JP3728459B2 - 締結具の剪断荷重測定方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、複数の部材を締結するための、中実軸部を有するボルト、ピン又はリベット等の締結具において、複数の部材を締結した状態で中実軸部に作用する剪断荷重を測定する締結具の剪断荷重測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ボルト、ピン、リベット等の締結具によって複数の部材を締結する締結構造は、航空機、宇宙機に限らず、一般構造物においても広く用いられている。この種の締結構造は、継手としても認識可能な構造であって、ボルト、ピン、リベット等の締結具が主としてその軸方向の引っ張り荷重を受け持つことでその締結機能を果たす、所謂、引っ張り継手と、主として剪断力を受け持つことでその締結機能を果たす、所謂、剪断継手とに大別される。
【0003】
複数の部材を締結するボルト、ピン又はリベット等の締結具の中実軸部には、通常、軸方向荷重として引っ張り力が作用する。こうした軸方向荷重については、抵抗線歪ゲージや光ファイバ歪センサ等の検出器を中実軸部の内部にその軸方向に沿って埋め込み、この検出器の検出出力に基づいて測定する方法が一般的である。こうした測定方法は、ボルト締付け力の測定や荷重変換器(ロードセル)等に応用されている。この測定方法は、専ら、複数の部材を締結する締結具に作用する軸方向荷重を測定するための方法であり、剪断荷重の測定を目的としたものではなく、剪断荷重の測定に適用可能とは考えられていない。
【0004】
しかしながら、複数の部材が特に板材である場合には、上記締結具は、その中実軸部に作用する剪断力によって、複数の部材に作用する面内応力を伝達させる用い方をされることが多い。特に、航空機や宇宙機においては、機体を軽量な薄板から成るモノコック構造で構成するため、複数の板材をリベット等の締結具で締結し、薄板面内応力を中実軸部に生じる剪断力を介して伝達している。また、固着具に限らず、複数の動力伝達部品間に働く動力を締結具における剪断力によって伝達する剪断継手のような機械要素も、各種の技術分野で用いられている。
【0005】
構造材としての複数の部材を剪断力によって締結する締結具や、剪断継手のような複数の動力伝達部品間に剪断力の形態を取って動力を伝達する締結具において、締結具が受ける剪断荷重を直接的に測定することは、従来の技術では一般には困難である。締結される部材の締結部周辺の表面について歪測定を行って剪断応力状態を推定する方法や、対応した数値シミュレーションによって剪断応力を算定する等の方法が用いられてきたが、これらの方法は効果的な測定手法であるとは言えない。特に、複数の締結具を用いた締結構造の場合には、それぞれの締結具が分担する剪断荷重を算定することが構造設計上重要となるが、個々の締結具に作用する剪断力を正確に測定することが事実上不可能であって、そうした剪断荷重を実験的に得ることが困難である。また、解析上も条件や問題が複雑であり、結果として、経験則に頼っている場合が少なくない。
【0006】
締結具がその剪断力によって破壊するときは、締結具それ自信の破断、又は締結される部材の締結部周部に生じる亀裂、塑性降伏、損傷等が破壊の起点となる場合が殆どであるが、このうち締結部周辺部に発生した塑性降伏、損傷の初期段階を検知することは一般的には非常に困難である。航空機や宇宙機等の飛翔体は、胴体や翼等を薄厚金属板を多数のリベットでつなぎ合わせたモノコック構造で構成されていることが殆どであり、こうした塑性降伏、損傷の初期段階を検知することは、従来、困難であった。
【0007】
ボルト頭部に形成した凹部にボルト軸方向の応力を受けて伸び又は縮むゲージ抵抗部を有する歪みゲージを設けて成り、ボルトの締付け緩みを検出することができる歪センサを装着したボルトが提案されている(特許文献1参照)。また、電気抵抗式ひずみゲージに存在する機械的疲労や温度の影響を解消するため、スラスト力によって伸縮するギャップを挟む二つの反射面又は鏡で反射する光の干渉を利用した光学的歪ゲージを用いることにより、エンジンの軸受スラストを測定することが提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−236064号公報([0010]、図1及び図2)
