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルジエトキシメチルシラン、γ−イソシアナートプロピルジメトキシメチルシラン等が知られ、それらから選ばれた1種または2種以上を選定して使用することで良い。
【0089】
また活性Sポリマーでは、好ましくは、前記した(a)のポリオールと前記のイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲、好ましくは0.9〜1.2の範囲、特に好ましくは0.95〜1.05の範囲、最も特に好ましくは1に限りなく近づけた当量比で、必要に応じて公知のウレタン化触媒の極く少量の存在下に作用させて得られるものである。NCO/OH当量比が0.7未満の場合には、誘導された活性Sプレポリマー中に未反応の遊離ポリオールが残存する為に十分なホモゲル強度の発現を見ない傾向にあり、またNCO/OH当量比で1.5を超える場合には特に顕著な弊害はないが、価格的に不利であるからである。ある程度のイソシアナートシランの残存は活性Sポリマーの粘度低下に寄与し、最終的な固結体分子に化学的に組込まれることからNCO/OH当量比が1以上となることは一向に差し支えない。
前記範囲で調整された活性Sポリマーの前駆体樹脂は、その大部分が1分子中少なくとも最低平均0.7ケ以上、より望ましくは平均2ケ〜6ケ程度、ジアルコキシシラン基及び/または同トリアルコキシシラン基が主鎖高分子の分子末端(1次反応段階で)に導入される。部分的に極く少量ヒドロキシル基が残っていても何等差し支えない。そして最終的に水で加水分解させて目的の活性Sポリマーとする。
【0090】
最終的な有機高分子系グラウト剤の速硬化適性の付与及び反応時間の短縮を図るなどの目的で前記したポリオール類とイソシアナートシランの反応に際しては公知のウレタン化反応触媒存在下で行なって良い。
【0091】
前記のウレタン化反応触媒としては、特に制約されるものではないが、例えばジブチルチンジラウレートやジブチルチンオキサイド等で代表される有機錫化合物、またオルトチタン酸アルキルエステルで代表される有機チタン化合物、その他ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛等のナフテン酸遷移金属化合物類、同オクテン酸遷移金属化合物類、アセチルアセトン遷移金属錯体類などがある。グラウト薬剤業界で、その存在量を規制または敬遠されているものに該当するとされる有機錫系ウレタン化促進触媒を添加使用する場合などでは可能な限り極く微量とすることが肝要なこととして挙げられる。
【0092】
地盤注入用グラウト剤分野に於いては設定されたゲル化時間で固結する性質とその固結ゲルが一定範囲の強度を発揮することが重要であるから、本発明の主剤液には基本的に以下の硬化剤液を必須とする。
【0093】
すなわち本発明の有機高分子系グラウト剤では、任意なゲル化調整とその固結体強度や強靱性等の確保から活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を含有する水溶液である主剤液の100容量部に対し、下記の硬化剤液の1〜500容量部を混合する。好ましくは主剤液100容量部に対し、硬化剤液が20〜100容量部とを混和することの方が混和配合量ミスを可能な限り軽減できることからより好ましい。最も好ましくは主剤液100容量部に対し硬化剤液が100容量部となるように混和された本発明の有機高分子系グラウト剤とすることがより好ましい。
また更に本発明の有機高分子系グラウト剤組成物では、前記した主剤液と下記の硬化剤液との2液混合液において、特に制約されるものではないが、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の該グラウト剤中の濃度としては、1〜70重量%の範囲、より好ましくは5〜37.5重量%の範囲とすることが良い。
【0094】
本発明の有機高分子系グラウト剤に於いて必須な硬化剤液とは、カルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有してなる酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを適宜含有して成る無機混合物からなる無機質硬化剤(ハ)を0.1〜80重量%含有する水溶液である。
【0095】
主剤液の100容量部に対し硬化剤液が1容量部未満では本発明の有機グラウト剤組成物が一定時間内で固結することが困難となる傾向にある。また500容量部を超えて使用した場合、それ以上顕著なゲルタイムの短縮効果が引出せないことと経済性に欠ける傾向にある。
【0096】
前記(ハ)成分の具体的な例としては、例えば、酸化カルシウム(生石灰)、水酸化カルシウム(消石灰)、塩化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウムなどや、その他セメント、水砕スラグ、無水石膏、半水石膏または2水石膏、フライアッシュ、海水またはニガリなどから選ばれた1種または2種以上が好ましく挙げられる。
【0097】
特に(ハ)成分として、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲、好ましくは8,000〜45,000cm2/gの範囲、最も好ましくは10,000〜40,000cm2/gの範囲にあるものであり、かつセメント粉、水砕スラグ粉、無水石膏粉、半水石膏粉または2水石膏粉から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする本発明の有機高分子系グラウト剤が好ましい例として挙げられる。
【0098】
また(ハ)成分が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲、好ましくは8,000〜45,000cm2/gの範囲、最も好ましくは10,000〜40,000cm2/gにある生石灰及び/または消石灰であることを特徴とすることや、または、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲、好ましくは8,000〜45,000cm2/gの範囲、最も好ましくは10,000〜40,000cm2/gにある酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたは塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種とすることを特徴とする本発明の有機高分子系グラウト剤は特に好ましい例である。
【0099】
また(ハ)成分が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲、好ましくは8,000〜45,000cm2/gの範囲、最も好ましくは10,000〜40,000cm2/gにある塩化アルミニウムとすることを特徴とする本発明の有機高分子系グラウト剤もまた好ましい例である。
前記中、(ハ)成分のブレーン値を3,000〜50,000cm2/gの範囲としたのは3,000cm2/g未満のものでは懸濁液の均一反応性に欠ける傾向にあるからであり、また50,000cm2/gを超えるものは市場で容易に入手出来ないからである。
前記した(ハ)成分に関わる態様例のいずれかを使用したものは、本発明の有機高分子系グラウト剤が、剛性に富みかつ高剪断抵抗性を示す点や、高い透水抵抗性を示すことから特に好ましい例である。
【0100】
また本発明の有機高分子系グラウト剤では、そのゲル化時間を任意に調整しかつその固結体の弾性を保持しつつ一層高強度化する目的で、以下に示すシラノール化縮合触媒を、必要に応じて、主剤液ないし硬化剤液のいずれか一方または両方に添加併用使用してよい。そのシラノール化縮合触媒には、例えば、アルキルチタン酸塩;有機珪素チタン酸塩;オクチル酸錫、ジブチル錫ラウレートや同マレート及び同フマレート等のジブチル錫カルボン酸塩;ジブチルアミン−2−エチルヘキソエート等のアミン塩等が挙げられる。シラノール化縮合触媒の併用使用に際しては、事前に十分なゲル化挙動試験等を実施してその添加配合量を決定することが肝要なことであり、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の100重量部に対し、0.001〜20重量部とすることが好ましい。
【0101】
本発明の有機高分子系グラウト剤の2液混合後のゲル化時間が20分以内と短い場合、1ショット方式での取扱はなるべくさけることが望ましい。場合によっては、該グラウト剤が注入管内で固結すること等により、注入管をダメにする恐れが在るからである。一方、ゲル化時間が20分以上と長い場合には本発明の有機高分子系グラウト剤の2液を混合させて1液化して取扱って良く、すなわち、1ショット方式での取扱がされて良い。
即ち、基本的には1.5ショットや2ショット方式のいずれかで取扱う方が、作業性のトラブルが回避出来るのでより好ましい。
【0102】
本発明の有機高分子系グラウト剤の該主剤液または硬化剤液または2液混合組成物中には、作業性の改善、浸透速度調製、密着性改良、事前のpH調整などを特に意識して、下記した添加助剤成分を0.01〜10重量%以内、好ましくは0.1〜3重量%以内でいずれかの液組成物に対して使用しても何等差し支えない。
例えば、ヒンダードアミン類で代表される光安定剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;グリシジルシラン類、アミノシラン類、メルカプトシラン類、ビニルシラン類、クロロシラン類で代表されるシランカップリング剤;超微粒子アルミナ、超微粒子の粘土粉等に代表される無機物チクソ化付与剤;亜リン酸エステル類で代表される過酸化物補足剤;炭カル、タルク等で代表される無機充填剤;界面活性剤;砂糖、ブドウ糖、アスコルビン酸などの金属錯体形成剤、第2〜第3燐酸アルカリ金属塩類、硫酸アルカリ金属塩類、炭酸アルカリ金属塩類、重炭酸アルカリ金属塩類などで代表されるpH緩衝作用物質等を適宜添加可能である。
【0103】
本発明の有機高分子系グラウト剤に必須な水(ロ)成分には特に限定はない。人工海水、海水、河川の水、地下水、水道水、雨水、蒸留水、イオン交換水など注入工事現場附近で調達できる水であれば好ましく使用できる。
【0104】
以下においては、前記した本発明の有機高分子系グラウト剤を用いた地盤改良方法(地盤改良工法とも言う)について説明する。
その地盤改良方法の1つとしては、不安定地盤に対し、グラウト注入管を介して、本発明の有機高分子系グラウト剤を2液混合する形で加圧注入し、固結させて該地盤を強化または止水し、或いは透水性を極限まで低下させる方法である。
またその地盤改良方法のもう1つとしては、不安定地盤に対し、グラウト注入管を介して、2種以上の異なるゲルタイムを有する本発明の有機高分子系グラウト剤の2種以上、即ち複数使用して、複相注入し、固結させて該地盤を強化または止水し、或いは透水性を極限まで低下させる方法である。
【0105】
前記した地盤改良方法では、注入に際して本発明の2液からなる有機高分子系グラウト剤として示された硬化剤液のみを先行注入させた後、本発明の有機高分子系グラウト剤の主剤液を、又は2液混合させて後注入することも良い方法である。また前記複相注入とは、例えば2種以上のゲルタイムを有する本発明の有機高分子系グラウト剤を用意した後、まずゲルタイムが数秒から数分の比較的早い固結時間を持つ該組成物を選定して先行注入固結させた後、ゲルタイムがそれよりも更に遅い本発明の有機高分子系グラウト剤を後注入する等の具体的方法例が好ましく挙げられる。また別の複相注入の例では、公知の瞬結または中結型である無機硬化剤−水ガラス主剤型、有機硬化剤−水ガラス主剤型、水ガラス−セメント懸濁型、水ガラス−スラグ懸濁型などから選ばれた1種の公知グラウト剤を先行注入固結させた後、本発明の有機高分子系グラウト剤を後注入する、いわゆる異なった性質からなるグラウト剤を複層注入・固結させる方法も好ましく包含される。
また注入に際してはパッカー方式やスリーブ方式や高圧噴射方式など公知の方法を用いてもよく特に制約はない。
【0106】
以下では、本発明の有機高分子系グラウト剤を用いた下水道管の地下水止水方法(地下水止水工法とも言う)について説明する。
その下水道管の地下水止水方法とは、地下埋設下水道管の地下水漏水箇所に対し、小口径のダブルパッカーとテレビカメラとを有する円筒形の自送式パーカー注入器を介して、本発明の有機高分子系グラウト剤をその漏水部に加圧注入し固結させて止水する工法である。
また該工法では、地下水の大量の流入または下水の大量流出等が観察される際に用いられる好ましい有機高分子系グラウト剤としては、注入に際してはできるだけ数秒〜数十秒と短いゲル化時間を有するものを選定使用することでその目的が達成できる。またその際には、例えば地表面から注入管を差込んで配置し、水流出入り流路(即ち、下水管からの流出箇所地盤周辺を該グラウト剤等で一体固結させて漏水が流出する流路)を抑制した後に、前記した方法で止水を完結させるなどの方法を包含するものである。
【0107】
以下においては、本発明の有機高分子系グラウト剤を用いて行なう有害物質封止方法について説明する。
近年の主要な社会問題の1つとして、屋外に放置または貯蔵されている有害な重金属イオン等の有害物質を多く含む鉱砕や同産業廃棄物などがのざらしで放置され、その結果人が住む環境が著しく汚染され、動植物等に甚大な被害をもたらす危険性が数多く指摘されているのが実態であり、従って、このような環境汚染による被害を防止することという課題を緊急に解決することが強く求められている。 したがって本発明の有害物質封止方法では、その重金属イオン等を含む有害物質が、降雨等の浸透水によって該有害物質が外部へ漏出するのを防止する、或いは極限まで抑制する有害物質封止方法であって、本発明の有機高分子系グラウト剤と該有害物質と一体化させて固結させ、その結果、該有害物質の外部への漏出を防止することを特徴とする有害物質封止方法である。
【0108】
本発明の有機高分子系グラウト剤と有害物質とを一体化させる具体的な方法としては、公知の機械混合・含浸法、注入浸透固結法、振りまき含浸固結法、積層固結法などの混合または含浸固結手段を任意に選択してよく、特に制約はない。中でも好ましくは、処理費用面から本発明の有機高分子系グラウト剤を上から振りまくかまたは流動含浸固結させる等の方法によって封止する工法がより好ましい工法である。最終的に該有害物質を含む鉱砕や産業廃棄物等の表層部位の透水係数が低くとも10-4 オーダー、好ましくは10-5 からそれ以上の極限値まで低下抑制できるように、本発明の有機高分子系グラウト剤の使用量を決定することが肝要なこととして挙げられる。
【0109】
なお、本発明の有機高分子系グラウト剤のゲルタイム調整は任意であってよく、好ましくはその目的から、数秒〜数時間の範囲とすることがよい。地下水の有無、土質の種類、土砂堆積構造、注入箇所周辺の状態に応じて任意なゲルタイムとすることで良く、特に制約はない。また前記したように、2種類以上のゲルタイムを持つ本発明の有機高分子系グラウト剤を用意し、複相注入方式で目的を達成しても良く、また1ショット方式、1.5ショット方式、2ショット方式などを適宜採用してよい。
【0110】
ところで本発明の有機高分子系グラウト剤組成物を、不安定地盤の改良用途、トンネル用コンクリートパネル裏面とその裏面に接する岩盤との一体化の用途、地下室コンクリート壁とその裏面に接する土壌との一体化の用途、地下または地中下のコンクリート製構造物の強化安定と恒久的な止水を兼ねて該構造物の裏面に裏込め充填する用途としても、好ましく使用できる。
【0111】
【実施例】
以下に本発明の実施例及び比較例を示すが、特に断らない限り記載の部または%はそれぞれ重量部、重量%を意味すると共に、記載の実施例によって本発明が特に限定されるものではない。
また以下の例中や表中の各記号の説明はそれぞれ以下のとおりである。
また各例中記載のグラウト剤組成物の各種性能試験方法については以下のようにしておこなった。
【0112】
難燃試験
有機高分子系グラウト剤単独の硬化体(厚さ2mm×幅5mm×長さ100mmの板状)の端面を45゜の角度でガスバーナーの酸化小炎の直上位置にかざし2〜3秒間着炎させた後、直ちに該小炎から遠ざけて、3秒以内に延焼炎が消える場合を難燃性が高いとして◎の記号で表示。20秒以内で消える場合は難燃性ありとして○の記号で表示。30秒以内で消える場合は難燃性にやや欠けるとして△の記号で表示。30秒を超えて燃え続けている場合には可燃性という意味で×の記号で表示した。
【0113】
ゲル化時間(ゲルタイム)測定
一定温度下で、硬化剤成分を添加または2液混合した時点からその組成物自体の溶液流動性がなくなるまでの時間で表し、その時間が1分未満のものを[瞬結]と表示、1分以上〜5分未満を[中結]と表示、5分以上〜30分未満を[中長結]と表示、30分以上のものを[長結]と表示した。
【0114】
1軸圧縮試験
JIS−A−1216に準じた方法であり、丸東製作所のSG−2033B型電動式1軸圧縮試験機を用いて、圧縮速度1.5mm/分でおこなった。
【0115】
ホモゲル強度とその歪率測定
グラウト剤組成物単独の固結体の物性であり、直径50mm,100mm高さの円柱状のホモゲル硬化体を得た後、前記した1軸圧縮強度を求めその値をホモゲル強度とする。また、その1軸圧縮強度測定時の破壊に至るまでの変形量をもとの高さで割って100を掛けた値を歪率として(%)で表示。
【0116】
サンドゲル強度
グラウト剤組成物の38.5〜40.5vol%と豊浦標準砂の59.5〜61.5vol%を均一混合させ、気泡が入らないようにしてモールド成形容器に詰めて固結させた後、養生し、脱型して直径50mm,100mm高さの円柱状のサンドゲル硬化体を得る。そのサンドゲルの1軸圧縮強度の値でサンドゲル強度とする。
【0117】
浸透適性試験
上部と下部にそれぞれ開口穴のある10cm直径の透明アクリル製充填搭を用意し、充填高さが1mとなるように豊浦標準砂を水存在下に細密充填させた。充填搭上部の開口部より、注入圧力1.5Kg/cm2で各実施例ならびに比較例の各グラウト剤組成物をそれぞれ注入させた時、市水のみによる注入浸透速度(200〜210ml/min)を100とした際の各グラウト剤組成物の水に対する注入浸透速度比が70%以上でかつ粒子間浸透固結が可能な場合を◎の記号で表示した。また水に対する注入浸透速度比が50%以上〜70%未満でかつ粒子間浸透固結が可能な場合を○の記号、水に対する注入浸透速度比が15%以上〜50%未満でかつ粒子間浸透固結が可能な場合を△の記号、また同15%未満の場合を×の記号でそれぞれ表示した。
【0118】
耐久性試験
前記方法で得た円柱状のホモゲル体またはサンドゲル硬化体のいずれかを10リットルが1昼夜で1回置換するように設定された流水置換式水槽に一定期間浸漬させ、その時の1軸圧縮強度保持率(%)と外観変化を観察した結果を耐水耐久性試験結果(以下では耐久性試験1と表示)として表示した。一方JISに規定されている人工海水溶液を調製し、その人工海水に一定期間浸漬させた後の外観変化と1軸圧縮強度保持率(%)で海水浸漬耐久性試験結果(以下では耐久性試験2と表示)とした。
【0119】
以下においては、まず後述する実施例及び比較例で用いる主剤液および比較主剤液について説明する。
【0120】
主剤液1
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ポリエーテルポリオールとして、ヒドロキシル価から算出された重量平均分子量が3,300のポリエーテル系トリオール[エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)のランダム付加モル比率が75:25である]の500部(0.454モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランの114部(0.46モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.01部とを仕込、窒素気流中、80℃で2時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に分子量が3,300であるポリエーテル主鎖に加水分解活性シリル基末端を平均3ケ持つプレポリマー1を得た。プレポリマー1は単独では常温で液体を示し、その溶液粘度はB型粘度計による室温測定結果で980cpsであった。
