JP3737349B2 - 自動車ボデーの補修工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車ボデーの補修工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車で走行中あるいは駐車中にボデーに何かが接触し、ボデーを凹ますことがある。凹みを補修する場合、修理工場やサービスセンターでは、一般的に専用の治具を使用する。補修に用いる治具として、例えば、特開平6−320442号公報「車体の補修方法及びその治具」に示されたものがある。この治具による補修の具体例を次図で説明する。
【0003】
図7(a),(b)は従来の自動車ボデーの補修工具の一例を示す図である。なお、符号は振り直した。
(a)において、自動車のボデー101は、ドアであり、アウタパネル102と、インナパネル103とを有すものである。アウタパネル102は、鋼板104の外面105に塗膜106(化成皮膜、下塗り、中塗り、上塗りの順に塗布)を有し、内面107に電着塗膜108(下塗り)を有するものである。109はアウタパネル102に何かが接触してできた凹みである。
【0004】
ここで、アウタパネル102に生じた凹み109を補修する場合、まず、補修治具111の頭部112を凹み109の内側に当て、頭部112を矢印▲1▼の如く外側に押出す。
【0005】
(b)において、凹み109を矢印▲1▼の如く極めて小さい範囲のピンポイントで押出す(仮想線で示す)ことで、アウタパネル102の正常な面に対し、同一な面の復元部113を形成する。その次に、治具111の頭部112をアウタパネル102から一旦離し、矢印▲2▼の如くピッチPだけ移動させ、凹み109をピンポイントで押出し、復元部113の隣に復元部114を形成する。以降、復元部を同様に形成することで、凹み109の補修が完了する。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図7(b)に示すように、従来の治具111では、内面107の電着塗膜108に金属製の頭部112を当てて押出すと、電着塗膜108に傷115を付けたり、剥離116を生じさせる心配がある。傷115、剥離116が生じると、補修のための塗装処理工程が発生し、生産コストが嵩む。
【0007】
また、治具111の頭部112を押出す力並びに移動させる量(ピッチP)の加減が極めて難かしく、復元部113,114が山(凸)になりやすく、且つ復元部113と復元部114との間が谷(凹)になりやすい。従って、補修作業には熟練が必要で、作業者が限定される。
さらに、押出す力並びにピッチPの加減が極めて難かしく、補修に手間がかかるとともに、仕上り精度の向上を図り難い。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ボデーの凹みを補修する際、ボデー内面の塗装膜の傷や剥離を防止することができ、経験の少ない作業者でも凹みの補修を容易に行うことができ、補修時間の削減及び仕上り精度の向上を図ることができる自動車ボデーの補修工具を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1は、金属棒の一端を折曲げ、金属棒の他端に握り部を設けてなり、一端側で自動車ボデーを押すことで、ボデーの凹みを補修することができる自動車ボデーの補修工具において、一端の先端に弾性体からなる押圧体を取付けるとともに、押圧体の硬さをショアAで80〜95の範囲とし、押圧体をボデーの凹みに押し当てて押出すとともに、押し付けながら離さずに接触させつつ、移動させ、押圧体で押し力を適度に吸収しながら、ボデーの強度に抗して凹みを連続的に押出すことを特徴とする。
【0010】
硬さが80未満であれば、押圧体(ウレタン)が変形しやすく、押圧体で補修することができる凹みの状態が限定される。
硬さが95を超えると、押圧体(ウレタン)が変形し難く、局部的な押付けとなり、経験の少ない作業者では凸が目立ちやすくなる。
その結果、押圧体(ウレタン)の硬さ(ショアA)の下限を80とし、上限を95とした。
ボデーの内側に補修工具を通し、凹みに押圧体を臨ませ、押圧体で凹みを外側に押出す。押圧体の材質に、硬さをショアAで80〜95の範囲とした弾性体を採用することで、ボデーの強度に抗して凹みの押出しを達成しつつ、弾性体の変形で内面の塗装膜の傷防止並びに剥離防止を図る。
