JP3739314B2 - 材料表面の機械的特性試験装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、被膜の付着強度,硬度,クリープ特性,摩耗特性等の材料表面の機械的特性を試験する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種被測定試料の表面を、ダイヤモンド等の加圧針を移動させて、CVD,PVDなどの被膜や、メッキ,コーティング等の被膜の付着強度をスクラッチ破壊方法により試験する被膜の付着強度試験装置が知られている。
【0003】
上記被膜の付着強度試験装置は、ダイヤモンドコーン等のスクラッチツールを介して被膜面に垂直な荷重を徐々に加え、同時に被膜面を水平方向に連続的に移動させる機能を有し、或る箇所で被膜面の剥離が生じるので、この剥離が生じた時の荷重を密着性の程度を示す臨界荷重として検出する装置である。
【0004】
前記装置として、例えば、特開昭57−86741号公報には、引っかき強度,引っかき抵抗を測定する装置が示されている。この測定装置によれば、水平アームの一端に引っかき用の針が取り付けられ、水平アームの他端に歪ゲージ形の変換器が設けられ、針を試験片に当接させた後に、水平アームの一端に分銅によって所定の荷重を加え、試験片が載置された移動台が所定方向に定速度で移動される。この移動時に生じる変換器の出力信号から、試験片の引っかき強度,引っかき抵抗が測定される。
【0005】
また、分銅を交換することによって、種々の荷重が印加される。上述の従来の試験装置は、荷重をかけるために、分銅を用い、非連続的に荷重を与えている。従って、前述のように、臨界荷重の検出を行う場合には、種々の重さの分銅を使用して測定を繰り返す必要があり、特に臨界荷重の分解能を高くするためには、多数の分銅を用い、何回も測定を繰り返さねばならない煩わしさがあった。また、従来の試験装置では、被膜面に徐々に荷重をかけるための加圧部と、センサとが全く独立した構成であるため、装置の大形化を招き、また、取り扱いが複雑になる問題があった。
【0006】
前記従来の装置の問題点を解消し、コンパクトな構造で、取り扱いが簡単で、また、高い分解能でもって、臨界荷重を検出することができる被膜の密着性試験装置が、特公平8−23523号公報に開示されている。図4および図5は、上記特公平8−23523号公報に記載された装置の斜視図(公報の図1および図2)を示し、図4は装置全体、図5は機構部の詳細を示す。
【0007】
前記公報の記載によれば、まず、「図4において、ケース1内には、Z(上下方向)駆動モータ及びX駆動モータが配設されている。これらのZ駆動モータ及びX駆動モータは、パルスモータであり、Z駆動モータの送りピッチは、極めて細かいものとされている。Z駆動モータによって、アーム2が上下動される。アーム2は、ケース1の開口3から水平方向に突出される。
【0008】
このアーム2の先端には、図5にも示されるように、Z軸方向及びX軸方向の両方向の荷重変化を検出できる荷重センサ4が取り付けられている。荷重センサ4の作動部に対してスクラッチ用のツールとしてのダイヤモンドコーン5が設けられている。従って、アーム2と一体に荷重センサ4及びダイヤモンドコーン5が上下動する。ダイヤモンドコーン5の下方には、ダイヤモンドコーン5と対向する試料ステージ6が設けられ、試料ステージ6上に試料7が固定される。試料7は、例えば金属のベース上にセラミックスが被覆されたものである。荷重センサ4は、試料7の被膜の硬度に応じて交換可能とされている。
【0009】
試料ステージ6は、上下緩和装置8を介してXYステージ9上に支持されている。このXYステージ9は、試料7の長手方向(X軸方向)に、X駆動モータによって自動的に所定量(例えば5〜20mm)、定速移動される。一方、試料7の幅方向(Y軸方向)に関しては、調整ネジ10によって手動で移動される。更に、押釦スイッチ11により、X軸方向及びZ軸方向に任意の量の変位を生じさせることが可能とされている。上下緩和装置8は、円筒状のハウジング12と、このハウジング12に摺動自在に嵌合され、上部に試料ステージ6が固着されたスライダ13と、スライダ13に対して上方向への偏倚力を与えるためのスプリング14と、係止用のリング15とから構成されている。」旨、記載されている。
【0010】
また、「前記荷重センサ4としては、ピエゾ抵抗効果を利用した小型半導体センサを用い、コンピュータにより、一連の測定のシーケンスを制御すると共に、臨界荷重等の測定データをCRT表示装置に表示する。また、A/Dコンバータからのディジタルデータが測定データとしてコンピュータに取り込まれ、タッチ検出回路の出力信号からダイヤモンドコーン5の先端が試料7に接触したことが検出され、ピーク検出回路の出力信号から試料7のZ軸方向のスクラッチ破壊が検出される。」旨、記載されている。
