JP3727074B2 - 局所投与放射線治療剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、局所投与放射線治療剤に関する。さらに詳しくはα線やβ線の放射線作用により腫瘍及び炎症性疾患の治療に有用な体内薬物挙動のコントロールを可能とした特徴を有する新規な局所投与放射線治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
放射線の生物に対する作用はすでに種々の研究がなされており、その本質は細胞の代謝活性抑制、細胞分裂阻害による増殖抑制及び致死作用である。局所投与放射線治療剤の作用機構もこの放射線の作用によるが、その対象疾患は、リウマチ様関節炎などの炎症性疾患の局所炎症部位及び肺癌,肝癌,胃癌,大腸癌,乳癌,子宮癌,上皮性癌など通常臨床的にみられるほとんどの固形癌の原発巣および転移巣である。
【0003】
局所投与放射線治療剤は、治療効果を得ようとする患部に直接投与後、放射能が減衰するまでの間その部位に留まり、患部を放射性金属イオンが発するα線あるいはβ線などで照射するものである。従って、その間に目的部位より排泄されると他の正常組織が放射線照射され望ましくない作用が起こる。
【0004】
安全性の観点からすれば、局所投与放射線治療剤は、患部へ投与後放射性核種の物理的減衰に見合った限定的な間だけ投与部位に留まって放射線照射による治療効果を発揮し、しかる後排泄され、生体内に長期残留しない特性が求められる。
【0005】
従来より腫瘍や炎症性疾患の治療研究の中で局所投与放射線治療剤が考案されてきた。
【0006】
投与薬剤を局所に滞留させる方法のひとつとして、投与物を粒子とし物理的に排泄速度を遅くする方法がある。放射性同位元素、特に放射性金属イオンは、それ自体では体内を速やかに移行することができるため、局所滞留させるには何らかの粒子や巨大分子に結合させなくてはならない。この目的を満たすため、従来放射線金属イオンは安定同位体金属イオンの水酸化物よりなるコロイド粒子(数〜数十μm程度の粒子)に含まれるよう加工された。
【0007】
代表的なものとして、関節リウマチに起因する滑膜炎の外科的治療法である滑膜切除術に代わる放射性金属コロイド製剤、あるいは腫瘍部位に直接的に注入する放射性金属コロイド製剤が挙げられる。例えば、Y-90コロイドや Au-198 コロイドである。放射性金属コロイド製剤は、投与後その部位に残留し患部をα線あるいはβ線照射することにより治療効果を発揮する。しかし、この種の製剤はいくつかの欠点を有するため、我国では正式な医薬品として工業化されるに至っていない。欠点は、製造操作,生体内での薬動力学的コントロール及び安全性の三点で指摘し得る。
【0008】
生体に投与する医薬品は、無菌性など品質に一定の条件が要求される。金属コロイド製剤の有効成分は数〜数十μm程度の粒子であり、そのため注射剤であるにも関わらず最終製造工程で無菌濾過が出来ない。これは、生体投与を前提とするとき致命的欠陥と言える。また、安価で安定的に供給されることが要求されるが、金属コロイドではその条件を必ずしも満たしていない。金属コロイド製剤は、しばしば投与部位に長期間残留して排泄されず金属としての化学的毒性を発現させる(例えばJean,P.H. et al:Therapie 41, p.357,(1986))。そして金属元素による滞留時間のコントロールは不可能に近い。こうして金属コロイド製剤はかなり長期間投与部位に残留するため安全性の上で問題があり、体外排泄される性質も必要と認識されるに至った。
【0009】
一方、腫瘍部位や炎症部位に直接的に注入する化学製剤の代表的な製剤には、酢酸注製剤やエタノール注製剤,シスプラチン注製剤,オスミウム酸注製剤等があり、剤形が低分子の溶液であることによる短期残留からの効果の一過性,大小の副作用が存在することの2点でその欠点を指摘し得る。腫瘍部位や炎症部位に直接的に注入する化学製剤はほとんどの剤形が低分子の溶液であるため、局所に留まることができずに全身へ散在することになる。このため、効果に持続性がなく数回にわたり、さらに多量に投与することとなり、治療のための経済性は悪くなる。また、この製剤の投与法は、肝癌などでは動脈を切開し血管内にカテーテルを差し込みながら、酢酸注製剤などを目的箇所で数回投与する方法が用いられるため、医師と患者の負担は大きい。
【0010】
このため、適切な滞留性と速やかな体外排泄を兼ね備え、製造上の問題がなく安価に供給され得る局所放射線治療剤の出現が待たれていたのである。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べた従来の金属コロイド製剤の欠点および化学製剤の欠点を克服すべく、我々は新規な局所投与放射線治療剤の発明を試みた。本発明は、製造工程中の困難を回避でき、生体内での薬動力学的コントロールを可能とし、もって、より高い安全性を実現した生体内分解性親水性高分子を担体とし、それに錯化剤を介して治療効果を示す放射性金属イオンを化学的に結合した治療剤を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために種々研究を重ねた結果、キチン誘導体を代表例とする生体内分解性親水性高分子に錯化剤を介して放射性金属を結合させた巨大分子化合物が、その様な要望を充足し、かつ臨床上有効と考えられる安全性と治療効果が存在する事実を見いだすことに成功した。
【0013】
例えば、分子量約 50 万のキトサンに錯化剤としてジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPAと略す)が化学結合し、さらに放射性金属イオンとしてインジウム111(In-111と略す)が配位した巨大分子化合物について、ラットにおける体内動態を調べた。ここでIn-111を用いたのは不必要なβ線放出放射性金属イオンの使用を避けるためであり、差し支えない範囲で化学的,物理的特性が酷似するインジウム114m(In-114mと略す) の代わりとし、また化学的特性の似たイットリウム90(Y-90 と略す) の代わりとした。