【0121】
更に50℃に加温された1N−水酸化ナトリウム水溶液の690部に前記プレポリマー1の310部を少しずつ投入し、投入終了後にはエアレーションして約30部の遊離エタノールを除去した。その結果無色透明の溶液が得られ、固形分換算で30.97重量%濃度となるように調整した。その結果活性シラノール基含有プレポリマーを含有するアルカリ性水溶液が得られ、これを主剤液1とした。該主剤液1のpH値は室温で13.5を示し、おおよそ3〜4cpsの低粘度液体であった。また、該主剤液1は室温下3ケ月保存後においても安定であることが認められた。
【0122】
主剤液2
また別に50℃に加温された1N−水酸化ナトリウム水溶液の534部と蒸留水66部とからなるアルカリ性水溶液に前記プレポリマー1の400部を少しずつ投入し、投入終了後にはエアレーションして約38部の遊離エタノールを除去した。その結果無色透明の溶液が得られ、固形分換算で39.8重量%濃度の活性シラノール基含有プレポリマーの水溶液を得、これを主剤液2とした。該主剤液2のpH値は室温で13.6を示し、おおよそ3.9cpsの低粘度液体であった。また該主剤液2の3ケ月保存後も何等変化がなく主剤液自体の保存安定性は良好であった。
【0123】
主剤液3
また別に50℃に加温された1N−水酸化ナトリウム水溶液の138部とイオン交換水の552部とからなるアルカリ性水溶液に前記プレポリマー1の310部を少しずつ投入し、投入終了後にはエアレーションして約30部の遊離エタノールを除去した。その結果無色透明の溶液が得られ、固形分換算で29.2重量%濃度の活性シラノール基含有プレポリマー水溶液を得、これを主剤液3とした。該主剤液3のpH値は室温で13.4を示し、おおよそ2cpsの低粘度液体であった。また該主剤液3の5日間保存安定性は良好であったが、10日以上の保存では増粘や部分ゲルの析出が見られた。
【0124】
主剤液4
また1N−硫酸水溶液の200部とイオン交換水の800部とからなる強酸性水溶液に前記プレポリマー1の200部を少しずつ投入し1時間攪拌した。その結果無色透明の溶液が得られ、固形分換算で活性シラノール基含有プレポリマーの20重量%濃度からなる主剤液4を得た。該主剤液4のpH値は室温で0.6を示し、おおよそ1.3cpsの低粘度液体であった。この主剤液4の保存安定性については5時間は安定であったが24時間後の観察ではゲル化するものであった。
【0125】
主剤液5
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ヒドロキシル価から算出された重量平均分子量が20,000の高純度なポリエチレングリコールの500部(0.05モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランの13.5部(0.054モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.01部とを仕込、窒素気流中、80℃で5時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に1分子中に平均2ケの活性シリル基末端を持ち、主鎖が重量平均分子量20,000のポリエチレングリコール骨格であるプレポリマー2を得た。そのプレポリマー2は水溶性で常温で固体であり、融点約60℃の水に非常に良く相溶するものであった。
次に別の4ツ口フラスコに60℃に加温された0.1N−水酸化ナトリウム水溶液の195部と水道水505部とからなるアルカリ性水溶液を仕込、その液に前記プレポリマー2の304部を投入した。60℃加温のまま窒素エアレーションして約4部の遊離エタノールを除去し、固形分を30重量%に調整した。その結果無色透明の溶液が得られ、活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液5を調整した。該主剤液5のpH値は室温で13.0を示し、おおよそ1.5cpsの低粘度液体であった。また1〜2カ月放置後でも何等ゲル化や増粘が認められず、安定性に富む主剤液5であった。
【0126】
主剤液6
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ヒドロキシル価が56mgKOH/gのポリエチレングリコール(分子量2,000)の500部(0.5モル/活性OH当量)と重量平均分子量が2,050の片末端n−ブチルエーテル化されたポリアルキレングリコールモノブチルエーテルである水溶性モノオールの200部(0.098モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランの149部(0.6モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.01部とを仕込、窒素気流中、80℃で2時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に平均1.7ケの活性シリル基末端を持つプレポリマー3を得た。
プレポリマー3は、その主鎖の高分子鎖長部の分子量が約2,000のポリエーテル骨格からなり、水溶性でかつ常温で半固体の性質を示した。
次に別の4ツ口フラスコに20℃の0.5N−水酸化カリウム水溶液の100部と水道水400部とからなるアルカリ水溶液を仕込、その液に前記プレポリマー3の555部を投入した。50℃加温後、窒素エアレーションして約55部の遊離エタノールを除去し、活性シラノール基含有プレポリマー含有濃度を固形分換算で50.1重量%に調整した。その結果無色透明の溶液が得られ、活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液6を調整した。該主剤液6のpH値は室温で13.4を示し、おおよそ5.7cpsの低粘度液体であった。なお、主剤液6の室温での液ライフは長くとも5日であった。
【0127】
比較主剤液1
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ヒドロキシル価が54.8mgKOH/g、EO/POブロック付加比が19/81の1級ヒドロキシル基を持つポリエーテルグリコール系トリオールの500部(0.488モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリメトキシシランの102部(0.488モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.01部とを仕込、窒素気流中、80℃で2時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に平均3ケの活性シリル基末端を持つプレポリマー4を得た。プレポリマー4はその主鎖の高分子鎖長部の分子量が約2,000の疎水性のポリエーテル骨格からなり、常温で液体であるが、水にほとんど不溶であった。
このプレポリマー4を用いて10重量%のイオン交換水による水希釈溶液とした比較主剤液1は、すぐ2層分離し上層が該プレポリマー4をなし、24時間以内にそのままで熱硬化性で水不溶の架橋ゲル層を形成した。結果としてプレポリマー4は水に不溶性である為このままでは水希釈溶液の調整は出来なかった。
【0128】
主剤液7
1リットルビーカー容器を用意し、その中に0.6N−水酸化カリウム溶液600部と、あらかじめ人口的に調整した海水5%分を混和した水道水の150部とを仕込、その系を攪拌下に、比較主剤液1で用いたプレポリマー4の250部を投入して2時間反応させた。その結果、薄い乳白色半透明溶液が得られ、数日間の放置試験で全く変化のない安定した半懸濁の活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液7を得た。なお、仕込プレポリマー4換算で表される濃度が25%の活性シラノール基含有プレポリマー含有のアルカリ性水溶液であった。比較主剤液1では安定な水希釈液が調整されなかったのに比べ、本主剤液7ではきわめて安定な水系の主剤液が調整された。溶液粘度は0.6cpsと低粘度系であった。
【0129】
主剤液8
1リットルビーカー容器を用意し、その中に1N−水酸化ナトリウム溶液200部と、水道水の500部とを仕込、その系を攪拌下に、比較主剤液1で用いたプレポリマー4の300部を投入して2時間反応させた。その結果、濃い乳白色溶液が得られ、数日間の放置試験で全く変化のない安定な懸濁溶液である活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液8を得た。なお、仕込プレポリマー4換算で表される濃度が30%の活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液であり、そのpH値が13.5で0.7cpsの低粘度溶液であった。比較主剤液1では安定な水希釈液が調整されなかったのに比べ、主剤液8ではきわめて安定な水系の主剤液が調整された。溶液粘度は0.7cpsと低粘度系であった。
【0130】
比較主剤液2
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ヒドロキシル価が69mgKOH/gであるロジンジオール(平均分子量1,626)の500部(0.615モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリメトキシシランの129.6部(0.62モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.005部とを仕込、窒素気流中、80℃で5時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に平均2.0ケの活性シリル基末端と主鎖の高分子鎖長部の分子量が1,626のロジン骨格からなり、疎水性でかつ常温で液状のプレポリマー5を得た。
このプレポリマー5を用いて10重量%のイオン交換水による水希釈溶液とした比較主剤液2では、混合後すぐ2層分離し上層が該プレポリマー5をなし、24時間以内にそのままで熱硬化性で水不溶の架橋ゲル層を形成した。結果としてプレポリマー5は水に不溶性である為このままでは水希釈溶液の調整は出来なかった。
【0131】
主剤液9
1リットルビーカー容器を用意し、その中に0.5N−水酸化ナトリウム溶液600部と水道水の150部とを仕込、その系を攪拌下に、比較主剤液2で用いたプレポリマー5の250部を投入して2時間反応させた。その結果、薄い乳白色半透明溶液が得られ、数日間の放置試験で全く変化のない安定した半懸濁の活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液9を得た。なお、仕込プレポリマー5換算で表される濃度が25%の活性シラノール基含有プレポリマー含有の、溶液pH値が13.5を示す強アルカリ性水溶液であった。比較主剤液2では安定な水希釈液が調整されなかったのに比べ、主剤液9ではきわめて安定な水系の主剤液が調整され、溶液粘度は0.8cps程度と、低粘度液体であった。
【0132】
以下に実施例及び比較例を記載する。
【0133】
実施例1から実施例7
調整後3時間未満にある主剤液1〜主剤液7と必要に応じて水道水で希釈されてなる表1記載の配合組成とした各主剤液と更に表1記載の配合組成とした各硬化剤液との2液を用いて、表1記載の配合比率で主剤液と硬化剤液を混和させて実施例1〜実施例7の各有機高分子系グラウト剤組成物を調整し、グラウト剤番号D1(実施例1記載の有機高分子系グラウト剤)〜D7(実施例7記載の有機高分子系グラウト剤)をそれぞれ得た。各グラウト剤の溶液物性と硬化体物性を同時に表1に記載した。
【0134】
また、表1記載の各硬化剤液組成では、硬化剤をメスシリンダー内に規定重量採取し、水に溶解して希釈し、表1記載の配合容量となるように調製したものであることを表す。
なお、表1中記載のセメント粉としては、ブレーン値が約95,700cm2/gの超微粒子品を用いた。また水砕スラグ粉としては、ブレーン値が12、000cm2/g(平均粒子径が3ミクロン)の超微粒子粉を用いた。また消石灰としては、ブレーン値が35,500cm2/gの超微粒子粉を、生石灰としては、ブレーン値が6,300cm2/gの微粒子粉をそれぞれ使用した。
前記以外のカルシウム、マグネシウム、アルミニウム系無機硬化剤成分等は試薬をメノウ乳鉢に取り、粉砕して350メッシュパスの粉体を用いて実施した。
【0135】
その結果、表1から明らかなように、1分子中に数個の活性シラノール基を含有しかつ主鎖の分子量が3,000〜20,000の範囲のいずれかにあるポリエーテル型の活性シラノール基含有プレポリマーを含有する主剤液では、その主剤液100容量部に対し、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム系無機質硬化剤を少量含有する水懸濁液または該水溶液の20〜100容量部の配合例に於いて、瞬結から中長結の幅広い範囲のゲル化挙動を持ち、かつ高い1軸圧縮強度特性ならびに高弾性特性とを合せ持つ固結体が生成することが明確となった。また本実施例1〜実施例7の有機高分子系グラウト剤はそのすべてが水及び海水浸漬耐久性に富むこと、難燃性に優れること、標準砂に対する浸透注入作業性に優れる等の特性もまた同時に判明した。
また実施例1〜実施例3の各サンドゲル耐久性試験1のサンドゲル浸漬開始から24時間後におこなった浸漬水中の低級アルコール分に関するガスクロマト分離分析結果においては、その存在は検出されなかった。
【0136】
【表1】
【0137】
実施例8から実施例14
調整後3時間以内の主剤液1と主剤液2と主剤液5と主剤液8及び主剤液9とを適宜配合してなる表2記載の配合組成とした主剤液と表2記載の配合組成とした硬化剤液との2液を用いて、表2記載の配合比率で主剤液と硬化剤液を混和させて実施例8〜実施例14の各有機高分子系グラウト剤組成物を調整し、グラウト剤番号E1(実施例8記載の有機高分子系グラウト剤)〜E7(実施例14記載の有機高分子系グラウト剤)をそれぞれ得た。各グラウト剤の溶液物性と硬化体物性を同時に表2に記載した。
【0138】
また、表2記載の各硬化剤液組成では、硬化剤をメスシリンダー内に規定重量採取し、水に溶解して希釈し、表2記載の配合容量となるように調製したものであることを表す。
なお、表2中記載の水砕スラグ粉としては、ブレーン値が15、000cm2/gの超微粒子粉を、消石灰としてはブレーン値が20,000cm2/g程度の秩父石灰(株)社品#074を用いた。
【0139】
その結果、表2から明らかなように、1分子中に数個の活性シラノール基を含有しかつ主鎖の分子量が3,000〜20,000の範囲のいずれかにある疎水性のポリエーテル型または疎水性のロジンポリオール型の活性シラノール基含有プレポリマーを含有する主剤液では、その主剤液100容量部に対し、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム系無機質硬化剤を少量含有する水懸濁液または該水溶液の1〜400容量部の配合例に於いて、瞬結から長結の幅広い範囲のゲル化挙動を持ち、かつ高い1軸圧縮強度特性ならびに高弾性特性とを合せ持つ固結ゲルが生成することが明確である。また本実施例8〜実施例14の有機高分子系グラウト剤はそのすべてが水及び海水浸漬耐久性に富むこと、難燃性に優れること、標準砂に対する浸透注入作業性に優れる等の特性もまた同時に判明した。
【0140】
【表2】
【0141】
実施例15
上記表1の実施例2(グラウト剤番号D2)に記載したものと同様の組成物からなる主剤液、硬化剤液のそれぞれ20リットルづつを用意し、その2液を混合容量比が1:1となるようにして、あらかじめ6号珪砂を圧密充填したモデル地盤の1m深層部位に設置された注入単管より該グラウト液を、1.5ショット方式で、200ml/分の割合で、かつゲージ圧1.5kg/cm2で吐出させた。吐出圧が5kg/cm2まで上昇した時点で吐出を停止し、その後そのまま3日放置して養生したのち、未固結土壌を水で洗い流す方式で、生成したサンドゲル固結体の外観観察を行った結果、半径約70〜80cm大の楕円状固結体の生成が確認された。その固結体の中心部附近より採取したサンドゲルの1軸圧縮強度特性は14.6kgf/cm2と高強度値を示した。
また採取されたサンドゲル固結体3点の透水係数の平均は7×10-6 と判明し、高止水性に富む地盤に改良できることを十分に示唆するものであった。
【0142】
実施例16
3mmから5mm大の珪石を主成分とする礫質モデル地盤を、基盤の上に1.5m高さに盛った後、その上部に5号珪砂をさらに1.5m高さに盛ったモデル地盤を用意した。
一方、上記表2の実施例10(グラウト剤番号E3)に記載したものと同様のグラウト剤組成物(瞬結型)の主剤液、硬化剤液をそれぞれ各20リットルづつと、表2の実施例8(グラウト剤番号E1)に記載したものと同様のグラウト剤組成物(長結型)の主剤液、硬化剤液を事前に混合してなる1ショット薬液100リットルとを用意した。
まず最初に礫層の中心に注入管の注入先端部が位置するように2重管からなる注入管を下ろして固定し、前記瞬結型のグラウト剤を2ショット方式にて全量1次注入後、注入管を引き上げて5号珪砂層まで移動させて後、前記長結型のグラウト剤を1ショット方式で加圧注入して浸透固結させた結果、数日後に行った注入後の改良地盤の標準貫入試験値(N値)は最低値でも26以上と十分締め固められており、高強度でかつ液状化しにくい安定な改良地盤となっていた。
【0143】
ここで、「標準貫入試験及びその試験値」とは、「土の硬軟・締まり程度を知る指標となるN値を求めるための試験であり、ボーリング孔を利用し、ロッドの先端に直径5.1mm、長さ81cmの標準貫入試験用サンプラーを、重さ63.5Kgのハンマー(落垂ハンマー)を75cm高さから自由落下させ、サンプラーを30cm貫入させるのに要する打撃回数(N値)を測定する方法」をいう。 一般的にN値が10未満の土は、軟弱地盤と言われ、N値が1〜8の砂地盤は液状化の危険性を持つことが知られている。
【0144】
実施例17
上記表1の実施例2(グラウト剤番号D2)に記載したものと同様の組成物からなる主剤液A、硬化剤液Bのそれぞれ20リットルづつを用意した。一方管口径50cmのコンクリート製フューム管を2本水平にして接続し、その2本の相互継手部分は約1mm程度の隙間を持たせ未シール状態とし、両サイドの開口部を閉鎖しない状態でその周辺1m高さに木枠で囲み地中に埋設された下水道管モデルを構築した。その際、接続フューム管上部、すなわち木枠で囲まれた部分を豊浦標準砂を水潤状態で積層して締め固め、1m高さに盛って前記モデルを作成した。
【0145】
また下記の下水道管の地下水止水注入試験中においては、該継手欠陥部より、毎分1〜2リットル程度の流水状態下になるようにして、以下の試験をおこなった。
該埋設下水道管モデルの中央部に、ダブルパッカーと注入機能が一体化してなり、かつテレビカメラが接続されてなる円筒形の自送式パッカー注入器(円形筒型で直径30cm)を挿入して、テレビカメラを見ながらそのパッカー注入器の中心がフューム管接続部の中心位置となるように移動して、直ちにパッカー部へ加圧水を送液してパッカーをふくらませた。その後で該注入器を介して、該注入器出口で衝突混合する形式、いわゆる2ショット方式で、前記の主剤液Aと硬化剤液Bを容積比率1:1で同時に供給し、約2.5kg/cm2の加圧下で全量を1:1容量比で混合注入させた。
【0146】
