JP3725883B2 - 金属ナトリウム中不純物の分析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グロー放電質量分析法を利用して金属ナトリウム中の不純物を迅速に固体のまま直接分析する方法に関するものである。この技術は、特に限定されるものではないが、例えば高速増殖炉における冷却材ナトリウムの純度管理分析などに有用である。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開平7−122606号公報
【特許文献2】
特開2000−193642公報
【0003】
高速増殖炉における冷却材ナトリウムの純度管理、金属ナトリウムを製造あるいは使用する各種施設における品質管理などでは、不純物分析が必須不可欠である。分析すべき金属ナトリウム中不純物としては、O,H,C,N,Cl,Si,K,Ca,B,Li,Fe,Ni,Cr,Mn,Mg,Mo,Al,Co,Uなどがある。
【0004】
従来、金属ナトリウム中不純物の分析は、分取した金属ナトリウムを不純物元素毎に専用の装置で前処理した後、特定の機器で測定する方法が採られている。その分析操作フローの例を図7に示す。図7から分かるように、薬品類を使用した煩雑な前処理を分析すべき元素毎に5種類近く行い、それぞれ必要な前処理を施した試料を特定の分析機器で測定しなければならなかった。
【0005】
ところで、半導体、金属、絶縁体等の各種固体試料の分析を行う方法の一つとしてグロー放電質量分析法があることは従来公知である。この方法では、試料にイオンを衝突させ(スパッタリング)、それによって発生する2次イオンの質量分析を行うことで試料の組成を測定する。近年、この方法により分析を行うグロー放電質量分析装置も市販されている。これに関連して、特許文献1では、分析の時間経過によって試料に対するスパッタリング領域を変えることで、半導体試料の深さ方向の不純物濃度分布を正確に測定する技術が開示されている。また特許文献2では、鉄鋼をはじめとする金属材料やセラミックス材料などについて、放電ガスとしてアルゴン−ネオン混合ガスを用いることで、非金属元素を精度よく高感度で定量する技術が開示されている。
【0006】
しかし、グロー放電質量分析法において測定対象となる試料は、いわばスパッタリング法におけるターゲットと同様のものであることから、半導体、鉄鋼などの金属材料、セラミックスなどの絶縁材料というように、化学的にも熱的にも安定な材料に限られていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
液体ナトリウムを冷却材とする高速増殖炉では、プラント運転上、ナトリウム中不純物として特に重要な元素である酸素を正確に定量する必要がある。ところが、ナトリウムは化学的に活性であって融点も低い。このような事情もあって、高速増殖炉における冷却材ナトリウム中の酸素・水素など不純物の分析では、依然として、前述のように分取した金属ナトリウムを分析すべき不純物元素に応じてそれぞれ専用の装置で煩雑な前処理操作をし、それを特定の分析機器で測定する方法が採られていたのである。
【0008】
しかし、このような従来の分析方法では、
(1)塩酸や水銀などの人体に有害な薬品類を使用しなければならない。
(2)各不純物元素の前処理が複雑であり、各々の操作に熟練を要する。
(3)元素毎の分析時間(準備、前処理、測定、後処理)が数日間と長く、全元素の分析結果を得るまでに長期間を要する(例えば4人の分析員の作業で約3週間程度を要している)。
(4)高速増殖炉の1次冷却材ナトリウムの場合には、金属ナトリウムが放射化しているために無用の被ばくを受ける。
(5)元素毎に特有の器具類、前処理装置、分析装置が必要であるため、設備費や維持管理費が高額となる。
など多くの欠点があった。特に、高速増殖炉の冷却材ナトリウムの純度管理の場合は、プラント運転管理への即応性に欠ける点が大きな問題となっていた。
【0009】