【0014】
その結果、本発明にかかる巨大分子化合物のラット関節腔内投与における体内消失半減期は In-111 金属コロイドと比較して17分の1と速まり、また本発明の投与放射能量のほとんどが一定期間内投与部位に分布していたことが確認された。また、その後ほとんどが尿中へ排泄され、体内蓄積が認められないことが確認された。
【0015】
本発明は、この様な知見に基づき、アミノ基,ヒドロキシル基またはカルボキシル基,あるいはそれらの誘導体を含有する親水性繰り返しモノマー単位を含んでなる平均分子量が1×103 から1×106 の生体内分解性親水性高分子に、錯化剤を介して少なくとも1種の放射性金属が化学的に結合された、生理学的に認容性で、生理学的 pH 及び温度においてゲル化することを特徴とする巨大分子化合物、またはその塩からなる局所投与放射線治療剤として完成されたものである。
【0016】
本発明の非放射性標識用担体は、平均分子量が1×103 から1×106 の生体内分解性親水性高分子を用いるため、滅菌ろ過が可能であり、製剤製造における無菌操作が可能かつ簡便に行うことができる。
【0017】
さらに、本発明の局所投与放射性治療剤は、例えば腫瘍及び炎症性疾患部位に局所投与を行うことで目的部位に、1×103 未満の分子量の低分子化合物より長く、金属コロイドより短い滞留性を示し、期待される治療効果と生体外への速やかな排出による臨床上有効と考えられる安全性を併せもつことで特徴づけられ、しかもキトサン誘導体に代表される多糖類に錯化剤を結合させた合成高分子を放射性金属イオンの担体とすることで、本発明の局所投与放射線治療剤を安価に供給することができるのである。
【0018】
本発明に用いられる生体内分解性親水性高分子は、局所投与された特定疾患部位に放射性金属の物理的半減期の1〜3倍程度の消失半減期を示す、生理学的 pH 及び温度においてゲル化する平均分子量が1×103 から1×106 の生体内で分解代謝される巨大分子化合物およびその塩である。特に本発明の概念や実用性を考慮すると、荷電しうる官能基を繰り返し単位に持つ多糖類やポリアミノ酸、アミノ酸側鎖を持つ複合糖質、人工的に合成された様々な有機化合物を構成単位とする合成高分子、さらに中性条件下でゲル化するこれらの混合物においてその有用性が好適に発揮される。該巨大分子としては、アミノ基を繰り返し単位に持つ多糖類ではポリグルコサミン (=キトサン) 、ポリガラクトサミン、ポリマンノサミンなど、カルボキシル基を繰り返し単位に持つ多糖類ではヒアルロン酸など、ポリアミノ酸としてはポリリジン、ポリグルタミン酸など、またそれらを分子内に有する複合糖質や複合脂質、ポリヌクレオチドなどが挙げられる。
【0019】
合成高分子は、構成単位次第では如何なる分子量でも製造可能であり、生体適合性や分解性も任意に獲得できる点で有用性が高いと言える。また一方、多糖類は様々な分子量のものが知られ、しばしば抗原性が低い。薬剤への応用という観点からは、親水性で生体内で分解される多糖類が様々な巨大分子の中で放射性金属イオンの担体として利用価値が優れて高い。
【0020】
天然に存在する多糖類は、デンプンなど多数知られる。植物細胞壁を構成するセルロースや甲殻類の殻に存在するキチン,キトサンなどは、それぞれ年間1×1011t,1×109 〜1×1011t生成すると推定され無尽蔵である。また、原材料として入手可能なキチン量は1.5×105 tと推定され、単離法が比較的簡便なため、極めて安価に供給されている(福井三郎,斉藤日向監修:バイオテクノロジー事典,シーエムシー, p.645,(1986). Tracey,M.V.:Chitin;Rev.Pure Appl.Chem. 7, p.1,(1957))。
【0021】
なかでも、荷電しうる官能基を繰り返し単位に持つ多糖類、例えばアミノ基を有する多糖類は、酸性条件では水系溶剤に溶解し、中性〜アルカリ性条件では親水性ゲルを形成する性質を有する。また、カルボキシル基を有する多糖類は、逆にアルカリ性条件では水系溶剤に溶解し、酸性条件では親水性ゲルを形成する。このような性質は、医薬品製造上きわめて有利なものと言える。即ち、溶解状態では化学的修飾反応や精製/濾過/分注/滅菌などの工業的操作が容易に行え、弱酸性〜中性の生体内ではゲル化することにより滞留性の増加など体内動態コントロールが可能となる。
【0022】
アミノ基を繰り返し単位に持つ多糖類のひとつキチン誘導体は、生体適合性や安全性の点で優れた性質を有する。例えば、キチンは生体防御機構に組み込まれるリゾチーム(BC.3.2.1.17) に徐々に加水分解され、体内ではほとんど異物反応を引き起こさない(N.Nishi,S.Nishimura,O.Somorin :Lysozyme-accessible Fibers from Chitin and its Derivatives, Edt. S.Tokura, Sen-i Gakkaishi.39, p.45-49(1983)) 。一方、キトサンも蔗糖より低毒性であり、抗原性がない、抗血液凝固作用がない、生体内では速やかに消化排泄される、などの性質を有する(キチン、キトサンの応用:キチン、キトサン研究会編、p.221(1988))。
【0023】
この様に荷電しうる官能基を繰り返し単位に持つ多糖類、なかでもキチン誘導体は、医療用物質として利用しやすい特性を持つと言え、本発明における課題解決を有利にするものである。
【0024】
キチン誘導体の医薬品への応用例としては、キトサンビーズやカルボキシメチルキチンのゲルを用いた徐放性薬物担体が考案されているが、それらはいずれも薬効を示す化学物質を物理的に吸着するというキチン誘導体の性質を利用している。そして、用いられる担体は、吸着成分を徐々に放出するように設計されている。一方、本発明における巨大分子化合物の特徴は、徐放性ではなく、担体自体が分解代謝されるまで放出しない安定な化学的結合を利用した点にある。本発明の概念は徐放性薬物担体とは異なるものであり、未だ考案されていなかった。