注入作業中はパッカー外周部からの漏液は全く観察されなかった。注入後15分放置後に、パッカーの水を抜いて、該注入器を管内部より排出させた結果、2本の下水管内部継手部に実施例18で示されたホモゲル固結体がドーナツ状に管内部に張付いて構築されていた。また更に管外周部の未硬化砂を注意深く取除いた所、2本の下水管内部継手部隙間から浸透してその周辺砂を一体的に浸透固結させて硬化した状態が観察された。また、その周辺の硬化範囲は、概ね幅50cm、厚さ平均30cmの範囲を浸透固結させていた。
そしてテスト前に発生していた漏水流入は全くない状態であることが観察された。
最終的に試験7日後に実施例17で形成された固結サンドゲルコア(50mmφ×100mmH)を数本採取し、実施例17と同様な方法で行ったサンドゲルの1軸圧縮強度を測定した結果、13〜16kgf/cm2と安定した高い強度値が得られた。またその際の圧縮破壊歪率は5〜6%であった。
【0147】
本結果より、豊浦標準砂への浸透注入固結性能は良好であることが改めて判明するとともに、前記実施例2の結果と合せると、下水道管の地下水止水性能が十分にあり、かつ長期耐久性を合わせ持つ改良が可能であることが判明した。
【0148】
比較実施例1
日本工業規格−3号珪酸ナトリウム(JIS−3号水ガラス)溶液の6リットルを水道水4リットルで希釈した主剤液Pと、市販のポルトランドセメント粉の5kgを水でといて懸濁型溶液の5リットルとした硬化剤液Qを用意し、容量比でP:Q=2:1となるようにした注入固結用グラウト薬剤液を用意し、実施例17と同様にして下水道管の地下水止水試験を実施した。その結果、2本の下水管内部継手部隙間から浸透してその周辺砂を一体的に浸透固結させて硬化した状態が観察されたが、そのホモゲルは極くわずかの振動による衝撃でクラックや亀裂が入る非常に脆いものでしかなかった。
また別個に直径50mmφ、高さ100mmの成型モールド容器中で調製したホモゲル固結体は、水のブリージング現象が多く見られ、結果として体積収縮が激しいことが観察され、下水道管との接着性に欠けると共に恒久的な止水性能に著しく欠けることが判明した。また上記ホモゲル固結体及び別個に調製したサンドゲル固結体の1ケ月後の耐久性試験1の結果ではそれぞれ元の圧縮強度に較べて、著しい強度の低下が観察され、低下率の最大値は53%にも達していた。これらの結果からも比較実施例1の注入固結用グラウト薬剤は耐久性に欠けるものであった。
【0149】
比較実施例2
市販のポルトランドセメント粉の5kgと沈降防止付与剤として平均粒子径が7μmのベントナイト粉の0.03kgとを水道水でといて懸濁溶液の10リットルとした注入固結用グラウト薬剤液を用意し、実施例17と同様にして下水道管の地下水止水試験を実施した。その結果、注入後1時間経過後であってもまだ注入液組成物は漏水を止めることという点では満足な状態にすることが出来ず、未硬化状態であった。従って、実用十分な強度発現までの養生期間は短くても1〜2日を要することが判明し、従って注入作業性や作業効率に著しく欠ける注入固結用グラウト薬剤であった。
【0150】
実施例18
調整後3時間以内の主剤液8の60容量%と水道水40容量%とからなる主剤液Aの20リットルと、ブレーン値が35,300cm2/gの超微粒子消石灰粉の10重量%懸濁溶液である硬化剤液Bの10リットルをそれぞれ用意し、A:Bの容量比2:1の比率で1.5ショット方式で混和吐出させた有機高分子系グラウト剤組成物100部と、主にプラスチック類のゴミ焼却に伴って生成集塵された集塵灰300部とを機械的に懸濁化させた結果、5分後にはゲルを形成した。その固結体を3日間室温で密閉養生したものは水に濡れない性質を示し、疎水性が強く弾性に富むゲルであった。該ゲルの透水係数は3×10-6 と高い非透水性の性質を示した。以上の結果、有害金属を含む廃棄物を封止する組成物として有用であることが判明した。
【0151】
【発明の効果】
比較主剤液1〜2および主剤液7〜9の記載から明らかなように、本来疎水性の強い、そのままでは水にほとんど溶解せずに2層分離してしまう性質であるシリル末端高分子プレポリマーであっても、主剤液7または主剤液8の例のように高アルカリ性水溶液で処理すると、水と2層分離することのない安定な本発明の有機高分子系グラウト剤の構成に必須な活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液(主剤液)が、容易に得られることが明らかである。
さらにその結果として、本発明の有機高分子系グラウト剤の固結体は、本来持っていた強い疎水性の性質を固結後に回復する。したがって該固結体自体は地下水や湿潤水による影響をきわめて受けづらく、事実、実施例1〜実施例15等のゲル特性結果により明らかである。
【0152】
比較実施例1と比較実施例2では、明らかに水ガラス−セメントまたはセメント系の注入固結用グラウト薬剤では耐久性と作業適性に長けた薬剤とはいえないことが明確である。
一方、実施例1〜実施例17で明らかなように、本発明の注入固結用の有機高分子系グラウト剤は、恒久的な地盤改良用として好ましい有機高分子系グラウト剤組成物として、また更には好ましい下水道管の地下水止水用の薬液組成物としても大いに適していることが明確である。
より具体的には、実施例1〜実施例15に示された組成物の固結体では、その機械的物性が弾性に富みかつ長期恒久性に富んでおり、グラウト剤市場の要請に十分答えることが出来る有機高分子系グラウト剤である。
【0153】
特に実施例17で明らかにしたように、本発明の注入固結用の有機高分子系グラウト剤を用いた下水道管の地下水止水方法は、省力化適性や注入作業適性、地盤への浸透固結適性などに格段にすぐれ、かつ長期間に渡りその地下水止水性を確保できる特徴を有することが明確である。そして地盤変動や振動に対しても追従可能であると容易に想像できるものである。
また、更に実施例18で明らかにしたように、本発明記載の注入固結用の有機高分子系グラウト剤を用いた有害物質封止方法は、該有害物質を簡便かつ確実に封止する方法として優れていることが明白である。
すなわち、本発明の有機高分子系グラウト剤組成物は「発明が解決しようとする課題」で挙げた5つの課題を合せて満足させることが出来る、きわめて実用上意味のある特性をもっていることは明らかである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な有機高分子系グラウト剤組成物に関する。またその有機高分子系グラウト剤組成物を用い、軟弱崩壊性地盤や漏水地盤に加圧注入し、該地盤を固結させて安定化させる地盤改良方法、老朽化した下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法等に関する。
詳しくは基本的に1ショット注入方式〜2ショット注入方式のいずれかで取扱え、高強度で弾性に富む有機高分子ゲルを生成させることで、離漿がなく長期間安定な、基本的に2液型の新規な有機高分子系グラウト剤組成物を提供し、かつその該グラウト剤組成物を含有する薬剤を加圧注入し固結させて行なう地盤改良方法、老朽化した下水道管の地下水止水方法やその他有害物質封止方法等に関する。
【0002】
ここで地盤改良方法とは、建設基礎掘削工事現場、地下鉄掘削工事現場、下水道敷設の為の掘削工事現場、液状化によって地上構築物に多大な被害が予想されその危険回避を目的とした地盤改良工事現場等の脆弱あるいは漏水地盤(以下単に不安定地盤と言う)に地盤注入用グラウト剤(以下単にグラウト剤と言う)を加圧下で注入浸透または噴射混合させて該地盤を一体固結させ、これによって不安定地盤の透水性を極限まで低下せしめるとともに強固な耐久性の有る地盤へと改良する為の方法を言う。
【0003】
また老朽化した下水道管の地下水止水方法とは、特に口径があまり大きくない公知の自送式パッカー注入器を介して止水工事が可能な老朽化下水道管を対象とし、該亀裂欠陥や接合部欠陥や欠損部等で見られる地下水漏出箇所または下水漏出箇所を長期間止水する方法を言う。
また有害物質封止方法とは、銅、鉛、カドミウム、錫、亜鉛、ヒ素、6価クロム等で代表される人体に有害な該金属化合物を多量に含有する産業廃棄物や鉱砕などから、降雨時の水への浸透及びその溶解流出によって該有害元素を高濃度で含む汚染水が系外へ漏出して2次災害が発生することがないように、極限まで非透水性を向上させる方法を言う。
【0004】
なお、1ショット方式とは主剤と硬化剤とを予め混合し、その混合液を単管等を介して1液で注入する方法であり、また1.5ショット方式とは主剤と硬化剤とを注入管入口附近で衝突混合させてその混合液を注入する方法を言う。また更に2ショット方式とは主剤と硬化剤とを二重管や3重管等の多重管からなる注入管を介して別々に供給し、該注入管の先端部で衝突混合させ、吐出させる方法を言う。
【0005】
【従来の技術】
従来、トンネル工事、都市土木工事に際して不安定地盤の強化安定化や止水を目的とした地盤改良方法に際しては、種々のグラウト剤がその対象地盤に応じて選定され用いられてきた。
特に現在最も多く使用されているグラウト剤には水ガラス系グラウト剤がある。一方、その使用割合はまだ少ないが有機高分子系グラウト剤組成物が1960年代後半以降種々提案され、例えばアクリルアマイド系グラウト剤、尿素系グラウト剤、ウレタン系グラウト剤等が知られている。
【0006】
アクリルアマイド系グラウト剤は該モノマーによる地下水汚染を引き起こし、人体に悪影響をもたらせた為、その使用が現在では厳しく制限されており、実質的に使用できない実態にある。
また尿素系グラウト剤とは、主に尿素とホルマリンとから誘導された尿素樹脂を主成分とするグラウト剤であるが、これには遊離ホルマリンが発生することという課題や液ライフが短いこと等の多くの課題があり、現在ではほとんど使用されなくなっている。
【0007】
またウレタン系グラウト剤では、例えば、特開昭47−36616号に水溶性モノオールとジイソシアナート化合物とから誘導された末端にイソシアナート基を有するウレタンプレポリマーを主成分とする有機高分子系グラウト剤組成物に関する開示がある。また例えば、特開昭50−152507号には、イソシアナートプレポリマーと水との混合液を地盤改良液とする地盤改良方法に関する開示があり、また特に近年では特開平3−293424号、特開平4−102615号等に於いてウレタン系グラウト剤を用いた岩盤固結工法に関する開示例が数多く見られる。
【0008】
また更に、ウレタン系の2液型の土層硬化剤組成物に関する開示例が、例えば特開平4−185694号や特開平4−185695号等に見られる。また特開平5−78665号等には、発泡硬化を特徴とするウレタン系グラウト剤組成物を用いてなる岩盤固結用薬剤に関する開示例がある。また例えば特開平4−283290号には珪酸ソーダ水溶液(水ガラス溶液)とポリイソシアナート組成物とを用いた土質などの安定化用注入薬液組成物及びそれを用いた安定強化止水工法に関する開示がある。また浸透性や耐久性にすぐれたウレタン系グラウト剤組成物に関する開示例では、特開平6−207174号等に代表される開示がある。
すなわち近年の有機高分子系グラウト剤には、ウレタン系グラウト剤がその耐久性と高度な止水性の点から注目され、岩盤固結安定化剤として高い評価を得ている。該組成物が唯一有機高分子系グラウト剤として現在でも使用されている代表的な例である。
【0009】
しかしながら、前記した公知のウレタン系グラウト剤のおおくは毒性の強いイソシアナート化合物やその誘導体を大量に取扱うため、薬傷の危険性や引火火災の危険性が強く懸念されているのが現状である。
【0010】
ところで平成7年1月に発生した阪神大震災の被害は軟弱地盤上及びその地下部分に構築された構造物に多大な被害が発生した事実から、その復旧方法や不安定地盤上のすべての構造物に対する安全性確保や恒久的な対地震基礎土木構築方法等に大きな課題を提起したと言える。特に主要な都市部の、液状化が予想される地盤上にすでに構築された種々の公共的重要構造物の安全性確保が強く求められており、そのような意味においても、安全に取扱え、優れた長期耐久信頼性のある新規なグラウト剤が市場に早期に提供されることが強く要求されている。同様に埋立地や砂地盤等の軟弱地盤上やその内部に、新規に大型構造物を建造または増築する等のニーズにおいても恒久的な地盤改良とその強化安定確保が必須となっている点からも同様である。
【0011】
また最近では、軟弱地盤の市町村部に於いてすら地下空間利用が盛んに行なわれようとしているのが現状であり、地下土木作業に際して中長期(3ケ月から数年の間)の地盤の強化安定化は必須であり、中長期の事前の地盤安定化工事が強く求められており、その為のグラウト剤が必要となっている。
また近年の主要な社会問題の中の1つとして、屋外に放置または貯蔵されている有害な重金属イオンを多く含む鉱砕や同産業廃棄物などがのざらしで放置されると、その結果、人が住む環境が著しく汚染され動植物等に甚大な被害をもたらす危険性が懸念されている。従って、このような環境汚染による被害を防止することという課題を緊急に解決する方法等が求められており、その有害物質の封止方法が模索されている。
かかる社会情勢に照らすと、特に安全性が充分確保された浸透注入固結性とその耐久性(恒久性)および高止水性(非透水性)に富んだ新規な有機高分子系グラウト剤を早期に提供することは大変意義深いものがあると言える。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記したように、中長期の耐久性が十分期待できる安全性に富んだ有機高分子系グラウト剤に関する組成物が強く求められており、その要請に添う新規な組成物を提供することにある。
より具体的には、以下の5つの主な課題を同時に解決することが可能な新規な有機高分子系の溶液型ないし半懸濁型グラウト剤を提供することにある。
【0013】
その1として、高い浸透注入固結性を持ち、長期間その固結強度安定化が図れるなどの恒久性・耐久性機能に富んでいること。
その2として、基本的に主剤・硬化剤の2液型からなり、瞬結(数秒ゲル化)から長結(数時間ゲル化)までゲルタイムを容易に調整可能であること。
その3として、1ショット方式〜2ショット方式のいずれかの方式で容易に取扱え、注入管理が容易に出来ると共に、注入作業現場の安全性が確保されていること。
その4として、固結ゲルは経日でほとんど離漿することなく高弾性でかつ耐酸性や耐アルカリ性に優れること。
その5として、注入固結体の透水性が極めて小さく、止水効果が高いこと。
【0014】
【課題を解決する為の手段】
本発明者は鋭意研究を行なった結果、前記課題を解決する為の手段として、特定された成分からなる熱硬化性プレポリマー含有組成物をグラウト剤組成物とすることで、前記課題
(目的)を解決することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の有機高分子系グラウト剤とは、主剤液が、下記の一般式(1)[化3]
【化3】
−Si(R1)n−(X)3-n (1)
(但し、R1は水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Xは−OH基、−O-・Na+基、−O-・K+基または−O-・Li+基から選ばれた少なくとも1種、nは0〜1をそれぞれ表す。)
で表される活性シラノール基末端が1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、その活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲である活性シラノール基含有プレポリマーの1種または2種以上の1〜75重量%を含有して成る水溶液であり、その100容量部に対し、硬化剤液が、カルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有する酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを適宜含有する無機混合物からなる無機質硬化剤の0.1〜80重量%を含有してなる水溶液であり、その1〜500容量部とを混合して成る有機高分子系グラウト剤である。
【0016】
また本発明の地盤改良方法とは、不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式〜2ショット方式のいずれかの方式で本発明の有機高分子系グラウト剤を加圧注入し固結させて、該地盤を強化または止水し或いは止水性を極限まで高めることを特徴とする地盤改良方法である。
【0017】
特に好ましい該地盤改良方法には、不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式〜2ショット方式のいずれかの方式で本発明の異なるゲルタイムを有する有機高分子系グラウト剤の2種以上を用いて複相注入し固結させて、該地盤を強化または止水し、或いは止水性を極限まで高めることを特徴とする地盤改良方法が挙げられる。
【0018】
また本発明の下水道管の地下水止水方法とは、地下埋設下水道管の地下漏水箇所に対し、小口径の自送式パッカー注入器を介して本発明の有機高分子系グラウト剤をその漏水部とその周辺に加圧注入し固結させて止水することを特徴とする下水道管の地下水止水方法である。
【0019】
また本発明の有害物質封止方法とは、屋外に放置または貯蔵されている重金属イオン等の有害物質を含む鉱砕や産業廃棄物から、降雨等の浸透水によって該有害物質が外部に漏出するのを極限まで抑制するに際し、本発明の有機高分子系グラウト剤を使用し、該有害物質と一体固結させることにより、該有害物質の雨等の水による外部への漏出を防止することを特徴とする有害物質封止方法である。
【0020】
前記した本発明の有機高分子系グラウト剤では以下に示す態様がより好ましい。すなわち、主剤液は、その単独液のpH値が特に9〜14のアルカリ性または0.1〜6の酸性のいずれかに調整されていることが好ましく、より好ましくは、主剤液は、その単独液のpH値が特に0.5〜3の強酸性を示すように、事前に調整されていることがより好ましい。また更には、その単独液のpH値が特に10〜13.8の強アルカリ性を示すように事前に調整されていることが大いに最も好ましいことである。
【0021】
また更に、主剤液中の活性シラノール基含有プレポリマー含有濃度が5〜50重量%にありその主剤液の100容量部に対し、硬化剤液の20〜100容量部とを混合させることを特徴とすることは大いに好ましいことである。そして活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部が、エチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるポリエーテルであることを特徴とすることはより大いに好ましい態様である。
【0022】
また前記した一般式(1)のR1がメチル基またはエチル基、一般式(1)のXが−OH基、−O-・Na+基または−O-・K+基のいずれかからなることや、活性シラノール基含有プレポリマーが、その活性シラノール基末端を1分子中に平均2〜6ケ含有し、かつその活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲にあることなどもまた特に最も好ましい態様のひとつである。
【0023】
またその活性シラノール基含有プレポリマーが、総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲のポリエーテルモノオール及び/またはポリエーテルポリオールと、下記一般式(2)[化4]
【化4】
OCN−R2−Si(R3)m−(Y)3-m (2)
(但し、式中のR2は炭素数3以上のアルキレン基を、R3はメチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Yは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基、オキシム基またはアセトキシル基から選ばれた1種、mは0〜1をそれぞれ表す。)