【0011】
さらに、前記公報の発明の効果の項には、「前記装置によれば、荷重センサと測定用ツールとが一体で上下動されると共に、試料ステージに上下緩和装置が設けられている。従って、従来の構成とは異なり、分銅を何種類も使用する必要がなく、連続的に変化する荷重を試料に対して与えることができ、1回の測定で正確に臨界荷重を検出することができ、また、測定シーケンスのプログラム制御が可能となる。更に、荷重を試料にかけるための加圧部と、センサとが一体化されるので、装置の小形化及び取り扱いの簡便化が実現できる。
【0012】
また、前記装置では、Z軸方向のみならず、X軸方向の荷重変化をも検出しているので、検出感度を高くできると共に、応答を速くでき、被膜が薄い場合でも、被膜が破壊される臨界荷重を確実に検出することができる。」旨、記載されている。
【0013】
さらにまた、「コンピュータのプログラムによって、連続的に荷重を変化させると共に、試料を移動させるスクラッチテストの他に、試料が固定される硬度テスト又は硬質皮膜の密着強度の分布のテスト等の種々のテストが可能である」旨、記載されている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記特公平8−23523号公に記載された従来の被膜の付着強度試験装置においては、前述のような種々の利点があるものの、下記のような問題があった。
【0015】
前記公報に記載された試験装置においては、前述のように、試料ステージ6が、上下緩和装置8を介してXYステージ9上に支持されているので、試料ステージ6の移動は、上下緩和装置8と一体的に行なわれることとなる。従って、XYステージ9上の被測定試料は、独立的に水平面内で自由に移動させることができない。
【0016】
単純な被膜の付着強度試験においては、通常、被測定試料を水平面内の一方向(例えば、x方向)に移動させればよいが、x方向およびy方向に走査して、被膜の強度分布などを試験したり、また、例えば、被膜の摩耗特性試験にこの装置を併用する場合には、被測定試料をエンドレスに回転させる必要がある。これらの要請に対しては、前記公報に記載された試験構成の場合には難があり、被測定試料を独立的に水平面内で自由に移動させる構成が実現できるならば、構造がシンプルとなるばかりでなく、測定精度の向上も図れることが期待できる。
【0017】
また、前記公報に記載された試験装置の場合における上下緩和装置8のスプリングは、比較的機械強度が必要と考えられ、垂直方向の移動距離を測定する、例えば、表面硬度測定のニーズに対しては、測定精度が比較的劣る問題がある。
【0018】
この発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、本発明の課題は、前記公報の装置の利点は踏襲しつつも、簡単な構造により、被測定試料を独立的に水平面内で自由に移動させることを実現可能とし、さらに、被膜の付着強度,硬度以外に、クリープ特性,摩耗特性等の機械的特性も、簡単かつ高精度で試験可能な材料表面の機械的特性試験装置を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するため、この発明は、被膜の付着強度,硬度,クリープ特性,摩耗特性等の材料表面の機械的特性を試験する装置において、
電動機等の駆動源により水平面内の少なくとも1方向(x方向)に移動可能であって、被測定試料を載置する試料取付台と、電動機等の駆動源により駆動され、前記試験目的に応じた所定の垂直荷重印加信号に基づいて、垂直方向(z方向)に移動可能な垂直荷重印加用スライダーと、前記被測定試料に作用する少なくとも前記x方向およびz方向荷重を検出する荷重検出器と、この荷重検出器の試料側に取り付けた加圧針と、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に設けられ、垂直方向荷重を緩和するバネ系を有する垂直荷重緩和手段と、前記荷重検出器に取り付けられ、当該荷重検出器の水平方向の動きに対しては剛性を有し、かつ垂直方向の動きに対しては柔軟性を有する荷重方向特定手段と、前記荷重検出器の検出信号や加圧針の垂直方向変位量等を処理する信号処理手段とを備え、前記垂直荷重緩和手段は、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に並列に接続した少なくとも2個のコイルバネを有し、一方のコイルバネは、前記垂直荷重印 加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き上げる機能を有するように配設し、他方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き下げる機能を有するように配設してなるものとする(請求項1の発明)。