【特許文献2】
特開2000−321030号公報([0009]〜[0010]、
図1)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、材料力学上、材料に剪断力が作用すると、その剪断方向と直交する方向にも軸方向歪が生じることが知られている。そこで、この材料力学上の現象に着目して、剪断力や剪断歪を直接測定するのではなく、締結具に副次的に生じる軸方向歪量を検出し、その軸方向歪量に基づいて締結具に生じる剪断荷重を測定する点で解決すべき課題がある。
【0010】
この発明の目的は、複数の部材を機械的に締結を行う締結具において、従来困難であった締結具が受ける剪断荷重を測定することができる実用的な方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この発明による締結具の剪断荷重測定方法は、中実軸部を有する締結具の前記中実軸部の内部に、前記中実軸部の軸方向歪量を検知する歪センサを埋め込み、前記歪センサが検知した軸方向歪量とポアソン効果とに基づいて前記中実軸部に作用する前記剪断荷重を測定することから成っている。
【0012】
この発明による締結具の剪断荷重測定方法の基本原理は、ボルト、ピン、リベット等の締結具が剪断荷重を受ける場合に、ポアソン効果として締結具の中実軸部の内部に副次的且つ局所的に生じる締結具の軸方向歪量を締結体内部に埋め込んだ歪センサによって検知することにより、剪断荷重を測定することにある。剪断応力に対応して中実軸部には剪断方向のみならず、ポアソン効果として軸方向にも歪が生じる。締結具に生じる剪断歪量を直接に測定することは困難であるが、軸方向歪量であれば中実軸部に埋め込まれた歪センサによって充分高精度で検出可能である。予め、剪断荷重と締結具の軸方向歪量との対応関係を求めておけば、軸方向歪量の値に基づいて締結具に作用している剪断荷重を求めることができる。測定穴を設ける位置は、応力的に偏りを回避できると推測される中実軸部の中心軸線位置とするのが好ましい。
【0013】
この締結具の剪断荷重測定方法において、前記歪センサが検知した前記軸方向歪量と前記剪断荷重とを対応させる歪−荷重較正を行うことが好ましい。歪センサとその締結具への取付けとをすべての締結具について同条件で行うのは困難であるので、歪−荷重特性は締結具毎に微妙に異なる。従って、剪断荷重を測定する際に必要となる荷重と歪センサ出力を対応させるための荷重較正が求められる。この荷重較正は、具体的には、締結具を較正試験機に装着して実際に既知の値の荷重を作用させることによって得られる。
【0014】
この締結具の剪断荷重測定方法において、前記締結具が前記中実軸部に軸方向に異なる位置で係合した状態で締結している複数の部材間に、前記中実軸部に作用する前記剪断荷重によって荷重を伝達するとき、前記剪断荷重の測定に適用することができる。締結具によって複数の部材を締結するとき、各部材は中実軸部に対して軸方向に異なる位置で係合していると、一部の部材に作用する荷重は、締結具の中実軸部に圧縮応力(面圧)として作用し、中実軸部の内部を経て、再び圧縮応力(面圧)として別の部材に伝達される。一部の部材と別の部材との中実軸部に対する当接部分が中実軸部の軸方向にオフセットしていると、中実軸部の内部には、剪断応力の形で部材間に荷重を伝達する応力場が形成される。この剪断応力は、測定される軸方向歪量とポアソン効果とに基づいて求めることができる。なお、歪センサを設ける測定穴の深さについては、締結すべき部材の構成にもよるが、部材間の境界位置を候補として挙げることができる。
【0015】