で表されるイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲で反応させて得た活性シリル基含有プレポリマーを、更にアルカリ金属水酸化物含有水溶液や無機酸含有水溶液のいずれかの存在下で加水分解して調整されたものであることはより更に好ましい態様である。
【0024】
またそのイソシアナートシランが、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルジエトキシメチルシランまたはγ−イソシアナートプロピルジメトキシメチルシランから選ばれた1種とすること、またそのポリエーテルポリオールが、総和重量平均ヒドロキシル価が20mgKOH/g〜350mgKOH/gの範囲、かつそのポリエーテル鎖長部がエチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるジオ−ル及び/またはトリオールであり、NCO/OH当量比が0.95〜1.05の範囲であることを特徴とすることはより更に最も好ましい態様と言える。
【0025】
また本発明の有機高分子系グラウト剤では、無機質硬化剤がブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつセメント粉、水砕スラグ粉、無水石膏、半水石膏または2水石膏等から選ばれた1種または2種以上から成ることが良い。
【0026】
また無機質硬化剤がブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にある生石灰及び/または消石灰であることや、無機質硬化剤がブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつ酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたは塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であること、または無機質硬化剤がブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にある塩化アルミニウムであることをそれぞれ特徴とすることは特に最も好ましい態様である。
即ち、本発明は以下の(1)〜(19)を提供するものである。
【0027】
(1) 主剤液が、下記一般式(1)[化5]
【化5】
−Si(R1)n−(X)3-n (1)
(但し、R1は水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Xは−OH基、−O-・Na+基、−O-・K+基または−O-・Li+基から選ばれた少なくとも1種、nは0〜1をそれぞれ表す。)
で表される活性シラノール基末端が1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、その活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲である活性シラノール基含有プレポリマーの1種または2種以上の1〜75重量%を含有する水溶液であり、
硬化剤液が、カルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有する酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを含有する無機物混合物からなる無機質硬化剤の0.1〜80重量%を含有する水溶液であり、該主剤液の100容量部に対して、該硬化剤液の1〜500容量部を混合して成る有機高分子系グラウト剤。
【0028】
(2) 主剤液が、その単独液のpH値が9〜14のアルカリ性または0.1〜6の酸性のいずれかに調整したものであることを特徴とする(1)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0029】
(3) 主剤液が、その単独液のpH値が0.5〜3の強酸性となるように、硬化剤液と混合する前に事前に調整されたものであることを特徴とする(1)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0030】
(4) 主剤液が、その単独液のpH値が10〜13.8の強アルカリ性となるように、硬化剤液と混合する前に事前に調整されたものであることを特徴とする(1)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0031】
(5) 活性シラノール基含有プレポリマーの含有濃度が5〜50重量%である主剤液の100容量部に対し、硬化剤液の20〜100容量部を混合してなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0032】
(6) 活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部が、エチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるポリエーテルであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0033】
(7) 一般式(1)のR1がメチル基またはエチル基のいずれかであり、Xが−OH基、−O-・Na+基または−O-・K+基のいずれかであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0034】
(8) 活性シラノール基含有プレポリマーが、その活性シラノール基末端を1分子中に平均2〜6ケ含有し、かつその活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0035】
(9) 活性シラノール基含有プレポリマーが、総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲であるポリエーテルモノオール及び/またはポリエーテルポリオールと、下記一般式(2)[化6]
【化6】
OCN−R2−Si(R3)m−(Y)3-m (2)
(但し、式中のR2は炭素数3以上のアルキレン基を、R3はメチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Yは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基、オキシム基またはアセトキシル基から選ばれた1種、mは0〜1をそれぞれ表す。)
で表されるイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲で反応させて得られた活性シリル基含有プレポリマーを、更にアルカリ金属水酸化物含有水溶液または無機酸含有水溶液のいずれかの存在下で加水分解して得られたものであることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0036】
(10) イソシアナートシランが、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルジエトキシメチルシランまたはγ−イソシアナートプロピルジメトキシメチルシランから選ばれた1種であることを特徴とする(9)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0037】
(11) ポリエーテルポリオールが、総和重量平均ヒドロキシル価が20mgKOH/g〜350mgKOH/gの範囲であり、かつそのポリエーテル鎖長部がエチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるジオ−ル及び/またはトリオールであり、NCO/OH当量比が0.95〜1.05の範囲であることを特徴とする(9)記載の有機高分子系グラウト剤。
【0038】
(12) 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつセメント粉、水砕スラグ粉、無水石膏、半水石膏または2水石膏等から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0039】
(13) 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつ生石灰及び/または消石灰であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0040】
(14) 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつ酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたは塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0041】
(15) 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にある塩化アルミニウムであることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
【0042】
(16) 不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式、1.5ショット方式または2ショット方式のいずれかの方式で(1)〜(15)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤を加圧注入し固結させて、該地盤を強化または止水することを特徴とする地盤改良方法。
【0043】
(17) 不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式、1.5ショット方式または〜2ショット方式のいずれかの方式で、(1)〜(15)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤の中から選択され、かつ異なるゲルタイムを有する該有機高分子系グラウト剤の2種以上を用いて複相注入し固結させて、該地盤を強化または止水することを特徴とする地盤改良方法。
【0044】
(18) 地下埋設下水道管の地下漏水箇所に対し、小口径の自送式パッカー注入器を介して(1)〜(15)のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤をその漏水部及びその周辺に加圧注入し固結させて止水することを特徴とする下水道管の地下水止水方法。
【0045】
(19) 屋外に放置または貯蔵されている重金属イオン等の有害物質を含む鉱砕または産業廃棄物から、水等により該有害物質が外部へ漏出するのを防止する有害物質封止方法であって、(1)〜(1)5のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤を使用して、該有害物質と一体固結させることにより、該有害物質が外部へ漏出するのを防止することを特徴とする有害物質封止方法。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下に本発明をより詳細に説明する。
本発明の有機高分子系グラウト剤は、要約すると活性シラノール基含有プレポリマー(イ)と水(ロ)とカルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有してなる酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを含有する混合物から成る無機質硬化剤(ハ)の3成分を必須成分とするものである。
【0047】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、下記の一般式(1)[化7]
【化7】
−Si(R1)n−(X)3-n (1)
(但し、R1は水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Xは−OH基、−O-・Na+基、−O-・K+基または−O-・Li+基から選ばれた少なくとも1種、nは0〜1をそれぞれ表す。)
で表される活性シラノール基末端が1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、かつその活性シラノール基導入部分を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲である1種または2種以上からなる組成物であり、その製造方法等には特に制約はない。
【0048】
その活性シラノール基含有プレポリマー(イ)に於ける前記一般式(1)に於いて、R1として好ましくはメチル基、エチル基のいずれかであり、また好ましいXとしては−OH基、−O-・Na+基または−O-・K+基から選ばれた少なくとも1種である。特に最も好ましいXとしては、−OH基または−O-・Na+基である。
ここで、さらに詳しく説明すると、上記Xとして、−OH基を持つ活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、一般に酸性領域下で比較的安定な性質を持つ。
すなわち、酸性下で調製された活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、その水溶液中で活性シラノール基が、下記式(A)[化8]
【化8】
のように解離していて良く、負電荷を持った安定なミセル及び/又は微小コロイドを成していて良い。
【0049】
また、Xとして−O-・Na+基及び/又は−O-・K+基を持つ前記(イ)は、一般にアルカリ性領域下で比較的安定な性質を示す。
すなわち、pH値で9〜13のアルカリ性領域下で調製された(イ)は、その水溶液中で活性シラノール基が、下記式(B)[化9]及び/又は式(C)[化10]で示されるような解離平衡にあるものとして良く、正電荷を持った安定なミセル及び/又は微小コロイドを成していて良い。
【化9】
【化10】
また、例えば1分子中に−Si−O-・Na+と−Si−O-・K+のように、両方の活性シラノール基を持つものであっても好ましく包含される。
【0050】
前記一般式(1)の官能基構造からも明らかなように、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、条件によっては、単独で30分以内の比較的短時間内に急増粘したりゲル化して架橋構造を形成する等の基本的性質を持つ。
特に主剤液中の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)含有濃度が必要以上に高かったりするとその挙動が顕著に表われる傾向がしばしば見られる。したがって本発明の主剤液では活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の含有濃度を1〜75重量%の範囲とすることが肝要なこととして挙げられる。より好ましくは1〜60重量%の範囲、更に好ましくは5〜50重量%の範囲とすることが良い。
【0051】
その活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の水希釈溶液は、特に制約されるものではないが、例えば一般式(1)中のXが−OH基主体である場合は酸性領域で取扱うことが肝要なことであり、また一方、例えば一般式(1)中のXが−OH基とその他の基、例えば−O-・Na+基、−O-・K+基または−O-・Li+基等の1種とが主体であったりする場合にはアルカリ性領域で取扱うことが、液ライフを確保する意味で好ましいこととして挙げられる。
【0052】
ところで、本発明記載の前記した活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を得る為には、その前駆体樹脂として下記一般式(3)[化11]
【化11】
−Si(R4)m−(Z)3-m (3)
(但し、R4は塩素原子、水素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Zは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基、オキシム基またはアセトキシル基から選ばれた1種、mは0〜1をそれぞれ表す。)
で表される活性シリル基末端を1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、かつその活性シリル基導入部分を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲にある活性シリル基末端含有ポリマー(以下の記載では単にプレポリマーと呼び活性シラノール基含有プレポリマーと区別して用いる。)が好ましい前駆体樹脂例として挙げられる。
そして、そのプレポリマーをアルカリ金属水酸化物や無機酸の存在下に水で加水分解し、必要に応じて単分子有機縮合成分を形外へ除去する等の製造方法によって、容易に本発明の主剤液として必須な活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を容易に得ることが出来る。
【0053】
上記したアルカリ金属水酸化物としては、具体的例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられ、その1種または2種以上を併用して用いても良い。好ましくは水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムである。一般的に前記アルカリ金属水酸化物の使用割合は、特に制約されるものではないが、一般式(3)のZで表される基の1モル当量に対して0.1〜2モル当量に相当する量を用いることが好ましい。より好ましくは0.3〜1.2モル当量相当分である。より最も好ましくは0.5〜1モル当量相当分を用いると良い。
【0054】
また、無機酸としては、すでに公知の強酸性無機単量体物質が挙げられ、特に制約はない。具体的な例としては、例えば塩酸、炭酸、硝酸、硫酸、燐酸、ホウ酸等を例示できる。その無機酸の使用割合は一般的には、所謂触媒として使用する量で十分である。具体的には、反応系pH値を酸性に保つ量が良く、より好ましくはpHが0.5〜3の範囲で保てる量とすることが良い。
【0055】
また更に、必要に応じて行なう単分子有機縮合成分を形外へ除去する手段としては、特に制約はなく、例えば減圧処理、空気バブリング処理、限外ロ過精製処理などを適宜選択して用いれば良い。その時の温度条件等については制約はないが、室温〜100℃未満、好ましくは20℃〜80℃で行なうことが好ましい。
【0056】
従って、本発明の主剤液の構成成分としては、結果的に、前記活性シラノール基含有プレポリマー(イ)と水(ロ)以外にプレポリマーに由来する単分子有機縮合成分、過剰なアルカリ金属水酸化物、遊離無機酸などを適宜含有していて何等問題ない。むしろアルカリ金属水酸化物の存在は大いに好ましい。
【0057】
その際、プレポリマーの加水分解反応処理に於いて、本発明の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)が直ちにゲル化したりまたは著しい増粘がないようにプレポリマーの加水分解条件をあらかじめ適切に求めておく等の、事前の製造条件の検討をおこなって好ましい条件を求める工夫が必要であることは言うまでもない。
すなわち、プレポリマーを本発明の活性シラノール基含有プレポリマーの前駆体樹脂として用いる際には、一般的に、例えば比較的高濃度の酸性水溶液中に、最終的に75重量%以下の活性シラノール基含有プレポリマー濃度となるようにプレポリマーを少しずつ添加し、すばやく加水分解反応を完結させる方法で製造出来る。必要に応じて脱縮合成分処理を行なうことも良い方法である。また別の方法として、例えば比較的高濃度のアルカリ水溶液中に、最終的に75重量%以下の活性シラノール基含有プレポリマー濃度となるようにプレポリマーを少しずつ添加し、すばやく加水分解反応を完結させる方法も同様に製造方法として採用できる。そして必要に応じて脱縮合成分処理を行なうことも良い方法である。