【0025】
腫瘍や炎症性疾患に対する治療効果を得るには、キチン誘導体に代表される多糖類に何らかの治療効果を示す物質、例えばα線やβ線を放出する放射性金属イオンをそれらと共存させる必要がある。
【0026】
β線を放出する放射性金属イオンは治療作用を示す物質の代表例であり、一般に担体金属イオンフリー(即ち安定同位体として同種類の金属イオンを含まない状態)では治療効果を得るに十分な放射能量でも元素としての化学量は極微量である。これは、局所投与における残留性や安全性を考えるとき、優れた特性と言える。
【0027】
局所投与放射線治療剤の特徴を鑑みるとき、用いる放射性金属イオン、具体的には放射性金属イオンはいくつかの条件を満たす必要がある。それらを列挙すると、α核種あるいはβ核種であること、減衰半減期(T(1/2))が 5〜400 時間程度であること、α線あるいはβ線放出効率が 90 %以上あること、α線あるいはβ線のエネルギー 0.1 MeV以上あることである。
【0028】
これらの条件を満たす放射性金属イオンは、いずれも本発明に使用できるが、好ましくは Y-90, Rh-105, Pd-109, In-114m, Sn-117m, Sn-121, Pm-149, Sm-153, Gd-159, Tb-161, Dy-165, Ho-166, Er-169, Yb-175, Lu-177, Re-186, Re-188, Os-193 であり、より好ましくは Y-90, Ho-166, Lu-177, Re-186 である。
【0029】
多糖類などの巨大分子の幾つかは、それ自体で直接金属イオンを結合する能力を持つことが明らかにされている。例えば、カルボキシメチルキチンはイオン交換樹脂として用いられており、キトサンも 2価の遷移金属イオンと配位結合するといわれる。しかし、それら配位結合は生体内で安定に存在し得るほど強固ではない。このことは、キチン誘導体と放射性金属イオンを中性緩衝液中で混合した後電気泳動や薄層クロマトグラフィーで分析すると、両者が容易に分離することからも実験的に証明し得る。多糖類などの巨大分子そのままでは、生体内で安定な金属結合体を得ることは難しく放射性金属イオンの担体として使用できない。
【0030】
そこで、多糖類などの巨大分子に金属イオンを強固に配位結合する錯化剤を結合させ、それに放射性金属イオンを結合させたところ、目的を達成することが可能となった。この条件を満たす本発明に用いられる錯化剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA),ジアミノプロパノール四酢酸(DPTA),グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA), ヘキサメチレンジアミン四酢酸(HDTA),ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA),トリエチレンテトラミン五酢酸(TTHA), 1,4,7,10- テトラカルボキシメチル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(DOTA), 1,4,7,10- テトラアザシクロドデカン-1- アミノエチルカルバモイルメチル-4,7,10-トリス[(R,S)メチル酢酸](DO3MA), トリエチレンテトラミンポリスチレン(TETA),またはシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA), ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(EDTA-OH), エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO), ジアミノプロパン四酢酸(Methyl-EDTA), ニトリロ三酢酸(NTA)などのポリアミノポリカルボン酸やポリアミノポリホスホン酸, ポリアミノポリスルホン酸などである。
【0031】
以上挙げたような錯化剤を適当な様式の化学結合により多糖類などに結合させた巨大分子化合物を調製し検討を重ねた結果、放射性金属イオンの担体として有用であることが見いだされた。
【0032】
その製造方法は、前記の生体内分解性親水性高分子を適当な濃度で適当な溶媒に溶解させ、次いで錯化剤を適当量を添加し、室温において反応させることにより、錯化剤の結合した巨大分子化合物を得ることができる。ここでの適当な濃度とは、治療効果を発揮するのに充分な放射性金属イオンを結合でき、かつ、生体投与可能限度量を越えず、溶解度の範囲内にあるものを指す。また、ここでの適当な溶媒とは、無菌水,生理食塩液,各種緩衝液を指し、必要に応じ、非放射性担体の溶解性を増すための有機溶媒、pHを調節するための酸、塩基の添加、放射性金属イオンの原子価状態を調製するための還元剤または酸化剤の添加、および安定化剤,等張化剤,保存剤を添加しても良い。
【0033】
得られる非放射性組成物は、そのまま溶液の形で放射性金属イオンによる標識化に供してもよく、また凍結乾燥法または低温圧蒸発法などの方法により溶媒を除去した乾燥品の形にした後放射性金属イオンによる標識化に供してもよい。
【0034】
この様にして、DTPA- セルロース, DTPA- キチン, DTPA- キトサン, DTPA- グリコールキトサン, DO3MA-セルロース, DO3MA-キチン, DO3MA-キトサン及び DO3MA- グリコールキトサンの例の様に示される、錯化剤結合高分子多糖を得ることができる。
【0035】
さらに、イオン状態で溶解している放射性金属イオンの溶液を、前記の非放射性担体である錯化剤の結合した巨大分子化合物の溶液あるいは懸濁液と混合し、20〜50℃に加熱することにより、極めて簡便な操作で、放射性金属標識された巨大分子化合物を得ることができる。