【0020】
上記構成によれば、垂直荷重印加用スライダーに、例えばパルスモータを使用した場合、垂直荷重緩和手段のバネ系により、1パルス当りの加圧量および変位量を微小化でき、詳細は後述するように、測定精度の大幅な向上が図れる。
【0021】
近年、パルスモータは、後述するように、1パルス当り10ナノメータレベルのファインステップが可能であり、これにより、測定精度は著しく向上する。また、詳細は後述するように、上記2種類のコイルバネの採用により、密着巻の引っ張りバネにおいて、内部残留応力に起因して生ずる初張力の非線形部分を避け、荷重・変位の関係がリニアーな部分を測定対象部分として活用できるので、垂直荷重緩和手段に関わる測定精度の低下を抑制することができて、全体として測定精度の向上が図れる。
【0022】
なお、上記構成においては、試料からの水平方向摩擦力によって、加圧針および荷重検出器が、水平方向に踊らないようにする必要がある。この問題は、前記荷重方向特定手段を設けることにより防止可能で、詳細は後述する。
【0023】
前記請求項1の発明を、被膜の付着強度,硬度,クリープ特性,摩耗特性等の試験装置に適用した場合の各装置の発明としては、下記請求項2ないし9の発明が好適である。まず、被膜の付着強度測定に関しては、請求項2の発明が好ましく、その作用効果は、前記と同様である。
【0024】
即ち、垂直方向の定荷重または連続加重を被測定試料表面に印加し、被測定試料を水平面内の少なくとも1方向(x方向)に変位させることにより、被膜の付着強度を試験する請求項1記載の試験装置であって、電動機等の駆動源により水平面内の少なくとも1方向(x方向)に移動可能であって、被測定試料を載置する試料取付台と、電動機等の駆動源により垂直方向(z方向)に移動可能な垂直荷重印加用スライダーと、前記被測定試料に作用する少なくとも前記x方向およびz方向荷重を検出する荷重検出器と、この荷重検出器の試料側に取り付けた加圧針と、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に設けられ、垂直方向荷重を緩和するバネ系を有する垂直荷重緩和手段と、前記荷重検出器に取り付けられ、当該荷重検出器の水平方向の動きに対しては剛性を有し、かつ垂直方向の動きに対しては柔軟性を有する荷重方向特定手段と、前記荷重検出器の検出信号や加圧針の垂直方向変位量等を処理する信号処理手段とを備え、前記垂直荷重緩和手段は、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に並列に接続した少なくとも2個のコイルバネを有し、一方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き上げる機能を有するように配設し、他方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き下げる機能を有するように配設してなるものとする。
【0025】
前記請求項1または2の発明における前記荷重検出器,荷重方向特定手段,信号処理手段,試料取付台などの各種構成要件の実施態様としては、下記請求項3ないし6の発明が好ましい。
【0026】
即ち、請求項1または2に記載の試験装置において、前記荷重検出器は、荷重検出器本体内部にそれぞれ直角方向に孔削した2個のH型溝を有し、前記各H型溝と本体とによって形成される各4個の薄肉部に歪ゲージを配設し、一方の4個の歪ゲージにより、z方向の荷重を検出するブリッジ回路を構成し、他方の4個の歪ゲージにより、x方向の荷重を検出するブリッジ回路を構成することにより、2分力検出器としてなるものとする(請求項3の発明)。
【0027】
上記によれば、詳細は後述するように、小型,低容量,高剛性の特長を有する2分力検出器が構成でき、歪ゲージを取り付ける部分以外の剛性が高いので、外力による影響誤差が生じにくく、精度のよい計測が可能となる。
【0028】
さらに、前記請求項1ないし3のいずれかに記載の試験装置において、前記荷重方向特定手段は、少なくとも4個の金属製平薄板を有し、この金属製平薄板の一端は、前記荷重検出器の上下左右端部に連結し、その他端は、前記垂直荷重印加用スライダーに連結してなるものとする(請求項4の発明)。
【0029】