【0058】
従って、本発明の主剤液を事前に調整する際に用いることが出来る前記の前駆体樹脂の使用量は、酸またはアルカリ性の水溶液中に高くともおおよそ80重量%以内、好ましくは65重量%以内、更に好ましくは55重量%以下とすることが肝要なこととして挙げられる。
【0059】
本発明の主剤液を構成している成分としてはすでに説明しているように、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)と水(ロ)とから成っている。
一方、前記した一般式(3)の活性シリル基含有プレポリマー等も、その基本的な性質として加水分解反応や本発明の硬化剤液と共存させることで架橋体を形成する性質を持つ。従って、本発明の主剤をあえて活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を含有する水溶液とする理由は、プレポリマー主体の主剤液ではその硬化反応には加水分解反応が必須であると同時に単分子有機縮合成分の遊離が伴うという課題があるが、本発明の主剤液組成物ではその課題が解消されると言うことが利点としてまず挙げられる。すなわち、本発明の主剤液組成物ではより安定したゲル化挙動とその固結強度特性が確保出来ることが、本発明の有機高分子系グラウト剤の特徴点の一つとして加えることが出来る。
【0060】
また一般にプレポリマー自体が疎水性の強い物質である場合、水と混合すると2層分離する為に水媒体からなる有機高分子系グラウト剤組成物の形成が全く困難であるという課題があった。それに対し、本発明の主剤液組成物では、そうした疎水性の強い基本的に水と非相溶な性質を示す(2層分離する性質)プレポリマーを前駆体樹脂として用いて誘導された活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、親水性や自己乳化性に富むものとなり、結果として全く2相分離することのない良好な水混和性の性質を発揮するのである。またその架橋ゲルは水にほとんど不溶な強固な固結体を形成する。
【0061】
すなわち、そうした水と非相溶な性質を示す(2層分離する性質)プレポリマーを前駆体樹脂として用いて誘導された本発明の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)含有水溶液を本発明の主剤液として用いると、そのホモゲル固結体は疎水性/親水性バランス比(sp値とも言う)が高く設定できる結果、ホモゲルの耐水性や非水膨潤性が著しく向上する。また例えばそれを用いて行なった地盤改良固結体(サンドゲル)に於いても長期耐水耐久性や非透水性が従来にない高性能を発揮する特徴を持つという結果を生んだのである。
【0062】
従って、本発明の有機高分子系グラウト剤の主要な特徴の一つに加えられるべき性質としては、前記したこと、即ち、本発明の水系の有機高分子系グラウト剤の固結体の疎水性/親水性バランス比を極限まで向上させることが可能になるということが挙げられる。
【0063】
また前記した前駆体樹脂以外の前駆体樹脂を用いて本発明の主剤液を調整または製造することも本発明に好ましく包含される。その前記した以外の前駆体樹脂の例としては、例えば1分子中0.7ケ以上のジクロロシラン基及び/またはトリクロロシラン基を含有してなり、その官能基を除いた主鎖の重量平均分子量が400〜50,000の範囲にある樹脂であって、かつそれから誘導される活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、水との混合状態で、2層分離することのない油滴状やコロイド状または完全に水と混和して透明になる性質を有するものであれば好ましく含まれる。
【0064】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、活性シラノール基末端を1分子中に好ましくは0.7ケ以上有していることを必須な要件としたが、その理由は0.7ケ未満の場合には、充分なゲル強度、特に圧縮強度に欠け、良好な有機グラウト剤組成物とならない傾向にあるからである。好ましくは平均2〜6ケである。特に好ましくは平均2〜3ケである。
【0065】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量は400〜50,000であることを必須要件としたが、その理由は、400未満では、有機高分子系グラウト剤の靱性または弾性が劣り、50,000を越えると、剛性不足及び薬剤粘度が高すぎて一定範囲への地盤浸透固結性を十分確保できない傾向にあるからである。特に該主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000であると活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を比較的低粘度体の組成物とすることが出来、好ましい。
【0066】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部のガラス転移温度は特に制約されるものではないが、100℃以下とすることが良い。より好ましくは20℃以下、最も好ましくは−100℃〜10℃が良い。
【0067】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)としては、具体的には、例えばポリアルキレンオキサイドより誘導されたポリエーテルポリオールを主骨格とするいわゆるポリエーテル系高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のポリエーテル系プレポリマー、ポリエーテルエステル高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のポリエーテルエステル系プレポリマー、ポリエステル高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のポリエステル系プレポリマー、脂肪族ポリカーボネート高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のポリカーボネート系プレポリマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類の重合によって誘導される液状アクリルゴム高分子連鎖長を有し前記一般式(1)で示された末端シラノール基変性のアクリル系プレポリマー、等が挙げられる。
ここで、これらのプレポリマー種の中では経済性の点でポリエーテル系プレポリマーが好ましい。
【0068】
本発明の主剤液のpH値は9〜14のアルカリ性領域、0.1〜6の酸性領域のいずれかとして良く、特に制約はないが、一般的な事実として、そのpH値によっては主剤液自体の保存安定性が異なることをここで指摘しておきたい。
すなわち、主剤液の保存安定性を長時間に渡り確保する為には、例えば本発明の主剤液pH値を最終的に0.5〜3の強酸性領域で保つことが好ましい。しかし該強酸性領域で調整された本発明の主剤液は無限の時間に対しては安定ではない。また一方、pH値を10〜13.8の強アルカリ性領域で調整された本発明の主剤液では、アルカリ水ガラス溶液と同等な良好な液保存性(液ライフ)を確保できる性質を持つ。したがって本発明の主剤液ではpH値が10〜13.8の範囲の強アルカリ性領域で取扱うことがより最も優位な態様と言える。
【0069】
前記した活性シラノール基含有プレポリマー(イ)含有水溶液である本発明の主剤液は、化学的な視点で見ると、その基本的な性質(活性)は、例えば分子内に−Si−OHや−Si−O-・Na+を主体に持つとされるアルカリ水ガラス水溶液や、主に分子内に−Si−OHを主体に持つとされる酸性水ガラス水溶液等とそれぞれ対応するpH領域においては同様な基本的性質(活性)を持つと言うことが、本発明の有機高分子系グラウト剤のもうひとつの特徴として加えることが出来る。
【0070】
活性シラノール基含有プレポリマー(イ)は、前駆体樹脂である前記したプレポリマーを適宜加水分解処理することで得られることから、好ましいプレポリマーとは、即ち、活性シリル基末端を1分子中に好ましくは0.7ケ以上有していること、好ましくは平均2〜6ケ有していること、特に好ましくは平均2〜3ケ有しているものが好ましいと言える。
また好ましいプレポリマーの主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量で見ると、その主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量は400〜50,000の範囲と言うことになる。特に主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000であるプレポリマーを本発明の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の前駆体樹脂として使用することはおおいに好ましい。
【0071】
また前記したプレポリマー自体を得る一般的な方法の例としては、例えば特開昭50−156599号公報に代表されるポリエーテル骨格を持つシリル変性組成物の製造方法、または特開昭53−139695号公報に代表されるポリエステル骨格を持つシリル変性組成物の製造方法等が具体的に適用できる。
【0072】
より最も好ましい活性シラノール基含有プレポリマー(イ)には、総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲である水溶性のポリエーテルモノオール及び/またはポリエーテルポリオールと、下記一般式(2)[化12]
【化12】
OCN−R2−Si(R3)m−(Y)3-m (2)
(但し、式中のR2は炭素数3以上のアルキレン基を、R3はメチル基、エチル基またはプロピル基から選ばれた1種、Yは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基、オキシム基またはアセトキシル基から選ばれた1種、mは0〜1をそれぞれ表す。)
で表されるイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲で反応させて得られたものを、更にアルカリ金属水酸化物含有水溶液または無機酸含有水溶液中のいずれかの存在下で加水分解して得られたものが挙げられる。
その理由としては、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の製造に必要な原料が市場で容易に入手できること、1段反応でプレポリマーが製造可能であること、毒性が低く保存安定性に優れる活性シラノール基含有プレポリマー(イ)が誘導できること、分子連鎖中にウレタン結合が存在することによりその固結ゲルは土や砂粒子との密着性向上がおおいに期待出来ることなどの点が挙げられる。また前記一般式(2)のYは好ましくは炭素数が1〜5の整数で表されるアルコキシル基とすることがより好ましい。
【0073】
また更に、ポリエーテルポリオールの総和重量平均ヒドロキシル価が20mgKOH/g〜350mgKOH/gの範囲であり、かつそのポリエーテル鎖長部がエチレンオキサイド(以下単にEOと言う)の15〜100重量%とプロピレンオキサイド(以下単にPOと言う)またはブチレンオキサイド(以下単にBOと言う)の85〜0重量%から構成されてなるジオールまたはトリオールであり、NCO/OH当量比で0.95〜1.05の範囲であるものとすることを特徴とする前記の活性シラノール基含有プレポリマー(イ)はより更に好ましい例である。
前記ジオールまたはトリオールは、より好ましくはEOの30〜90重量%とPO及び/またはBOの70〜10重量%、より最も好ましくはEOの50〜85重量%とPO及び/またはBOの50〜15重量%から構成されてなるものとすることが良い。
以下においては、ポリオールとイソシアナートシランとを反応して得られたものを更に加水分解する方法で調整された活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を特に「活性Sポリマー」と呼ぶこととする。
【0074】
前記したポリオール類は常温で液体または固体であってよく、好ましくは常温で液体のものが良い。常温で液体であるとは、単独で常温で液体であることはもちろん、2種以上のポリオールを併用した場合において、その1種以上が固体であっても混合物が常温で液体であれば含むものとする。就中、常温で固体のポリオール成分を全ポリオール中に25重量%以内で併用使用し、かつ常温で液体を保つものは好ましく使用出来る。
さらには、必須成分である水(ロ)と良く混和することで、最終的に誘導される活性シラノール基含有プレポリマー(イ)が、室温で液体またはミクロな懸濁液状態(乳化状態とも言う)を安定に保つことができるポリオール類を選定使用することもできる。
しかし、前記ポリオールが、その主鎖の高分子鎖長部のガラス転移温度または融点のいずれかがが基本的に100℃以上でかつ高結晶性の性質を持つ場合には、誘導された最終反応生成物も室温で塊状固体の性質を保持したままであり、たとえ必須成分である水(ロ)と混合されても、常温で液体を保つことが困難であるので除外されて良い。
【0075】
なお、前記した総和重量平均ヒドロキシル価とは、それぞれ分子量が異なる同種または異種のポリオール成分を単独及び/または併用使用した場合の、全ポリオール成分の平均ヒドロキシル価を表す。
【0076】
また活性Sポリマーを誘導する為に便利なポリオール原料としては、その総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲とすることが好ましいとした。この範囲であれば、活性Sポリマーを用いて調整された本発明の有機高分子系グラウト剤を用いた固結体の弾性と1軸圧縮強度等の剛性とがバランス良く確保されるからである。 またそのヒドロキシル価が10mgKOH/g未満のポリオールの使用では、誘導される活性Sポリマーが高粘度組成物となりやすく、保存性に欠け、かつまた最終的に得られる本発明の有機高分子系グラウト剤の架橋密度が不十分でホモゲル強度が低くなる傾向にあり、好ましくない。また一方、そのヒドロキシル価が450mgKOH/gを超えるポリオールの使用では、誘導された活性Sポリマーの製造単価が高くなる傾向にあり、また最終的な有機高分子系グラウト剤が硬くて脆いものとなりやすい傾向にある。
【0077】
活性Sポリマーを得る目的で使用されるポリオール原料としては公知のものを使用して良く、より具体的には例えば以下の(a)〜(f)が好ましい例として挙げられる。
(a)ポリエーテルポリオール
(b)テレケリックなアクリルポリオール
(c)ポリカーボネートポリオール
(d)非晶性ポリエステルポリオール
(e)非晶性ポリエーテルポリエステルポリオール
(f)ロジンポリオール及び/またはその水素付加物
【0078】
(a)ポリエーテルポリオールとしては公知のものであって良く、製造方法等に特に制約はないが、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン、ネオペンチルグリコール、ショ糖、トリエタノールアミン、エチレンジアミン等の安価な活性水素化合物に対し、EO、PO、BO、テトラヒドロフランなどで代表されるアルキレンオキサイド類等の原料物質をアニオン重合やカチオン重合などの方法で作用させて得たものが好ましい例として挙げられる。1分子中にヒドロキシル基が2ケ有るジオールや1分子中にヒドロキシル基が3ケ有るトリオールなどが特に好ましく使用できる。
【0079】
前記したアルキレンオキサイド類の内、EOとPOを両者のモル比で(100:0)〜(15:85)の範囲の付加重合比率で作用させて得た、末端第1級及び/または末端第2級の−OH基を有する2〜6官能性の該ポリオールが、活性Sポリマー含有水溶液としたときの溶液安定性に富むと同時に、水と良く相溶及び/またはミクロ分散安定化出来ることが認められることから好ましいポリオールの例である。また(a)は、液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲とすることが肝要なこととしてあげられる。
【0080】
(b)テレケリックなアクリルポリオールとは、分子末端に選択的にヒドロキシル基が導入された室温で液体のアクリルポリオールを意味する。その合成・製造方法の例は特開平4−132706号公報や特開平5−262808号公報等によってすでに明らかにされており、公知の方法で得てよく、特に制約はない。一般的な(b)は、1分子中にヒドロキシル基が平均2ケ導入されてなるものが挙げられる。また(b)は、液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲とすることが肝要なこととしてあげられる。
【0081】
(c)ポリカーボネートポリオールとは、ラクトン環を含有する化合物を主たる出発物質として、公知の開環触媒の存在下で開環重合反応させて得られるものであり、液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲のものが好ましく使用できる。その製造方法などには特に制約はなく、例えば市場で容易に入手できるものとして、ポリエチレンカーボネートジオール、ポリプロピレンカーボネートジオール、ポリブチレンカーボネートジオール等がある。
【0082】
(d)非晶性ポリエステルポリオールとは、室温で半固体または液体として取扱え、かつ液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲のいわゆる末端ヒドロキシ基含有ポリエステルのことである。またその(d)としては、1分子中にヒドロキシル基として2〜4ケ程度有した、いわゆる公知の軟質ポリエステルが好ましい例として挙げられる。特に制約されるものではないが、(d)の具体例には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンカーボネートジオール、エチレンカーボネートジオール、トリメチロールプロパン、シリコンポリオール、アクリルポリオール、水添オレフィンポリオール等の少なくとも1種と、公知の有機二塩基酸類とをエステル化反応させて得られたものが挙げられ、融点または針入法で測定したTgが100℃未満のものであれば使用できる。
【0083】
(e)非晶性ポリエーテルポリエステルポリオールとは、室温で半固体または液体で、かつ液体クロマト測定法で求めたポリスチレン換算値で表される重量平均分子量またはヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲、好ましくは1,000〜20,000の範囲のいわゆる軟質のポリエーテルポリエステルである。また(e)としては、1分子中に末端官能基としてヒドロキシル基を少なくとも1.2ケ以上、好ましくは2〜4ケの範囲で有し、かつポリエーテル鎖が重合度で10以上50以下の繰返し単位を持つ軟質ポリエーテルポリエステルとすることが好ましい例である。特に制約されるものではないが、例えば、分子量500〜1000程度のポリエーテルポリオールと、公知の有機二塩基酸類とをエステル化反応させて得られたものが挙げられ、融点または針入法で測定したTgが100℃未満のものが代表的である。
【0084】
(f)ロジンポリオール及び/またはその水素付加物とは、より具体的には天然ロジンやその水素付加物のグリシドール付加物であるロジンジオール誘導体や、更にそのロジンジオール誘導体に対し更にEO/POを適宜付加して高分子量化したものなどが好ましい例として挙げられ、ヒドロシキル価から算出される重量平均分子量で400〜50,000の範囲の公知のものを適宜選定使用して良い。
【0085】
なお、前記した(c)、(d)または(e)の1種とイソシアナートシランとから誘導された活性Sポリマー等は、そのポリマーの化学的な性質として、ポリオール鎖自体の加水分解安定性がやや欠ける傾向がある。したがって該骨格を有する活性Sポリマーを含有してなる本発明の主剤液では、pHや環境温度による該要因に対する影響等の結果をよく調べて適切な配合条件の決定が成されなければならない。