【0036】
また前記の生体内分解性親水性高分子を適当な濃度で適当な溶媒に溶解させた溶液、あるいは懸濁液を、放射性金属イオンが結合した錯化剤溶液と混合し、20〜50℃に加熱することにより、極めて簡便な操作で、放射性金属標識された巨大分子化合物を得ることができる。
【0037】
この様にして、90Y-DTPA- セルロース,90Y-DTPA- キチン,90Y-DTPA- キトサン,90Y-DTPA- グリコールキトサン, 90Y-DO3MA-セルロース, 90Y-DO3MA-キチン, 90Y-DO3MA-キトサン, 153Sm-DO3MA- キチン, 153Sm-DO3MA- キトサン, 186Re-DTPA-グリコールキトサンなどの例に示すβ線放出放射性金属イオンを安定的に結合させた巨大分子化合物を得ることができる。
【0038】
炎症部位への適用では、本発明 37MBq〜3.7GBq(1〜100mCi) の患部への直接投与で炎症性細胞の代謝活性抑制による治療効果が期待される。固形癌への適用では、投与対象となる癌の大きさや広がりに影響されるが、本発明 37MBq〜18.5GBq (1〜500mCi) の投与で放射線の致死作用による癌細胞の死滅が期待される。作用の強弱は、投与する放射能量の調節で容易に達成される。放射線の作用は、β線の飛程数 mm の範囲に限られるため、放射線による全身的な副作用は最小限に抑えることが可能であり、外部より放射線を照射する通常の治療法に勝る安全性が期待される。
【0039】
本発明の投与には、様々な方法が応用できる。例えば、適当な太さと長さの注射針を備えた注射器を用いて経皮的に患部に直接注入する投与法、内視鏡による投与法、及びカテーテルを用いた動脈内投与などである。肝癌ではカテーテルによる動脈内投与が有効であり、皮膚癌では経皮的注射が有効であり、胃癌, 肺癌, 胆管癌, 大腸癌, 子宮癌では内視鏡による直接投与が有効であると言ったように、疾患の特徴によって様々な投与法が考えられる。これは、局所に留まるという性質があればこそ可能な多様性である。
【0040】
本発明は、放射性金属イオンの物理的減衰に見合った生体内滞留時間と生体外への速やかな排泄という相反する滞留性を、生体内分解性親水性高分子に錯化剤を結合させた巨大分子化合物の体内動態によって達成する点に特色がある。
この薬動力学的コントロールは、キチン誘導体の場合、中性水溶液中におけるゲル形成能力や酵素による分解性によって決定される。これは、後述する実施例の中で示すように、多糖類の分子量の違いは体外排泄半減期を大きく左右しない、構成単位である単糖の種類により半減期が異なる、などの実験結果から示される。本治療剤の有用性は、中性水溶液中における錯化剤結合多糖類の存在状態によって決定されると言える。
【0041】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例の記載によってなんら制限されるものではない。
【0042】
実施例では、場合により和名を用いず略語を用いた。即ち、キチンを CHN、キトサンを CHT、特に分子量約 50 万のキトサンを CHT(PSH) 、特に分子量約 5万のキトサンを CHT(LL)、グリコールキトサンを GlyCHT とした。二官能性錯化剤は、ジエチレントリアミン五酢酸酸無水物を DTPA 、テトラアザシクロドデカンアミノエチルカルバモイルメチルトリス(メチル酢酸)を DO3MAとした。金属元素は、インジウム−111 を 111In、イットリウム90を 90Y、サマリウムを Sm 、ガドリニウムを Gd と略した。
【0043】
なお、不必要なβ線放出放射性金属イオンの使用を避ける目的で、差し支えない範囲で90Y 及び114mInの代わりに 111In、 153Smの代わりに Sm 安定同位体、 159Gdの代わりに Gd 安定同位体を用いて実験的検討を行った。これは、Inと Yの化学的挙動の類似性、放射性同位体と安定同位体の化学的挙動の同一性に基づく妥当な措置である。
【0044】
【実施例1】
錯化剤結合多糖類の合成
【0045】
1-1. DTPA-CHT 結合体の調製
キトサンPSH(分子量約 50 万) 及びキトサンLL( 分子量約 5万) を、各々 4〜5mg/mlの濃度でメタノール/10%酢酸 (容量比 5/1)またはメタノール/0.1N塩酸 (容量比 4/1)に溶解させた。ここで 8N 水酸化ナトリウムを 10 分の1 倍量添加しアルカリ条件下ゲル状態にしたものと、8N水酸化ナトリウムを加えず酸性条件下溶解状態のままの溶液を用意した。すなわち8種類の溶液を調製した。次いで DTPA 酸無水物を過剰量(1〜20mg/CHT 1mg)を添加し、超音波発生器中で超音波にかけながら、室温において10分間反応させた。
【0046】
ここで反応液から少量取り出して 111Inで標識し、多糖を構成する繰り返し単位 100個当りのDTPA結合数 (DTPA結合比) をTLC分析により、以下の式を用いて求めた。
求めた結合比は、 CHT(PSH) では酢酸/酸性反応条件で6.9 、アルカリ反応条件で2.4 であった。CHT(LL) では酢酸/酸性反応条件で3.1 、アルカリ反応条件で1 未満であった。
【0047】
各反応液に 0.2M クエン酸緩衝液 pH 5.5 を溶液の約 4倍量加えてキトサンをゲル化させ、遠心により沈澱を集めた。沈澱に上記の緩衝液を加えて再懸濁し、遠心により沈澱を集める操作を 2回繰り返して未結合 DTPA などの不純物を除去し、目的の DTPA-CHT を得た。
【0048】