金属製平薄板の板厚方向が垂直方向となるように、前記のように荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーに連結すれば、水平方向の動きに対しては剛性を有し、かつ垂直方向の動きに対しては柔軟性を有する構成が実現できる。これにより、荷重検出器を垂直方向にのみ、選択的に可動とすることができる。これにより、測定精度の向上が図れる。なお、前記金属製平薄板を中央の剛体部材の左右に分割して配置した、合計8個の金属製平薄板を用いる構成とすることもできる。これについても、詳細は後述する。
【0030】
また、前記請求項1ないし4のいずれかに記載の試験装置において、前記信号処理手段は、前記被測定試料の測定表面に凹凸やうねりがある場合に、前記荷重検出器におけるz方向荷重の検出値に基き、印加する垂直荷重を補正する信号を、前記垂直荷重印加用スライダーに出力する垂直荷重補正手段を備えるものとする(請求項5の発明)。
【0031】
前記被測定試料は、かならずしも平坦ではなく、凹凸やうねりが存在する。うねりがある場合において、例えば、前記加圧針がうねりの山を登る際には、加圧針に直結した荷重検出器の垂直荷重検出値は増大し、検出値に変化が生ずる。この変化分に応じた変位量だけ、前記垂直荷重印加用スライダーを上方向に変位させる、即ち前記スライダーを浮かせる補正を行なうことにより、所定荷重の印加を安定して持続させることができる。うねりを無視して、一定荷重をかけた場合には、前記うねりの変位分に相当する誤差荷重が発生することとなる。
【0032】
さらに、前記請求項1ないし5のいずれかに記載の試験装置において、前記試料取付台は、前記被測定試料をxおよびy方向に走査、もしくは前記被測定試料を回転可能な駆動手段を備えるものとする(請求項6の発明)。これにより、前述のように、被膜の摩耗特性試験等にこの装置を用いる場合に、被測定試料をエンドレスに回転させることができる。
【0033】
次に、被膜の付着強度以外の硬度,クリープ特性,摩耗特性等の機械的特性を試験する装置としては、下記請求項7ないし9の発明が好ましい。即ち、被測定試料に前後2回の異なる基準垂直方向荷重をかけた際の窪みの深さの差を計測・演算して、この演算値に基づき、前記被測定試料のロックウェル硬度を計測する前記請求項1の発明の試験装置であって、前記信号処理手段は、前記垂直荷重印加用スライダーのz方向の移動量と、前記垂直荷重緩和手段におけるバネ系について予め検量した前記移動量と加圧針の垂直方向変位量との関係とに基づき、前記2回の異なる基準垂直方向荷重をかけた際の窪みの深さの差を演算し、この演算値に基づき、前記被測定試料のロックウェル硬度を出力する機能を備えるものとする(請求項7の発明)。これにより、測定精度の高いロックウェル硬度の測定装置が提供できる。
【0034】
また、被測定試料に所定の垂直方向荷重をかけた際のクリープ歪を計測して、このクリープ歪と時間の関係に基づき、前記被測定試料のクリープ特性を試験する請求項1記載の試験装置であって、前記信号処理手段は、前記荷重検出器のz方向荷重検出値を所定値に維持すべく、垂直荷重印加用スライダーのz方向移動量を制御し、かつ、このz方向移動量に基づき加圧針の垂直方向変位量を演算して、前記クリープ歪の時間経過を出力する機能を備えるものとする(請求項8の発明)。これにより、測定精度の高いクリープ特性の試験装置が提供できる。
【0035】
さらに、被測定試料を水平方向に所定速度で移動させながら、被測定試料に作用する水平方向荷重と垂直方向荷重との比を計測・演算して、この演算値に基づき、材料の動摩擦係数の速度依存性を試験する請求項1記載の試験装置であって、
前記信号処理手段は、前記荷重検出器により計測された水平方向荷重(Fx )と垂直方向荷重(Fz )との比を演算して、この演算値(Fx /Fz )を、前記所定速度における材料の動摩擦係数として出力する機能を備えるものとする(請求項9の発明)。
【0036】
摩擦に関するクーロンの法則によれば、通常の金属材料等の摩擦においては、動摩擦力はすべり速度に無関係であるといわれている。この経験則は、特殊な被膜の場合には当てはまらず、塗面状態によって変化する。上記装置によれば、動摩擦係数の速度依存性が精度よく測定できる。
【0037】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、図1ないし図3に基づき以下に述べる。図1は実施例に係る材料表面の機械的特性試験装置の概略全体構成図、図2は荷重検出器の模式的構成図、図3は主に垂直荷重緩和手段,荷重方向特定手段の細部構成を説明する図である。
【0038】