【0086】
これら(a)〜(f)の中で、活性Sポリマーに関しては、(a)ポリエーテルポリオールから誘導されたものが最も好ましい。そしてその(a)ポリエーテルポリオールの総和ヒドロキシル価の値が20〜350mgKOH/gの範囲とすることがより好ましいことであり、更に好ましくは25〜300mgKOH/gの範囲とすることである。またその(a)ポリエーテルポリオールでは、特に好ましくはポリエーテル系のジオール及び/またはトリオールを挙げることが出来る。
【0087】
前記した(a)〜(f)の少なくとも1種のポリオール、更に好ましくは(a)と一般式(2)で表されたイソシアナートシランとからは、本発明の主剤液の必須成分である活性シラノール基含有プレポリマー(イ)のひとつである活性Sポリマーが非常に安価に調整できる特徴(利点)がある。
【0088】
またここで前記一般式(2)で表されるイソシアナートシランとは、特に制約されるものではないが、具体的には例えばγ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルジエトキシメチルシラン、γ−イソシアナートプロピルジメトキシメチルシラン等が知られ、それらから選ばれた1種または2種以上を選定して使用することで良い。
【0089】
また活性Sポリマーでは、好ましくは、前記した(a)のポリオールと前記のイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲、好ましくは0.9〜1.2の範囲、特に好ましくは0.95〜1.05の範囲、最も特に好ましくは1に限りなく近づけた当量比で、必要に応じて公知のウレタン化触媒の極く少量の存在下に作用させて得られるものである。NCO/OH当量比が0.7未満の場合には、誘導された活性Sプレポリマー中に未反応の遊離ポリオールが残存する為に十分なホモゲル強度の発現を見ない傾向にあり、またNCO/OH当量比で1.5を超える場合には特に顕著な弊害はないが、価格的に不利であるからである。ある程度のイソシアナートシランの残存は活性Sポリマーの粘度低下に寄与し、最終的な固結体分子に化学的に組込まれることからNCO/OH当量比が1以上となることは一向に差し支えない。
前記範囲で調整された活性Sポリマーの前駆体樹脂は、その大部分が1分子中少なくとも最低平均0.7ケ以上、より望ましくは平均2ケ〜6ケ程度、ジアルコキシシラン基及び/または同トリアルコキシシラン基が主鎖高分子の分子末端(1次反応段階で)に導入される。部分的に極く少量ヒドロキシル基が残っていても何等差し支えない。そして最終的に水で加水分解させて目的の活性Sポリマーとする。
【0090】
最終的な有機高分子系グラウト剤の速硬化適性の付与及び反応時間の短縮を図るなどの目的で前記したポリオール類とイソシアナートシランの反応に際しては公知のウレタン化反応触媒存在下で行なって良い。
【0091】
前記のウレタン化反応触媒としては、特に制約されるものではないが、例えばジブチルチンジラウレートやジブチルチンオキサイド等で代表される有機錫化合物、またオルトチタン酸アルキルエステルで代表される有機チタン化合物、その他ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛等のナフテン酸遷移金属化合物類、同オクテン酸遷移金属化合物類、アセチルアセトン遷移金属錯体類などがある。グラウト薬剤業界で、その存在量を規制または敬遠されているものに該当するとされる有機錫系ウレタン化促進触媒を添加使用する場合などでは可能な限り極く微量とすることが肝要なこととして挙げられる。
【0092】
地盤注入用グラウト剤分野に於いては設定されたゲル化時間で固結する性質とその固結ゲルが一定範囲の強度を発揮することが重要であるから、本発明の主剤液には基本的に以下の硬化剤液を必須とする。
【0093】
すなわち本発明の有機高分子系グラウト剤では、任意なゲル化調整とその固結体強度や強靱性等の確保から活性シラノール基含有プレポリマー(イ)を含有する水溶液である主剤液の100容量部に対し、下記の硬化剤液の1〜500容量部を混合する。好ましくは主剤液100容量部に対し、硬化剤液が20〜100容量部とを混和することの方が混和配合量ミスを可能な限り軽減できることからより好ましい。最も好ましくは主剤液100容量部に対し硬化剤液が100容量部となるように混和された本発明の有機高分子系グラウト剤とすることがより好ましい。
また更に本発明の有機高分子系グラウト剤組成物では、前記した主剤液と下記の硬化剤液との2液混合液において、特に制約されるものではないが、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の該グラウト剤中の濃度としては、1〜70重量%の範囲、より好ましくは5〜37.5重量%の範囲とすることが良い。
【0094】
本発明の有機高分子系グラウト剤に於いて必須な硬化剤液とは、カルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有してなる酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを適宜含有して成る無機混合物からなる無機質硬化剤(ハ)を0.1〜80重量%含有する水溶液である。
【0095】
主剤液の100容量部に対し硬化剤液が1容量部未満では本発明の有機グラウト剤組成物が一定時間内で固結することが困難となる傾向にある。また500容量部を超えて使用した場合、それ以上顕著なゲルタイムの短縮効果が引出せないことと経済性に欠ける傾向にある。
【0096】
前記(ハ)成分の具体的な例としては、例えば、酸化カルシウム(生石灰)、水酸化カルシウム(消石灰)、塩化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウムなどや、その他セメント、水砕スラグ、無水石膏、半水石膏または2水石膏、フライアッシュ、海水またはニガリなどから選ばれた1種または2種以上が好ましく挙げられる。
【0097】
特に(ハ)成分として、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲、好ましくは8,000〜45,000cm2/gの範囲、最も好ましくは10,000〜40,000cm2/gの範囲にあるものであり、かつセメント粉、水砕スラグ粉、無水石膏粉、半水石膏粉または2水石膏粉から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする本発明の有機高分子系グラウト剤が好ましい例として挙げられる。
【0098】
また(ハ)成分が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲、好ましくは8,000〜45,000cm2/gの範囲、最も好ましくは10,000〜40,000cm2/gにある生石灰及び/または消石灰であることを特徴とすることや、または、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲、好ましくは8,000〜45,000cm2/gの範囲、最も好ましくは10,000〜40,000cm2/gにある酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたは塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種とすることを特徴とする本発明の有機高分子系グラウト剤は特に好ましい例である。
【0099】
また(ハ)成分が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲、好ましくは8,000〜45,000cm2/gの範囲、最も好ましくは10,000〜40,000cm2/gにある塩化アルミニウムとすることを特徴とする本発明の有機高分子系グラウト剤もまた好ましい例である。
前記中、(ハ)成分のブレーン値を3,000〜50,000cm2/gの範囲としたのは3,000cm2/g未満のものでは懸濁液の均一反応性に欠ける傾向にあるからであり、また50,000cm2/gを超えるものは市場で容易に入手出来ないからである。
前記した(ハ)成分に関わる態様例のいずれかを使用したものは、本発明の有機高分子系グラウト剤が、剛性に富みかつ高剪断抵抗性を示す点や、高い透水抵抗性を示すことから特に好ましい例である。
【0100】
また本発明の有機高分子系グラウト剤では、そのゲル化時間を任意に調整しかつその固結体の弾性を保持しつつ一層高強度化する目的で、以下に示すシラノール化縮合触媒を、必要に応じて、主剤液ないし硬化剤液のいずれか一方または両方に添加併用使用してよい。そのシラノール化縮合触媒には、例えば、アルキルチタン酸塩;有機珪素チタン酸塩;オクチル酸錫、ジブチル錫ラウレートや同マレート及び同フマレート等のジブチル錫カルボン酸塩;ジブチルアミン−2−エチルヘキソエート等のアミン塩等が挙げられる。シラノール化縮合触媒の併用使用に際しては、事前に十分なゲル化挙動試験等を実施してその添加配合量を決定することが肝要なことであり、活性シラノール基含有プレポリマー(イ)の100重量部に対し、0.001〜20重量部とすることが好ましい。
【0101】
本発明の有機高分子系グラウト剤の2液混合後のゲル化時間が20分以内と短い場合、1ショット方式での取扱はなるべくさけることが望ましい。場合によっては、該グラウト剤が注入管内で固結すること等により、注入管をダメにする恐れが在るからである。一方、ゲル化時間が20分以上と長い場合には本発明の有機高分子系グラウト剤の2液を混合させて1液化して取扱って良く、すなわち、1ショット方式での取扱がされて良い。
即ち、基本的には1.5ショットや2ショット方式のいずれかで取扱う方が、作業性のトラブルが回避出来るのでより好ましい。
【0102】
本発明の有機高分子系グラウト剤の該主剤液または硬化剤液または2液混合組成物中には、作業性の改善、浸透速度調製、密着性改良、事前のpH調整などを特に意識して、下記した添加助剤成分を0.01〜10重量%以内、好ましくは0.1〜3重量%以内でいずれかの液組成物に対して使用しても何等差し支えない。
例えば、ヒンダードアミン類で代表される光安定剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;グリシジルシラン類、アミノシラン類、メルカプトシラン類、ビニルシラン類、クロロシラン類で代表されるシランカップリング剤;超微粒子アルミナ、超微粒子の粘土粉等に代表される無機物チクソ化付与剤;亜リン酸エステル類で代表される過酸化物補足剤;炭カル、タルク等で代表される無機充填剤;界面活性剤;砂糖、ブドウ糖、アスコルビン酸などの金属錯体形成剤、第2〜第3燐酸アルカリ金属塩類、硫酸アルカリ金属塩類、炭酸アルカリ金属塩類、重炭酸アルカリ金属塩類などで代表されるpH緩衝作用物質等を適宜添加可能である。
【0103】
本発明の有機高分子系グラウト剤に必須な水(ロ)成分には特に限定はない。人工海水、海水、河川の水、地下水、水道水、雨水、蒸留水、イオン交換水など注入工事現場附近で調達できる水であれば好ましく使用できる。
【0104】
以下においては、前記した本発明の有機高分子系グラウト剤を用いた地盤改良方法(地盤改良工法とも言う)について説明する。
その地盤改良方法の1つとしては、不安定地盤に対し、グラウト注入管を介して、本発明の有機高分子系グラウト剤を2液混合する形で加圧注入し、固結させて該地盤を強化または止水し、或いは透水性を極限まで低下させる方法である。
またその地盤改良方法のもう1つとしては、不安定地盤に対し、グラウト注入管を介して、2種以上の異なるゲルタイムを有する本発明の有機高分子系グラウト剤の2種以上、即ち複数使用して、複相注入し、固結させて該地盤を強化または止水し、或いは透水性を極限まで低下させる方法である。
【0105】
前記した地盤改良方法では、注入に際して本発明の2液からなる有機高分子系グラウト剤として示された硬化剤液のみを先行注入させた後、本発明の有機高分子系グラウト剤の主剤液を、又は2液混合させて後注入することも良い方法である。また前記複相注入とは、例えば2種以上のゲルタイムを有する本発明の有機高分子系グラウト剤を用意した後、まずゲルタイムが数秒から数分の比較的早い固結時間を持つ該組成物を選定して先行注入固結させた後、ゲルタイムがそれよりも更に遅い本発明の有機高分子系グラウト剤を後注入する等の具体的方法例が好ましく挙げられる。また別の複相注入の例では、公知の瞬結または中結型である無機硬化剤−水ガラス主剤型、有機硬化剤−水ガラス主剤型、水ガラス−セメント懸濁型、水ガラス−スラグ懸濁型などから選ばれた1種の公知グラウト剤を先行注入固結させた後、本発明の有機高分子系グラウト剤を後注入する、いわゆる異なった性質からなるグラウト剤を複層注入・固結させる方法も好ましく包含される。
また注入に際してはパッカー方式やスリーブ方式や高圧噴射方式など公知の方法を用いてもよく特に制約はない。
【0106】
以下では、本発明の有機高分子系グラウト剤を用いた下水道管の地下水止水方法(地下水止水工法とも言う)について説明する。
その下水道管の地下水止水方法とは、地下埋設下水道管の地下水漏水箇所に対し、小口径のダブルパッカーとテレビカメラとを有する円筒形の自送式パーカー注入器を介して、本発明の有機高分子系グラウト剤をその漏水部に加圧注入し固結させて止水する工法である。
また該工法では、地下水の大量の流入または下水の大量流出等が観察される際に用いられる好ましい有機高分子系グラウト剤としては、注入に際してはできるだけ数秒〜数十秒と短いゲル化時間を有するものを選定使用することでその目的が達成できる。またその際には、例えば地表面から注入管を差込んで配置し、水流出入り流路(即ち、下水管からの流出箇所地盤周辺を該グラウト剤等で一体固結させて漏水が流出する流路)を抑制した後に、前記した方法で止水を完結させるなどの方法を包含するものである。
【0107】
以下においては、本発明の有機高分子系グラウト剤を用いて行なう有害物質封止方法について説明する。
近年の主要な社会問題の1つとして、屋外に放置または貯蔵されている有害な重金属イオン等の有害物質を多く含む鉱砕や同産業廃棄物などがのざらしで放置され、その結果人が住む環境が著しく汚染され、動植物等に甚大な被害をもたらす危険性が数多く指摘されているのが実態であり、従って、このような環境汚染による被害を防止することという課題を緊急に解決することが強く求められている。 したがって本発明の有害物質封止方法では、その重金属イオン等を含む有害物質が、降雨等の浸透水によって該有害物質が外部へ漏出するのを防止する、或いは極限まで抑制する有害物質封止方法であって、本発明の有機高分子系グラウト剤と該有害物質と一体化させて固結させ、その結果、該有害物質の外部への漏出を防止することを特徴とする有害物質封止方法である。
【0108】
本発明の有機高分子系グラウト剤と有害物質とを一体化させる具体的な方法としては、公知の機械混合・含浸法、注入浸透固結法、振りまき含浸固結法、積層固結法などの混合または含浸固結手段を任意に選択してよく、特に制約はない。中でも好ましくは、処理費用面から本発明の有機高分子系グラウト剤を上から振りまくかまたは流動含浸固結させる等の方法によって封止する工法がより好ましい工法である。最終的に該有害物質を含む鉱砕や産業廃棄物等の表層部位の透水係数が低くとも10-4 オーダー、好ましくは10-5 からそれ以上の極限値まで低下抑制できるように、本発明の有機高分子系グラウト剤の使用量を決定することが肝要なこととして挙げられる。
【0109】
なお、本発明の有機高分子系グラウト剤のゲルタイム調整は任意であってよく、好ましくはその目的から、数秒〜数時間の範囲とすることがよい。地下水の有無、土質の種類、土砂堆積構造、注入箇所周辺の状態に応じて任意なゲルタイムとすることで良く、特に制約はない。また前記したように、2種類以上のゲルタイムを持つ本発明の有機高分子系グラウト剤を用意し、複相注入方式で目的を達成しても良く、また1ショット方式、1.5ショット方式、2ショット方式などを適宜採用してよい。
【0110】
ところで本発明の有機高分子系グラウト剤組成物を、不安定地盤の改良用途、トンネル用コンクリートパネル裏面とその裏面に接する岩盤との一体化の用途、地下室コンクリート壁とその裏面に接する土壌との一体化の用途、地下または地中下のコンクリート製構造物の強化安定と恒久的な止水を兼ねて該構造物の裏面に裏込め充填する用途としても、好ましく使用できる。
【0111】
【実施例】
以下に本発明の実施例及び比較例を示すが、特に断らない限り記載の部または%はそれぞれ重量部、重量%を意味すると共に、記載の実施例によって本発明が特に限定されるものではない。
また以下の例中や表中の各記号の説明はそれぞれ以下のとおりである。
また各例中記載のグラウト剤組成物の各種性能試験方法については以下のようにしておこなった。
【0112】
難燃試験
有機高分子系グラウト剤単独の硬化体(厚さ2mm×幅5mm×長さ100mmの板状)の端面を45゜の角度でガスバーナーの酸化小炎の直上位置にかざし2〜3秒間着炎させた後、直ちに該小炎から遠ざけて、3秒以内に延焼炎が消える場合を難燃性が高いとして◎の記号で表示。20秒以内で消える場合は難燃性ありとして○の記号で表示。30秒以内で消える場合は難燃性にやや欠けるとして△の記号で表示。30秒を超えて燃え続けている場合には可燃性という意味で×の記号で表示した。
【0113】
ゲル化時間(ゲルタイム)測定
一定温度下で、硬化剤成分を添加または2液混合した時点からその組成物自体の溶液流動性がなくなるまでの時間で表し、その時間が1分未満のものを[瞬結]と表示、1分以上〜5分未満を[中結]と表示、5分以上〜30分未満を[中長結]と表示、30分以上のものを[長結]と表示した。
【0114】
1軸圧縮試験
JIS−A−1216に準じた方法であり、丸東製作所のSG−2033B型電動式1軸圧縮試験機を用いて、圧縮速度1.5mm/分でおこなった。
【0115】
ホモゲル強度とその歪率測定
グラウト剤組成物単独の固結体の物性であり、直径50mm,100mm高さの円柱状のホモゲル硬化体を得た後、前記した1軸圧縮強度を求めその値をホモゲル強度とする。また、その1軸圧縮強度測定時の破壊に至るまでの変形量をもとの高さで割って100を掛けた値を歪率として(%)で表示。
【0116】
サンドゲル強度
グラウト剤組成物の38.5〜40.5vol%と豊浦標準砂の59.5〜61.5vol%を均一混合させ、気泡が入らないようにしてモールド成形容器に詰めて固結させた後、養生し、脱型して直径50mm,100mm高さの円柱状のサンドゲル硬化体を得る。そのサンドゲルの1軸圧縮強度の値でサンドゲル強度とする。
【0117】
浸透適性試験
上部と下部にそれぞれ開口穴のある10cm直径の透明アクリル製充填搭を用意し、充填高さが1mとなるように豊浦標準砂を水存在下に細密充填させた。充填搭上部の開口部より、注入圧力1.5Kg/cm2で各実施例ならびに比較例の各グラウト剤組成物をそれぞれ注入させた時、市水のみによる注入浸透速度(200〜210ml/min)を100とした際の各グラウト剤組成物の水に対する注入浸透速度比が70%以上でかつ粒子間浸透固結が可能な場合を◎の記号で表示した。また水に対する注入浸透速度比が50%以上〜70%未満でかつ粒子間浸透固結が可能な場合を○の記号、水に対する注入浸透速度比が15%以上〜50%未満でかつ粒子間浸透固結が可能な場合を△の記号、また同15%未満の場合を×の記号でそれぞれ表示した。
【0118】
耐久性試験
前記方法で得た円柱状のホモゲル体またはサンドゲル硬化体のいずれかを10リットルが1昼夜で1回置換するように設定された流水置換式水槽に一定期間浸漬させ、その時の1軸圧縮強度保持率(%)と外観変化を観察した結果を耐水耐久性試験結果(以下では耐久性試験1と表示)として表示した。一方JISに規定されている人工海水溶液を調製し、その人工海水に一定期間浸漬させた後の外観変化と1軸圧縮強度保持率(%)で海水浸漬耐久性試験結果(以下では耐久性試験2と表示)とした。