この締結具の剪断荷重測定方法において、前記部材が複数の前記締結具によって結合されるときには、前記各締結具に作用する前記剪断荷重の分布状況を把握するため、この剪断荷重測定方法を前記各締結具に個別に適用することができる。締結具毎に歪センサを埋め込み,各締結具に適用される剪断荷重測定方法によって、その締結具に作用する剪断荷重を直接に測定することができる。把握すべき荷重状況としては、例えば、複数の締結具が担う荷重の配分比を算定することが挙げられる。各締結具が担う荷重配分が判明するので、締結構造のリアルタイムな荷重配分を把握でき、締結具の最適配置の算出や、荷重やメンテナンス管理も容易に行うことができる。
【0016】
この締結具の剪断荷重測定方法において、前記締結具が軸方向の張力によって前記部材間に面圧を生じさせている場合に、前記軸方向歪量と前記剪断荷重との関係において前記軸方向歪量が生じ始めるときの前記剪断荷重に基づいて、前記部材に作用する荷重のうち、前記面圧に基づいて部材間に生じる摩擦力によって伝達される荷重を求めることができる。締結体の軸方向荷重に基づいて部材間に摩擦力が作用している場合には、部材に作用する外力の一部は、この摩擦力によって伝達される。このような場合には、摩擦力によって伝達される荷重と部材と締結体との面接触圧により伝達される荷重を分離することが好ましい。部材間に摩擦力が作用する場合の軸方向歪量と剪断荷重との関係は、摩擦力が作用しない場合と対比して、荷重の作用開始時にその摩擦力を超える荷重が作用して初めてポアソン効果に対応した軸方向歪量が検出され始めるという関係が現れる。従って、軸方向歪量と剪断荷重との関係の変化を捕らえ、軸方向歪量が生じ始めるときの剪断荷重を捕らえることで、摩擦力によって伝達される荷重を算出し、部材間の摩擦力と締結具により伝達される剪断荷重とを分離することができる。
【0017】
この締結具の剪断荷重測定方法において、前記軸方向歪量と前記剪断荷重との関係において前記剪断荷重に対する前記軸方向歪量が急激に増加する変化に基づいて、前記締結具の前記中実軸部と前記部材との接触面圧に起因して締結部近傍において生じる前記部材の塑性降伏、損傷等の非線形挙動を検知することができる。締結具の中実軸部と部材との接触面圧に起因して締結部近傍においては、部材の塑性降伏、損傷等の非線形挙動が生じることがあるが、このような締結部近傍における部材の塑性降伏、損傷の初期段階を挙動を、発生した時に検知することができれば、締結構造の荷重やメンテナンス管理にとって好ましい。このような非線形挙動は、荷重の増加量が少ないにもかあわらず、歪量が大きいという現象となって現れる。従って、軸方向歪量と剪断荷重との関係において剪断荷重に対する軸方向歪量が急激に増加する変化を見いだすことによって、締結具の中実軸部と部材との接触面圧に起因して締結部近傍において生じる部材の塑性降伏、損傷等を検知することができる。
【0018】
この締結具の剪断荷重測定方法において、前記歪センサは、前記締結体の前記中実軸部に形成された測定穴内に固定された抵抗線歪ゲージ又は光ファイバセンサであり、前記歪センサからのリード線が前記測定穴の開口を通して延びて測定機器に接続することができる。ボルト、ピン、リベット等の締結具に測定穴を形成し、その測定穴に歪センサを固定するという簡単な構造を持つ締結具によって、締結具自体の構造強度に与える影響を極力少なくしつつ、締結具に作用する剪断力を効果的に測定することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
この発明による締結具の剪断荷重測定方法の実施例について、図面を参照して説明する。図1は、本剪断荷重測定方法を、ボルトとナットとから成る締結具を二枚の板状部材の締結に適用した例を示す断面図、図2は締結具の剪断荷重測定原理を説明する図である。図1に示す適用例において、板状の部材1,2は、ボルト4とナット5とから成る締結具3によって締結されている。締結具3は、各部材1,2に形成された締結用孔10,11を整列させた状態で、締結用孔10,11にボルト4を挿通し、ボルト4のねじ部4bにナット5をねじ込むことによって締結状態となる。ボルト頭部4aと部材1との間、及びナット5と部材2との間には、弛み止め及び締付け荷重の分散等の周知の目的で、それぞれ、ワッシャ6、6が介装されている。
【0020】