まず、図1について説明する。図1(a),(b)は、それぞれ、試験装置の正面図,側面図を示す。図1に示す装置は、小型直動型電動スライダー21aにより水平面内の少なくとも1方向(x方向)に移動可能であって、被測定試料を載置する試料取付台21と、小型直動型電動スライダー23aにより駆動され、図示しない信号処理手段からの所定の垂直荷重印加信号に基づいて、垂直方向(z方向)に移動可能な垂直荷重印加用スライダー23と、前記被測定試料に作用する少なくとも前記x方向荷重(Fx)およびz方向荷重(Fz)を検出する荷重検出器25と、この荷重検出器25の試料取付台側に取り付けた加圧針27と、前記荷重検出器25と垂直荷重印加用スライダー23との間に設けられ、垂直方向荷重を緩和するバネ系を有する垂直荷重緩和手段29と、前記荷重検出器25に取り付けられ、当該荷重検出器の水平方向の動きに対しては剛性を有し、かつ垂直方向の動きに対しては柔軟性を有する荷重方向特定手段30と、前記荷重検出器25の検出信号を処理する前記図示しない信号処理手段とを備える。
【0039】
前記垂直荷重印加用スライダー23は、その詳細を図3に示すように、小型直動型電動スライダー23aに接続されたスライドアーム23bと、このスライドアーム23bにねじ止めされて同時に移動可能なスライド板23cとを有し、前記バネ系を有する垂直荷重緩和手段29は、このスライド板23cと荷重検出器25との間に設けられている。なお、図1における40は、前記水平方向および垂直方向用の小型直動型電動スライダー21aおよび23aの取り付け用の支持台である。
【0040】
図1の装置において、小型直動型電動スライダー23aの駆動により、垂直荷重印加用スライダー23全体を下降し、被測定試料表面に、ダイヤモンド針等の加圧針27を当接し、スライドアーム23b,スライド板23c,垂直荷重緩和手段29,荷重検出器25を介して被測定試料表面に、垂直方向の定荷重または連続加重を印加し、被測定試料を水平面内の少なくとも1方向(x方向)に変位させることにより、被膜の付着強度を試験することができる。
【0041】
また、図示しない信号処理手段からの所定の垂直荷重印加信号と、計測・演算を、試験目的に応じて前述のように選定することにより、被膜の付着強度以外の硬度,クリープ特性,摩耗特性等の機械的特性を試験することができる。
【0042】
次に、図1に示す装置の細部の構成について、図2および図3に基づき、以下に述べる。まず、図2に基づき荷重検出器の構成について説明する。図2(a),(b),(c)は、それぞれ、荷重検出器本体80の断面図,側面図,底面図を示し、図2(d),(e)は、歪ゲージのブリッジ回路を示す。図1に示す荷重検出器25は、装置としてアッセンブルした状態を示すので、図2に示す荷重検出器本体80の形状等は、図1に示す荷重検出器25とは異なる。なお、図2において、部番86は、固定用のネジを、また、加圧針27を取り付けた状態を模式的に示す。
【0043】
図2に示す荷重検出器本体80は、その内部に、それぞれ直角方向に孔削した2個のH型溝82a,82bを有し、前記各H型溝と本体とによって形成される各4個の薄肉部84に合計8個の歪ゲージA〜Hを配設する。この8個の歪ゲージを用いて、図2(d)に示すように、一方の4個の歪ゲージ(A〜D)により、z方向の荷重(Fz)を検出するブリッジ回路を構成し、また、図2(e)に示すように、他方の4個の歪ゲージ(E〜H)により、x方向の荷重(Fx)を検出するブリッジ回路を構成することにより、2分力検出器を構成する。前記ブリッジ回路の出力信号は、歪増幅器により増幅され、図示しない信号処理手段に入力して、必要な出力を行なう。
【0044】
前記荷重検出器本体の構成によれば、H型溝82a,82bと本体とによって形成される歪ゲージを取り付ける薄肉部84以外の部分の剛性が高いので、外力(FzおよびFx)が歪ゲージの検出値に与える影響誤差が生じにくく、精度のよい計測が可能となる。また、薄肉部84の肉厚は、0.7mm〜1mmとすることができ、歪ゲージは、FzおよびFxを感度よく計測できる。
【0045】
前記H型溝82a,82bは、ワイヤカットで加工できる。前記構成により、総じて、小型,低容量,高感度,高剛性の特長を有する2分力検出器が、安価に構成できる。
【0046】
次に、図3に基づき、主に垂直荷重緩和手段,荷重方向特定手段の細部構成について説明する。図3(a),(b),(c)は、それぞれ、荷重方向特定手段の細部構成を示す正面図,垂直荷重緩和手段の正面図,同バネ系の側面図(図3(b)のP−P線から見た側面図)である。なお、説明の便宜上、図3(a)においては、バネ系を有する垂直荷重緩和手段の1部を省略して示し、また、図3(b)においては、荷重方向特定手段の1部を省略して示し、さらに、図3(c)においては、主にバネ系のみを選択的に示す。
【0047】
先に、図3(b),(c)に示す垂直荷重緩和手段について述べる。図3に示す垂直荷重緩和手段は、まず、荷重検出器25(図3(c)においては、1点鎖線で仮想線として示す。)とスライド板23cとの間に並列に接続した2種類のコイルバネ51および53を有するバネ系を構成する。なお、図3(c)においては、53で示すバネは、左右各1個合計2個設けてあるが、これを1個とし、51で示すコイルバネの、紙面前方または後方に設ける構成としても、後述する初張力回避機能は、同様に得られる。荷重検出器25の移動を安定させことや装置のスペースファクターを考慮すると、図3に示す構成が好ましい。
【0048】
上記2種類のコイルバネの内、一方のコイルバネ51は、図3(c)において矢印で示すように、前記スライド板23cを介して荷重検出器25を引き上げる機能を有するように、スライド板23c上に設けたホック61と、荷重検出器25の下方に設けたホック72とに、コイルバネ51の各端部が接続される。また、他方のコイルバネ53は、前記スライド板23cを介してを介して荷重検出器25を引き下げる機能を有するように、スライド板23cの下方に設けたホック62と、荷重検出器25の上方に設けたホック71とに、コイルバネ53の各端部が接続される。
【0049】
荷重検出器25の自重により、前記コイルバネ51は引っ張りを受け、荷重検出器25を引き上げるように作用する。一方、コイルバネ51が引き上げるように作用した際に、その引き上げ力を打ち消すように、コイルバネ53が作用するので、荷重検出器25の垂直方向の初期位置を適当に調整することにより、コイルバネ51および53は、双方とも引張り力を受けた状態で、バランスすることとなる。これにより、前述のように、コイルバネの初張力の非線形部分を避け、荷重・変位の関係がリニアーな部分を測定対象部分として活用することができる。
【0050】
なお、図3(b)に示す60は、ホック61の上下方向の位置をネジで調節する微調節手段であり、これにより、荷重検出器25の垂直方向の位置を適当なポジションに調整し、初張力の解消の調整を確実に行なうことを容易にすることができる。
【0051】
スライド板23cは、例えば、1パルス当り16ナノメータのファインステップが可能な小型直動型電動スライダー(例えば、オリエンタルモーター製:SPL42)により駆動される。これにより、被測定試料に、前記バネ系を介して微小な単位荷重が印加でき、測定精度が向上する。
【0052】
次に、図3(a)により、荷重方向特定手段の細部構成について述べる。前述のように、図3(a)においては、図3(b)に示すコイルバネ51および53とその周辺部材を省略してある。
【0053】
図3(a)に示す荷重方向特定手段は、前記の合計8個の金属製平薄板32を用いる場合の実施例を示す。これらの金属製平薄板32は、平薄板固定部材31にの左右に振り分けて設け、止め板33で固定するが、左右に振り分けずに左右を一体化して4個の金属製平薄板とすることもできる。
【0054】
8個の金属製平薄板32の内、左側金属製平薄板の左端は、荷重検出器25の上下左右端部に連結し、止め板33aで固定し、右側金属製平薄板の右端は、スライドアーム23bに連結し、止め板33bで固定する。然して、図3(a)に示すように、金属製平薄板32の板厚方向が垂直方向となるように、荷重検出器25とスライドアーム23bとの間に、前記平薄板固定部材31を介して連結すれば、水平方向の動きに対しては剛性を有し、かつ垂直方向の動きに対しては柔軟性を有する構成が実現できる。これにより、荷重検出器を垂直方向にのみ、選択的に可動とすることができ、測定精度の向上が図れる。
【0055】
(実施例)
前記装置に関し、被膜の付着強度測定を対象とした試験装置の諸元の一例を下記に示す。
【0056】
(諸元の一例)
・試験機本体
a)垂直ストローク:50mm 設定分解能:0.01mm
b)垂直速度:0.02〜4mm/sec
c)負荷速度:0.01〜1N/sec 設定分解能:0.02N/sec
d)水平送り量:50mm 設定分解能:0.01mm
e)送り速度:0.02〜4mm/sec 設定分解能:0.01mm/sec
・2分力検出器
a)定格負荷:Fx(抵抗力)±10N,Fz(垂直力)±10N
b)許容過負荷:150%FS
c)非直線性:±0.2%FS
d)ヒステリシス:±0.2%FS
e)分解能:±0.1%FS
f)出力電圧:増幅器出力にて±10Vmax
・加圧針
a)先端材質:ダイヤモンド
b)先端形状:円錐角 60deg (先端形状は指定により可変)
上記装置において、スクラッチ速度や加圧・荷重速度は全てコンピュータにより制御され、本装置により、所望の精度のよい測定が可能であることが確認された。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、被膜の付着強度,硬度,クリープ特性,摩耗特性等の材料表面の機械的特性を試験する装置において、
電動機等の駆動源により水平面内の少なくとも1方向(x方向)に移動可能であって、被測定試料を載置する試料取付台と、電動機等の駆動源により駆動され、前記試験目的に応じた所定の垂直荷重印加信号に基づいて、垂直方向(z方向)に移動可能な垂直荷重印加用スライダーと、前記被測定試料に作用する少なくとも前記x方向およびz方向荷重を検出する荷重検出器と、この荷重検出器の試料側に取り付けた加圧針と、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に設けられ、垂直方向荷重を緩和するバネ系を有する垂直荷重緩和手段と、前記荷重検出器に取り付けられ、当該荷重検出器の水平方向の動きに対しては剛性を有し、かつ垂直方向の動きに対しては柔軟性を有する荷重方向特定手段と、前記荷重検出器の検出信号や加圧針の垂直方向変位量等を処理する信号処理手段とを備え、前記垂直荷重緩和手段は、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に並列に接続した少なくとも2個のコイルバネを有し、一方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き上げる機能を有するように配設し、他方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き下げる機能を有するように配設してなるものとしたので、
被膜の付着強度,硬度以外に、クリープ特性,摩耗特性等の機械的特性も、簡単かつ高精度で試験可能な材料表面の機械的特性試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係る材料表面の機械的特性試験装置の概略全体構成図
【図2】 荷重検出器の模式的構成図
【図3】 図1における垂直荷重緩和手段,荷重方向特定手段の細部構成を説明する図
【図4】 従来の被膜の付着強度試験装置の装置全体を示す斜視図
【図5】 図4における機構部の詳細を示す斜視図
【符号の説明】
21:試料取付台、21a,23a:小型直動型電動スライダー、23:垂直荷重印加用スライダー、23b:スライドアーム、23c:スライド板、25:荷重検出器、29:垂直荷重緩和手段、30:荷重方向特定手段、31:平薄板固定部材、32:金属製平薄板、33,33a,33b:止め板、51,53:コイルバネ、61,62,71,72:ホック、80:荷重検出器本体、82a,82b:H型溝、84:薄肉部、A〜H:歪ゲージ。
Claims (9)
- 被膜の付着強度,硬度,クリープ特性,摩耗特性等の材料表面の機械的特性を試験する装置において、
電動機等の駆動源により水平面内の少なくとも1方向(x方向)に移動可能であって、被測定試料を載置する試料取付台と、電動機等の駆動源により駆動され、前記試験目的に応じた所定の垂直荷重印加信号に基づいて、垂直方向(z方向)に移動可能な垂直荷重印加用スライダーと、前記被測定試料に作用する少なくとも前記x方向およびz方向荷重を検出する荷重検出器と、この荷重検出器の試料側に取り付けた加圧針と、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に設けられ、垂直方向荷重を緩和するバネ系を有する垂直荷重緩和手段と、前記荷重検出器に取り付けられ、当該荷重検出器の水平方向の動きに対しては剛性を有し、かつ垂直方向の動きに対しては柔軟性を有する荷重方向特定手段と、前記荷重検出器の検出信号や加圧針の垂直方向変位量等を処理する信号処理手段とを備え、前記垂直荷重緩和手段は、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に並列に接続した少なくとも2個のコイルバネを有し、一方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き上げる機能を有するように配設し、他方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き下げる機能を有するように配設してなることを特徴とする材料表面の機械的特性試験装置。 - 垂直方向の定荷重または連続加重を被測定試料表面に印加し、被測定試料を水平面内の少なくとも1方向(x方向)に変位させることにより、被膜の付着強度を試験する請求項1記載の試験装置であって、
電動機等の駆動源により水平面内の少なくとも1方向(x方向)に移動可能であって、被測定試料を載置する試料取付台と、電動機等の駆動源により垂直方向(z方向)に移動可能な垂直荷重印加用スライダーと、前記被測定試料に作用する少なくとも前記x方向およびz方向荷重を検出する荷重検出器と、この荷重検出器の試料側に取り付けた加圧針と、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に設けられ、垂直方向荷重を緩和するバネ系を有する垂直荷重緩和手段と、前記荷重検出器に取り付けられ、当該荷重検出器の水平方向の動きに対しては剛性を有し、かつ垂直方向の動きに対しては柔軟性を有する荷重方向特定手段と、前記荷重検出器の検出信号や加圧針の垂直方向変位量等を処理する信号処理手段とを備え、前記垂直荷重緩和手段は、前記荷重検出器と垂直荷重印加用スライダーとの間に並列に接続した少なくとも2個のコイルバネを有し、一方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き上げる機能を有するように配設し、他方のコイルバネは、前記垂直荷重印加用スライダーを介して前記荷重検出器を引き下げる機能を有するように配設してなることを特徴とする材料表面の機械的特性試験装置。 - 請求項1または2に記載の試験装置において、前記荷重検出器は、荷重検出器本体内部にそれぞれ直角方向に孔削した2個のH型溝を有し、前記各H型溝と本体とによって形成される各4個の薄肉部に歪ゲージを配設し、一方の4個の歪ゲージにより、z方向の荷重を検出するブリッジ回路を構成し、他方の4個の歪ゲージにより、x方向の荷重を検出するブリッジ回路を構成することにより、2分力検出器としてなることを特徴とする材料表面の機械的特性試験装置。
- 請求項1ないし3のいずれかに記載の試験装置において、前記荷重方向特定手段は、少なくとも4個の金属製平薄板を有し、この金属製平薄板の一端は、前記荷重検出器の上下左右端部に連結し、その他端は、前記垂直荷重印加用スライダーに連結してなることを特徴とする被膜の付着強度試験装置。
- 請求項1ないし4のいずれかに記載の試験装置において、前記信号処理手段は、前記被測定試料の測定表面に凹凸やうねりがある場合に、前記荷重検出器におけるz方向荷重の検出値に基き、印加する垂直荷重を補正する信号を、前記垂直荷重印加用スライダーに出力する垂直荷重補正手段を備えることを特徴とする材料表面の機械的特性試験装置。
- 請求項1ないし5のいずれかに記載の試験装置において、前記試料取付台は、前記被測定試料をxおよびy方向に走査、もしくは前記被測定試料を回転可能な駆動手段を備えることを特徴とする材料表面の機械的特性試験装置。
- 被測定試料に前後2回の異なる基準垂直方向荷重をかけた際の窪みの深さの差を計測・演算して、この演算値に基づき、前記被測定試料のロックウェル硬度を計測する請求項1記載の試験装置であって、
前記信号処理手段は、前記垂直荷重印加用スライダーのz方向の移動量と、前記垂直荷重緩和手段におけるバネ系について予め検量した前記移動量と加圧針の垂直方向変位量との関係とに基づき、前記2回の異なる基準垂直方向荷重をかけた際の窪みの深さの差を演算し、この演算値に基づき、前記被測定試料のロックウェル硬度を出力する機能を備えることを特徴とする材料表面の機械的特性試験装置。 - 被測定試料に所定の垂直方向荷重をかけた際のクリープ歪を計測して、このクリープ歪と時間の関係に基づき、前記被測定試料のクリープ特性を試験する請求項1記載の試験装置であって、
前記信号処理手段は、前記荷重検出器のz方向荷重検出値を所定値に維持すべく、垂直荷重印加用スライダーのz方向移動量を制御し、かつ、このz方向移動量に基づき加圧針の垂直方向変位量を演算して、前記クリープ歪の時間経過を出力する機能を備えることを特徴とする材料表面の機械的特性試験装置。 - 被測定試料を水平方向に所定速度で移動させながら、被測定試料に作用する水平方向荷重と垂直方向荷重との比を計測・演算して、この演算値に基づき、材料の動摩擦係数の速度依存性を試験する請求項1記載の試験装置であって、
前記信号処理手段は、前記荷重検出器により計測された水平方向荷重(Fx )と垂直方向荷重(Fz )との比を演算して、この演算値(Fx /Fz )を、前記所定速度における材料の動摩擦係数として出力する機能を備えることを特徴とする材料表面の機械的特性試験装置。
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