また、押圧体は、硬さをショアAで80〜95の範囲とした弾性体なので、塗装を保護することができる。その結果、ボデーの内側から押圧体を離すことなく、押し付けながら押圧体を移動させることができ、押出す力並びに移動させる量の加減が容易になり、補修に熟練を必要としない。
さらに、補修作業が容易になり、補修時間の削減及び仕上り精度の向上につながる。
【0011】
請求項2は、押圧体の当り面を半球形状にしたことを特徴とする。当り面を半球形状にすると、金属棒がたわんで押圧体が変位しても常に接点の一点で押すことができ、押出す力の加減が安定する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る自動車ボデーの補修工具の斜視図であり、自動車ボデーの補修工具10は、金属棒11の一端12を折曲げ、折曲げた先端13に押圧体14を取付け、金属棒11の他端15に握り部16を設けたものである。Lは長さを示す。
【0013】
図2は図1の2矢視図であり、金属棒11に押圧体14を取付けたことを示す。金属棒11は、工具鋼などの特殊用途鋼の丸棒である。金属棒11の直径dは8mmとした。
【0014】
図3は図2の3−3線断面図であり、金属棒11の一端12を折曲げ、折曲げた先端13に押圧体14を取付けたことを示す。θは折曲げた角度であり、例えば、60゜である。
押圧体14は、弾性体で、金属棒11に嵌合する嵌合穴21を設け、嵌合穴21の対向側に当り面22を半球形状に形成したものであり、先端13に任意に着脱できるものである。Rは当り面22の球の半径、H1は高さを示す。これらの球の半径R、高さH1、嵌合穴21の寸法、直径d、長さLを任意に変更することで、ボデーの凹みに対応(面積、深さ、位置)することができる。
【0015】
また、弾性体は、ポリウレタン樹脂(ウレタン)であり、ウレタンの硬さ(ショアA)は90である。硬さとしては80〜95を使用するのが望ましい。
硬さが80未満であれば、ウレタンが変形しやすく、押圧体14で補修することができる凹みの状態が限定される。
【0016】
硬さが95を超えると、ウレタンが変形し難く、局部的な押付けとなり、経験の少ない作業者では凸が目立ちやすくなる。
その結果、ウレタンの硬さ(ショアA)の下限を80とし、上限を95とした。
なお、ポリウレタン樹脂の硬さ試験の方法は、JIS K 6301 ショアA硬度による。
【0017】
次に、自動車ボデーの補修工具10を用いたボデーの補修方法及び補修工具10の作用について説明する。
図4(a)〜(d)は本発明に係る自動車ボデーの補修工具を用いたボデーの補修方法及び作用の説明図である。上段に平面図を併記したので、合計8個の図を表わしたものである。
【0018】
(a):自動車ボデー31であるところのドア(以下、「ドア31」と呼称する)に凹み32が発生した場合、まず、ドア31のアウタパネル33とインナパネル34との間に自動車ボデーの補修工具10を仮想線の如く入れ、軽くアウタパネル33を押出し、現在位置を確認しつつ、凹み32の中央に押圧体14を矢印▲3▼の如く臨ませる。続けて、補修工具10をテコの原理で矢印▲4▼の如く押出し、押圧体14で凹み32の中央を外側へ押出す。その際、押圧体14は圧縮され、高さはH2に変化する。
【0019】
押圧体14を凹み32の中央に押し当てると、凹み32との接触面積がA1に変わり、押し力F1を少し吸収しつつ、凹み32の中央が復元し始める。押圧体14が変形して内面の塗装膜35を保護するので、押し力F1で塗装膜35に傷が付くことはなく、また、塗装膜35が剥離することもない。
【0020】
(b):さらに凹み32の中央を押出し、中央に復元部36を形成し、中央をアウタパネル33の正常な面に対し、凹凸のない同一な面に仕上げる。
押し力F2によって、押圧体14は変形量δだけ変形し、凹み32との接触面積がA2へと変化する。しかし、押圧体14をウレタン(弾性体)とし、このウレタンの硬さ(ショアA)を90としたので、押圧体14は押し力F2を適度に吸収しながら、アウタパネル33の強度に抗して凹み32を押出すという背反することを両方とも達成することができる。従って、局部的に凸となる心配がなく、力の加減が容易になる。
【0021】
(c):その次に、周りの残った凹み32に沿って、押圧体14をアウタパネル33から離さずに接触させつつ、矢印▲5▼,▲5▼の如く移動させ、復元部36を拡張し、仕上げていく。
【0022】
押圧体14をアウタパネル33に接触させつつ、移動するので、凹み32を連続的に押出すことができ、極端な山(凸)や谷(凹)が形成されることはない。従って、仕上り精度の向上を図ることができる。
また、押圧体14をウレタン(弾性体)としたので、押圧体14をアウタパネル33の塗装膜35に押し付けながら移動させても、塗装膜35に傷並びに剥離が生じることはない。
【0023】
(d):同様に、残った凹みに沿って、押圧体14をアウタパネル33から離さずに接触させつつ、矢印▲6▼,▲6▼の如く移動させ、復元部36をさらに拡張し、全体を仕上げて自動車ボデーの補修が完了する。
【0024】
このように、金属棒11の一端12を折曲げ、これの先端13に弾性体(ウレタン)からなる押圧体14を取付け、押圧体14で自動車ボデーであるところのドア31のアウタパネル33を押すことで、アウタパネル33(ボデー)の凹み32を補修することができる。
【0025】
また、押圧体14をウレタン(弾性体)とし、このウレタンの硬さ(ショアA)を90としたので、押し力を適度に吸収しながら、アウタパネル33の強度に抗して凹み32を押出すことができ、且つ押圧体14をアウタパネル33に接触させつつ、移動するので、凹み32を連続的に押出すことができ、極端な凹凸が形成されることはない。その結果、経験の少ない作業者でも凹み32の補修を容易に行うことができるとともに、補修時間の削減を図ることができる。
【0026】
図5(a)〜(c)は本発明に係る自動車ボデーの補修工具の作用図である。
(a)において、板厚の厚いアウタパネル41に凹み42が生じ、この凹み42の位置が工具の入口から離れている場合であり、アウタパネル41の内側に自動車ボデーの補修工具10を入れ、凹み42に押圧体14を臨ませる。43は当り面22と凹み42との接触点を示す。
【0027】
(b)において、補修工具10をテコの原理で動かし、押圧体14を外側へ押すと、凹み42が押出されると同時に金属棒11がたわみ、当り面22との接触位置が移動し、接触点44を形成する。
当り面22を半球形状にしたので、金属棒11がたわんでも同一形状の押圧体14で凹み42を押出すことができる。
【0028】
(c)において、当り面22は半球であり、この半球に接する線を接線45とし、その交点を接点46したときに、接点46は常に一点である。すなわち、当り面22のどの位置で押しても一点(面接触)で当てることができ、押出す力の加減がより容易になる。従って、経験の少ない作業者でも凹みの補修をより容易に行うことができる。
【0029】
次に、本発明に係る自動車ボデーの補修工具の別実施例を示す。
図6(a)〜(c)は別実施例図であり、上記図1〜図3に示す実施の形態と同様の構成については、同一符号を付し説明を省略する。
(a)において、自動車ボデーの補修工具10Bは、金属棒11の一端12を折曲げ、折曲げた先端13Bに押圧体14Bを取付け、金属棒11の他端に握り部を設けたものである。
【0030】
先端13Bは、角固定部51を形成したものであり、この角固定部51によって、押圧体14Bの回転を防止し、且つ押圧体14Bを着脱できるものである。
押圧体14Bは、弾性体で、角固定部51に嵌合する角穴52と、この角穴52に対向する当り面22とからなる。押圧体14Bを矢印の如く、角固定部51に組付けてボデーの凹みの補修を開始する。
【0031】
(b)において、押圧体14Bの当り面22で凹みの補修を実施し、一点53(面)のみを使用し続けると、一点53(面)が摩耗し、摩耗部54が形成される。その場合、矢印の如く押圧体14Bを取り外す。
【0032】
(c)において、取り外した押圧体14Bを180゜だけ廻し、再び押圧体14Bを矢印の如く角固定部51に組付ける。
図に示すように、先端13Bに角固定部51を形成し、一方、押圧体14Bに角固定部51に嵌合する角穴52を形成することで、当り面22の接触位置を変更することができ、押圧体14Bの使用時間を延すことができる。従って、押圧体14Bの生産コストを削減することができる。
【0033】
尚、本発明の実施の形態に示した図3の当り面22の形状は半球形状に限定するものではなく、例えば、円錐や角錐の形状に形成することも可能である。
弾性体としては、ポリウレタン樹脂に限定するものではなく、ポリウレタン樹脂(押圧体14)と同等の物性(硬さ及び静的せん断弾性率)を有するもの、例えば、オレフィン系樹脂でも使用可能である。
【0034】
また、図4の自動車ボデーはドア31に限定するものではなく、例えば他に、サイドパネルアウタ、トランクリッド、フードなど、凹みに押圧体14を干渉することなく臨ませることができるボデーを含む。
【0035】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1では、金属棒の一端を折曲げ、金属棒の他端に握り部を設けてなり、一端側で自動車ボデーを押すことで、ボデーの凹みを補修することができる自動車ボデーの補修工具において、一端の先端に弾性体からなる押圧体を取付けるとともに、押圧体の硬さをショアAで80〜95の範囲とし、押圧体をボデーの凹みに押し当てて押出すとともに、押し付けながら離さずに接触させつつ、移動させ、押圧体で押し力を適度に吸収しながら、ボデーの強度に抗して凹みを連続的に押出す。
硬さが80未満であれば、押圧体(ウレタン)が変形しやすく、押圧体で補修することができる凹みの状態が限定される。
硬さが95を超えると、押圧体(ウレタン)が変形し難く、局部的な押付けとなり、経験の少ない作業者では凸が目立ちやすくなる。
その結果、押圧体(ウレタン)の硬さ(ショアA)の下限を80とし、上限を95とした。
つまり、押圧体の硬さをショアAで80〜95の範囲とすることで、弾性体が押出し力を適当に吸収し、ボデー内面の塗装膜の押し傷を防止することができるとともに、ボデー内面の塗装膜の剥離を防止することができる。
【0036】
また、押圧体の硬さをショアAで80〜95の範囲とすることで、弾性体が押出し力を適当に吸収し、同時にボデー内面の塗装膜の押し傷並びに剥離を防止するので、押圧体をボデーの凹みに押付けながら、離さずに移動させてボデーの強度に抗して凹みを押出すことができ、押出しの際の極端な凹凸が形成されず、凹凸が目立たない。その結果、経験の少ない作業者でもボデーの凹みの補修を容易に行うことができる。
【0037】
さらに、押圧体の硬さをショアAで80〜95の範囲とすることで、押圧体をボデーの凹みに押付けながら、離さずに移動させてボデーの強度に抗して凹みを押出すことができ、押出しの際の極端な凹凸が形成されず、凹凸が目立たない。その結果、補修時間の削減及び仕上り精度の向上を図ることができる。
【0038】
請求項2では、押圧体の当り面を半球形状にしたので、押出し力で金属棒がたわんでも、常に同じ形状の当り面を使用してボデーの凹みを押出すことができる。その結果、押出す力の加減が安定し、経験の少ない作業者でも凹みの補修を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る自動車ボデーの補修工具の斜視図
【図2】図1の2矢視図
【図3】図2の3−3線断面図
【図4】本発明に係る自動車ボデーの補修工具を用いたボデーの補修方法及び作用の説明図
【図5】本発明に係る自動車ボデーの補修工具の作用図
【図6】別実施例図
【図7】従来の自動車ボデーの補修工具の一例を示す図
【符号の説明】
10,10B…自動車ボデーの補修工具、11…金属棒、12…一端、13,13B…先端、14,14B…押圧体、15…他端、16…握り部、22…当り面、31…自動車ボデー(ドア)、32…凹み、35…内面の塗装膜。
Claims (2)
- 金属棒の一端を折曲げ、金属棒の他端に握り部を設けてなり、前記一端側で自動車ボデーを押すことで、ボデーの凹みを補修することができる自動車ボデーの補修工具において、
前記一端の先端に弾性体からなる押圧体を取付けるとともに、押圧体の硬さをショアAで80〜95の範囲とし、押圧体をボデーの凹みに押し当てて押出すとともに、押し付けながら離さずに接触させつつ、移動させ、押圧体で押し力を適度に吸収しながら、ボデーの強度に抗して凹みを連続的に押出すことを特徴とする自動車ボデーの補修工具。 - 前記押圧体の当り面を半球形状にしたことを特徴とする請求項1記載の自動車ボデーの補修工具。
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