ボルト4の円柱状の中実軸部7には、ボルト頭部4aの頂面より機械加工によってセンサ設置用のセンサ装着用の測定穴8が形成されている。測定穴8の深さは、後述するように、部材1,2の接合面の位置に合わせるのが好ましい。測定穴8は、中実軸部7の中心軸線4c位置において途中までの深さの穴として形成することもできるが、一旦、貫通孔に形成し、貫通先から途中まで熱硬化性樹脂を埋め込むことで測定穴に形成してもよい。歪センサ9は、測定穴8に挿入され、接着剤等を充填することによって測定穴8の底部8aに固定される。歪センサ9からの検出信号は、リード線12を通じて外部の計測機器13に接続される。歪センサ9を埋め込むために形成される測定穴8それ自身によって締結具であるボルト4の本来の強度に大きな影響が出ることを回避するため、歪センサ9は、ボルト4の中実軸部7の直径に比して小型のものであることが望ましい。
【0021】
歪センサ9としては、小型の抵抗線歪ゲージ、又はファブリーペロー干渉計等の光ファイバセンサ等が適用可能である。特に小径の締結具に適用する場合には、センサ自体の径が小さく且つ感度の良い小径の光ファイバーセンサが好適である。
【0022】
この締結具の剪断荷重測定原理について、図2を参照して説明する。部材1と部材2に、図1に示すような面内方向の引張り力Pが作用している場合で、与えられた力の全てが一方の部材(例えば、1)からボルト4を通じて他方の部材(例えば、2)に伝達される場合を考える。この場合、締結された部材1,2間での摩擦力による力の伝達はないものとする。即ち、一般には、ボルト4へのナット5の締付けにより部材1,2同士が押し付けられている状態では、面内方向の引張り力Pを作用させたとき、部材1,2間に生じる面圧に基づいて面内方向の摩擦力が生じ、ボルト4を介しない荷重伝達が存在する。しかし、この適用例では、先ず、初期のボルト4及びナット5による部材1、2の締付けは十分に小さく、全ての引張り力Pがボルト4を通じて伝達されるものとして取り扱う。
【0023】
一方の部材1から与えられた引張り力Pは、部材1の挿通孔10の内周面10aとボルト4の円柱部7の外周面7aとの接触部としての、ある広がりを持つ領域の圧縮面圧を介して、圧縮応力の形でボルト4に伝達される。圧縮応力に基づいてボルト4の円柱部7に働く力は、同様に、ボルト4の円柱部7の外周面7aと他方の部材2の挿通孔11の内周面11aとの接触部に生じる圧縮応力の形で他方の部材2へ伝達され、更に、部材2に作用している引張り力Pとなる。
【0024】
ボルト4は、圧縮応力の形でボルト4に伝達された力を、中実軸部7の内部において主として剪断力により伝達している。この際、中実軸部7には、各部材1,2との接触部近傍において圧縮応力場14が発生する。圧縮応力場14の領域は、内周面10aに当接する外周面7aを含む接触部15からボルト4の中心軸線4cを経て内周面11aに当接する外周面7aを含む他方の接触部16まで拡がっている。圧縮応力場14の形状及びその内部における応力の強度分布は、両部材1,2の板厚や材料の組合せ等によって変化し、ボルト4の中心軸線4c上においても中心軸線4cに沿って変化している。ボルト4の中心軸線4cに沿った位置に相当する深さ位置D(横軸に示す)における軸方向歪(縦軸に示す)が、荷重をパラメータとして、図9に示されている。圧縮応力場14においてはその圧縮応力が中実軸部7の軸方向に対称的に分布しており、圧縮応力場14にはこうした圧縮応力の変化に対応して剪断応力が生じており、引張り力Pは部材1,2間に剪断応力を介して伝達される。
【0025】
この発明による剪断荷重測定の原理は、ボルト4の中心軸線4c上に生じる圧縮応力に対応する形で生じるボルト4の軸方向歪量(引張り歪量)を、ボルト4の円柱部7の内部に埋め込んだ歪センサ9により測定し、歪センサ9で測定された軸方向歪量と締結具3に得られた外力、即ち、剪断荷重とを対応付けすることに基づいている。ボルト4に働く横方向の圧縮応力に応じて軸方向歪が生じるのは、所謂、材料力学上の「ポアソン効果」によるものである。軸方向歪分布に対するポアソン比νの影響が、図10に示されている。横軸に示す深さ位置Dにおける縦軸に示す軸方向歪の分布が、ポアソン比νの値によって変化している様子が示されている。軸方向歪量を測定することにより、ボルト3に作用する剪断荷重を計測することができる。この剪断荷重測定原理において、圧縮応力場14に生じる剪断応力が中実軸部7の軸方向に変化している程度が大きいほど、軸方向歪量が大きく測定されることが数値計算等から判明している。