これを赤外線吸収スペクトル分析に供した。赤外吸収スペクトルの1655cm-1のアミドI バンドと3450cm-1の水酸基伸縮振動によるバンドとの吸収の比から、脱アセチル化度を検討した。1655cm-1と3450cm-1の比を求めると CHT-PSHは、 A1655/A3450= 0.711 、CHT-LL:A1655/A3450= 0.53であった。また、DTPA結合体では1655cm-1付近ピークが重なるが、ピークの高さが増加しており、CHT に DTPA が結合していることが確認された。また、目的物の精製度を求めるために、少量の目的物を抜き取り、0.2Mクエン酸緩衝液 pH 5.5 に懸濁している状態(1〜2mg/ml) の目的物溶液 9に対し740MBq/ml の 111InCl3 (0.1N 塩酸溶解状態) を 1加えて 111In標識し、TLC分析により求めた。標識率(=精製度)は CHT(PSH) ,CHT(LL) いずれも 98 %であった。この方法で、キトサンPSH 及びキトサンLLをメタノール/10%酢酸 (容量比 5/1)に溶解させ、アルカリを加えたものと、そのまま DTPA 酸無水物を反応させたものとでは、ほぼ同様の結果が得られた。また、メタノール/0.1N塩酸 (容量比 4/1)にキトサンPSH 、キトサンLLを溶解した場合でも、酢酸を用いた場合とほとんど同様の結果が得られた。また、キトサンの検出のため、アミノ基に特異的に反応するニンヒドリン発色、有機化合物に反応するヨード発色を各々行ったところ、いずれの発色も放射能ピーク位置に対応して認められ、実施した方法によって確実に DTPA-CHT 結合体が得られることが明らかとなった。
【0049】
1-2. DTPA-GlyCHT結合体の調製
0.1 M クエン酸/0.2Mリン酸二水素ナトリウム (容量比 3/5) pH 6.0 と 0.4M リン酸ナトリウム緩衝液 pH 8.0 の2種類の緩衝液に GlyCHT を各々溶解し、GlyCHTの構成単位であるグリコールグルコサミンと等モルの DTPA 酸無水物を攪拌しながら添加した。DTPA結合比を求めるため、反応液から少量取り出して 111In標識し、TLCにより求めた。DTPA結合比は、クエン酸リン酸緩衝液, リン酸緩衝液の2種類の溶媒において各々 11 , 1 であった。5mM クエン酸ナトリウム緩衝液( pH 8.0 )を泳動緩衝液に用いた電解透析により精製を行った。精製度を求めるために、少量の目的物を取り出して 111In標識し、TLCにより求めた。実施した方法によって精製度100 %のものが得られ、また確実に DTPA-CHT 結合体が得られることが明らかとなった。
【0050】
1-3. DTPA-CHN 結合体の調製
キチンを10mg/ml の濃度でメタノール/10%酢酸 (容量比 5/1)に溶解させた。次いで DTPA 酸無水物を過剰量(1〜20mg以上/CHN 1mg)を添加し、超音波洗浄器中で超音波にかけ反応させた。DTPA結合比を求めるため、反応液から少量取り出して 111In標識し、TLCにより求めたところ、1 %未満であった。
【0051】
各反応液に 1.5倍量の燐酸・クエン酸緩衝液 pH 7.4 を加え、遠心分離により沈澱を集め、これを 0.1N 水酸化ナトリウムに懸濁し超音波にかけた。この操作を2〜3回繰り返し、次に遠心分離により沈澱を集め目的物を得た。精製度を求めるために、少量の目的物を抜き取り 111In標識し、TLC分析により求めたところ、実施した方法によって確実に DTPA-CHN 結合体が得られることが明らかとなった。
【0052】
1-4. DO3MA-GlyCHT 結合体の調製
0.1Mの濃度に溶解させた DO3MAのジメチルホルムアミド溶液 1mlに、0.2Mの濃度になるようトリエチルアミンを加えた後、室温にて 10 分間攪拌した。次に塩化クロロアセチル 0.5mmolを加えた後、室温にて攪拌し、DO3MA に塩化アセチル基を導入した塩酸塩 (DO3MA-Cl) を調製した。次に、グリコールキトサンの構成単位であるグリコールグルコサミンと等モルの DO3MA-Cl が反応液に存在するように各々を純水に溶解し、濃度を 50mM とする。この溶液に 0.1N 水酸化ナトリウムで pH を 8〜9 に調製した。60℃において1時間攪拌後、 0.1N 塩酸で中和させ、クエン酸緩衝液 pH6に対し透析することにより高純度の DO3MA-GlyCHT を得た。精製度は、少量の反応液を 111In標識し、TLC分析により求めた。これにより、確実に DO3MA-GlyCHT 結合体が得られることが明らかとなった。
【0053】
【実施例2】
放射性/非放射性金属イオンの錯化剤結合多糖類への結合
【0054】
2-1. 111In-DTPA-CHT 結合体の調製
DTPA-CHT結合体を 0.2M クエン酸緩衝液 pH5.5に 1〜2mg/ml懸濁し、そこへ 370MBq/mlの 111InCl3 (0.1N 塩酸溶解状態) を 9分の 1容量加えた後室温で5 分攪拌し、 111Inをキレートさせる標識反応を行った。標識後TLC分析を行い、 111Inが DTPA-CHT 結合体に安定的に結合したことを確認した。標識率を98%であった。
【0055】
2-2. 111In-DTPA-GlyCHT結合体の調製
DTPA-GlyCHT を 0.1 Mクエン酸/0.2Mリン酸二水素ナトリウム (容量比 3/5) pH 6.0 緩衝液 0.4mlに懸濁し、370MBq/ml の 111InCl3 (0.1N 塩酸溶解状態) を等容量加えた後室温で5 分攪拌し、 111Inをキレートさせる標識反応を行った。標識後TLC分析を行い、 111Inが DTPA-GlyCHT結合体に安定的に結合したことを確認した。標識率は100 %であった。
【0056】
2-3. 111In-DTPA-CHN 結合体の調製
DTPA-CHN を燐酸・クエン酸・ほう酸緩衝液 pH 8.5 に溶解し、370MBq/ml の 111InCl3 (0.1N 塩酸溶解状態) を等容量加えた後室温で5 分攪拌し、 111Inをキレートさせる標識反応を行った。標識後TLC分析を行い、 111Inが DTPA-CHN 結合体に安定的に結合したことを確認した。
【0057】
2-4. 111In-DO3MA-GlyCHT 結合体の調製
DO3MA-GlyCHT 結合体少量を 0.2M クエン酸緩衝液 pH6に懸濁し、370MBq/ml の 111InCl3 (0.1N 塩酸溶解状態) を 9分の1容量加えた後 60 ℃1時間攪拌し、 111Inをキレートさせる標識反応を行った。標識後TLC分析を行い、 111Inが DO3MA-GlyCHT 結合体に安定的に結合したことを確認した。
【0058】
2-5. Sm-DTPA-GlyCHT 結合体の調製
0.2M クエン酸緩衝液 pH 5 に溶解させた DTPA-GlyCHT溶液 0.4mlに、塩化サマリウム (SmCl3 と略す) の濃度が 0.07mmol になるように溶解させた。この溶液を室温で 4〜5 時間攪拌し、反応液を遠心し上清を得た。濃縮後純水に対し透析を行い、目的物を得た。Smの DTPA-GlyCHTとの結合は、誘導結合高周波プラズマ分析装置(ICP)で確認した。 GlyCHT へのDTPA結合量 27.4ppmに対し、108ppmの Sm が結合していた。
【0059】
2-6.Y-DTPA-GlyCHT 結合体の調製
0.2Mクエン酸緩衝液 pH 5 に溶解させた DTPA-GlyCHT溶液 0.4mlに、塩化イットリウム(YCl3 と略す) の濃度が 0.07mmol になるように溶解させた。この溶液を室温で 4〜5 時間攪拌した後、反応液を純水に対し透析した。次に白濁した反応液を遠心し沈澱を回収した後、純水で洗浄して目的物を得た。Y の DTPA-GlyCHTとの結合は、ICPで確認した。 GlyCHT へのDTPA結合量 10ppmに対し、46.2ppm の Yが結合していた。
【0060】
2-7.90Y-DTPA-GlyCHT 結合体の調製
DTPA-GlyCHT を燐酸・クエン酸・ほう酸緩衝液 pH 8.5 に溶解し、94MBq/mlの90YCl 3 (0.1N 塩酸溶解状態) を等容量加えた後室温で1時間攪拌し、90Y をキレートさせる標識反応を行った。標識後TLC分析を行い、 90Yが DTPA-GlyCHT結合体に安定的に結合したことを確認した。標識率は100 %であった。
【0061】
【実施例3】
投与用巨大分子化合物注射液の製造
【0062】
90Y-DTPA-GlyCHT 注射液
実施例1の方法に従って調製したDTPA-GlyCHT 懸濁液を0.1N塩酸でpH 3以下に調整した生理食塩液に対して透析した。透析後 DTPA-GlyCHTをポアサイズ 0.2μm メンブランフィルターで無菌濾過し、ガラス製バイアルに分注封栓した。塩化イットリウム (90YCl3 ) は、pH 5〜7 のクエン酸緩衝液かリン酸緩衝液に溶解し、0.2 μm メンブランフィルターで無菌濾過した後ガラス製バイアルに分注封栓した。標識は、DTPA-GlyCHT 溶液を適当なシリンジでバイアルより抜き取って90YCl3 バイアルに加え、室温に30分間振盪/静置することにより行った。DTPA-GlyCHT は90YCl3 バイアルの中で中性緩衝液と混ざってコロイド状態に変化し、目的とする巨大分子化合物は標識反応の進行と同時に生成する。
【0063】
【実施例4】
111In標識した錯化剤結合多糖類の体内動態
【0064】
4-1.皮下投与による体内分布
111In-DTPA-CHT(PSH)試料液(37MBq/ml)を、麻酔下で正常 SD ラット (雌:体重 230〜280g) の膝関節付近の皮下に 25 μl 投与した。体内分布は、投与後 1, 3, 6, 24時間に解剖し、シングルチャンネルカウンターにより臓器ごとの放射能分布を求め算出した。24時間後では、投与を行った関節部を含めた残全身に 81 %残っており、また尿中へ排泄された放射能量は 17 %であり、残り 2%が臓器などに移行していた。
【0065】
111In-DTPA-CHT(PSH)の皮下投与による体内分布の特徴は、投与部位に残留しつつも徐々に代謝され、腹腔内臓器への移行はほとんどみられず、主な排出経路は腎/尿路系であることなどである。これらの知見により、 111In-DTPA-CHT(PSH)が投与部位における滞留性を示しつつ、投与部位からの排出後は直ちに代謝されて生体外へ排泄されることが明らかとなった。
【0066】
4-2.関節腔投与による体内分布
正常 SD ラット (雌:体重 230〜280g) の膝皮膚をラボナール麻酔下で切開し、関節腔内に調製した試料液 2μl を投与した。試料液は各々分子量約 50 万の 111In-DTPA-CHT(PSH)懸濁液(37MBq/ml)、分子量約 5万の 111In-DTPA-CHT(LL) 懸濁液(37MBq/ml)、111In-DTPA-GlyCHT 懸濁液(185MBq/ml) の3種類であり、実施例に示した試料を用いた。切開された皮膚は、投与後にシアノアクリレート系瞬間接着剤にて接着させた。体内分布は投与 3, 6, 24, 48 時間後に各時間点2匹ずつ解剖し、臓器ごとの放射能分布として求めた。 111In-DTPA-CHT(PSH), 111In-DTPA-CHT(LL), 111In-DTPA- GlyCHT の体内動態の特徴は、いずれも似た結果であった。即ち他の正常臓器への移行はほとんど認められず、主たる排泄経路は腎/尿路系であった。
【0067】
関節腔内投与放射能は、関節腔から経時的に排出され、関節の放射能の割合を時間に対してプロットしたグラフ(図1)より、放射能の排泄は指数関数的であることが明らかとなった。図1の直線の傾きを最小二乗法により求め、関節腔からの消失半減期(関節腔内残存量が 50 %になる時間:T1/2 )を算出した結果、 111In-DTPA-CHT(PSH)は 53.6 時間、 111In-DTPA-CHT(LL) は 52.7 時間、 111In-DTPA-GlyCHTは208 時間であった。キトサンとグリコールキトサンでは半減期が4倍ほど異なる。さらにキトサン(LL)とキトサン(PSH )の分子量差は排泄半減期に反映しないことが明らかとなった。これらの知見より、キトサンを代表とする担体を選択することで薬動力学的コントロールが可能となることが明確にされた。
【0068】
4-3.皮下移植腫瘍への投与による体内分布
DTPA結合比 11 の DTPA-GlyCHTの凍結乾燥品を用いて、 2mg/ml の濃度になるように 0.1M クエン酸 0.2M リン酸二水素ナトリウム (容量比 3:5) pH 6.0 緩衝液に溶解し、O.5ml に 111InCl3 塩酸溶液を 0.2ml添加し、投与供試用試料液とした。
【0069】
肝細胞癌を背に移植した WKA系雄ラット(体重270 〜310g)の腫瘍部に、 111In-DTPA-GlyCHT 50 μl(5.3MBq) を注入した。3 時間後, 48時間後にガンマカメラによりイメージングを行った(図2)。5 日後に解剖を行い体内分布を求めた
(n=3)。
【0070】
ガンマカメラによるイメージングから、腫瘍部には 3時間後で 90 %、24時間後で 81 %、48時間後で 75 %ほどが残存してしていた。5 日後の解剖では、腫瘍部に約 23 %残存していた。
【0071】
イメージングと解剖の結果から 111In-DTPA-GlyCHTの腫瘍からの消失半減期(T1/2)は、約 74 時間と算出された(図3)。腫瘍部における滞留性は充分長く、腫瘍への直接投与あるいは栄養血管を介して直接腫瘍へ投与する塞栓性局所投与治療剤としての有用性が示唆された。
【0072】
【参考例】
111In、 111In-DTPA 、 111Inコロイド及び 111In-DTPA-GlyCHTの関節腔内投与における体内分布比較
【0073】
実施例4で示した手順と同様に、正常 SD ラット (雌:体重 230〜280g) の膝皮膚をラボナール麻酔下で切開し、関節腔内に調製した試料液 2μl を投与した。用意した試料液は各々 111In-DTPA 溶液(74MBq/ml)、 111In溶液(185MBq/ml) 、 111Inコロイド溶液(37MBq/ml)である。 111In-DTPA 溶液は1mM DTPA 溶液に、0.4Mホウ酸:0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸三ナトリウム緩衝液 (容量比 39 :100)pH 8.5を4倍量加え 0.2mMのDTPA濃度にした後、5分の1倍量の 111InCl3 を添加してよく振盪させた後、1時間静置させたものである。 111In溶液は、 111InCl3 の 0.1N 塩酸溶液と、0.4Mホウ酸:0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸三ナトリウム緩衝液 (容量比 39 :100)pH 8.5を等量混合し、pHは 6.5にしたものである。 111Inコロイド溶液は、1OmMの濃度であるInCl3 の 0.1N 塩酸溶液に、 111InCl3 の 0.1N 塩酸溶液を9分の1容量添加し、次に水酸化ナトリウムを用いて pH を 6〜8 に調整したものである。切開された皮膚は、投与後に瞬間接着剤にて接着させた。体内分布は投与3, 6,24,48時間後に各時間点2匹ずつ解剖し、臓器ごとの放射能分布として求めた。
【0074】
各々の試料の関節腔投与による体内分布の経時変化を図4に示した。3試料の分布の特徴は以下のとおりであった。 111In-DTPA は関節腔からのクリアランスが非常に速く、肝臓や血液中、残全身への移行が認められ、尿としての体外排泄がやや遅いことなどに特徴がある。 111Inは、腎/尿路系より排泄される他、肝臓、大腸の臓器への移行や残全身への蓄積が認められ、肝/胆系による排出が存在する。
【0075】
111Inコロイドの体内分布の特徴は、関節腔内に長時間留まり関節腔外へほとんど移行しない点にある。図4にこれらの試料の関節腔内残存の時間経過を示したが、各試料の直線の傾きを最小二乗法で求め、関節腔からの排出半減期(T1/2)を算出した結果、 111In-DTPA は 3時間以下、 111Inは 3.95 時間、 111Inコロイドは 923時間となった。表1に示した。
【0076】
この実験結果は、 111Inイオンあるいは単に錯化しただけの 111In-DTPA ではすばやく排泄されて薬効を示しにくい、しかし、コロイド状態にすると長期残留性が問題となることを示している。先の実施例4で示した様に、多糖類に結合した 111Inの排出半減期は、キトサンの約 53 時間、グリコールキトサンの 208時間であり、 111In-DTPA 、 111Inよりも滞留性があるが、 111Inコロイドより排出され易い。以上の結果から、多糖類を放射性金属イオンの担体とすることによって、薬効および安全性を同時に達成しうることが期待でき、さらに担体に使用する多糖類を適切に選択することにより、関節腔からの排出速度のコントロールも可能であることが示された。
【表1】
【0077】
【実施例5】
安全性の検討
【0078】
5-1. 111In-DTPA-GlyCHTの代謝産物の分析
111In-DTPA-GlyCHT 試料液(185MBq/ml), 111In-DTPA 溶液(74MBq/ml), 111In溶液(185MBq/ml) 各々の試料液 2μl の関節腔内投与後 3,6,24,48時間の各時間点のラットの尿中に含まれる代謝産物をTLC系で分析をおこなった。 111In-DTPA-GlyCHTを例とする担体を結合させた試料においては、生体内で分子が消化作用を受けて低分子化していることが示唆された。
【0079】
【実施例6】
90Y 標識したキレート剤結合多糖類の治療効果
【0080】
6-1.担癌マウスによる腫瘍部局所投与の治療効果
ルイス肺癌細胞を背に移植した C57BL/6系雄マウス(体重 12 〜14g )の腫瘍部に、実施例4で示した90Y-DTPA-GlyCHT 375 μl(0.3MBq) を 4回に分けて注入した。その結果を表2に示した。投与を開始して 2日目から腫瘍の縮退が観られ、未投与の腫瘍と比べ、5 日目で差が広がり、腫瘍細胞に対する増殖抑制及び致死作用が認められた。
【0081】
また、腫瘍組織状態の確認のため、採材した腫瘍組織をホルマリン固定した。固定後、定法(パラフィン包埋法)に従い約4μm に薄切したパラフィン切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色を施し、病理組織学的検索に供した。得られた組織像は図5〜図9に示した。90Y-DTPA-GlyCHT 投与腫瘍組織は、肉眼的、弱拡検鏡的に組織は全体的に小さく、壊死領域が組織塊の大部分を占めている(図5)。壊死領域周辺には結合組織が増生し、中心部には細胞集簇巣および核崩壊像が多数認められた。ルイス肺癌細胞に特徴的な細胞は組織標本上には認められなかった (図6,図7)。これに対し対照腫瘍組織では、大小不同の核を持つ細胞が密実に存在し、細胞の大きさも様々であった。これらの細胞の多くには核分裂像が認められた(図8,図9)。腫瘍組織周辺には出血巣、単核細胞浸潤、小壊死巣が存在し、隣接する筋組織とは結合組織により境界されていた。この得られた所見から90Y-DTPA-GlyCHT 投与により、腫瘍細胞は傷害されたことが明らかになった。また、鏡検上周囲の筋組織には著変が認められず、腫瘍組織全域にわたり細胞が壊死に陥っていることからこの薬物投与による治療効果は期待できるものと思われる。
【表2】
【0082】
6-2.病態モデルによる関節腔内投与体内動態及び治療効果
オブアルブミン(10mg/ml) をフロインドコンプリートアジュバントと共にウサギ全身の皮内数十箇所に、1ヶ月おきに 4回、 0.1mlずつ注射し、ウサギを感作した。その後、右後肢の膝関節腔内にオブアルブミンのアジュバント懸濁液を 50 μl 投与し、免疫反応を誘発させ、アジュバント関節炎モデルとした。鮮明な体内分布画像を得るため、90Y の代わりに 111Inを標識させた 111In-DTPA-GlyCHT試料液 50 μl(6.2MBq) を疾患状態の右後肢膝関節腔内に投与した。投与製剤の体内分布は、投与後3,24及び48時間にはガンマカメラにより、5 日後には解剖を行い、求めた(n=3) 。図10にガンマカメラによるイメージを示した。また図11に関節と尿の全身に対する放射能の割合を示した。ガンマカメラによるイメージから、関節腔には 3時間後で 85.6 %、6 時間後で 83.8 %、24時間後で 63.1 %、48時間後で 49 %ほどが残存し、時間経過と共に指数関数的に減少した。投与放射能の関節腔排出半減期(T1/2)を最小二乗法により求めた結果、54.6時間であった。
【0083】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
【0084】
本発明の、高分子多糖の担体使用を特徴とする局所投与放射線治療剤では、多糖を担体に使用することにより、生理学的に認容性であって、生体内で分解されて体外に排出され易くし、長期残留から起こる毒性障害の様な負の作用のない、局所投与放射線治療剤を提供することができる。
【0085】
キチン誘導体など天然に多量に存在する多糖類担体として使用することにより、安定的にしかも安価に製剤を供給することができる。またキチン誘導体を使用した場合、pHの違いにより溶解状態が変化するため、滅菌操作および製造が簡単である。
【0086】
さらに、多糖の種類により生体内消化性が異なる性質を利用し、適当な多糖を選択することにより、目的にあった局所滞留性を得ることができ、薬動力学的コントロールが容易となる。
【0087】
そして、担体となる多糖に錯化剤を結合することにより、多糖自身の金属イオンとの結合能力に依らず、多種類の多糖に多種類の放射性金属イオンを安定に結合することができ、多種類の多糖を担体として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 キチン誘導体の関節腔放射能残存率を比較した図。
【図2】 投与後 3,48時間の腫瘍イメージ写真(生物の形態)。
【図3】 腫瘍部放射能残存率の経時変化を示した図。
【図4】 各試料の関節腔放射能残存率を比較した図。
【図5】 担癌マウスによる治療効果を示す病理組織写真(生物の形態)。
【図6】 担癌マウスによる治療効果を示す病理組織写真(生物の形態)。
【図7】 担癌マウスによる治療効果を示す病理組織写真(生物の形態)。
【図8】 担癌マウスによる治療効果を示す病理組織写真(生物の形態)。
【図9】 担癌マウスによる治療効果を示す病理組織写真(生物の形態)。
【図10】 病態モデルイメージ写真(生物の形態)の経時変化。
【図11】 病態モデル体内分布の経時変化を示した図。
【符号の説明】
N : 壊死領域
M : 筋組織
F : 細胞集簇巣(核崩壊像を含む)
C : 細胞集簇巣を構成する細胞
L : 腫瘍細胞
S : 核分裂像
Claims (5)
- アミノ基,ヒドロキシル基またはカルボキシル基,あるいはそれらの誘導体を含有する親水性繰り返しモノマー単位を含んでなる平均分子量が5万から50万の生体内分解性親水性高分子に、錯化剤を介して少なくとも1種の放射性金属イオンが化学的に結合された、生理学的に認容性で、生理学的 pH 及び温度においてゲル化することを特徴とする巨大分子化合物、またはその塩からなる局所投与放射線治療剤。
- 生体内分解性親水性高分子が多糖及びその誘導体である請求項1記載の治療剤。
- 生体内分解性親水性高分子がキチン,キトサンおよびその誘導体である請求項1〜3記載の治療剤。
- 放射性金属イオンがα線またはβ線放出核種である請求項1〜4記載の治療剤。
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