【0119】
以下においては、まず後述する実施例及び比較例で用いる主剤液および比較主剤液について説明する。
【0120】
主剤液1
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ポリエーテルポリオールとして、ヒドロキシル価から算出された重量平均分子量が3,300のポリエーテル系トリオール[エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)のランダム付加モル比率が75:25である]の500部(0.454モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランの114部(0.46モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.01部とを仕込、窒素気流中、80℃で2時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に分子量が3,300であるポリエーテル主鎖に加水分解活性シリル基末端を平均3ケ持つプレポリマー1を得た。プレポリマー1は単独では常温で液体を示し、その溶液粘度はB型粘度計による室温測定結果で980cpsであった。
【0121】
更に50℃に加温された1N−水酸化ナトリウム水溶液の690部に前記プレポリマー1の310部を少しずつ投入し、投入終了後にはエアレーションして約30部の遊離エタノールを除去した。その結果無色透明の溶液が得られ、固形分換算で30.97重量%濃度となるように調整した。その結果活性シラノール基含有プレポリマーを含有するアルカリ性水溶液が得られ、これを主剤液1とした。該主剤液1のpH値は室温で13.5を示し、おおよそ3〜4cpsの低粘度液体であった。また、該主剤液1は室温下3ケ月保存後においても安定であることが認められた。
【0122】
主剤液2
また別に50℃に加温された1N−水酸化ナトリウム水溶液の534部と蒸留水66部とからなるアルカリ性水溶液に前記プレポリマー1の400部を少しずつ投入し、投入終了後にはエアレーションして約38部の遊離エタノールを除去した。その結果無色透明の溶液が得られ、固形分換算で39.8重量%濃度の活性シラノール基含有プレポリマーの水溶液を得、これを主剤液2とした。該主剤液2のpH値は室温で13.6を示し、おおよそ3.9cpsの低粘度液体であった。また該主剤液2の3ケ月保存後も何等変化がなく主剤液自体の保存安定性は良好であった。
【0123】
主剤液3
また別に50℃に加温された1N−水酸化ナトリウム水溶液の138部とイオン交換水の552部とからなるアルカリ性水溶液に前記プレポリマー1の310部を少しずつ投入し、投入終了後にはエアレーションして約30部の遊離エタノールを除去した。その結果無色透明の溶液が得られ、固形分換算で29.2重量%濃度の活性シラノール基含有プレポリマー水溶液を得、これを主剤液3とした。該主剤液3のpH値は室温で13.4を示し、おおよそ2cpsの低粘度液体であった。また該主剤液3の5日間保存安定性は良好であったが、10日以上の保存では増粘や部分ゲルの析出が見られた。
【0124】
主剤液4
また1N−硫酸水溶液の200部とイオン交換水の800部とからなる強酸性水溶液に前記プレポリマー1の200部を少しずつ投入し1時間攪拌した。その結果無色透明の溶液が得られ、固形分換算で活性シラノール基含有プレポリマーの20重量%濃度からなる主剤液4を得た。該主剤液4のpH値は室温で0.6を示し、おおよそ1.3cpsの低粘度液体であった。この主剤液4の保存安定性については5時間は安定であったが24時間後の観察ではゲル化するものであった。
【0125】
主剤液5
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ヒドロキシル価から算出された重量平均分子量が20,000の高純度なポリエチレングリコールの500部(0.05モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランの13.5部(0.054モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.01部とを仕込、窒素気流中、80℃で5時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に1分子中に平均2ケの活性シリル基末端を持ち、主鎖が重量平均分子量20,000のポリエチレングリコール骨格であるプレポリマー2を得た。そのプレポリマー2は水溶性で常温で固体であり、融点約60℃の水に非常に良く相溶するものであった。
次に別の4ツ口フラスコに60℃に加温された0.1N−水酸化ナトリウム水溶液の195部と水道水505部とからなるアルカリ性水溶液を仕込、その液に前記プレポリマー2の304部を投入した。60℃加温のまま窒素エアレーションして約4部の遊離エタノールを除去し、固形分を30重量%に調整した。その結果無色透明の溶液が得られ、活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液5を調整した。該主剤液5のpH値は室温で13.0を示し、おおよそ1.5cpsの低粘度液体であった。また1〜2カ月放置後でも何等ゲル化や増粘が認められず、安定性に富む主剤液5であった。
【0126】
主剤液6
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ヒドロキシル価が56mgKOH/gのポリエチレングリコール(分子量2,000)の500部(0.5モル/活性OH当量)と重量平均分子量が2,050の片末端n−ブチルエーテル化されたポリアルキレングリコールモノブチルエーテルである水溶性モノオールの200部(0.098モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランの149部(0.6モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.01部とを仕込、窒素気流中、80℃で2時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に平均1.7ケの活性シリル基末端を持つプレポリマー3を得た。
プレポリマー3は、その主鎖の高分子鎖長部の分子量が約2,000のポリエーテル骨格からなり、水溶性でかつ常温で半固体の性質を示した。
次に別の4ツ口フラスコに20℃の0.5N−水酸化カリウム水溶液の100部と水道水400部とからなるアルカリ水溶液を仕込、その液に前記プレポリマー3の555部を投入した。50℃加温後、窒素エアレーションして約55部の遊離エタノールを除去し、活性シラノール基含有プレポリマー含有濃度を固形分換算で50.1重量%に調整した。その結果無色透明の溶液が得られ、活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液6を調整した。該主剤液6のpH値は室温で13.4を示し、おおよそ5.7cpsの低粘度液体であった。なお、主剤液6の室温での液ライフは長くとも5日であった。
【0127】
比較主剤液1
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ヒドロキシル価が54.8mgKOH/g、EO/POブロック付加比が19/81の1級ヒドロキシル基を持つポリエーテルグリコール系トリオールの500部(0.488モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリメトキシシランの102部(0.488モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.01部とを仕込、窒素気流中、80℃で2時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に平均3ケの活性シリル基末端を持つプレポリマー4を得た。プレポリマー4はその主鎖の高分子鎖長部の分子量が約2,000の疎水性のポリエーテル骨格からなり、常温で液体であるが、水にほとんど不溶であった。
このプレポリマー4を用いて10重量%のイオン交換水による水希釈溶液とした比較主剤液1は、すぐ2層分離し上層が該プレポリマー4をなし、24時間以内にそのままで熱硬化性で水不溶の架橋ゲル層を形成した。結果としてプレポリマー4は水に不溶性である為このままでは水希釈溶液の調整は出来なかった。
【0128】
主剤液7
1リットルビーカー容器を用意し、その中に0.6N−水酸化カリウム溶液600部と、あらかじめ人口的に調整した海水5%分を混和した水道水の150部とを仕込、その系を攪拌下に、比較主剤液1で用いたプレポリマー4の250部を投入して2時間反応させた。その結果、薄い乳白色半透明溶液が得られ、数日間の放置試験で全く変化のない安定した半懸濁の活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液7を得た。なお、仕込プレポリマー4換算で表される濃度が25%の活性シラノール基含有プレポリマー含有のアルカリ性水溶液であった。比較主剤液1では安定な水希釈液が調整されなかったのに比べ、本主剤液7ではきわめて安定な水系の主剤液が調整された。溶液粘度は0.6cpsと低粘度系であった。
【0129】
主剤液8
1リットルビーカー容器を用意し、その中に1N−水酸化ナトリウム溶液200部と、水道水の500部とを仕込、その系を攪拌下に、比較主剤液1で用いたプレポリマー4の300部を投入して2時間反応させた。その結果、濃い乳白色溶液が得られ、数日間の放置試験で全く変化のない安定な懸濁溶液である活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液8を得た。なお、仕込プレポリマー4換算で表される濃度が30%の活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液であり、そのpH値が13.5で0.7cpsの低粘度溶液であった。比較主剤液1では安定な水希釈液が調整されなかったのに比べ、主剤液8ではきわめて安定な水系の主剤液が調整された。溶液粘度は0.7cpsと低粘度系であった。
【0130】
比較主剤液2
環流冷却器付きの1リットル容量の4ツ口反応フラスコを用意し、ヒドロキシル価が69mgKOH/gであるロジンジオール(平均分子量1,626)の500部(0.615モル/活性OH当量)とγ−イソシアナートプロピルトリメトキシシランの129.6部(0.62モル/活性NCO当量)及び触媒としてジブチルチンオキサイドの0.005部とを仕込、窒素気流中、80℃で5時間反応させた後冷却し、ほぼ定量的に平均2.0ケの活性シリル基末端と主鎖の高分子鎖長部の分子量が1,626のロジン骨格からなり、疎水性でかつ常温で液状のプレポリマー5を得た。
このプレポリマー5を用いて10重量%のイオン交換水による水希釈溶液とした比較主剤液2では、混合後すぐ2層分離し上層が該プレポリマー5をなし、24時間以内にそのままで熱硬化性で水不溶の架橋ゲル層を形成した。結果としてプレポリマー5は水に不溶性である為このままでは水希釈溶液の調整は出来なかった。
【0131】
主剤液9
1リットルビーカー容器を用意し、その中に0.5N−水酸化ナトリウム溶液600部と水道水の150部とを仕込、その系を攪拌下に、比較主剤液2で用いたプレポリマー5の250部を投入して2時間反応させた。その結果、薄い乳白色半透明溶液が得られ、数日間の放置試験で全く変化のない安定した半懸濁の活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液である主剤液9を得た。なお、仕込プレポリマー5換算で表される濃度が25%の活性シラノール基含有プレポリマー含有の、溶液pH値が13.5を示す強アルカリ性水溶液であった。比較主剤液2では安定な水希釈液が調整されなかったのに比べ、主剤液9ではきわめて安定な水系の主剤液が調整され、溶液粘度は0.8cps程度と、低粘度液体であった。
【0132】
以下に実施例及び比較例を記載する。
【0133】
実施例1から実施例7
調整後3時間未満にある主剤液1〜主剤液7と必要に応じて水道水で希釈されてなる表1記載の配合組成とした各主剤液と更に表1記載の配合組成とした各硬化剤液との2液を用いて、表1記載の配合比率で主剤液と硬化剤液を混和させて実施例1〜実施例7の各有機高分子系グラウト剤組成物を調整し、グラウト剤番号D1(実施例1記載の有機高分子系グラウト剤)〜D7(実施例7記載の有機高分子系グラウト剤)をそれぞれ得た。各グラウト剤の溶液物性と硬化体物性を同時に表1に記載した。
【0134】
また、表1記載の各硬化剤液組成では、硬化剤をメスシリンダー内に規定重量採取し、水に溶解して希釈し、表1記載の配合容量となるように調製したものであることを表す。
なお、表1中記載のセメント粉としては、ブレーン値が約95,700cm2/gの超微粒子品を用いた。また水砕スラグ粉としては、ブレーン値が12、000cm2/g(平均粒子径が3ミクロン)の超微粒子粉を用いた。また消石灰としては、ブレーン値が35,500cm2/gの超微粒子粉を、生石灰としては、ブレーン値が6,300cm2/gの微粒子粉をそれぞれ使用した。
前記以外のカルシウム、マグネシウム、アルミニウム系無機硬化剤成分等は試薬をメノウ乳鉢に取り、粉砕して350メッシュパスの粉体を用いて実施した。
【0135】
その結果、表1から明らかなように、1分子中に数個の活性シラノール基を含有しかつ主鎖の分子量が3,000〜20,000の範囲のいずれかにあるポリエーテル型の活性シラノール基含有プレポリマーを含有する主剤液では、その主剤液100容量部に対し、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム系無機質硬化剤を少量含有する水懸濁液または該水溶液の20〜100容量部の配合例に於いて、瞬結から中長結の幅広い範囲のゲル化挙動を持ち、かつ高い1軸圧縮強度特性ならびに高弾性特性とを合せ持つ固結体が生成することが明確となった。また本実施例1〜実施例7の有機高分子系グラウト剤はそのすべてが水及び海水浸漬耐久性に富むこと、難燃性に優れること、標準砂に対する浸透注入作業性に優れる等の特性もまた同時に判明した。
また実施例1〜実施例3の各サンドゲル耐久性試験1のサンドゲル浸漬開始から24時間後におこなった浸漬水中の低級アルコール分に関するガスクロマト分離分析結果においては、その存在は検出されなかった。
【0136】
【表1】
【0137】
実施例8から実施例14
調整後3時間以内の主剤液1と主剤液2と主剤液5と主剤液8及び主剤液9とを適宜配合してなる表2記載の配合組成とした主剤液と表2記載の配合組成とした硬化剤液との2液を用いて、表2記載の配合比率で主剤液と硬化剤液を混和させて実施例8〜実施例14の各有機高分子系グラウト剤組成物を調整し、グラウト剤番号E1(実施例8記載の有機高分子系グラウト剤)〜E7(実施例14記載の有機高分子系グラウト剤)をそれぞれ得た。各グラウト剤の溶液物性と硬化体物性を同時に表2に記載した。
【0138】
また、表2記載の各硬化剤液組成では、硬化剤をメスシリンダー内に規定重量採取し、水に溶解して希釈し、表2記載の配合容量となるように調製したものであることを表す。
なお、表2中記載の水砕スラグ粉としては、ブレーン値が15、000cm2/gの超微粒子粉を、消石灰としてはブレーン値が20,000cm2/g程度の秩父石灰(株)社品#074を用いた。
【0139】
その結果、表2から明らかなように、1分子中に数個の活性シラノール基を含有しかつ主鎖の分子量が3,000〜20,000の範囲のいずれかにある疎水性のポリエーテル型または疎水性のロジンポリオール型の活性シラノール基含有プレポリマーを含有する主剤液では、その主剤液100容量部に対し、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム系無機質硬化剤を少量含有する水懸濁液または該水溶液の1〜400容量部の配合例に於いて、瞬結から長結の幅広い範囲のゲル化挙動を持ち、かつ高い1軸圧縮強度特性ならびに高弾性特性とを合せ持つ固結ゲルが生成することが明確である。また本実施例8〜実施例14の有機高分子系グラウト剤はそのすべてが水及び海水浸漬耐久性に富むこと、難燃性に優れること、標準砂に対する浸透注入作業性に優れる等の特性もまた同時に判明した。
【0140】
【表2】
【0141】
実施例15
上記表1の実施例2(グラウト剤番号D2)に記載したものと同様の組成物からなる主剤液、硬化剤液のそれぞれ20リットルづつを用意し、その2液を混合容量比が1:1となるようにして、あらかじめ6号珪砂を圧密充填したモデル地盤の1m深層部位に設置された注入単管より該グラウト液を、1.5ショット方式で、200ml/分の割合で、かつゲージ圧1.5kg/cm2で吐出させた。吐出圧が5kg/cm2まで上昇した時点で吐出を停止し、その後そのまま3日放置して養生したのち、未固結土壌を水で洗い流す方式で、生成したサンドゲル固結体の外観観察を行った結果、半径約70〜80cm大の楕円状固結体の生成が確認された。その固結体の中心部附近より採取したサンドゲルの1軸圧縮強度特性は14.6kgf/cm2と高強度値を示した。
また採取されたサンドゲル固結体3点の透水係数の平均は7×10-6 と判明し、高止水性に富む地盤に改良できることを十分に示唆するものであった。
【0142】
実施例16
3mmから5mm大の珪石を主成分とする礫質モデル地盤を、基盤の上に1.5m高さに盛った後、その上部に5号珪砂をさらに1.5m高さに盛ったモデル地盤を用意した。
一方、上記表2の実施例10(グラウト剤番号E3)に記載したものと同様のグラウト剤組成物(瞬結型)の主剤液、硬化剤液をそれぞれ各20リットルづつと、表2の実施例8(グラウト剤番号E1)に記載したものと同様のグラウト剤組成物(長結型)の主剤液、硬化剤液を事前に混合してなる1ショット薬液100リットルとを用意した。
まず最初に礫層の中心に注入管の注入先端部が位置するように2重管からなる注入管を下ろして固定し、前記瞬結型のグラウト剤を2ショット方式にて全量1次注入後、注入管を引き上げて5号珪砂層まで移動させて後、前記長結型のグラウト剤を1ショット方式で加圧注入して浸透固結させた結果、数日後に行った注入後の改良地盤の標準貫入試験値(N値)は最低値でも26以上と十分締め固められており、高強度でかつ液状化しにくい安定な改良地盤となっていた。
【0143】
ここで、「標準貫入試験及びその試験値」とは、「土の硬軟・締まり程度を知る指標となるN値を求めるための試験であり、ボーリング孔を利用し、ロッドの先端に直径5.1mm、長さ81cmの標準貫入試験用サンプラーを、重さ63.5Kgのハンマー(落垂ハンマー)を75cm高さから自由落下させ、サンプラーを30cm貫入させるのに要する打撃回数(N値)を測定する方法」をいう。 一般的にN値が10未満の土は、軟弱地盤と言われ、N値が1〜8の砂地盤は液状化の危険性を持つことが知られている。
【0144】
実施例17
上記表1の実施例2(グラウト剤番号D2)に記載したものと同様の組成物からなる主剤液A、硬化剤液Bのそれぞれ20リットルづつを用意した。一方管口径50cmのコンクリート製フューム管を2本水平にして接続し、その2本の相互継手部分は約1mm程度の隙間を持たせ未シール状態とし、両サイドの開口部を閉鎖しない状態でその周辺1m高さに木枠で囲み地中に埋設された下水道管モデルを構築した。その際、接続フューム管上部、すなわち木枠で囲まれた部分を豊浦標準砂を水潤状態で積層して締め固め、1m高さに盛って前記モデルを作成した。
【0145】
また下記の下水道管の地下水止水注入試験中においては、該継手欠陥部より、毎分1〜2リットル程度の流水状態下になるようにして、以下の試験をおこなった。