【0026】
外力によって生じるボルト4の中心軸線4c上の軸方向歪の強度分布は、個々のケース毎に異なったものとなるが、多くの場合、両部材1,2が接している平面17上とボルト4の中心軸線4cが交わる付近で最大となる。従って、この近傍に歪センサ9を埋め込むことにより、剪断荷重の測定感度の向上を図ることができる。歪センサ9の最適な埋込み位置を予め正確に算定するためには、有限要素法等の数値計算を用いたシミュレーション解析が有効であるが、埋込み位置の異なるものをいくつか製作し、実験的に求めることも可能である。
【0027】
図3は、較正用の締結供試体の一例を示す断面概略図である。図3において、締結供試体20は、板状の部材1,2aを、上記に示したボルト4とナット5とから成る二つの通常の締結具3,3で締結し、部材1と部材2bとの間で較正用締結具23で締結することで構成されている。較正用締結体23は、適用しようとする締結具3と同等の材質、板厚を有する較正用部材を組み合わせることにより構成されており、通常の締結体3と同様に、ボルト24、ナット25、歪センサ9等から成っている。締結供試体20の両側を材料試験機のチャック部に固定した後、試験機を制御しながら徐々に負荷(引っ張り力P)を増すと、歪センサ9によって較正用締結具23に生じる歪量(ボルト24軸方向歪量)が検出される。この歪の値を引張り力Pの値とともに記録しこれらを対応づけることによって締結具3の較正曲線が得られる。
【0028】
この較正曲線は歪センサ9を埋め込んだ後の較正用締結具23に対して固有のものであり、較正は個々に行われなければならない。これは埋め込み条件等の違いにより、歪センサ9の荷重Pに対する感度が全く同じになるとは限らないからである。また、この較正においては、較正用締結具23の締結力は部材1,2間に作用する摩擦力が無視できる程度に小さくしておかなければならない。これは、部材1,2間の摩擦力による荷重伝達をなくし、全ての荷重が部材1,2とボルト24との接触部を通じて伝達するようにするためである。
【0029】
それぞれに較正がなされた複数の締結具3,3を、例えば、図4に示すように部材1,2を多点(図4は2点)で締結する継手に対して適用することによって、各締結具3,3が分担する荷重を測定することが可能となる。航空機や宇宙機に限らず、一般建築構造物においては、多数のボルトやピン、リベットのような締結具を用いて板状部材等の構造材を連結していたが、従来、このような多数の締結具を用いた構造物においては、個々の締結具に作用している荷重を正確に把握することは事実上、不可能であった。そうした構造物においては、1本の締結具の破損は他の締結具の荷重に影響を及ぼすので、荷重管理を厳しくせざるを得ない。従って、経験則に則り、板厚を増加させたり締結具の数を増やす対策が取られている。その結果、構造物の重量が必要以上に増加するという傾向があった。それに対して、この剪断荷重測定方法では、個々の締結具3に作用する剪断荷重を逐一検出することにより、構造物の荷重状態の把握のみならず破損に至る締結具3の個別情報をリアルタイムで把握することができるので、可能な限り少ない数の締結具3でその最適配置を決定したり、構造物の損傷を未然に防止するのに利用することができる。
【0030】
図5に示すように、ボルト4、ナット5を用いた締結具3においては、ナット5を締め付けることにより生じるボルト4の軸方向の引張力を利用して被締結部材である部材1,2に板厚方向の圧縮力Paを作用させると、外部から荷重Pが作用するときに締結部近傍の部材1,2間に生じる摩擦力Pfによって、荷重Pの一部が伝達される。摩擦力Pfの大きさが無視できない場合には、歪センサ9の検出出力は外部荷重を正しく反映しておらず、検出出力から直に外部荷重を求めることはできない。従って、剪断力と摩擦力とを分離する必要がある。
【0031】
摩擦力Pfで伝達される荷重の限度を越えて外部の荷重が作用した場合には、締結具3と部材1,2との接触による荷重伝達が生じ、この摩擦限度荷重を越えた部分の荷重については、上記の軸方向歪量とポアソン効果とによる原理を用いた剪断荷重測定方法が適用可能である。図6は、漸増する外部の荷重Pに対する締結体3に埋め込まれた歪センサ9によって検出される軸方向歪量の変化を示したものであるが、摩擦力の限界荷重がPfであり、それ以下の荷重では歪量に変化はない。しかし荷重がPfを超えると荷重の超過分が締結具3と部材1,2の接触によって伝達されるようになり、歪量が発生し次第に増加する。これにより、荷重Pは摩擦力Pfによって分担されている荷重と、締結具3と部材1,2の接触によって分担されている剪断荷重Pcに分離することができる。
【0032】
摩擦力Pfがゼロである場合は外部の荷重Pと軸方向歪量とは概ね比例関係にあるが、荷重Pの増加に伴って、図8に示すように締結具3と接触する接触部15,16近傍において、部材1,2の締結部18が塑性降伏、損傷等の非線形挙動を生じる場合がある。このような場合には、歪センサ9によって測定される軸方向歪量に、図7に示すような明らかな変化が現れる。図7に示すグラフは、塑性降伏や損傷に起因して、荷重の増加が殆どないにもかかわらず軸方向歪量が急激に増加する場合を示す特性曲線であり、荷重と軸方向歪量が比例関係から徐々に逸脱する、滑らかに変化する特性曲線を示している。材料の種類によっては、特性曲線が明らかな折れ曲がり点となって現れる場合もある。図中、塑性降伏、損傷開始点がAで示されている。このような変化は、図8に示すように、図中Bで示す締結部18の近傍で部材1,2が塑性降伏や損傷によって面外に押し出され、これが締結具3の頭部(ボルト頭部4a)を押し上げることによって締結体3に図中Cで示すような引張り力をもたらすためである。この変化点を見い出すことによって、締結具3近傍における部材1,2の塑性降伏や損傷を検知することができる。
【0033】
【発明の効果】
以上のように、この発明による締結具の剪断荷重測定方法は、中実軸部を有する締結具の前記中実軸部の内部に、前記中実軸部の軸方向歪量を検知する歪センサを埋め込み、前記歪センサが検知した軸方向歪量とポアソン効果とに基づいて前記中実軸部に作用する前記剪断荷重を測定するので、剪断応力に対応して中実軸部にはポアソン効果として生じる軸方向歪量を中実軸部に埋め込まれた歪センサによって充分高精度で検出することができる。予め、剪断荷重として作用する外力と締結具の軸方向歪量との対応関係を求めておけば、軸方向歪量の値に基づいて締結具に作用している剪断荷重を求めることができる。従来、締結具に生じる剪断歪量を直接に測定することは困難であったが、締結具が受ける剪断荷重を迅速且つ簡単に実用的に測定することができる。
【0034】
この発明による締結具の剪断荷重測定方法によれば、上記に加えて、剪断荷重を実用的な測定において必要な荷重と歪センサ出力とを対応させるための、荷重較正を得ることができる。また、締結具によって複数の部材を締結する場合には、締結具に作用する剪断荷重から部材に働く荷重を求めることもできる。また、複数の部材を複数の締結具で締結する構造の場合には、各締結具がそれぞれどのような荷重を分担していたのか、従来、必ずしも明確に解析できなかったが、個々の締結具に本剪断荷重測定方法を適用することにより、具体的に個々の締結具の分担比率を算定することができる。更に、締結体がその軸方向荷重によって発生する部材間の摩擦力を利用して剪断力を伝達する場合においては、荷重と軸方向歪の関係に着目することにより、摩擦力によって伝達される荷重と、部材と締結体との面圧接触によって伝達される荷重とを分離することができる。更にまた、荷重と軸方向歪の関係の変化に着目することにより、締結具で締結された部材の締結部近傍における部材の塑性変形、損傷の初期段階を検出することもでき、薄板構造の耐久性の評価や、修理時期等の策定に資することができる。この締結体の剪断荷重測定は、航空機、宇宙機に限らず、一般構造にも適用可能であり、実働荷重のオンラインモニタリングやファスナー配置の最適設計、締結部損傷検知等に広く応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による締結具の剪断荷重測定方法における歪測定概念図である。
【図2】図1に示す歪測定概念図において、締結体内部に生じる圧縮応力場と歪ゲージの関係を表す拡大図である。
【図3】この発明による締結具の剪断荷重測定方法における荷重較正法の一例を表す図である。
【図4】この発明による締結具の剪断荷重測定方法を、多点(2点)締結構造の荷重分担の測定への適用例を示す図である。
【図5】この発明による締結具の剪断荷重測定方法において、部材間の接触摩擦による荷重伝達を表した図である。
【図6】この発明による締結具の剪断荷重測定方法において、部材間の接触摩擦による荷重伝達がある場合における外荷重と歪ゲージの関係を表すグラフである。
【図7】この発明による締結具の剪断荷重測定方法において、締結部近傍における部材の塑性降伏、損傷が生じた場合の外荷重に対する軸方向歪量の関係を表した図である。
【図8】この発明による締結具の剪断荷重測定方法において、締結部近傍における部材の塑性降伏、損傷による軸方向歪量の変化を表した図である。
【図9】この発明による締結具の剪断荷重測定方法において、ボルトの中心軸線cに沿った深さ位置(横軸)における軸方向歪(縦軸)を、荷重をパラメータとして示す図である。
【図10】この発明による締結具の剪断荷重測定方法において、軸方向歪分布に対するポアソン比の影響を示す図である。
【符号の説明】
1,2 部材 3 締結具
4 ボルト 4a ボルト頭部 4b ねじ部 4c 中心軸線
5 ナット 6 ワッシャ 7 中実軸部 7a 外周面
8 測定穴 8a 底部 9 歪センサ
10,11 締結用孔 10a,11a 内周面
12 リード線 13 計測機器
15,16 接触部 17 平面 18 締結部
20 締結供試体
23 較正用締結具 24 ボルト 25 ナット
P 引張り力 Pa 圧縮力 Pf 摩擦力 Pc 剪断荷重

Claims (7)

  1. 中実軸部を有する締結具の前記中実軸部の内部に、前記中実軸部の軸方向歪量を検知する歪センサを埋め込み、前記歪センサが検知した軸方向歪量とポアソン効果とに基づいて前記中実軸部に作用する前記剪断荷重を測定することから成る締結具の剪断荷重測定方法。
  2. 前記歪センサが検知した前記軸方向歪量と前記剪断荷重とを対応させる歪−荷重較正を行うことから成る請求項1に記載の締結具の剪断荷重測定方法。
  3. 前記締結具が前記中実軸部に軸方向に異なる位置で係合した状態で締結している複数の部材間に、前記中実軸部に作用する前記剪断荷重によって荷重を伝達するとき、前記剪断荷重の測定に適用されていることから成る請求項1に記載の締結具の剪断荷重測定方法。
  4. 前記部材が複数の前記締結具によって結合されるときの前記各締結具に作用する前記剪断荷重の分布状況を把握するため、前記各締結具に個別に適用されることから成る請求項3の締結具の剪断荷重測定方法。
  5. 前記締結具が軸方向の張力によって前記部材間に面圧を生じさせている場合に、前記軸方向歪量と前記剪断荷重との関係において前記軸方向歪量が生じ始めるときの前記剪断荷重に基づいて、前記部材に作用する荷重のうち、前記面圧に基づいて部材間に生じる摩擦力によって伝達される荷重を求めることから成る請求項1に記載の締結具の剪断荷重測定方法。
  6. 前記軸方向歪量と前記剪断荷重との関係において前記剪断荷重に対する前記軸方向歪量が急激に増加する変化に基づいて、前記締結具の前記中実軸部と前記部材との接触面圧に起因して締結部近傍において生じる前記部材の塑性降伏、損傷等の非線形挙動を検知することから成る請求項1に記載の締結具の剪断荷重測定方法。
  7. 前記歪センサは、前記締結体の前記中実軸部に形成された測定穴内に固定された抵抗線歪ゲージ又は光ファイバセンサであり、前記歪センサからのリード線が前記測定穴の開口を通して延びて測定機器に接続されていることから成る請求項1に記載の締結具の剪断荷重測定方法。
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