本発明の目的は、金属ナトリウム中不純物を、前処理することなく固体のまま直接、短時間で簡便に分析できる方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、従来法における様々な課題を根本的に解決するために既存の各種分析装置について調査検討し、その過程で非金属元素を分析できるグロー放電質量分析装置に着目した。しかし前述のように、分析対象となっていた試料は、半導体、鉄鋼、セラミックスなどのように化学的にも熱的にも安定な材料に限られていたため、化学的に活性で低融点である金属ナトリウムを分析できるとは想到し難く、技術常識として実施不能と考えられていた。特に、高速増殖炉の冷却材ナトリウムについては、その分析で重要な不純物元素となっている酸素の正確な定量に関しての疑問もあった。本発明者は、このような技術常識に疑念を持ち実施を試みた結果、グロー放電質量分析法によって、いかなる前処理も必要とせずに金属ナトリウムを固体試料のまま直接分析できること、固体金属ナトリウム試料の表面酸化防止対策及び適切な雰囲気ガスの制御などにより酸素など軽元素の安定した測定が可能となることを見出し、それに基づき本発明を完成させたものである。
【0011】
本発明では、グロー放電質量分析装置と、ガス精製装置を付設した循環ガス精製型の高純度不活性ガス雰囲気グローブボックスを組み合わせ、グロー放電質量分析装置のインターロックチェンバが外されてグローブボックス内に収容され、グロー放電質量分析装置の試料室がグローブボックス外に位置して、前記インターロックチェンバと試料室とがグローブボックス壁の試料通過用貫通口の周辺を挟み込むように連結することで前記試料通過用貫通口を通して連通するようにグローブボックスと前記試料室とを気密的に一体化し、試料を装填した挿入プローブをインタロックチェンバを通して試料室に装着可能とした分析測定システムを使用する。本発明に係る金属ナトリウム中不純物の分析方法は、このような分析測定システムを使用し、試料となる金属ナトリウムを前処理することなく固体のまま高純度不活性ガス雰囲気グローブボックス内で切断・成形して板状の固体試料を作製し、その固体金属ナトリウム試料をグローブボックス内で挿入プローブに装填し、試料を装填した挿入プローブをインタロックチェンバを通して試料室に装着し、該試料室内を一旦真空排気した後、希ガス雰囲気に置き換えてグロー放電させ、試料から発生したイオンの質量分析を行うものであり、試料の作製・装着等を全て高純度不活性ガス雰囲気グローブボックス内で行えるようにした点に特徴がある。
【0012】
ここで、ガス精製装置は、内部に精製剤を充填した2系統の精製筒を具備し、一方の精製筒でガスを精製し他方の精製筒で精製剤を再生することを交互に行うことにより、グローブボックス内ガスを常時循環精製し、それにより該グローブボックス内ガス中の酸素濃度及び水分濃度をそれぞれ1ppm以下に保ち、試料が装着された試料室内の真空度は10-6Pa以下とすることが好ましい。
【0013】
本発明は、金属ナトリウムを固体のまま直接分析するため、薬品類を全く使用せずに済み、しかも分析時間の大幅な短縮を図ることができる利点がある。そのため、即応性が要求される高速増殖炉の冷却材ナトリウムの純度管理分析などに有用であり、放射化した試料による被ばく低減が可能となる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1は本発明で用いる分析測定システムの一例を示す説明図である。この分析測定システムは、グロー放電質量分析装置10と、ガス精製装置12を付設した循環ガス精製型の高純度不活性ガス雰囲気グローブボックス14を組み合わせた構成である。グローブボックス14内のインターロックチェンバ18とグロー放電質量分析装置10の試料室16とを連結することでグローブボックス側壁の試料通過用貫通口で連通するようにグローブボックス14と試料室16とを気密的に一体化する。そして、グローブボックス14内で試料を装填した挿入プローブ50をインタロックチェンバ18を通して前記試料室16に送り込み装着可能とする。ここでグロー放電質量分析装置10は、市販品をそのまま用いることができる。
【0015】
グローブボックスとグロー放電質量分析装置との接続構造の例を図2に示す。グローブボックス14の片側側壁に、予め試料通過用貫通口20と、その周囲に複数のフランジ取付用穴22を形成しておく。グロー放電質量分析装置10のインタロックチェンバ18と試料室16を接続しているフランジ部18a,16aでOリング24、26を介してグローブボックス14の片側側壁を挟み込む。これによって、グローブボックス14とグロー放電質量分析装置10の試料室16とが気密的に一体化する。
【0016】
具体的な取付手順は次の通りとする。
(1)グロー放電質量分析装置10の試料室16からインタロックチェンバ18をフランジ部18a,16aで切り離す。
(2)インタロックチェンバ18とOリング24をグローブボックス14内に搬入する。
(3)グローブボックス14の側壁に形成されている試料通過用貫通口20と試料室16のフランジ部26を合わせるように、グローブボックス14をグロー放電質量分析装置10側へ移動し、Oリング26を挟み込む(高さ微調整はグローブボックス架台付随のアジャスタにて行う)。
(4)インタロックチェンバ18とOリング24を試料通過用貫通口20に合わせ、フランジ部18aを利用し専用ボルトによって確実に締め付け一体化する。
【0017】
図3にも示されているように、グローブボックス14にはガス精製装置12が付設されている。このガス精製装置12は、グローブボックス14の内部を高純度アルゴンガス雰囲気に維持する循環型のガス精製装置であって、図4に示すように、ガス中の不純物である酸素・水分を除去するための2系統の精製筒30,32、グローブボックス内のガスを循環するための循環ポンプ34、グローブボックス内のガス圧を検知して自動的に給排気しながら圧力を保持するための圧力制御部36、真空ポンプ38、及び多数の弁などから構成され、更に精製剤を加熱再生するための再生ガスを供給する再生装置(図示せず)が接続される。グローブボックス14との接続は、ステンレス鋼製フレキシブル配管40とフランジ42によって行い、各ポンプ34,38の振動による影響を緩和すると共に気密性を保持するようにする。
【0018】
両精製筒30,32は、内部に精製剤として銅及びモレキュラーシーブを充填した構造である。2系統の精製筒30,32は常時1系統で運転する。他方の系統は、再生ガス(水素数%/アルゴンベースの混合ガス)を流しながら加熱し、酸化した銅の還元とモレキュラーシーブの脱水を行い、スタンバイ状態とする。なお、図4における各弁の表示において、白抜き表示は「開状態」を表し、黒塗りつぶし表示は「閉状態」を表している。
【0019】
このガス精製装置12は、グローブボックス14内で取り扱う金属ナトリウム試料表面への酸化物などの生成を防ぎ、酸素など軽元素の安定した測定ができるように、グローブボックス内のガス中酸素濃度及び水分濃度をそれぞれ1ppm以下に保つことができる性能を有するものとする。
【0020】
インタロックチェンバ18に組み込む挿入プローブ50の詳細を図5に示す。挿入プローブ50は、その先端面にスパッタ開口部52(8〜10mmφ)を形成し、試料収容用の凹部を有する試料ホルダ54を、該凹部がスパッタ開口部52に臨む向きで挿入プローブ50内に設置して背後からスプリング56で弾撥されるような構造である。そして挿入プローブ50の先端部が試料室16の凹部58に嵌入する。従って、試料ホルダ54に装填された試料(固体金属ナトリウム)60は、スパッタ開口部52を通して試料室16に臨む状態となる。
【0021】
次に操作手順について説明する。
(1)測定対象物である金属ナトリウムを必要量だけ(通常、10g程度以下)分取してグローブボックス内に搬入する。
(2)分取した金属ナトリウムを、何ら前処理することなく固体のままグローブボックス内で切断・成形して、直径約15mm、厚さ約5mmの円板状の固体金属ナトリウム試料を作製する。
(3)円板状の固体金属ナトリウム試料を、挿入プローブの試料ホルダの試料収容用の凹部に装填し、スプリングによりスパッタ開口部側に押し付けるようにセットする。そして、試料をセットした挿入プローブを、インタロックチェンバを通して試料室に装着する。
(4)試料室内を一旦真空排気する。真空度は、酸素など軽元素の安定した測定ができるように10-6Pa以下とする。その後、アルゴンガス雰囲気に置き換える。アルゴンに代えてクリプトン又はキセノンを用いてもよい。試料室内圧力は10-3Pa程度とする。
(5)グロー放電質量分析装置の制御・データ処理用パーソナルコンピュータ上で測定条件(データファイル名、1同位体のサンプリングポイント、サンプリングポイントの間隔、1ポイント当たりの積分時間など)を入力し、測定を開始する。
【0022】
【実施例】
金属ナトリウム試料の固体直接分析の測定例を図6及び表1に示す。測定した試料は3種類(試料1−3)であり、図6は測定経過時間に対する酸素濃度の変化を表し、表1は安定した結果が得られた時点での酸素濃度、測定に際して真空引きした試料室の真空度、及び安定した結果が得られるまでの最短測定時間を示している。
【0023】
各試料とも、試料の切断・成形を行うグローブボックス内ガスの酸素濃度はほぼ同様であるが、試料装着後の試料室内真空度を変えて実施した。各試料は前処理を行うことなく、固体のまま高純度不活性ガス雰囲気グローブボックス内で切断・成形して円板状の固体試料(直径約15mm、厚さ約5mm)を作製し、その固体金属ナトリウム試料を挿入プローブに装填し、インタロックチェンバを通して試料室に装着した。そして、試料室内を一旦前記真空度まで真空排気し、アルゴンガス雰囲気にしてグロー放電させ、試料から発生したイオンの質量分析を行った。グロー放電時の雰囲気ガスはアルゴンであり、試料室内圧力は3種の試料の測定ともに10-3Pa程度で実施した。この結果から、試料室内真空度が高い方が安定した結果を得るまでの時間を短縮できることが分かる。また比較のため従来法でも酸素濃度を求めたが、本発明方法による測定結果は、従来法により得られた濃度とよく合致することも確認できた。
【0024】
【表1】
【0025】
上記の実施例は酸素濃度の測定結果のみを示しているが、種々行った実験の結果から他の多くの不純物の分析測定も可能なことが判明している。本発明による分析方法は、金属ナトリウムを分取し、所定の形状に切断・成形して試料を作製し、グロー放電質量分析装置に装着して直接測定すればよく、また多元素を同時測定できる。
【0026】
【発明の効果】
本発明は上記のように、金属ナトリウムを分取し、グローブボックス内で切断・成形して板状の固体試料を作製し、グロー放電質量分析装置に装着して直接不純物元素を分析測定する方法であるから、従来法に比べて次のような利点が得られる。
(1)各不純物元素測定のための煩雑な前処理が不要であり、塩酸や水銀など人体に有害な薬品類の使用を排除できる。
(2)同時多元素測定が可能となり、分析員1名にて約3時間で分析対象19元素の結果を得ることができ、大幅な省力化が図れる。
(3)10g以下の少量の分析試料で結果が得られるため(従来法では100g以上を要している)、活性な金属ナトリウムの取扱量が低減できると共に、分析後の廃棄物低減に貢献できる。
(4)短時間で且つ少量の試料で分析できることから、放射化した試料分析時の無用な被ばくを低減できる。
(5)金属ナトリウムを使用する工場、高速増殖炉プラント、並びに金属ナトリウム製造工場などにおける純度管理分析データの即応性が向上する。
(6)グロー放電質量分析装置1台で全ての元素分析が可能となったため、不純物毎に使用していた器具類、前処理装置、分析装置などが不要となり、維持管理コスト及び日常の点検・調整などにかかる手間を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いる分析測定システムの一例を示す説明図。
【図2】グローブボックスとグロー放電質量分析装置との接続構造例の説明図。
【図3】グローブボックスとガス精製装置の説明図。
【図4】ガス精製装置の構成説明図。
【図5】インタロックチェンバの説明図。
【図6】測定結果の一例を示すグラフ。
【図7】従来技術による分析操作のフロー図。
【符号の説明】
10 グロー放電質量分析装置
12 ガス精製装置
14 グローブボックス
16 試料室
18 インタロックチェンバ
50 挿入プローブ
Claims (2)
- グロー放電質量分析装置と、ガス精製装置を付設した循環ガス精製型の高純度不活性ガス雰囲気グローブボックスを組み合わせ、グロー放電質量分析装置のインターロックチェンバが外されてグローブボックス内に収容され、グロー放電質量分析装置の試料室がグローブボックス外に位置して、前記インターロックチェンバと試料室とがグローブボックス壁の試料通過用貫通口の周辺を挟み込むように連結することで前記試料通過用貫通口を通して連通するようにグローブボックスと前記試料室とを気密的に一体化し、試料を装填した挿入プローブをインタロックチェンバを通して試料室に装着可能とした分析測定システムを使用し、
試料となる金属ナトリウムを前処理することなく固体のまま高純度不活性ガス雰囲気グローブボックス内で切断・成形して板状の固体試料を作製し、その固体金属ナトリウム試料をグローブボックス内で挿入プローブに装填し、試料を装填した挿入プローブをインタロックチェンバを通して試料室に装着し、該試料室内を一旦真空排気した後、希ガス雰囲気に置き換えてグロー放電させ、試料から発生したイオンの質量分析を行うことを特徴とする金属ナトリウム中不純物の分析方法。 - ガス精製装置は、内部に精製剤を充填した2系統の精製筒を具備し、一方の精製筒でガスを精製し他方の精製筒で精製剤を再生することを交互に行うことにより、グローブボックス内ガスを常時循環精製し、それにより該グローブボックス内ガス中の酸素濃度及び水分濃度をそれぞれ1ppm以下に保ち、試料室内の真空度は10-6Pa以下とする請求項1記載の金属ナトリウム中不純物の分析方法。
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