該埋設下水道管モデルの中央部に、ダブルパッカーと注入機能が一体化してなり、かつテレビカメラが接続されてなる円筒形の自送式パッカー注入器(円形筒型で直径30cm)を挿入して、テレビカメラを見ながらそのパッカー注入器の中心がフューム管接続部の中心位置となるように移動して、直ちにパッカー部へ加圧水を送液してパッカーをふくらませた。その後で該注入器を介して、該注入器出口で衝突混合する形式、いわゆる2ショット方式で、前記の主剤液Aと硬化剤液Bを容積比率1:1で同時に供給し、約2.5kg/cm2の加圧下で全量を1:1容量比で混合注入させた。
【0146】
注入作業中はパッカー外周部からの漏液は全く観察されなかった。注入後15分放置後に、パッカーの水を抜いて、該注入器を管内部より排出させた結果、2本の下水管内部継手部に実施例18で示されたホモゲル固結体がドーナツ状に管内部に張付いて構築されていた。また更に管外周部の未硬化砂を注意深く取除いた所、2本の下水管内部継手部隙間から浸透してその周辺砂を一体的に浸透固結させて硬化した状態が観察された。また、その周辺の硬化範囲は、概ね幅50cm、厚さ平均30cmの範囲を浸透固結させていた。
そしてテスト前に発生していた漏水流入は全くない状態であることが観察された。
最終的に試験7日後に実施例17で形成された固結サンドゲルコア(50mmφ×100mmH)を数本採取し、実施例17と同様な方法で行ったサンドゲルの1軸圧縮強度を測定した結果、13〜16kgf/cm2と安定した高い強度値が得られた。またその際の圧縮破壊歪率は5〜6%であった。
【0147】
本結果より、豊浦標準砂への浸透注入固結性能は良好であることが改めて判明するとともに、前記実施例2の結果と合せると、下水道管の地下水止水性能が十分にあり、かつ長期耐久性を合わせ持つ改良が可能であることが判明した。
【0148】
比較実施例1
日本工業規格−3号珪酸ナトリウム(JIS−3号水ガラス)溶液の6リットルを水道水4リットルで希釈した主剤液Pと、市販のポルトランドセメント粉の5kgを水でといて懸濁型溶液の5リットルとした硬化剤液Qを用意し、容量比でP:Q=2:1となるようにした注入固結用グラウト薬剤液を用意し、実施例17と同様にして下水道管の地下水止水試験を実施した。その結果、2本の下水管内部継手部隙間から浸透してその周辺砂を一体的に浸透固結させて硬化した状態が観察されたが、そのホモゲルは極くわずかの振動による衝撃でクラックや亀裂が入る非常に脆いものでしかなかった。
また別個に直径50mmφ、高さ100mmの成型モールド容器中で調製したホモゲル固結体は、水のブリージング現象が多く見られ、結果として体積収縮が激しいことが観察され、下水道管との接着性に欠けると共に恒久的な止水性能に著しく欠けることが判明した。また上記ホモゲル固結体及び別個に調製したサンドゲル固結体の1ケ月後の耐久性試験1の結果ではそれぞれ元の圧縮強度に較べて、著しい強度の低下が観察され、低下率の最大値は53%にも達していた。これらの結果からも比較実施例1の注入固結用グラウト薬剤は耐久性に欠けるものであった。
【0149】
比較実施例2
市販のポルトランドセメント粉の5kgと沈降防止付与剤として平均粒子径が7μmのベントナイト粉の0.03kgとを水道水でといて懸濁溶液の10リットルとした注入固結用グラウト薬剤液を用意し、実施例17と同様にして下水道管の地下水止水試験を実施した。その結果、注入後1時間経過後であってもまだ注入液組成物は漏水を止めることという点では満足な状態にすることが出来ず、未硬化状態であった。従って、実用十分な強度発現までの養生期間は短くても1〜2日を要することが判明し、従って注入作業性や作業効率に著しく欠ける注入固結用グラウト薬剤であった。
【0150】
実施例18
調整後3時間以内の主剤液8の60容量%と水道水40容量%とからなる主剤液Aの20リットルと、ブレーン値が35,300cm2/gの超微粒子消石灰粉の10重量%懸濁溶液である硬化剤液Bの10リットルをそれぞれ用意し、A:Bの容量比2:1の比率で1.5ショット方式で混和吐出させた有機高分子系グラウト剤組成物100部と、主にプラスチック類のゴミ焼却に伴って生成集塵された集塵灰300部とを機械的に懸濁化させた結果、5分後にはゲルを形成した。その固結体を3日間室温で密閉養生したものは水に濡れない性質を示し、疎水性が強く弾性に富むゲルであった。該ゲルの透水係数は3×10-6 と高い非透水性の性質を示した。以上の結果、有害金属を含む廃棄物を封止する組成物として有用であることが判明した。
【0151】
【発明の効果】
比較主剤液1〜2および主剤液7〜9の記載から明らかなように、本来疎水性の強い、そのままでは水にほとんど溶解せずに2層分離してしまう性質であるシリル末端高分子プレポリマーであっても、主剤液7または主剤液8の例のように高アルカリ性水溶液で処理すると、水と2層分離することのない安定な本発明の有機高分子系グラウト剤の構成に必須な活性シラノール基含有プレポリマー含有水溶液(主剤液)が、容易に得られることが明らかである。
さらにその結果として、本発明の有機高分子系グラウト剤の固結体は、本来持っていた強い疎水性の性質を固結後に回復する。したがって該固結体自体は地下水や湿潤水による影響をきわめて受けづらく、事実、実施例1〜実施例15等のゲル特性結果により明らかである。
【0152】
比較実施例1と比較実施例2では、明らかに水ガラス−セメントまたはセメント系の注入固結用グラウト薬剤では耐久性と作業適性に長けた薬剤とはいえないことが明確である。
一方、実施例1〜実施例17で明らかなように、本発明の注入固結用の有機高分子系グラウト剤は、恒久的な地盤改良用として好ましい有機高分子系グラウト剤組成物として、また更には好ましい下水道管の地下水止水用の薬液組成物としても大いに適していることが明確である。
より具体的には、実施例1〜実施例15に示された組成物の固結体では、その機械的物性が弾性に富みかつ長期恒久性に富んでおり、グラウト剤市場の要請に十分答えることが出来る有機高分子系グラウト剤である。
【0153】
特に実施例17で明らかにしたように、本発明の注入固結用の有機高分子系グラウト剤を用いた下水道管の地下水止水方法は、省力化適性や注入作業適性、地盤への浸透固結適性などに格段にすぐれ、かつ長期間に渡りその地下水止水性を確保できる特徴を有することが明確である。そして地盤変動や振動に対しても追従可能であると容易に想像できるものである。
また、更に実施例18で明らかにしたように、本発明記載の注入固結用の有機高分子系グラウト剤を用いた有害物質封止方法は、該有害物質を簡便かつ確実に封止する方法として優れていることが明白である。
すなわち、本発明の有機高分子系グラウト剤組成物は「発明が解決しようとする課題」で挙げた5つの課題を合せて満足させることが出来る、きわめて実用上意味のある特性をもっていることは明らかである。
Claims (19)
- 主剤液が、下記一般式(1)[化1]
で表される活性シラノール基末端が1分子中に少なくとも平均0.7ケ以上導入され、その活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が400〜50,000の範囲である活性シラノール基含有プレポリマーの1種または2種以上の1〜75重量%を含有する水溶液であり、
硬化剤液が、カルシウム、マグネシウムまたはアルミニウムのいずれか1種の元素を含有する酸化物または水酸化物または塩化物またはそれらを含有する無機物混合物からなる無機質硬化剤の0.1〜80重量%を含有する水溶液であり、
該主剤液の100容量部に対して、該硬化剤液の1〜500容量部を混合して成る有機高分子系グラウト剤。 - 主剤液が、その単独液のpH値が9〜14のアルカリ性または0.1〜6の酸性のいずれかに調整したものであることを特徴とする請求項1記載の有機高分子系グラウト剤。
- 主剤液が、その単独液のpH値が0.5〜3の強酸性となるように、硬化剤液と混合する前に事前に調整されたものであることを特徴とする請求項1記載の有機高分子系グラウト剤。
- 主剤液が、その単独液のpH値が10〜13.8の強アルカリ性となるように、硬化剤液と混合する前に事前に調整されたものであることを特徴とする請求項1記載の有機高分子系グラウト剤。
- 活性シラノール基含有プレポリマーの含有濃度が5〜50重量%である主剤液の100容量部に対し、硬化剤液の20〜100容量部を混合してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
- 活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部が、エチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるポリエーテルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
- 一般式(1)のR1がメチル基またはエチル基のいずれかであり、Xが−OH基、−O-・Na+基または−O-・K+基のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
- 活性シラノール基含有プレポリマーが、その活性シラノール基末端を1分子中に平均2〜6ケ含有し、かつその活性シラノール基を除く主鎖の有機高分子鎖長部の重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
- 活性シラノール基含有プレポリマーが、総和重量平均ヒドロキシル価が10mgKOH/g〜450mgKOH/gの範囲であるポリエーテルモノオール及び/またはポリエーテルポリオールと、下記一般式(2)[化2]
で表されるイソシアナートシランとを、NCO/OH当量比で0.7〜1.5の範囲で反応させて得られた活性シリル基含有プレポリマーを、更にアルカリ金属水酸化物含有水溶液または無機酸含有水溶液のいずれかの存在下で加水分解して得られたものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。 - イソシアナートシランが、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルジエトキシメチルシランまたはγ−イソシアナートプロピルジメトキシメチルシランから選ばれた1種であることを特徴とする請求項9記載の有機高分子系グラウト剤。
- ポリエーテルポリオールが、総和重量平均ヒドロキシル価が20mgKOH/g〜350mgKOH/gの範囲であり、かつそのポリエーテル鎖長部がエチレンオキサイドの15〜100重量%とプロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドの85〜0重量%から構成されてなるジオ−ル及び/またはトリオールであり、NCO/OH当量比が0.95〜1.05の範囲であることを特徴とする請求項9記載の有機高分子系グラウト剤。
- 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつセメント粉、水砕スラグ粉、無水石膏、半水石膏または2水石膏等から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
- 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつ生石灰及び/または消石灰であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
- 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にあり、かつ酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムまたは塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
- 無機質硬化剤が、ブレーン値で3,000〜50,000cm2/gの範囲にある塩化アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤。
- 不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式、1.5ショット方式または2ショット方式のいずれかの方式で請求項1〜15のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤を加圧注入し固結させて、該地盤を強化または止水することを特徴とする地盤改良方法。
- 不安定地盤の強化安定・止水工事に際し、グラウト注入管を介して1ショット方式、1.5ショット方式または〜2ショット方式のいずれかの方式で、請求項1〜15のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤の中から選択され、かつ異なるゲルタイムを有する該有機高分子系グラウト剤の2種以上を用いて複相注入し固結させて、該地盤を強化または止水することを特徴とする地盤改良方法。
- 地下埋設下水道管の地下漏水箇所に対し、小口径の自送式パッカー注入器を介して請求項1〜15のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤をその漏水部及びその周辺に加圧注入し固結させて止水することを特徴とする下水道管の地下水止水方法。
- 屋外に放置または貯蔵されている重金属イオン等の有害物質を含む鉱砕または産業廃棄物から、水等により該有害物質が外部へ漏出するのを防止する有害物質封止方法であって、請求項1〜15のいずれかに記載の有機高分子系グラウト剤を使用して、該有害物質と一体固結させることにより、該有害物質が外部へ漏出するのを防止することを特徴とする有害物質封止方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP14817097A JP3741519B2 (ja) | 1997-06-05 | 1997-06-05 | 有機高分子系グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法、下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP14817097A JP3741519B2 (ja) | 1997-06-05 | 1997-06-05 | 有機高分子系グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法、下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH10330749A JPH10330749A (ja) | 1998-12-15 |
JP3741519B2 true JP3741519B2 (ja) | 2006-02-01 |
Family
ID=15446821
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP14817097A Expired - Fee Related JP3741519B2 (ja) | 1997-06-05 | 1997-06-05 | 有機高分子系グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法、下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3741519B2 (ja) |
Families Citing this family (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
DE60027013T2 (de) | 1999-08-13 | 2007-01-11 | Asahi Kasei Kabushiki Kaisha | Hybrid-material mit organischen und anorganischen domänen |
-
1997
- 1997-06-05 JP JP14817097A patent/JP3741519B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH10330749A (ja) | 1998-12-15 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
KR100948348B1 (ko) | 급결형 무기질 조성물 및 아크릴레이트계 차수재를 이용한 콘크리트 구조물의 차수 및 보수보강 공법 | |
CN106496503B (zh) | 水不敏感型聚氨酯注浆材料及其制备方法 | |
CN102718462B (zh) | 一种用于松散破碎基岩加固用的化学注浆材料 | |
WO1988005425A1 (en) | Grouting composition comprising slag | |
CN101607807B (zh) | 一种聚氨酯水泥复合灌浆材料 | |
CN107446114A (zh) | 一种聚氨酯注浆材料及其制备方法 | |
JP5578642B2 (ja) | 地盤注入剤および地盤注入工法 | |
JP3741519B2 (ja) | 有機高分子系グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法、下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法 | |
JP3741520B2 (ja) | 有機高分子グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法、下水道管の地下水止水方法、有害物質封止方法 | |
JP4004116B2 (ja) | 地盤注入用グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法 | |
JP6074484B1 (ja) | 止水剤組成物及び漏水止水工法 | |
JPH0726263A (ja) | 土質などの安定化用注入薬液組成物およびそれを用いた安定強化止水工法 | |
JP3741514B2 (ja) | 地盤注入用グラウト剤とその地盤改良方法 | |
JP3997672B2 (ja) | 地盤や人工構造物等の安定化用注入薬液組成物及びそれを用いた安定強化止水工法 | |
KR100998727B1 (ko) | 아스팔트 용해액의 유지분 유입 및 유출을 방지하기 위한 콘크리트 구조체 배면 주입보수방법 | |
JP5769198B2 (ja) | 地盤注入用水硬性セメント組成物およびそれを用いた地盤改良工法 | |
JP2007154090A (ja) | 地盤注入材およびその施工方法 | |
JPH108051A (ja) | 地盤改良用注入固結薬剤とその注入固結工法 | |
JPH108052A (ja) | 地盤改良用注入剤 | |
JPH10292172A (ja) | 有機グラウト剤組成物および地盤改良方法 | |
JPH10292168A (ja) | 下水道管の地下水止水方法 | |
JPH10130647A (ja) | 地盤注入用グラウト剤と地盤改良方法、下水道管の地下 水止水方法 | |
JPH1017865A (ja) | 地盤注入固結薬剤と地盤改良方法 | |
JPH1180731A (ja) | 地盤注入用グラウト剤とそれを用いた地盤改良方法 | |
JP3654688B2 (ja) | 傾斜した建造物の復元方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20051018 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20051108 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20051108 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |